2ntブログ
男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


この高校の1年C組の担任は27歳の女性教師、村田ユキエだったが、一部の生徒からはかなり恐れられている存在だった。
担当は数学だったが、その時間が来るたびに、男子生徒たちは緊張した顔つきになる。
特に今日は、先日行われた抜き打ちテストの答案を返す日だったが、これこそが最も恐ろしい時間だったのだ。

「それでは前回行った、実力テストの答案を返します。今回の平均点は、61点でした。いつものように、点数の高かった順に返していきます。佐倉さん。……林さん。……井口君」

ユキエはいつものように淡々とした様子で、テストの答案を返していく。
名前を呼ばれた生徒たちは、次々と答案を受け取りに教壇のユキエの元にむかった。

「……原口さん。……荒田さん。……上川さん」

名前を呼ばれて立ち上がるのは、女子の方が圧倒的に多かった。
もともと、この学校は女子生徒の数の方がかなり多い人数構成になっているのだが、このクラスは特に男子生徒が少ない。
選択科目のためとはいえ、女子が28人に対して男子は7人と、極端な女子クラスになっていた。

「……田中さん。はい、ここからは30点以下の人たちです。呼ばれたら、黒板の前に整列しなさい」

ユキエは毅然とした表情で指示した。
この学校では、平均点の半分以下は赤点と決まっている。赤点の生徒には何らかの罰が与えられるのは、学校の通例だった。

「橋本君。…山田さん。…松岡君。…岸田君」

ユキエに名前を呼ばれたのは、男子が3人と女子が1人だった。
唯一の女子である山田ミキは、名前を呼ばれると、バツが悪そうな顔で立ち上がり、黒板の前に並んだ。
一方、男子3人は、名前を呼ばれると一様に真っ青な顔をして、いかにも弱々しい返事をして、恐る恐る黒板の前に並ぶのだった。

「さて。アナタ達は、平均点の半分も取れなかったわけね。どういうことかしら?」

黒板の前に、横一列に並ぶ生徒たちを見つめて、ユキエは問いただした。その口調に怒りはないが、冷静な追求による圧力のようなものがある。
ユキエの身長は165センチほど。スポーツの経験でもあるのか、引き締まった良い体格をしていた。濃紺のスーツをきっちりと着こなし、いつも糊のきいたワイシャツを着ている。少し短めのタイトスカートからは、ストッキングに包まれた太ももが長く伸びていて、キュッと締まったヒップラインが、いかにも官能的だった。
教師にしておくにはもったいないほどの整った顔には、それを隠すように、真っ黒で大きなセルフレームの眼鏡をかけている。

「山田さん、どういうこと? 今回は難しかったかしら?」

ユキエはその手に、アクリル製の大きな定規を持っていた。
数学の授業では図形を書いたりするのに必須なもので、ユキエは黒板を指し示す指示棒としても使用している。
その定規を、片手でパシパシと鞭のようにしならせながら、生徒に問いかける。

「すいません。ちょっと、難しかったです」

ミキは謝りながらも、ちょっとはにかんで笑った。
その姿に、クラスの女子生徒たちから失笑が漏れる。
しかし男子生徒たちは、そんな雰囲気に呑まれることなく、赤点で整列している3人も、席に座った残りの生徒も、みな緊張した面持ちだった。

「ふざけないの。次はもっと頑張りなさい。はい!」

ユキエはミキの背後にまわり、お尻をアクリル定規で叩いた。
ピシャッと大きな音がして、ミキのお尻に衝撃が走る。

「いったーい! 先生、手加減してよー! イタタタ…」

ミキは体をのけぞらせて、打たれたばかりのお尻をおさえて痛がった。
クラスの女子たちはその様子を見て、どっと笑った。

「これでも、手加減してます。はい、次は、橋本君ね」

山田ミキはお尻をさすりながら席に戻り、次にユキエは、橋本の前に立った。

「は、はい。先生、すいませんでした。反省してます!」

橋本は名前を呼ばれると背筋を伸ばし、ユキエの追求を待たずに、自発的に頭を下げた。

「そう。反省するのはいいことだわ。でも橋本君は、この間のテストでもそう言ってたわね? ちゃんと、勉強したの?」

アクリル定規をしならせながら、冷淡な調子で言う。

「は、はい。それは…」

橋本はつい、口ごもってしまう。

「前回も赤点で、今回もっていうのは、ちょっと反省が足りないみたいね。口で言っても分からないようなら、こうするしかないわ」

「先生、すいません、すいません!」

必死に謝る橋本を無視して、ユキエはアクリル定規をしならせ、橋本の股間を下から叩き上げた。

パシィン!

と、大きな音がして、橋本の金玉はアクリル定規に叩き上げられた。

「はうっ!」

電撃のような衝撃が突き抜け、橋本は股間を両手でおさえる。
直後に重たい痛みが波のように下腹部全体に広がっていき、橋本の膝から力が抜けた。
橋本はたくさんの女子たちが見つめる前で、金玉をおさえてしゃがみこんでしまった。
先ほどのミキのときよりも大きな笑いが、クラスの女子たちを包む。

「聞いた? はうっだって!」

「超ウケる! てか、毎回、痛がりすぎだから」

「あれ、マジで痛いの? 演技じゃなくて?」

女の子たちは、お互いに顔を見合わせて笑った。
一方男子達は、沈痛な面持ちで、痛みに震える橋本を見つめていた。

「静かにしなさい! 橋本君、席に戻っていいわよ。次も赤点をとったら、もっと強く叩きますからね」

ユキエは笑い転げる女子たちの雰囲気に呑まれることなく、毅然とした調子で指示した。

「は、はい…」

橋本は青い顔をして、立ちあがると、前かがみになって股間をおさえたまま、歩き出した。
女子たちはいったん静まるかと思われたが、そんな橋本の姿を見て、さらに爆笑の渦に包まれた。

「見て、あの歩き方! おもしろーい!」

「痛いよ、絶対痛いんだ。アハハハ!」

女の子たちは指をさして大笑いしていたが、男子達の表情は堅く、特にこれから罰を受けなければいけない2人の表情は、曇っていた。





「次は、松岡君ね。アナタ、いつもいい点をとってるのに、今回はどうしたの?」

「あ、す、すいません。今回は、ちょっと部活が忙しくて…」

松岡は必死で弁解する。

「そう。部活動もいいけど、勉強の方も頑張らないとダメよ。わかった?」

そう言って、ユキエは松岡の股間をアクリル定規で軽く叩き上げた。
力にしてみれば、ほんの肩を叩く程度のものだった。

「うっ!」

それでも松岡の金玉には、ズン、と重たい衝撃が走った。
松岡はしゃがみこむまでにはいたらなかったが、下腹をおさえて、背中を丸めてしまう。股間を直接おさえる事は、やはりクラス中の女子が見ている手前、恥ずかしかった。

「はい。席に戻っていいわよ」

「は、はい…」

たったそれだけの衝撃で、顔を歪めて苦しむ松岡の姿に、女子たちは再び爆笑した。

「なに? たったアレだけでも痛いの? ウソだー!」

「松岡くーん、大丈夫? 大事なタマタマ、潰れてなーい?」

「潰れちゃうんだ? アレだけで? ウケる!」

女子たちはいかにも他人事のように、言い放題に言うが、当の松岡は反論する元気もなく、席に戻っても下腹をおさえて、じっと痛みに耐えていた。

「次は岸田君ね。アナタは前回も赤点だったわね。ちゃんと勉強するって言ってたけど、あれはウソだったのかしら?」

冷静な口調で追及されると岸田は返す言葉もなかった。

「しかも、今回はダントツの最下位よ。こんなこと言いたくはないけど、アナタ一人でこのクラスの平均点を相当下げているのよ。クラスのみんなに悪いとは思わないの?」

ユキエは岸田の答案を手に持って、本人の顔の前に突きつけた。

「いや…あの…すいません…」

岸田はクラスでも目立たない、小柄な男子だったが、小さな体をさらに縮こまらせて、頭を下げた。
ユキエはそんな岸田の姿を見て、小さくため息をついた。

「もうアナタには先生の言うことは通じないみたいだから、今回はクラスのみんなからの罰を受けてもらうことにします。それが、クラスの平均点を一人で下げてしまったことに対する責任ですから」

岸田はユキエの言葉の意味が分からず、頭を上げた。
するとユキエは、突然後ろを振り返って、生徒に語りかけた。

「今からみなさんに協力してもらって、岸田君に罰を与えます。先生がいつも使っているこの定規を渡しますから、これで一人一人、岸田君を叩いてあげて下さい。どこでも、好きな所をね。あ、顔はやめてあげてね。危ないから」

