2ntブログ
男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


とある大学の拳法部。
ここは実践的な武術の追求を標榜しており、防具をつけての顔面攻撃と金的ありの組手を推奨していた。
その激しさのせいか、部員は男子がほとんどだったが、女子部員は少数でも、熱心に技を磨こうとする気持ちに溢れた女の子ばかりだった。

今日も夕方の稽古を終えて、更衣室で着替えをしていたのは、部内でも有数の実力を持つ、男子部員に恐れられている3人娘だった。

「あーあ。今日はイマイチだったなあ」

ため息をついたのは、三年生の部員、三笠リオだ。
大学から拳法を始めたのだが、持ち前の練習熱心さで、今では有段者に匹敵する実力を身につけている。
ショートカットに細身の体つきをしていたが、鍛え上げた肉体には贅肉が無く、いかにもしなやかそうだった。

「なあに? さっきの組手の話? アンタ、勝ってたじゃん」

八木チヒロはリオと同級生で、勉強している学科も同じだった。
彼女は中学生の時から同じ流派の拳法道場に通っていて、大学の部活に入部する時に、同じクラスにいたリオを誘い入れたのである。
長い髪をポニーテールにして、細身のリオと比べると、女性を感じさせるふっくらとした体つきだったが、性格は見ためよりもずいぶん男勝りだった。

「優勢勝ちでしょう。私は一本勝ちを狙ってたんだよねー。金的、一本勝ち!」

「ああ、そうなの? 途中で菊地君に入れたよね、金的蹴り。キレイに入らなかったんだ?」

「そうなの。なんか、最近うまく入らないんだよねー。なんか、手ごたえがないっていうの? 足にタマがうまく乗らないんだよねー」

「ああ、乗らないとダメだよね。倒れないよ」

「そうそう。ちょっとしたら回復するみたいなんだよね。でも、2回目は警戒するからさ、もうダメなの」

リオはさも悔しそうに話している。
チヒロもごく当然のように返しているが、この二人の金的蹴りは、部内の男子にとっては恐怖の的だった。

「え、タマが乗るって、なんですか?」

そう聞いてきたのは、一年生の山口ナナミだ。
ナナミはリオと同じように大学から拳法を始めて、小柄な体格ながら、熱心に稽古を積んでいる。
入部して半年ほど経った現在、組手はまださせてもらっていないが、仲の良いリオとチヒロの指導の元、着実に男子をKOする技、金的蹴りの技術を高めていた。

「なんかね、金的がうまく入った時って、タマがこう、足に乗るような感触があるの。その感覚があったときは、速攻でダウンするんだよね」

「そうそう。あの感触があると、やった!って思うよね。仕留めたぞ、的な」

リオは嬉しそうに話す。

「へー、そうなんですか。アタシはまだ、経験ないかも…。ていうか、男子の先輩たちって、アレしてないんですか? あの、アソコにつけるカップっていうか…」

ナナミは無邪気な様子で、股間につけるファールカップを身振り手振りで示した。

「ああ、ファールカップ? つける人もいれば、つけない人もいるよね。菊地君は、いつもつけないんじゃない?」

リオが言うと、チヒロもうなずいた。

「ていうか、菊地君、パンツも履いてないよね? 冬以外は」

「えー! そうなんですか? どうして分かるんですか? 感触?」

「うん。蹴った感触で。あ、履いてないなーって。履いてない方が痛くないのかな?」

「関係ないんじゃない? 動きにくそうだけどね。ブラブラして」

「えー。そうなんだあ。ていうか、稽古中にアレが勃っちゃったら、どうするんでしょうね。丸分かりじゃないですか?」

ナナミは童顔に似合わず、平然と下ネタを言ってのける。

「うわー。そんなの見たら、ひくなー」

リオは自分の想像に、顔をしかめた。

「蹴り潰すね。その時は」

チヒロは笑いながらも、冷然とした口調で言い放った。

「アハハ! そうですね。思いっきり蹴飛ばしますよね、そんな変態」

三人は笑いながら着替えを済ませ、部室を後にした。
大学の校門を出るころには、既に日は暮れて、真っ暗になっていた。
彼女たちが通う大学がある場所は、決して田舎ではなかったが、古い住宅の多い地域で、最寄りの駅まで15分ほど歩かなければならなかった。
途中には公園などもあったが、人通りが少なく、古い街灯がチラつくだけの暗がりも多かった。
最近、何件か痴漢の被害も報告されていたが、この三人にいたっては、特に不安がりもせずに、堂々と歩くのが常だった。

