2ntブログ
男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


比較的裕福な家庭の子供が集まる、私立の女子校。
その中等部の体育館で、現役の警察官数人による、護身術の講習が行われていた。

「それでは、今年の護身術教室を始めます。私は講師を担当する、香山ヨウコ巡査部長です。よろしく」

ヨウコがあいさつをすると、ジャージ姿の女子中学生たちが、一斉に座ったまま頭を下げた。

「それからこちらは、今日の教室に協力してくれる、現役の警察官のお兄さん達です」

ヨウコに促され、横にいた制服姿の男性警察官三人は、一斉に敬礼した。

「よろしくお願いします!」

みなヨウコの後輩の警察官たちで、若く、たくましかった。
女の子たちは彼らの力強い姿を見て、ほれぼれする思いだった。

「じゃあ、さっそく始めましょうか。2,3年生は、去年もこの教室を受けているから、大体分かるかな。ちょっと復習しましょう」

ヨウコは後輩の一人、山本を自分の側へ招き寄せた。
山本は警察官になってまだ一年目で、この教室に参加したのも初めてだった。
ヨウコが何も話してくれなかったので、ほとんど何も知らないまま、ここに立ってしまっている。
山本だけではなく、同じくヨウコの後輩の橋田と川上も、同じように何も知らされてはいなかった。
三人にとって、ヨウコは美人だが、近寄りがたい存在であり、気軽に話しかけられる対象ではなかったのだ。

「これから皆さんに護身術を教えますが、難しくはありません。覚えることは一つだけです。みなさんが誰かに襲われて、逃げられなくなったときには、身を守るために相手を倒さなくてはなりません。さて、どうすればいいですか?」

ヨウコはそこまで言うと、見覚えのある2年生の生徒を指差した。

「はい、アナタ。どうすればいいと思いますか?」

指された女子は驚いたが、スッと立ち上がった。

「はい。…あの…急所を攻撃します」

ためらいがちに、答えた。

「その通りです。でも急所はいくつかありますが、どこですか?」

ヨウコは冷静な表情で、質問を重ねる。

「はい。…あの、男の人の急所です」

「男の急所とは?」

「はい。…あの、アソコです」

思春期の女の子らしく、頬を染めながら答える。
その周り、特に一年生の女子達の間にも、ソワソワした気分が広がっていた。

「アソコとは、どこですか? はっきり言って下さい」

ヨウコの口調は、相変わらず淡々としたものだった。
その様子に、山本たちは異様なものを感じた。
普段から冷静沈着で、いわゆるクールビューティーを体現したような先輩のヨウコだったが、なぜこんなことを無理矢理中学生に言わせるのか、彼らには分からなかった。

「はい。…あの…その…キ、キンタマ…だと思います」

女の子は耳まで真っ赤にして、やっとのことでその単語を口にしたようだった。
周りに座っていた女子達は、小さく声を上げたり、口を手でおさえたりして、騒ぎ出した。

「静かに!」

そんな女子達のざわめきを、ヨウコの一喝が鎮めた。

「毎年言っていますが、みなさんのそういった恥じらいをなくすことが、護身術の第一歩です。恥ずかしがっていては、いざというときに身を守れません。下品なことをいう必要はありませんが、しっかりと覚えておいてください」

ヨウコが毅然とした表情で言うと、女子達はいっせいにうなずいた。
男性警官たちにも、ようやくヨウコの意図していることが伝わった。

「はい、それでは続けますね。男性に襲われた時に狙うのは、股の間にあるキンタマです。キンタマを攻撃すれば、男性は一気に行動不能になります。男の急所はキンタマ。はい、声に出してみて」

「男の急所はキンタマ!」

ヨウコが促すと、数十人の女子達が一斉に言った。

「もう一度。男の急所はキンタマ!」

「男の急所はキンタマ!」

「はい。よくできました」

ヨウコは女子達を褒めたが、居合わせている男性警官たちにとっては、複雑な気分だった。
警官であること以前に、彼らも男であるから、男の肉体の欠陥とも言える弱点を、こうやって大勢に指摘されるのは、どうも具合が悪い。

「では、具体的なキンタマの攻撃方法に入っていきましょう。それじゃあ、そこのアナタ。3年生ね? 去年、どんな方法を教わりましたか?」

ヨウコは再び、去年の講習を受けた上級生を指差してあてた。

「はい。えーっと、足で蹴ったりするのがいいと思います」

「そうですね。他には?」

「えーっと…。他には、膝で蹴ったり、手で叩いたり…あ、握り潰したりするのもよかったかな」

女の子は思い出しながら答えていった。
彼女にとっては何でもないことだったが、男性陣にとっては、あまり聞きたくない内容だった。

「そうですね。それでいいと思います。じゃあ、実際にやってみましょうか。アナタ、ちょっと前に出てくれる? 名前は?」

「はい。浅井ミホです」

ミホは返事をして、ヨウコのもとに出てきた。

「じゃあ、ミホちゃん。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします!」

ミホは目を輝かせて、頭を下げた。
女の子たちの目から見ても、女性警察官のヨウコは、憧れの存在であるらしかった。

「ミホちゃんは、キンタマ攻撃の方法を習ってから、それを使ったことはある?」

「あ、はい。…その、一回だけ、お兄ちゃんに…」

ミホは恥ずかしそうに答えた。

「そう。お兄ちゃんと、ケンカしたの?」

「あ、はい。ウチのお兄ちゃん、ちょっと乱暴で…。だから…」

「そうなの。乱暴なのはよくないわね。でも、お兄ちゃんに使うのは、気をつけた方がいいわ。潰してしまわないようにね」

「はい。大丈夫です!」

ミホは笑って返事をし、女の子たちの間にも和やかな空気が広がっていたが、男性陣は苦笑いをするしかなかった。

「じゃあ、このお兄さんのキンタマを、蹴ってみてちょうだい」

え?と、ミホと山本が同時に反応したが、その意味合いはずいぶん違っていた。
これまでの話の流れで、嫌な予感はしていたのだが、山本はヨウコからそんな話はまったく聞いていなかったのだ。

「え、いいんですか?」

「もちろん。アナタのお兄ちゃんにやったようにしてくれればいいのよ。遠慮はいらないわ」

「あ、はい。わかりました!」

ヨウコに言われて、ミホは元気良くうなずいて、山本の方を向いた。

「あ、あの…。先輩…」

山本は慌てて、ヨウコの顔を見る。

「あ、山本君は何もしなくていいから。とりあえず、足を開いて立ってて。みんなによく見えるようにね」

ヨウコが平然と言ったから、山本は従うしかなかった。
不安はあったが、まがりなりにも警察官として鍛えた体である。中学生の金的蹴りくらいで、そこまでのダメージを受けるとは、山本自身も想像していなかった。




「はい…。じゃあ、どうぞ」

山本は覚悟を決めて、ミホの前で仁王立ちした。
ミホは山本の股間をジッと見つめて、右脚を後ろに引き、腰を落とした。

「いきます! えい!」

ミホが右脚を振りあげると、その脛の一番細い部分が、山本の股間に吸い込まれた。

「うっ!」

山本は股間に真下からの衝撃を感じ、息をつまらせた。
ミホが右脚を下げると同時に、山本の睾丸から、ジワリジワリと、重たい痛みが下腹部に這い上がってくる。

「…ふぅ…ふぅ…」

仁王立ちしていた山本は、両手を腰に当てて、少し前かがみになって深呼吸した。その額には、うっすらと汗が滲んでいる。
ミホの蹴りは、山本のキンタマにクリーンヒットはしなかったが、それでも十分予想を越える痛みだった。
山本はできる事なら座り込んで休憩したいところだったが、大勢の女の子たちの手前、それは恥ずかしすぎた。