クラスが一気にざわめいた。
しかしながら、女子と男子の反応の仕方は真逆で、女子は好奇心に溢れた目で岸田を見ていたが、男子たちはみな同情の視線を向けた。

「じゃあ、こっちの席からね。はい」

ユキエは淡々とした様子で、一番前の席に座っていた女子に立つように促し、自分のアクリル定規をわたした。

「えー。どこでもいいんですか、先生?」

定規をわたされた女子は、嬉々とした様子で岸田の前に立ち、アクリル定規を右手に構えた。

「ええ、いいわ。でも、あんまり強くしたらダメよ。手加減しないさいね」

はーい、と女子生徒は返事をして、当然のように岸田の股間に目を向けた。
岸田は、ここまでのあっという間の展開に動揺しながらも、ユキエに意見する勇気もなかった。ただ不安そうな顔で、立ちつくしてしまっている。

「あ、あの…」

「一回、やってみたかったんだー。岸田、いくよ」

岸田が何か言いそうになるのを遮って、女子生徒は岸田の股間にアクリル定規を下から叩きつけた。
ピシャッっと音がして、岸田のズボンにアクリル定規がめり込む。

「はぐっ!」

岸田は瞬間的に、股間をおさえて前かがみになってしまった。
股間から、男の痛みが湧き上がってくる。

「アハハ! マジで? これだけで痛いの? ウケるー」

岸田の金玉を叩き上げた女子生徒は、苦しむ様子を嬉しそうに見つめた。

「全然痛くないじゃん、こんなの。ホラ」

ビシッ、ビシッ、と、女子生徒は自分のスカートの股間にアクリル定規を叩きつけて見せる。もちろん女子には金玉などついていないから、少し衝撃がある程度で、まったく痛みなどない。
岸田はそんな女子の様子を、苦痛に顔を歪めながら見ていることしかできなかった。

「はい、次の人」

ユキエは平然と、次の生徒を呼んだ。
次の生徒も女子で、もちろん岸田の金玉を攻撃するつもりでいるらしかった。

「アンタ、甘いって。アタシのやり方、見てなよ」

定規をわたされる時、その女子は得意げな顔で言った。

「いくよー。岸田、起きてよ」

女子生徒はやる気まんまんの表情で、定規をかまえる。
まだ金玉の痛みがひかず、前かがみになっていた岸田は、チラッとユキエの顔を見て、苦しみながらも上体を起こした。

「手、どけてよ」

股間をおさえる手を指されると、岸田は痛みに汗をかきながら、乞うような目で女子生徒を見た。

「あの…もう、ここは…」

「え? だって、どこでもいいってルールだし。アタシもキンタマ叩きたいもん」

「でも、もう痛くて…」

女子生徒は不満げに言うが、岸田はなかなか手をどけようとはしない。

「岸田君、手をどけなさい」

ユキエが冷たく言い放つと、岸田は観念したように股間をおさえる手をどけて、身構えた。
それを見つめるクラスの男子達は、発言こそしなかったが、自分のことのように渋い表情を浮かべていた。

「じゃ、いくよ。えい!」

女子生徒は右手に持ったアクリル定規を振りかぶると、股間に打ち付ける寸前でくるりと手首を返し、定規の側面で岸田の金玉を叩き上げた。

「えうっ!」

岸田にとっては、まったくしなりのない、堅いアクリルの棒で金玉を叩かれたのと同じだった。しかも定規の側面は数ミリしかなく、力が集中する。

「くくく…」

運悪くピンポイントで金玉に当てられてしまった岸田は、すぐさまその場に座り込んでしまい、苦しみに肩を震わせることになった。

「やった! やっぱりこっちの方が痛いでしょ? ねえ? どうなの?」

女子生徒ははしゃぎながら、岸田の顔を覗き込む。
岸田はもちろん、答えることなどできるわけがない。

「ちょっとアナタ、それは反則よ。危なくないようにしなさいって言ったでしょ。」

ユキエははしゃぐ女子生徒から、定規を取りあげた。

「岸田君、大丈夫?」

ユキエが声をかけたが、岸田は青い顔をしてうずくまり、首を動かすことすらできなかった。

「あーあ。岸田のキンタマ、潰しちゃった。カワイソー」

「明日から、女子の制服着てこないとねー」

苦しむ岸田を見ても、女子達はおどけて笑っていた。
それにひきかえ、男子達は岸田の様子を直視することすらできず、ただうつむいて、そのゾッとするような痛みを想像しないようにしていた。

「じゃあ、今日はこれで終わりにしましょう。またひどい点を取ったら、同じことになりますからね。岸田君?」

「は、は…い…」

岸田は絞り出すような声で、うなずいた。

「はい。じゃあ、授業に入りましょうか。岸田君、席に戻りなさい」

金玉にピンポイントの打撃を加えられた男が、ものの数分で立ち上がれるほどに回復できるはずもないのだが、ユキエは女性特有の無情さで、岸田に言ってのけた。
岸田はよろよろと立ち上がり、両手でしっかりと股間をおさえたまま、背中を丸めて自分の席まで歩いていった。

「岸田、やったね。明日から女の子じゃん!」

「女子トイレに入ってもいいよ。見つけたら、キンタマ蹴るけどね!」

岸田の情けない姿に、女子達は爆笑した。
ユキエ自身はあくまで教師として、生徒に当然の罰を与えているつもりだった。しかし、いつの間にかこの罰は男子達にとっては恐怖、女子たちにとっては楽しみの時間になってしまっていた。


テストの返却が終わると、ユキエはさらにテスト問題の解説と復習を始めた。その間も、金玉を叩かれた男子達の痛みが引くことはなく、はっきり言って上の空だった。
金玉の痛みは、最初は体の自由を奪うような激しく鋭い痛みだが、その後もずっと、重苦しい痺れのような痛みが下腹部全体にくすぶり続ける。少なくとも、この授業の間中は、集中できるような体調にはならないだろう。
この調子では、また赤点をとってしまうような悪循環だったが、ユキエや他の女子生徒たちにそれが理解できるはずもなく、金玉のことなどすっかり忘れて、淡々と授業を進めていたのだった。





「はい。テストの見直しは以上です。それじゃあ、前回の授業の続きをしていきましょう。まずは、宿題の答え合わせからやりましょうか」

宿題と聞いて、一気に顔から血の気が引いたのが、男子の川田だった。
川田は、昨日出された宿題のことをすっかり忘れていたのである。
厳格なユキエは、宿題をやってくることが当然と思っているので、忘れたかどうかなどとは聞かない。ただ、宿題の答え合わせでは、生徒をランダムに指して回答させるのが常だった。
自分が当てられることがなければ、忘れていても、それがバレることはない。川田は迷った。
今、忘れたと名乗り出れば、多少はユキエの心象も良くなるかもしれないが、それでも罰は免れないだろう。
ギリギリの葛藤で、やはり恐怖に負けて、黙り通す賭けに出る事を選んでしまった。

「じゃあ、一問目を、井口君」

「はい」

ユキエは、男子の中でも成績優秀な井口を指名した。
その後も次々と生徒が当てられていくが、皆、宿題をきちんとやってきているようだった。
川田は、さも宿題をやっていきているかのように装っていたが、内心では一問終わるごとに、祈るような気持ちだった。

「じゃあ、最後の問題を…川田君、お願い」

川田はその瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けて、顔をあげた。
よりによって最後の最後、あと一問だけだったのに、指名されてしまったのである。
力なく返事すると、目を泳がせながら立ちあがった。

「え、えー…と…」

まだ、この場で問題の解答を考えて、誤魔化すという道もあった。
しかし、川田はそう頭の良い方ではなく、その問題は真面目に宿題をやったとしても、解けないくらいの難しいものだった。
幸い、ユキエは回答を間違えることに対しては、怒ることはない。
なんとかもっともらしい回答をしたかったが、川田はちょっとしたパニック状態になっていて、なかなかいい答えが浮かんでこなかった。

「どうしたの? この問題は、ちょっと難しかったかしら?」

難しすぎて、解けなかったという選択肢もあった。
川田はそれに気がついて、ハッとした表情で顔をあげ、うなずいた。

「は、はい! そうです。ちょっと、難しくて…」

その時、隣の席に座っていた女子の堀之内サキが、川田を地獄に突き落とす告発をした。

「先生、川田君、宿題やってきてませんよ。さっきから、ずっと見てましたけど」

川田は自分の顔から、血液がサーッと引いていくのがはっきりと分かった。
サキはずっと、川田の挙動が怪しいことに気がついていたのだ。
いや、実際には反対側に座る男子の吉岡なども気がついていたのだが、それを告発するようなことはしなかった。そんなことをしたとき、その後川田に何が待っているかを、十分理解していたからである。

