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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


高級ホテルの一室で、二人の女が向かい合っていた。
一人はソファーに腰をおろし、もう一人は、壁を背にして立ちながら話をしている。

「話は分かった。いつまでにやればいい?」

「早ければ早いほどいいわね。最悪でも、一か月以内に。できるかしら?」

「まず一つ。それで変化がなければ、二つめ。それを一か月以内ということでいいか?」

「そうね。そうしてちょうだい」

「分かった。やってみよう」

部屋のドアが開いた。
壁に立っていた女は警戒の色を見せたが、すかさずソファーの女が手を挙げた。

「大丈夫。ウチの人間よ。彼にも事情を説明していい?」

「それはそちらの問題だ。仕事に支障が出なければ、私はそれでいい」

「ありがとう」

壁に立っていた女は振り向くと、部屋の出口へと歩いて行った。
スイートルームの長い廊下で、たった今、部屋に入ってきた男とすれちがった。
互いに挨拶をすることもなく、通り過ぎる。

「やあ。今のは誰だ? 見ない顔だったが」

ソファーに座った女は、ワイングラスを傾けていた。

「うん。そうね。あなたには関係ないわ。いえ、あなたは知らない方がいいということよ」

「なんだい、それは? うちの組織のことで、ボクに隠すことがあるのか?」

「そうね…」

女はワインを飲みほして、グラスを見つめた。

「ボールキラーって、聞いたことあるかしら? 彼女がそれよ」

「ボールキラー? 殺し屋か何かか? いや、待て。それはもしかして…」

「殺し屋っていうのとは、ちょっと違うわね。彼女が狙うのはボールズ、つまり男のタマだけなんだから。殺しはしないわ」

「依頼を受ければ、どんな男でもそのタマを潰してしまうっていう、あのボールキラーか? 今の女が?」

「そう。彼女に依頼すれば、ことを荒立てずに揉め事を解決できるのよ。ちょっと痛い思いをするかもしれないけど。平和的だと思わない?」

「それは、まあ…。で、相手は誰なんだ?」

「それは私の口からは言えないわ。想像するのは勝手だけど」

「…G社の社長か? うちとセンタービル建設の権利を争ってるっていう」

「そうね。あそこの社長が手を引いてくれたら、うちには相当なお金が入ってくるのにね。まったく、困ったものだわ」

「しかし、相手は素人だぞ。手荒な真似は…」

「別に。私は何もしてないわよ。ただ近いうちに、社長の大切なタマタマが一つ、プチっと潰れてしまうかもしれないだけ。その後のことは、社長自身が考えるでしょう」

「そ、そうか…」

「そうよ。ただ、それだけ」

男が目をそらした後、何気なく自分の股間に手を当てて確認したのを、女は見逃さなかった。





広いリビングには、二人の男たちがいた。
一人はソファーに座り、タバコをふかしている。
インターホンが鳴り、立っていたもう一人の男が壁のモニターを確認して、玄関へ迎えに行った。

「調子はどうだ?」

「ボス。お疲れ様です」

二人がリビングへ来ると、ソファーに座っていた男は立ち上がった。

「社長は? 変わりないか?」

「はい。ずっと部屋で、コレと」

男は小指を立てて、ニヤリと笑った。
ボスはソファーに腰を下ろした。

「どんな女だ?」

「はい。金髪の。そりゃあもう、胸のでけえ女で…」

「身元を調べたのかって聞いてんだ。胸なんかどうでもいい」

「ああ、はい。いや、でも、いつも使ってる女みたいなんで。社長も別に何とも…」

「馬鹿野郎。お前、昨日俺が言ったこと、もう忘れたのか?」

「はい。あの、社長が狙われてるって話ですよね。そりゃあ、覚えてます。でもボス、ありゃあ、ただの娼婦ですよ。荷物はそこに置いてあるし、素っ裸で何ができるってこともありませんよ」

隣の部屋から、女の喘ぎ声が聞こえてきた。

「あ…! あぁ…! あぁん!」

「終わったみたいですね」

「うるせえ」

しばらく時間がたった後、ドアが開いて、女が一人出てきた。
真っ赤なミニスカートを履いた女は、ソファーに置いてあったハンドバッグを取ると、男たちを見回して、手を差し出した。

