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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。

「音、するよ。だって、テレビでやってたもん」

「ウソ。そんな音しないよ」

「えー。だってぇ…」

4年生のハルカとユウナが、何やら話し合っていた。
ハルカは音がするといい、ユウナはしないという。
何の話をしているのか、側を通りかかった男性教師の井口が、声をかけた。

「君たち、何の話をしてるの?」

井口は二人の担任ではなかったが、メガネをかけた優しそうな雰囲気は、クラスを問わず人気があった。

「あ、先生。聞いて。ユウナちゃんが、わたしはウソつきだって言うの」

「だって、ウソついてるんだもん。ウソつきとは言ってないよ」

「ウソ! 言ったよお」

「言ってない! ウソつかないでよ、ハルカちゃん!」

「ほら、また言った! ユウナちゃんの方が、ウソつきじゃない」

「それはだって、ハルカちゃんが…!」

子供のケンカは、ときに収拾がつかなくなる。
井口は、会話に入ったことを少し後悔したが、このまま放っておくわけにもいかなかった。

「はいはい。分かったから。二人とも、ちょっと待って」

先生の言葉に、ハルカとユウナは渋々口を閉じた。

「ハルカちゃんもユウナちゃんも、ウソつきじゃないってことは、先生がよく知ってるから、大丈夫。もともとの話は、何だったの? 何の話でケンカになったの?」

「それは…」

「別に…」

二人はとりあえず落ち着いたようだったが、井口の問いかけには、口ごもった。
すると突然、何かに気がついたように、ハルカが顔を上げた。

「先生! わたしがウソつきじゃないってこと、証明してみてもいい?」

「ん? 証明って…」

「先生が協力してくれれば、証明できると思うから。お願い、先生!」

井口にとっては、まったく意味の分からないことだったが、生徒がウソつきでないことを証明したいとなれば、協力しないわけにはいかなかった。

「うん。先生でよければ、手伝うよ。ユウナちゃんも、それでいいかな?」

「別にいいけど…。先生がよければ」

ユウナは意味ありげにつぶやいた。

「じゃあね、先生。ハルカと手をつないで」

ユウナの言葉は気になったが、完全にその気になっているハルカに、井口は両手をあずけてしまった。
二人は両手をつないで、向かい合った状態になる。

「はい。これでいい? それで、ハルカちゃん。何を話してたの?」

「あのね。キーンって音がするかどうかってことなの。蹴った時に」

「え? キーンって音?」

その言葉に、一抹の不安が頭をよぎった時には、すでに遅かった。
ハルカの右足が、井口の股間めがけて振り上げられ、その小さな足の甲が柔らかい塊を跳ねたとき、井口の頭の中には、何かが弾けるような音が響いた。

「はうっ!」

思わず井口は、つないでいたハルカの両手を、強く握りしめた。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに全身の力が抜けて、その場に膝をついてしまう。
痺れるような鈍痛が、井口の下腹部から湧き上がってきた。

「音、した? キーンって」

「してないよ。だから、キンタマ蹴っても、そんな音しないって言ったじゃん」

振り向いたハルカに、ユウナがそれ見たことかと言い放った。

「だって、テレビではしてたんだもん。蹴ったらキーンって音がするから、キンタマっていうんじゃないの?」

ハルカは本気でそう信じていたようで、さも残念そうだった。

「違うよ。キンタマのキンは、金色の金だよ。金でできた玉が入ってるから、キンタマっていうんだよ」

「えー。そうなの? 違うよね、先生? キーンって音がするから、キンタマなんだよね?」

ハルカは、井口の両手を握ったままだった。
その手には力がまったく入っておらず、ブルブルと震えている。
井口は、突然自分の急所を蹴り上げたハルカを、大声で怒鳴りたい気持ちだったが、股間から湧き上がってくる痛みに耐えるのに精いっぱいだった。

「あれえ? 先生、大丈夫? 痛かった?」

ハルカは、ようやく井口の痛みが尋常でないことに気がついたようで、自らノックアウトした相手を、顔を覗き込んで心配した。

「う、うん…ちょっとね…」

井口はようやく、それだけ言うことができた。

「ほらあ、ユウナちゃん。先生、痛いみたいだよ。キンタマが金でできてるなら、すごい硬いはずでしょ? こんなに痛がるはずないじゃん」

ハルカが言うと、ユウナも少しむくれた様子で返した。

「えー? だって、キンタマは大事なトコロっていうもん。大事ってことは、金でできてるんじゃないの?」

「違うよ。やっぱり、キーンって音がするから、キンタマなんだって。今のはさ、蹴り方が悪くて、小っちゃい音しかしなかったんだよ。だから、ちょっとしか痛くないんだよね、先生?」

ちょっと痛い、と言った意味を、ハルカは自分流に解釈してしまったようだった。
しかし、股間に睾丸のぶら下がっていない、金玉の痛みを一生知ることのない女の子たちの無邪気な勘違いを、否定する気力は今の井口にはない。

「じゃあ、色が金色ってだけなのかなあ。でも、それじゃあ別に大事なトコロじゃないよね。ただ、蹴られたら痛いだけだもん。いらないトコロじゃない?」

「だからあ。蹴り方がダメだったんだってば。もう一回、他の男子のを蹴ってみようよ。絶対、キーンって音がするって」

「うーん。じゃあさ、クラスの男子の誰かを呼び出して…」

ハルカとユウナは、痛みに苦しむ井口のことなどすでに眼中にない様子で、次に金玉を蹴る男子を誰にするか、話し合い始めた。

「次はさ、キンタマの色も見てみようよ。わたし、ちゃんと見たことないんだ。だから、体育倉庫とかに呼び出して…」

「うん、そうしよう。ショウタあたりがいいかなあ。アイツ、呼び出したら、すぐ来そうじゃない?」

「そうだね。次こそ絶対、うまく蹴りたいなあ。あ、先生、ありがとうね。わたしたち、もう行くね」

「また今度、蹴らせてもらおう。じゃあね」

ハルカとユウナは、新しい遊びでも見つけたかのように、わくわくした表情で立ち去って行った。
これから、一体何人の男子生徒が、彼女たちの犠牲になるのか。井口はそれが恐ろしかったが、かといって、彼女たちを止める元気もなかった。