「え? 本当なの、川田君?」

ユキエの表情が、一気に険しくなった。
川田は完全にパニックになり、しどろもどろになった。

「い、いや、あの…やってないっていうか…。やったけど、分からなかったっていうか…」

「ウソだあ。アンタ、ずっと答え写してたじゃん。一問もわからないはずないでしょう」

サキはさらに、川田を追い詰めていく。
その結果、川田が受ける事になる罰のことなど、サキにとってはどうでもいいことだったのだ。

「どっちなの! やったの、やってないの? 正直にいいなさい!」

ユキエは曖昧さを許さない態度で、言い放った。

「その…やって…ません…。すいませんでした!」

川田は力の限り頭を下げて謝ったが、そんなことでユキエの怒りがおさまるはずはなかった。
つかつかと川田に歩み寄り、目の前に立ちはだかった。

「座りなさい」

厳しい調子で、そう言い放つ。

「どうして、正直に言わなかったの? 黙っていれば、バレないと思ったの?」

「い、いや、その…」

「宿題は、先生のためにやってるわけじゃないのよ。アナタのためにやることなのよ。分かってるの?」

ユキエは教師らしく、毅然とした調子で叱った。
川田はうなだれて、しおらしくうなずいていた。

「こっちを向いて。背筋を伸ばしなさい」

川田はハッとして、顔をあげた。

「せ、先生! すいませんでした。次はちゃんとやってきますから…」

必死な様子で懇願する川田だったが、ユキエは意に介さなかった。

「早く!」

川田は気迫に負けて、諦めたように体をユキエの方に向けて、イスに深く腰掛け、背筋を伸ばした。
するとユキエは、慣れた様子でサンダルを脱ぎ捨て、グレーのストッキングに包まれた右足を、川田の足と足の付け根にねじ込んだ。

「うぅっ!」

思わず、川田の口から嗚咽のような声が漏れる。
快感なのか苦しみなのか、この瞬間は分からない。それはいつものことだった。
川田の地獄は、ここからなのだ。

「さあ! 反省しなさい!」

ユキエは言いながら、川田の股間にあてがった右足を、さらに深くグリグリとねじ込んでいった。
川田の金玉は、ユキエの足の裏と恥骨、あるいはイスの座面とに挟まれて、容赦なく変形させられる。

「う! うえっ! ぐえっ!」

ユキエの足が上下するたびに、川田は情けない悲鳴を上げる。
思わず両手で股間を守ろうとするが、ユキエはそんな川田の手を掴み、おさえられないようにしてしまった。
まるで椅子の上でバンザイをしてるような体勢で、川田はユキエの電気あんまに耐えなければならなかった。
その姿に、隣の席で川田を告発したサキはもちろん、クラスの女子たちのあちこちから、失笑が漏れた。

「アレ、痛いのかな?」

「痛いんじゃない? なんか、川田のヤツ、泣いてない?」

「マジ? なんで、あんなんで痛いわけ?」

「知らなーい。バカじゃないの?」

当の川田は、そんな女子たちの囁きも耳に入らず、いつもよりも強烈なユキエの踏みつぶしを涙をこらえて耐えていた。
川田の二つの金玉は、ユキエの足に踏みつぶされるたび、逃げるように形を歪ませて転がるのだが、ユキエはそれを逃さぬよう、器用に踏み続けた。

「どう? 反省してるの、川田君?」

「あ! は、はい…。あ…! は、反省して…ます。あ!」

川田はとぎれとぎれに、ときに女の子のような悲鳴をあげて、必死に答えた。
そんな川田の姿を、沈痛な面持ちで見守っていた男子生徒たちだったが、突然、井口が立ちあがった。

「せ、先生! 梅田さんも、宿題をしていません! …けど…」

井口は意を決したように、しかし後半はややトーンダウンして、隣の席に座っていた女子の梅田サトミを告発した。

「あー、もう! なんで言うのよ!」

サトミは残念そうにつぶやいた。
ユキエは川田の手を離して、梅田の方を見た。

「そうなの、梅田さん?」

サトミは諦めたようにうなずいた。

「はーい。してません。すいませんでした」

ユキエは川田の股間から足を離し、サンダルを履いて、つかつかとサトミのそばに歩み寄った。
ようやく電気あんまから解放された川田は、震えながら机に突っ伏してしまった。

「どうして、そう言わないの! アナタも、背筋を伸ばしなさい!」

サトミは言われた通り、椅子の上で背筋を伸ばした。
ユキエはサトミの両耳に手を伸ばし、耳の上の方を掴むと、思い切り引っ張り上げた。

「いたたたたっ! せ、先生! 両方はダメだって! 痛い、痛い!」

サトミは耳をおさえて、痛がった。

「静かにしなさい! アナタも誤魔化そうとしたんだから、片方じゃすまないのよ! 反省しなさい!」

ユキエは厳しく言い放った。
子の様子には、クラスの女子たちも同情の声をあげた。

「わー、痛そー!」

「サトミちゃん、かわいそー」

「先生、やめてあげて!」

しばらくして、ユキエはようやくサトミの耳を放した。
サトミは耳をおさえて、痛そうに机に伏せてしまった。
これを見て、隣に座っていた井口は、また意を決したように立ちあがった。

「せ、先生! 不公平じゃないですか?」

ユキエはまたも井口が立ちあがったのを見て、さすがに少々驚いた表情だった。

「井口君。なにかしら、今度は? 不公平って、なんのこと?」





井口はユキエよりも少し高い身長だったが、ユキエにはいつも気圧される思いだった。
が、今は相当の勇気を振り絞って、ユキエを問い詰めようとしている。

「先生は、男子に対して不公平だと思います。何か罰を与えるとき、女子にはお尻を叩いたり、耳を引っ張ったりするだけですが、男子には…その…いつも、急所を攻撃します。それはちょっと、不公平なんじゃないですか?」

井口は叫ぶように、一気にまくしたてた。
それを聞いたユキエは、少しの間きょとんとした顔をしていたが、やがて不思議そうな顔で井口に言った。

「井口君、アナタ、何言ってるの? そんなの当然でしょ。女子には男の急所がないんだから」

ユキエは極めて真面目な調子で井口に言ったが、これを聞いた女子たちは、どっと笑い出した。

「先生、その通り!」

「女子にはタマがないもんねー」

「井口、何言ってんの?」

井口は女子たちの嘲笑を受けても、それを予想していたかのように、なお引き下がらなかった。

「だ、だったら、男子にも女子と同じ罰を与えるべきです。女子と同じ、尻叩きとか。男子だけが重い罰を受けるのは、不公平です!」

ユキエは必死に訴える井口の顔を正面から見つめて、毅然とした表情を崩さなかった。

「わかりました。アナタの意見は理解できるわ。でもね、井口君。私はアナタ達の学力を伸ばすために、最も効果的な方法を常に選択しているつもりです。そこに男女の差別はないわ。男子にとっては、それが急所攻撃だったというだけのことです。女子には女子で、最も痛くて効果的な罰を与えているつもりよ」

「そ、それが、不公平なんです。急所攻撃は、他のところを叩くよりも、ずっと痛いから…」

井口は男の急所の痛みを説明したかったが、それは女性であるユキエには永遠に分かることではなかった。

「それは、個人の痛がり方の問題でしょう。耳を引っ張られるのだって、十分痛いわよ。ねえ?」

ユキエはまだ耳をおさえているサトミにたずねた。
サトミは顔をあげて、井口をにらむ。

「そうだよ! 耳だって、痛いんだからね! 男のキンタマなんか、本当は大したことないんでしょ!」

「そ、そんなこと…」

井口は反論しようとしたが、クラスの大多数を占める女子たちが、一斉に叫び始めた。

「そうだよ! 男子は大げさなんだから」

「潰れてもいないくせに、いつまでも痛がるなって!」

「男だったら、それぐらい耐えてよねー」

井口はその勢いに押されて、何も言えなくなってしまった。

「それにね、井口君。アナタはとてもまじめで責任感の強い生徒なんだけど。このクラスの男子の中には、問題のある生徒もいると思うの」

ユキエは相変わらず淡々とした様子で、井口に言った。

「は、はい…」

井口は力なくうなずいたが、何のことかはわからなかった。

「この際だから、はっきりとさせましょう。その方が、クラスのためだし、アナタ達の将来のためだわ。吉岡君! 立ちなさい!」

突然、ユキエは川田の隣に座っていた吉岡の名前を呼んだ。

「は、はい…」

吉岡は突然のことで驚いたが、返事をするだけで、すぐには立とうとしなかった。

「どうしたの? その場で立ちなさい、吉岡君」

「あ、はい…」

吉岡はおどおどした様子でズボンをいじったりして、なかなか立とうとしない。

「立ちなさい!」

ついにユキエは、雷のような声で吉岡に指示した。
吉岡はビクッと体を震わせて、反射的に背筋を伸ばして立ちあがった。
井口はそんな吉岡の様子を眺めていたが、やがてあることに気がついた。

