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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


とある大学に、実戦形式を標榜する拳法部があった。
この大学はスポーツが盛んで、拳法部の他にも空手部が存在し、表面化はしていなかったものの、部員同士は内心では互いにライバル心のようなものを抱いていた。

学生食堂で、空手部の部員である三年生のユウジとリュウが、同じゼミの女の子二人と一緒に話をしていた。
女の子たち、サキとエリコは空手をしているわけではなく、ユウジたちにさまざまな質問をしていたが、やがて話題は拳法部との関係になった。

「えー、じゃあ、拳法と空手と、どっちが強いの?」

サキはいかにも素人のように、だいそれた質問をする。
ユウジたちはしかし、その質問にさらに大胆な返答をするのだった。

「そりゃあ、空手に決まってんだろ。拳法なんか、型ばっかりやって、踊りみたいなもんだろ」

「空手部の組手を見たら、ビビるぜ。すげえ迫力だからな」

「へー。見たことないなあ。殴ったりするの?」

「殴ったり蹴ったり、何でもありだよ。拳法なんて、あれは伝統武術だから、格好だけなんだよ。実戦には使えないんだ」

ユウジとリュウは空手部の中でも特に武闘派で、その分性格も荒く、日頃から大きな口ばかり叩いていた。
しかしその実力は本物で、鍛え上げた太い腕が、Tシャツの袖をパンパンに膨らませている。

「へー。そうなんだあ。今度、空手の稽古を見に行こうかなあ」

サキとエリコは派手ではなかったが、いかにも軽いノリの女の子たちで、大学には勉強よりも遊び相手を探しに来ている様子だった。
ユウジとリュウはそれを承知で以前から声をかけ続けて、最近ようやく、落とせるかというところまできていたのだ。

「でもさあ。拳法の方が、女の子にはいいんじゃないの? 護身術とかできるかもよ」

エリコがそう言うと、リュウがすぐさま否定する。

「バーカ。拳法の護身術なんか、実戦では無理なんだよ。型の稽古しかしないんだから、動く相手には使えないんだぜ」

「えー。そうなのぉ?」

「そうそう。だから護身術なら、俺が教えてやるよ。マンツーマンで、じっくりとさ」

「えー。それはちょっとなあ…」

エリコはそう言いながらも、まんざらでもない様子で、リュウたちもそれを察して、駆け引きを楽しんでいる様子だった。

「ねえ。アンタ達、空手部?」

突然、ユウジたちが座るテーブルの前に、一人の女子生徒が立った。

「あ? 誰?」

彼女の名前は八木チヒロ、拳法部に所属する三年生だった。
身長はさほど高くなかったが、デニムのホットパンツから伸びる引き締まった両脚とウエスト、そしてその立ち姿が、いかにも運動経験を感じさせた。
しかし見上げると、薄手のニットをはち切らんばかりに豊満な胸がそこにあり、それには一瞬、ユウジとリュウは目を奪われてしまった。