「社長が、外にいるヤツらから貰えって」

ちっと舌打ちをして、ボスが財布を出した。

「ねえ、アンタたちさ。クスリ持ってない?」

金を数えながら、女は尋ねた。

「うるせえ。さっさと行け!」

女が出て行くと、隣の部屋からバスローブ姿の男が出てきた。

「帰ったか。ふん…」

「社長。困りますよ。女を呼ぶ時は、うちを通してもらわないと」

「あれはいつもの女だ。問題ない」

「万が一ということがあります。社長を狙う殺し屋を雇ったという情報もありますから。注意してもらわないと」

「それは昨日も聞いた。だからこうやって、お前たちに守ってもらってるんじゃないか。しかし、隣に人がいると思うと、どうも面白くない。集中できん」

「我々は全力でお守りしますが、社長自身にその気がないと、意味がありませんよ。センタービル建設の件が決定するまでは、慎んでいただかないと」

「馬鹿な。その間、女を抱けないなんて考えられん。何が問題なんだ。ドアは鋼鉄製にして電子錠をつけたし、窓も防弾ガラスにした。あの部屋にいる限り、私は安全なはずだろう」

「相手はどこからくるか、分かりません。用心しないと」

「もういい。私はあの部屋から出ることはないから、それで十分だろう。だが、女は毎日呼ぶからな。それは私の自由にさせてもらう。お前たちがここで、身体検査でもすればいいだろう。それで十分なはずだ」

「それは、しかし…」

「私が殺されれば、一番困るのはお前たちだろう。今まで一体いくら払ったと思ってるんだ。その分、きっちりと働いてみせろ!」

バスローブ姿の社長は、部屋に入っていった。
重たそうなドアが閉まると、電子音と共に錠がおりた。
取っ手の部分には、ナンバーロックシステムが付いているようだった。

「ふん。大した女好きですね。あの歳で」

「やめろ」

ボスは不機嫌そうにソファーに座った。

「それで、俺たちはどうすればいいんですか、ボス?」

「今まで通りやるだけだ。ここに最低二人を置いて、24時間体制で社長を守る。社長が女を呼んだら、できるだけ念入りにチェックをするんだ。それしかない」

「へへっ。念入りにですね。分かりました」

「お前たち、銃は持っているな? 俺もできる限りここに来るようにする。なに、ビル建設の件が決定するまでの辛抱だ。それが決まってしまえば、向こうも手出しはしないだろう」

インターホンが鳴った。
男たちは顔を見合わせて、やがてさっきボスを迎えに行った男が、モニターを確認する。
そこには、金髪の女が映っていた。

「さっきの女です」

振り向くと、ボスはうなずいた。
男はインターホンの通話ボタンを押した。

「何だ?」

「あ、アタシ。ピアス忘れちゃって。社長の部屋かな」

「分からん。次、来た時でいいだろう」

「えー。あのピアス、社長から貰ったヤツなのよ。いつも着けとけって、うるさいのよね。ベッドの横にあると思うから、社長に聞いてよ」

男が振り向くと、ボスは舌打ちをした。

「入れてやれ。目を離すな」

男はうなずいた。

「今、そっちに行く。待ってろ」

男はリビングを出て、玄関へ向かった。

「もう一回、身体検査しときますか? 念のため。へへっ」

「うるせえ」

ボスは不機嫌そうに、タバコに火をつけた。





玄関につくと、男は扉の鍵を開け始めた。

「ねえ、まだ?」

「待て。今、開けてやる」

重たそうな扉を開けると、そこには金髪の女が立っている。

「入れ」

玄関に入ると同時に、女はすっと男の懐に入った。
そして、男が戸惑う間もなく、その股間に向かって膝を振り上げた。
男の踵が浮くほどの、強烈な一撃だった。
ミシっという音が男の脳裏に響き、男は意識を失った。

「うぅ…」

白目をむき、涎を流して、男は人形のように玄関に倒れ込んだ。
ドスンという物音が、リビングまで聞こえた。
女はその場で、次の獲物を待ち構えることにした。

「おい。ちょっと見てこい」

不審な物音を聞いたボスが、男に命令した。
男はうなずくと、ポケットから銃を取り出して、リビングを出た。
玄関につくと、扉が開け放されており、男と女が倒れているのを発見した。

