「ねえ、まだやる?」
薄ら笑いするカエデに、ケイタは男のプライドを傷つけられた。 思い切って立とうとするが、足に力が入らず、動くたびに更なる痛みが股間を襲うのだった。
「く…あ…」
ケイタは小学生の女の子にいいようにあしらわれている自分の状況に、思わず涙が出そうになってしまったが、寸前でこらえた。 あるいはここで泣いてしまえば、カエデは満足したかもしれないが、それはケイタのプライドが許さなかった。
「ふうん。まだやるってことね」
カエデの顔から笑みが消えて、ケイタを見下ろす目が冷たいものに変わった。
パチーン!
と大きな音がして、カエデはケイタの横っつらに強烈なビンタをくらわせた。 ケイタは一瞬、何が起こったのかと思ったが、すぐに自分の頬から痺れるような痛みが広がって、カエデに頬を張られたのだと気がついた。
パチーン!
カエデは間髪いれず、今度は逆の頬にビンタをした。 今度は逆向きに、ケイタの顔が向く。
「ねえ、まだやる?」
カエデは冷たい目で問いかけた。 ケイタはそんなカエデの表情に恐怖を感じたが、ギブアップだけはしなかった。
「く…」
そしてカエデがまた右手を振りあげると、ケイタは慌てて顔面をガードするために、両腕を上げるのだった。 しかし…。
ドボッ!
予想に反して、カエデはケイタの股間に右足のつま先をねじ込むように突きいれた。
「がっ! うぅ…」
ケイタは再び、股間をおさえてうずくまってしまう。
「もー、男の子ってみんな一緒。単純だなー。金玉蹴れば他を守らなくなるし、顔を叩けば金玉が空くし。金玉がある限り、女の子には勝てないよ。諦めれば?」
カエデはあきれたような顔で、ケイタに語りかけた。 それはとても年上の男子に向けるような態度ではなく、年下の男の子に諭すような口調だった。
「く…誰が…お前なんかに…」
それでもケイタは強がりを捨てなかった。 ビンタの衝撃によるものか、すでにその目にはうっすらと涙がにじんでいたが、うずくまりながらもカエデを睨みつけていた。
「うーん。ねえ、お兄ちゃん、コイツの手をちょっとおさえててよ」
「え?」
「早く!」
突然声をかけられて、シンヤは驚いたが、有無を言わせぬカエデの口調に、慌てて動いた。 背後から、股間をおさえるケイタの両腕をとり、体を引き起こした。
「く…おい、中野! やめろ!」
ケイタは精一杯の抵抗をしたが、金玉の痛みの残る体には、力が入らなかった。なんなくシンヤによって両手を抑えつけられてしまう。
「元々はお兄ちゃんのケンカだもんね。ちょっとは協力してもらわなきゃ。さてと。まだ、降参しないの? ていうか、ちょっと泣いてる?」
カエデはケイタの目の前にしゃがみこみ、笑いながらケイタの顔を覗き込んだ。
「だ、誰が! お前らなんかに泣かされるもんかよ!」
「そっかあ。なら良かった。これから、泣かすんだもんね」
そう言うと、カエデはおもむろにケイタのズボンのベルトの間から右手を差し込んで、トランクス越しにケイタの金玉を鷲掴みにした。
「う!」
思わず、ケイタは声を上げる。 しかしまだカエデは、金玉を握る手に力を込めてはいなかった。
「あ、タマタマはお兄ちゃんのよりもちょっと大きいかなあ。でもチンチンは縮んじゃってるね」
「ちょ…あ…」
カエデはケイタの反応を楽しむように、手の中でケイタの金玉を転がした。
「へへー。アタシね、金玉をコロコロするのが好きなんだあ。いつも、お兄ちゃんので遊んでるの」
カエデは楽しそうな笑みを浮かべた。 一方のケイタは、引きつった表情でそれを見ている。 ケイタの背後に立つシンヤは、顔を背けて、見ないふりをしていた。
「でね、お兄ちゃんをいじめるときはこうするの。えい!」
掛け声と共に、カエデは右手につかんだケイタの金玉を握りしめた。 親指と人差し指で金玉袋の根元をおさえ、絞りあげるように二つの金玉を擦り合わせる。 よほど金玉の握り方に手慣れた方法だった。
「ぎゃあー!」
ケイタは絶叫した。 カエデの手の中でケイタの金玉は変形し、擦りあわされる度に激痛が走る。 電撃のような鈍痛という表現が、矛盾しているようだが一番ピタリと当てはまる痛みかもしれなかった。
「ぐうぅ!」
「どう? 痛いでしょ? まだ半分くらいしか力入れてないんだよ」
カエデは笑いながら、絶叫するケイタの顔を面白そうに眺めている。
「えーっとね。お兄ちゃんの最高記録は、5分くらいかなあ。ねえ、お兄ちゃん?」
カエデはニコニコしながら、ケイタの背後にいるシンヤに尋ねた。
「え? そ、そうかな…うん」
シンヤはケイタの叫び声を聞きたくないというような様子で、顔を歪めながら答えた。 その間にも、カエデはケイタの金玉を弄ぶようにゴロゴロと手の中で転がしている。
「ねえねえ、どうするの? まだやるの?」
「はうっ! うぅ…くそ…」
ケイタは涙目になりながら、必死に痛みに耐えている。
「クソ? クソってなに? アタシのこと? お兄ちゃん、この人、ホントバカだね。状況分かってないみたい」
「ケイタ君、もう…」
シンヤがケイタに忠告しようとした時、カエデの腕に渾身の力が入った。
「えーい!」
カエデはケイタの金玉を握りしめたまま、右腕を上に引き上げた。当然、ケイタの金玉袋は引っ張られて、今まで以上の痛みを受けることになる。