「アンタ達、空手部でしょ? アタシ、拳法部」

チヒロはにっこりと笑って、そう言った。
ユウジ達はそんなチヒロに少し気を呑まれた。

「あ、そう。それで。なんか用かよ?」

「うーん。用っていうかあ。変なこと言うなあ、と思ってさ。拳法より空手の方が強いとか、拳法は実戦では使えないとか」

ユウジとリュウは気まずい表情で顔を見わせたが、相手が女子で、傍らには意中の女の子たちもいるとあって、強気の姿勢を崩さなかった。

「ああ。そう言ったかもな。ま、ホントのことだしな」

「そうだな。ウチの空手部は組手重視だからな。拳法部は型重視ってことで、それはそれでいいんじゃないか?」

チヒロはそれを聞いて、少し沈黙したが、貼りつけたような笑顔は崩さなかった。

「ふーん。アンタ達、ウチの拳法部のことをよく知らないみたいだね。よかったら、教えてあげようか?」

「はあ?」

「教えるって、なんだよ?」

「拳法と空手と、どっちが強いか試してみようよ。アンタ達の大好きな、組手でさ」

チヒロは笑顔のまま、そう言った。
ユウジとリュウは一瞬、呆気にとられたが、やがて口を大きく開けて笑いだした。

「ハ…ハハハハ! マジかよ。拳法部が空手と組手しようってのか? アハハハハ!」

「やめとけって。恥かくだけだからさ。拳法部はおとなしく、型踊りをやってなって。ハハハ!」

チヒロはなおも表情を変えなかったが、その雰囲気は、そばにいたサキとエリコにも伝わるくらい、緊張したものだった。

「あ、そう。じゃあ、やってみようよ。アンタ達くらいなら、ウチの男子がやるまでもないよ。アタシでも倒せそうだね」

その言葉に、ユウジとリュウはさすがにむっとして、笑うのをやめた。

「おい、マジかよ。お前が俺らとやるって?」

「俺ら、あんまり冗談通じねえ方だよ。本気にするぜ」

「じゃあ、決まりね。さっそく今からやろうよ。拳法部の道場に来てよ」

チヒロはユウジ達のすごみに動ずる気配もなく、手を打って喜んだ。
ユウジ達はそれを見て、ますますイラついた様子だった。

「上等だよ。相手してやろうか」

「そっちは何人だよ」

「ああ、ちょっと待って。今、ウチの一年生を呼ぶからさ」

そう言って、チヒロは携帯で電話をかけ始めた。

「一年?」

ユウジはますます顔をしかめた。
そんな二人の様子に、サキとエリコは不安げな表情を浮かべる。

「ちょっと。やめなよ、女の子相手に」

「本気でやるつもりなの?」

「いいから、黙ってろよ。あっちからやるっていってきたんだろ」

「本気でやるわけじゃねえよ。ちょっと、組手するだけだ。試合だよ、試合」

男たちはここまで来た以上、引き下がるわけにはいかないという顔つきだった。
その不穏な気配に、サキとエリコは眉をひそめる。

「あ、ナナミ? お疲れー。あのさあ、今からちょっと道場に来てよ。…え? いいから、いいから。とりあえず、来なって。ね?」

チヒロは強引に相手を呼び出している様子だった。
電話を切ると、さらに二人を挑発するように、ほほ笑んだ。

「ま、試合だから。ちゃんと手加減してあげるよ。怪我することはないでしょ。たぶんね」

ユウジ達は苛立ちとともに立ちあがり、チヒロをにらみつけた。

「上等だよ! やろうぜ!」

「お前らもこいよ。面白いもん見せてやるから」

サキとエリコは顔を見合わせたが、わずかな興味も感じていたので、チヒロとユウジ達四人は、連れだって学食を出ていった。




拳法部が普段、稽古をしている道場に着くと、そこにはすでに小柄な女の子が一人、待っていた。
ミニスカートにカラフルなストッキングを履いて、茶髪の髪をツインテールにした、コケティッシュな風貌の彼女の名前はナナミ。チヒロの拳法部の後輩だった。

「せんぱーい。なんですかあ。急に呼び出して」

ナナミはチヒロの姿を見ると、アニメのキャラクターのような声で恨めしそうに言った。

「アタシ、これからバイトなんですけどお」

「悪い、悪い。すぐ済むからさ。ちょっと、コイツらと組手しようかと思うんだけど、2対1じゃん。リオは今月、教育実習でいないからさ」

「えー。組手って…。どちら様ですか?」

ナナミはチヒロに連れて来られたユウジとリュウを見た。
二人は自分たちの相手をするのが、こんな中学生のような女の子だと分かって、明らかに苛立っていた。

「空手部の人たちだって。空手部は拳法部よりずーっと強いから、稽古つけてくれるんだってよ」

チヒロは笑いながらそう言ったが、ナナミはその笑顔の裏にあるチヒロの真意に、即座に気がついた。
しかし、自分よりもはるかに大きく、鍛え上げられた肉体を持った二人の男を見て、さすがに戸惑ってしまう。

「えー! マズイですって。ウチの空手部、けっこう強いって評判じゃないですか。そんな人たちと組手するんですか? ムリムリ!」

ナナミの驚き方は、やや大げさにも見えたが、先ほどからプライドを傷つけられて苛立っているユウジとリュウには、それを疑う様子はなかった。
むしろようやく自分たちの実力を評価する人間が現れて、嬉しく思っていた。

「大丈夫だって。アンタでも勝てるよ。こんなヤツら」

チヒロは空手部の二人を背にして、堂々と言ってのけた。
再び、ユウジとリュウは苛立つことになる。

「えー。そうかなあ…」

「おい! いいから、さっさとやろうぜ。時間がねえんだろ?」

チヒロ達のやり取りに痺れを切らしたユウジが、叫ぶように言った。

「ん? そうだね。じゃあ、やろうか。アンタ達は、その辺で見てな」

チヒロは余裕そうな顔で振り向くと、サキとエリコに道場の隅で見ているようにうながした。

「着替えはしなくてもいいか。実戦形式ってヤツだもんね」

通常の組手ならば、拳法にしろ空手にしろ、道着に着替えるのが当たり前だったが、チヒロはあえて挑発するようにそう言った。
もちろん、ユウジ達も道着を着て本気で組手をするつもりなどない。
これは、生意気な拳法部の女子を懲らしめるための制裁だと思っていた。

「え…。じゃあ、まずはアタシですか?」

ナナミは恐る恐るたずねた。

「そうだね。まあ、胸を借りてきな。実戦形式で、何でもアリみたいだから。ね?」

チヒロは意味ありげにそう言って、ユウジ達に確かめた。

「もちろんだ! 俺がやってやるよ」

リュウはストレッチがわりに肩をぐるぐる回しながら、ナナミの前に立った。
ナナミはさすがにストッキングは脱いで裸足になったが、ミニスカートにジージャンという出で立ちは、とても組手をする格好には見えなかった。