「はい。お疲れ様。どうだった、ミホちゃん?」

山本が痛みに必死に耐えているのをよそに、ヨウコは冷静な様子でミホに尋ねた。

「あ、えーっと…。お兄ちゃんの時は、一発で倒れちゃったんですけど…。やっぱり、大人の人だからかな」

ミホは、自分の蹴りの善し悪しは感じていない様子で、ただ山本の耐久力に驚いていた。

「そうね。まあ、このお兄さんは警察官だから、アナタのお兄ちゃんよりは強いと思うけど。今のミホちゃんのキンタマ蹴りは、60点ってところかしらね」

「あ、そうなんですか?」

ミホはもちろん、他の女の子たちにも、その理由は分からなかった。

「今のミホちゃんの蹴りは、キンタマにきれいに当たってなかったわ。ちょっとかすったくらいね。いい、みんなも見てて。キンタマを蹴るときは、こう」

そういうと、ヨウコは山本の前に立ち、素早くその股間へ右脚を振りあげた。
山本は反射的に逃げようとしたが、その股間に届く寸前で、ヨウコの足は止まった。

「足の甲の部分を当てるようにしなければ、ダメなのよ。さっきのミホちゃんの蹴りは、脛の部分で蹴ってたわね。あれだとスナップが効かないから、ダメージが少ないの」

山本にしてみれば、決して少ないダメージではなかったが、ヨウコは淡々と説明を続けた。
制服のタイトスカートから伸びた長い脚は、山本の急所のすぐ下まで迫っている。

「キンタマを蹴るときに大事なのは、力じゃなくて、スピードね。できるだけ足の力を抜いて、素早く、脚がしなるように蹴るの。こう」

スパン!

と、突然ヨウコの蹴りが山本の股間を襲い、乾いた音を立てた。

「はぐっ!」

先ほどのダメージからようやく立ち直りかけていた山本は、完全に油断していた。
身構えるヒマも与えない、ヨウコの素早い金的蹴りは、山本の睾丸を二つとも、足の甲にきれいにとらえた。

「うぅ…」

山本は、もはや恥も見栄もなく、女子中学生たちの前で、股間を両手でおさえてうずくまってしまった。

「こんな感じね。ほら、一発でしょ?」

ヨウコはストッキングに包まれた脚をゆっくりとおろして、うずくまる山本を見下ろした。
女子達はヨウコの鮮やかな蹴りに歓声を上げ、あっけなく崩れ落ちた山本に注目した。

「くく…」

山本は膝をついて、正座のような姿勢で、股間をおさえている。
その額には脂汗が浮かび、止むことのない激痛に歯をくいしばって耐えている。
警察官の逮捕術の訓練などで、何度か金的に当てられたことはあったが、これほど見事な金的蹴りは、山本もくらうのは初めてだった。

「い、痛いんですか…?」

目の前で山本の苦しむ様子を見ていた女の子が、恐る恐る尋ねたが、山本は答えるどころではなかった。

「あ…う…」

わずかに首だけでうなずいてみせた。
代わりにヨウコが返答した。

「痛いと思うわよ。キンタマは男性の最大の急所ですからね。腹痛の痛みに似ているという説もあります」

平然とした様子で言ったが、ヨウコにはもちろん、それを聞いた女の子たちにも、その痛みはまったく想像できない。
ただ、山本以外の二人の男性警官、橋田と川上だけが、顔をしかめて山本の味わっている痛みを想像していた。

「このように、うまく男性のキンタマを蹴ることができれば、逃げる時間を作ることができますね。場合によっては、その場で警察に連絡するのもいいでしょう」

「あの…。そのお巡りさんのキンタマは、潰れちゃったんですか?」

恐る恐る一人の女子生徒が尋ねた。
ヨウコは一瞬きょとんとして、笑った。

「ああ、潰れてはいないと思います。よくキンタマを潰す、とか言うけど、ひとつの例えですね。キンタマは潰れなくても、十分なダメージを与えることができますよ」

男にしてみれば、軽々しく潰すなどと言うのは、とんでもない話だったが、女の子たちは、無邪気に感心した。

「じゃあ、潰れたらもっと痛いってことですか?」

女子生徒の質問に、ヨウコはチラリと男性警官二人の方を見た。
橋田と川上は、ヨウコの目線に気づいて、反射的に目を伏せてしまう。

「そうねえ。私もキンタマの痛みに関しては、正確には分からないけど…。橋田君、ちょっと来て」

ヨウコは目を伏せた橋田を呼んだ。
橋田はハッと顔を上げて、嫌な予感を隠しきれない様子で、ヨウコの元に歩み寄った。

「ちょっと蹴ったくらいでは、キンタマはなかなか潰れないと思います。より強烈なダメージを与えたい場合は、膝で蹴ることをオススメしますね。膝は足先よりも重くて、キンタマを逃がさずに、確実に押し潰すことができますからね」

ヨウコは近くに来た橋田の側に近寄り、その股間に向かって、膝を少し上げた。
橋田は制服のスカートの中から、ヨウコの膝小僧が覗くと、ビクッとして、少し腰を引いてしまった。

「あ、男性は、今みたいに逃げることもありますからね。やっぱり、男性の最大の急所だから、本能的に守ろうとします。そういうときは、肩をしっかり両手でおさえておくといいわ」

ヨウコは両手を伸ばして、橋田の両肩をしっかりと掴んだ。
そして素早く、右膝を橋田の股間に当たる直前まで、振りあげた。

「膝は股間の奥の方まで、しっかりと入れるようにするといいですね。太ももの部分で、キンタマを叩き上げるような感じで。しっかりと入れば、キンタマは膝と股に挟まって、潰れることもあるかもしれませんね」

橋田は先ほどの山本のことを思い出し、いつヨウコが膝を自分の股間に叩きつけることかと、ビクビクしていた。
しかし意外にも、説明を終えると、ヨウコは橋田の肩から手を離してしまった。




