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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


俺は見ている。
電車の中から、ずっと見ていた。
細い首すじ。
つやのある、よく手入れされた、真っ黒い髪の毛。
うなじの部分に見える、透き通るような真っ白い肌とのコントラストが素晴らしいじゃないか。
地味な黒縁の丸いメガネが、かえってそそらせてくれる。
それはあのお嬢様学校の制服だ。
お尻の形なんかわかるはずもないくらい、長いスカートだが、その下には肌よりも白い純白のパンティーがあるんだろ。
そうであってくれよ。
白じゃなければ、縞模様がいい。控えめな女の子の精いっぱいのオシャレって感じで、縞々の下着はいいもんさ。

わたしは見られているような気がする。
駅を降りた時からずっと、後をつけられているような気がした。
どうしよう。
この先はちょっと薄暗くて、誰も住んでいない住宅街が続くけど。
わたしの家はまだ先だ。
わたしは少し、早歩きをすることにした。

俺は思った。
この女、少し歩くスピードが速くなったな。
俺が後をつけてるのに、気がついたのか。
でももう遅いぜ。
この先はしばらく、人通りが少ない場所だ。
お前の家はまだ先だろ。
この先の、大きいあの家だ。
家に帰れば安心なんだろうけどな。
そうはいかないよ。

わたしは不安になった。
後ろの足跡が、ぜんぜん遠くならないから。
後ろの人も、同じように早歩きになったってことだろうか。
それって、つまり。
それは。

俺は思った。
そろそろいいか。
もうここらで時間いっぱいだ。
このあたりでいかせてもらうとするか。

わたしは驚いた。
足音が、急に近づいてきたから
振り向こうとしたら、その前に両腕を包むようにして抱きつかれた。
大きな体の、男の人。
がっちりとおさえこむように、抱きついている。
怖い。
なにこれ。
なにが起こってるの?

「静かにしてろ。声出すなよ」

俺は低い声でそう言った。
女の子の体が、ビクッと震えるのが分かった。
しかし、なんて柔らかさだよ、これは。
女の体ってのは、男とは全然違う。
束ねたポニーテールが俺の顔をくすぐる。
なんていい匂いなんだ。

わたしは黙ってうなずいた。
うなずくしかない。
怖い。
誰か助けて。
でもこの辺りは、めったに人が通らない。
もしかしたらわたしは、このまま殺されてしまうんじゃないだろうか。

俺は満足していた。
コイツはうつむいたまま、声一つ上げない。
やっぱりおとなしそうな子を選んで正解だった。
ご褒美に、すぐ済ませてやるよ。
ちょっとだけ我慢してくれよな。

わたしは思わず、両手で持っていたカバンを落としてしまった。
男の人の手が、わたしの体を触り始めたから。
気持ち悪いし、かなりくすぐったい。
どこを触ってるの? 胸? お腹?
もう考えたくない。
早く時間が過ぎてほしい。
早く終わって。

「ふうぅ」

俺は思わずため息をついた。
この柔らかくて、張りのある体。
胸は少し小さいみたいだが、それもまたいいか。
まだ発達してない腰から太もものあたりが、たまらない。
コイツはまだ大人しくしているみたいだし、ちょっとだけ失礼しようか。
しっかりと大人になっているか、確かめてやるよ。

わたしの体が、また震えた。
男の人の手が、わたしのスカートの中にまで入ってきたから。
生温かい太い指が、お腹の下の方に入ってくる。
そこはダメ。絶対ダメ。
理由はわからないけど、本能が伝えてる。
その瞬間、わたしの頭の中に、ある声が響いてきた。

「男の急所はキンタマ!」

わたしは確かに聞こえた。
昔、なにかのときに聞いた言葉。
自分でも口に出して言った言葉だった。
そうだ。男の人には、その急所があるんだ。
襲われた時には、そこを狙えって教えてもらった。
わたしは思い出した。
さっきから、わたしのお尻に棒みたいな堅いものが当たってる。
これがつまり、あの、ペニスというヤツで、狙うのはその下、だったはず。
わたしは思い切って、右手をその場所に伸ばしてみた。

