「じゃあ、膝蹴りをやってみたい人はいるかしら?」
ホッとしたのもつかの間である。 ヨウコは女の子たちの中から、橋田のキンタマを蹴る人間を選ぶらしかった。
「はい!」
好奇心に溢れた目で、女の子たちのほとんどは、一斉に手を上げた。
「えーっと…じゃあ、アナタ。お願いしようかな。名前は?」
ヨウコは一人を指名し、その女の子は嬉々として立ち上がった。
「はい。岡田ミキです!」
「じゃあ、ミキちゃん。こっちにきて。このお巡りさんに膝蹴りをしてみて」
「はい! あの、ホントに蹴って大丈夫なんですか?」
ミキは先ほどの山本の痛がりようを見て、一応、ヨウコに確認してみた。 橋田にしてみれば、それは自分に聞いてほしいことだった。
「もちろん。じゃないと、練習にならないわ。お巡りさんも、キンタマの痛みを知らないと、みんなに教えられないから、本気で蹴っていいわよ」
ヨウコは大きくうなずいた。 橋田はキンタマの痛みなど、確かめるまでもなく十分に知っているので、先輩とはいえ、ここでヨウコに言っておかねばならなかった。
「あの、先輩…。本気でというのは…」
「なに? いいじゃない、中学生の膝蹴りくらい。大して痛くないでしょ。警察官なんだから、我慢しなさい」
ヨウコは冷たく言い放った。 橋田はそれでも、食い下がろうとする。
「いや…その…」
「なに、その顔は。情けないなー、男の癖に。ん? あ、男だから痛いのか。そっかあ」
ヨウコが自分の言葉に笑ってしまうと、それを聞いていた女の子たちからも、笑い声が上がった。 一人橋田だけが、苦笑いもできない状況だった。
「まあ、とにかく。ミキちゃんの練習だから、遠慮なく蹴ってみて。大丈夫。潰れたりはしないと思うから。たぶんね」
「はい! 頑張ります!」
完全に橋田の意見を無視する方向で、話は落ち着いてしまった。 ミキは橋田に近づき、その肩に手を当てた。警察官のたくましい筋肉の感触が、ミキの手にも伝わる。 橋田は諦めたように、天井を見つめて歯を食いしばっていた。
「行きます! えい!」
可愛らしい掛け声と共に、ミキは思い切って橋田の股間に膝を跳ね上げた。
ズン!
と、橋田の脳天に突き抜けるような衝撃が走り、そのすぐ後に、橋田は自分の両脚から力が抜けて行くのを感じた。
「ふぐっ!」
橋田のキンタマはミキの細い太ももに押し上げられ、恥骨に挟まれて大きく変形した。橋田自身が、自分のキンタマが潰れてしまったかと思うほどの、見事な金蹴りだった。
「あ…! うわ…!」
橋田は今まで感じたことのない、全身に寒気が走るような感覚に襲われた。 ミキの脚が地面に降りる前に、あっという間に腰を引き、無我夢中で股間のキンタマを手でおさえ、前のめりに体育館の床にへばりついてしまう。
「うわあ。痛そ…。大丈夫ですか?」
一方のミホは、自分の太ももの先に、若干の手ごたえを感じたものの、橋田の苦しみ様を想像していなかったらしい。 股間をおさえながら海老のように丸くなり、足をジタバタとさせるその姿は、女の子たちの理解をまったく越えたものだった。
「うん。今のは、キレイに入ったわね。キンタマに当たった感じがしたでしょ?」
ヨウコは地獄のような苦しみを味わう橋田を見て、満足そうな表情だった。
「あ…はい。なんか、ふにゃっとしたのが、当たったような…」
「それがキンタマね。脚と骨の間で、うまく押し潰せたんじゃない? みんなも、今みたいな膝蹴りをイメージして下さいね」
「はい!」
と、女の子たちは元気よく返事した。 先ほどヨウコの蹴りを受けた山本と、膝蹴りでキンタマを粉砕された橋田。 二人の様子を見て、残る最後の男性警官、川上は、今すぐにでもこの場から逃げ出したくなった。 しかしヨウコは無情にも、川上を呼びつける。
「じゃあ、最後は川上君ね。こっちに来て」
「あ! は…はい…」
川上が逆らえるはずもなく、素直にヨウコの元に来た。
「ではみなさん。これまでの練習で、男性のキンタマがいかに弱くて脆いものか、よく分かったと思います。キンタマを蹴られれば、普段から鍛えている警察官のお兄さん達でも、こんな風になってしまうんですよ」
ヨウコの言葉通り、女子生徒たちの前には、キンタマの痛みに苦しむ二人の警察官が転がっていた。 女の子たちから見れば、何の訓練もしていない自分たちの蹴り一発で、鍛え上げた肉体を持った男たちが動けなくなるほどのダメージを受けることが、不思議でならないと同時に、面白かった。
「男性のキンタマを攻撃することは、女性にとって絶対に学ぶべき、大切なことだということですね。キンタマは、女性が男性に襲われないように、神様が作ってくれた急所なのかもしれませんね」
ヨウコの言葉に、女の子たちは成程というようにうなずいた。 女の子たちにこの感覚を持たせ、いざというときに躊躇なくキンタマを攻撃できるようにすることが、ヨウコの狙いなのだ。
