「あの、先輩。もう謝るとかは、私、気にしないので、とにかくユニフォームだけ返してくれませんか? アレがないと、困るんです」
股間を手で守ることも、両足を閉じて防ぐこともできなくなってしまったカズキは、ただ冷たい柱に寄りかかって、痛みに震えることしかできなかった。
「優しいね、ユイちゃんは。でも、こんなヤツに優しくすることないよ。こんなヤツはこうして、懲らしめてやればいいの!」
ヨウコはそう言って、右足のスニーカーと靴下を脱ぎすて、大きく振りかぶって、カズキの金玉を足の甲で蹴りあげた。
パチーンッ!!
と乾いた音がして、カズキの金玉袋が、大きく跳ね上がった。
「えぐッ!!」
カズキの呼吸が一瞬止まって、ひざから力がガクンと抜けた。 しかし両脇をチューブで支えられているため、ひざをつくこともできず、踵を浮かせた状態で、プルプルと震えている。
「おお、いい音! さすが、ヨウコ」
「ユイちゃん、見えた? 金玉を蹴るときはね、下から蹴りあげるの。前から蹴ると、チンチンに当たって、大して痛くないのよ。下から、玉だけを狙えばいいよ」
「軽く蹴るのがコツだよね。足首の力を抜いて、スピードを出す感じで」
「は、はい」
マキとヨウコの解説が続いている間も、カズキは男の痛みと必死に戦っていた。金玉を蹴られるたび、最初は鋭い痛みが走り、次に重苦しい痛みが、全身にじわじわと広がっていく。ひざと全身の力が抜けて、立っていられなくなるのだ。 何度蹴られても慣れるということはなく、蹴られるたび、男であることを心から後悔するような思いをすることになるのだ。
「ユイちゃんも蹴ってみなよ。裸足の方が、感触が分かりやすくていいよ。狙いも付けやすいし」
「あ、はい。じゃあ…」
ユイは言われたとおりに裸足になって、カズキの前に立った。 ヨウコがカズキの側によって、金玉を指差しながら、説明を始める。
「ここね。この金玉を狙って」
「はい! え…と…下から。こうかな…」
ユイは素足で、まずはカズキの金玉に狙いを付けるため、ピタピタと軽く当ててみた。 ユイの足の甲はカズキの金玉袋を持ち上げて、先ほどまで靴下に包まれていたその暖かい体温が、カズキに伝わる。
「あの、これって、右と左と、どっちがいいんですか?」
ユイがまたも、無邪気な顔で素朴な疑問をぶつけた。
「えー、どっちだろ。考えたことなかったな。バカズキ、どっちが痛いの?」
カズキはユイの素振りに、ただただ恐怖を感じていたが、不意に質問されて、叫ぶように答えた。
「知らないよお。もう、やめてくれよお。右も左も、どっちも痛いんだよお。お願いだから…」
「うん。どっちも変わらないみたいだけどね。両方蹴っちゃいなよ、ユイちゃん」
「はい!」
3人とも、カズキの言葉に耳を貸す気はまるでなかった。 ユイはしなやかな長い右足を下ろすと、じっとカズキの金玉を見つめて、マキたちの教え通り、力を抜いて、スピードを重視した蹴りを放った。
「えい!」
パチーンッ!!
またも乾いた音がして、ユイの蹴りは、きれいにカズキの金玉袋を跳ねあげた。 ハードル走を練習し、日頃から柔軟体操を怠らないユイの蹴り足は、カズキの金玉にヒットした後もその勢いを殺さず、カズキの胸のあたりまで振りぬかれた。
「あっ!!」
カズキは先ほどと同様、短い叫び声をあげて、息を詰まらせた。 ユイの足に捉えられた金玉袋は、そのままユイの足の甲に乗り、ちぎれるほどに上に跳ねあげられた。裏側にある副睾丸までえぐるようになぞられ、やがて定位置に戻ってきたあとも、まだブルブルと震えていた。
「やった! ユイちゃん、やるう!」
「キレイに入ったね。これは効くよ」
「は、はい! ありがとうございます」
ユイは、思った以上にうまく蹴りが入ったことが、自分でもわかった。 足の甲には、まだカズキの二つの睾丸の感触が、しっかりと残っている。 カズキの痛みこそ、生き地獄そのものだった。
「うっ! ぐえっ!! うえっ!!」
もはやカズキの全体重は、両脇のゴムチューブが支えることになり、その食い込みも相当なものだったが、それすら金玉の痛みに比べれば、針で突いたほどのものだった。 神経の集中する副睾丸をえぐられたカズキの金玉は、今日最大の痛みの信号を発し、それはもはや下腹部だけでなく、頭の芯まで痛みで覆うほどの強烈で重苦しい激痛の波だった。
「今、ユイちゃんの足が、金玉袋の裏側に入ったよ。私もよくわかんないけど、そこが一番痛いポイントらしいの。男はね」
「そ、そうなんですか? …先輩、すいません。痛かったですか?」