「せんぱーい。アタシ、ミニスカートなんですけどお。パンツ見えちゃいますよ」

ナナミが恨めしそうに言う。

「いいから、いいから。じゃあ、始めるよ。勝負はどっちかがギブアップするまでね!」

ナナミとリュウは道場の床の中央、組手をする際の開始線に立ち、向かい合った。

「よろしくお願いしまーす」

ナナミはペコリと頭を下げたが、リュウは礼もしなかった。
苛立ちながらナナミに近寄り、挑発するように両手を広げて見せた。

「さあ。どっからでも攻撃してこいよ。お前の拳法なんかじゃ、痛くもかゆくもねえんだ」

リュウの鍛え上げられた、筋骨隆々の肉体を前にして、ナナミはさすがに息を飲んだ。
横目でチラリとチヒロを見ると、チヒロはほほ笑みながらうなずいた。

「あ! ちょ、ちょっと待って。構えたら、ブラがずれちゃった…」

ナナミは突然、そう言うと、クルリと後ろを向いた。
Tシャツの中に手を入れて、ブラジャーの位置を直している様子だった。

「ああ?」

リュウはその緊張感のなさにあきれ、両手を広げたまま、黙ってその様子を見ていた。
すると次の瞬間、ナナミが勢いよく振り向き、右の肘打ちがリュウのわき腹に突き刺さった。

「ぐえっ!」

小柄なナナミだったが、遠心力を利用した肘打ちは強烈で、しかもリュウは完全に気を抜いた状態でくらってしまったため、そのダメージは大きかった。
人体で最も堅く尖った肘で、筋肉の薄い脇腹をえぐるように狙う、実戦拳法の見事な技だった。

「う…く…」

リュウはわき腹をおさえて、体を傾ける。
そしてさらに、がら空きになったリュウの鳩尾に、ナナミは拳を固めて突きを入れた。

ドスッ!

と鈍い音がして、呼吸が一瞬、止まった。
ナナミはリュウが鳩尾をおさえるのよりも早く、飛びのいて、距離をとっていた。

「かはっ! げほっ!」

リュウは鳩尾をおさえて、前かがみになって咳こんだ。

「よし! ナイス、チヒロ」

チヒロが声をかけると、ナナミはうれしそうにガッツポーズをとった。
横で見ていたユウジは悔しそうに舌打ちして、チヒロに抗議した。

「おい! なんだよ、今のは。汚ねえじゃねえか!」

チヒロはそれを聞いて、わざとらしく驚いて見せた。

「えー。だって、実戦形式なんでしょう。空手部はどうか知らないけど、ウチは武道だからさ。相手を油断させるのも、武道のうちなんだけど」

そう言われると、ユウジは悔しそうに舌打ちすることしかできなかった。

「おい、リュウ! 大してきいてないだろ! やっちまえよ!」

ユウジが声をかけると、リュウはまだダメージが残っていたものの、なんとか体を起こして構えなおした。

「リュウ君、がんばれー!」

「ガンバ!」

連れの女の子たちが見ていることもあって、あまりみっともない所は見せたくなかった。
さきほどの肘打ちは、油断していたとはいえ、急所を的確に打ち抜いた見事なもので、ナナミの戦闘能力の高さをうかがわせるものだった。
しかしリュウは、そんなことを認めたくはなかった。
なんといっても、相手は自分より20センチも小さい、女の子なのだ。
男のプライドにかけて、負けるわけにはいかなかった。

「えー。まだやるんですかあ。もう、いいじゃないですか。怪我する前に、やめときましょうよ」

微妙に挑発するようなナナミの発言に、リュウは憤りを覚えた。

「いくぞ!」

問答無用で、ナナミに突進していった。
構えた姿勢から、素早く正拳突きを放つが、ナナミは演技かどうか、悲鳴をあげながら逃げてしまう。

「きゃあ!」

空手の組手では考えられない、明らかな敵前逃亡だった。
しかし手が届かなければ、どんな攻撃も当たることはない。
リュウは逃げるナナミをつかまえようと、追いかけた。

「この野郎! 待て!」

ナナミは追いかけてくるリュウに背を向けて、子供のように必死に逃げた。
リュウも追いかけるが、追いながらの攻撃は、どうしても中途半端なものになってしまい、しかも攻撃して止まるたびにナナミとの距離が開くから、どうしようもなかった。

「おい! こんなの、組手じゃねえだろ!」

ユウジが再び、チヒロに噛みついた。

「逃げるのも武道のうちよ。身を守るには、逃げるのが一番。戦わない事が、最上の護身術だよ」

チヒロは堂々とそう言った。
ユウジは納得いかなかったが、そばで聞いていたサキとエリコは、感心した様子だった。

「くそっ!」

それでも、リュウも稽古を積んだ空手家である。
やがて一瞬の隙をついて、ナナミの逃げる先に回り込むことに成功した。
この数分間で初めて、両者が向かい合う形になった。

