大学で拳法部に所属しているナナミは、この夏、スポーツジムでのアルバイトを始めた。 小学生の女の子たちを対象にした、護身術レッスンの講師をするというものだった。
「自分の身は自分で守る! つよかわいい女の子になろう!」
というテーマで試験的に応募してみたところ、思ったよりも大きな反響があった。 ナナミは小柄で童顔な見かけによらず、実戦拳法の流派で黒帯を取得している。 その経歴をかわれて、レッスンの内容は一任されていたため、彼女はまず女の子たちに、金的蹴りを教えることにした。 とにかく男の最大の急所である金玉を正確に蹴り上げることができれば、女の子が身を守るには十分だし、どんな男でも金的蹴りで倒せるという自信がつけば、余裕を持って危険に対応できるはずだった。 今日のレッスンでも、初めて参加する女の子たちに、金的蹴りを教えていた。
「いいですかー。まずはみんなに、金的蹴りを覚えてもらいまーす。金的ってわかるかな?」
レッスンを受けるのは、小学校中学年から高学年の女の子たちが中心だった。 今日、初めて参加した子たちは首をかしげ、すでに何回かレッスンを受けている子たちは、ニヤニヤしながらその様子を見ている。
「はーい。そうだよね。あんまり聞かないよね。金的っていうのは、男の人のタマタマ。金玉のことです。覚えておいてね」
えー、という悲鳴にも似た歓声が、女の子たちから上がった。
「男の人は、金玉を蹴られると、痛くて動けなくなってしまいます。だからみんなは、まず金玉を蹴ることを覚えてくださいね」
「タマタマって、あの、アソコについてるヤツ?」
「そうだよぉ。知らないの?」
「男の急所なんだよ」
このレッスンには女の子しかいないので、遠慮なく話をすることができる。 女の子たちは最初こそ恥ずかしそうにしているが、本音は興味津々だった。 チンチンとタマタマといえば男の子のシンボルのようなもので、学校でもふざけて話したりはする。 プールの授業で着替えるときなど、何度か目にすることはあったが、なんだかピョコンとしたものが脚の間にくっついているようで、おかしかった。 自分たちの股間はすっきりと平らなのに、男子たちは邪魔じゃないのかな、と思っている子もいた。 しかしそれが、男の最大の急所だとは。 スポーツの珍プレーやおもしろ動画などで、男性が股間を打って悶絶する場面を見たことはあったが、それが本当に痛いのかどうか、半信半疑の子が多かった。
「じゃあ、練習するね。これを蹴ってみて」
ナナミはゴムボールの入った袋を取り出して、それを蹴るように女の子たちに指示した。 女の子たちは一列に並んで、蹴り始めた。
「えーい!」
「そーれ!」
かわいらしい掛け声とともに、女の子たちがゴムボールの入った袋を蹴り上げる。 ナナミは袋がちょうど男性の股間の高さくらいになるように調整していた。
「うん。いい感じだね」
「ホント? 痛いかな?」
「うん。これは一発で倒しちゃうね」
「わーい!」
女の子たちは楽しそうに練習している。 ナナミは普段から拳法部で金的蹴りの練習をしており、その指導も的確だった。
「いくよー。えい!」
女の子が蹴ると、袋はポーンと高く跳ね上がった。
「どうかな?」
「うん。いいよ。でもね、今のは足のスネのところで蹴ってたから、足の甲のところで蹴るようにすると、もっと痛いんだよ」
「そうなんだ。気絶しちゃうくらい、痛いの?」
「うん。男の人は、気絶するときもあるよ」
「えー! 先生は? 金玉を蹴って、気絶させたことある?」
「えーっとね、うん。何回かあるかなぁ。思いっきり蹴ったときにね」
「すごーい!」
女の子たちは目を輝かせてナナミの話を聞いていたが、もしこの場に男がいれば、顔をひきつらせ、無意識に内股になっていたかもしれない。 自分たちにはついていない金玉がどれほど痛かろうが、自分たちには一生関係がないという安心感が、彼女たちの顔に溢れていた。
女の子たちが何度か袋を蹴り上げた後、ナナミはレッスンルームの入り口に男性が立っていることに気がついた。 男性はTシャツにハーフスパッツの青い競泳水着を履いており、今、プールから上がってきたばかりなのか、髪が濡れている。
「あ、お疲れ様でーす。こちらへどうぞ」
ナナミは男性を招いた。 このスポーツジムはスイミングスクールも併設しており、護身術レッスンを開くにあたって、そこの男性講師に協力を依頼していたのだった。 やはり本物の男性の股間を蹴るのが、一番の練習になるというのがナナミの持論だった。
「よろしくお願いします」
男性は、20代くらいだろう。 水泳選手らしく、広い肩幅と厚い胸板を持っていた。Tシャツの下には、おそらくきれいに割れた腹筋もあるのだろう。 しかし女の子たちの興味は、その下。 ピッチりとした水着に包まれた、濡れてツヤツヤと光っている、股間の膨らみだった。 股間をめがけて蹴る練習をした後だけに、どうしてもそこに目が行ってしまう。
