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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


ある日の夕暮時。
商店街の路地裏で、1人の少女が男と向かい合って、話をしていた。
少女が着ているのは、このあたりでは有名な私立の名門校の制服で、高校生らしかった。
男の方はというと、その服装や過剰なほどに身に着けたシルバーのアクセサリーなどからして、一見してガラの悪い種類の人間だと分かった。

「ねえ、いいじゃん。ちょっと付き合ってくれてもさあ」

「あの、いえ…困ります。私、もう帰らないと…」

少女は長い黒髪を揺らして、しきりに首を横に振っていた。
男は少女が店から出てきたところを待ち構えて、この路地裏に無理矢理誘い込んだのである。

「ねえねえ、名前は? なんていうの?」

男はクチャクチャとガムを噛みながら、まとわりつくようなしゃべり方で尋ねる。
少女はもとより男と話したくなかったが、真面目な性格なのか、つい反射的に答えてしまう。

「あ、本間リコ…です」

「リコちゃんかあ。へー。カワイイ名前だね。俺の名前はね…」

「あの…すいません。私、ホントに帰らないと…」

「えー。いいじゃん。そこで、ちょっとお茶してくだけだからさ。俺、おごるよ。行こうよ」

先程から何度も断っているようだったが、男は聞き入れようとせず、壁際にリコを追い詰めて帰さないのだった。
リコがあたりを見回しても、ここは商店街の片隅で、人通りが少なく、助けを呼べそうもない。

「すいません。また今度…あっ!」

男を押しのけていこうとすると、ガクッと引き戻された。
男はリコの白くて細い手首を、その手に掴んでいたのである。

「もー。リコちゃん。ちょっと話聞いてくれても良くない? あんまり冷たくされると、ショックだなあ。怒ると怖いんだよ、俺?」

男はニヤニヤと笑っていたが、その目の奥には、蛇のようにヌメヌメとした光があった。
リコは改めて男に危険を感じた様子だったが、掴まれた手を振りほどこうとはしなかった。

「あの…じゃあ、もうホントに…しょうがないから…」

「え? 何?」

「あの、携帯電話とか、持ってますか?」

突然、そんなことを尋ねた。上目づかいのその大きな瞳には、何か決意めいたものが感じられる。

「携帯? 当たり前じゃん。なんで? 番号交換しちゃう?」

男は急な展開に顔をほころばせたが、リコの様子はとてもそんな雰囲気には見えなかった。

「じゃあ、あんまりアレだったら、救急車とか呼んでください。…ホントにごめんなさい」

スッと、リコは掴まれていない方の腕で、男の手を掴んだ。二人は両手を取って向かい合う形になる。

「え?」

男が戸惑っていると、次の瞬間。
ズゴッ!
と、鈍い音が下半身から響いてきた。
黒いタイツに包まれたリコの膝が、男の股間に吸い込まれ、その間にある二つの睾丸を跳ね上げ、恥骨に叩きつけたのである。

「はがっ!」

思わず、男は口からガムを吐き出してしまった。
両足の踵が浮いてしまうほどの衝撃の後、リコがその細い脚を股間から抜くと、途端に猛烈な痛みが男を襲った。

「うがぁっ!!」

目の前が真っ暗になり、男は前のめりに崩れ落ちた。
下腹のあたりに、普段の腹痛の何百倍もの痛みが湧いてきた。しかもその痛みは、胃を突き上げるようにして上半身まで広がり、男の呼吸さえ止めてしまうのである。

「あ…はぁっ…!」

軽い呼吸困難になってしまったように、男は咳き込んだ。
口から涎が流れ落ちるが、そんなことを気にする余裕はない。男にできることは、せめて痛みが少しでもまぎれるように、体を細かく震えさせることくらいだった。

「あ…あの、すいません。キレイに入っちゃいました。ごめんなさい」

男がスローモーションのように崩れ落ちる様子を、リコはじっと眺めていたが、やがて申し訳なさそうに頭を下げた。

「あの、痛いですよね? 男の人は、そこはすごく痛いって、私、知ってます…。でも、今日はホントに帰らなくちゃいけなくて。ごめんなさい」

自らの蹴りで、地獄のような苦しみを与えている男に、リコは懸命に謝っていた。

「あ…く、くそったれ…!」

男は苦悶の表情を浮かべながら、悪態をつくことしかできない。

「あ…そうですよね。すごく痛いし、嫌ですよね。じゃあもう…ホントにごめんなさい」

するとリコは、男のそばにしゃがみこんだ。
何をするつもりなのかと、男はリコを目で追う。

「男の人は、そこをやられるとすごく悔しいから、中途半端はダメなんですよね。だから、その…。すいません」

スッと、うずくまっている男の股間の尻の方から、リコはその小さな手を差し入れた。
いまだに猛烈な痛みを発し続けている男の睾丸がそこにはあり、柔らかい膨らみを感じると、リコはそれをいきなり握りしめたのだ。

「あぁぁ!! ぐえぇ!!」

蹴られたばかりの金玉を掴まれた男は、豚のような悲鳴を上げた。

「あ、すいません。でもこれ、ちゃんとしとかないと、後から追いかけられても困っちゃうから…。ごめんなさい。気絶してください」

「ぎゃあぁぁっっ!!」

黒髪のかわいらしい女子高生が、男の金玉を捻り上げて、気絶させようとしている。
それは奇妙で滑稽すぎる光景だったが、当の男にはそんなことを気にする余裕はなかった。
リコの手は正確に、睾丸の一つを握りしめ、ギリギリと押し潰し続けているのである。このままでは去勢されてしまうと、男は本気で思った。

「は、離してくだざい! すいませんでしたっ!! 離じで…ああぁっ!!」

その目からは大粒の涙がこぼれて始めた。苦しみのあまり天を仰ぎ、叫ぶように許しを乞うた。

「え? 離してって言われても…」

リコは少し戸惑ってしまったが、その手は決して緩めなかった。

「潰れちゃう! 潰れちゃうから…ぐあぁっ!」

「あ、潰れると、もっと痛いんですよね? 大丈夫です。潰さないように気をつけますから。ごめんなさい。もうちょっと我慢してください。えい。えい!」

リコは本気で申し訳なさそうに言うと、その手に一層の力を込めた。

「ぎゃあっっ……!!」

断末魔の悲鳴を上げて、男は全身を硬直させた。
そして不意に、男の首がガクッと落ちた。その目は白目をむき、口からは泡のようなものが吹き出しているようだった。

「あ…終わったかな…?」

リコが手を離しても、男はまったく反応しなかった。
どうやら本当に気絶してしまったようで、その体はビクビクと細かく痙攣していた。
リコはそれを見て、ほっとしたように立ち上がった。

「あの…ごめんなさい。私、こういうのが苦手で…どうしていいか分からなくて…。また会っても、もう声はかけないでください。お願いします。それじゃ」

うずくまったまま、白目をむいている男に、深々と頭を下げた。
そしてリコは路地裏を出ると、何事もなかったかのように家路につくのだった。


終わり。


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