放課後の、人気のない体育倉庫。
こんな場所に、人目を気にするようにしてショウタがやってきたのは、同じクラスのユウナに呼び出されたからだった。

「ねえ、ショウタ。ちょっと話があるんだけど。後で、体育倉庫に来てくれない?」

休み時間が終わろうとする間際、突然、ユウナがそんなことを言ってきたのだ。

「え? 何だよ。何の話?」

「大事な話。ハルカちゃんがアンタに…ていうか、来れば分かるから。一人で来て。お願いね」

それだけ言って、ユウナは立ち去ってしまった。
実際、こんなことを言われれば、十中八九、男子は女の子からの告白だろうと思ってしまう。
ショウタもそのつもりで、しかし、そんなことは表情には出さずに、そわそわした気持ちで、体育倉庫を訪れたのだった。

「ショウタ。こっち、こっち」

体育倉庫の側によると、扉の隙間から、ユウナの顔が覗いた。
どうやら、すでに中でショウタが来るのを待っていたらしい。
ショウタは無言のままうなずいて、体育倉庫の中に入った。
中に入ると、薄暗い蛍光灯の光の下に、ボールのいっぱい入ったかごや跳び箱、体操用のマットなどが、所狭しと並んでいた。

「一人で来た?」

「あ、うん…」

奇妙な緊張感が漂い、ショウタはいつもとは違う、落ち着かない様子だった。

「ちょっと待ってて。今、ハルカちゃんが来ると思うから。緊張してる?」

そう言ったユウナの方も、少し緊張しているようで、やはりどこか落ち着かない雰囲気だった。

「は、はあ? 別に、緊張とかしてねえし。ていうか、何の話なんだよ。俺、別にハルカとあんまり話したことねえし…。どっちかっていうと…その…ユウナの方が…」

薄暗い密室で、二人きりになってしまうという突然の状況に、ショウタはずいぶん戸惑っているようだった。
ハルカが自分に告白をしにくるものだと勘違いして、自分の中で勝手に話を進めてしまっている。

「あ、そうだ! ショウタってさ、空手習ってるんでしょ? ちょっと教えてよ」

ショウタの気持ちを知ってか知らずか、ユウナは突然、そんなことを言い出した。

「はあ? いや、うん。習ってるけど…」

「でしょ? ねえ、空手ってどうやるの? こうやって構えるの?」

ユウナは不器用な様子で、空手の正拳突きらしきポーズをとった。
ショウタは戸惑いつつも、これはいいところを見せるチャンスだと思った。

「え? いや、違うよ。もっと腰を落としてさ。足を開いて」

「こう?」

「うん、そうだな。それで、手を腰に当てて」

「こうやるんだ。えい!」

ユウナの不器用な正拳突きに、ショウタは思わず吹き出してしまった。

「えー? 違うの? ねえ、ちょっとやって見せてよ」

「え? しょうがねえなあ」

運動の苦手な女の子に手ほどきするというのは、男の愉悦の一つである。
それは、自分の肉体の躍動を見せつけて、雄を感じさせる行為だ。
小学生とはいえ、ショウタにもその男の本能は芽吹いていた。嫌々ながらというフリをして、得意の空手の構えをとるのだった。

「こうやって、グッと腰を落とすだろ。これが大事なんだよ。それで、腹に力を入れて、拳を前に出すんだ。やあっ!」

ショウタが気合と共に、拳を突き出した瞬間、背後の跳び箱の陰から、突然ハルカが現れた。
そして無言のまま、大きく広げられたショウタの股間に、狙いすました蹴りを浴びせた。

バシン!

と、ショウタの股間に衝撃が走った。
ショウタは一瞬、何が起こったのか分からなかったが、沈めた腰が浮くほどのその衝撃は、男の本能的な警報を脳内に響かせるのに、十分すぎるものだった。

「はっ…うっ…!!」

背後を振り返る余裕もなく、あっという間に、ショウタの体は前のめりに崩れ落ちた。
震えるような鋭い痛みが、まず脳天に突き抜けて、その後で、下腹部をねじられるような鈍痛が、じわりじわりと襲ってくる。
その時にはすでに、ショウタの体は床の上で海老のように丸くなってしまっていたが、本人はそんなことに気がつく余裕もなかった。

「音、した?」

「ううん。してない。バシンっていったよ」

ショウタを呼び出して、油断させ、足を開かせて、ベストな状態で蹴り上げる。
すべてがハルカとユウナの計画通りに行ったが、金玉を蹴ったときの音だけが、ハルカの予想と違っていた。

「ウソぉ。今のは、すっごい手ごたえがあったのに。なんで、キーンって音がしないの?」

「だから、そんな音しないって言ってるじゃない。もう、ハルカちゃんは頑固なんだから。ねえ、ショウタ。キンタマは金でできてるから、キンタマっていうんだよね?」

ユウナの問いかけにも、ショウタはまったく気がつかない様子だった。
顔を覗き込むと、これでもかというくらいに歯を食いしばり、目をつぶって、小刻みに震えている。
男だけが味わう最も苦しい痛みと、懸命に闘っている最中なのだ。

「ねえ、すっごい痛がってるよ。そんなに痛いのかなあ?」

「うん。だって、思いっきり蹴ったもん。井口先生のときの倍くらい」

「あー、そっかあ。じゃあ、痛いだろうねえ。ねえ、ショウタ、大丈夫?」

ほとんど止まっていたショウタの呼吸が、ようやく回復したようだった。
全身を強張らせながら、細く長く、息を吐き出している。思い切り呼吸してしまえば、それだけでも股間の痛みが増しそうだったのだ。

「あーん。でも、思いっきり蹴っても、キーンって音がしないんだあ。何でかなあ。やっぱり、テレビで見たのはウソだったのかなあ」

「そうだよ。だって、テレビだもん。でもさ、そのテレビでは、どうやってたの? やっぱり、蹴っとばしてたの?」

内臓を掻き回されるような、絶望的な痛みに耐えている横で、その痛みを与えた女の子たちが、無邪気に話をしている。
その理不尽さと、金玉を持たない女の子の残酷さを、ショウタは文字通り痛感していた。