「みんな、見なさい。これが、男子の問題よ」

クラスの女子たちの間にも、囁き声が徐々に広がっていった。
吉岡はもう諦めたのか、目をつぶって、まっすぐと立っている。

「…ねえ、アレ、そうじゃない?」

「あ! なに、アレ? 勃ってるの?」

「そうだよ。勃ってるよ。授業中にボッキしてるんだ。さいてー!」

女子たちは口々に、吉岡の股間のふくらみを指摘し始めた。
確かに吉岡のズボンの股間はテントのように膨らんでいて、それが勃起によるものだということは、同じ男である井口の目には、一目瞭然だった。

「吉岡君。アナタ、授業中に何を考えているのかしら? いいえ、言わなくてもいいわ。先生には分かってますから」

吉岡は観念したように、黙ってうつむいてる。

「アナタ、さっき先生が川田君に罰を与えているとき、じっと見てたわね。先生のスカートの中を」

吉岡は何も答えなかったが、真っ赤になった顔が、すべてを物語っていた。
さきほど、ユキエが片足をあげて川田の股間を踏んでいるとき、吉岡の席からは、見えてしまっていたのだ。ユキエのタイトスカートの中が。
吉岡も最初はドキッとして目をそらした。しかし、ストッキングに包まれたユキエの太ももの内側と、その奥に見える薄いピンク色のパンティーが、年頃の男子の目をとらえないはずはなかった。
ユキエの足が上下するたびに、パンティーの股間部分のしわが伸び縮みするのを、吉岡はいつしか凝視してしまっていたのである。当然の摂理として、ギンギンに膨らんでしまった自分の股間を吉岡は必死に隠していたが、ユキエはそれを見逃さなかったのである。

「どうなの! 吉岡君!」

ユキエはさらに吉岡を問い詰めた。
吉岡はようやく、囁くような声で、「はい…」とうなずいた。
これにはクラスの女子たちは、猛烈に非難を浴びせた。

「信じらんなーい! スケベ!」

「へんたーい! 先生のスカートのぞくとか、ありえない!」

「先生、こんな変態のキンタマなんか、潰してください!」

「そうそう。潰しちゃえ!」

「ツ・ブ・セ! ツ・ブ・セ!」

期せずして、女子たちの間から「潰せ」コールが巻き起こった。
吉岡はここにきて事態のまずさに気がつき、必死で頭を下げた。

「すいません! すいませんでした!」

もはや井口も、何も弁護することはできない。
先ほどまで金玉を踏まれていた川田も、苦い顔で隣の吉岡を見上げていた。
ユキエは独り教壇に立って、黙って吉岡を見つめていたが、やがてよく通る声で吉岡を呼んだ。

「吉岡君、前に来なさい」

ユキエがそう言うと、女子たちの「潰せ」コールもおさまり、吉岡はおずおずと黒板の前に来た。すでに股間の膨らみはなくなって、本人もまた、背中を丸めて縮こまっている。




「さっき、井口君から指摘があったように、先生は男子に対して少し厳しかったかもしれません。でもそれも、アナタ達の学力が少しでも伸びる事を願ってのことです。それは分かってもらえるわね?」

ユキエは突然、心のこもった様子で語り始めた。
吉岡は意外な言葉に驚いたが、とりあえず、その問いかけには無言でうなずいた。

「先生はアナタ達より年上だから、よく知ってるの。この年頃の男子が勉強に集中できない最大の理由は、ここなのよ」

そう言うと、ユキエは左手で吉岡の肩を掴んで引き寄せ、もう片方の右手で吉岡の股間を下から鷲掴みにした。
吉岡の体が一瞬、ビクッと震えたが、ユキエの手は吉岡の金玉を締めつけるわけではなく、優しく包み込むように握っていた。

「だから今日は、その問題点を解消するお手伝いをしてあげます。あと、普段厳しくしている男子に、ご褒美をあげましょうか」

ユキエは吉岡の股間を掴んだまま、おもむろに片手で自分のシャツの前をはだけさせた。シャツの間からは、ピンク色のブラジャーに包まれた、ユキエの大きな乳房が見える。
吉岡は突然の出来事に目が釘づけになり、クラスの女子たちも、思わず声をあげた。

「さあ、自由に見てもいいのよ。吉岡君の悪い元気を、スッキリさせてあげましょう」

ユキエはそう言って、吉岡の股間を、ズボンの上からさすり始めた。
縮こまっていた吉岡のペニスは、すでにいきり立っていて、ユキエの右手はそれを優しく撫でるように動く。

「あ! うぉ…!」

吉岡は突然の激しい快感に、場所も忘れて声をあげてしまった。
彼は童貞で、ズボン越しとはいえ、女性に股間を触れられたことなど初めての体験だった。

「気持ちいいのね? その調子よ。触ってみる?」

ユキエは、ズボンの上からでもありありと分かる吉岡の肉棒を撫でながら、その手をとって、自分の乳房の上にあてた。
吉岡の手に伝わる、まったく未体験の柔らかい感触と体温は、さらに彼の興奮を促して、ここが教室でクラスメイト全員が注目していることを忘れさせてしまった。
クラスの女子たちは、いつの間にか息をのんで、二人の様子を見守っていた。
半分以上の女子たちがセックスの経験はなく、男のペニスを見たこともなかったため、このような光景を想像することもなかった。

「アレ、気持ちいいのかな…?」

「先生、オッパイ大きいー」

「吉岡、イクのかな?」

女子たちが囁く中で、男子達は一様に、ユキエのはだけた胸とその怪しげな指づかいに目が釘付けになっていた。
男子の全員がもれなくギンギンに勃起していることを、ユキエだけが気づいていた。

「さあ。もうちょっとよ、吉岡君」

ユキエはいったん吉岡の股間から手を離すと、上着のポケットからレースの付いたハンカチを取り出し、それを掌にのせて、吉岡のズボンの中に右手を突っ込んだ。

「あっ!」

吉岡は小さく呻いた。
ユキエの手は、今やトランクスの中に侵入し、ハンカチ越しに、はちきれんばかりに勃起したペニスを握っている。
このままちょっとでも動かされれば、吉岡は一気に射精してしまいそうだった。

「男子は全員、しっかりと見ておきなさい。悪い元気をとって、勉強に集中するのよ」

ユキエはそう言って、自らブラジャーをずらして、片方の乳房を露わにした。
その姿に女子たちからは歓声が上がり、男子達は目を皿のようにして見つめ、鼻息を荒くした。

「吉岡君、イキなさい。イッてもいいのよ」

ユキエはズボンの中で、その肉棒をしごき始めた。
吉岡は身をよじって快感に震えたが、ギリギリのところで射精を踏みとどまっていた。
さすがにクラス中の女子たちが見ている前で射精するのは、わずかに残された理性が抵抗をしたのだ。

「イクのかな?」

「イクよ。もう、出そうじゃない?」

「先生にイカされちゃうの? はずかしーい」

女子たちの囁きが、今度ばかりは吉岡の耳を打った。
唇を噛んで抵抗したが、やはりユキエの右手の動きと乳房の柔らかさには抵抗できず、頭が真っ白になって、何も考えられなくなってしまった。

「あっ! ああっ!」

そしてついに、吉岡はユキエに手コキされ、その右手の中で盛大に射精してしまった。

「そう。出しなさい。悪い元気を全部」

ユキエはさらに、絞りとるように吉岡のペニスを握りしめた。

「あうっ! うう…」

快感に震える吉岡の姿を、クラスの女子たちは好奇心に溢れた目で見ていた。

「ウソー! ホントにイッちゃった!」

「信じらんない! ふつう、出しちゃう?」

「あ、この匂い…!」

やがてユキエが右手をズボンの中から抜き取ると、その手にはべっとりと精液にまみれたハンカチが握られていた。

「これは、あげるわね。返さなくてもいいわ」

ユキエは極めて冷静な様子で、精液のしみ込んだハンカチをたたむと、吉岡の上着のポケットに突っ込んだ。
そして何事もなかったように自分の胸をしまい、服のボタンをとめて、整える。

「はい。これで、勉強に集中できるわね。先生も助かるわ。他の男子たちも、自分でしっかりと処理しとくのよ。ご褒美はこれっきりですからね」

男子達は全員、椅子の上で前かがみになっていた。
中には密かにポケットに手を突っ込んでペニスをしごき、少し射精してしまった者もいたが、教室中に吉岡の精液の匂いが広がっていたため、それと気づかれる様子はなかった。

「ハア…ハア…」

吉岡は溜まっていた精液をすべて出しつくしたように、放心状態だった。
しかし射精した後に訪れる、男の最も冷静な時間が訪れると、自分がクラスメイトの前で射精してしまったことに対して、これ以上ないくらいの恥ずかしさを感じてしまった。

「あ、あと吉岡君。これは、先生のスカートを覗いた罰よ。ご褒美とは別ね」

平然とした様子でそう言うと、ユキエは右ひざを跳ねあげて、吉岡の股間にめり込ませた。

ズン!