「わー、もう真っ暗だねー。どっか寄ってく?」

「あ、ゴメン。アタシ、これからバイトなんだ」

チヒロが申し訳なさそうに言うと、ナナミもそれに合わせた。

「アタシも。メイド喫茶でバイトなんでーす」

ツインテールに結び直した髪を揺らして笑う。

「え? ナナミ、メイド喫茶とかやってんの?」

「アンタにはお似合いかもね」

「えー。けっこう楽しいですよー」

三人は話をしながら、駅までの道を歩いていった。
しかし、彼女たちがその通学路の中でひときわ暗い路地にさしかかった時、そっと後ろから近づく影があった。

「きゃあ!」

彼女たちに迫った人影は三つ。
それぞれが一人ずつ背後から近付き、まずは一番小柄なナナミに近づいた影が、覆いかぶさるように抱きついたのだ。

「え!」

「ナナミ!」

リオとチヒロは一斉にナナミを振り向いたが、その瞬間、彼女たちの背後からも、腕を封じ込めるように抱きつく人影があった。

「くっ!」

これが最近噂になっている痴漢たちだろうかと、リオたちは思った。
しかし考える間もなく、稽古を積み重ねたリオとチヒロの体は動いていた。

「えいっ!」

「たっ!」

チヒロは腰を落として、後ろから抱きついた男の手をすり抜けると、その脇腹に肘打ちをし、リオは足を振り上げて、踵で思いっきり男の足を踏んだ。
彼女たちが学ぶ拳法では、当然、護身術の指導もしており、ナナミはともかく、何度も練習を繰り返してきたリオとチヒロは、反射的に体が動くまでになっていたのだ。

「うっ!」

「ぐえっ!」

男たちはそれぞれ叫び声をあげ、抱きついていたリオとチヒロを離してしまった。
しかし二人の女武道家たちの反撃は、ここからだった。
リオは素早く振り返ると、足の痛みに呻いている男の手を掴み、そのまま華麗な体裁きで背中に回り込み、男の腕の関節を捻りあげてしまった。

「うあぁ!」

男はあっという間に地面に膝をつき、腕の痛みに呻いた。

「せいっ!」

チヒロの方も、脇腹の痛みに呻く男に、さらに鋭い前蹴りを放って、それが鳩尾に命中した。

「ぐえっ!」

男は息ができなくなるくらいの衝撃を腹に感じて、そのまま地面にうずくまって倒れた。
チヒロは男が戦闘不能になるのを確認すると、すぐにナナミの救出に向かった。

「はなしてよ!」

ナナミは臆することなく、必死に抵抗していたが、やはり体格差もあり、なかなか男の手は振りほどけない。

「ナナミ! 離れなさいよ、アンタ!」

チヒロはナナミを抱きしめている男の腕を掴んだ。
男は仲間二人があっという間に倒されてしまった状況に気がついて、慌ててナナミから手を離し、逃げようとした。

「あ! 逃げるな!」

素早く振り向いたナナミは、遥かに身長が高い男の股間に狙いをつけると、稽古を積んだ必殺の金的蹴りを、思い切り打ち込んだ。

バシィ!

と乾いた音が路地に響いた。
男はチヒロに腕を掴まれた状態で踏ん張っていたが、すぐに股間の痛みに気がついて、顔から血の気が引いていった。

「ぐうぅ!」

「ナイス、ナナミ!」

チヒロが手を離すと、男は両手で股間をおさえて膝をつき、地面に倒れ込んで丸くなった。

「やったあ! 初めて決まった! あ、先輩、今のが、足にタマが乗ったって感触かなあ…」

「そうかもね。きれいに入ったから。しばらく、立ちあがれないでしょ」

チヒロの言うとおり、男は脂汗を流しながら、痛みに体を震わせている。
ときどき、嘔吐するような嗚咽を漏らしていた。

「さあ。アンタ達も、痛い思いをさせてあげようか!」

リオは言いながら、男の腕をさらにねじあげた。
男は痛みに呻いて、顔を上げる。

「あー! 先輩、その人、見たことある」

不意に、ナナミが叫んだ。

「え? コイツ? 学校で?」

「そうそう。同じ学科の男の子だと思います。話したことないけど。あ、こっちの人もそうかも…」

ナナミはチヒロの蹴りを受けて苦しむ男の顔も見た。
男たちは確かに学生風で、目立たないように地味だが、若い格好をしている。

「ってことは、コイツも、ウチの学校の生徒なわけか」

チヒロは金的蹴りの痛みにうつむいている男を見た。

「アンタ達、ウチの学生なの? 何考えてるのよ!」

男たちはうなだれて、無言のままでいる。

「これはもう、れっきとした犯罪だからね。警察を呼ぼうか?」

チヒロの言葉に、リオに腕を掴まれていた男、安藤シンジが顔を上げた。

「あ! け、警察は、勘弁して下さい!」

「なに言ってんの! 最近、ここらでよく聞く痴漢って、アンタたちのことでしょうが。警察に来てもらって、逮捕よ、逮捕!」

リオは言い放つとともに、シンジの腕をねじあげた。
シンジは苦しみに呻くが、必死な表情で弁解した。

「ち、違います。痴漢は、俺たちじゃありません。俺たちは初めてで…。たまたま今日、3人で一緒に飲んだから…」

確かにシンジの顔は、酒を飲んだように少し赤くなっていた。

「ちょっと酔っぱらって、ふざけようとしただけなんです。すいませんでした! だから、警察は…」

「ウソつくんじゃない!」

「そうだ! やっちゃえ、先輩!」

リオは聞く耳を持たず、さらに腕をねじあげる。
ナナミはそれをけしかけた。
そんな中、チヒロは意外なほど冷静に、シンジの言い分を聞いていた。
無言のまま、何か考えるようにシンジら三人を見ていたが、やがてシンジ以外の倒れている二人のそばに近寄って、ポケットをまさぐると、財布を取り出した。