「うーんとね…。その時は、女の人が後ろから蹴ってたのかなあ。こうやって。潰れろーって。…あれ? そうだ! そうだよ」

「どうしたの?」

「その女の人ね、潰れろーって言ってた。だから、そうなんだよ。潰れないとダメなんだよ! 潰れたときに、キーンって音がするんじゃない?」

痛みに震えるショウタの背筋が寒くなるようなことを、ハルカが口走った。
今、彼が両手で必死におさえている二つの睾丸は、どうやら潰れるまでには至っていないらしい。しかし逆に言えば、潰れなくてもこれほど痛いのに、もし本当に潰れてしまえば、どうなるのか。
想像もしたくないような地獄の苦しみが、ショウタの背後まで迫ってきていた。

「えー。そうなの? キンタマって、そんなに簡単に潰れちゃうのかなあ。金でできてるのに」

「それは、ユウナちゃんがそう言ってるだけじゃない。ていうか、今、ショウタのを蹴った時も、全然硬い感じしなかったよ。ふにゃっとして、柔らかい感じだったもん」

「ホントに? でも、キンタマは漢字で書くと、金色の玉なんだよ。金じゃないのに金玉って、おかしくない?」

「それはそうだけど…。でもさ、金魚だって金色じゃないのに、金魚だよ。それと一緒なんだよ」

「あー、そっかあ。そうなのかなあ」

女の子たちが他愛もない会話をしている間、ショウタは必死でこの場から逃れようとしていた。
まだ股間の痛みは重く、立ち上がれる状態ではなかったが、なんとか逃げ出さないと、下手をすれば金玉を潰されてしまうかもしれないのだ。
股間を両手でおさえながら、這いずるようにして、扉の方へ向かった。




「あ、ショウタ。まだだよ。ちょっと待って」

芋虫のように這いずるショウタの前に、ハルカが立ちはだかった。
その何気ない様子が、ショウタにとっては逆に恐怖だった。

「ねえ、ショウタ。キンタマが潰れたら、キーンって音がするんでしょ? そうでしょ?」

ハルカは、背中を丸めて苦しむショウタをまたいで、見下ろした。
息が詰まるような痛みの中で、ショウタは返事をする。

「ち、違うよ…。そんな音…しない…」

「ウソ。絶対するよ。しないと、おかしいじゃん」

「おかしいって…。そんなこと言われても…」

すると、今度はユウナが、ショウタの顔の近くにしゃがみこんで聞いた。

「じゃあさ、キンタマって何色なの? やっぱり、金色なんでしょ?」

「いや…金色っていうか…。肌色…だよ…」

実は密かに想いを寄せていたユウナの口から、キンタマという単語が出て、しかもその色に興味を持っていることを知った時、ショウタはさすがに恥ずかしくなってしまった。

「ウソ―。金色じゃないの? なんで? どうして?」

「なんでっていうか…」

「ていうか、ちょっと見てみようよ。ズボン脱がせよう。もともと、そのつもりでここに呼び出したんだし。ちょっと手、どけてね」

そう言うと、ハルカは有無を言わせずに、ショウタの両手を掴んで、股間から離してしまった。

「あ! おい、やめろって…」

必死に抵抗しようとするが、まだショウタの体には力が入らなかった。
そして、頭上に回り込んだユウナが、ショウタの両手をハルカから受け取った。

「いいじゃん、キンタマ見せてよ。お願い」

ユウナにそう言われると、恥ずかしいような情けないような気持ちになり、ショウタは抵抗する気力を失ってしまった。
しかし、ハルカの方はそんな微妙な気持ちを理解するはずもなく、問答無用とばかりに、ショウタのズボンとパンツを、一気にずりおろしてしまった。

「よいしょっと。あー。ほら、やっぱり。金色じゃないじゃん、ユウナちゃん」

「えー、ホント? あ、ホントだあ。肌色だね」

クラスの女の子二人が、自分の股間に注目している。
そんな異常な状況に、ショウタは顔を赤らめることしかできなかった。

「てことは、やっぱり潰れたらキーンっていうから、キンタマなんだよ、きっと。金色ってことじゃないんだ。ね? そうでしょ?」

「ち、違うって…! 潰れたって、そんな音しねえよ!」

「ウソだー。ていうかショウタ、アンタ、キンタマが潰れたことあるの?」

「え? そ、それは…ない…けど…」

ショウタの脳裏に、絶望的すぎる想像が浮かんだ時、ハルカはすでにショウタの股間にぶら下がった、小さな陰嚢を掴んでいた。

「うっ!」

ショウタの睾丸に、再び鈍い痛みが走る。

「じゃあ、分かんないじゃん。潰してみないとさ」

にっこりと笑ったハルカの顔が、ショウタには悪魔がほほ笑んだように見えた。

「えっ…! いや、そんな…! 分かるよ。潰れなくても分かるって! 自分の体なんだし…!」

「そうだよ、ハルカちゃん。潰したりしたら、すごい痛そうだし、かわいそうだよ。それにさ、アタシ、今見てて思ったんだけど…」

すると、ユウナもまた、ショウタの陰嚢に手を伸ばして、中に入っているデリケートな睾丸をつまみ上げた。

「これって、キンタマ袋ってヤツなんでしょ? この中に、ホントのキンタマが入ってるんだよ。それで、中のキンタマが金色なんだよ、きっと」

「えー。そうなのかなあ。コレ? このコリコリしてるやつ? 二つあるんだね」

「そうそう、コレ。ホントだ、二つあるね」

女の子たちが無造作に握りしめているものは、ショウタにとって命の次に大切な急所だった。
その急所がどう扱われるか、まさしく彼女たちの気分次第であることを理解すると、ショウタは完全に屈服してしまったような気持ちになり、女の子たちが恐ろしくなった。