「おい! どうした?」

男は近寄って、二人の様子を見た。
倒れている男は気絶しているようで、金髪の女は、震えながら怯えていた。

「い、今…急に変な男が入ってきて…。アタシ…」

「なに? どんなヤツだ?」

「わ、分からない…。突然だったから…。いきなりつかまれて…」

女が上半身を起こすと、服がはだけて、その胸が半分露わになっているのが分かった。
男は思わず、ゴクリと唾を飲みこんだ。

「わ、分かった。そいつは災難だったな」

「アタシ…! 怖かった!」

女が男の首に抱きついた。
男は驚いたが、自分の胸に女の柔らかい乳房が当たっているのを感じると、そのまま女の背中を抱きしめてやった。

「そうか。もう大丈夫だ。もう大丈夫…うっ!?」

女の手が男の股間に伸びて、その睾丸を握りしめていた。
同時に、女は男の口を手で抑えて、声を上げられないようにする。
女とは思えない強烈な握力が、男の睾丸を締め上げていた。

「うぅ…!! ぐ…!」

「社長の部屋のナンバーロックの番号を知っているか?」

女が男に尋ねた。
暗く冷たいその声は、明らかにさきほどの娼婦ではなかった。

「う…うう…」

「番号を知っているか? 答えなければ、お前の金玉を潰すぞ」

女の手に力が込められ、男の睾丸は大きく変形した。
信じられないほどの痛みが、男の股間から発せられていた。
男は呻きながら、必死に首を横に振った。

「誰が知っている? お前のボスか?」

男はうなずいた。
その目には、涙が溜まっている。

「そうか」

女は冷たい目で言うと、そのまま男の睾丸を掴む手に、より一層の力を込めた。

「……っ!!」

男はビクッと痙攣し、細かく肩を震わせた後、声も上げずに気絶してしまった。
女が手を離し、立ち上がると、男の体はその場にドサリと崩れ落ちた。
白目をむき、泡を吹き始めた男の上に、女は金髪のカツラと真っ赤なミニスカートを脱ぎ捨てた。





リビングにいたボスは、すでに銃を取り出していた。
部下二人が戻っていない状況に警戒し、隣の部屋の社長に声をかけた。

「社長! 社長! 聞こえますか?」

「なんだ?」

「俺がいいというまで、絶対に部屋を出ないでください! 絶対にですよ!」

社長の返事は聞こえなかったが、状況は伝わったはずだった。
ボスは携帯電話を取り出して、電話をかけた。

「俺だ。今すぐ社長の家に来い。そこにいる全員だ。銃も持ってこい。すぐにだぞ!」

その時、部屋の灯りが消えた。
建物中の電源が切れたようで、一斉に真っ暗闇になった。
隣の部屋から、社長の悲鳴が聞こえた。

「ちっ!」

ボスは舌打ちして、ポケットからライターを取り出して、火を点けた。
わずかな火灯りが、暗闇を照らす。
社長の部屋のドアを確認すると、異常はないようで、電子錠も機能しているようだった。
やがて非常電源が入ったようで、薄暗い非常灯が、天井に灯った。
ほっとため息をついたとき、目の前に女が立っていることに気がついた。

「てめえっ!」

とっさに銃を向けたが、女が右手を振り上げ、その手から紐のようなものが出たと思うと、次の瞬間にはボスの手から銃が離れ、宙に舞っていた。

「なっ!?」

宙を舞った銃は、魔法のように女の手の中に吸い込まれた。
女は銃を手に取ると、それを相手に向けるわけではなく、弾倉を取り出し、器用に分解して、背後に放り投げてしまった。