「ありゃ。まずいなー」

ナナミはしかし、どこか余裕がありそうにつぶやいた。
リュウは息を切らしつつも、ようやく訪れたチャンスにほくそ笑んだ。

「せいっ!」

ここぞとばかりにリュウは大きく踏み込んで、右の回し蹴りをナナミの顔面めがけて放った。
手加減はしていたが、女の子相手にすることではない。
苛立ち、疲れ切ったリュウの思考は、完全に麻痺していた。

「きゃっ!」

ナナミは叫んで、ストンと腰を落とした。
避けたというよりは、床に尻もちをついた形だった。
リュウの回し蹴りは空振りし、体勢を崩す。
しかしリュウの目は、あるところに釘づけになった。

「痛てて…」

尻もちをついて痛そうにしているナナミの脚は無防備に開かれ、ミニスカートの奥に、薄いグリーンのパンティーが見えた。
組手中とはいえ、丸見えになったナナミの下着に、リュウは男の性として、見入ってしまった。
またナナミの気の抜けた雰囲気が、完全にリュウの油断を誘っていた。

「隙あり!」

そんなリュウの邪心と油断を計算していたかのように、ナナミは即座に動いた。
体勢を崩して腰を落としていたリュウの足元に素早く近寄り、しゃがみこんだ体勢から、ひざのばねを存分に使ったアッパーカットを股間に打ち込んだのだ。

バシィン!

という音が、道場に響いた。
ナナミは拳を握らずに、手のひら全体でリュウの股間を打ち上げた。
リュウはジーンズを履いており、股間の急所の位置が正確につかめなかったので、より広い範囲を攻撃する必要があったのだ。
もちろん拳を握るより威力は落ちるが、それでも男の最大の急所にダメージを与えるには、十分すぎる威力だった。

「ううっ!!」

突然のナナミの反撃に、リュウは何が起こったか分からなかった。
しかし股間に受けた衝撃と、すぐに湧きだしてきた重苦しくも痺れるような痛みに、自分の身に起こったことを理解せざるをえなかった。
反射的に股間を両手でおさえると、前かがみになった、痛みに耐える体勢をとる。

「やったあ!」

ナナミは嬉しそうに叫んだ。
しかしチヒロが、横から声をかける。

「まだだよ!」

「あ。はい!」

ナナミはすぐに立ちあがると、前かがみになって脂汗を流しているリュウの顔面に、指先全体を使って目打ちを打ち込んだ。

「う!」

眼球を直接攻撃するものではないが、相手の視界と思考力を奪うには十分で、リュウは思わず両手で顔面をおさえた。
当然、その股間はがら空きになる。内股になっているとはいえ、ナナミの小さい足は、十分その隙間を狙えた。

「はいっ!」

ナナミはとどめとばかりに、鞭のようにしなる金的蹴りをリュウの股間に放った。
グニっとした金玉の感触を、ナナミは足の甲に感じた。

「はうっ!!」

リュウは顔面の痛みと股間へのさらなる打撃に、パニックになってしまった。
先ほどの手のひらの打撃とは比べ物にならない衝撃が金玉に加えられたことで、リュウのひざはその意志とは無関係に崩れ、前のめりに床に突っ伏してしまった。

「くうぅ…!」

湧きあがってきた金玉の痛みに、情けない悲鳴をあげる。
両手で股間をおさえて尻を高く上げ、額を床にこすりつけるその姿は、男の逞しさとは程遠いものだった。




「リュウ! おい、あんなの反則だろ!」

「えー。ウチの拳法は実戦派だからね。目潰しも金的も、全然アリなんだけど。実戦的な空手は違うのかな?」

チヒロが意地悪そうに言った。
空手部の組手でも、金的に攻撃が入ってしまうことはたまにあったが、その時は組手を中断して、休憩をとってから再スタートするようにしている。

「く…。じゃあ、少し休憩を…」

「そうなの? 実戦に休憩なんかないでしょ」

チヒロの言葉を聞いたナナミは、素早くリュウの後ろに回り込み、高く上げた尻の間に見える金玉の膨らみを見つけた。

「ねえ、まだやる?」

リュウはもはや呼吸もままならないくらいに苦しんでいた。
女の子相手にギブアップすることなど、想像もしていなかった。男のプライドで必死に痛みに耐えていたが、まったく終わりの見えない地獄の苦しみに、そのプライドも崩壊寸前だった。

バシン!