「ねえ、ショウタ? 中に入ってるキンタマが、金色なんでしょ?」

「え…いや…どうかな…。見たことない…」

「えー? 自分の体だから、分かるって言ってたじゃん。ウソつきー。出せないの、コレ? どっかから出そうだけど…」

ユウナはそう言って、ショウタの陰嚢を熱心に揉み始めた。
引っ張ってみたり、押し込んでみたりするが、彼女が思うように、袋が開いたりはしなかった。

「うっ! はあっ!」

普段なら、くすぐったい程度の揉み方だったが、先ほど思い切り蹴られたショウタの金玉は繊細で、ユウナが手の中で動かすたびに、ショウタの息が上がった。

「ウソ。これだけでも痛いんだ?」

「えー。ちょっと触ってるだけなのに。大事なトコロって、そういう意味なのかなあ。大事に守らなきゃいけないってこと?」

「そうなのかなあ。ていうか、キンタマって何のためについてるの? おしっこするなら、チンチンだけでいいんじゃないの?」

「ホントだね。ねえ、なんでついてるの、コレ? 痛いなら、いらないんじゃないの?」

「し、知らねえよ! でも、キンタマは大事なんだよ。キンタマがなかったら、男じゃねえんだぞ! 男にとって金よりも大事だから、金玉っていうんだろ!」

女の子たちに金玉を蹴られ、さらに直接いたぶられて、ショウタの男としてのプライドは、ズタズタになる思いだったが、それでも自分についている男のシンボルの存在だけは、否定したくなかった。
痛みと悔しさで、いつの間にか涙まで流してしまっていた。
しかし、これが意外にも、女の子たちを納得させたようで、二人は顔を見合わせて、うなずいた。

「あー、そっかあ。そういうこと?」

「キーンって音がするとか、金色だからとかじゃないんだあ」

「確かに、キンタマがなくなったら、男じゃないもんね」

「蹴られたら、泣いちゃうほど痛いんだもん。そんなのを守らなくちゃいけないから、大変なんだね、男って」

急所を握られ、潰されるかもしれないという絶体絶命の状態で出た、苦し紛れのショウタの言葉だったが、案外それが、女の子たちの心に響いたようだった。
ショウタは、涙に濡れた目で、体育倉庫の天井をじっと眺めていた。

「だからさ、二個あるんじゃない? 一個潰れてもいいように、予備なんだよ、きっと」

「そっかあ。じゃあ、一個は潰れても平気なんだね」

え?と、ショウタは再び顔を向けた。
そこにはやはり、かわいい顔をしたクラスの女の子二人が、自分の金玉袋を握りしめている。

「ごめんね、ショウタ。ちょっと我慢してて」

「一個だけだから。キーンって音がするかどうか、確かめるだけだからさ」

震えながら首を振っても、もはや彼女たちにショウタの思いは届かなかった。

「いくよ。えーい!」

「ぎゃあああっ!!」

ショウタの金玉が無事だったかどうか。
それは誰も知らない。


終わり。



とある大学の空手部。
全国的にも有名な強豪で、個人・団体共に、大会では常に上位入賞を果たしている学校だったが、その強さの理由は、決して外部には漏れない秘密特訓にあった。
強くなることを夢見て、毎年たくさんの新入生が入部してくるのだが、彼らがまず経験するのは、これ以上ないくらいの痛みと苦しみだった。

「オス! お願いします!」

新入生が初めて参加する5月の合宿は、男女の空手部員合同で行われ、地獄の合宿と呼ばれた。
しかしそれは必ずしも、部員全員にとってではない。特に女子にとっては、地獄どころか、とても楽しみな合宿だった。
男子の新入生はまず、道着を脱ぎ、下着一枚と金的カップだけの姿になる。
その姿で仁王立ちし、歯を食いしばるのである。

「いきまーす!」

新入生の男子達の前に立つのは、2年生以上の女子の空手部員だった。

「えい!」

女子の金的蹴りが、男子の股間を直撃した。
まったくためらいのないその蹴りは、仁王立ちする男子の踵が一瞬浮くほどの、強烈なものだった。

「うあっ!!」

金的カップをつけているとはいえ、空手経験者の女子の蹴りは、強烈である。
新入生の男子は、電撃に打たれたように飛びあがり、股間を両手でおさえて、道場の床に這いつくばってしまった。

「あうあ…ああ…!」

絶望的な痛みが、股間からとめどなく溢れてくる。海老のように背中を丸めて、脂汗をかきながら震えることしか、男にできることはなかった。
その様子を、ずらりと並んだ新入生の男子達は、横目で見ているのである。
やがて自分にも確実に訪れる苦痛を思い、みな一様に青ざめていた。

「はい、次!」

上級生の女子達は、平然とした様子だった。
道場の床には、すでに数人の男子達が倒れて呻いていたが、気にすることもなく、むしろ楽しそうに、この練習を進めている。

「オス! お願いします!」

順番のきた男子は、勇気を振り絞って、自分の最大の急所を女子の前に晒す。
彼らのほとんどが空手の経験者で、決して痛みに弱いわけではなく、むしろたくましい男たちばかりだった。

「はーい。いくよー。えい!」

「はうっ!!」

そんな彼らでも、女子の一発の蹴りの前に、無残な姿になってしまう。
これはこの空手部の伝統行事で、新入生に気合を入れるためと、痛みに耐える選手を作るために考え出された練習方法だった。
現在の2年生以上の男子部員たちも皆、この合宿で金的蹴りの洗礼を受けているし、女子部員たちは全員、この練習で金的蹴りの技を身につけるのだった。

「くう…! あ、ありがとうございました…」

あくまでも先輩からの指導であるために、金的を蹴られた男子は、お礼を言わなければならない。
最大の急所を蹴られておいて、礼を言うどころではない男子も中にはいたが、そういう場合、さらなる指導が必要と判断されるのである。

「ん? 聞こえないなあ。声が小さい。もう一回!」

女子の先輩がそう判断すれば、いくらでもやり直しをさせることができるのである。

「す、すいませんでした! ありがとうございました!」

「遅い! さっさと立つ!」

もちろん、金的を蹴られた男子がすぐに立ち上がることなど、ほとんどの場合不可能だ。
そういう場合、彼らを立たせるのは、新入生の女子の役割だった。
間近で金的蹴りを見て、勉強するという上級生の配慮であったが、それよりも楽しんでいる女子部員がほとんどだった。

「おりゃ!」

「ぐあっ!!」

女子の先輩が満足するまで、何回でも金的蹴りは続けられた。
男子を立たせて、押さえつける役目の女子達も、金的を蹴られた男子の反応を、面白おかしく楽しんでいた。
しかし地獄の合宿は、こんなことで終わるわけではない。

「じゃあ次! 1年同士の組手ね!」

1年男子への金的蹴りが一通り済むと、道場の床は、這いつくばって苦しみの声を上げる男たちでいっぱいになった。
しかし、そんなことを女子達は気にも留めず、稽古は続くのである。
次に行われるのは、1年生の男女による組手形式の練習だった。
男子と女子が一対一で試合をするのだが、金的を蹴られた直後の男子が、まともに動けるはずがない。自然と、男子は女子に一方的にやられる結果となってしまうのだった。