つい、頭を下げるユイ。 当のカズキは痛かったどころではなく、意識が朦朧として、気絶寸前だった。 だらしなく両脇でゴムチューブにぶら下がり、半分口を開けて、涎をたらしている。
「さすが、ユイちゃんは、陸上部の期待のエースだよね。おい、バカズキ! 相当痛かったみたいだね? どのくらい痛いのか、私らには分かんないけどさ」
マキは鼻で笑って、カズキの顔を覗きこんだ。 涙と鼻水と涎で、カズキの顔はぐしゃぐしゃになっている。
「うわっ! 汚なっ! アンタ、そんなになっても、まだとぼけるつもりなの? もう一発、ユイちゃんに蹴ってもらう? それとも私?」
カズキは終わることのない金玉の痛みに苦しみながら、それでも何とか声を振り絞って、哀願した。
「ホントに知らないんだよお。勘弁してくれよお。金玉、潰れちまうよお」
そんなカズキを見て、3人は一瞬、呆気にとられて顔を見合わせた後、声を上げて笑った。
「アハハハ! 何、その顔! 情けな! やっぱ、男って弱いなあ。ちょっと金玉蹴れば、すぐこんなんだよ。ハハハ!」
「潰れちまうっていうか、潰してるからね。ハハ! 今ごろ気づくなって」
「先輩、ちょっと大げさですよ。もうちょっと男らしくしてください。フフフ」
女の子たちの笑い声が、カズキには遠い世界のことのように聞こえた。 このまま、自分は金玉を潰されてしまうのか。 しかし、それで気絶して、今のこの痛みから解放されるとするなら、もうそれでもかまわない。 そんなことをぼんやりと考えていると、再びあの痛みが股間から襲ってきた。
ドスッ!
マキのスニーカーが、カズキの金玉を恥骨の間に押しつけるように蹴りあげてきたのだ。
「ふッ!」
もはや叫び声を上げる力もなく、ただ、下から突き上げられるように息を吐き出すことしかできなかった。
「何、寝ようとしてんの? 起きて! カズキくん!」
マキがおどける。 間髪いれず、ヨウコがまた素足で金玉を跳ねあげた。
パチーンッ!
「まだまだ、こんなんじゃ潰れないから。安心して」
「先輩、ユニフォームを返して下さい!」
ユイもまた、慣れた様子で金玉の裏側をえぐるような蹴りを当ててくる。 カズキの地獄は、その後、10分ほど続いた。
「うわあ。なんか、金玉、腫れてきたね。赤くなってない?」
「うん。蹴り続けると、こうなるみたい。触ると、熱いよ」
「そうなんですか? 大丈夫なんですか?」
10分後、3人に蹴られ続けたカズキの金玉は、内出血を起こして、真っ赤に腫れあがってしまっていた。 カズキは絶え間ない痛みに、意識が飛びそうになっていたが、その度に金玉を跳ねあげられ、再び意識を戻される。その繰り返しで、もはや何も考えられないようになってしまっていた。
「まあ、大丈夫じゃないの? たかが小っちゃい玉二つだし。寝れば治るよ。ねえ、バカズキ。アンタ、まだユイちゃんのユニフォームがどこにあるか、言わないつもりなの?」
「これ以上やると、ホントに潰れるよ。まあ、私たちはかまわないけど」
カズキは痛みと吐き気にえづきながら、絞るようなか細い声を出した。
「もう、やめて…。俺がユニフォーム、盗りましたから…。ごめんなさい。もう、許して…」
これ以上の苦しみを与えられるよりは、泥棒の汚名を着る事を、カズキは選んでしまった。 まったく身に覚えのないことでも、今のこの状況から解放されるのであれば、喜んで受け入れる。そういうところまで、カズキは追い詰められていた。
「まったく! 初めからそう言えばいいのに」
「そうそう。てか、アンタが盗ったのは、もう分かってるから。早く返しなさいって言ってんのよ」
ため息交じりで、二人はカズキに問いただした。 カズキはユイのユニフォームなど持ってはいなかったが、こうなった以上、弁償するしかないと思った。
「ユニフォームは、捨てちゃいました…。ごめんなさい…。弁償しますから、許して…」
「ええ! 捨てたって? どういうことよ、バカズキ!」
マキの剣幕に、カズキは再び怯える。
「すいません。すいませんでした…。弁償するから…」
マキはその姿に、ため息をついてユイを振り向いた。
「ユイちゃん、コイツ、ユニフォーム捨てちゃったって。どうする?」
「あ…はい…。捨てちゃったんですか。どうしよう…」
ユイは本当にショックなようで、涙を浮かべて顔を伏せた。 そんなユイを見て、マキとヨウコは難しい表情を浮かべる。
「どうしようか。弁償してもらうのは当然として、やっぱり金玉を一個くらい潰しとくか」
「そうだね。ちょっと本気で思い知らせないと、コイツはダメかもね」
いとも簡単に相談する二人の様子に、カズキは慌てた。
