「お、おい。やめろって。お兄ちゃんが悪かったから…。仲直りしよう。な?」
「このくらいかなー。もっとかなー」
ノブユキの必死の頼みも、ハツネにはまったく聞こえていない様子で、熱心に定規の耐久性を確かめていた。
「えーと。キンタマはここでしょ?」
ハツネは思い切り曲げたアクリル定規を、ノブユキの股間の前に持ってきた。 ミシミシと、定規が曲がるイヤな音が、ノブユキの耳に聞こえる。
「ハツネ! ゴメンってば! 何でもするから。そうだ、お菓子を買いに行こう。お兄ちゃんがおごってやるから…」
「ホント? じゃあ、コレが終わったらね?」
ノブユキは叫ぶように懇願するものの、ハツネはまったくやめる気がなかった。 そして無情にも、大きく曲がったアクリル定規を支えるハツネの指が解かれ、ヒュン、と空気を切って、定規はノブユキの金玉に叩きつけられた。
パシィン!
高く、気持ちのいい音がした。 ハツネはその音を聞いて、実験の成功を確信したが、ノブユキは弾けるような痛みを、金玉袋の表面に感じた。 そしてその直後、黒煙のような重たい痛みが、下腹部全体に広がっていく。
「はぐぅ!」
ノブユキが痙攣して、イスがガタリと揺れた。 すぐにでも両脚を閉じて痛みに耐えたかったが、それすらも今のノブユキには許されない。
「いい音したねー。今のはきいた? どう?」
ハツネは楽しそうに、アクリル定規を振りまわした。
「ねえ、ねえ、お兄ちゃん?」
無言のまま首をうなだれて震えている兄の肩を、ハツネは定規でバシバシと叩く。
「も…もう、やめて…。俺が悪かったから…」
ノブユキはやっと、絞り出すような声で言った。 その目にはうっすらと、涙が浮かんでいる。
「えー。まだまだだよー。いろいろ準備したんだからね。ほら見て。輪ゴムでしょ。スプーンでしょ。洗濯バサミと、国語辞典。クラスの男子から、野球のボールも借りてきたんだ。この球とキンタマって、どっちが強いのかなあ?」
ハツネは楽しそうに、手提げ袋の中を広げて見せた。
「やめてくれ…。お願いします…」
しかし、自分が想像した以上のダメージを受けて、予想外にしおらしくなってしまった兄を目にして、ハツネは考えを改めざるをえなかった。
「むー。しょうがないなー。じゃあ、もうハツネのこと叩かないって誓う?」
「誓う…。誓います…」
ノブユキは必死にうなずいた。
「これからも、ハツネの言うこと聞いてくれるんだよね?」
「はい…。聞きます…」
「じゃあ、ちょっと物足りないけど、許してあげよっかな」
ハツネがそう言うと、ノブユキはホッと安心する思いだった。
「ただし」
ハツネは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「お兄ちゃんのキンタマ、ちょっと見せてね。どんな風になってるのか、見たかったんだ」
そう言うと、ハツネはノブユキの返事も待たずに、トランクスに手をかけて、一気にひざまで下ろしてしまった。
「あ、ちょっと…」
ノブユキは、まだ小さい頃はハツネと一緒にお風呂に入ったりしていたこともあったが、ここ数年はさすがに裸を見せ合うようなことはなかった。 特にノブユキの股間にわずかな陰毛が生え始めてからは、人並みに恥ずかしがるようになっていたのである。
「あー。お兄ちゃん、もう毛が生えてるんだー。すごーい」
ハツネは特に恥ずかしがる様子もなく、ノブユキのペニスと金玉を観察し始めた。
「チンチンは、あんまり変わらないね。この下にあるのが、キンタマなの?」
ノブユキは恥ずかしさと苦しさで、無言のままだった。
「ねえ、お兄ちゃん!」
ハツネはペニスにデコピンをした。 ノブユキはハッと身を震わせて、答える。
「はい! そうです…」
自然と敬語になってしまっていた。
「ふーん。これがキンタマかあ…。フニフニしてるね」
ハツネは容赦なく、ノブユキの金玉袋に手を伸ばして触った。
「あ、キンタマって二個あるんだ。一個ずつ、右と左に入ってるの?」
ハツネはノブユキの金玉を触りながら、目を輝かせた。 女の子にはない器官が、よほど珍しかったようだ。
「あ…たぶん…」
「たぶんって、自分でわかんないの? 変なのー。あとコレ、まん丸じゃないんだね。ちょっと歪んでる。卵みたい」
ハツネが少し強く握って、その形を確かめると、ノブユキはうっと顔をしかめた。
「えー! お兄ちゃん、今、痛かったの? ハツネ、全然力入れてないよー」