俺は夢中になっていた。
指先が女の子の大事な部分に届くまで、あとほんの少し。
この滑らかなパンティーの感触もすごい。
ずっと撫でまわしていたくなるよ。
すると、女の子が手を伸ばして、俺の股間をまさぐり始めた。
マジかよ。どういうことなんだ、コレは。
俺は混乱して、ちょっと手を止めてしまった。

わたしは指先に、柔らかいものを感じた。
堅いペニスの下にある柔らかい場所。
そしてその中に、コロコロと動く丸いものを探り当てた。
これだ。
これを思いっきり握りしめるんだ。
えいって心の中で叫んで、丸い塊を握りしめた。

「うっ! あぁ!」

俺は思わず声を上げた。
なんだ?
金玉を握られたのか?
キツイ、キツイ!
どういうことなんだ。
俺の股間をまさぐっていた女の子の手が、いつの間にか金玉の一つを、強く握りしめている。
これが女の子の力なのか? 握られているのが金玉だからか?
早く引き離さないと。
俺は両手で女の子の手首を掴んだ。

「は、離せ!」

わたしはさらに力を入れて、握りしめた。
男の人は、だいぶ痛がってるみたいだ。
わたしの手を引き離そうとしている。
でもここで逃げられたら取り返しがつかないことが、はっきりとわかっていた。

「んー!」

わたしは奥歯を噛んで、思わず声が出た。
丸くてコロコロしたそれは意外と堅くて、とても握り潰せそうにはない。
だから爪を立てて、それを食い込ませるようにして握りしめた。
こうした方が、痛いだろうと思ったのだ。

「うぅ! こ、この! 離せー!」

俺はうめき声を上げた。
腰を引いて逃れようとするが、この女、金玉に爪を立ててやがる。
金玉がちぎれそうだ。
鈍い痛みが、下っ腹のあたりから、体全体に広がっていく。
握られている金玉には、鋭い痛みが走る。
両手に力が入らずに、女の子の手を引きはがすこともできない。
どうする。どうしたらいいんだ、俺は。

「は、離せ! 離せってば!」

「は、離しません!」

わたしは思わず、答えてしまった。
この人と会話する必要なんかないのに。
でも大きな声で必死に離せって言われたら、つい離してしまいそうで。
自分に言い聞かせるように、離さないって答えたんだ。

「うぅ! ぐぅ」

わたしの手を掴む男の人の手が、少し震え始めてきたのが分かった。
どうして? 痛いから?
このまま握り続けたら、気絶とかするんだろうか。
潰れてしまったら、死んでしまうこともあるって、聞いたような気がする。
もしこの人が死んでしまったら、わたしが殺したことになるの?
今、私の手の中にある丸い塊はコリコリして堅くて、潰れるとは思えないけど、これが潰れるときは、風船みたいにパチンってはじけるんだろうか。

「は、離してくれ。つ、潰れる。潰れちゃうから」

俺はかすれるような声で、そう言った。
本当に潰れるかと思うくらい痛かったし、この女の子はそうでも言わないと離してくれないだろうと思った。
なんてこった。
金玉の痛みを知らない女っていうのは、手加減なく握り締めてきやがる。

「あ! は、はい!」

わたしは思わず、手を離してしまった。
本当に潰れてしまうのはまずいと思ったから。
いくら何でも、死んでしまったらどうしようかと思ったのだ。
でも、わたしが握ったくらいで、本当に潰れてしまうんだろうか。
そんなに簡単に?
男の人は、そんなに弱い部分をみんな持っているんだろうか。

俺は両手で自分の股ぐらを押さえた。
さすがに、潰れちゃいない。
しかしこの痛みは。
なにかにぶつけたときなんかはいつも思うが、他に例えようのない痛みだ。
下痢かなにかで腹を壊した時の痛みが、一番近いか。
それでも、金玉に比べれば百倍マシだろうが。
軽い吐き気までもよおしてくるような痛みで、俺はその場から動けなかった。

「あの。大丈夫ですか? 潰れちゃいました?」

わたしは思わずそう聞いてしまった。
男の人が自分のアソコを押さえて、ぜんぜん動かなくなったから。
考えてみれば、そんな心配する必要ないのかもしれないけど。
襲われたのはわたしの方なんだから、今すぐ逃げるべきなのかもしれないけど。