「オス! お願いします!」

「お、お願いします…」

1年生の女子は皆、目を輝かせてこの組手を楽しみにしているようだった。
それもそのはずで、この組手では、男子への金的攻撃が認められているのである。しかも男子は、金的カップを外し、素肌に道着を着用しただけで、この危険な組手に臨まなければならないのだった。
1年生の女子に、男への金的攻撃がどれほど有効かというのを体験させるというのが、表向きの名目だったが、まだ金的攻撃をやったことのない女子達は、完全に楽しんでいた。

「えい! やあっ!」

女子の鋭い蹴りが、男子の股間めがけて、次々と放たれていく。
男子がまともに動ける状態であっても、思わず腰が引けてしまうほどの蹴りだったが、金的にダメージがある男のフットワークは、想像以上に悪い。
避けたつもりでも、つい金的にかすらせてしまうことがあった。

「はうっ!」

まだダメージの残る睾丸には、わずかな衝撃でも禁物だった。
つま先がほんの少し、かすった程度の蹴りだったが、男子は下腹をおさえて膝をついてしまった。

「え? 今の、当たった?」

蹴りを放った女子の方が、逆に尋ねてしまった。
男子は無言でうなずいて、歯を食いしばって痛みに耐えている。

「何してんの! 当たってないよ! さっさと立つ!」

女子の上級生から、厳しい声が飛んだ。
一応、道場のルールに基づいて審判をしているのだが、実際のところは彼女たちが金的に完全に当たったと判断しなければ、この組手が終わることはなかった。

「は、はいぃ…」

この男子のように、中途半端にかすらせてしまえば、その分だけ苦痛を増やすことになるのである。
しかし、すでに痛めつけられた睾丸に、更なる蹴りを直撃させるのは、どんなに勇気のある男でもできることではなかった。

「オス。お願いします…」

自然と、男子は相手である1年生の女子に、懇願するような視線を送ることになる。なるべく手加減して、痛くないような金的蹴りにしてくださいと。
その願いが通じるかどうかはその女子次第だったが、こんな経緯があるから、この空手部の男女の力関係は、完全に女子に傾いているのだった。



「うげえっ!」

女子の金的蹴りが、男子の股間に突き刺さった。
1年生の女子は、その足に男子の睾丸の感触を感じ、どのくらいの蹴りでどれだけのダメージがあるかを学ぶのである。
しかしこの男子の場合、不幸にしてあまり外見が良くなかった。
毛深くて暑苦しく、男らしいといえばそうだが、女子の目から見れば、あまり好まれるタイプではない。

「今の、当たった?」

背中を丸めて、脂汗を流す男子を見下ろしながら、上級生の女子は1年生の女子に尋ねた。

「あ、はい。たぶん…」

1年生の女子は、金的蹴りの未経験者が多いため、判断に迷うことが多い。

「ふうん。まあ、もう一回やってみなさいよ。今のはちょっと浅かったと思うからさ」

「あ、オス! もう一回蹴ってみます!」

上級生の女子が言い放つと、男子は泣き出しそうな表情でそれを見上げた。
彼女たちの気に入らなければ、何回でもこれを繰り返すことになるのである。
一方で、違うパターンもあった。

「あっ!」

ルックスが良かったり、線の細い中性的な男子が組手をやるときは、審判役の女子の視線は、ほとんどそちらに集中した。

「くく…」

強豪の空手部に似つかわしくない、アイドルのような外見の男の子が、急所をおさえて必死に痛みに耐える姿は、Sっ気のある上級生たちの心をそそるのだった。
そんなとき、上級生の女子は、積極的に指導をする。

「今の、入った?」

「あ、はい。たぶん…」

「そうね。結果的には良かったけど、蹴り方がイマイチだったかな。ちょっと、どいて」

上級生の女子は、新入生を押しのけるようにして、男子の前に立った。
そして、介抱するふりをして、その体に手を触れるのである。

「大丈夫? ちょっと痛かったみたいね。もう一回、立てる?」

「あ、はい…。何とか…。つっ!」

額に汗をかいて、痛みに眉をひそめる様子が、女の嗜虐心をそそる。

「そう。じゃあ、もうちょっと我慢しなさい。ほら、見て。蹴るときはこうやって、足の甲で蹴るようにするのよ。分かる?」

そう言いながら、上級生の女子は、無造作に自分の足を男子の股間に入れた。
そのつま先に、ふんわりとした重みを感じると、今度はそれを、足の甲に乗せて上下させる。

「あ…! う…ん…」

蹴られたばかりの睾丸は敏感で、そのちょっとした刺激ですら、新入生の男子にとっては苦痛であるらしかった。
しかし彼が喘ぎ声をあげるたび、上級生は面白そうに、ますます金玉を揺らすのである。

「ほら。こうよ。足の甲に、タマを乗せるの。スナップを効かせて、跳ね上げる感じでね」

「う! ああ…」

新入生の男子は、今すぐ股間から足を抜きたかったが、先輩のやることに逆らうわけにはいかず、されるがままになるしかなかった。
苦痛にゆがむその顔を見て、上級生の女子は、さらにもっといじめてやりたくなった。

「えい!」

パシンと、足首を使って、痛めつけられたばかりの金玉を、さらに跳ね上げたのである。

「はうっ!」

当然、男子は再び床にうずくまってしまった。
ジーンと痺れるような鈍痛が、二つの睾丸から発せられ、それは容易にやむものではない。

「あ、ごめん、ごめん。でもまあ、今ので分かったでしょ? スナップが効いてれば、ちょっとした蹴りでもタマに響くのよ」

「オス! ありがとうございます!」

「ありがとう…ございます…」

元気よく返事をした女子の新入部員とは対照的に、男子の方は、消え入りそうな声で礼を言った。

1年生同士の組手が終わるころ、道場の床には、金玉の痛みに苦しむ男子部員たちの姿が、累々と重なっていた。
この合宿の期間中、毎日のように組手が行われるが、もちろんすべて金的攻撃ありだった。
男子部員同士の組手では、ほとんど金的は狙われないが、女子部員は、当然のように金的ばかりを狙ってくる。
時には下級生の女子が、上級生の男子をノックアウトしてしまうこともあった。

