「ゴメン…。負けちゃった…」
土俵を降りたレイカは、さすがに申し訳なさそうにうつむいていた。
「まったく。すぐ調子に乗るんだから。気を付けなさいっていったでしょ」
「ごめんなさい…」
「だ、大丈夫だよ。次、ユズキちゃんが絶対勝ってくれるから。二勝一敗で、神輿をとれるよ」
落ち込むレイカを、小学生のルナがなぐさめた。 確かに現在のところ一勝一敗になり、神輿の行方は、次のユズキとリュウタの相撲にかかっていた。
「ちょっと、そんなこと言われても…。まあ、勝つことは勝つんだけどね。よし! やってみるか!」
「それでは、最後に東と西の大将は、土俵にあがりなさい」
ユズキは気合に満ちた表情で、土俵に上がった。 一方のリュウタは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。 見れば、東地区の代表であるセイヤとショウマは、二人ともぐったりとして動くこともできない。 セイヤは言うまでもなく、ショウマは運よく相手のミスで勝利することができたが、実際は完全にレイカに圧倒されていた。 油断すれば、自分もやられてしまう。 もう負けることは許されないと思うと、自然と顔が強張ってしまった。
「リュウタ。去年は兄さんが世話になったみたいね。まだ悔しがってたよ」
そう言われて、リュウタは去年の神前相撲を思い出した。 去年、まだ高校二年生だったリュウタは、大将戦で当時三年生だったユズキの兄に勝利していた。 それを思い出すと、兄に勝てたんだから、その妹に負けるはずはないと思えてくる。
「仇を討つってわけじゃないけど、勝たせてもらうからね」
「望むところだ!」
二人は気合に満ちた顔で、仕切り線についた。
「それでは神前相撲、始め!」
開始と同時に、リュウタは後ろに下がって、距離を取った。 最初から組み合うつもりでいたユズキは、肩透かしをくってしまう。 実はリュウタは空手の有段者であり、幼いころから道場に通っていたのだ。 その空手を生かした打撃戦が、もともとリュウタの得意とするところで、その作戦で去年もユズキの兄に勝っているのだった。
「やっぱり、そうくるか…」
神前相撲は完全に非公開で行われるが、兄の口から聞いているのか、ユズキにとっては想定内の動きだったらしい。 実際、リュウタは手ごわい。 彼が東の代表に選ばれるようになってからのこの数年間、西地区では誰一人、勝った者がいないのである。 くっきりと割れた腹筋はもちろん、体のあらゆる部分に、練り上げられたようなしなやかな筋肉をまとっている。とても、女の子の力で押し倒せる相手には思えなかった。 しかし。
「プッ…。まあ、どうでもいいんだけどさ。それはどうにかなんないの? 動きづらそうなんだけど」
神聖な相撲の最中だったが、ユズキは思わず笑ってしまった。 それもそのはずで、真剣な表情で自分を見つめるリュウタの股間のイチモツは、土俵に上がった時からずっと、勢いよく反り立っているのである。
「あ、いや…これは…」
リュウタ自身、呼吸を整え、邪心を振り払おうと必死だったが、女子高生の裸を目の前にしては、とてものこと、勃起がおさまりそうもない。 まして、先程のショウマもそうだったはずだが、彼らは神聖な神前相撲の前とあって、この数日間は性行為を自ら禁止しているのである。 溜まりきった若い欲望は、抑えようとしてもおさまるものではなかった。
「無理だよねー。男子って、そんなもんだもんねー。ま、こっちは別にいいんだけど。よっと!」
ユズキは不意に間合いをつめて、足を振り上げた。 足の裏でリュウタの鳩尾あたりを押そうとする。 一応は相撲というルールでやっているから、いくらなんでも空手のように蹴るわけにはいかない。これがこの神前相撲での定石の蹴り方だった。
「おっと…。あ…!」