「チヒロ…?」

チヒロは二人の財布の中から、身分証を取り出した。

「斎藤ヒロユキ…工学部か…。こっちは…山村コウタ…文学部ね…」

チヒロは二人の学生証を見ながら、確かめる。

「で、アンタは?」

チヒロはシンジに問いかけた。
リオはそれを察して、シンジのズボンのポケットに見えていた財布を取り出して、チヒロに投げた。

「サンキュー。…安藤シンジっていうんだ。ふーん」

チヒロは三人の財布と身分証を手にとり、不敵な笑みを浮かべた。

「アンタ達の財布は、アタシが預からせてもらうわ。これとアタシ達の証言があれば、アンタ達をいつでも警察に突き出すことができるからね。警察に捕まれば、アンタ達は絶対、退学だろうね」

「ちょっと、チヒロ。どういうこと? こいつら、逃がしちゃうの?」

リオはチヒロの意外な言葉に驚いた。
ねじりあげていたシンジの腕を離して、チヒロの側に行く。

「だってアタシ達、これからバイトでしょ。つまんないことで時間とられたくないもん」

「だからって…」

「いいから、いいから。実はさ、ちょっと考えがあって…」

そういうと、チヒロはリオに耳打ちして、なにごとか説明した。
ナナミを含めて、シンジたちはその様子を、不思議そうに見ていた。

「…ふーん。ああ、そういうことか。…まあ、いいか。それならそれで」

「でしょ? じゃあ、そういうことで」

リオはチヒロの囁きに、なぜか納得したような気配だった。

「じゃあ、アンタ達は今日のところは見逃してあげるから。その代わり、明日の夜7時に、大学の武道場に来なさい。三人ともね」

「え! ホントですか? あ…でも、何を…」

シンジは驚きながらも、明日警察に突き出されるのではないかと思い、不安な表情を浮かべる。

「それは明日のお楽しみ。ちょっと、アタシ達の稽古に付き合ってもらうだけよ。でも、もし来なかったりしたら、速攻で警察に連絡するからね」

「絶対、来なさいよ」

チヒロとリオは、ほほ笑みながらもすごんでみせた。
シンジはそれを聞いて、必死にうなずいた。

「は、はい! 行きます!」

「よし。じゃあ、アタシ達は帰るから。また明日ね」

「じゃあね」

二人は機嫌よさそうに、振り返って歩き出した。
その後を、わけのわからないナナミが追う。

「え? 先輩、帰っちゃうんですか? どういうことですか?」

「後で話すって」

三人は話しながら、去っていった。
残されたシンジら男たちは、苦しみに喘ぎながらも、とりあえず救われたことに胸をなで下ろしていた。





翌日。
チヒロに言われた通り、シンジら三人の男たちは、大学の奥にある武道場にやってきた。
昨日の今日で、あるいは警察に突き出されるかという不安は拭いされなかったが、財布と身分証一式を握られている以上、逃げても無駄なことだと思った。

「すいませーん」

三人の先頭に立って、シンジが武道場に入った。
武道場の中は、半分ほどの照明が落としてあり、少し薄暗い中に、昨日、シンジらをKOした3人娘たちが立っていた。

「お。来た来た。入ってよ」

「逃げずに来たね。まあ、当然か」

リオたちは道着ではなく普段着だったが、足元は裸足だった。
どうやら今日の稽古は終わって、他の部員はすべて帰ってしまったようだった。
シンジたちは恐る恐る靴を脱いで、武道場に上がった。
ひんやりとした床板の感触が足の裏に伝わり、シンジ達の緊張をさらにうながした。

「あ、あの…。昨日は本当にすいませんでした…」

シンジはまず謝り、ヒロユキとコウタも頭を下げた。

「そうね。ホントなら、今すぐ警察に突き出して、退学にしてやりたいんだけど」

リオは厳しい口調で言った。

「まあ、今日のアタシ達の練習に付き合ってくれれば、チャラにしてやらないこともないかなあ。最後まで付き合えればね。どう? やる?」

リオは意地悪そうな笑顔で三人に問いかけた。
やるもなにも、シンジ達には選択肢などない。やらなければ、警察に突き出されてしまうのだから、稽古の内容は分からなかったが、うなずくことしかできなかった。

「やったあ! じゃあ、早く始めましょう!」

ナナミはやけにはしゃいでいた。
稽古の疲れも見せず、体を温めるように飛び跳ねている。

「そうね。じゃあ、さっそく準備しましょうか。アンタ達、まず服を脱いでもらえる?」

え?という表情を、男3人は浮かべた。
それにかまわず、ナナミは男子更衣室に走る。

「アタシ、アレ取ってきますね」

「ふ、服を脱ぐんですか…?」

「そうよ。さっさとしてよ!」

リオが言うと、男たちはわけもわからぬまま、しぶしぶ着ている服を脱ぎ始めた。上半身が裸になった時点で、一旦、手を止める。

「下も。パンツだけになって」

男たちはチヒロの言葉に驚いたが、言われるままにベルトを外してズボンを脱ぎ、それぞれパンツ一枚になった。
そこへナナミが戻ってきた。その手には、拳法部の男子が使っているファールカップを持っていた。