「あ…キンタマは…敏感だから…」
ノブユキは苦しみながら言う。
「へー。そうかー。こんなのでも痛いんだー。大変だね、キンタマって。潰れちゃったりしたら、すごく痛いんじゃないの?」
「あ、うん…。分かんないけど…」
言いながら、ノブユキはイヤな予感がした。
「ふーん。あのさ、お兄ちゃん。キンタマ、一個潰しちゃダメ?」
ハツネは上目づかいの可愛らしい顔で、とんでもないことを聞いてきた。 ノブユキの予感は悪い方に的中し、必死に首を横に振った。
「ダメダメダメ! 絶対ダメ!」
「えー。いいじゃん。二個あるんだからあ。一個だけだって。ね?」
「ダメだって。それだけはダメ! ホントにやめて!」
ノブユキは改めて、身動きできないこの状況に恐怖を感じた。 口でいくら抵抗しても、ハツネが納得するだろうか。最悪の場合、金玉を一つ潰されてしまう。 ノブユキはとにかく必死に叫び続けることしかできなかった。
「やめて! お願い! 何でもするから、それだけはやめてくれ!」
「むー。そっかあ。でも、お兄ちゃんはハツネの言うこと聞くって約束したんだから、ちょっと試してみるだけね?」
ハツネはノブユキの金玉に、両手をかけた。
「どっちがいいかな…。こっちがちょっと小さいかな。こっちでいいや」
「や、やめて! やめてってば!」
ハツネはノブユキを無視して、右の睾丸をがっちりと両手で掴む。
「いくよ。そーれ! ギュー!」
可愛らしいかけ声と共に、ハツネはノブユキの睾丸を渾身の力で握りしめた。 恐ろしいほどの痛みが、ノブユキの体全体に電気のように走る。
「ぎゃあぁぁ! ダメ! ダメー!」
ノブユキが全身を痙攣させると、さすがに縛り付けてあるイスがガタガタと動いた。
「あ、ダメ。動いちゃダメだよう。コリコリして、握りにくいんだね」
ハツネはしかし意に介さず、睾丸を握る手を緩めようとはしない。
「あぎゃー! ぐえっ、えっ!」
小学生のハツネのか弱い握力といえど、金玉に苦しみを与えるのは十分すぎるものだった。 数秒間も握られ続けると、ノブユキは、これまでにない寒気のようなものを感じて、喉の奥から気持ちの悪い感覚がこみ上げてきた。
「どう、お兄ちゃん。潰れそう?」
「つ、潰れる。潰れるから! はなしてー!」
「そうなの? でも、まだもうちょっと…。えーい!」
ハツネは気合を入れ直して、さらに強く睾丸を握りしめた。 すると次の瞬間、ハツネの手の中から、グリッと睾丸が逃げる感触がした。
「ぎゃうっ!」
ノブユキは背筋を伸ばして身を震わせて、次にガクッと首を前に落とした。
「あれ? 潰れちゃった?」
ハツネは不思議そうに、自分の両手を見た。 ノブユキの金玉袋をそっと触ってみると、そこにはまだ睾丸が二個、あった。
「なーんだ、潰れてなかったんだ。キンタマが手の中から逃げちゃったんだね」
ハツネは納得したようにうなずいた。 ノブユキはうなだれたまま、ピクリともしない。
「でもホント、なんで男の子にはキンタマなんて付いてるのかなあ。こんなの、痛いだけなのに。潰しちゃえば、もう痛いこともなくなるのかなあ」
ハツネは独り言のようにつぶやく。
「お兄ちゃん」
ハツネが呼ぶと、ノブユキはゆっくりと顔を上げた。 その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、疲れ切っている。
「も、もうやめて…。お願いだから…」
「あれ? お兄ちゃん、そんなに痛かったの? ゴメンね。潰れてはいないから、大丈夫だよ」
「は、はい…」
ノブユキはまたガックリとうなだれた。
「じゃあ、今日はこれで許してあげる。でもまた、ハツネに意地悪したりしたら、今度こそ潰しちゃうかもよ。フフフ」
ハツネはそう言って、ノブユキを縛り付ける紐をほどいてやった。 やっと自由になった両手で、ノブユキは自分の金玉の無事を確かめる。
「あと、このことはパパとママには秘密だからね。わかった?」
「はい。はい」
ノブユキは必死にうなずいた。
「あ、でもパパにもキンタマがあるんだっけ。じゃあ、今度はパパのもいじってみたいなあ。どうしようかなー」
ハツネは楽しそうに笑いながら、手提げ袋を持って、リビングから出ていった。 ノブユキが立ち上がれるようになるまで、1時間以上、イスに座っていることしかできなかった。
終わり
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