「や、やめて! 謝ってるだろ! 弁償するから。明日、買ってくるから!」
「うるさい! アンタが悪いんでしょ! 謝って済む問題じゃないのよ! だいたい、なんで捨てる必要があるのよ。アンタまさか、変なことにユイちゃんのユニフォームを使って、汚したりしたんじゃないでしょうね!」
マキの言葉に、ユイはハッと顔を上げて、再び大きく泣き始める。
「そ、そんなこと、ぜんぜん言ってない…。だいたい、ホントは俺は盗ってなんか…」
「また、そんなこと言うか。よし、私に任せて。一度、本気で潰してみたかったの。今だったら、ひざを押し付けて、グリッとやれば、一発でしょ」
ヨウコは容赦なく、カズキの前に立って、ひざ小僧をカズキの腫れあがった金玉に押しつけた。
「やめて! やめて!」
泣き叫ぶカズキ。 そのとき、マキの制服のポケットから、携帯の着信音が鳴った。 マキはすぐに携帯を取り出してみると、もう一人の副部長、2年生のシオリからだった。
「もしもしぃ? シオリ? 何かあった? …うん、そう。今、バカズキをシメてるところ。シオリもくる? …え? 何? ちょっと、バカズキ、黙れ!」
カズキのうめき声のせいで、マキは電話がよく聞き取れなかったらしい。 ヨウコはとりあえずカズキの股間からひざを外し、マキの方を見た。 カズキはぐったりとして、声を上げるのをやめた。
「だからぁ、ウチが間違えて、ユイちゃんのユニフォーム、持って帰ってたみたいなんだぁ。ほら、ウチのユニとユイちゃんのって、色がおんなじじゃん? だからぁ、ウチが昨日、洗濯しようと思って持って帰ってたのが、ユイちゃんのだったみたいなんだぁ。ウチのママが気づいて、教えてくれたわけ。でも、もう洗濯しちゃったらしいんだけどぉ。マジウケるよね」
「マジで? お前、ふざけんなよ。こっちはユイちゃんが泣いちゃって、大変なんだよ」
「だから、ゴメンってば。ユイちゃんにも謝っといてくれるぅ? あ、バカズキにも? じゃあね」
シオリは一方的に電話を切った。
「なんだよ、アイツ! 信じらんない!」
マキは怒りながら電話を切った。
「どうしたの? シオリも来るの?」
「ううん。ユイちゃん! ユイちゃんのユニフォーム、シオリが持って帰ってたんだって。ゴメンね。ユイちゃんのユニフォーム、シオリのと色が一緒だったから。でも、それでも間違えないんだけどね、普通は」
ユイはマキの言葉を聞いて、泣き顔のまま顔を上げた。
「え? じゃあ…私のユニフォームは…?」
「明日、シオリが持ってくるって。シオリのお母さんが、洗濯しちゃったらしいよ。ウケるよね」
「あ、ありがとうございます。良かった…」
「そっか。良かったね、ユイちゃん。シオリの馬鹿。明日、ちゃんと言っとくから」
3人はカズキを忘れたように明るく喜びあった。 カズキはぼんやりとそれを聞いていたが、やがてゆっくりと顔を上げて、3人に声をかけた。
「あ、あの…。ほどいて…ください…」
「あ! バカズキ!」
「ああ、忘れてた。ゴメン、ゴメン」
3人は我に返り、カズキの拘束を解いてやった。 カズキはチューブとテーピングを外されると、すぐに部室の床に横たわり、ようやく自由になった両手で腫れあがった金玉をおさえた。 マキたちはさすがに少しバツが悪そうに、カズキの服を拾って、裸のカズキにかぶせてやった。
「ま、まあ、ユイちゃんのユニフォームも見つかったし、結局、良かったんじゃない?」
「そうそう。バカズキがエロいことをしてたのは、事実なんだし。疑われるようなことをしてるのが、良くないよね」
「先輩…すいませんでした…。金玉、まだ痛いですか?」
ユイがカズキを覗きこむと、カズキは口をパクパクとさせて、何か言っているようだったが、ユイにはそれは聞き取れなかった。
「いいの、いいの。たかが金玉くらい、すぐ治るって。男なんだから。ね、バカズキ?」
「金玉、ちょっと大きくなって、逆に良かったじゃない。ね?」
マキとヨウコは、無理やり自分を納得させるように言った。
「じゃあ、私たちは先に帰るから、バカズキ、鍵を閉めていってね? 一人で帰れるでしょ?」
「明日は、部活休んでもいいから。先生には言っとくね」
「すいません、先輩。お先に失礼します」
3人の女の子たちは、どこか他人事のように、金玉の痛みに呻くカズキを置いて、部室を出ていった。 カズキがなんとか立ちあがって歩けるようになったのは、それから2時間ほど経った、夜も遅くになってからのことだった。
終わり。
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