「せんぱーい、これですかね? これって、サイズとかあるのかなあ? アソコのサイズ」

ナナミは相変わらず無邪気な様子で、ファールカップを振り回してみせた。

「知らない。適当でいいんじゃないの?」

「ですよね。じゃあ、シンジ君たち、コレ着けて」

ナナミはファールカップをパンツ一枚のシンジ達に渡した。
シンジ達はまったく状況を理解できず、とりあえずファールカップを受け取ったが、呆然と突っ立っていた。

「あの…これは…?」

「何してんの? さっさとそれ、着けてよ。これから、金的蹴りの稽古をするんだから。それが無いと、痛いと思うわよ。たぶん」

「き、金的蹴り?」

シンジ達はほとんど聞いたことが無いその単語に、うろたえた。
昨日はナナミが長身のヒロユキに金的蹴りを見舞い、一撃KOを決めた。
あの後、ヒロユキはしばらく立ち上がることができず、夜中の路地で30分ほどうずくまったままだった。
三人とも、武道としての金的蹴りの知識はなくとも、男として金玉の痛みは知らないはずがなかった。

「そう。昨日はキレイに決まったよねー。あの感触を忘れないうちに稽古しときたいんだ」

ナナミは満面の笑みで言った。
昨日、彼女に蹴られたヒロユキは、またあの苦しみを味わうのかと想像して、ぞっと青ざめた。

「最近、私の金的蹴りが、イマイチうまく決まらないのよ。ちょっと集中的に練習したいんだけど、ウチの部員は協力してくれないし、ちょうどいいと思ったの」

これが、昨日チヒロがリオに耳打ちした内容だった。
技術の向上に余念がない彼女たちは、金的蹴りをもっともっと練習したいのだが、拳法部の男子部員たちは当然、協力を断っていたのである。

「ま、アンタ達への制裁も含めてね。さあ、早く着けてよ。それとも、着けないでやる? アタシ達はかまわないけど」

この場から逃げる事もかなわないシンジ達三人は、慌てて手に持ったファールカップを着けだした。しかし慣れないものなので、どうも手間取ってしまう。

「ちょっと待って。そういえば、それを着けるときって、見たことがなかったわ。ちょっとよく見せてよ」

リオはそう言うと、ボクサーパンツの上からファールカップを着けようともがいているシンジのそばに近寄り、股間を注視するためにしゃがみこんだ。
シンジは女の子に股間を見られることが恥ずかしかったが、とにかく彼女たちの機嫌を損ねないように、抵抗はしなかった。

「ふーん。そうやって着けるんだあ。タマがこの位置にくるわけね」

リオは純粋に研究のために、シンジがファールカップを着ける様子を観察しているようだった。
ボクサーパンツ越しのシンジのイチモツは、硬質プラスチックのファールカップの中に納められる。

「アタシにも見せて。あー、こうなってるんだー」

ナナミもまた、ヒロユキがファールカップを着けるのを観察した。

「きつくないの?」

リオはコンコンと、シンジのファールカップを叩いてみた。

「あ! いや…今のところ…」

シンジは多少の衝撃を股間に感じたが、痛いというほどではなかった。
もちろんリオの方は、この程度のことで金玉に痛みがくるとは想像もしていない。

「ちょっと隙間ができるんだねー。だから、痛くなくなるのかな?」

「どうだろう…。たぶん…」

ヒロユキは答えたが、彼自身がファールカップを着けたのは初めてだったので、見当もつかなかった。

「さあ。着けたら、練習を始めましょうか。3対3で、ちょうどいいね」

「あの…練習っていうのは…」

「アンタ達は、ただ立ってるだけでいいよ。ああ、まずはナナミの練習を見てあげようか。ナナミと、アンタ…えーっと、ヒロユキだっけ? ちょっと構えてよ」

チヒロに言われるままに、ヒロユキはファールカップを着けた姿で、ナナミの前に立った。
ナナミは張り切って返事をし、いつもの稽古のように、右足を引いて前蹴りの構えをとる。

「そう。構えはそれでいいから。ちょっと、ゆっくり蹴ってみて。力は入れないで」

「はい!」

ナナミはチヒロの指示に従って、ヒロユキのファールカップに狙いを定め、ゆっくりと足を振りだした。
ヒロユキは恐る恐るそれを見つめていたが、やがてナナミの足の甲がファールカップに軽く当たった時、わずかな衝撃を金玉に感じた。
しかしそれは痛いというほどではなく、ヒロユキはファールカップの効果を認識し、内心、安堵した。