「初めてですよね? 内容は聞いてますか?」
男性はうなずいた。 女の子たちの金的蹴りの練習台になってほしいと聞いている。 いつものレッスン料に若干の手当てをつけるからということで、承諾したのだ。
「女の子たちに蹴ってもらうんですけど、何回くらいいけそうですか?」
ナナミは微笑みながら聞いた。 本来は一回だけと決まって決まっているのだが、この男性が来るのは今日が初めてだったので、ナナミはちょっと意地悪をしてみたくなったのだ。
「どうですかね。3、4回くらいは大丈夫なんじゃないですか」
「ホントですか? お願いします」
ナナミは自分の期待通りの答えを男性がしてくれたことに、心の中でほくそ笑んだ。 たかが小学生の女の子の蹴り。男はみんな、最初はそう思うのだ。
「じゃあ、まずはレナちゃん、やってみようか?」
ナナミは今日初めてレッスンに参加したレナを指名した。 レナははい、と元気よく答えて、男性の前に立った。 その股間の膨らみを、ドキドキしながら見つめた。 まさか、このたくましいお兄さんが、さきほど覚えたばかりの自分の金的蹴りで苦しむことになるとは、思ってもいなかった。
「えい!」
掛け声とともに、レナは金的蹴りをはなった。 やはり覚えたてで、スナップの聞いていない不器用な蹴りだったが、レナの足のスネの部分が、男性の股間の膨らみにめり込むのがしっかりと確認できた。
「うっ!?」
男性は、うめきながら顔をゆがめて、前のめりになった。 競泳水着のもっこりとした部分を、両手で押さえる。 重苦しい痛みがそこから沸き上がってきているのが、女の子たちにも理解できた。
「え? ホントに?」
レナの口から、正直な感想が漏れた。 金玉を蹴ったのは生まれて初めてだったし、自分でも、それほどうまくできたとは思えなかったからだ。 一方のナナミは、予想通りという表情で男性を見下ろしていた。
「大丈夫ですか?」
と、口では言いながらも、苦しむ男性を見て、ひそかに楽しんでいた。 さきほどまであんなに堂々としていた男性が、幼い女の子たちの前で、股間を押さえて苦しんでいる。 女の子たちもまた、びっくりしながらも、男性が苦しむ様子をおかしそうに見ているのだ。
「あの、続けられますか?」
男性は股間の二つの玉から沸き上がってくる痛みに顔をゆがめていた。 しかし、ナナミが声をかけると、思い出したかのように顔を上げ、体を起こした。 まるで金玉の痛みなど大したことないかのように、胸を張ろうとする。 そんな姿も、ナナミはおかしくてしょうがなかった。 女の子たちの前であんな醜態をさらしておいて、まだ男のプライドを保とうとするのだろうか。 ナナミは今まで何度も金玉を蹴られた男を見てきたが、みんな似たような反応をするものだと改めて感じた。
「だ、大丈夫ですよ。このくらい…」
男性の額には汗が浮かんでいた。 ナナミは内心おかしかったが、気づかないふりをしていた。
「そうですか。じゃあ次は、マリアちゃん、やってみる?」
「はい!」
名前を呼ばれたマリアは、嬉しそうに返事をした。 彼女はすでに何回かこのレッスンを受けていて、金的蹴りに関しては十分に使えるとナナミは思っていた。 さらにマリアはダンススクールにも通っているということで、体が柔らかく、脚を上げることも上手かった。 ナナミは競泳水着の男性が苦しみ、耐えがたい男の痛みに顔をゆがませるのが見たくて、あえて彼女を指名したのだった。
「ねえ、先生」
男性の前に立つ前に、マリアはナナミに耳打ちした。
「先生みたいに、気絶させてもいい?」
さきほどのナナミの話を聞いて、興味が湧いてしまったらしかった。 ナナミはさすがに首を横に振った。
「ダメだよ。思い切り蹴らないでね?」
「はーい」
マリアはちょっと不満そうにして、あらためて男性の前に立った。 男性は、さきほどの痛みがまだ残っているのか、すこし呼吸を荒くしながら、自分の股間に狙いを定めるマリアを見た。
「いくよー! えい!」
マリアは半分笑っていたが、その蹴りは見事なものだった。 ナナミに言われた通り、多少は手加減したが、しなりのきいたムチのような金的蹴りをはなった。 この子は才能があると、ナナミは感じた。 というのも、蹴られる瞬間、さきほどの痛みの記憶からか、男性は腰を引いて避けようとした。しかしマリアはそれに合わせて脚を伸ばし、正確に足の甲で男性の膨らみをとらえたのだ。 さらに当たる瞬間、クイっと足首をまげて、金玉袋を後ろから持ち上げるようにして足を引いたのである。 女の子だけができる、ちょっと意地悪な小技だった。
「はうっ!!」
しかしもちろん、男性のダメージは絶大だった。 今度の痛みは我慢するどころではなく、男性はすぐさま股間をおさえて、うずくまってしまう。
