翌日。 チヒロに言われた通り、シンジら三人の男たちは、大学の奥にある武道場にやってきた。 昨日の今日で、あるいは警察に突き出されるかという不安は拭いされなかったが、財布と身分証一式を握られている以上、逃げても無駄なことだと思った。
「すいませーん」
三人の先頭に立って、シンジが武道場に入った。 武道場の中は、半分ほどの照明が落としてあり、少し薄暗い中に、昨日、シンジらをKOした3人娘たちが立っていた。
「お。来た来た。入ってよ」
「逃げずに来たね。まあ、当然か」
リオたちは道着ではなく普段着だったが、足元は裸足だった。 どうやら今日の稽古は終わって、他の部員はすべて帰ってしまったようだった。 シンジたちは恐る恐る靴を脱いで、武道場に上がった。 ひんやりとした床板の感触が足の裏に伝わり、シンジ達の緊張をさらにうながした。
「あ、あの…。昨日は本当にすいませんでした…」
シンジはまず謝り、ヒロユキとコウタも頭を下げた。
「そうね。ホントなら、今すぐ警察に突き出して、退学にしてやりたいんだけど」
リオは厳しい口調で言った。
「まあ、今日のアタシ達の練習に付き合ってくれれば、チャラにしてやらないこともないかなあ。最後まで付き合えればね。どう? やる?」
リオは意地悪そうな笑顔で三人に問いかけた。 やるもなにも、シンジ達には選択肢などない。やらなければ、警察に突き出されてしまうのだから、稽古の内容は分からなかったが、うなずくことしかできなかった。
「やったあ! じゃあ、早く始めましょう!」
ナナミはやけにはしゃいでいた。 稽古の疲れも見せず、体を温めるように飛び跳ねている。
「そうね。じゃあ、さっそく準備しましょうか。アンタ達、まず服を脱いでもらえる?」
え?という表情を、男3人は浮かべた。 それにかまわず、ナナミは男子更衣室に走る。
「アタシ、アレ取ってきますね」
「ふ、服を脱ぐんですか…?」
「そうよ。さっさとしてよ!」
リオが言うと、男たちはわけもわからぬまま、しぶしぶ着ている服を脱ぎ始めた。上半身が裸になった時点で、一旦、手を止める。
「下も。パンツだけになって」
男たちはチヒロの言葉に驚いたが、言われるままにベルトを外してズボンを脱ぎ、それぞれパンツ一枚になった。 そこへナナミが戻ってきた。その手には、拳法部の男子が使っているファールカップを持っていた。
「せんぱーい、これですかね? これって、サイズとかあるのかなあ? アソコのサイズ」
ナナミは相変わらず無邪気な様子で、ファールカップを振り回してみせた。
「知らない。適当でいいんじゃないの?」
「ですよね。じゃあ、シンジ君たち、コレ着けて」
ナナミはファールカップをパンツ一枚のシンジ達に渡した。 シンジ達はまったく状況を理解できず、とりあえずファールカップを受け取ったが、呆然と突っ立っていた。
「あの…これは…?」
「何してんの? さっさとそれ、着けてよ。これから、金的蹴りの稽古をするんだから。それが無いと、痛いと思うわよ。たぶん」
「き、金的蹴り?」
シンジ達はほとんど聞いたことが無いその単語に、うろたえた。 昨日はナナミが長身のヒロユキに金的蹴りを見舞い、一撃KOを決めた。 あの後、ヒロユキはしばらく立ち上がることができず、夜中の路地で30分ほどうずくまったままだった。 三人とも、武道としての金的蹴りの知識はなくとも、男として金玉の痛みは知らないはずがなかった。
「そう。昨日はキレイに決まったよねー。あの感触を忘れないうちに稽古しときたいんだ」
ナナミは満面の笑みで言った。 昨日、彼女に蹴られたヒロユキは、またあの苦しみを味わうのかと想像して、ぞっと青ざめた。
「最近、私の金的蹴りが、イマイチうまく決まらないのよ。ちょっと集中的に練習したいんだけど、ウチの部員は協力してくれないし、ちょうどいいと思ったの」
これが、昨日チヒロがリオに耳打ちした内容だった。 技術の向上に余念がない彼女たちは、金的蹴りをもっともっと練習したいのだが、拳法部の男子部員たちは当然、協力を断っていたのである。
「ま、アンタ達への制裁も含めてね。さあ、早く着けてよ。それとも、着けないでやる? アタシ達はかまわないけど」
この場から逃げる事もかなわないシンジ達三人は、慌てて手に持ったファールカップを着けだした。しかし慣れないものなので、どうも手間取ってしまう。