ナナミはつま先を、容赦なく金玉に打ち込んだ。
他の部分に当たっても、痛みを感じないような蹴りだったが、すでに痛めつけられたリュウの金玉は、極端に敏感になっていた。

「あぐっ!!」

リュウは電撃に打たれたように、ビクッと体を震わせて、悲鳴を上げた。

「ギブアップしないの?」

ナナミは楽しそうに、リュウを見下ろしていた。
リュウはついに諦めて、ギブアップしようとする。

「ギ、ギブアッ…ぎゃあ!」

リュウが言い終わる寸前に、再びナナミがつま先を金玉に打ち込んだ。

「えー? なあに? 聞こえなかったよお?」

意地悪そうにほほ笑むナナミ。

「ギブ…ギブ…ぐえっ!」

リュウが言いかけると、ナナミが金玉を蹴る。
それを3、4回も続けると、リュウはもはや全身に力が入らなくなり、横倒しに倒れて、丸くなってしまった。
痛みに顔は青ざめて、Tシャツも汗でびっしょりになっている。
もはや金玉を守ること以外頭にはなく、細い息をしながら、震えていた。

「ねえ、まだやるの?」

ナナミは倒れるリュウの側にしゃがみこむと、すっと手を伸ばして、ジーパン越しにリュウの金玉を掴んだ。
もはやリュウは悲鳴を上げる事も出来なかったが、ハッと息を飲んで、ナナミの手首を握る。しかしその手には、まったく力が入っていなかった。

「お、おい! もういいだろ。もうやめろよ!」

リュウがナナミにやられる様を悔しそうに見ていたユウジだったが、さすがに見かねて声をかけた。

「えー。だってまだ、ギブアップって言ってないし。ねえ、先輩?」

「そうだねえ。降参したいなら、ギブアップって言わないとねえ」

二人はわざとらしそうに言う。

「ねえ、リュウ君、ギブアップしなよ」

「意地はらないでさ」

サキとエリコも声をかけるが、リュウにはもはや戦意はなかった。
痛みで呼吸もままならない状態なので、ギブアップと言いたくてもごく小さな声しかだせなくなっていたのだ。
それでも何とか声を出そうとすると、ナナミが金玉を痛めつけるので、それは悲鳴に変わってしまう。
金玉の痛みは声も出せなくなるほどのものだということを、サキとエリコは理解していなかったが、ナナミとチヒロは十分わかった上で、リュウを苦しめていたのだ。

「ゆ…ゆるして…」

すんなりとギブアップすることが無理だと悟ったリュウは、ナナミに許しを乞うことにした。
普段から空手で体を鍛え、相当の実力をつけていた自分が、こんな小さな女の子に許しを乞う現状に、リュウは思わず涙を流してしまった。
サキとエリコもその様子を見ているのだが、もはやそんなことを気にしている余裕はなかった。
ナナミの手はリュウの金玉をしっかりと掴み、もてあそぶようにコロコロと転がしている。その度にハンマーで叩くような鈍痛が、リュウの下半身を襲っているのだ。

「ん? なあに? 聞こえなーい」

ナナミはわざとらしく耳を向けた。
リュウは半分泣きながら、精一杯の大声で叫んだ。

「許して下さい! お願いします! ギブアップです」

そんなリュウの姿を、サキとエリコは息を飲んで見つめていた。
あんなに逞しい体をして、強さを自慢していたリュウが、ナナミのような女の子に負けてしまっているのだ。
驚くと同時に、不思議な高揚感を、二人は感じていた。