俺は気分が悪かった。
金玉の痛みのせいもあるし、この女の言いぐさのせいだ。
俺の金玉を思い切り握りしめたくせに、大丈夫なわけないだろうが。
女ってやつは、まったく自己中な生き物だ。
女のくせに男の大事な金玉を掴んで、許されると思ってるのか。
この女、絶対犯してやる。
お前が無慈悲に握りしめたこの男の象徴を、お前の体に突き立ててやる。
泣き叫んでも無駄だぞ。お前は絶対犯してやるからな。
痛みがゆっくりとひいていくのと同時に、俺の体に怒りが渦巻いてきた。

「ふう。ふう」

わたしは危険を感じた。
この男の人は、まだ力を残していたんだ。
痛そうにはしているけど、まだ動ける。
メガネの奥から、わたしをじっとにらんでいるようだった。
ズボンのポケットから、何かを取り出した。
あれはまさか、ナイフ?
小さい登山用みたいな。
怖い。
すごく怖いけど、今逃げようとしたら、背中から刺されるんじゃないだろうか。
怖い。すごく怖い。
だけど、落ち着いて思い出せ。
こういうときにどうするかも、教えてもらったはずだ。

「お前。覚悟しろよ。俺はもう」

俺はそう言いかけて、やめてしまった。
目の前の女の子が、いきなり振り向いて、さっき落とした自分のカバンを拾ったからだ。
なにをしようっていうんだ。

「はい。パス!」

俺は驚いた。
女の子は、いきなり自分のカバンを俺に向かって放り投げやがった。
ボールをパスするみたいに、軽く。
俺は思わず、胸の前でそれを受け取ってしまった。

「あっち! お巡りさん来てる!」

わたしはそう言って、右の方を大きく指さした。
もちろん、そっちには何もない。
だけど男の人は、つられてわたしの指さす方向を見てしまってる。
チャンスだ。
教えてもらってとおり、できた。
わたしはすかさず、男の人の左から背中に回り込んだ。
急所ががら空きだ。
男の人は少し前かがみになっていたから、さらに狙いやすい。
脚を振り上げる間、まるでスローモーションみたいに色んなことを考えることができた。
あの股の間に見える、ちょっとだけ膨らんだところがそう。
あれを蹴り上げる。思いっきり。
思いっきりで大丈夫かな。潰れたりしないかな。
でもこの人はナイフを持ってるし。
やらなきゃ、わたしが殺されるかも。
しょうがない。思いっきり蹴ろう。
ていうか、もう止められない。
たぶん大丈夫。

パァン!

俺の股間から背骨にかけて、鋭い衝撃が響いた。
何が起こったんだ。
カバンを持たされて、女の子の指さす方を見たら、誰もいやしない。
次の瞬間、どうやら金玉を蹴られたらしい。
目の前が真っ暗になりそうな痛みが、下半身から胃を突き抜けて、呼吸までできなくなりそうだった。
俺は倒れたのか。
顔に冷たいアスファルトが当たっている気がする。
何が何だか分からないが、この世界が終わるような痛みだけはリアルなようだった。

わたしは確信した。
わたしの右足の甲が、男の人の股の間の膨らみにうまく当たった。
想像よりも甲高い音がしたので、潰れてしまったのかもしれないと思った。
水風船みたいに、はじけて割れてしまったのかと思ったのだ。
でもたぶん、潰れてはいなかったんだろう。
この人はまだ生きてる。
わたしが足をおろすと同時に、ベチャって地面に倒れ込んだ。
両足を小さくジタバタさせて、背中がピクピクしてる。
カエルみたいって、そんなことを思ってしまった。

俺は絶望的な痛みの中にいた。
さっき握り締められたばかりの金玉を、今度は思い切り蹴られてしまったのだ。
声も出ない。
呼吸はできているのかいないのか。
体中に変な汗をかいているのがわかる。
痛い。痛い。痛い。
痛くて苦しくて、死にそうだ。
死んだ方がマシだ。
いっそ殺してくれ。