「こうですか、先輩?」

ナナミの方はヒロユキの金玉の心配など微塵もせず、ただ自分の技の出来栄えにしか関心がないようだった。

「うん、まあ、大体いいか。もうちょっと、足首を柔らかくして。スナップを利かせる感じ。あと、そのカップに斜めから当たってるから。下から当てるようにして」

「はい。こうですか?」

ナナミは再び、ヒロユキのファールカップに足を当てる。
それでもヒロユキの金玉に痛みはなかった。

「うーん。ていうかね…」

チヒロはヒロユキの側により、実地で解説を始めた。

「狙うのは、この辺なのよ。さっき見た通り、ここにタマがあるでしょ。この奥。お尻の方まで足を入れる気持ちでさ」

チヒロは躊躇なく、ヒロユキの股間に触れながら説明する。
ヒロユキに痛みはなかったが、くすぐったく、身をよじって耐えていた。

「はーい。タマタマの奥ですね」

ナナミはチヒロに言われた通りに、足の甲をヒロユキの股間の奥に入れて、確かめた。

「金的蹴りは、力は入らないから。とにかく力を抜いて、スピード重視よ。当たった後、タマをえぐる感じで足を戻すといいわ」

リオも冷静な態度で、後輩に指導してやる。
タマをえぐる、という言葉を聞いて、さすがに男たちの背中に寒気が走った。

「じゃあ、一回、本気で蹴ってみますね」

「うん。ちょっとやってみな」

二人は平然とした調子で言った。
ヒロユキは、これまででファールカップの防御力を実感していたが、さすがに不安になり、脇で見ている友人二人を見たが、シンジ達にもどうすることもできない。

「いくよお。動かないでね」

「は、はい…」

「えいっ!」

かわいらしい掛け声とともに、ナナミの右足がヒロユキの股間に打ち込まれた。
先輩たちの言いつけどおり、ナナミは足の力を抜き、足首のスナップを利かせて、ヒロユキの股間の奥の方につま先を入れるようにした。

パコーンッ!

と、打楽器のような音がして、ナナミの足の甲がヒロユキのファールカップを真下から蹴りあげた。
ナナミはその音に自分でも驚いて、リオに言われたように戻す足でタマをえぐることを忘れてしまったが、それでもヒロユキの金玉には十分すぎる衝撃が伝わっていた。

「うっ!」

瞬間、ヒロユキは内股になって、前かがみになってしまった。
金玉に直接当たったわけではないので、瞬間の痛みはなかったが、数秒遅れて、じわりじわりと重苦しい痛みが睾丸から発せられてくる。
ヒロユキは思わずうめき声を漏らしながら、右手でへその下あたりをおさえ、左手は探るようにファールカップをさすった。

「どうですか、今の?」

蹴りを放った当のナナミは、思わぬいい感触を得たので、嬉しそうにしている。

「うん。いい感じだよ。いい音したじゃん」

「でも、ファールカップの上からでも仕留められるようになりたいよねー」

女の子たちはいかにも楽しそうに語っているが、ヒロユキと、その苦しむ様子を見ていた男たちの体温は、一気に下がっていった。

「じゃあ、私たちも始めようか」

「そうだね」

二人はうなずいて、それぞれがシンジとコウタの前に構えた。

「あ、あの…これは、どのくらいやるんですか?」

二人の様子に完全にびびってしまったシンジが、うろたえながら尋ねた。

「え? どのくらいって…。特に決めてないけど」

「まあ、コツがつかめるまでね」

「コツって…」

コウタも悲しそうな顔で、チヒロの前に立っている。

「なによ。ビビってんの? 男のくせに」

「まあ、やめてもいいけどさ。そのときは、警察行きだから」

チヒロは笑いながら言った。
男だからこそ逃げ出したくなるような状況だったが、シンジ達は警察と言われると、従うしかなかった。

「じゃあ、いくよ!」

「えいっ!」

男たちの心の準備ができないまま、二人の女武道家は、ほとんど同時に金的蹴りを放った。
シンジはうろたえながらも、リオの蹴りのヒットポイントを微妙にずらしてしまおうと考えていた。しかしリオは構えた状態からほとんど上半身を動かさず、
しなる鞭のような金的蹴りを放ってきた。
チヒロもまた同様に熟練した動きで、流れるような蹴りを放ち、その蹴りのタイミングは素人にはとても掴めないものだった。
結局、シンジとコウタはまったく棒立ちの状態で、金的蹴りをくらうことになる。

パシィン!

ほぼ同時に乾いた音が二つ、道場に響くと、男たちが着けたファールカップは、股間にずっぽりと食い込んだ。
そしてさらに、リオとチヒロの足先は、男たちの金玉を裏から舐めるように撫で上げようとしたが、ファールカップに引っかかって、不十分な形で終わることとなった。

「ううっ!」

「はあっ!」

シンジとコウタは、先ほどのヒロユキと同様、じんわりとした痛みの波に苦しめられた。
膝をつくほどではなかったものの、その痛みは、十分行動不能にさせられるものだった。