「すごい…」

「アソコをやられると、泣いちゃうんだね…」

そんな囁きが、ユウジの耳にも入る。
ユウジは悔しそうに、それを聞いていた。

「あれえ? ギブアップしちゃうの? 強い強い空手部様が、拳法部の一年生の、しかも女の子にギブアップしちゃうんだ。これは驚きだねえ」

チヒロは大声でそう言った。

「も、もういいだろ! 離してやれよ!」

ユウジはこれ以上、リュウの情けない姿を見ていたくなかった。

「え? 離すって、これですか? この、タマタマ?」

ナナミは確かめるように、掴んだ金玉を引っぱりあげて見せた。

「ああっ!」

リュウは甲高い、女の子のような悲鳴をあげる。
その滑稽な姿に、サキとエリコは思わず失笑してしまった。

「タマタマ、そんなに痛いんですかあ? 大変ですねー、男の人って」

ナナミは楽しそうに笑っている。
リュウはそんな辱めを受けながらも、黙って痛みに耐えることしかできなかった。

「そんなに痛いなら、離してあげてもいいけど。でも、さっきアタシのパンツ見たから、お仕置きね。えい!」

ナナミはそう言うと、両手でがっちりとリュウの金玉を掴み、これまで以上の力を込めてギュッと握りしめた。
その瞬間、リュウの金玉は、袋の中でグリッと変形させられる。

「ぐぎゃあ!!」

リュウは痙攣し、動かなくなった。

「はい、おーしまい! ありがとうございましたー」

ナナミはリュウの金玉から手を離すと、立ちあがってペコリと頭を下げた。
その様子はいかにも可愛らしくて、今まで男に地獄の苦しみを与えていたとは到底思えなかった。

「お疲れ。まあまあじゃない。腕上げたね」

「いやあ、先輩のおかげですよー。なんか、パンツ見せたら簡単に油断して、エッチな人で助かりました」

ナナミは照れ臭そうに言った。
リュウは床にうずくまって震えていたが、サキとエリコがそばに来て、介抱してやろうとした。

「大丈夫? アソコが痛いの? どんな風に痛いの?」

「潰れちゃったのかな。これ、どうすればいいんだろう」

リュウはそんな二人の介抱が、ありがたくも恥ずかしかった。
男の強さを見せつけるつもりが、逆に男にしかない急所の弱さを見られてしまい、泣いて女の子に許しを乞うという屈辱的な姿をさらしてしまったのだ。

「大丈夫だよ。タマタマ、潰れてはいないから。そのうちおさまるから、腰でもトントンしてあげれば?」

ナナミは他人事のように言った。

「腰? こうかな?」

エリコはぎこちない様子で、リュウの腰のあたりを叩いてみた。

「そうそう。トントントンって。良かったねー。タマタマ、お大事ね」

ナナミの言葉が、リュウにはこれ以上ないくらい屈辱的だった。
エリコの介抱には助かったが、それ以上にリュウの男としてのプライドはズタズタにされてしまったのである。エリコとサキに寄り添われながら、道場の隅這いずって、そのままうずくまってしまった。

「さあ。次はアタシとアンタかな? どうする? なんなら、防具をつけてもいいよ。ウチの男子が使ってるヤツがあるからさ」

チヒロは自信満々な様子で、ユウジに言った。
ユウジは内心、防具をつけることに気持ちを動かしていたが、挑発的なチヒロの態度に、ためらっていた。

「ああ、あのタマタマにつけるカップですか? 着けた方がいいよー。ちょっと動きにくいかもしれないけど。アレが無いと、男の子は痛いんでしょう? 大変だよねー」

ナナミはさも気の毒そうに言ったが、それは逆にユウジのプライドを刺激した。

「い、いらねえよ、防具なんか。お前の攻撃なんか、当たらねえんだからな。俺は、リュウみたいに油断しないぞ」

ユウジは強がってそう言った。
チヒロはナナミよりもずっと背が高く、拳法の経験も豊富なことが、空手をやっているユウジには分かっていた。
それを考えると、正直不安にならないでもなかったが、男の尊厳を守るために、ここは強がっても防具をつけるわけにはいかなかったのだ。

「あ、そう。じゃあ、やろうか。どうなっても知らないけどね」

チヒロは小さく笑いながら言うと、さっそく道場の中央に立った。
ユウジはちょっと気後れしていたが、やがて自分を奮い立たせて、チヒロの前に立った。

「あ、始めるんですか? 先輩、がんばれー!」

「よろしくお願いします」

「……」

チヒロは礼をして構え、ユウジは無言のまま、構えた。
先ほどのリュウとは違い、ユウジは極端に金的攻撃を警戒しているようだった。

「あれ? こないのかな? じゃあ、こっちから行こうかな…。えい!」

チヒロはごく自然な様子で間合いを詰めると、鋭い前蹴りを放った。
金的を狙ったものではなかったが、ユウジは反射的に腰を引いてかわした。

「ほらほら!」

チヒロは間髪いれず、突きや蹴りでユウジを攻め立てていった。
さすがにその攻撃は鋭いもので、ユウジはかわすのに必死だった。
しかしそれ以上に、ユウジの関心は金的攻撃に絞られていたため、どうしても腰がひけてしまう。

「おら!」

チヒロの攻撃の合間にチャンスがあっても、ユウジは腰の入った攻撃ができなかった。
何より足を上げて股間に隙ができることを怖がっていたため、ユウジは蹴りが出せなかった。
それを見抜いていたチヒロは、ホットパンツから伸びた長い足を使って、遠い間合いから攻撃をしかけるようになる。
自然、ユウジは防戦一方になってしまった。

「フフ…。それが空手なの? そんなんで勝てるの?」

チヒロはまだ勝負を決める気はないようで、余裕を見せながらユウジをあしらっていた。
ユウジは焦っていたが、それでも金的の恐怖が、思い切った攻撃をためらわせていた。
その様子を見ていたサキとエリコの囁きが、ユウジの耳に入る。