「て、てめえ。何者だ!」

女は黒いボディスーツのようなものを身に着けていた。
その胸は、さきほどの娼婦にも負けないくらいに大きい。

「そのドアのナンバーロックの番号を教えろ」

「なに?」

「番号を教えなければ、お前の金玉を潰すぞ」

「この野郎!」

銃を奪われたボスは、女に向かって殴りかかった。
女はいとも簡単にそれをかわすと、腕を掴み、鮮やかにボスの体を放り投げた。
大きな音が響いて、床に叩きつけられる。

「ぐっ!」

背中に衝撃を受けて、呼吸が止まる思いだった。
女は間髪入れず、仰向けになったボスの股間に素足をねじ込んだ。

「ぐえっ!!」

痛みで、上半身がバネのように跳ね上がったが、女の足はビクともしなかった。
恐ろしく強い圧力で、睾丸を二つとも踏みしめている。

「番号を言え。金玉が潰れてしまうぞ」

「く…てめえ…! ぎゃあっ!!」

女が足をわずかに動かしただけで、股間に激痛が走った。
それは一瞬で心が折れてしまいそうなほどの、耐えがたい痛みだった。

「聞け。私は社長を殺しにきたわけじゃない。ただヤツの金玉を一つ、潰しに来ただけだ」

「な…に…?」

「お前が番号を言わないのなら、他の所から入ればいいだけのことだ。ただの時間稼ぎのために、お前は自分の大切な金玉を犠牲にするのか? よく考えろ」

「そ、それは…ぎゃあぁっ!!」

女が踏みつける力は、どんどん強くなっていった。
ボスは絶叫し、それは隣の部屋の社長にも聞こえていた。





「ひいっ!」

社長はベッドの上で毛布にくるまり、電子錠のかかったドアを凝視していた。
やがて、ボスの叫び声がやむと、静寂が流れた。
薄暗い非常灯の灯りの中、社長はただドアだけを見つめている。
ドアの向こう側で、ナンバーロックを操作する音がした。
社長とボスしか知らないはずのその暗証番号を、誰かが入力しているようだった。
電子錠が開いた。
ゆっくりとドアが開き始めると、社長は体をビクリと震わせた。
あるいはボスかというかすかな期待が、その目に現れている。
しかしその期待に反して、ドアの陰には、誰もいなかった。

「ひいっ!」

社長は毛布の下に握っていた拳銃を、ドアにむかって撃ちまくった。
鋼鉄製のドアに、弾が次々と反射する。
やがて撃ち尽くすと、カチンカチンというトリガーの音が、空しく響いた。

「だ、誰か! 誰か助けてくれ!」

転げるようにしてベッドを降りると、窓に向かって走った。
窓の鍵を開けようとしたとき、バスローブをつかまれ、引きずり倒された。

「な…! だ、誰だ、お前は!?」

仰向けになった社長を、女が見下ろしていた。
女は無言のまま、社長の股間をサッカーボールのように、思い切り蹴り上げた。

「~~っつ!!」

男にしか分からない激痛が、全身を突き抜けた。
反射的に股間をおさえ、体を丸めて、急所を守ろうとする。
海老のように丸くなった社長の体から、女はバスローブをはぎ取り、下着まで脱がせた。
痛みで体が硬直したのか、まったく抵抗することができなかった。
女の目の前で、丸裸になった社長は、両手で必死に股間をおさえ続けていた。

「手を離せ」

女は社長の手の上から、股間を蹴りつけた。
社長の両手と睾丸に、とてつもない痛みが走る。

「ぎゃあっ!!」

「手を離せ」

女はさらに容赦なく、股間を蹴り続ける。

「タ、タマは…ここだけはやめてくれ…!」

「手を離せ」

さらに数回、蹴りつけられて、ようやく両手を股間から離した。
真っ赤に腫れ上がった両手を、女は容赦なく後ろ手に縛り上げた。
さらに女は、社長の体を引きずってベッドのそばに持っていくと、その両脚をベッドの足に結び付け、大きく股を広げさせるのだった。

「な、何なんだお前は…? 一体、誰に…」

「今から私が言うことを、よく聞け」

「か、金なら払うぞ。いくらでも払うから、見逃して…」

言いかけた時、女の手が大きく振り上げられ、無防備になっていた社長の股間に向かって打ちつけられた。
バチン、と音がして、社長の金玉袋がゴムボールのように跳ねた。

「ぐおぉっ!! おぉっお…!!」

「今から私が言うことを、よく聞け。分かったな?」

身動きできない社長は、体を芋虫のようにくねらせて、痛みに耐えていた。
女がその顔を覗き込むと、必死にうなずいた。

「今からお前の金玉を潰す。片方だけだ。もう片方は見逃してやる。しかし、お前には今からある約束をしてもらうが、その約束を守れなかった場合、残ったもう片方の金玉も潰す。いいな?」

「ひ…い、いやだ…」

痛みと恐怖に耐えかねたのか、社長は子供のように首を振った。
すると女は、再び拳を振り上げて、金玉袋に叩きつけた。
乾いた音が響き、再び絶望的な痛みが全身を突き抜ける。