「お見事! さすが、先輩!」

ナナミは小さく拍手をした。
しかし蹴り終わったリオとチヒロは、どこか納得していないような表情で、男たちが苦しむのを見ていた。

「うーん。ちょっと違ったなあ…」

「まあ、カップの上からだと、こんなもんかなあ」

「そうなんですか? 良さそうに見えたけど。けっこう、痛がってるみたいですけど」

ナナミが言うように、シンジとコウタの苦しみは、先ほどのヒロユキの上をいくものらしかった。
二人の顔には、脂汗が浮かんでいる。

「そうでもないよ。大して効いてないでしょ? まだ、立ってるもん」
「タマが乗ったときはさあ、もっともっと痛がるもんね。立ちあがれないくらい」

シンジ達は苦しみに喘ぎながらも、二人の言葉を聞いて、ゾッとした。
これ以上の痛みなど、考えたくもない。

「いや、あの…けっこう痛かったんで…。お願いします…」

なんとかそう言ったものの、リオたちの耳にはまったく届いていなかった。





「やっぱりさあ、ナマで蹴らないと、掴めないね」

「そうだね。いい機会だし、ナマで蹴ってみようか」

ナマで蹴るとはどういうことなのか、男たちはなんとなく察しがついたが、想像するだけで恐ろしく、それを口に出したくはなかった。

「ナマって、なんですか? このカップ着けないで蹴るってことですか?」

ナナミが無邪気な様子で言った。
男たちは密かに、息をのんで返答を待つ。

「そう。カップなしでね」

「ついでにパンツも脱ぐか、アンタ達」

「ああ、そうだね。その方が、タマの動きが分かりやすくない?」

二人は平然と言い放ったが、男たちの顔面からは血の気が引いていた。

「そ、それは…」

「ん?」

シンジが何か言いかけようとしたが、チヒロがにっこりと微笑み返したので、反論するわけにもいかず、うつむいて、ファールカップを外し始めた。

「えー! アタシ、明るい所でアソコ見るのって、初めてかもー!」

ナナミは一見、恥ずかしそうに、しかしどこかうれしそうに、男たちの様子を見ていた。
彼らはためらいながらもファールカップを外し、それぞれパンツに手をかけた。

「ほら、さっさと脱ぎな。別に減るもんじゃないだろ」

「私たちだって、別にアンタ達の裸を見たいわけじゃないんだからね。タマの動きがよくわかるように、脱いでもらうだけだから」

チヒロ達は冷たく言い放った。
男たちはやがて決心したように、三人同時にパンツを引き下ろすと、すぐに両手でイチモツを隠した状態で、床の上に立った。

「きゃー! へんたーい!」

ナナミはおどけて言うが、特に目を背けることもなかった。

「ちょっと、なんで隠してんの? 手、どけろよ!」

チヒロが厳しい調子で言うと、三人は一斉に手を股間から離した。
三人のペニスと金玉が、女の子たちの前に露わになる。

「ふーん。なかなか、いいモン持ってんじゃん。ウチの彼氏よりでかいかな」

「へー。シンジ君のチンチンって、こんなんなんだあ。皮が余ってるけど、コレ、包茎っていうの?」

チヒロとナナミは、三人の男たちのイチモツを、しげしげと眺める。
三人は恥ずかしさのあまり、質問に答える事はできなかった。

「ちょっと、脚も開いてよ」

リオがコウタにそう言うと、コウタは閉じていた脚を少し開いて見せた。
コウタの金玉は、脚の間にブラリと垂れ下がった状態になる。

「ほら。構えると、こういう状態になるわけでしょ。袋がダランとして」

「菊地君の道着の中は、こうなってるわけだ」

チヒロは笑いながら、コウタの金玉を眺める。

「ここに下から当てると…」

言いながら、リオはコウタの金玉に、真下から裏拳を軽く当てた。
パチン、と音がして、コウタの金玉は上に弾かれる。

「うっ!」

と、コウタは呻いたが、そんなことはリオはお構いなしだった。

「ほら、見た? タマがさ、袋の中で逃げたでしょ? だから、あんまりダメージがないんだよ」

「ああ、そっかあ。そういう仕組みになってるんだあ。便利ですねえ、金玉って」

あんまりダメージがないとは、コウタはまったく思わなかったが、女の子たちはかなり納得した様子だった。

「そういうことだよね。一応、急所だから。簡単には潰れないようになってるんだよ」

「これをうまく足に乗せるようにしたら、ダメージが大きいんじゃない?
当たった瞬間に、クッとスナップを利かせるんだよ。タマを追いかけるように」

「だから、足首を柔らかくするんですね」

「そう。で、この袋の裏にさ…。ちょっと、これ、邪魔だなあ」

リオはいかにも研究熱心な様子でコウタの金玉をいじっていたが、やがて金玉袋の前に垂れ下がっているペニスが邪魔になってきた。

「アンタさあ、これ、どうにかなんないの?」

「どうにかって…。すいません…」

コウタは謝るしかなかった。
するとナナミが、何か思いついたように更衣室に走って、すぐに戻ってきた。
その手には、ふだんの稽古で使っているテーピングがある。

「先輩、これでチンチンを貼っちゃえばどうですか?」

「いいじゃん。冴えてるね、ナナミ」

「へへー。じゃあ、失礼しまーす」

「え…!」

ナナミはためらいもせずにシンジの股間に手を伸ばし、ペニスを握って下腹部にあてると、その上からテーピングで張り付けてしまった。
あまりの手際の良さに、シンジは抵抗する間もなかった。