「ちょっと待って。そういえば、それを着けるときって、見たことがなかったわ。ちょっとよく見せてよ」
リオはそう言うと、ボクサーパンツの上からファールカップを着けようともがいているシンジのそばに近寄り、股間を注視するためにしゃがみこんだ。 シンジは女の子に股間を見られることが恥ずかしかったが、とにかく彼女たちの機嫌を損ねないように、抵抗はしなかった。
「ふーん。そうやって着けるんだあ。タマがこの位置にくるわけね」
リオは純粋に研究のために、シンジがファールカップを着ける様子を観察しているようだった。 ボクサーパンツ越しのシンジのイチモツは、硬質プラスチックのファールカップの中に納められる。
「アタシにも見せて。あー、こうなってるんだー」
ナナミもまた、ヒロユキがファールカップを着けるのを観察した。
「きつくないの?」
リオはコンコンと、シンジのファールカップを叩いてみた。
「あ! いや…今のところ…」
シンジは多少の衝撃を股間に感じたが、痛いというほどではなかった。 もちろんリオの方は、この程度のことで金玉に痛みがくるとは想像もしていない。
「ちょっと隙間ができるんだねー。だから、痛くなくなるのかな?」
「どうだろう…。たぶん…」
ヒロユキは答えたが、彼自身がファールカップを着けたのは初めてだったので、見当もつかなかった。
「さあ。着けたら、練習を始めましょうか。3対3で、ちょうどいいね」
「あの…練習っていうのは…」
「アンタ達は、ただ立ってるだけでいいよ。ああ、まずはナナミの練習を見てあげようか。ナナミと、アンタ…えーっと、ヒロユキだっけ? ちょっと構えてよ」
チヒロに言われるままに、ヒロユキはファールカップを着けた姿で、ナナミの前に立った。 ナナミは張り切って返事をし、いつもの稽古のように、右足を引いて前蹴りの構えをとる。
「そう。構えはそれでいいから。ちょっと、ゆっくり蹴ってみて。力は入れないで」
「はい!」
ナナミはチヒロの指示に従って、ヒロユキのファールカップに狙いを定め、ゆっくりと足を振りだした。 ヒロユキは恐る恐るそれを見つめていたが、やがてナナミの足の甲がファールカップに軽く当たった時、わずかな衝撃を金玉に感じた。 しかしそれは痛いというほどではなく、ヒロユキはファールカップの効果を認識し、内心、安堵した。
「こうですか、先輩?」
ナナミの方はヒロユキの金玉の心配など微塵もせず、ただ自分の技の出来栄えにしか関心がないようだった。
「うん、まあ、大体いいか。もうちょっと、足首を柔らかくして。スナップを利かせる感じ。あと、そのカップに斜めから当たってるから。下から当てるようにして」
「はい。こうですか?」
ナナミは再び、ヒロユキのファールカップに足を当てる。 それでもヒロユキの金玉に痛みはなかった。
「うーん。ていうかね…」
チヒロはヒロユキの側により、実地で解説を始めた。
「狙うのは、この辺なのよ。さっき見た通り、ここにタマがあるでしょ。この奥。お尻の方まで足を入れる気持ちでさ」
チヒロは躊躇なく、ヒロユキの股間に触れながら説明する。 ヒロユキに痛みはなかったが、くすぐったく、身をよじって耐えていた。
「はーい。タマタマの奥ですね」
ナナミはチヒロに言われた通りに、足の甲をヒロユキの股間の奥に入れて、確かめた。
「金的蹴りは、力は入らないから。とにかく力を抜いて、スピード重視よ。当たった後、タマをえぐる感じで足を戻すといいわ」
リオも冷静な態度で、後輩に指導してやる。 タマをえぐる、という言葉を聞いて、さすがに男たちの背中に寒気が走った。
「じゃあ、一回、本気で蹴ってみますね」
「うん。ちょっとやってみな」
二人は平然とした調子で言った。 ヒロユキは、これまででファールカップの防御力を実感していたが、さすがに不安になり、脇で見ている友人二人を見たが、シンジ達にもどうすることもできない。
「いくよお。動かないでね」
「は、はい…」
「えいっ!」
かわいらしい掛け声とともに、ナナミの右足がヒロユキの股間に打ち込まれた。 先輩たちの言いつけどおり、ナナミは足の力を抜き、足首のスナップを利かせて、ヒロユキの股間の奥の方につま先を入れるようにした。
パコーンッ!