わたしは少しほっとしていた。
今度こそ、男の人は動けなくなったようだ。
カバンを拾うときに、その顔をちょっと覗き込むと、本当に痛そうに目をつぶって震えている。
よかった。
例えるなら、無事に綱渡りを終えたような安心感かもしれない。
ナイフを取り出した時は、本当に怖かった。
でももう大丈夫だろう。
うまく急所に当たれば、しばらくは動けなくなるらしいから。

「生きてますよね? それじゃ!」

わたしはそう言い放つと、家に向かって歩き出した。
帰って親に話して、警察を呼んでもらおう。
それまで、この人はここでじっとしてるかな。
動けないっていっても、どのくらいなんだろう。
さすがに逃げちゃうのかな。
そう考えたとき、わたしの足に何か当たった。
ナイフだ。
さっき男の人が持っていた。
蹴ったときに、落としたんだ。
やっぱり登山なんかで使う、小さいナイフ。
それを見たとき、わたしの頭にある考えが浮かんだ。

俺は時間の感覚がなかった。
どれくらい時間がすぎたのか、わからなくなっていた。
なにしろこの痛みは、まったく引く気配がない。
いつまでも俺の下半身を支配して、うずくように波打っている。
俺の頭のすぐ近くに、足音が聞こえた。
誰だ?
あの女の子か?
帰ったんじゃなかったのか?
もうお前に興味なんかないぜ。さっさと帰れよ。
俺はしばらくここでじっとしていたいんだ。

「あの。ナイフで刺したりしたら、まずいですか? その、それを」

俺は女の子の声を聞いていた。
なんのことだ。なにを言ってるんだ。
とにかく返事なんかできるわけがない。
こっちは痛みに苦しんでるんだよ。
お前にわかるか、この痛みが。

「あの、うちで犬を飼ってるんですけど。その子もおとなしくなりましたし。男の子なんですけど。その、去勢っていうんですか。そういうことができるかなって、考えたんですけど」

俺は戦慄した。
今、なんて言った?
去勢?
なにを言ってるんだ、コイツは。
去勢って。
つまり金玉を取るってことだろ。
どうやって? 
俺のナイフを持ってるのか、コイツは。

「ええっと。こっち側ですよね」

わたしはうずくまっている男の人のお尻の方に回って、そのあたりを見た。
さっき蹴ったときに、よく見えた。
あそこだと思う。
今、手で押さえてる、あの膨らんでいるところ。
あそこにあるんだろう。
その、男の人の急所が。
やっぱり痛いんだろうか。
握ったり蹴ったりしただけで、こんな風になってるんだから、切ったりしたらもっと痛いのかな。
でも、うちの犬は病院で手術してもらって、その日のうちに帰ってきたし、痛がってる様子もなかった。
動物と人間では違うのかな。
うちの犬のアレは、小さくしぼんでたけど。たぶん。
どうやったんだろう。

「切って、中身を取り出すのかな」

俺は女の子のつぶやきに戦慄した。
切って取り出すって、なにをだ?
まさか俺の金玉の話をしているのか。
ウソだろう。冗談だろう。
犬の去勢がどうとか言ってたけど。
俺は思わず、まだジンジンと痛みを出し続けている金玉を両手で包み込んだ。

「あ。ちょっと」

わたしは困った。
そんな風にされたら、去勢なんてできなくなる。
やっぱり怖いんだ。
自分の大切なトコロだから。
でもうちの犬は、去勢された後も元気にしてるし、やんちゃで困るときもある。
ただ他の犬とかに迷惑をかけることがなくなっただけで、それはすごく安心してる。
だから、この男の人にも。

俺は必死だった。
下手をすると、俺の男としての人生が終わるかもしれない。
今、金玉を蹴られて死ぬほど痛い。苦しい。
金玉さえなかったらと思う瞬間もあった。
それでも本当に金玉がなくなったら、ヤバイじゃないか。
勘弁してくれ。
それだけは勘弁してくれ。