「おっきくなるといけないから、しっかり貼っとこう」

独り言のように言うと、さらにベタベタとテーピングを張り付けて、シンジのペニスは完全に見えなくなってしまった。

「ナナミ、終わったら、こっちにも貸して」

「私もやるわ」

チヒロとナナミも、それぞれヒロユキとコウタのペニスを下腹部に張り付け、三人の股間には、玉袋だけがブラブラと揺れている、滑稽な姿になってしまった。

「プ…! こうなると、だっさいなあ、男って」

「なんか、お股にポケットがついてるみたいですね」

女の子たちは、思わず笑い合った。
男たちはさすがに自分たちの姿を情けなく思ったが、それ以上に今から始まる防具なしの金的蹴りの稽古に恐怖を感じていた。
何も守るものの無い、むき出しの金玉を、彼らはこれ以上なく心細く思った。

「こうなると…。アレ、試してみようかな」

リオは三人の金玉をジッと見つめ、何事か思いついたようだった。

「アレって?」

「ほら。前に一度、菊地君に当てそうになったやつ。横からの…」

「ああ、アレね。そうだね。今なら、金玉がよく見えるしね。やってみれば?」

リオはうなずくと、自分が股間をテーピングしたコウタの前に構えた。
コウタは素っ裸で、真剣な表情で自分の股間を見つめる女の子の前に立つ。

「あ、あの…」

「アンタ、ちょっと構えてみてくれない? 私と同じように」

リオはコウタを無視して、指示を出した、
コウタは言われるままに、リオがしているように右足を後ろに引いて体を斜めにし、腰を落とした。
いかにも不器用だったが、一応、拳法の構えらしくなった。

「うん。それでいいわ。そのまま、動かないでね」

コウタはごくりと唾を飲んだ。
それを見ている他の男たちも、緊張した様子だった。

「えいっ!」

リオは数回、軽やかにフットワークを踏むと、一気にコウタとの間合いをつめて、その股間に鞭のようにしなる左の回し蹴りを放った。

べチンッ!

と音がして、コウタのむき出しになった金玉袋は、リオの足の甲の直撃を受ける。
その蹴りはコウタの金玉を真横から打ちつけ、激しい勢いのまま、コウタの内ももに金玉袋がぶつけられた。そして袋の中で二つの睾丸が互いにぶつかり合い、その形を変形させることになってしまった。

「くあっ!」

「入った!」

リオが足を戻すのとほぼ同時に、コウタは腰を引いて、そのまま床の上にべちゃりとうずくまってしまった。

「あうぅぅ…」

正座のような姿勢になり、背中を丸めて、両手で金玉をおさえる。
これまでとは比べ物にならない痛みと苦しみが、コウタの全身を襲っていた。

「すごい! 今のどうなったんですか、先輩?」

コウタのただならぬ苦しみ様を見たナナミが、リオにたずねた。

「今のは、タマを真横から蹴ったの。こうすると、袋の中でタマとタマがぶつかり合って、二倍痛いんじゃないかと思ったんだけど」

コウタはうずくまったまま、体を硬直させて震えている。
全身から異常なまでに汗が噴き出して、床を濡らしていた。

「予想以上にきいたみたいね。前に菊地君に決めたときも、こんな感じだったの?」

「うん。あのときは動いてたから、今ほどきれいに入らなかったけど。やっぱりうまく入れば、相当きくみたいね」

リオは自分の実験の結果に満足しているようだった。

「コウタくーん。大丈夫? 潰れてなーい?」

ナナミは無邪気な様子で、うずくまっているコウタの顔を覗き込んだ。
コウタはそれに答える様子もなく、口を半開きにしてよだれを流し、呼吸すらままならない様子だった。

「えー。そんなに痛いの? 頑張って! 痛いの、痛いの、飛んでけー!」

ナナミはコウタの腰のあたりをさすってやった。

「潰れてはいないと思うけど…。ちょっと見せて」

リオはそう言うと、うずくまっているコウタの尻の方にまわり、おもむろに股間に手を突っ込んだ。
コウタが必死に手のひらで包み込み、守っている金玉を、リオはギュッと握ってみた。

「がぁうぅ!」

コウタは電撃に打たれたように、背中を伸ばして顔を天井に向けた。
リオはそんな様子を見ても、表情を変えずにコウタの金玉を手の中で転がしている。

「ああ。大丈夫、二つともあるよ」

「は、離して…」

コウタはやっと、絞り出すように言った。

「はいはい。ったく、大げさだなあ」

リオはため息とともに、コウタの金玉から手を離した。
コウタはがっくりと力を抜いて、再びうなだれて動かなくなってしまった。





「へー。潰れなくても、そんなに痛いんだあ。じゃあ、また蹴られたら、またすごく痛くなっちゃうってこと? 不便だねえ、タマタマって」

ナナミは同情しているのか馬鹿にしているのか、とにかく楽しそうに笑っていた。
この様子を見ていたシンジとヒロユキは、改めて自分たちの置かれた状況の恐ろしさに、背筋が凍る思いだった。