「じゃあ、膝蹴りをやってみたい人はいるかしら?」

ホッとしたのもつかの間である。
ヨウコは女の子たちの中から、橋田のキンタマを蹴る人間を選ぶらしかった。

「はい!」

好奇心に溢れた目で、女の子たちのほとんどは、一斉に手を上げた。

「えーっと…じゃあ、アナタ。お願いしようかな。名前は?」

ヨウコは一人を指名し、その女の子は嬉々として立ち上がった。

「はい。岡田ミキです!」

「じゃあ、ミキちゃん。こっちにきて。このお巡りさんに膝蹴りをしてみて」

「はい! あの、ホントに蹴って大丈夫なんですか?」

ミキは先ほどの山本の痛がりようを見て、一応、ヨウコに確認してみた。
橋田にしてみれば、それは自分に聞いてほしいことだった。

「もちろん。じゃないと、練習にならないわ。お巡りさんも、キンタマの痛みを知らないと、みんなに教えられないから、本気で蹴っていいわよ」

ヨウコは大きくうなずいた。
橋田はキンタマの痛みなど、確かめるまでもなく十分に知っているので、先輩とはいえ、ここでヨウコに言っておかねばならなかった。

「あの、先輩…。本気でというのは…」

「なに? いいじゃない、中学生の膝蹴りくらい。大して痛くないでしょ。警察官なんだから、我慢しなさい」

ヨウコは冷たく言い放った。
橋田はそれでも、食い下がろうとする。

「いや…その…」

「なに、その顔は。情けないなー、男の癖に。ん? あ、男だから痛いのか。そっかあ」

ヨウコが自分の言葉に笑ってしまうと、それを聞いていた女の子たちからも、笑い声が上がった。
一人橋田だけが、苦笑いもできない状況だった。

「まあ、とにかく。ミキちゃんの練習だから、遠慮なく蹴ってみて。大丈夫。潰れたりはしないと思うから。たぶんね」

「はい! 頑張ります!」

完全に橋田の意見を無視する方向で、話は落ち着いてしまった。
ミキは橋田に近づき、その肩に手を当てた。警察官のたくましい筋肉の感触が、ミキの手にも伝わる。
橋田は諦めたように、天井を見つめて歯を食いしばっていた。

「行きます! えい!」

可愛らしい掛け声と共に、ミキは思い切って橋田の股間に膝を跳ね上げた。

ズン!

と、橋田の脳天に突き抜けるような衝撃が走り、そのすぐ後に、橋田は自分の両脚から力が抜けて行くのを感じた。

「ふぐっ!」

橋田のキンタマはミキの細い太ももに押し上げられ、恥骨に挟まれて大きく変形した。橋田自身が、自分のキンタマが潰れてしまったかと思うほどの、見事な金蹴りだった。

「あ…! うわ…!」

橋田は今まで感じたことのない、全身に寒気が走るような感覚に襲われた。
ミキの脚が地面に降りる前に、あっという間に腰を引き、無我夢中で股間のキンタマを手でおさえ、前のめりに体育館の床にへばりついてしまう。

「うわあ。痛そ…。大丈夫ですか?」

一方のミホは、自分の太ももの先に、若干の手ごたえを感じたものの、橋田の苦しみ様を想像していなかったらしい。
股間をおさえながら海老のように丸くなり、足をジタバタとさせるその姿は、女の子たちの理解をまったく越えたものだった。

「うん。今のは、キレイに入ったわね。キンタマに当たった感じがしたでしょ?」

ヨウコは地獄のような苦しみを味わう橋田を見て、満足そうな表情だった。

「あ…はい。なんか、ふにゃっとしたのが、当たったような…」

「それがキンタマね。脚と骨の間で、うまく押し潰せたんじゃない? みんなも、今みたいな膝蹴りをイメージして下さいね」

「はい!」

と、女の子たちは元気よく返事した。
先ほどヨウコの蹴りを受けた山本と、膝蹴りでキンタマを粉砕された橋田。
二人の様子を見て、残る最後の男性警官、川上は、今すぐにでもこの場から逃げ出したくなった。
しかしヨウコは無情にも、川上を呼びつける。

「じゃあ、最後は川上君ね。こっちに来て」

「あ! は…はい…」

川上が逆らえるはずもなく、素直にヨウコの元に来た。

「ではみなさん。これまでの練習で、男性のキンタマがいかに弱くて脆いものか、よく分かったと思います。キンタマを蹴られれば、普段から鍛えている警察官のお兄さん達でも、こんな風になってしまうんですよ」

ヨウコの言葉通り、女子生徒たちの前には、キンタマの痛みに苦しむ二人の警察官が転がっていた。
女の子たちから見れば、何の訓練もしていない自分たちの蹴り一発で、鍛え上げた肉体を持った男たちが動けなくなるほどのダメージを受けることが、不思議でならないと同時に、面白かった。

「男性のキンタマを攻撃することは、女性にとって絶対に学ぶべき、大切なことだということですね。キンタマは、女性が男性に襲われないように、神様が作ってくれた急所なのかもしれませんね」

ヨウコの言葉に、女の子たちは成程というようにうなずいた。
女の子たちにこの感覚を持たせ、いざというときに躊躇なくキンタマを攻撃できるようにすることが、ヨウコの狙いなのだ。

「では最後に、キンタマを握りつぶす方法を教えましょう。これは、蹴りなどができない、極端に密着した状態で、とても有効な方法です。例えばみなさんは、電車などに乗った時に、痴漢にあうこともあるかもしれません。橋田君、私の後ろに来て」

川上は言われた通り、ヨウコの背後に回った。
彼は体格が良く、二人の身長差は15センチ以上あった。

「例えばこう。後ろからお尻などを触れたとします。橋田君、ちょっと腰に手を当てて」

川上はヨウコの腰に手をまわした。

「そんなときは慌てずに、相手の股間の位置を確認してください」

ヨウコは遠慮する様子もなく、川上の制服の股間にスッと手を伸ばした。

「そして、キンタマを見つけたら、一気に握り潰しましょう」

言葉通り、ヨウコは川上のキンタマに触ると、その瞬間に二つの丸い物体を掌の中に握り込んだ。

「はうっ!」

川上は抵抗する間もなく、情けない声を上げた。

「キンタマは二つありますから、二つを擦り合わせるように握ると、痛みは倍増します」

言いながら、ヨウコは手の中でキンタマをゴリゴリと擦り合わせた。
二つのタマが擦りあうたびに、川上は悲鳴を上げる。

「ぎゃひぃ! あひぃ!」

「もし一つしか握れなくても、大丈夫です。その一つを、思いっきり握りつぶして下さいね」

平然と説明を続けるヨウコの背後で、川上が鬼のような形相で痛みをこらえていた。
すると一人の生徒が手を挙げて、質問した。

「でも、掴んでも、すぐに逃げられたりしないんですか?」

「ん? ああ、そういうこともあるかもしれないですね。川上君、ちょっと逃げてみてもいいわよ」

そう言われるが早いか、川上は必死に身をよじって、ヨウコの手からキンタマを放そうともがいた。
しかし、ヨウコはキンタマを根元からしっかりと掴んでいて、容易に放さない。かえって動けば動くほど、自分のキンタマを引っ張ってしまうことになり、そこにまた激痛が伴う結果となった。

「ぐ…ああ…」

「ね? 一度しっかりとキンタマを握ってしまえば、男の人は抵抗できなくなってしまうのよ。あるいはもし、こっちに手を出そうとしても…。川上君、ちょっと私の肩を掴んでみて」

川上の額には、すでに大粒の汗が浮かんでいたが、とにかくヨウコの言うとおり、肩に手をかけてみた。

「よっと」

すると、ヨウコはキンタマを握る手に、一層の力を込めた。

「ぎゃうっ!」

川上は電撃に打たれたように、ヨウコの肩から手を放した。

「こういうことになります」

おおーっと、女の子たちから歓声が上がった。
腕力で太刀打ちすることができないと思っていた屈強な男を、女性が右手一つで思いのままにコントロールする様子に、感動にも似た興奮を、生徒たちは感じている。

「男性が女性を襲おうとするときには、性犯罪目的の場合が多いことは、みんなも分かっているわね? 性犯罪を犯そうとするとき、男性は必ずキンタマが無防備になるんです。外に出さなければいけませんからね」