ユズキは高校では、陸上部に所属しており、武道の経験はないはずだった。 女の子の素人の蹴りなど、リュウタにとって防ぐことは造作もなかった。 しかし。 足を大きく振り上げたユズキの股間に、リュウタは目を見張った。
「ほら、ほら!」
ユズキが連続して足を上げるたび、その股間の秘所が見え隠れする。 まだモザイクがかかったビデオなどでしか、その場所を見たことがないリュウタにとっては、それはまさしく目が釘付けになってしまうものだった。
「どこ見てんの? ほら!」
これもユズキの作戦だったのだろう。神聖な土俵上で、あからさまに誘惑をすることはできないが、あえて蹴りを繰り出すことで、攻撃と誘惑を同時に行っているのである。あまりにも大胆で、男にとっては逃れられない作戦だった。 リュウタの目線はユズキの股間に集中してしまい、蹴りをかわす動きが鈍くなってしまう。 あっという間に、リュウタは土俵際に追い詰められてしまった。
「あっ! く、くそっ!」
足が土俵を囲む俵に触れたとき、リュウタはやっと我に返った。 ギンギンにそそり立ったペニスを抱えて、ユズキの蹴りをかわし、回り込んだ。 すかさず張り手を繰り出して、ユズキを押し出そうとする。
ビュン
と、空手の正拳突きのようなリュウタの張り手が、空を切った。 去年はこの技でユズキの兄を押し出したのだが、どうやらこれも読まれていたようだった。
「ここだ!」
女の子の裸に興奮して、平静さを失った。追い詰められて、焦る気持ち。そこに突然舞い込んできた、逆転のチャンス。 様々な要因が重なり合って、リュウタの突きは、いつもよりもずっと大振りで、隙の多いものになってしまった。ユズキは大きくしゃがんでそれをかわすと、迷わず右手を振り上げた。 すべてはユズキの作戦通りだったのかもしれない。 この一瞬をとらえるために、彼女たちは一年間、研究を重ねてきたのかもしれない。 なんとしても神輿を担ぎたいという気持ちが込められた必殺のアッパーカットが、リュウタの股間に襲いかかった。
「うわあっ!」
しかし、リュウタの優れた運動神経は、ユズキの予想を少しだけ上回っていた。 とっさに腰を捻ると、ユズキの拳はリュウタの金玉をわずかにかすめて、反り返っていたペニスを跳ね上げただけだった。
「痛てっ!」
パチーンと音がして、リュウタの肉棒はその腹に叩きつけられた。 しかしそれは、決して耐えられない痛みではない。
「ああっ! そんな…」
土俵際で見ていたレイカから、思わずため息が漏れた。 どうやら彼女たち全員で、試行錯誤した結果の作戦らしかった。
「あっ! もう!」
ユズキの拳にも、狙ったような手ごたえはなかった。 もしあのまま彼女の拳が金玉に当たっていれば、痛いどころの騒ぎではなかっただろう。 女の子が、必死に自分のむき出しの急所を狙いにきたという現実に、リュウタは空手の試合でも感じたことのない寒気を覚えていた。
「ざ、残念だったな…ハハ…。次はもう、ないぜ」
強がって見せたが、背中には冷たい汗が流れていた。 やはりユズキの拳がわずかに金玉をかすめていたようで、ジワッとした痛みが、下半身に疼くように広がり始めている。 それを悟られないように、リュウタは必死で痛みをこらえていた。
「ユズキちゃん、落ち着いて! 金玉狙えば勝てるよ!」
「金玉、握り潰しちゃえ!」
ルナとレイカが声援を送る。 ユズキもそれで落ち着いたようだった。 普通なら、相手の攻撃が読めれば、試合を有利に運べるはずである。 しかし金玉の場合、そこを狙われること自体が恐怖で、男にとっては絶対に防ぎたい攻撃だった。しかも今のリュウタは全裸の状態なのだから、そのプレッシャーは半端なものではない。 目の前にいる女の子は、どのような状況からでも自分の金玉を潰しに来るのかもしれないのだ。 そう考えたとき、いくら距離を取っても、この土俵上に安全な場所などないような気がした。
「よおし。じゃあ、もう一回いってみようかな…」