「うぎゃあぁぁ!!」

「いいな?」

耐えがたい痛みだった。
社長は涙を流しながら、うなずいた。

「よし。では、センタービルの建設の件から手を引け。言ってる意味が分かるな?」

「え? そ、それは…」

社長の顔色が変わった瞬間、女は手を伸ばし、金玉袋を握りしめた。
すでに赤黒く腫れあがっていた金玉袋にとっては、女の手の感触が異様なほど冷たく感じた。

「ひいっ!」

「約束できないというなら、今ここで、お前の金玉を二つとも潰すぞ」

女の手には、すでに力が込めらていた。
さらにそれは、ジワジワと強くなっているようだった。

「うっ! ぐうぅ…! あ、あのビルの建設には、莫大な金が動いてるんだ。今さらやめることなんて、できるわけない…! ぐあ…!」

「そうか」

「こ、こんな脅しに、私が屈すると思ったら、大間違いだぞ! 今まで、危ない橋をいくつも渡ってきたんだ。こんなことくらいで…ぎゃあぁっ!!」

女は片方の金玉を掴むと、その手に今まで以上の力を込め始めた。
女の手の中で、睾丸は信じられないほど変形していた。

「言い忘れたが、お前の金玉は、一つずつ潰すことにする。せっかく二つあるんだから、順番に、ゆっくりと潰していこう。どうだ? もう少し強く握っても大丈夫かな?」

社長は痛みのあまり、声が出なかった。
魚のように口をパクパクと動かして、小さく首を横に振る。

「この…ク…ソ…お……な…!!」

血走った目で社長が女を見つめたとき、女の手の中で、パチン、と何かが弾けた。

「おっと」

「ぎゃあうっ!!」

縛りつけられた社長の体は、電気ショックを受けたかのように大きく反り返った。全身の筋肉が限界まで硬直した状態になり、数秒後、今度はガックリと弛緩して、床に落ちた。

「う…ぐ…ぐえぇっ!!」

急激に喉にせりあがってきた吐しゃ物を、床にまき散らした。
社長の目は虚ろで、細かく痙攣し、もはや痛みとも呼べない絶望的な感覚が全身に溢れているようだった。

「すまない。うっかり潰してしまったな。そんなに力を入れたつもりはなかったんだが。次はちゃんと言ってから潰すようにする」

女が手を離すと、社長の金玉袋はだらりと垂れさがった。
片方にはまだ丸い睾丸が入っているようだったが、もう片方は、少ししぼんだような、いびつな形になってしまっていた。

「どれ。本当に潰れたかな? ああ。まだ少し形が残っているな。ちゃんと全部潰しておこう」

女は再び金玉袋を掴んで、いびつになった方の睾丸を、指で挟んですり潰し始めた。

「うぎゃあぁっ!! ああっ!! おぉうっ!!」

社長は絶叫し、縛られた両手両足で必死にもがいた。

「うるさいぞ。静かにしろ」

女は床に落ちていたバスタオルを見つけ、その端を丸めて、社長の口に押し込んだ。
そして再び、金玉袋に残った睾丸の残骸をすり潰し始める。
女の指が動くたびに、社長の体が大きく痙攣したが、女はかまわず作業を続けた。
しばらくすると、社長の右の睾丸は完全に潰れたようで、ゼリーのように柔らかい物体だけが袋に入っている状態になった。

「さて。少し休憩をしようか」

女はぐったりとしている社長の腹の上に座った。
口にタオルを詰め込まれた社長は、汗と涙で顔面をドロドロにし、かろうじて呼吸をしているような状態だった。

「何か言いたいことはあるか?」

女はタオルをとってやった。

「あ…ぁ…は…。ゆ、許してくれ…。もう許して…」

「お前は本当に立派な経営者だな。会社の利益のために、自分の大切な金玉を犠牲にしようというんだから、偉いものだ。そのビルの建設で、どのくらいの金が入ってくるんだ? 何十億? 何百億か? その金に比べたら、確かに金玉の一つや二つ、潰れても大したことはないだろうな」

「あ…うぅ…」

女はうっすらと笑いを浮かべていた。

「金玉が潰れたところで、どうってことないだろう。自慢のモノが役立たずになるくらいだ。女を抱けなくなってしまうな」

女は、黒いボディスーツのジッパーを下げた。
下には何も着ておらず、へそまで開いたジッパーの隙間から、白い乳房がこぼれ落ちそうだった。

「若い女の体に、ギンギンに勃ったペニスを突き立てるのは、どんな気持ちなんだ? 今のうちに思い出して、記憶に焼き付けておいた方がいい。もう永遠にすることはないんだからな」

「う…うう…!」

社長の目が、女の体を凝視していた。
女は、残された社長の睾丸を掴んだ。

「うっ!!」

「さっき潰してしまったお前の金玉だが、びっくりするほど脆かったな。こうやって掴んでいると、こっちもうっかり潰してしまいそうだよ」

「あぁ…! ぐぅ…」

「安心しろ。今度はちゃんと潰すタイミングを教えてやる。今から私が10数える。それと同時にプチンと潰してやるから、そのつもりでかまえておくといい。いいか。10、9、8…」