ヨウコの説明に、生徒たちはうなずいた。

「そのときが、女性の反撃するときです。下手に抵抗せず、油断させておいて、男がキンタマを晒したところを、グッと掴みとる!」

「がへっ!」

ヨウコの手につい力が入り、川上が悲鳴を上げた。
すでに川上の膝からは力が抜けてしまっていたが、キンタマを掴まれているため、しゃがみこむことも許されなかった。

「あ、ゴメンね。みんなは掴んだら、一気に、思い切り握りつぶして下さいね。握りつぶしてしまえば、その男は性犯罪をするどころではなくなってしまうはずですから」

「はい!」

生徒たちが元気よく返事すると、ヨウコは満足そうにうなずいて、川上のキンタマを解放してやった。
川上はその場に座り込み、今まで絞めつけられていたキンタマをおさえて、確認する。正直に、潰れたかと思うほどのヨウコの握力だった。

「じゃあ、もう一度みんなで言うわよ。男の急所はどこ?」

「キンタマです!」

ヨウコが尋ねると、女子達は申し合わせたように、声を合わせた。

「そう。襲われた時は、キンタマ潰せ! はい!」

「襲われた時は、キンタマ潰せ!」

もはや女子達には、当初の恥じらいなどは一切なく、男の決定的な弱点を発見したことで、自身に溢れた表情をしていた。

「はい、じゃあ、レッスンはこれで終わります。この後、実技を見てあげるから、希望者は残ってくださいね」

「はーい」

女の子たちの明るい声を聞いて、男性警官三人は、一斉に顔を上げた。

「せ、先輩…あの…実技って…」

山本が恐る恐る尋ねると、ヨウコは笑いながら言った。

「ああ、もうちょっとだけ、協力してくれる? やっぱり実際に蹴ってみないと、分からないと思うのよね。ちょっと休憩したから、大丈夫でしょ?」

「え! いや…その…」

ヨウコのほほ笑みと、女子中学生達の期待の眼差しに、山本はそれ以上何も言えなかった。
この後生徒たちのレッスンは、遅くまで続いた。



終わり。



子供たちの遊びというものは、いつ誰が考えたのか、よく分からないまま、流行になってしまうものが多い。
それらは子供らしく単純で、無邪気なものがほとんどだが、中には大人がちょっと思いつきもしないような、過激な遊びもあったりする。
これはそんな、遊びの一つ。
いつ終わるともしれない、流行の一つだ。

「ねえ、ダイチ君も、パンツ見たい?」

学校の廊下の隅で、いきなりそんなことを聞かれたので、大原ダイチは答えに詰まってしまった。

「え? なに…?」

ダイチは一週間ほど前に、この学校に転校してきたばかりで、ようやく5年2組のクラスメイトの名前と顔が一致し始めたころだった。

「見たかったら、見せてあげようか? アタシのパンツ」

ニコニコしながらそう言うのは、クラスメイトの中でも、ダイチがちょっと気になっていた浜崎ミキだった。
ミキはいつも小学生らしくない、オシャレな格好をしているが、今日はフリルのついた可愛らしいスカート姿だった。
そしてそのスカートの裾に、すでに手をかけていて、今にもダイチの目の前でめくってしまいそうな様子なのだ。

「パ、パンツって…。な、何で…?」

必死に平静を装おうとするが、動揺は隠しきれなかった。
思えば、ダイチがこのクラスに転校してきてから一週間、たびたび妙なやり取りを目撃したことがあった。

例えば、昨日の昼休みのこと。

校庭で、一輪車に乗って遊んでいたクラスの女子が、何かの拍子に転んでしまったことがあった。
その周りでは、他に男子も遊んでいたのだが、彼らはみな、慌ててその転んだ女子、サユリの方から目をそらしたのである。
たまたまサユリはスカートを履いており、転んだ拍子に、その中が見えたか見えなかったか、少し離れて見ていたダイチには、判別がつかなかった。

「あいたた…。転んじゃったー。あ、アンタ達、アタシのパンツ見たでしょ?」

サユリは、自分の体の心配よりも、周りにいたクラスメイトの男子達に、目を光らせた。

「い、いや。見てねえよ」

「俺も。ちょうど、あっちの方見てたから」

慌てて目をそらしたシンイチとジンは、明らかに動揺していた。
その動揺は、「女の子のパンツを覗いた」という、いやらしい気持ちに起因しているものでないことは、同じ男であるダイチには、すぐに分かった。
まるで、何かを恐れているような、必死にそれを避けようとするような、ちょっと奇妙な慌てぶりだった。

「ホントー? ま、いいか。でも、次はちゃんと料金をもらうからね?」

サユリは少し笑いながら立ち上がると、再び一輪車で遊び始めた。
そして、それを聞いた男の子たちは、顔を強張らせると、そそくさとその場を離れたのだった。

あのときの、シンイチとジンの動揺は何だったのか。ダイチにはまったく見当がつかなかったが、どうやらサユリのパンツに関係があることだけは、おぼろげに理解できた。
そして今、同じクラスメイトのミキが、自分にパンツを見せようとしている。

「な、何で、その…パンツ…見せてくれるの…?」

ダイチは背が高く、スポーツが得意な男の子だったが、性格はごく大人しかった。
一人っ子で、もちろん、女の子のパンツを間近で見たことなどない。

「えー? だって男子って、みんな女子のパンツが好きなんでしょ? だから、ダイチ君も見たいのかなって。今日、アタシ見せパン履いてきたから、ちょうどいいかなって」

「み、見せパン…?」

見せパンが何なのかすら、ダイチには分からなかった。

「そう。カワイイんだよ。見てみる?」

おもむろにスカートをめくりあげようとするミキを、ダイチはもはや止めようとはしなかった。
ただ、思わずゴクリと唾を飲み込んだ時、思い出したことがあった。

それは、先ほどの給食の時間。

今日はクラスに何人かの欠席者がいて、デザートのゼリーが、その分だけ余った。
小学生の常として、それは取り合いになり、多くの場合、じゃんけんなどで分配される。
しかし今日に限って、女子のカエデが、どうしても譲らなかったのである。

「じゃんけんだよ。いつもそうやって決めてるだろ!」

最後に残ったゼリーをめぐって、カエデと争っているのは、男子のコウタだった。
コウタはじゃんけんによる公平な勝負を要求しているのだが、カエデがどうしても譲らないのだ。

「やだあ。アタシ、じゃんけん弱いんだもん。ねえ、お願い。このゼリー、アタシの大好物なんだあ。ねえ、ちょうだい?」

「ダメだよ。俺だって、大好物なんだからな。じゃんけんで決めようぜ」

こちらも譲ろうとしないコウタの強情ぶりを見て、カエデはある提案をした。

「わかった。じゃあ、パンツ見せてあげるから。それでいいでしょ?」

「え?」

と、コウタの顔が、サユリから目をそらしたときの男子達と同じように、強張った。

「ね? ほら、見せてあげるから。いくよー」

カエデが自らのスカートをめくろうとした瞬間、コウタは慌てて、持っていたゼリーをカエデに押し付けた。

「も、もういいよ。ゼリーやるから。その…パンツはいいよ!」

「ホント? ありがとー! わーい!」

あれだけ強情を張っていたコウタが、あっさりとゼリーをカエデに渡してしまったのを、ダイチは不思議そうに見ていた。

「でも、ホントにいいの? パンチラだけでも見せてあげよっか? ほら。チラ!」

カエデはスカートの裾をちょっとだけ上げて、その中にある自らのパンツをチラつかせた。

「いいってば! 俺、見てないぞ。見てないからな!」

両手で顔を隠して、必死で見ないようにするコウタを、カエデは面白そうに追いかけた。

「ホントに見てないかなー? ほら、ほら!」

カエデが無造作にめくりあげるスカートの中に、赤いリボンのついた、白いパンティーが見えた。
ダイチは自分の席に座りながら、思わずそれに目を走らせてしまったが、ふと気がつくと、周りの男子達は、みな一様に目を伏せているようだった。

