「いい天気だな、今日は」
「ああ。絶好のナンパ日和だぜ」
とある郊外の海水浴場。 都会から遊びに来ていたリョウとコウヘイは、堤防の上に立ち、白い砂浜を見下ろしていた。
「今年の目標は?」
「まあ、5人くらいッスかねー」
二人は同じ大学の先輩後輩で、毎年夏が来るとあちこちの海水浴場に繰り出して、ナンパをしまくるのが恒例だった。 良く焼けた黒い肌と金ピカのアクセサリー、ボサっとした茶髪がいかにも都会の若者という雰囲気で、この田舎の海水浴場には不釣り合いだった。 彼らはもう都会近辺の海水浴場には行きつくしてしまい、最近では少し足を伸ばして、こういった郊外の海水浴場で純朴そうな地元の女の子をひっかけるようになっていたのだった。
「じゃあ、俺は6人だな」
リョウはコウヘイの言葉を聞いて、強がってみせた。
「いいっスねー。じゃあ、行きますか」
二人はいよいよ浜辺に繰り出そうと、堤防の階段を降りようとした。 しかしそこには、水着姿の高校生くらいの女の子3人が、階段を塞ぐようにたむろしている。
「すいませーん。ちょっといいですかー?」
コウヘイはいかにも軽そうな言葉遣いで、少女達の間を通ろうとしたが、少女達は無言のまま、その場所をどこうとしなかった。
「ちょお、待って。ここは検問なんよ」
少女の中でひときわスタイルが良く、ビキニの水着を着た少女が、両手を広げて道を遮っていた。 少女の名はヒビキ。地元の高校生だった。
「はあ? 検問?」
「そう。ここでウチらがチェックしてるんよ。ウチらの海に入ってほしくない人たちをな」
ヒビキは明らかに二人に対して敵対的な態度だった。その横にいた二人の少女、シズカとカオリもまた、敵意むき出しの表情で男たちを睨みつけている。
「はあ? ちょ、待てよ。キミたちさあ、警察かなんかなわけ? 何の権利があって、そんなことしてんの?」
リョウはうすら笑いながら、少女たちに問いかける。 コウヘイもまた、ヘラヘラと笑っていた。
「ここは、ウチらの海やもん。よそから変なのが入ってくると、困るんよ」
可愛らしいワンピースの水着に身を包んだシズカが言った。 シズカは身長こそヒビキよりずっと低かったが、バストサイズはむしろヒビキ以上で、男ウケしそうなコケティッシュな女の子だった。
「最近、多いもんなあ。この辺でナンパしようとか思ってるヤツらが。そういうのがいると、ウチらが安心して遊べんから、怪しいヤツは砂浜に入れんようにしてるんよ」
競泳用のような水着を着たショートカットのカオリは、170センチはあろうかという長身で仁王立ちしていた。良く焼けた肌と広い肩幅、引き締まった体つきは、水泳部に所属していることを連想させた。
「いやいやいや。俺ら、そんなんじゃないからね。真面目に泳ぎに来ただけだから。入れてくれないかな?」
リョウはさすがに慣れた調子で弁解した。 こういった注意を受けるのは、実際、初めてではない。田舎の海水浴場には、こうしたうるさ方もたまにはいる。こんな少女達から注意されたのは初めてだったが、とにかくとぼけることが一番だと思っていた。
「そうそう。俺達、都会の海が騒々しくてさ。ちょっと離れたところまで泳ぎに来ただけなんだ」
ヒビキたちはそんなリョウたちの様子をジッと見て、何事か小声で相談した後、うなずきあった。
「ダメ。アンタら、この近くの海水浴場で噂になっとったからな。ちゃんと聞いてるよ。チャラい二人組が、ナンパばっかりして困りよるって」
ヒビキの言葉に、二人は心当たりがあった。 去年はこの隣町にある海水浴場に行って散々ナンパをしまくって、地元の若者とトラブルになりかけたのだ。
「ウチらの海では、そんなことはさせんよ。このまま帰ってもらうわ」
腕組みをして言い放つカオリの迫力に、リョウたちはちょっと気圧されたが、すぐに彼女達は年下なんだということを思い出し、再び笑いながら話しかけた。
「ま、待ってよ。それは人違いだよ。俺ら、去年はずっと湘南の方にいたもんな?」
「そうそう。この近くには来てないって。人違いだろ。だから、意地悪しないで入れてよ。キミたち、彼氏とかいるの? なんだったら、俺たちと一緒に遊ばない?」
言い訳しながらも、つい癖でナンパしてしまう。 その様子を見て、ヒビキ達はこの二人を絶対に海には入れないと決心してしまった。
「アホ。ちゃんと顔を見た人がおるんよ」
「バレバレなんよ、アンタら。」
「諦めなって。帰った方がええよ」
こうなるともう、開き直るしかなかった。トラブルはできるだけ避けたいが、ナンパをしていれば、こういうこともたまにはある。 相手は女の子三人なのだから、ちょっと怖がらせれば言うことを聞くだろうと思った。