と、重たい質量を、吉岡は股間に感じる。
先ほどまで人生最大の快感を味わっていた場所に、今度はこれまでにないくらいの痛みが押し寄せてきた。

「ぐえぇっ!!」

吉岡は一瞬、ピンと体を硬直させて、直後に糸が切れた人形のように、横倒しに倒れこんでしまった。
舌をダランと出して、唇のわきから、細かい泡をふきだしている。
半分白目をむいた状態で、両手をしっかりと閉じた足の間に突っ込んでいた。

「あら。ちょっと強かった?」

ユキエは不思議そうに首をかしげる。
吉岡はそれに反応できるわけもなく、ビクビクと痙攣していた。
そして少しズレたズボンの隙間から、白濁した液体が、痙攣の度にビュっとこぼれた。
クラスの女子たちは、最初は何が起きているのか分からなかったが、やがて堰を切ったように爆笑した。

「えー! 蹴られてイッちゃったー!」

「最悪―! 超ヘンタイじゃん、コイツ!」

「ホンット、男子って、バカみたい。気絶しながらイクとか、ありえなくない?」

「どんだけエロいわけ、コイツ。ドMじゃん」

これまで無表情だったユキエも、さすがにこの吉岡の姿には、失笑してしまった。

「もう。吉岡君ったら」

吉岡は男の最大の苦しみと快感を同時に味わい、涙を流しながら、気が遠くなっていくのを感じた。
それを見ていた男子達は、女子たちの笑いの渦に包まれながら、しかし少しも笑うことなく、ただ顔を伏せて、吉岡に同情することしかできなかった。


終わり。


ある寒い冬の朝。大学生の奥田ユウジは、巨体を揺らして自宅マンションの階段を登っていた。
こんな時間に学校へも行かず、自宅に帰ってきたのは、マンガ喫茶で夜を明かしたためで、これからゆっくりと眠りにつくつもりだった。
大学生といってもユウジは留年を繰り返し、年齢はすで25歳になろうとしていた。
授業にはほとんど出席せず、バイトは気が向いたときだけして、親からの仕送りで生活する。絵にかいたような無気力な学生だった。

部屋のドアに鍵を差し込むと、意外にも鍵は空いていた。
うっかり閉め忘れてしまったかと思い、疑う様子もなくドアを開けた。
すると、八畳ワンルームのユウジの部屋には見知らぬ女性の姿があった。

「あれ…?」

ユウジには最初、事態が飲みこめなかった。
うっかり寝ぼけて違う部屋のドアを開けてしまったかと思ったが、ここは確かに見覚えのある自分の部屋である。
泥棒かと思ったが、長身で痩せ型のその女性は、ジャケットにタイトスカート姿で、とても泥棒とは思えなかった。

「奥田さん? お帰りなさい。お邪魔しています」

玄関でユウジが立ちつくしていると、女性の方から声をかけてきた。

「昨日の夜も来たんだけど、今朝もいなかったので、合い鍵を使わせてもらいました。私は、このアパートの管理をしている南沢といいます」

ユウジが尋ねる間もなく、女性は自ら説明し始めた。
きびきびとした様子で胸ポケットから名刺を取り出し、ユウジに渡す。
名刺には、南沢ヒトミという名前が書いてある

「早速ですが、奥田さんには、この部屋を出ていって頂きたいと思います。クリーニングの手配などがありますので、できるだけ早いうちに。今週中にでも」

「え?」

ユウジには、何の話かまったくわからなかった。
突然、自分の部屋に見知らぬ女性が現れて、部屋を出て行けという。
アパートの管理者だか何か知らないが、これを理解しろという方が難しいだろう。

「え…どういうことですか?」

ようやくそれだけ尋ねることができたが、ヒトミはユウジの動揺を予測していたように、淡々と説明を始めた。

「奥田さん、ここは学生専用の建物なんです。大学の学生が住む所なんですよ。奥田さんは今、いくつになりますか? だいぶ長い間、学校に通っているようですけど。ここに入りたいという学生は毎年多いのに、いい加減、出ていってもらわないと、困るんですよ」

「え…いや…それは…。ボクだって、一応、学生ですよ!」

「奥田さんの教授にも、話を聞いてきました。教授は、奥田さんのことなんか、顔も知りませんでしたよ。一度も授業に出ていないそうですね。その調子で、何年留年してるんですか? それで学生と言えるんですか? 真面目に大学に通う気がないなら、辞めればいいと、教授もおっしゃってましたよ」

ユウジは愕然とした。
確かに、自分がどの教授の授業に登録していたか、自分でもすぐには答えられない。
最後に学校に行ったのは2週間ほど前、参加しているアニメサークルの集まりのときだった。

「一番の問題を言います。奥田さんがこの学生寮に出入りしていると、他の学生さんたちが気味悪がるんですよ。ここには、最近女子生徒が多く入居していますから、いっそのこと女性専用にしようかと思っているところなんです。そんな所に奥田さんみたいな人がいたら、困るでしょう?」

極めて侮辱的なことを、ヒトミははっきりと言ってのけた。
確かにユウジの風体は、肥満し、髪の毛はボサボサで、無精ひげを生やし、いつも同じような着古したジャージを着ている。お世辞にも清潔そうには見えなかった。
むしろ、ニートのオタクとはこういう男のことだという、見本のような格好をしていた。

「そ、そんな…そんなこと…!」

とはいえ、あまりにも一方的な言い分に、ユウジは怒りを覚えざるを得なかった。
しかし、普段からほとんど人と接することがなく、まして若い女性と話をすることなど、いつ以来か分からないほどのユウジは、すぐに言葉が出せなかった。
ヒトミはそんなユウジの様子を、冷ややかな目で見つめている。
長い黒髪を軽く掻きあげる動作でさえ、ユウジを小馬鹿にしているように見えた。

「でも、本当にうわさ通りですね。オタクっていうのかしら。この部屋。気持ち悪い…」

遠慮も何もなく、そう言った。
確かにユウジの部屋は、壁一面アニメやゲームの女性キャラクターのポスターで占められており、床には服や雑誌の類が乱雑に散らかっている。その反面、ズラリと並んだフィギュアの棚だけは、キレイに整頓されているのだ。
そのフィギュアも、アニメに出てくる女の子のものばかりで、ほとんどが半裸か全裸に近いようなものだった。
ヒトミのような興味のない人間からすれば、確かに気色の悪い光景だったろう。

「何、これ? こんなものを集めて、何してるんですか?」

ふと、ヒトミはフィギュアの一つを手に取った。
それはユウジが最近手に入れたもので、とあるアニメのキャラクターのフィギュアだった。そのキャラはとても人気があり、ユウジもネットオークションなどを駆使して、ようやく手に入れたものだった。

「あ…! それは…」

「こういうもので、何をしているんですか? こんな子供みたいな女の子に興味があるなんて…。変態…」

さすがに、最後の一言だけはつぶやくように言ったが、ユウジの耳にはしっかりと聞こえていた。
ユウジは、徐々にこみ上げてきた怒りに全身を震わせた。
勝手に人の部屋に上がり込んで、言いたい放題に言い、あまつさえ自分が何より大切にしているフィギュアまで馬鹿にされて、怒らないはずがない。
普段は大人しく、他人と口喧嘩さえしないユウジだったが、ヒトミのあまりの仕打ちに、キレてしまった。

「そ、それに触るなー!!」

ユウジは叫びながら、ヒトミに向かって行った。
ヒトミに危害を加えようというつもりではなかったが、とにかく彼女の手から大事なフィギュアを取り戻したかったのだ。
ヒトミはしかし、驚く様子もなく、その場から動かなかった。
相変わらず蔑むような目で、ユウジが怒り狂うのを見ている。

「返せっ!」

ユウジはヒトミの手首を掴んで、フィギュアを取り返そうとした。
しかし次の瞬間。

「うぐっ!!」

股間に鋭い痛みを感じ、ユウジは息をつまらせた。
ヒトミの細い膝がユウジの金玉にめり込み、恥骨に挟み込んで圧迫したのである。

「あ…か…!」

肥満したユウジの体は、無残にも床に崩れ落ちた。
先ほどまで沸騰しきっていた怒りも、頭から血の気が引くように、一気に冷え込んでしまう。

「言っておきますが、これは正当防衛ですからね。こんなもの。言われなくても返すわ」

汚いものでも投げ捨てるかのように、ヒトミはフィギュアを床に捨てた。
そして、先ほどユウジに掴まれた手首を、忌々しそうにハンカチで拭くのである。

「奥田さん。アナタが女性を襲う危険性のある人物であることが、今のではっきりとわかりました。アナタのような犯罪者予備軍を、これ以上ここに住まわせることはできません」