「おうっ!」

この試合でも、下級生の女子の金的蹴りが、先輩男子の股間に見事に入ってしまった。

「あ! 先輩、大丈夫ですか?」

「お、おう…。まあ、ちょっとな…」

先輩のプライドとして、悶絶するわけにはいかなかった。
歯を食いしばって、痛みに耐えるしかない。

「でも今の、ちょっと浅かったですよね? もう一本、お願いしてもいいですか?」

にこやかにそう言われると、先輩の男子としては、断るわけにはいかなかった。
まだジンジンと痛む股間をおさえることもできずに、構えをとるしかない。

「お願いします! えい!」

「はうっ!」

こんな調子で組手を重ねていると、自然と、女子は男子を相手にすることに、まったく恐怖心を抱かなくなってきた。
大柄で筋肉質な男子部員のプレッシャーに耐えられるのだから、女子の大会でも、何の気負いもなく相手を見ることができる。それが、この空手部の強さにつながっているようだった。

一方の男子部員も、男が味わう最も苦しい痛みを、合宿の間中味わい続けるわけだから、通常の試合で受ける痛みなど、何とも思わなくなる。
むしろ金的なしの試合が天国に思えて、男子相手の試合では、リラックスした状態で臨むことができ、十分に力を発揮できるようになるらしかった。




合宿の最後に行われるのは、次期部長に予定されている、3年生の男女の組手だった。
この組手で自分たちの実力を先輩たちに認めてもらうというのが名目だったが、実質は、空手部内での男女の力関係を決めるための儀式だった。

「タクヤ! 頑張れ!」

「ヒカリ! 一発でやっつけちゃって!」

今年度の部長候補の二人が前に出ると、男女それぞれから応援の声が飛んだ。
この試合に勝った方が、来年一年間の空手部の主導権を握るのは暗黙の了解で、この合宿のプログラム自体が、去年の女子部長の意向によって決められたものだった。
つまり、この試合にタクヤが勝てば、来年の合宿では金的攻撃を禁止にすることも可能なのである。タクヤだけでなく、男子部員全員が必死になるのも当然だった。
もっともこの数年、男子が空手部の主導権を握ったことはなく、合宿から金的攻撃が廃止されたこともなかったのだが。

「やっぱりタクヤか。最近、強いもんね」

「まあな。今日こそ、今までの借りを返すぜ」

タクヤは全国大会でも上位に入るほどの実力者だったから、次期部長に指名されるのは当然といえた。
しかしそんなタクヤも、金的攻撃ありの組手で、同じく全国レベルの実力者であるヒカリに勝ったことがない。

「そうだね。これに勝ったら、ボーナスもあるもんね。アタシもタクヤだったら、一晩中付き合ってあげてもいいよ?」

「な…ば、ばか…! そんなもん、どうでもいいよ…」

ウブなタクヤは、顔を赤らめた。
ヒカリの言うボーナスとは、この試合に勝った者は、部員の中から一人指名して、合宿最後の夜を一緒に過ごすことができるというものだった。
もちろんそれは、セックスなどをすることも含まれている。
まことに体育会系らしい、悪ノリしすぎたようなボーナスだったが、金的ありの危険な組手に挑む男には、そのくらいの報酬がなければ、やっていられないのかもしれなかった。

「あれえ? 恥ずかしがってんの? 遠慮しないでね?」

「う、うるせえ! 始めるぞ!」

実はこれも、ヒカリの作戦だった。
合宿の間中、溜まりに溜まった若い男の欲望を刺激して、動揺させる。次期部長対決に挑む女子の間で密かに伝わっている、伝統の方法だったのだ。

「始め!」

現男子部長の掛け声とともに、試合が始まった。
タクヤとヒカリは同時に構え、相手の様子をうかがった。
試合は3本中、2本先取した方が勝ちとなる。

「タクヤ! 落ち着いていけ!」

「ヒカリ、そんなヤツに負けないで!」

周りで見守る男女の部員たちも、必死だった。何しろ、来年一年間の自分たちの待遇が決まる、大事な試合なのだ。
自然と、この試合では、普段は聞こえないような下品なヤジが飛ぶのも、黙認されていた。

「タクヤ! ヒカリの胸ばっかり見ないでよ!」

「おいおい、ヒカリ! 目つきがいやらしいぞ。色仕掛けなんかするなよ!」

こういったヤジで動揺するのは、どちらかといえば男の方だろう。
日常の中で、女性は男性よりもはるかに、性的な興奮を感じる時間が少ない。
一方の男性は、一度興奮のスイッチが入ってしまえば、なかなかそれを止められなくなってしまうものなのだ。
タクヤのように若くて、体力が旺盛な男なら、なおさらのことである。

「タクヤ! 腰が引けてるよ。もう、勃起してるんじゃないの? ヒカリとエッチする想像しちゃって!」

「ヒカリ! エッチどころか、オナニーもできなくなるくらい、金玉蹴とばしてやりな!」

なりふりかまわない女子たちからのヤジが、嫌でも耳に入ってしまう。
事実、タクヤは試合に集中しようと思いながらも、頭の片隅で、ヒカリが裸になったところを想像し、その柔らかい体を抱きしめる自分までも、そこに重ね合わせていた。

「おおりゃっ!」

いかがわしい想像を振り切るかのように、タクヤは攻撃に出た。
さすがに全国レベルの実力を誇るだけあって、その突き、蹴りは鋭い。
ヒカリはガードしたり、かろうじてかわしたりしていたが、防戦一方となってしまった。

「場外だ。待て!」

タクヤの攻撃のあまりの勢いに、ヒカリの体は場外へ押し出されてしまった。
一本にはならないが、試合開始線に戻ってから、仕切り直しとなる。

「いいぞ、タクヤ! 押してるぞ!」

「ヒカリ! 落ち着いて!」

タクヤは十分な手ごたえを感じていた。
本来の実力さえ発揮できれば、決して負けるような相手ではないのである。
金的攻撃に関しても、空手部に入部して以来、先輩の女子たちにさんざん蹴られ続けているので、対応できないわけではない。
積極的かつ慎重に、タクヤは攻め続けるつもりだった。

「ふう…。やるなぁ…」

開始線に戻った時、ヒカリはため息をついて、何気なく道着の帯を締めなおした。
その時、道着の胸元部分がはだけて、ヒカリの形の良い乳房と、ピンク色の乳首が、タクヤの目に飛び込んできた。