あの時コウタは、必死にカエデのパンツを見ないようにしようとしていた。
あれだけこだわっていた、ゼリーまであげてしまって。
それが何を意味するのか。
今、クラスの女子の中でも、とりわけカワイイと評判のミキが、目の前でスカートをめくりあげようとしている状況では、それを深く考えるだけの余裕はなかった。

「ジャーン。カワイイでしょー?」

ミキが自らめくりあげたスカートの下から、可愛らしい水玉模様のパンティーが現れた。
見せパンというだけあって、裾には大げさなフリルがついており、いかにも女の子が好きそうなデザインだった。

「あ…うん…」

ダイチの目は、釘づけになってしまった。
ダイチは早熟で、親に隠れてインターネットのアダルト画像などを盗み見ては、興奮することが何度かあった。
しかし今は、パソコンの画面ではない生で、しかもこんなに目の前に、女の子のパンティーと下半身がある。

「あ、あとね。後ろもカワイイんだ。ほら。クマさんなの」

ダイチの興奮をよそに、ミキはクルリと振り向いて、パンティーのお尻を向けた。
確かにそこには、可愛らしいクマのイラストが描いてあったが、心もち内股になって、お尻をキュッと上げたその体勢は、男の本能的な欲情を揺さぶるものだった。
ミキは、自他共に認めるクラスのファッションリーダーだったが、性的な意味ではまだ子供で、自分の行動がダイチの目にどう映っているか、まったく理解していないようだった。



「あ…あの…」

ダイチが興奮のあまり、肌触りの良さそうなそのパンティーに、思わず手を伸ばしそうになったとき、ミキはさっと振り返って、スカートを元に戻した。

「はい、おーしまい。よく見えたでしょ?」

「あ…う、うん…。ありがとう…」

よく分からないが、ダイチはとりあえずお礼を言ってしまった。

「えー。お礼はいいよ。ちゃんと、料金をもらうから」

「料金…?」

思えば、一輪車で転んだサユリも、そんなことを言っていた。

「うん。いくよ。料キーン!」

楽しそうなかけ声と共に、まだ興奮の冷めやらぬダイチの股間に、強烈な膝蹴りを叩きこんだ。

「あうっ!!」

ダイチが頭で理解するより早く、痛みが押し寄せてきた。
先ほどまで見とれていたミキの細い脚が、容赦なく、股間にある二つの睾丸を押し潰したのだ。
半ズボンの股間にテントを張っていたダイチのペニスは、一気にしぼみ、膝から力が抜けて、自然とその場にしゃがみこんでしまった。

「あ…あっ…!!」

絶望的な痛みが下腹部に広がり、ダイチは両手で股間をおさえ、足をバタつかせたが、痛みはますます全身に広がっていった。
やがて呼吸さえも困難になって、背筋に冷たい汗が流れ始めたころ、ようやく自分を見下ろして、楽しそうに笑っているミキの声に気がつくことができた。

「やったー! 一発KOだー! やっぱり、膝の方がきくんだなー。今度から、膝蹴りにしよっと」

ミキは、狙っていた獲物を仕留めたかのように、はしゃいでいる。
ダイチは脂汗をかきながら、ミキの顔を見上げた。

「ありがとうございます。確かに料キン、いただきました。キャハハ! そんなに痛かったー? ごめんねー? でも、これ、決まりだからさー」

「き、決まり…?」

ダイチは混乱した頭で、懸命に考えようとしていた。

「うん。ウチのクラスではね、1パンツ、1キンタマなの。一回女子のパンツを見たら、男子はキンタマを蹴られないといけないんだよ。それが、パンツを見るための料金なの。知らなかった?」

すっかり青ざめた表情のダイチの側にしゃがみこんで、ミキは説明した。
つまり、女子のパンツを覗いた男子は、罰として金玉を蹴られてしまうということらしい。
これはスカートめくりをするような、やんちゃでスケベな男子を懲らしめる方法としては、一見、合理的なように見える。
しかし、このルールを利用して、女子が自らパンツを見せてきた場合はどうだろう。
それは一転して、男子にとって恐るべき暴力となるのではないだろうか。

「ダイチ君は、アタシのパンツを見たから、アタシが料金もらったってこと。ちょっと痛いかもしれないけど、パンツが見れたから、いいでしょ?」

男にとって、難しい選択だった。
先ほどまで、ダイチは確かに幸せな興奮の中にいたが、その代償として、今は地獄のような苦しみを受けている。
女子のパンツを見れることは嬉しいが、その先にあるものを考えると、やはり他の男子のように、見ないという選択をしたくなる。いや、自分はもう、パンツなど二度と見ないと、とめどない痛みの中で、ダイチは決意するのだった。

「でもさー。ダイチ君みたいなおっきい男子でも、やっぱりキンタマは痛いんだねー。見せパンだったから、ちょっと手加減してあげたんだけどなー」

歯を食いしばって苦しんでいるダイチの様子を、ミキは小首をかしげて、不思議そうに眺めていた。
ミキ自身は、自分の力が強いと思ったことなど一度もなかったが、その自分の加減した蹴りひとつで、ダイチのような男の子が簡単に動けなくなってしまうことが、心から不思議で、面白かった。

「あ、アタシにキンタマ蹴られたって、先生とかに言っちゃダメだよ? そしたら、アタシもダイチ君にパンツ見られたからって言うからね? いい?」

女の子らしく、それなりに計算されているようだった。
金玉を蹴られた男子が、先生に告げ口したとしても、女子がパンツを見られたと言えば、怒られるのは男子に決まっている。
特にダイチ達のクラスの担任は女性教師で、男子の金玉の痛みなど、理解してもらえるはずもない。
ダイチは、力なくうなずくことしかできなかった。

「良かった。じゃあ、トントンしてあげるね? こうすると、痛くなくなるんでしょ? はい、トントントン」

どこで覚えたのか、ミキはうずくまるダイチの腰のあたりを、拳で軽く叩いてやった。
それはほんの気休め程度の効果しかないが、それでもダイチにとってはありがたかった。




「ミキちゃーん、何してんのー?」

するとそこへ、クラスメイトの女子、カエデとサユリが近づいてきた。
二人は、廊下の隅にしゃがみこんでいるミキと、そのそばで股間をおさえて、うずくまっているダイチを見ると、すぐに状況を理解したようだった。

「あー、ダイチ君もパンツ見たんだー。やっぱり、男子ってみんなスケベなんだね。ダメだよー、女の子のパンツ見たら」

クラスでもお調子者のサユリが、すべて分かった上で、クスクスと笑いながら言った。

「ミキちゃん、ちゃんと料キンもらった?」

「うん。膝蹴りさせてもらった。でもさ、ダイチ君は、ウチのクラスのルールを知らなかったんだね。ちょっと可哀想だったかなあ」

「あ、そうなんだ。でも、仕方ないよ。ルールはルールだもん。ねえ、ダイチ君、これからは、パンツなんか見ちゃダメだよ?」

カエデはニコニコと笑いながら、ダイチの顔を覗きこんだ。
自分は、決して見ようとしたわけではないと叫びたかったが、睾丸から押し寄せる痛みは、彼女たちに口答えしてはいけないということを、強く警告していた。