うずくまって金玉の痛みに打ち震えるユウジの頭上から、言い放った。

「明日中に、荷物をまとめて出ていってもらいます。従わない場合は、法的な措置を取らせてもらいますので、そのつもりでいてください」

冷酷すぎる言い様だった。
痛みで頭が真っ白になっているユウジにも、ことの重大さは理解できた。
奥歯を噛みしめて、痛みに耐えながらふと目を上げると、そこにはスラリと伸びたヒトミの両脚がある。
ストッキングに包まれたその脚は、いかにもしなやかで繊細で、この脚がユウジに絶望的な痛みを与えたものとは、にわかに信じ難かった。
さらにその脚を見上げていくと、ほどよく肉づいた太ももと、官能的な腰回りのラインが見える。
ユウジは痛みに震えながらも、男として、その曲線美に興奮を感じざるを得なかった。

「……?」

ヒトミはそんなユウジの視線に、最初は気がつかなかったが、やがてそれが自分に向けられた性的欲望だと直感すると、みるみる眉を吊り上げた。

「どこ見てるの! この、変態!」

うずくまって股間をおさえているユウジの横に回り込んで、脂肪が折り重なったその脇腹に、つま先で蹴りを入れた。

「ぐえっ!」

「変態! 変態!」

ヒトミはさらに蹴り続け、さらにユウジの頭を踏みつけた。

「あ…うう…!」

ユウジの顔面は床に押し付けられ、無様に変形した。

「明日、また来るわ。そのときに準備ができていなかったら、大学にもこのことを報告しますからね。襲われそうになったといえば、退学は間違いないわよ。いいわね?」

ユウジは踏みつけられた頭を、わずかに縦に動かした。
ヒトミの声は荒々しく興奮してはいなかったが、有無を言わせぬ静かな迫力があった。

「それから、二度と私に触ったり、変な目で見たりしないで。汚らわしい。もしまた変な気を起こしたら、一生後悔させてあげるわ。いいわね?」

ユウジの目には、涙が浮かんでいた。
自分より遥かに小柄な女性から受けた痛みと屈辱に震えながら、うなずくことしかできなかった。
 
「それじゃあ、よろしく」

ようやくユウジの頭から足を下ろすと、何事もなかったかのように、部屋を出ていった。
後に残されたユウジが、起きあがることができたのは、その数十分後のことだった。



金玉の痛みから回復したユウジが始めたことは、引越しのための荷作りではなかった。
この部屋を出ていく気など、さらさらない。というより、彼にはこの部屋を追い出されてしまえば、行くあてがまったくなかったのだった。

「くそ…あの女! くそっ!」

恨みごとをつぶやきながら、パソコンの画面を見つめている。
探しているのは、ヒトミをどうやって黙らせるかという方法だった。
住居や賃貸契約に関する法律でも調べれば、少しは議論の余地がありそうなものだったが、ユウジの頭の中には、ヒトミ個人への怒りが渦巻いていたのだ。
ヒトミを屈服させてやることが、この部屋に住み続ける唯一の方法だと信じて疑わなかった。

「ん…?」

ユウジが注目したのは、

『気が強そうな女は、本当は支配されたがっている。強引でも強気で行けばOK』

という記事だった。
ネット上に蔓延する、何の根拠も責任もない記事だったが、人生経験の浅い人間ほど、こういう見出しにとらわれやすい。
さらにユウジは、

『女の奥底にあるレイプ願望』

とか

『女性は一度関係を持った男に弱い』

などという記事に目を留めていった。

ヒトミが看破したように、彼は現実の女性に興味を持つことが少ない方だった。はっきり言ってしまえば、二次元専門だったのである。もちろん童貞だったが、本人は何とも思っていなかった。
それが、出会いの形は最悪だったにしろ、ヒトミという魅力的な女性と接触したことで、ユウジの中の原始的な男の欲望が目を覚ましつつあった。
それは屈折した形だっただけに、燃え上がり方も激しく、同時に陰湿で、ユウジは自分の発想がすでに犯罪の世界に足を踏み入れていていることも分からないようだった。

「そうか…。そうすればいいんだな…」

暗い目つきでつぶやいている自分の顔が、明らかに犯罪者予備軍のそれであることに、ユウジは気がつかなかった。



翌日の昼すぎ。
再びアパートを訪れたヒトミは、ユウジの部屋に引っ越しの気配がまったくないことを見ても、むしろ予想通りという顔をしていた。
昨日はああ言ったものの、さすがに一日で準備ができるはずがない。
ユウジの抵抗は予想外だったが、昨日の訪問は脅しをかけるつもりだったのである。
かといって、ここで手を緩めれば埒が明かないのも確かなので、今日もこっぴどく脅かしてやるつもりで来たのだった。

「奥田さん! いるんですか?」

玄関のチャイムを押しても反応がないので、ドアをノックしてみた。
それでも反応がないので、ドアノブをまわしてみると、鍵がかかっていない。
ヒトミは不審に思いながらも、勝手知ったる部屋なので、昨日と同じようにドアを開けて中へ入った。

「奥田さん?」

部屋の中はカーテンが閉められているようで、薄暗く、よく見えなかった。
ただ、ユウジの姿はないようで、部屋の中の荷物もまったく整理された様子はなかった。
ヒトミは不審に思いながらも、自分の警告にまったく従わなかったユウジに怒りを感じた。
棚の上には、相変わらず女の子のフィギュアが並んでおり、それらがすべてヒトミの方を見つめ、あざ笑っているかのような気味悪さを覚えた。

「まったく…! あの変態野郎!」

ユウジが部屋にいないと見て、思わず悪態をついた。
すると突然、背後からユウジの巨体が覆いかぶさるようにして抱きついてきた。

「きゃあっ!」

ヒトミは思わず悲鳴を上げた。
ユウジは鼻息を荒くして、ヒトミの両腕を包むように抱き締めようとする。

「し、静かにしろ!」

耳元で、ユウジが囁いた。
ユウジの息遣いがすぐ側に感じられて、背筋に悪寒が走ったが、その力は思いのほか強く、振りほどけなかった。

「何! 何をする気!」

ユウジは無言のまま、ヒトミをベッドに押し倒した。
うつ伏せになったところに肥満したユウジの巨体が覆いかぶさってきたので、一瞬、呼吸ができなくなるほどの圧迫を感じた。

「うっ!」

さらにユウジは、どこにそんな力が隠されていたのか、うつ伏せになったヒトミを軽々とひっくり返して、仰向けにしてみせた。
昨日と同様、スーツ姿にワイシャツを着ていたヒトミの乳房が、重たそうに揺れた。
二次元とは違う、柔らかそうな胸の膨らみを見て、ユウジの心にも火がついたようだった。

「お、お前が悪いんだからな! 俺のものにしてやる!」

準備していたようなセリフを、たどたどしく叫んだ。
ヒトミはしかし、意外なほど静かな表情で、興奮した様子のユウジを見上げていた。
ユウジはそれを見て、自分の計画通りヒトミが観念したものと思った。

『女はセックスをすれば、言うことを聞くようになる』

昨日見た記事が、頭の中に浮かんだ。

ヒトミのワイシャツに手をかけて、不器用な手つきでボタンを外していった。
胸の部分を数個外しただけで、ピンク色のブラジャーに包まれた、豊満な乳房が顔を出した。

「ふうっ…ふうっ!」

ユウジの息遣いはますます荒くなり、その股間は、ジャージを突き破らんばかりに膨張していた。
一瞬のためらいの後、思い切ってヒトミの乳房に両手を当てると、予想を遥かに超える柔らかさがあった。

「ふおおっ!」

柔らかいだけでなく、適度な弾力もあり、ユウジにとってはまったく未体験の感触だった。
もはや理性も何もなく、乱暴に揉み続けると、ヒトミがかすかに声を上げた。

「あ…ん…」

ヒトミは感じている。
ユウジはそう確信した。自分の計画に、まったく誤りがなかったということである。
こうなれば、このままヒトミを犯してしまっても、まったく間違いはない。
そう思ったユウジは、一気にヒトミのスカートをずり下ろして脱がそうとしたが、タイトスカートは引っかかって、なかなか脱がせられない。
女性の服の知識などまったくないユウジには、どうやって脱がすのかも分からなかったのだ。

「……」

そんなユウジに痺れを切らしたのか、ヒトミは自らスカートのホックを外し、ファスナーを下ろしてやった。
それを見て、ユウジはますます、ヒトミは自分に服従していると思った。
いつも冷やかに見ているネットの記事に、今日ほど感謝したことはない。
感動すら覚えながらスカートを下ろすと、パンティストッキングに包まれたヒトミの下半身が目の前に現れた。