「ああぁぁぁぁ!!」
ケイタは体をのけぞらせて絶叫した。 引っ張られる金玉につられて、腰までが宙に浮いてしまう。
「や、やめてくれ! 降参! 降参するから!」
ケイタはついに涙を流しながらギブアップした。 シンヤはこの状況を見かねて、すでにケイタの両腕を解放してしまっていたのだが、そうしたところでケイタになす術はない。 もはやズボンの外まで飛び出しそうなくらいまで引っ張られている金玉からは、体の力のすべてを奪う痛みが発せられているのだ。
「はあ? 聞こえませーん」
カエデは耳に手を当てて、わざとらしく言った。 ケイタはここにきてようやく、自分がとんでもない間違いを犯してしまったことに気がついた。
「まったく! せっかく何度も聞いてあげたのに、降参しないんだもん。泣いたら許してあげようと思ってたけど、もう潰しちゃうから、アンタの金玉!」
カエデはそう言うと、右手で絞りあげ、熟した果実のように膨れ上がっているケイタの金玉を、今度は左手で鷲掴みにした。
「必殺! 両手握りー!」
冷酷に、しかしどこか子供らしいあどけなさで、カエデはケイタの金玉を握りしめた。 右手で絞りあげるだけでも相当な痛みだったところに、左の力も加わって、ケイタの金玉は文字通り潰れそうなほど変形していた。
「あぎゃあぁぁぁ!! やめろ! やめろって!!」
ケイタは前後もなく絶叫した。
「んー? やめろ?」
カエデはさらに手に力をこめる。
「ぎゃあぁぁぁ! やめて! やめてください!」
「やっと敬語になってきたね。やめてほしいんだ? なにを?」
意地悪そうにカエデが尋ねる。
「離して! 離してくれえ!」
「離してって、コレ? このタマタマ?」
カエデは笑いながら、ぐりぐりと揉みしだくように金玉を握る。
「はいぃ! そうです! 離してくれ。頼む!」
「んー。どうしよっかなあ。アタシは潰してやるつもりだったんだけど。お兄ちゃん、どう思う?」
シンヤは絶叫するケイタから目を背けていたが、カエデに尋ねられて、力なくうなずいた。
「も、もういいよ。離してあげれば…」
「そう? お兄ちゃんがそう言うなら、いいけど。ねえ、ウチのお兄ちゃんが許してあげるって。お礼は?」
カエデは金玉を握り続けた左手を離してやり、ケイタに言った。 ケイタは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、シンヤの方を目だけで向く。
「は…はい…。ありがとう…」
「違うの。お礼を言うときは、ありがとうございます、でしょ?」
カエデは左手でケイタの金玉をピシャリとはたいた。 つながれた風船のように、ケイタの金玉が揺れた。 「あぐっ! あ、ありがとうございます…」
ケイタは泣きながら、絞り出すように言った。
「あ、あと、お兄ちゃんのお小遣いは? やっぱり、返してもらわなきゃ」
「あ…それは…使っちゃって…」
ケイタは蚊の鳴くような声でつぶやいた。なんとか誤魔化したかったが、この状況では適当な言い訳も思い浮かばない。 それを聞いたカエデは無言のまま、ケイタの金玉を往復ビンタした。
「あぎゃっ! うっ!」
金玉を叩かれるたびに、ケイタは情けない悲鳴をあげる。
「じゃあ明日、学校でお兄ちゃんに返してよ。利子がつくから、2000円ね。わかった?」
「はいぃ! 返します。持ってきますから…」
ケイタはもはや抵抗するすべての気力を失っているようだった。 満足したカエデは、ようやくケイタの金玉を解放してやる。 ケイタはすぐさま亀のように丸くなって、これ以上金玉を痛めつけられないように、しっかりと両手で覆った。
「ああ…うう…」
しかし金玉の痛みはそう簡単におさまるものではなく、掴まれているよりはマシとはいえ、まだまだ地獄の苦しみの時間を、ケイタは過ごさなくてはならなかった。
「よおし! これにて一件落着、だね? お兄ちゃん?」
「う、うん…」
嬉々とした表情のカエデとは対照的に、シンヤは沈痛な面持ちだった。 ケイタたちが金玉を痛めつけられるのを見ていると、自分の股間にも痛みが走るような錯覚を、シンヤは感じていたのだ。 自然と、その手は股間のあたりをおさえるような形になっていた。
「アンタ達、もうウチのお兄ちゃんをいじめたらダメだよ。あとお金、ちゃんと持ってきなさいよ!」
地面に額を擦りつけてうずくまるケイタに、カエデは言った。 ケイタはもう顔を上げることもできなかったが、うつむいたまま、必死にうなずいていた。
「じゃあ、帰ろ。お兄ちゃん」
「うん…」
カエデはさっぱりとした顔で笑い、苦しみに呻いている三人を尻目に、公園を後にした。 その後ろから、シンヤがおどおどとした様子で、ついていくのだった。
「あのね、さっき思いついた握り方があるんだけどさ。できなかったなー。お兄ちゃん、帰ったら試してみていい?」
「え? いや…あの…」
「大丈夫。手加減するから。ね? いいでしょ?」
「う、うん…」
家に向かうシンヤの足取りは、重たいものだった。
終わり。
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