「はいはい。もう分かったからさあ。ちょっと通してくれないかな。俺達も忙しいんだよね」
二人は、水着姿の高校生達に迫り、上から見下ろすような形で威圧した。
「キミたちさあ、高校生だよね? いい加減にしないと、お兄さん達も怒っちゃうよ?」
真っ黒に日焼けした体格の良い男二人に迫られても、ヒビキをはじめシズカとカオリは、動じる様子はなかった。
「ふうん。怒ったら、どうするん?」
挑戦的な態度に、リョウとコウヘイは顔を見合わせた。
「さあて。どうしよっかなー」
「まあ、痛いことはしないからさ。かえって、新しい楽しみに目覚めちゃうかもよ?」
いやらしそうに笑っている。 そんな二人を、ヒビキ達は冷たい目で見つめていた。
「そうか。残念やな。ウチらはアンタらのこと、痛くしてやるわ」
ヒビキはそう言うと、不意に右足をあげて、目の前に立っていたリョウの股間に膝を打ち込んだ。
「うっ!」
不意のことで、一瞬、何が起こったのか分からなかったが、すぐに下腹部から重苦しい感覚がこみ上げて来て、自分の急所が攻撃されたものだと悟った。
「くくく…」
しかし考えるよりも先に、リョウの体は反射的に股間を両手で押さえて、膝から崩れ落ちてしまった。 その情けない姿を、膝蹴りをくわえた当のヒビキは、冷たい目で見下ろしていた。
「え? なに?」
コウヘイの方こそ、何が起こったのか分からなかった。 ただ傍らで崩れ落ちた先輩に驚いて、目を白黒させている。
「はっ!」
すると不意に、シズカの小さな体が目の前でくるりと回転して、背を向けた。オレンジのワンピースに包まれた小さなお尻が目に入ったかと思うと、次の瞬間、コウヘイの股間にも衝撃が走った。
「くえっ!」
思わず、口から舌を飛びださせて鳴いた。 シズカは左足を中心に180度回転して、その勢いで右足の踵でコウヘイの股間を跳ね上げたのだ。 狙いどころは反則とはいえ、とても素人とは思えない、武道経験者の蹴り技だった。
「くぅぅ…!」
一瞬、両脚の踵が浮くほどの衝撃を受けたコウヘイは、踵が地面に着くと同時に、うつ伏せにべちゃりと倒れ込んだ。
「うあぁぁ!」
「ぐぅぅ!」
焼けたアスファルトの熱さも忘れさせるほどの激痛が、リョウとコウヘイの股間を襲っていた。 二人は金玉を両手で包むようにおさえて内股になり、最初はゴロゴロとアスファルトの上を転がっていたが、やがてそれもやめて、脂汗を背中いっぱいに溜めて無様に尻を上げながら痙攣していた。 ヒビキ達三人は、男たちが苦しむ様子を当然のような顔で見下ろして、やがてクスクスと笑いだした。
「痛いやろ? ウチらのキン蹴りくらったら、3日は痛むからな」
「キンタマぶら下げとる癖に、女に逆らうからそうなるんよ」
強烈な金的蹴りを見舞ったヒビキとシズカは、勝ち誇るように言った。 しかしその横から、カオリが不機嫌そうな様子で口をはさんだ。
「あのなあ、アンタら。またウチが蹴れんかったやん。ウチも蹴りたかったんやけど」
「あ。そうやったなあ。でもほら、二人しかおらんかったから。仕方ないわ」
「アホ。次はウチの番やって言ってたやろ。それを、なんでいきなりアンタが蹴るん? シズカもや。思いっきり蹴りよって。一発ダウンやない」
「あ、いや、ゴメンて。つい…」
憤るカオリに、ヒビキとシズカは申し訳なさそうに頭を下げた。 その間も、金玉を蹴られた男たちは奥歯を噛みしめながら、絶望的な痛みに喘いでいる。
「アンタらもなあ! 一発でへこむなよ! 男やったら、キン蹴りの一発二発、耐えろって!」
カオリの言葉に、もちろんリョウとコウヘイは反応することすらできない。
「いや、男やから一発なんやろ…」
ヒビキがつぶやいたが、カオリがキッと睨むと、あわてて知らんぷりをした。
「もう、我慢できん! ウチにも蹴らしてもらうからな。ヒビキ、シズカ! コイツら起こして!」
カオリの叫びに、男たちはうつむきながら背筋を凍らせた。
「えー。めんどくさーい。もう、ええやん」
「うるさい! やるったらやるんや! 早くして!」
「はいはい」
ヒビキとシズカはしぶりながら、うずくまっているリョウの両脇を掴んで、無理矢理引き起こした。 リョウは抵抗したかったが、まだ体に力が入らず、二人の女の子のなすがまま、ひざ立ちの状態になってしまった。
「よおし! いくよー!」
カオリは待ちかねたように、右足を鋭く蹴りだして素振りをする。 その蹴りの迫力に、リョウは青ざめた顔で助けを求めた。
「ちょ…。待ってくれよ! もうやめてくれって」
「ムリムリ。コイツ、言いだしたら聞かんから」