「ていうかさ、ダイチ君、給食の時間に、カエデちゃんのパンツも見てなかった? アタシ、前の席だったから、気づいたけど」

サユリのこの言葉に、痛みで半ば朦朧としていたダイチの頭は、冷水をかけられたように覚醒した。

「えー? ホント? ダイチ君?」

ダイチはとっさにうつむいて、目を逸らした。
その額には、汗が大粒の玉となって浮いている。

「み、見てない。見てないよ!」

全力で否定したが、動揺は隠しきれず、ウソをついていることは、カエデ達の目には明らかだった。

「ホントにー? ねえ、ダイチ君、ウチのクラスではねえ、一回ウソついたら、5キンタマ払わないといけないってルールもあるんだよ?」

ダイチの顔が、一瞬で強張った。
5回も金玉を蹴られるなんて、考えただけでもゾッとする。

「ホントなら、それでいいんだけど。他の人にも聞いてみようかなあ。それでもし、ウソだったら、その時はさあ…」

カエデはダイチの心を見透かしているかのように、うっすらと微笑んでいた。
サユリとミキもまた、ニヤニヤと笑っている。
むしろ、ウソをついてもらった方がいい。5回も金玉を蹴るなんて、楽しそうだ。
そんな彼女たちの思惑は、ダイチにも十分に伝わってきた。

「あ、あの…その…。やっぱり…」

唇を震わせながら、ダイチはつぶやいた。

「んー? なに?」

「やっぱり…チラッと見えてたような気がする…。ホント、その…チラッと…」

言い終わると、ダイチはごくりと唾を飲み込んだ。
カエデ達の反応はどんなものか。
神様に祈りたくなるような気分だった。

「えー? ホント―? チラッと見ちゃったんだ? しょうがないなー。なんで、すぐ言わなかったの?」

「い、いや…その…ちょっと忘れてて…。ホントにチラッとだったから…」

ダイチは慌てて弁解したが、女の子たちには通用しなかった。

「じゃあ、ダイチ君は最初だから、パンツの分だけで許してあげるよ。さ、立って」

カエデは楽しそうに笑っていた。
もちろん、ダイチはまだ立ち上がれるほど、ミキの膝蹴りのダメージから回復したわけではない。
股間をおさえたまま、うずくまっていると、サユリとミキが、その両脇を抱えて引き起こしてしまった。

「や、やめて…! ごめん! 謝るから…!」

恐怖にひきつった顔で、叫んだ。

「うん、いいよ、いいよ。ちゃんと料キンさえもらえれば、それでいいんだからさ。じゃあ、いくよ?」

カエデは慣れた動きで、ダイチの股間に自分の足先を当てて、狙いを定めた。
ダイチが脚を閉じようとしても、サユリとミキが自らの脚を股間に突っ込んで、それをさせなかった。

「ごめん! ごめんなさい! 何でもするから! もう蹴らないで!」

「えー。しょうがないなー。でも、これって決まりだからさあ。…あ、そうだ!」

何か気がついたように、カエデは声を上げた。
その顔には、女の子が相手をいたぶるときのような、小悪魔的な笑いが浮かんでいる。

「今から、一つクイズを出すね。これに正解したら、許してあげる。いいでしょ?」

「ク、クイズ…?」

ダイチの返事を待たずに、カエデはクイズを出してきた。

「問題! アタシのパンツについてるリボンの色は、何色でしょうか?」 

「え!?」

ダイチの頭が、これまでの短い人生で、最も速く回転したときだったかもしれない。
クイズの答えは、知っている。
正解すれば、金蹴りをやめてくれるという。
しかし、それに正解するということは、カエデのパンツをしっかりと見たということになり、それは、先ほどウソをついたということになるのではないだろうか。

「はい、あと5秒ね。5、4、3、2…」

カエデは、ダイチの心中の葛藤を知っているのかどうか。
サユリとミキも、何か悟ったかのような顔をして、ニヤニヤ笑っている。
わからないと答えれば、とりあえず今は一回蹴られるだけで済むのか。
もし、後でウソをついたとバレたら、その時また蹴られてしまうのではないだろうか。
考えれば考えるほど、わからなくなり、もうどっちにしろ、自分は金玉を蹴られてしまうような気がしてきて、ダイチは考えるのをやめた。

「赤! 赤だ!」

思わず、見た通りのことを、正直に叫んでしまった。
その瞬間、沈黙がその場を流れる。
サユリとミキも、カエデの反応を待っているかのように黙りこくっていた。

「…せーかい! ダイチ君、すごーい! 約束通り、蹴るのやめてあげるね?」

ダイチの体から、一気に力が抜けた。

「あ、ありがとう…ございます…」

どうやら、自分の選択は正しかったらしいと、ほっとする思いだった。

「うーん。どうして分かっちゃったのかなー。おかしいなー」

カエデの首のかしげ方は、どことなくわざとらしかったが、ダイチにはもはやそんなことを気にする余裕がなかった。
ただ、この場を早く離れて、イスに座ってゆっくりと休みたい。そんな思いが、ダイチの頭を支配していた。

「カエデちゃん、ホントに赤だっけ? ピンクじゃなかった?」

ダイチの腕を抱えていたサユリが、突然そう言った。

「水色じゃなかった?」

どういうつもりなのか、ミキまでそんなことを言いだした。

「ホントだよお。確認してみよっか? ホラ」

カエデがごく自然に、スカートをめくり上げた時、ダイチの思考は完全に止まっていた。
そこには、純白のパンティーと、赤い小さなリボンが見える。

「あ…」

これが何を意味するのかを理解したのは、そのすぐ後だった。

「ね? 赤でしょ? ねえ、ダイチ君、赤だよね?」

ニコニコと笑いながら問いかけるカエデに、ダイチは思わず目をつぶって、泣きそうな表情でうなずいた。

「う、うん…。赤です…」

「そうだよね。よかった。じゃあ、改めて料キンをもらうね? せーの!」

もはや、女の子たちの意地悪な遊びに付き合う気力は、ダイチには残っていなかった。
それよりも、やがて確実に来る地獄のような痛みに耐えるため、目をつぶり、歯を食いしばって、男らしく仁王立ちして身構える方が、ダイチにとって優先事項だった。

ズン!

