とある高校の放課後。 教室に残っているのは、金子タツヤと板木キョウヘイの二人だけだった。 二人はサッカー部に所属していたが、この日は雨で練習が中止になった。時間を持て余した彼らは、教室に残って他愛のない話をしていたのである。
「そういや、知ってるか? 吉岡のヤツ、援交してるらしいぜ」
突然、タツヤが驚くべきことを口走った。
「え? 吉岡って、このクラスのか? ヤバイな…」
「ああ。俺の中学の友達が言ってたんだよ。ウチの制服着た女が、サラリーマンのオッサンとホテルに入ってくの見たってさ」
「マジかよ…。それ、ホントに吉岡なのか?」
「ああ。俺、吉岡の写真、そいつに見せたんだよ。そしたら間違いないってよ」
「うええ。ヤバイな…」
二人が話しているのは、同じクラスの吉岡ハヅキという女子のことだった。 ハヅキは学年でも1、2を争う美人で、スタイルもよく、とても高校生徒は思えない色気があった。 しかし彼女はいわゆる問題児で、髪の毛は茶色に染め、制服はだらしなく着崩し、スカートは常にギリギリまで短くしていた。 朝の一限目から学校に来ていることは稀で、欠席も多く、教師からは常に目をつけられていた。 このままでは近いうちに学校を辞めるだろうと、クラス中が思っていたが、かといって彼女に話しかけるような友達もいないようだった。
「まあ、吉岡ならやってそうだと思ったけどなあ。アイツ、月曜日はだいたい休むだろ? どっかのオッサンとホテルに泊まってるんだよ、きっと」
タツヤは机に腰かけながら、腕組みしてつぶやいた。 クラスメイトの秘密を握ってやったという優越感が、そこにはあった。
「マジでヤバイな…。相手はサラリーマンかよ」
タツヤの向いに座ったキョウヘイは、しきりと「ヤバイ」を繰り返している。 事実、援助交際をしていることがバレれば、ハヅキが学校を退学になることは間違いなかった。
「その時はな。まあ金さえ払えば、誰にでもやらせるんだろ。アイツ、見るからにヤリマンだからな。あれだけの美人でさ。たまんねえだろうなあ」
ハヅキが援助交際でセックスしているところを、タツヤはその頭の中にありありと描いているようだった。どうやらすでに、この想像は何度か経験済みらしい。
「まあ、確かにあの胸はデカいよなあ。あれじゃあ、いい年したオッサンだって…ん?」
キョウヘイの目の端に、教室に入ってくる人影が見えた。 ちょうどタツヤの体に隠れて見えなかったが、どうやら女子の生徒らしいことだけ分かった。
「だよなあ。吉岡のあの胸は一回揉んでみたいよなあ。超デカいぜ。あと、アイツのパンツ見たことあるか? アイツ、いつもスカート超短いだろ?」
タツヤは興奮した様子で話し続けるが、キョウヘイはその陰に隠れた人影の方が気になった。 タツヤは全く気がついていない様子だったが、直観的にまずいと感じていたのだ。
「あ…! おい、ヤバイぞ!」
小声でそう促したが、タツヤには通じなかった。
「ああ。マジでヤバイよな、あのスカート。俺が見たときは、黒いパンツだったんだぜ。黒とか、超エロいよな」
「ヤバイって!」
必死に目で振り向くように合図したが、タツヤはそれすら目に入らなかった。
「マジでヤバイ。アイツ、援交でいくら稼いでるんだろうなあ。俺もやりたくなってきたなあ」
「何で知ってんの?」
不意に、背後から女の子の声が聞こえてきた。 自らの言葉に興奮してしまっていたタツヤは、ハッと我に返って振り向くと、今まで話していた噂の張本人、吉岡ハヅキがそこに立っていた。
「あ…! よ、吉岡…!」
さすがに驚いて、タツヤは座っていた机から落ちそうになった。 先程から気づいていたキョウヘイは、苦い顔をして、下を向いてしまう。
「何で知ってんの? 私のこと」
ハヅキの顔は、冷静そのものだった。 というよりも、ハヅキはこの顔以外、クラスメイトに見せたことはなかったかもしれない。 教師に叱られようが、クラスメイトから無視されようが、いつも無表情で、何かあってもニコリともしなかったのだ。 それはクールとか無口だとかいうよりも、タツヤや他のクラスメイトから見れば、自分たちを子供だと思ってバカにしているような、そんな大人びた冷静さだった。
「い、いや…別に…。何のことだよ?」
「だから、何で私のこと知ってるのって。援交のこと」
ハヅキ自身の口からはっきりとその言葉が出たから、タツヤたちは焦ってしまった。 ハヅキの方がむしろ淡々とした口調で重ねる。
「誰かに聞いた? 誰にも話してないつもりだったけど」
「あ、いや…まあ、その…」
キョウヘイは口ごもって、タツヤの顔を見た。 タツヤもばつが悪そうにしていたが、やがてためらいがちに話した。