「キンタマ潰れんように、祈ってあげるな」
両脇を支えるヒビキとシズカは、いかにも他人事のようにしているが、その手だけはしっかりとリョウの体を支えていた。
「いや…。やめてくれ…」
リョウは必死に首を振るが、カオリは意にも介さなかった。
「いくよ! はいっ!」
鋭く振りぬかれたカオリの右足は、まるでサッカーボールを蹴るかのように、リョウの金玉をジャストミートした。
「あぷっ!」
リョウの呼吸はその瞬間、止まり、その目はグルリと白目をむいた。
「おー、いい蹴りやなあ」
「さすがあ。すごいすごい」
ヒビキ達が手を離すと、リョウの体はそのまま横倒しに倒れた。 リョウは一言も発しなかったが、口から泡を吹いて、打ち上げられた魚のように全身を痙攣させていた。
「うん。こんなもんやな。気絶した?」
「うん。なんか、丸くなってるな。面白いなあ」
「こないだも、このくらいやったっけ?」
女の子たちはその様子を、こともなげに見下ろしていた。 リョウの金玉にどれだけの痛みが走ったのか、彼女たちには絶対に想像がつかないし、また考えるつもりもなかった。 ただ、金玉を蹴られた男は必ず必死の形相で悶え苦しみ、ときには気絶することもあるということしか、彼女たちの知識にはなかったのだ。
「でもなあ。毎回思うんやけど、キンタマって不便やなあ。ただ痛いだけやんか。なんで男にはこんなん付いてるんやろ」
「アホ。キンタマがなかったら、チンポも勃たんのよ。エッチができんようになるわ」
「でも、それなら大事に体の中にしまっとけばええのに。何でわざわざ蹴り易いとこに付いてるんやろ?」
「それもそうやなあ。でも、ウチとこの犬はキンタマ取ってしまったけど、チンチンは大きくなるよ。本当はキンタマいらんのじゃないの?」
少女たちがあどけなくも恐ろしい会話をしているのを、コウヘイはうつむきながら聞いていた。横目に、先輩のリョウの無残な姿が映っている。 できればこの場からすぐにでも逃げ出したかったが、シズカに蹴られた金玉の痛みは深刻で、まだまったく体に力が入らない状態だった。
「まあ男のキンタマは、蹴られるためにあるってことやないの?」
「そうやなあ。男が悪させんようにな。でも、キンタマが付いてるから、ナンパとかするんやろうなあ」
「あ、そんならこうしよ。この海水浴場の入場料は、女は無料、男はキンタマ二つって」
「ええな、それ」
「でも、それやったら男は一生に一回しかここに来れんよ」
「ああ、そっか。そんなら、キンタマ一つにするか。よし。アンタ、立って」
コウヘイもまた、ヒビキとシズカに引き起こされた。
「よおし。キンタマもらうよー!」
カオリは再び、鋭い素振りをする。 コウヘイは三人の会話を聞いて、必死の思いで謝った。
「すいません。すいませんでした! もういいですから。もう海に入りませんから。勘弁して下さい!」
泣きじゃくりながら謝るコウヘイの姿に、三人は思わず笑い出してしまった。 大の男が高校生の女の子たちに必死に頼み込む姿は、確かに滑稽なものだった。
「そんな、遠慮せんでいいよ。入場料さえもらえれば、入れてあげるって」
「そうそう。キンタマさえもらえれば、いくらでも入っていいんよ」
「そんな…。すいません。許して下さい。お願いします!」
コウヘイの言葉を遮るように、カオリの蹴りが飛んできた。
「キンタマ一つ、いただきまーす!」
バシィン! という乾いた音と共に、コウヘイの意識は空の彼方に飛んで行った。 カオリの右足はコウヘイの股間に深々とめり込み、その睾丸を破壊した。 コウヘイの体は一瞬の硬直の後に一気に力が抜けて、彼もまた、先輩のリョウと同じように、白目をむいてアスファルトに倒れこんでしまった。
「おー。潰れた?」
ヒビキがコウヘイの様子を見ながら、言った。
「いや、どうやろ。わからん」
「触ってみようか。…うわっ!」
シズカがコウヘイの股間に手を伸ばそうとした瞬間、水着の股間のあたりが、じわりと濡れ始めた。
「あ、漏らしよった、コイツ!」
どうやらコウヘイは睾丸を蹴られたショックで、失禁してしまっていた。 横倒しに倒れた彼の股間から広がった染みは、水着をつたって焼けたアスファルトにも黒く広がっていく。
「あかーん。ばっちいなあ」
「もう、行こ行こ」
「でも、潰れたかどうかは…」
コウヘイの金玉の状態を確かめたいカオリを引っ張るようにして、ヒビキとシズカはその場を去っていった。 気絶したリョウとコウヘイが病院に運ばれるのは、それから数時間後のことだった。
終わり。
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