また、ユズキのあの蹴りが始まるかと思った時、リュウタの体は反射的に動いていた。
「うおおっ!」
一気に間合いを詰めて、足を上げかけたユズキの体を、両手で締め上げたのである。 そしてそのまま、ユズキを持ち上げてしまった。
「ちょ…ちょっと!」
それはプロレスのベアハッグのような状態で、両腕をガッチリとロックされたユズキは身動きがとれず、必死に逃れようともがいた。 一方のリュウタは、このまま彼女を土俵外へ運んでしまおうと、痛む股間をこらえながら、ゆっくりと歩を進めた。
「ああっ! ウソ! こんなことで…」
ユズキは懸命にもがいたが、締めつけるリュウタの力はすさまじく、腕を抜くことすらできない。
「ハア…ハア…」
リュウタもまた、このチャンスを逃すまいと、全力でユズキを締め上げていた。 しかし、締め上げれば締め上げるほど、リュウタの顔面はユズキの乳房に埋もれてしまう。 初めて経験するその柔らかさと温かさに、理性が吹き飛んでしまいそうになるのを、リュウタは懸命にこらえているのだった。
「あ…クソ…マジでヤバイ…!」
一歩一歩、確実に、リュウタは土俵際へ近づいていった。 このまま外に出されれば、ユズキの負けとなる。 せめてこの腕さえ抜ければ、なんとか抵抗することもできるかもしれないのにと、ユズキは必死に腕を動かした。 すると、その指先に、何か堅いものが当たっているのに気がついた。
「あっ!」
確信はなかったが、これが最後のチャンスと思い、思いきって腕をねじ込んだ。 外に出そうとしてもビクともしなかったが、内に入れる分にはたやすい。 右手が堅いもののもっと下、柔らかい袋のようなものを探り当てたとき、ユズキはそれを思いっきり握りしめた。
「う…ぐあああっ!!」
あっという間にリュウタの体から力が抜け、締め上げていた両腕をほどいてしまった。 ストン、と土俵際ギリギリに落とされたユズキは、ホッと息をついた。
「あー、危なかった、ギリギリで気づいてよかった」
その手には、リュウタの金玉がしっかりと握られている。
「う…ぐあ…!」
「惜しかったね。もうちょっとだったのに。これでもう、アンタの勝ちはないよ」
男の最大の急所を握りしめて、ユズキは勝ち誇って見せた。 実際、リュウタはすでに立っているだけで精いっぱいの状態だった。 ユズキがまだ、その手にあまり力を込めていないにも関わらず、だ。
「このまま金玉を引っ張って外に出せば勝ちだけど…。ねえリュウタ、アンタさっき、私の胸に顔つけてなかった?」
グリッと、手の中でわずかに金玉を転がしてみせた。 それだけで、リュウタの体には激しい痛みが走る。リュウタも正直にならざるを得ない。
「あっ! は…いや、それは…はい…」
「やっぱりね。まったく、相撲の最中にチンポおっ勃てたり、胸に顔うずめたり、アンタ変態だね。そんな変態を、ただ降参させるわけにはいかないなー。あ、そうだ…」
ユズキは何か思いついたようで、ぐいっと金玉を引っ張って、審判役の宮司から手元が見えないようにした。
「こういうの、どう?」
不敵そうに笑うと、ユズキは金玉を掴む手とは逆の手で、リュウタのペニスを掴んだ。 そして、すでに堅くなっていたその肉棒を、優しく揉み始めたのである。
「あっ! ああ…! や、やめ…て…」
リュウタの口から、思わずため息が漏れた。 今まで耐えに耐えてきた男としての欲望のスイッチを、一気に全開にされた気分だった。
「ん? どうしたの? 私はただちょっと、掴んでるだけなんだけど」
クスクスと笑いながら、リュウタのペニスを揉み続ける。 それは不器用で、とても褒められるような性器のしごき方ではなかったが、数日間オナニーを我慢し、さっきまで女子高生の柔らかいオッパイに顔をうずめていたリュウタには、関係なかった。
「あ…ホントに…ホントにヤバイ…!」