「……っ!」

Tシャツやブラジャーを着けていないのは、もちろん作戦だった。
試合中におおっぴらに見せるわけにはいかないが、このくらいチラつかせた方が、かえって男の意識を引くことを、ヒカリはよく分かっている。

「よし。始め!」

試合が再開された。
タクヤは一声上げて、気合を入れようとしたが、今しがた見えた、ヒカリの乳房が目に焼き付いて、容易に離れそうにない。
その動揺を見透かしたかのように、ヒカリは続けざまに突きを放ってきた。

「えい! やあ!」

ヒカリの突きもさすがに鋭く、タクヤはかろうじて受け流していた。
しかし、ヒカリが目の前で動くたびに、道着の胸の部分がはだけていく。
今にも、ピンク色の乳首が見えてしまうのではないか思うと、タクヤの目は、そこに釘づけになってしまった。
それらすべてが、ヒカリの作戦通りだった。

「はっ!」

ヒカリの胸が見えることを無意識に期待して、上半身に目が向かったタクヤ。注意力が散漫になっていたその股間を、地を這うようなヒカリの金的蹴りが襲う。




「あっ!!」

反射的に腰を引いたのは、さすがだった。
天性の反射神経と、3年間、金的蹴りをくらい続けた経験によるものだったろう。
しかし、経験という点ではヒカリも同じで、当たる瞬間に男が腰を引こうとすることは、十分に知っていた。
かろうじて届いた足の親指を器用に使って、えぐるようにかすらせたのである。

「くっ!」

タクヤ自身は、うまくかわしたと思った。
ちょっとした衝撃を睾丸に感じたが、それだけだと思った。

「くそっ!」

冷静さを取り戻し、色仕掛けに簡単に引っかかってしまった自分が、悔しくなった。
気持ちを入れ替えて、構えなおそうとしたその瞬間。

ズキン、と、いつも味わっているあの苦しみが、下腹部からみぞおちのあたりに上がってきた。

「う…! くぅ…!」

思わず内股になり、前かがみに腰を折り曲げてしまう。
試合中とは分かっているのに、体がいうことをきかなくなってしまった。
その様子を、ヒカリは勝ち誇った顔をしながら、見下ろしている。

「一本! ヒカリ!」

審判が高らかに宣言した。

「やったあ! ヒカリ、さすが!」

女子たちから歓声が上がり、ヒカリも手を挙げてそれに応えた。

「大丈夫か、タクヤ? やれるか?」

審判役の男子部長が、声をかけた。
タクヤは苦痛の表情を浮かべながら、なんとかうなずいた。
この試合は2本先取だから、ダメージが残っていても、ギブアップをしない限り、試合を続行しなくてはならない。
タクヤもそれを分かってはいるのだが、じわじわと上がってくる痛みに、股間から手を離すことはできなかった。

「頑張れ、タクヤ! 女なんかに負けるな!」

「大丈夫だ。いけるぞ!」

周囲の男子部員たちからも、声援が飛んだ。
彼らも、来年一年間の自分たちの金玉の無事がかかっているのだから、必死である。

「大丈夫ってさ、アンタたちが蹴られても、大丈夫なの? 笑わせないでよね」

男子たちの応援を聞いたヒカリは、思わず吹き出してしまった。

「アンタたちだって、金玉にちょっとかすっただけで、動けなくなるでしょ? 男を倒すには、足の指一本だけあれば、十分なんだよねー」

そう言われると、男たちには返す言葉もなかった。
実際に、彼らはヒカリをはじめとした女子に、この合宿の間中、さんざん金的蹴りでノックアウトされているのである。
今、タクヤが味わっている苦しみは痛いほど理解できるし、そう思うと、軽々しく声援を送ることもできなくなってしまった。
そんな男子たちを見て、女子たちはさらに勢いづいた。

「そうそう。金的ありだと、男は女に勝てないんだから。諦めなって」

「タクヤ、ギブアップしちゃいなよ。ヒカリに金玉潰されちゃうよ?」

タクヤの判断に、男子の誰もが口を出さなかった。
審判役をしている先輩の男子部長でさえ、去年、現在の女子部長と試合をして、強烈な金的蹴りを受けて、気絶してしまっているのである。
その後、部長の金玉が腫れ上がり、一週間まともに稽古ができなくなったことは、部員全員がよく知っていた。

「や、やります! 大丈夫です!」

タクヤはしかし、勇気を振り絞って、体を起こした。
まだ下半身に重苦しい痛みは残っていたが、女の子の蹴り一つでギブアップしてしまうことは、彼が今まで築き上げてきた自信とプライドが許さなかった。
今ここで逃げてしまえば、二度と自信を持って試合に臨むことができなくなる。タクヤはそう思い、この決断をしたのだった。

「よし! では、2本目、始め!」

男子部長も、この決断を潔しとして、試合を開始した。
しかし、タクヤの構えには、どこか力がなく、先ほどまでのようなフットワークは期待できそうにない。

「えい! やあっ!」

逆にヒカリは余裕に満ちた表情で、次々と攻撃を仕掛けていった。
思うように動けないタクヤは、防戦一方となった。ヒカリの突きや蹴りを受けるたびに、その衝撃が下腹部に伝わり、その痛みはむしろ攻撃された部位よりもひどかった。

「く…う…!」

タクヤの様子を見てとると、ヒカリは接近戦を挑むことにした。
接近戦ならば、胸や腹をノーガードで打ち合うことになり、その衝撃は今のタクヤにとって脅威だ。しかも、より強力で回避しにくい、膝による金的蹴りも狙いやすくなる。
タクヤにもヒカリの狙いは十分わかったが、かといって、接近戦から逃れるほどのフットワークは、今の彼にはなかった。

「せいっ! せいっ!」

普段なら、体格で勝る男子は接近戦で有利だったろう。
しかし、股間にダメージの残る今、タクヤにできることは、内股になって必死にヒカリの金的攻撃を防ぐことだけだった。
胸や腹をいくら攻撃されても、女子の力では、大したダメージにはならない。
しかし他のすべてを捨ててでも、金玉だけは守らなければならないのが、男というものだった。

「フフ…。必死になっちゃって」

ヒカリのつぶやきが、タクヤの耳に入った。
攻めながらも、余裕たっぷりに、タクヤを観察していたらしい。
タクヤがその言葉に反応して、眼下にあるヒカリの顔に目を向けた時、またしてもヒカリの道着の胸元がはだけた。