「見てたらしいぜ。俺の知り合いがさ。吉岡が、その…ホテルに入るところを…」
「ホテル? それって、いつの話?」
「え? 聞いたのは、先週だけどな」
それを聞いて、ハヅキは何か思い出すように目線をそらした。 どうやら心当たりがあるようだった。
「…やっぱり、ホントなのか…?」
すっかり黙り込んでしまったキョウヘイと比べると、タツヤの方は好奇心を抑えきれない様子だった。恐る恐る、ハヅキに尋ねる。
「…まあね。そうかもよ」
わずかな沈黙の後、意味深な返答をする。 その顔がいつにも増して妖艶に見えたのは、タツヤとキョウヘイがすでに一人の女を見る目で、ハヅキを見ていたからかもしれない。
「へ、へー。 やっぱり、そうなのか。ハハ…すげえな」
「ホント…。ヤバイな」
二人は、自分が泥棒だと堂々と告白する人に出会ったような、ちょっと気を呑まれた様子だった。
「それで? ホントだったら、どうするの? 誰かに言いふらす? それとももう、言いふらしてるか」
先手を打たれて、タツヤはギクッとした。 まさしくそれを考えないでもなかったが、それはあくまで噂話としてのことで、ハヅキの援助交際が事実と分かった以上、逆に軽はずみなことは言えないような気がしてきた。 むしろこれを秘密のまま利用することはできないかと、タツヤは考え始めていたのだ。
「いや、まあ…そんなことしたら、吉岡が退学になっちまうかもしれないだろ? クラスメイトが退学になるってのは、まずいなって思うよ。だから別に、言いふらすとかは…な」
ハヅキは無言のまま、ちょっと小首を傾げた。 何か言いたいなら、はっきりと言え。そんな風に思えるジェスチャーだった。
「だからこれは、俺たちだけの秘密ってことで、いいんじゃないか。なあ?」
「あ? ああ…」
キョウヘイを振り向くと、彼はタツヤの意図が分からずに、適当にうなずいていた。
「…そう。ありがとう」
そう言いながら、ハヅキの表情は不遜だった。
「それで、私は何をすればいいの?」
タツヤが待ちに待っていたであろうセリフを、すべてお見通しの上で言ってやる。 確かにハヅキから見れば、タツヤなどは子供っぽい存在に思えたかもしれない。 くだらない駆け引きで時間を潰すつもりはないようだった。
「い、いやあ。何って。別に、そんな…」
「パンツでも見せようか? アンタが好きな黒じゃないけど。ほら」
ハヅキは無造作に、自分でスカートをめくって見せた。 短すぎるそのスカートの下から、薄いピンク色の下着が顔を出した。
「写真撮ってもいいよ。ほら。アンタも。好きなポーズ言ってよ。お尻でも何でも見せてあげるから」
そこに恥じらいなどは微塵もなく、むしろタツヤとキョウヘイを小馬鹿にしたような様子だった。 「男はこんなもので興奮するんだろ」というハヅキの心の声が聞こえてきそうだったが、そうと分かっていても、女子高生の下着姿から、男子高校生が目をそらせるはずがなかった。 レース地の下着は、ハヅキの股間に鋭角に食い込んでいて、タツヤたちが思っているよりも、その面積はずっと小さかった。 グラビアやネットなどで見慣れているはずが、目の前にするとこんなにも違うものかと、二人の鼻息は荒くなっていった。
「い、いや…。そういうことじゃないって。そんなんされても、なあ? 困るっていうか…」
「う、うん…。まあ、ヤバイな…」
「…じゃあ、こうしようか。今日帰ったら、私の裸の写真を送ってあげるよ。顔は出さないけど、体だけ。何枚か送るから、ライン教えて」
それでオナニーでもしてろ、と言わんばかりの態度に、さすがにタツヤはプライドを傷つけられたような気がした。
「そ、そういうことよりもよ。お前その…いくらなんだよ?」
「え?」
「い、いくらでやってんだよ。その、援交を…」
ハヅキの表情が一瞬、固くなったように、キョウヘイは感じた。 しかしタツヤは相当な思い切りで言ったらしく、ハヅキが返事の代わりにその目を見据えても、動じる気配は無い。
「お、俺とやれよ。いくらか知らねえけど、秘密にしといてやるかわりにさ…」
重苦しい沈黙が流れた。 興奮したタツヤの息遣いだけが、教室に響いているような気がした。
「…1万」
「え?」
「口だけだったら1万。セックスなら3万。生で入れるんだったら、5万もらうよ」
あまりにも毅然としたハヅキの態度に、タツヤはつい呆然としてしまった。 それはキョウヘイも同じで、自分と同じクラスの生徒がこんなことを平然と言ってのけるとは、今まで思ってもみなかったのだ。
「どうすんの?」
二人の心中を見抜いているのか。ハヅキは憮然とした表情で重ねた。