と、打楽器のような音がして、ナナミの足の甲がヒロユキのファールカップを真下から蹴りあげた。 ナナミはその音に自分でも驚いて、リオに言われたように戻す足でタマをえぐることを忘れてしまったが、それでもヒロユキの金玉には十分すぎる衝撃が伝わっていた。
「うっ!」
瞬間、ヒロユキは内股になって、前かがみになってしまった。 金玉に直接当たったわけではないので、瞬間の痛みはなかったが、数秒遅れて、じわりじわりと重苦しい痛みが睾丸から発せられてくる。 ヒロユキは思わずうめき声を漏らしながら、右手でへその下あたりをおさえ、左手は探るようにファールカップをさすった。
「どうですか、今の?」
蹴りを放った当のナナミは、思わぬいい感触を得たので、嬉しそうにしている。
「うん。いい感じだよ。いい音したじゃん」
「でも、ファールカップの上からでも仕留められるようになりたいよねー」
女の子たちはいかにも楽しそうに語っているが、ヒロユキと、その苦しむ様子を見ていた男たちの体温は、一気に下がっていった。
「じゃあ、私たちも始めようか」
「そうだね」
二人はうなずいて、それぞれがシンジとコウタの前に構えた。
「あ、あの…これは、どのくらいやるんですか?」
二人の様子に完全にびびってしまったシンジが、うろたえながら尋ねた。
「え? どのくらいって…。特に決めてないけど」
「まあ、コツがつかめるまでね」
「コツって…」
コウタも悲しそうな顔で、チヒロの前に立っている。
「なによ。ビビってんの? 男のくせに」
「まあ、やめてもいいけどさ。そのときは、警察行きだから」
チヒロは笑いながら言った。 男だからこそ逃げ出したくなるような状況だったが、シンジ達は警察と言われると、従うしかなかった。
「じゃあ、いくよ!」
「えいっ!」
男たちの心の準備ができないまま、二人の女武道家は、ほとんど同時に金的蹴りを放った。 シンジはうろたえながらも、リオの蹴りのヒットポイントを微妙にずらしてしまおうと考えていた。しかしリオは構えた状態からほとんど上半身を動かさず、 しなる鞭のような金的蹴りを放ってきた。 チヒロもまた同様に熟練した動きで、流れるような蹴りを放ち、その蹴りのタイミングは素人にはとても掴めないものだった。 結局、シンジとコウタはまったく棒立ちの状態で、金的蹴りをくらうことになる。
パシィン!
ほぼ同時に乾いた音が二つ、道場に響くと、男たちが着けたファールカップは、股間にずっぽりと食い込んだ。 そしてさらに、リオとチヒロの足先は、男たちの金玉を裏から舐めるように撫で上げようとしたが、ファールカップに引っかかって、不十分な形で終わることとなった。
「ううっ!」
「はあっ!」
シンジとコウタは、先ほどのヒロユキと同様、じんわりとした痛みの波に苦しめられた。 膝をつくほどではなかったものの、その痛みは、十分行動不能にさせられるものだった。
「お見事! さすが、先輩!」
ナナミは小さく拍手をした。 しかし蹴り終わったリオとチヒロは、どこか納得していないような表情で、男たちが苦しむのを見ていた。
「うーん。ちょっと違ったなあ…」
「まあ、カップの上からだと、こんなもんかなあ」
「そうなんですか? 良さそうに見えたけど。けっこう、痛がってるみたいですけど」
ナナミが言うように、シンジとコウタの苦しみは、先ほどのヒロユキの上をいくものらしかった。 二人の顔には、脂汗が浮かんでいる。
「そうでもないよ。大して効いてないでしょ? まだ、立ってるもん」 「タマが乗ったときはさあ、もっともっと痛がるもんね。立ちあがれないくらい」
シンジ達は苦しみに喘ぎながらも、二人の言葉を聞いて、ゾッとした。 これ以上の痛みなど、考えたくもない。
「いや、あの…けっこう痛かったんで…。お願いします…」
なんとかそう言ったものの、リオたちの耳にはまったく届いていなかった。
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