「なんか、ユウジ君、怖がってない?」

「あれだよ。やっぱりアソコ蹴られるのが怖いんじゃない?」

「あー、そうなんだー。でも、あんなに腰引いて、カッコ悪いね」

彼女たちのそんな会話が、ユウジのプライドに火を付けた。
注意していればかまわないだろうと、ユウジは大きく踏み込んで、回し蹴りを放った。

「おりゃ!」

しかしチヒロはそんなユウジの思惑を予期していたかのように、ユウジの回し蹴りをすっとかわすと、ごく軽い蹴りを、がら空きになったユウジの股間に放った。

「うっ!」

と、ユウジの動きが止まる。
チヒロは余裕の表情で、それを眺めていた。
思わず股間をおさえそうになるのを、ユウジは寸前でこらえた。
その様子を、サキとエリコが興味深そうに見ている。

「え? 今ので痛いの? マジで?」

「ほら、けっこう痛がってない? やっぱり、アソコって急所なんだねー。面白くない?」

金玉の痛みに苦しむリュウを介抱してやりながらも、やはり二人にとってはユウジが男性特有の急所に怯え、苦しむ姿を見るのがおかしかった。
チヒロもまた、得意げな表情でユウジを見下ろしている。

「あ、ごめんね? 手加減したけど、痛かった?」

その顔には、言葉ほどの申し訳なさはまったく読み取れなかった。
自分は決して味わうことのない急所の痛みに苦しむ男の姿を、蔑んでいるような微笑みを浮かべている。
ユウジは気を取り直して、再びチヒロに攻撃をしかけた。

「くそっ! この野郎!」

「お! そうそう。その調子! さっすが男の子!」

一発でも金的に入ると、男の動きは途端に鈍いものになってしまう。
チヒロはその経験から察して、ユウジの動きが万全の状態に戻るには、まだ10分以上の時間が必要だと思っていた。
それを分かっていながら、さらに組手を続けるつもりなのである。

「えい! これならどうだ!」

力んだ攻撃で完全に体が流れてしまったユウジの側面に回り込み、チヒロは再び金的蹴りを放った。
今度もまた、力を抜いた、軽い威力の金的蹴りである。

「ぐえ!」

それでも、ユウジの額に汗を浮かべさせるには十分な威力だった。
先ほどのダメージも残っていたので、今度は内股になって、前かがみになってしまう。
動きは止まってしまったが、チヒロは追い打ちをすることはなく、楽しそうにユウジの様子を見ていた。

「ハア…ハア…」

必死の形相で、痛みに耐えるユウジ。

「うーん、キンタマ痛―いって感じ? フフフ…」

チヒロはおどけて、自分の股間を両手でおさえて内股になってみせた。
それを見て、ナナミだけではなく、サキとエリコも笑う。
ユウジはしかし、それに反応するどころではなかった。

「ねえ、空手の強さを見せてくれるんじゃなかったの? 今、認めるなら許してあげるよ。空手は拳法にはかないませんって。キンタマを蹴られたら、僕は女の子にも負けちゃいますってね」

チヒロはあざけるように笑った。
それを聞いたユウジは、気力を振り絞って体を立て直し、鬼のような形相で構えた。

「ふ、ふざけんな! お前の蹴りなんか、きいてねえんだよ! なめんじゃねえ!」

チヒロはその言葉を聞いて、一気に表情を冷たくした。

「あっそう。せっかく人が親切で言ってあげてんのに、そういう態度とるわけ? ホント、男って馬鹿だねえ。キンタマ潰されないとわかんないか」

潰すという言葉を聞いて、ユウジは思わずゴクリと唾を飲みこんだ。

「あーあ。動いたら、暑くなってきたなあ。脱ごうっと」

突然、チヒロはそう言って、その場で着ていたニットを脱ぎ始めた。
ニットの下には何も着ておらず、チヒロの白い肌と豊満な胸を包んだ黒いブラジャーが、ユウジの目に飛び込んできた。
その大きな胸の谷間に、ユウジは状況も忘れて、見入ってしまう。

「ほら。あげる」

チヒロは自分の胸を凝視するユウジに向かって、脱ぎ終わったニットを投げた。
ユウジの目の前にニットが広がり、視界が奪われる。

「えい!」

チヒロは一瞬で間合いを詰めて、渾身の金的蹴りを放った。
力の抜き具合、入れ具合、足首のスナップ、蹴りあげの角度、すべてが完璧に近い、見とれるほど美しい金的蹴りだった。

パシィン!

という音も、ユウジには聞こえなかった。
ただ、踵が浮き上がるほどの衝撃が股間の真下からきて、自分の睾丸がチヒロの足と恥骨の間で潰れるギリギリまで圧迫されるのを感じた。
その瞬間、寒気が走るほどの痛みが背筋を突き抜けたが、さらにチヒロの足はユウジの金玉の裏をえぐるようにこすりあげて引き戻される。
金玉の神経が集中している副睾丸が捻るように圧迫されて、巨大な重りを叩きつけられたような感覚が襲ってきた。

「ぎゃばっ!!」

奇妙な叫び声を上げて、ユウジは顔面からべちゃりと床に倒れ込んだ。
堅い床の上で、顔面にも相当の衝撃があったはずだが、そんなことも問題にならないくらいの痛みが、睾丸から立ち上ってきている。