「あ、ああ…。じゃあ、まあ…その…3万のヤツで…」
「セックスってこと?」
タツヤはためらいがちにうなずいた。ゴクリと唾を呑みこむ音が、隣にいるキョウヘイの耳にも聞こえた。 ハヅキは黙ってその顔を見つめていた。その目には敵意か、蔑んだような冷たさが見えた。
「いいよ。じゃあ、やろっか」
いとも簡単に、ハヅキはうなずいてしまった。 タツヤたちが呆気にとられている間に、さっさと着ていたセーターを脱ごうとする。
「え? こ、ここでかよ?」
「そうだよ。誰も来ないし。まとめてやらせてよ。サービスなんだから」
放課後に教室に残っていたら、クラスメイトの女の子と3Pすることになった。 アダルトビデオのタイトルのような状況が、二人の目の前に突然現れた。 実のところ、タツヤもキョウヘイも恋人がいたことはなく、童貞だったから、この突然すぎるチャンスに戸惑うしかなかった。
「アンタ、ゴム持ってる?」
「え? い、いや…」
「そっか。じゃあ、アタシの使うね。ズボン脱いで」
「あ、ああ…」
二人は言われるままに、ベルトを緩めてズボンをずり下げた。 学校の教室で、しかもいきなり3人でという若干のためらいはあったが、若い二人はこのチャンスを逃したくないという気持ちの方が強かった。 二人がズボンを足首までおろすと、すでにそれぞれのトランクスの前は大きく盛り上がっていた。
「ふうん。もう勃ってんじゃん。口で一回抜いてあげようか?」
タツヤとキョウヘイは鼻息を荒くしながら、無言でうなずいた。 ハヅキは無言のまま、男たちに近寄るように手招きした。
「じゃあ、こっちからね」
盛り上がったトランクスの頂点に、そっと手をかけると、思わずタツヤはビクッと体を震わせた。 初めて、ハヅキが小さく笑ったように見えた。 しかしハヅキは、勃起しきったタツヤのペニスには手を触れず、その下、キュッと縮まった金玉袋の方に手をかける。
「う…はぁ…」
タツヤが思わず快感に身をよじり目をつぶった時、隣でキョウヘイがうっと呻くのが聞こえた。
「あ…かぁっ…!」
それは快感を感じての呻きではなかった。 タツヤが目を開けると、隣に立っていたはずのキョウヘイが、その場にうずくまってしまっている。 そして正面にいるハヅキを見た瞬間。
「ぎゃあぁぁっ!!」
下半身に激痛が広がってきた。 ハヅキの右手が、無防備なタツヤの金玉を捻り上げたのである。 その前、キョウヘイはハヅキからいきなり膝で金蹴りをくらい、その場に座り込んでしまっていたのだ。
「たまにいるんだよね。ケチ臭いオヤジがさ」
ハヅキの手は、トランクス越しにタツヤの股間にしっかりと食い込んでいた。 それは握力にすれば20キロかそこらのものだったろうが、男の金玉にとって、それは絶望的な圧力だった。
「直前で値切ってきたり、終わった後、金払わなかったり。そういうヤツには、私は毎回こう言ってる。アンタ、キンタマついてんのってね」
「あ…あぁ…! 離せ…!」
タツヤは必死に腰を引いたり、ハヅキの手首を掴んだりするが、金玉を掴まれた男の体には、普段の力強さはまったくなかった。
「離してほしいの? 離してあげようか?」
いたぶる様な質問だったが、タツヤには選択肢はなかった。 歯を食いしばりながら、全力で首を縦に振った。
「じゃあ、離してあげる」
言葉通り、ハヅキはタツヤの金玉から手を離した。 しかしその離し際、タツヤがまだうずくまってしまわないうちに、先程キョウヘイに打ち込んだのと同じ膝による金蹴りを繰り出した。 高校指定の紺のソックス。ハヅキはそれとは微妙に違う、ニーハイソックスに近いものを履いていたのだが、ちょうどその一番上の部分で、タツヤの金玉は二つとも押しつぶされた。
「ぎゃあっ!!」
強烈な衝撃にタツヤは踵を浮かし、そのまま前のめりに崩れ落ちてしまった。
「く…あぁぁ…」
腰から下が溶けてしまったかのように、力が入らない。それでいて、鈍器で殴られるような痛みだけは、とどまることなく股間から発し続けられる。男が男であることを心から後悔する時間だった。
「うう…」
「ああ…」
ハヅキの目の前で、二人の男子たちは無様にうずくまり、呻き続けた。 体の他の場所を蹴られた時には、どんなに痛くても、徐々にその痛みが薄れていくことが分かる。 しかし金玉だけは、その感覚がまったくないのだ。 蹴られた直後の痛みより、むしろその後に訪れる疼くような鈍痛の方がつらい。そしてそれは、いつ終わるともしれず、場合によっては数十分も続いてしまうのだった。
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