扇情的な脚のラインは、ストッキングによってその形を強調され、しおらしく折り曲げられている。
さらにパンストのセンターに入った縫い目は、男にとっては股間の割れ目を連想させ、パンティに食い込んでいる様子が無性にいやらしい。
ユウジは、とてつもなく高価な宝石や美術品を目の当たりにしたように、ヒトミの下半身に見入ってしまった。

「私とやりたいの…?」

突然、時間が止まったかのように動かなくなったユウジに、ヒトミは声をかけた。
ユウジはハッと我に返り、大きくうなずいた。

「そ、そうだ! お前を…俺の…俺の…」

ヒトミを服従させるようなセリフを準備していたはずが、頭の中が真っ白になってしまった。
ヒトミは不思議なほど冷静な表情で、顔を真っ赤にして興奮しているユウジを見ていた。

「いいわ…。アナタも脱いで…」

ユウジはこの言葉に、雷に打たれたように体を震わせた。
無言のままうなずくと、すぐにジャージのズボンに手をかけて一気にずり下ろした。
トランクスの下では、すでにイチモツが限界まで膨張し切っている。

「すごい…。興奮してるのね」

ヒトミは体を起こして、大きくテントを張っている股間に顔を近づけると、そっと、天を突きさす肉棒に手をかけた。

「はあうっ!」

ユウジは思わず声を上げた。
トランクスの布ごしとはいえ、女性に性器を触られたことなど初めてで、今にも射精しそうだった。

「フフフ…」

ヒトミは小さく笑いながら、左手をゆっくりと動かし始めた。
例えようのない快感が、ユウジの下半身を溶かしていく。
ほんの何擦りかしただけで、ユウジの尻の筋肉は、射精を我慢するように緊張し始めた。

「ハア…ハア…」

全身を弓のように反らして、目を閉じ、今にも射精するかと思った時、ヒトミの右手が素早く動いた。

「ふぎゃあぁっ!」

突然、握りしめられた金玉の痛みに、ユウジは思わず叫んだ。
ヒトミの右手はユウジの金玉袋を掴み、爪を立てて、下に向けて引っ張るように握りしめたのである。
射精寸前で、尿道まで上がるかと思われていた精液は急速に戻ってしまった。さらにヒトミは、左手で勃起したイチモツをへし折らんばかりに捻っている。

「ぎゃあぁぁ!!」

快感の絶頂から突然突き落とされた地獄の苦しみに、ユウジは泣き叫ぶしかできなかった。

「うるさい!」

ヒトミの右手には、渾身の力が込められていた。
美しく手入れされた爪が、金玉袋を突き破らんばかりに食い込んでいる。

「この変態野郎っ!!」

ヒトミはあるいは、本気でユウジの金玉を潰すつもりで握りしめているようだった。
やがてユウジの呼吸が小さくなり、口から泡を吹いて痙攣しだすと、限界ぎりぎりまで変形した二つの睾丸を、ようやく解放してやった。

「ひっ…ひ…」

ユウジは無言のまま、ドサリとベッドに倒れ込んだ。両手で金玉をおさえ、昨日と同じような体勢でうずくまってしまう。
ヒトミは、ずり下ろされたスカートを無表情に履き直し、シャツのボタンをとめると、ベッドから立ち上がって洗面所に向かった。
やがて水が流れる音がして、ヒトミが手を洗っている様子が分かった。
その間も、ユウジはただ、とめどなく押し寄せる痛みに体を震わせることしかできないでいる。

「ふう…」

洗面所から出てきたヒトミは、小さくため息をついて、部屋の中を見回した。

「カメラ。しかけてるはずよね? どこにあるの?」

尋ねたが、ユウジは答えるどころではない。
ヒトミもあまり期待していない様子で、部屋の中を勝手に探し回った。
やがて、フィギュアが並んでいる棚の奥に、ビデオカメラのレンズらしいものを見つけた。

「あった」

ガラクタを押しのけるようにしてフィギュアをなぎ倒し、小型のビデオカメラを取り出した。

「私をレイプして、言うことを聞かせる。ビデオを撮って、ばら撒くと脅す。気持ち悪いオタクの考えそうなことだわ」

ヒトミはつぶやきながら、ビデオカメラの映像を確認していた。

「せっかくだから、これは私が使わせもらうわね。これを警察に持ち込めばどうなるか。そういうことまで考えたの? バカね」

ヒトミがビデオカメラを置くと、ユウジもようやく少し回復したようで、汗でびっしょりになった顔を上げた。

「まあでも。このマンションから犯罪者が出たりしたら、こっちも迷惑するのよね。これは最終手段として、やっぱりアナタには自発的に出ていってもらうのがベストかしら」

恐怖と混乱に満ちたユウジの顔を見つめながら、つぶやいた。
その冷静すぎる態度が、さらにユウジの恐怖を煽った。

「あの…す、すいませんでした…。つい、出来心で…」

股間をおさえてうずくまりながら、謝罪した。
こうなってしまえば、圧倒的に不利なのは自分の方だと悟ったのだ。
ユウジが自ら立てたこの計画自体、彼自身を陥れる以外の何者でもなかったのだが、昨日、ヒトミに痛めつけられて以来、怒りでそれに気がつかなかったのだ。
今、金玉の激しい痛みが彼を冷静にさせ、自分の置かれた状況を分からせたのである。




「出来心ね…」

ヒトミはしかし、表情を崩さず、ポケットから白い手袋を取り出して両手につけた。
そしてうずくまっているユウジに歩み寄ると、その鼻面に、思い切りビンタを入れた。

「ひゃっ!」

女の子のような声を上げて、ユウジはのけぞった。
巨体がベッドを揺らし、足を大きく広げて、股間をさらしてしまう。
ヒトミは先ほど痛めつけた金玉を、トランクスの薄い布ごしに再び握りしめた。

「昨日、言ったわね? 一生後悔させてあげるって。聞いてなかったのかしら? それとも、私の言葉が理解できないくらいバカなのかしら? どっちなの?」

「ぎゃあぁ!」

再び男の最大の痛みに襲われたユウジは、身も世もなく叫んだ。

「ねえ、どっちなの?」

答えを要求するかのように、ヒトミはさらに強くユウジの金玉を握りしめた。
ユウジはたまらず、叫ぶようにして答えた。

「バ、バカでした! ボクがバカでした。ごめんなさい! ごめんなさい!」

「そう。バカなの。だったらもう、しょうがないわね。バカには体で分からせないと」

囁くように、ヒトミは言った。
ユウジは背中に冷たい汗が流れるのが分かった。
今、自分の命の次に大切な金玉が、彼女の手の中にしっかりと握られていて、その生殺与奪まで彼女に握られていると思うと、心の底から恐ろしくなってきたのだ。

「立って、奥田さん。ゆっくりでいいから。ほら。少し緩めてあげるから」

言葉通り、少しだけヒトミの手が緩んだが、ユウジの体はまだとても立ち上がれるほどではなかった。
でっぷりと突き出た腹を揺らして深呼吸していると、ヒトミは痺れを切らしたように叫んだ。

「立て! この変態!」

「ぎゃああ!! はいぃ!」

白い手袋が金玉袋に食い込み、それを引っこ抜くようにして持ち上げると、ユウジの巨体がようやく立ち上がった。

「そう。立てるじゃない。まったく、大げさなんだから」

ヒトミは呆れ顔でそう言ったが、ユウジにしてみれば、必死の思いで力を振り絞ったのだった。
男にとって金玉がどういう器官で、それを握られるとどういう痛みがあるのか。まったく理解できないヒトミだからこそ、ここまで乱暴なことができるのだろう。
今、ユウジは膝から力が抜けて崩れ落ちそうになるのを、とめどない痛みの中で必死にこらえているのだった。

「少し、話をしましょうか。ねえ、奥田さん。あなたこの部屋で、いつも何してるの? 学校にも行かないで。アルバイトもしてないんでしょう? 何をしてるのかしら?」

金玉を握る手は決して緩めようとせず、ヒトミは話しかけた。
彼女の手が、マッサージのように金玉を揉みしだくたび、ユウジは呼吸が止まる思いだった。

「いつもは…ゲームとか…テレビとか、見てます…ウッ!」

「そう…。じゃあ、この気持ち悪い人形たちは、何のために置いてあるの? これ全部、アナタが買ったの?」

「こ、これは別に…。気持ち悪くなんか…あうっ!!」

ヒトミは棚に並べてあるフィギュアの一つを手に取った。
改めてよく見てみると、そのフィギュアは全裸の女の子で、細部まで細かく作り込んであるらしかった。

「ヤダ…。この人形、こんなところまで作ってあるの…? ホント、気持ち悪いわね」

そのフィギュアは足を大きく広げた挑発的なポーズをとっており、その豊満な乳房にはピンク色の乳首が、その股間には、女性器の形が緻密に再現してあるようだった。

「これを見て、何してるの? これでオナニーしてるの?」

聞かれたユウジが恥ずかしくなるくらい、ハッキリと尋ねた。

「いや…。は、はい…。その…たまに…ですけど…」

「そうよね。こんなに可愛くて、エッチなポーズしてたら、興奮しちゃうわよねえ。こんなのを毎日見てたら、私の裸なんかじゃ興奮しないんじゃないかしら? ねえ、どうなの?」