「……!」

道着の奥に、柔らかそうな乳房の膨らみと、ツンと立った乳首が見えた。
それが、ヒカリの故意によるものだったのかどうか。
とにかく、ヒカリは相手にできた一瞬の隙を機敏に感じ取り、グッと腰を落とすと、右手の手刀をタクヤの股間に向かって跳ね上げた。

「うっ!!」

内股になっていたとはいえ、手刀が入るくらいの隙間はある。そして肘を支点にして動かせば、先端にある手は驚くべきスピードを発揮する。しかも、女性の指は細く、ピンポイントで力が集中した。
この空手部の女子に伝わる、男殺しの必殺技がこの手刀の跳ね上げだった。

「ぐぅうあぁっ!!」

すでに痛めつけられていたタクヤの睾丸の一つが、ヒカリの手と恥骨に挟まれ、無残に変形した。
潰れるまでには至らなかったものの、その衝撃は、今後数時間、タクヤが地獄の苦しみに喘がなくてはいけないことを約束するものだった。

「一本! 勝者、ヒカリ!」

タクヤの体が無残に崩れ落ち、ヒカリが残心の構えを見せると同時に、男子部長は勝利を宣言した。
少しでも早く、タクヤを介抱してやりたいという気持ちの表れだった。

「やった! ヒカリ、すごい!」

「やっぱり男なんて、金玉やれば、イチコロね」

女子たちは立ち上がって喜び、ヒカリもまた、満足げな表情で、タクヤを見下ろしていた。
対照的に、男子部員たちは一様に静まりかえり、数人がタクヤにかけよったが、誰も言葉を発しなかった。
床に這いつくばり、股間をおさえて震えるその痛みは、慰めたところで良くなるものではないと、皆が知っているからだった。
少なくとも数時間は、タクヤはこの絶望的な痛みと戦わなくてはいけない。もしかすると、翌日までこの痛みは残るかもしれない。
タクヤにとっては無限ともいえる時間との戦いだったが、その苦しみを与えた当のヒカリは、そんなことを考えもせず、仲間たちと勝利を喜んでいるのだった。

「よおし。じゃあ、勝ったボーナスとして、男子に命令を出しちゃおうかな」

ヒカリの目が、嬉しそうに笑っていた。
男子が勝てば、女子の1人を指名して、セックスでも何でも付き合わせることができる。しかし女子が勝った場合、セックスの相手を指名することなどはせず、そのかわりに、男子全員に罰ゲームのような命令を出すことができるのだった。

「さっき、色々言ってた男子、全員並びなさい。女がどうとか、色仕掛けとか言ってたヤツ、全員ね」

ヒカリの言葉は、すで次期女子部長としての権威があった。
さらに、自分たちのなかで最も強い男であるタクヤが、ほとんど手も足も出ずに負けたとあっては、男子たちは意気消沈して、その命令に従うしかなかった。

「よし。じゃあ、みんな後ろ向いて、金玉出しなさい。これからアタシたちが、アンタたちの金玉を鍛えてあげるから。どうしたの? 金玉出せってことは、道着を脱げってことよ!」

男子部員たちは驚いたが、逆らうわけにもいかず、それぞれ道着のズボンを脱ぎ、後ろ向きになって、金玉を女子部員たちの前に晒した。
後ろから見ると、足の間に二つの金玉がぶら下がっているのがよく見えて、男子がちょっと動くたびに、それが揺れる姿が滑稽だった。

「きゃー! 変態!」

「汚―い! そんなもの、よくぶら下げてられるね?」

「ブラブラ揺らしちゃって、バカじゃないの?」

女子部員たちはそう言いながらも、その表情は笑っていた。

「ホント、男は厄介なものぶら下げてるんだね。試合中も、金蹴りが怖くて、集中できないんでしょ? それじゃ試合に勝てないだろうから、ちょっと鍛えてあげようか、みんな?」

ヒカリの言葉に、女子部員たちは「はーい」と元気よくうなずいて、それぞれ金玉を晒した男子部員たちの後ろに立った。
後ろを向いた状態で、股を大きく開き、最大の急所を女性に晒す。
この怖さは、男でなければ絶対にわからないものだった。

「いくよー! せーの!」

パチーン! 

と、この合宿でも最もいい音が、それぞれの男子の股間に響いた。
もちろん彼らが、その後しばらく動くことさえできなかったのは、言うまでもない。


終わり。


当ブログを見て頂いて、ありがとうございます。
管理人の McQueen です。


昨年より始めた当ブログですが、思いのほかたくさんの方に見て頂いて、驚くとともに嬉しく思っております。
また、ブログ拍手やコメントをして頂いているのを見ると、非常に励みになります。
ありがとうございます。


中には、作品の詳細な感想やアドバイス、アイデアの提供までして頂いている方もおり、ご期待にそえるかどうかわかりませんが、お礼を申し上げたいと思います。


Ball Busting小説、略してBB小説は、マイナーなジャンルだけに、性癖を持った各人のこだわりが強いものだと思っています。
例えば私は、金玉責めは好きですが、去勢行為はあまり好きではありません。
より正確には、流血するようなグロ系は苦手で、そういった描写のあるBB小説では、あまり興奮しません。


全体的にファニーアクションとしての金玉責めが好きで、金玉責めを面白がる女性と、必死に守る男性。
金玉の痛みを共有できない女性と男性の差。
そんなところに興奮を覚えるようですので、これからもそういった趣旨の作品を書いていければと思っています。


しかし、去勢や流血ありの作品、また、男性対男性の金玉責めという作品も多く存在するようで、そういったジャンルで興奮される方は、残念ながら当ブログはご期待にそうことはできないと思います。


私が初めてBB小説を目にしたのは、十年ほど前、KEKEOさんのブログにおいてでした。
それまで、よほどマイナーなものだと思っていた、金玉責めという性癖に共感者がいて、見事に具体化し、作品化されていることに、純粋に感動したことを覚えています。
KEKEOさんは、しばらく休筆されていたようですが、最近、復帰されたそうで、ファンとして嬉しく思います。


願わくは、当ブログを見た方が、十年前の私と同じように、共感を感じてもらえるようなブログにしていきたいと考えています。


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