身を捻って逃れようとしても、金玉袋をガッチリと掴まれているので、身動きできない。 その間も肉棒はガチガチに膨張し続けて、今にも破裂してしまいそうだった。
「ヤバイって? 何がヤバイの? もしかして、出ちゃうの? ウソー。こんなところで? 女の子にいじられて? ホントに?」
宮司にまでは聞こえないように、リュウタの耳元で囁いた。
「神聖な神前相撲の土俵上で射精なんかしたら、どうなるんだろうね。さすがに負けになるんじゃないの?」
大相撲でも、まわしがとれて不浄負けになるということがある。 そう思うと、リュウタは最後に残ったわずかな理性で、必死に射精を耐えるしかなかった。 しかしそんな必死そうなリュウタの顔を、ユズキはうす笑いさえ浮かべながら、見つめている。
「痛かったり、気持ちよくなっちゃったり。男ってホントに大変だよね。でももう、我慢しなくていいんじゃないの? 金玉を握られてる限り、リュウタに勝ちはないんだからさ。せっかくなら、気持ちよくなっちゃおうよ。ほら」
ペニスを揉みながら、そっと胸を近づけてきた。 先程も感じていた柔らかい感触が、再びリュウタの理性を吹き飛ばそうとする。
「神輿は私たちが担ぐからさ。今年はゆっくり休みなよ。ほら、出して。もう出していいんだよ?」
「あ…ああ…ああーっ!!」
リュウタの我慢の糸が、ついに切れた。 絶叫と共に、そのペニスからは大量の白い液体が、噴水のようにほとばしる。
「あ! こ、これは…」
宮司はリュウタの背中側から見ていたが、そこからでも確認できるほど、大量の精液だった。 鼻を突く匂いに、宮司は叫ぶようにして宣言する。
「勝者、西のユズキ! どういうことですか! 神聖な土俵の上で、なんてことをしてるんですか!」
そう言われても、リュウタは恍惚とした表情で、聞こえていない様子だった。
「だってさ。はい、とどめ!」
にっこりと笑うと、ユズキは握りしめていたリュウタの金玉を引っ張って、そこに膝蹴りをぶつけた。 堅い膝小僧に、柔らかい睾丸がグシャリと変形する感触が伝わってくる。
「はがあっ!!」
直前まで快感の絶頂にいたリュウタの体に、電気が走るような衝撃と、絶望的に巨大な痛みが湧き上がってきた。 その痛みに耐えるだけの気力は、もはやリュウタには残っていなかった。 女の子に金玉を掴まれて負けてしまったという屈辱と、人前で強制的に射精させられてしまったという恥辱が、痛みと共に彼の精神を包み込んでしまった。
「今年の神輿は、西地区がもらったってことで。いいよね?」
「やったあ! ユズキちゃん、さすが!」
おそらくこの結末は、ユズキたちの口から、あっという間に西地区に広がるだろう。 神聖な土俵の上で射精し、不浄負けして、さらに金玉を蹴られて気絶してしまったという汚名を、あと何年かかれば晴らすことができるだろう。 そんなことを考えながら、リュウタの意識は土俵の上で途切れてしまった。
「二勝一敗で、西地区の勝利! 今年の若神輿は、西地区が担ぎなさい」
宮司がそう宣言すると、女の子たちはお互いに喜び合い、はしゃいだ。 東地区の男の子たちはというと、セイヤはまだ疼く金玉をさすり、ショウマはかろうじて意識を回復したがぐったりとしており、リュウタにいたっては、自分が精子をぶちまけた土俵の上で、介抱すらされずに気絶していた。
「まったく、土俵の上でこんなことをするなんて、前代未聞ですよ。きちんと清めてから帰りなさい! さもないと、東地区は来年は神前相撲に参加させませんからね!」
宮司はそう言っていたが、セイヤもショウマも、来年はこの神前相撲に参加する気はなかった。 この年を境に、この地区の神前相撲は女の子たちだけが行われるようになり、神輿を担ぐのも、女の子が中心になったとかならなかったとか。
終わり。
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