「す、すいませんでした。すいません。許してください」

「え? あ、はい。でも、あなたはまたわたしを襲うかもしれないんですよ。去勢したら、そういう気が起きないようになるんじゃないかと思って。あなたにとっても、それはいいことなんじゃないですか。完全な犯罪者ですよ」

わたしはそう思った。
こういう人は、自分で性欲をおさえられないんだろうから、しょうがないんだ。
こんな人のために、わたしや違う女の人がひどい目にあうことなんてない。
だから去勢してしまった方が、この人のためでもあるんだ。

俺は必死で謝った。

「襲いません。絶対、もう二度と襲ったりしませんから。近づくこともありません。誓います。約束します。罰も受けます。他のところをナイフで切ったり刺したりしてもいいです。だからタマだけは。金玉だけは勘弁してください。お願いします」

俺は心底謝った。
すでにうずくまっていたが、気持ちは土下座なんてもんじゃない。
頭が地面にめり込むなら、そうしたいくらいの気持ちで謝った。

わたしはちょっと驚いた。
さっきまでわたしを襲おうとして、すごい目でにらみつけていた年上の男の人が、必死にわたしに謝っているから。
大きな体を震わせて、見えないけど、たぶん涙を流しているんじゃないだろうか。
そんな声だった。
わたしは少し安心した。

「本当ですか? 二度とわたしの前に現れないでください」

「はい! 誓います。二度と現れません」

わたしは自分の心の中に、今まで感じたことがない感情があることに、気がついた。
少しだけ、それに流されてしまいたくなった。
うずくまる男の人の耳元で、言ってやった。

「今度見つけたら、金玉潰しますからね」

「は、はいぃ!」

わたしは満足した。
ナイフを放り投げて、乱れてしまった髪のゴムをほどいた。
少しずれていたメガネをかけなおすと、通いなれたはずの道が、なんだか新しいもののように思えて、足取りが軽くなってしまった。






「ふうん。こっちはまた、違った趣向なのねえ。女子校生のキャラが違うのね。清楚なお嬢様って感じかしら」

「そうみたいですね」

「おとなしい女の子が金蹴りをして、去勢までしようとするっていうギャップ? そういうのがいいのかもしれないわね」

モニターの画面を見ながら、白衣の女性はそうつぶやいた。

「でも、最後は去勢しないのね。結局」

白衣の女性は、女性特有の無頓着でそう言うが、去勢と言われて顔をしかめない男はいない。
モニターの前に座ってそれを聞いていた男性も、例外ではなかった。

「そうですね。ホントに去勢されたら、金蹴りもできないですからね」

「そうねえ。つまり急所を痛めつけられたい願望があって、潰すぞ、とか言ってほしいんだけど、本当に潰されたくはないってことね。なんだかわがままね、男って」

女性は笑ったが、男性はそれほどおかしくないようだった。

「まあ、すべての男がそうだというわけではないですけど」

「それはそうね。ところでさ」

女性はなにか思いついたようで、少し嬉しそうに男性の方を叩いた。

「このプログラムをちょっと変更して、本当に去勢してしまうバージョンを作ることって、できるのかしら?」

「え? それは、まあ、できないことはないですけど」

「じゃあ、それをちょっと作ってもらえるかしら。せっかくのいいサンプルなんだから、もっと活用したいわ。去勢のしかたは、そうねえ、とりあえず握り潰してみたり? できる?」

白衣の女性はなぜかわからないが、どことなくウキウキしているようだった。
弾んだ声で、男にとっては恐ろしいことを口走っている。

「で、できますけど。そんなに正確なデータにはならないかも」

男性はためらいがちにつぶやく。

「そう。やっぱり、正確な痛みを再現するには、サンプルがもっと必要よね。そうかあ。今、うちで空いてるスタッフは女の子ばっかりだし」

女性はまたポンと、男性の肩を叩いた。

「アナタにお願いするしかないわね」

「ええ? いや、その。握り潰すデータのサンプルですよね。それはつまり」

男性は想像したのか、おのずと顔が青くなった。

「大丈夫よ。ヴァーチャルな世界の話だもの。本当に潰れるわけじゃないわ。大丈夫、大丈夫。ね?」

女性の言葉に、男性は力なくうなずかざるをえなかった。



終わり。




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