「では最後に、キンタマを握りつぶす方法を教えましょう。これは、蹴りなどができない、極端に密着した状態で、とても有効な方法です。例えばみなさんは、電車などに乗った時に、痴漢にあうこともあるかもしれません。橋田君、私の後ろに来て」
川上は言われた通り、ヨウコの背後に回った。 彼は体格が良く、二人の身長差は15センチ以上あった。
「例えばこう。後ろからお尻などを触れたとします。橋田君、ちょっと腰に手を当てて」
川上はヨウコの腰に手をまわした。
「そんなときは慌てずに、相手の股間の位置を確認してください」
ヨウコは遠慮する様子もなく、川上の制服の股間にスッと手を伸ばした。
「そして、キンタマを見つけたら、一気に握り潰しましょう」
言葉通り、ヨウコは川上のキンタマに触ると、その瞬間に二つの丸い物体を掌の中に握り込んだ。
「はうっ!」
川上は抵抗する間もなく、情けない声を上げた。
「キンタマは二つありますから、二つを擦り合わせるように握ると、痛みは倍増します」
言いながら、ヨウコは手の中でキンタマをゴリゴリと擦り合わせた。 二つのタマが擦りあうたびに、川上は悲鳴を上げる。
「ぎゃひぃ! あひぃ!」
「もし一つしか握れなくても、大丈夫です。その一つを、思いっきり握りつぶして下さいね」
平然と説明を続けるヨウコの背後で、川上が鬼のような形相で痛みをこらえていた。 すると一人の生徒が手を挙げて、質問した。
「でも、掴んでも、すぐに逃げられたりしないんですか?」
「ん? ああ、そういうこともあるかもしれないですね。川上君、ちょっと逃げてみてもいいわよ」
そう言われるが早いか、川上は必死に身をよじって、ヨウコの手からキンタマを放そうともがいた。 しかし、ヨウコはキンタマを根元からしっかりと掴んでいて、容易に放さない。かえって動けば動くほど、自分のキンタマを引っ張ってしまうことになり、そこにまた激痛が伴う結果となった。
「ぐ…ああ…」
「ね? 一度しっかりとキンタマを握ってしまえば、男の人は抵抗できなくなってしまうのよ。あるいはもし、こっちに手を出そうとしても…。川上君、ちょっと私の肩を掴んでみて」
川上の額には、すでに大粒の汗が浮かんでいたが、とにかくヨウコの言うとおり、肩に手をかけてみた。
「よっと」
すると、ヨウコはキンタマを握る手に、一層の力を込めた。
「ぎゃうっ!」
川上は電撃に打たれたように、ヨウコの肩から手を放した。
「こういうことになります」
おおーっと、女の子たちから歓声が上がった。 腕力で太刀打ちすることができないと思っていた屈強な男を、女性が右手一つで思いのままにコントロールする様子に、感動にも似た興奮を、生徒たちは感じている。
「男性が女性を襲おうとするときには、性犯罪目的の場合が多いことは、みんなも分かっているわね? 性犯罪を犯そうとするとき、男性は必ずキンタマが無防備になるんです。外に出さなければいけませんからね」
ヨウコの説明に、生徒たちはうなずいた。
「そのときが、女性の反撃するときです。下手に抵抗せず、油断させておいて、男がキンタマを晒したところを、グッと掴みとる!」
「がへっ!」
ヨウコの手につい力が入り、川上が悲鳴を上げた。 すでに川上の膝からは力が抜けてしまっていたが、キンタマを掴まれているため、しゃがみこむことも許されなかった。
「あ、ゴメンね。みんなは掴んだら、一気に、思い切り握りつぶして下さいね。握りつぶしてしまえば、その男は性犯罪をするどころではなくなってしまうはずですから」
「はい!」
生徒たちが元気よく返事すると、ヨウコは満足そうにうなずいて、川上のキンタマを解放してやった。 川上はその場に座り込み、今まで絞めつけられていたキンタマをおさえて、確認する。正直に、潰れたかと思うほどのヨウコの握力だった。
「じゃあ、もう一度みんなで言うわよ。男の急所はどこ?」
「キンタマです!」
ヨウコが尋ねると、女子達は申し合わせたように、声を合わせた。
「そう。襲われた時は、キンタマ潰せ! はい!」
「襲われた時は、キンタマ潰せ!」
もはや女子達には、当初の恥じらいなどは一切なく、男の決定的な弱点を発見したことで、自身に溢れた表情をしていた。
「はい、じゃあ、レッスンはこれで終わります。この後、実技を見てあげるから、希望者は残ってくださいね」
「はーい」
女の子たちの明るい声を聞いて、男性警官三人は、一斉に顔を上げた。
「せ、先輩…あの…実技って…」
山本が恐る恐る尋ねると、ヨウコは笑いながら言った。
「ああ、もうちょっとだけ、協力してくれる? やっぱり実際に蹴ってみないと、分からないと思うのよね。ちょっと休憩したから、大丈夫でしょ?」
「え! いや…その…」
ヨウコのほほ笑みと、女子中学生達の期待の眼差しに、山本はそれ以上何も言えなかった。 この後生徒たちのレッスンは、遅くまで続いた。
終わり。
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