いたぶるような口調だった。
ユウジは恐怖と痛みに震えながらも、先ほど目に焼きついたヒトミの下半身を思い出していた。

「あ…いや…それは…ぎゃあぁっ!!」

不意に、ヒトミが強烈な力でユウジの金玉を捻り上げ始めた。
ユウジの体からは痛み以外の感覚がなくなり、膝から崩れ落ちそうになる。

「バカじゃないの? 今、想像したでしょ、私の裸を? 想像してんじゃないわよ! さっき見た私の下着のことも、すぐ忘れなさい。今すぐ!」

ユウジは床に倒れ込みたかったが、ヒトミが金玉袋を放さない限り、それはできなかった。

「わ、忘れます! すいません! 忘れますから!」

ユウジは必死に叫んだ。
事実、痛みで頭が真っ白になってしまっている。
ヒトミは少しだけ、手を緩めてやった。

「まったく。アナタみたいな変態のオナニーのネタにされてるかと思うと、気持ち悪くなるわ。アナタ、セックスしたことあるの?」

「い、いえ…」

「そうよねえ。スカートの脱がし方も知らないんだから、そうだと思った…」

言いながら、ヒトミはさらにユウジの金玉を握る手を緩めてやった。

「ねえ、週にどれくらい、オナニーしてるの? いつもお人形さんを見ながらやってるの? それとも、ビデオとか?」

やがてその手はリズミカルに、金玉袋を揉み始めた。
ユウジの下腹部にはまだ重苦しい痛みが残っていたが、それはそれとして、掌の上で金玉を転がすような指先の動きには、心地よさを感じてしまった。

「え…と…。週に2回くらい…です」

「週に2回? ホントに? アナタみたいな変態は、毎日してるんじゃないの? 学校にも行かない、彼女もいないんじゃ、頭の中でいやらしいこと考えるのだけが楽しみなのよね? そうでしょ?」

「は、は…い…」

いたぶるような言い様だったが、ほとんど事実なので、ユウジには否定することはできなかった。
男としてのプライドよりも今は、睾丸をマッサージされる快感に身を委ねたかった。

「だからね。その奥田さんの唯一の楽しみを…私が奪い取ってあげるわ!」

ヒトミの手に、先ほど以上の圧力がかかり始めた。
今まで快感に身をよじっていたユウジは、突然の激痛に叫び声を上げる間もなく、息を詰まらせてしまう。

「あ…はぁぁっ!!」

もはや立っていることはかなわず、ユウジの意思とは無関係にその膝は折りたたまれてしまった。
しかしヒトミの手は一切緩むことなく、座り込んでしまったユウジの金玉を、ますます強く握りしめている。

「奥田さんはいやらしいことばかりしてるから、この部屋に居座り続けるんでしょ? だったらこの金玉を潰して、二度とオナニーできなくなればいいのよ。アナタみたいな人は、それでちょっとはマトモな人間になれるかもよ?」

ミサトはほほ笑みながら言うが、その手には万力のような力が込められ、本当にユウジの金玉を潰そうとする勢いだった。
ユウジは思わずヒトミの手を掴んだが、全身の感覚は強烈な痛みに支配され、まるで力が入らない。

「あがぁああ…!! は、離して…。離してください…」

絞り出すようにしか、声を出すことができなかった。
股間から発せられる痛みは、すでにユウジの呼吸器官にまで影響し、胃の奥から吐き気さえこみ上げてきているのだ。
涙と鼻水を流しながら懇願するその姿に、ヒトミはさすがに少し笑ってしまった。

「大丈夫よ。もうすぐ終わるから。犬だって、去勢すればおとなしくなるでしょ? 奥田さんも、明日にはさっぱりした気分で引越しができるはずよ」

ヒトミの笑顔は、ユウジにとってこの上ない恐怖だった。
金玉がどれだけ痛いのかさえ分かってもらえれば、手を離してくれるはずだと思ったが、この名状しがたい苦痛をどうやって女性であるヒトミに伝えればいいのか。昏倒する寸前のユウジの頭では分からなかった。

「ひっ…引っ越します…! ここから出ていきますから…。ゆ、許してください!」

ピクリと、ヒトミが反応した。
その手に込められた力が、わずかに緩んだ。

「あ、そう。アナタの方からそう言ってもらえると、助かるわ。でも、いつ引っ越してもらえるのかしら?」

ユウジはここでヒトミの機嫌を損ねてはなるまいと、必死に考えた。

「あ…はぁ…。こ、今週中には…ぎゃあっ!!」

「今週中? 今日はまだ火曜日よ、奥田さん。私は昨日、明日までに出て行けって言ったわよね? アナタはその約束も守ってないのよ。それはちょっとおかしいんじゃないかしら? ねえ?」

「はい。はい…その通りです! あ、明日までに出て行きます。出て行きますから…!」

問いかけるたびに、ユウジの睾丸はヒトミの手の中で無残に変形した。
ユウジは悲鳴を上げながら必死に許しを乞うたが、ヒトミは手を緩めることなく、さらに言った。

「あ、そう。明日? 無理しないでいいのよ。だって、そんなに急に引越しされたら、契約違反っていうことで、敷金と礼金を返せなくなるもの。合わせて20万円くらいかしら。それでもいいの?」

言葉とは裏腹に、ヒトミの手の圧力はじわじわと強くなっていく。
ひとつ答えを間違えれば、本当に金玉を潰されかねないとユウジは感じた。

「い、いいです! それはいいですから…!」

「本当に? 敷金と礼金は返さなくていいの? それじゃ何か悪いわね」

そう言いながら、ヒトミは笑っていた。

「そうだ。敷金の10万円だけ返すから、その代わりに奥田さんのコレを、一つ潰させてもらうっていうのは、どう?」

睾丸の一つに親指の爪を食いませると、ユウジの下半身には火がついたような痛みが走った。
これ以上力をこめれば、すぐにでもユウジの金玉は破裂してしまいそうだった。

「ぎゃあぁっ!! い、いいです! いいですから!! 離してください!」

喉が枯れんばかりの叫び声を上げるユウジを見て、ヒトミは楽しそうに笑う。

「あ、そう? 遠慮しなくていいのよ? ちょっと我慢すれば、10万円も貰えるのに。そうそう。それから、アナタがさっき汚い手で触ったこのスーツね。もう着たくないから、家に帰ったらすぐ捨てるつもりなんだけど…。どうしようかしら?」

「べ、弁償します! 弁償させてください! お願いします!」

「そう? 何か悪いわね。催促したみたいで」

「ああぁっ!!」

ニコニコと笑うヒトミに対して、ユウジの意識は今にも飛んで行ってしまいそうだった。
あるいはその方がユウジにとっては幸せだったかもしれないが、ヒトミは気絶すら許さないとでも言うように、リズミカルに揉みこむようにして、睾丸を握りしめているのだった。

「じゃあ明日、書類を持ってきますから、印鑑とお金を準備しておいてね」

涙を流しながら、必死にうなずいた。
ヒトミはそれを見て満足そうに笑うと、ようやくユウジの股間から手を離してやった。
ユウジはすぐさま股間を両手でおさえて、自分の金玉の無事を確認する。解放されたとはいっても、これから数時間は、この重苦しい痛みと闘わなければいけないのだ。

「奥田さんって、意外といい人だったのね。助かるわ。でももし、明日引越しができなかったら…」

うずくまるユウジの耳元に口を近づけて、囁くように言った。

「今度こそ、本当に潰すからね」

その声は冷たく、有無を言わせぬ迫力があり、すでに抵抗する気力を失っているユウジの脳内に、重く響くものだった。
「はい…」と、ユウジはか細い声で、うなずくことしかできなかった。

「じゃあ、よろしく」

ヒトミは一仕事終えたように揚々と立ち上がると、両手にはめていた白い手袋を外して、ユウジの頭の上に投げ捨てた。
ユウジは何も言うことができず、動くことさえできなかった。
やがてヒトミが部屋を出て行くのを確認すると、床に突っ伏して、シクシクと泣き始めるのだった。


終わり。


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