「はぐぅう!!」

もはや恥も外聞もなく、金玉を両手でおさえて、足をじたばたさせて、その場でゴロゴロと転がった。
それを見ていたサキとエリコは、最初は驚いたが、あまりにも滑稽なユウジの姿に、笑いをこらえきれなくなった。

「ちょっと、マジで? どんだけ痛いの?」

「ヤバイ、ヤバイ。おかしくなってる」

二人は初めて見る男の情けない姿に爆笑していたが、うずくまっていたリュウは、チラリとその様子を見て、ゾッとしたような表情を浮かべていた。

「手応えありましたね、先輩!」

チヒロはユウジの苦しむ様子を、当然のような顔で見つめていたが、ナナミの言葉にうなずいた。

「ちょっと、本気出しちゃった。潰れたかなあ」

やがてユウジは転がるのをやめて、亀のように丸くなって、震えだした。
口から涎を流して、鼻水を垂らし、目には涙が光っている。

「おい、まだ終わってないぞ」

チヒロはユウジの側にしゃがみこむと、いきなりユウジのジーパンに手を突っ込んで、トランクス越しにユウジの金玉を掴んだ。
ユウジは抵抗したかったが、体にまったく力が入らない。

「ぎゃう!!」

ただ背中を丸めて、痛みに震えることしかできなかった。

「アンタはもう、ギブアップしても許さないよ。拳法を馬鹿にした罪を、このキンタマで払ってもらうからね」

チヒロはそう言って、ユウジの二つの金玉を捻りあげた。

「ぎゃああ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

あまりの痛みに、ユウジは我を忘れて叫んだ。

「今ごろ遅い! オカマになって後悔しな!」

チヒロはしかし、手を緩める気配がない。
ユウジの金玉は、万力に挟まれたように変形する。

「すいませんでした! 許して下さい。何でもしますから…」

「ふーん。じゃあ、まず、空手は拳法にはかないませんって、認めな」

チヒロは少し、手を緩めてやった。

「空手は拳法にはかないません! すいませんでした!」

「よおし。じゃあ次は、僕は女にはかないませんって言いな。キンタマ蹴られたら、小学生の女の子にも負けちゃいますってね」

「そ、それは…」

ユウジに残されたわずかな男のプライドが、ためらわせた。
しかしそんなことも吹き飛ばすほどの痛みが、再びユウジの金玉を襲う。

「違うの? じゃあ、潰すね、コレ」

チヒロが再び、金玉を握りしめたのだ。

「あああ!! い、言います! 俺は、女には絶対にかないません! 金玉蹴られたら、小学生にも負けます! 認めますから、離して…」

「よおし。それでいいんだよ。ホントのことじゃない。弱っちいくせに、二度とでかい口たたくんじゃないよ!」

「わ、わかりました。わかりましたから…」

ユウジは今にも気を失いそうな痛みの中で、必死にチヒロに謝った。

「どう? アンタ達も、空手と拳法と、どっちが強いか分かったでしょ?」

チヒロはサキとエリコに向かって、言った。

「あ、はい。そうだねー。ユウジ君たち、ちょっとカッコ悪かったねー」

「だねー。アタシも習うなら、拳法の方がよさそうだなー」

「でしょ? 拳法部は、いつでも新入部員を歓迎してますよ!」

ナナミが胸を張って答えた。

「そうそう。ちゃんと稽古すれば、女の子でも男に勝てるようになるから。こんな風にね」

そう言うと、チヒロはユウジの金玉を一つだけ握り、これまでにない力を加えた。

「ひいぃい!!」

ユウジは奥歯を噛みしめて呻いた後、泡を吹いてゴトンと床に倒れてしまった。

「あれ? 気絶しちゃった?」

チヒロはようやくユウジの金玉から手を離すと、顔を覗き込んで、笑った。

「ま、このくらいにしといてやるか。おい、アンタ、コイツの後片付けしとけよ」

チヒロはいまだに痛みに震えているリュウに向かって、言った。
リュウはハッとして顔をあげる。

「言うこときかないと、キミのも潰しちゃうよ?」

その顔をナナミが覗きこんで笑う。
リュウはうずくまりながらも、必死にうなずくことしかできなかった。

「リュウ君、じゃあ、アタシ達もいくね」

「そうしよっか。頑張ってね」

サキとエリコは、連れだって道場を後にした。
その様子を、ナナミは面白そうに眺めた。

「あーあ。ふられちゃった。でも、あっちの人はタマタマ潰れちゃったから、もう関係ないか」

「バーカ。潰してないよ。ま、しばらくは使いもんにならないかもしれないけどね」

「えー。そうなんですか? 先輩、怖いなー」

二人は笑いながら、道場を出ていった。
リュウとユウジは、うずくまったまま、しばらく立ち上がることもできなかった。




終わり。


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