女の手に、徐々に力が込められていくようだった。
すでに焼けつくような痛みを発している社長の股間からは、さらに強烈に疼くような痛みが湧き上がってくる。

「う…がぁ…!! ま、待って…あぁっ!」

「何か言ったか? よく聞こえなかったな。7、6、5…」

「うぅ…す、する! 約束するから…! は、離してくれ!」

「約束? ああ、もう気にしないでくれ。済んだ話だ。4、3…」

女の手の中で、社長の睾丸が大きく変形し始めた。

「ぎゃあぁっ!! ま、待ってくれ! 手を引くから! 頼む! 手を引かせてくれ!」

「手を引くって? 何から手を引くんだ? 2、1…」

「センタービルの建設からだ! 頼む、潰さないでくれぇ!」

社長は絶叫した。
女は金玉袋から手を離してやった。

「はあ…はあ…」

社長の全身には、冷たい汗が流れていた。

「センタービルの建設から手を引く。お前はそう約束するんだな?」

「あ…ああ…はい…」

「お前が約束を破った時には、すぐにまた金玉を潰しに来るからな。お前がどこにいようと関係ない。必ずお前の金玉を潰しに来る。分かったか?」

「は…はい…」

大粒の涙を流しながら、社長はうなずいた。

「よし。確かに約束したぞ」

女は振り向くと、社長の金玉を再び殴りつけた。

「ぐえぇっ!!」

社長の意識は、そこで途切れた。





ある日の午後。街角のオープンカフェに、女が座っていた。
女はコーヒーを飲みながら、書類を見ているようだった。
そこへ男が一人、近づいてきた。

「やあ。例のセンタービルの件、うまくいったようだな」

「ああ。おかげさまでね」

男はテーブルの向かい側に腰を下ろし、コーヒーを注文した。

「G社の社長が、建設計画の中止を発表したからな。だいぶ進んでいたはずなのに。突然の発表だった」

「そうね。こっちは大助かりだけど。かなりの利益が見込めると思うわ」

「そうか」

「ええ」

「それで…きみがあの女に依頼した件は、成功したと考えていいのかな?」

「え?」

女は書類から目を上げた。

「きみがホテルで会っていた、あの女だよ。G社の社長の、その、タマを潰したんだろうか?」

「たぶんね。でも、どっちでもいいわ。私にとって大事なのは、G社がこの件から手を引いたって事実だけだもの。それに比べれば、どうでもいいことでしょ。社長のタマが潰れたかどうかなんて」

「ああ…。まあ、そうだな」

男はうなずいた。

「だがボクが思うのは、その女の始末をつけておいた方がいいんじゃないかってことさ。こういうことは、どこから洩れるか分からないし…」

「ちょっと待って」

女は口に指を当てて、沈黙を促した。

「気を付けた方がいいわ。彼女は依頼人の裏切りを、決して許さないらしいから。前に彼女を始末しようとした男が突然行方不明になって、廃人同然になって発見されたらしいわよ。もちろん、タマを二つとも潰されてね。その男がどんな方法でタマを潰されたか、あなた想像できる?」

「そ、そんなまさか…。じゃあ、きみが裏切った時はどうするっていうんだ? 潰すものがないじゃないか」

「それは分からないけど。とにかく彼女からは、世界中のどんな男も逃げられないってことよ。その足の間に、大切なタマタマをぶら下げている限りはね」

「か、彼女は何者なんだ?」

「東洋のニンジャの末裔って噂もあるけど。はっきりとしたことは誰にも分からないわ」

男がゴクリと唾を飲みこんだ。
ウエイトレスが、男にコーヒーを運んできた。

「お待たせいたしました」

「あ、ああ。ありがとう…」

「お客様。足元に何か…」

「え?」

ウエイトレスがしゃがみこみ、男が下を向いた。
男は一瞬、股間を撫でられるような感触を感じた。

「うわ!」

よく見ると、そのウエイトレスの顔には見覚えがあった。
ウエイトレスは微笑すると、頭を下げて、その場を立ち去っていった。

「どうしたの?」

「い、いや…。なんでもない…」

男はコーヒーカップを手に取ったが、手が震えて、口にすることはできなかった。




終わり。


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