「やったぁ!」
マリアは無邪気に喜んでいた。 練習はしていたが、まさか本当に男の人を一発で倒せるとは、思ってはいなかったのだ。
「はーい。よくできましたね。みんな、よく分かったでしょ。男の人は、金玉がすごい急所なんだよ。ちゃんと当てれば、女の子でも簡単に男の人をやっつけられるからね。しっかり練習しようね」
ナナミはうずくまる男性をよそに、女の子たちに教えてあげた。 今まで金的蹴りの威力を知らなかった女の子たちも、股間をおさえて苦しそうにしている男性を見下ろして、その効果を実感した。
「先生、わたしも蹴りたい」
「わたしも!」
女の子たちは次々に手を挙げた。
「えー? うーんと、どうしようかなぁ。すいません、大丈夫ですか? 3、4回くらいはいけるって言ってましたけど…」
ナナミはもちろん、男性のダメージの大きさを十分に把握していたが、意地悪く尋ねてみた。 股間を蹴られた男性は、正座するような姿勢で前かがみになり、いまだに立ち上がることさえできずにいる。 その額には大粒の汗が浮かんでいた。
「いや…その…ちょっと、当たり所が悪かったみたいで…」
そう言い訳するのが、精いっぱいだった。 ナナミはすべてお見通しという風に、にこやかにうなずいた。
「そうですよねー。みんな、今日はもうダメだって。金玉を蹴られると、男の人はすぐには立ち直れないんだよ。勉強になったね。あ、それから、家に帰って、お兄ちゃんや弟の金玉を蹴ったらダメだよ。男の子はすっごい苦しいんだからね」
「はーい!」
女の子たちは元気よく返事をしたが、ナナミには、きっと何人かの男の子たちが苦しむことになるだろうと思った。
ところが、男の子たちが苦しむ場面は、意外に早く訪れた。 ナナミの護身術レッスンの後、女の子たちはスイミングのコースにも参加するのだが、この日は男女対抗のレースが行われた。 このレースで、なんと女の子たちが圧勝してしまったのである。
「イエーイ! 女子の勝ちー!」
「楽勝だったねー! 男子、遅いんだもん」
女の子たちは調子に乗り、からかうように騒ぎ合った。 男の子たちは悔しそうにそれを見ている。 彼らの競泳水着の股間では、男のシンボルがしっかりと膨らんでいる。 男のプライドが、女に負けることなど許さないようだった。
「うるっせえよ! 男が本気出せばな、女なんか!」
「そうだぜ! 俺らが本気出せば、お前らなんか簡単に泣かせるんだからな!」
男の子たちは生意気な女の子たちを黙らせようと、いまにも暴力に訴えそうな気配を見せた。 しかし、女の子たちはそのくらいではひるまなかった。
「ふーん。いつでも本気出していいんだよ、別に」
「本気出しても女子には勝てないと思うよー。男の子はね」
ナナミのレッスンを受けた女の子たちは、顔を見合わせて笑った。 金的蹴りを覚えたことで、彼女たちの心には男への自信のようなものが生まれていたらしい。 そんな女の子たちの不遜な態度に、男の子たちは痺れを切らして、掴みかかっていった。 男の強さを身を持って味わわせてやろうというわけだ。 しかし、
「やめてよ!」
女の子たちは軽やかに身をかわすと、すかさず男の子の股間に、覚えたての金的蹴りを叩き込んでいった。
「あうっ!!」
「はわっ!!」
ナナミはちょうど、プールサイドにあるガラス張りの事務室で書類を書いていたのだが、そこからこの騒動の一部始終がよく見えた。 ナナミが思わずうなってしまうくらい、女の子たちの蹴りはしなやかで、的確だった。 競泳水着に包まれた、男の子たちの大切なもっこりの部分が、蹴られてひしゃげてしまうのがよく見えた。
「あれはきくだろうなー」
と、他人事ながら男の子たちを気の毒に思った。
「え? あれ、どうしたんですか?」
と、驚いたのは、さきほど護身術レッスンで金玉を蹴られた男性だった。
「あー、いや、なんか、女の子たちが蹴っちゃったみたいですね。男の子たちのタマタマを…」
ナナミは笑いをこらえながら、できるだけ神妙な顔で言った。
「タマ…」
男性はさきほどの痛みがよみがえってきたのか、まさしく金玉の縮み上がる思いがして、思わず股間に手を当ててしまった。 ナナミはその様子にプッと吹き出すと、書類を出して、そそくさと部屋を出た。 プールサイドの向こうでは、女の子たちが楽しそうに笑い合っていた。
「もー、男子ってば、弱ーい。ケンカでも女の子に負けちゃうの?」
「金玉蹴ったらホントに痛くて動けなくなるんだね。面白―い」
「これからは、女の子に乱暴しないでよ。また金玉蹴るからね!」
女の子たちが引き上げた後、男の子たちが苦しそうに股間をおさえ、プールサイドに転がっていた。
終わり。
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