股間に突き刺さった質量の中に、ほのかな体温が感じられたような気がした。
カエデの膝の先端は、金玉袋の根元あたりに突き刺さり、睾丸を押し潰したのは、そのすぐ上、膝頭と太ももの間の、堅くて太い部分だった。

「はああっ…」

瞬間、背筋に寒いものを感じ、この数瞬後に来る痛みが、先ほどのミキの蹴りのときの比ではないことを、ダイチは本能的に感じ取った。
すぐに両脚の力が抜けて、一気に重くなったダイチの両腕を、サユリとミキが放してやる。すると、ダイチの体は木が倒れるように、横倒しに崩れ落ちてしまった。

「っっっ……!!」

声にならない叫び声を上げて、ダイチは顔を歪めた。
二つの睾丸から上がってくる痛みは、胃を貫いて、喉元に吐き気すら催させる。
えづくような咳が、ダイチの口から何度も漏れた。

「さすがあ! カエデちゃんの膝蹴りは、すごいねー」

「ホント、みんな、こうなるよね。すごーい」

女の子たちの目にも、ダイチのリアクションが異常であることは分かったらしい。
金玉の痛みにも、いくらかの段階があることを、何度も金蹴りを重ねるうちに、彼女たちも理解しているようだった。

「そうかなあ。まあまあ、強めに蹴ったからかな。ねえ、ダイチ君。ダイチ君は転校生だから、これで許してあげるね。でも、もうウソついちゃダメだよ?」

廊下に這いつくばって苦しむダイチに、カエデは諭すように声をかけた。

「パンツを見たら、ちゃんと料キンを払わないとさ。ルールだからね?」

自分に地獄のような苦しみを与えておきながら、にっこりと笑いかけるカエデの姿に、ダイチは言いようのない恐怖を感じた。
これから、カエデの顔を見るたびに、この痛みを思い出すだろう。
絶対に、彼女に逆らってはいけないと、朦朧とした意識の中で確信した。

「じゃあ、行こっか。料キンももらったし。ありがとうございましたー!」

満足そうな表情で、カエデはペコリと頭を下げた。

「ダイチ君、ありがとうね。また、新しい見せパン買ったら、見せてあげるね」

「え、ミキちゃん、見せパンって何?」

「あ、うん。新しいの買ったんだ。カワイイんだよ。見てみる?」

「えー! 見せて見せて!」

楽しそうにはしゃぐ女の子たちの眼中には、すでにダイチはないようだった。
ダイチはこれから、気が遠くなるほどの長い時間を、絶望的な痛みと戦わなくてはならないのだった。


終わり。




家族連れでにぎわう、昼下がりの遊園地。
大型連休2日目の今日の目玉は、メインステージで行われる戦隊ヒーローのショーだった。
「ボールレンジャー」と名づけられたそのヒーローは、魔法のボールに見出された5人の戦士たちが、悪の宇宙人たちと戦うという、典型的な戦隊ヒーローの設定だった。

「よし、みんな! 正義の力を見せてやろう!」

「おう!」

戦隊のリーダーであるボールレッドの、勇ましい掛け声と共に、闘いの火ぶたが切られた。
この戦隊には、レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクの5人がおり、ピンク以外の4人は男だった。
紅一点のピンクは、鮮やかなテクニックで、迫りくる戦闘員たちを、次々となぎ倒していく。
他の4人も、剣や武器を使ったりして、戦闘員たちを倒していった。
中でも怪力キャラのイエローは、戦闘員を両手で高々と持ち上げたりして、その力を子供たちにアピールしている。
テレビでは味わえない、臨場感たっぷりのステージに、子供たちは大興奮だった。

しかし今日はここに、大きな不満を持ったままステージに上がった人物がいる。
彼女の名は、蓮田ミチル。
中堅のスーツアクターとして経験を積み、今回のシリーズでは、中ボスである悪の女帝・クラッシャークイーンに抜擢されていた。

「行け! 我がしもべたちよ!」

台本通りに、戦闘員に指示を出すミチルだったが、その心中は穏やかではなかった。
もともと、彼女は戦隊ヒーローに憧れて、この世界に入った。
端正な顔立ちと、天性の運動神経を持った彼女は、順調にキャリアを積んでいき、今回の「ボールレンジャー」で、初のピンク役をつとめることになると、確信していたのだ。
しかし、蓋を開けてみれば、大手事務所から送りこまれた新人女優に、あっさりとピンクの座を奪われ、自分は中ボスとはいえ、悪役を任されることになってしまった。
ミチルはプロとして、自分に与えられた仕事はきっちりとこなすつもりだったが、かえってその姿勢が、不満を内に溜めることになってしまったようだった。

(あんな女より、私の方が絶対ピンク役に合っていたのに…)

目の間で可憐に戦っているボールピンクの姿を見るたび、ミチルの心にはもやもやとした不満が募るのである。
もちろん、今、ステージに上がっているボールピンクの中身は、大手事務所の新人女優ではなく、ミチルの知り合いのスーツアクターだった。
しかしそれもまた、ミチルの不満の一つなのである。

(私だったら、演技もアクションも、両方一人でできるのに。あんな、外見だけの女を使って…)

ピンク役を任されたその新人は、もともとグラビア出身であり、ヒーローらしいアクションは何一つできなかった。
むしろ運動神経は悪い方で、なるだけ彼女のシーンには激しい動きがないように、演出家などが苦労していることも、ミチルは知っている。

(大体、このボールレンジャーってのは、なんなのよ。運動オンチのピンクを使ったり、セリフもろくに読めないブルーだったり…。今回のシリーズは、完全に失敗ね)

ミチルの不満は、すでにボールレンジャーという番組全体にまで及んでいるようだった。
そんなことを考えているうちに、戦闘員たちは全員倒されて、悪役はミチルのクラッシャークイーンだけになってしまう。

「よおし! 覚悟しろ、クラッシャークイーン! 今日こそ、お前を倒してやる!」

「ホホホホ! そう、うまくいくかしら?」

クラッシャークイーンは、妖艶に笑った。
戦隊ヒーローシリーズには、大抵、このようなお色気担当の悪役がいるものだが、クラッシャークイーンもその例にもれず、ハイレグ水着のような衣装をベースに、露出度の高い格好をしていた。

(よく考えてみれば、これも不思議な話よね。正義のヒーローっていうのに、5対1で戦おうっていうんだから。力の差があるっていう設定だけど、ちょっとした集団リンチよ)

ミチルは頭の片隅で、そんなことを考えていた。

(私だったら、5人相手に戦うとき、どうするかな…。やっぱり、一撃で仕留めないといけないから…)

ミチルはスーツアクターを目指す上で、武道の経験も必要と思い、学生時代に空手や柔道の道場に通っていたことがあった。
しかもその道場で、それぞれ二段や三段の腕前を持っているという。

(男には、金的蹴りが一番ね。大体、ヒーローだからって、金的攻撃を受けないのもおかしな話だわ。命がけの戦いなんだから、急所は絶対に守るべきよ。テレビを見ている子供たちにだって、そういうことを教えていかないと…)

ミチルが、前々から疑問に思っていたことだった。
ヒーローの全身タイツの、もっこりふくらんだ股間を、なぜ誰も攻撃しないのか。
カッコよくポーズを決めているつもりでも、その足は大きく開かれて、ミチルにとっては絶好の的だった。

「うおおぉっ!!」

やがてボールイエローが、ステージの隅に用意されていたドラム缶を持ち上げた。
怪力のイエローがドラム缶を投げつけて、クラッシャークイーンは華麗にそれをかわすというのが、予定された動きだった。

(あんなに足を開いて。バカみたい。強いつもりなの?)

ミチルの頭に、そんな考えが浮かんだ時、もう、どうにでもなればいいという気持ちになった。

「イエロー!」

「すげえー! 頑張れー!」

子供たちの声援が飛ぶ中、イエローはドラム缶を投げつけようとした。
その時。

スパン!

と、クラッシャークイーンの金的蹴りが、ボールイエローの股間に決まった。

「はぐぅっ!」

ボールイエローの体から、一瞬で力が抜けた。
ドラム缶を落とし、両手で股間をおさえて、その場にペタンと尻もちをついてしまう。

「くくく…」

録音されたイエローの声ではない、中に入っているスーツアクターの苦しみの声が、静まりかえったステージに響いた。





(あ…。やっちゃった…)

ミチルはさすがにしまったと思ったが、ステージを止めるわけにはいかない。
ボールレンジャー達の声は、全て録音されたものであり、台本通りのことしか言えないのだ。
この場では、唯一ミチルだけが、アドリブに対応できる存在だった。

「…ホホホホ。油断したな、ボールイエロー!」

なんとか戦いを進めようとした。
ボールレンジャー達も、それについていこうと、必死に動きをとった。
「とおっ!」とか「やあっ!」などの掛け声だけなら、ある程度合わせられるはずだった。

「イエロー! 大丈夫―?」

「どうしたの、イエロー!」

子供たちから応援と、そして疑問の声が上がっていた。
子供たちにしてみれば、あんなに力強いボールイエローが、軽い蹴り一発で倒れてしまったのが、不可思議なようだった。
まさか、ヒーローも金的が急所だとは思ってもいなかったのである。

「…ホホホホホ! ボールレンジャー達よ! お前たちの弱点は知っておる! お前たちの足の間には、大切な魔法のボールが入っているのだろう? 今日は、それを狙ってやるぞ!」

苦境のあまり、とんでもない設定をミチルはブチ込んできた。
もちろん、そんな話はボールレンジャー達をはじめ、子供たちも聞いたことがなかった。
しかし、現実にボールイエローは倒されてしまっている。
そしてさらに、残りのボールレンジャー達も、股間を狙われるのだろうか。
思わず尻込みした彼らに、ミチルの方からしかけてきた。

「えい! そおら!」

クラッシャークイーンは、ボールブルーに素早く近づくと、その股間に膝蹴りを打ち込んだ。
さらに隣にいたボールグリーンに対しては、持っていた魔法の杖で、その股間を打ち上げた。

「あっ!」

「うえっ!」

ブルーとグリーンは、なす術もなく倒れてしまった。
イエロー同様に、股間を両手でおさえ、うずくまって苦しんでいる。
それは演技でも何でもなく、そのヘルメットの下は、普段かいたことのない汗でびっしょりになった、苦痛の表情があるはずだった。

「…く、くっそー!! よくも!」

ボールレッドの声が、ステージに響いた。
もともと、レッド以外のボールレンジャー達が一度やられてしまうのは、台本通りだった。

「ホホホホ! 貴様の魔法のボールも、いただくぞ!」

もはやどうにでもなれと、開き直っているミチルのアクションは、普段、溜まりに溜まっていた感情に忠実だった。
完全に及び腰になっているボールレッドに近づくと、その股間の膨らみを掴み、もぎ取るようにして捻りあげたのである。

「ぐああぁぁ…!」

実は、ボールレッドを演じているスーツアクターは、ミチルの元彼だった。
スーツアクターとしての実力は確かなものの、女癖が悪く、さんざん浮気されて、半年前に別れたのである。
しかも最近では、例のピンク役に抜擢された新人女優に手を出しているという噂を、ミチルは聞いている。
さまざまな恨みつらみがこもった力で、ミチルはボールレッドの睾丸を握りしめていた。

「ホホホホ! どうした、ボールレッド? 魔法のボールが痛いのか? これを取ってしまえば、お前は二度と変身できなくなるぞ。ほおら!」

「あががが…! ミ、ミチル…やめて…」

ヘルメットの下から、元彼の悲痛な声が漏れた。

「レッドー! 頑張れー!」

「負けるな、レッドー!」

子供たちの声援も、レッドには届かなかった。
やがて、レッドの体がブルブルと痙攣し始めたころ、ようやくミチルはレッドの股間から手を放してやった。

「…ぐわぁっ!」

録音されたレッドの声が響いたが、ステージの上のボールレッドは、声を上げることもなく、その場に倒れ込んでしまった。

「フン! 弱いヤツらめ!」

ミチルは完全にふっ切れているようだった。
ステージ上には、股間を抑えて呻いているヒーロー4人と、それを見下ろしていうクラッシャークイーン、そして、無事なのはボールピンクだけだった。
およそ、ヒーローショーとは思えない、異様な光景だった。

「あとはお前一人だ、ボールピンク!」

そうは言ったものの、ミチルはこの後の展開に困ってしまった。
さすがにピンクまで倒してしまうわけにもいかず、考えた挙句に、台本通りに倒されることにした。

「行くぞ! そおら!」

再び、クラッシャークイーンの金的蹴りが唸りを上げた。
ここまで、半ば呆然と事の成り行きを眺めていたピンクは、自分がどうしていいか分からないまま、また、女性特有の股間の無防備さで、ミチルの金的蹴りを受けてしまった。

「…っ!」

他のボールレンジャー達をあっさり沈めたクラッシャークイーンの攻撃が、ピンクにだけは効かなかった。

「な、なに! お前には、効かないのか!?」

もちろん、空手二段のミチルの前蹴りを股間にくらえば、女性でも多少のダメージはあるだろう。
ミチルはとっさに、自分でシナリオをくみ上げ、それに沿って手加減していたのだ。

「ま、まさか…。そうか! お前は女だからだな! 女は、魔法のボールが他の場所に入っているのだな! くそうっ!」

ここで、ミチルはスーツアクター同士にしか分からない、合図を送った。
今が、とどめをさすチャンスだという、合図である。
それを見たピンクは、すぐさま、必殺の飛び蹴りを放った。

「必殺! スーパーボールキーック!」

「ぐわあぁー!」

なんとか音声も間に合い、飛び蹴りが決まった。

「く、くそう…。ボールレンジャー最強の戦士は、ボールピンクだったのか…」

捨て台詞を残して、クラッシャークイーンは退場していった。
後に残されたボールピンクは、周りでうずくまっている他のボールレンジャー達に、声をかけて回った。
なんとか立ち上がって、決めポーズを取らなければ、ステージは終わらないのである。

「う…せ、正義は勝つ…あぁ…」

ピンク以外の4人は、よろよろと立ち上がったものの、前かがみなり、腰に手を当てながら、決めポーズをとった。
そうしてステージは無事に終了したが、その後のボールレンジャー達との写真撮影会は、中止になったという。

ミチルはさすがにとんでもないことをしてしまったと、ステージ終了後に反省したが、意外にも、そのステージの評判は良かった。
それも子供たちよりも、一緒に見に来ていた母親たちに、圧倒的な支持を受けたのである。

「お決まりの退屈なステージではなく、面白かった」

「いつも守られてしまいがちなピンクが、女性の強さを見せつけてくれて、スカッとした」

などの感想が、インターネットのHPに多く寄せられた。

そして、それに興味を持った番組制作会社が、次回は女性がメインとなるヒーロー戦隊を作ろうという企画を出してきたのである。
女性ならではの、しなやかな動きと素早さ、そして必殺の金的蹴りを使って、悪役怪人たちをなぎ倒していく。
その主人公候補として、ミチルの名前が挙がったことは、言うまでもない。


終わり。


// ホーム //
Powered By FC2ブログ. copyright © 2024 金玉を蹴る女達 all rights reserved.
カテゴリ

月別アーカイブ
訪問者数

検索フォーム

リンク