「あの…。すいませんでした。許して下さい!」

思わず、シンジは土下座して謝っていた。
それを見たヒロユキもまた、土下座する。

「ん? なにが?」

「許すっていうか…。だから、この稽古に付き合ったら、許してあげるってば」

聞く耳を持たないというか、まったく普通。
男に瀕死のような苦しみを与えておきながら、彼女たちがその自覚をまったく持っていない事に、シンジ達は絶望感を覚えてしまった。

「警察はイヤ、体で払うのもイヤってのは、ちょっと甘いんじゃないの?」

「そうだ、そうだ! 体で払えー!」

チヒロとナナミは、明らかに楽しんでいた。

「そ、それは…」

「じゃあ、こうしようか。アンタ達にもチャンスをあげるよ。アンタ、ヒロユキだっけ? アンタがアタシに一発でも当てられたら、このまま帰らしてあげる。財布も返すよ。それでいい?」

「え!」

ヒロユキは顔をあげて、自信満々な様子でほほ笑むチヒロを見た。

「チヒロ、それでいいの?」

「平気、平気。素人の突きなんか、アタシに当たらないって。それにさ、アタシは組手の中での金的を練習したかったから。丁度いいよ」

「く、組手…」

「さあ、どうするの? やるのか、やらないのか。男が女に一発当てるくらい、わけないでしょ?」

ヒロユキはチヒロに挑発され、ためらいながらも立ちあがり、不器用に構えた。ヒロユキに格闘技の経験はまったくなかったが、見よう見まねで、パンチ一発くらいは当てられるだろうと思った。
そうすれば、この地獄のような場所から解放されるのだ。
自然、ヒロユキはこれまでにないくらい集中力を高めた。

「うおぉ!」

雄叫びをあげて、ヒロユキはチヒロに襲いかかった。
ボクシングのようなパンチを続けざまに繰り出すが、チヒロには当たらない。
チヒロはさすがに真剣な表情で、ヒロユキの攻撃をバックステップで、あるいは横に回り込んだりして、ヒラリヒラリとかわしていた。
さすがに武道を何年も続けている人間の動きだった。

「先輩、カッコイイー!」

「さすが…」

脇で見ているナナミとリオも、感心するほどの動きだった。

「ハア…ハア…」

やがてヒロユキが肩で息をし始め、動きが緩慢になってきた。

「もう終わり? 情けない男だなあ。ホントは、もうタマが潰れて女になってるんじゃないの?」

チヒロの挑発に、ヒロユキはわずかに残っていた男のプライドをくすぐられて、最後の力を振り絞ってパンチを放った。

「うわぁ!」

しかし、チヒロは大ぶりになったヒロユキの右のパンチをなんなく見切って、初めてその懐に大きく踏み込んだ。
チヒロとヒロユキの顔が、すぐ近くで交錯する。
ヒロユキの目に最後に写ったのは、にっこりと笑うチヒロの顔で、次の瞬間、壮絶な一撃がヒロユキの股間に決まった。

ボグッ!

という鈍い音は、チヒロの右ひざがヒロユキの金玉を跳ね上げた音ではなく、そのままヒロユキの恥骨にめり込む音だった。
当然、ヒロユキの金玉は袋の中で押しつぶされ、無残に変形した。
さらにチヒロの強烈なひざ蹴りは、ヒロユキの体を浮かすほどのものだったため、一瞬だが、ヒロユキの全体重が恥骨とひざに挟まれた二つの睾丸にかかってしまうことになる。

「うぐっ!」

短い叫び声をあげて、ヒロユキは目の前が真っ暗になるのを感じ、そのまま意識が飛んでしまった。
チヒロがひざを抜いて一歩下がると、そのままガクガクと両ひざを震わせて、口から泡を吹きながら、仰向けにドサリと倒れてしまった。

「うわあ! 先輩、やったあ!」

「てごたえあり!」

ナナミが歓声を上げると、チヒロは満足そうに言って、拳法の作法通り、残心の構えをした。
ヒロユキの顔を覗いてみると、その顔は粉を塗ったように真っ白で、完全に白目をむいていた。

「うまく入ったね。一発KOじゃん」

「まあね。うまくひざに乗った感じだった。潰れてはいないと思うけど」

チヒロはこともなげに言うと、ヒロユキを介抱するわけでもなく、リオと話し始めた。

「やっぱり、ひざの方がきくかなあ」

「そりゃ、もちろん。でも、そう簡単に懐に入り込めないでしょ。アイツは素人だからさ」

泡を吹いて痙攣するヒロユキと、その隣でごく自然に会話する女の子たちを見て、独り残されたシンジは、心底この場所から逃げ出したいと思った。
自分の金玉のこの先の処遇を想像すると、絶望的なことしかなく、そうすると感情があふれ出て、自然と涙がこぼれてきてしまった。

「あれえ? どうしたの、シンジ君?」

ナナミが土下座して泣いているシンジに気がつき、顔を覗き込んだ。

「も、もう、本当に反省してますから…。許して下さい。お願いします。許して下さい…」

シンジは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、訴えた。
それを見たナナミは、さすがに気の毒そうな顔をする。

「えー。そうなのー? 先輩、シンジ君、泣いちゃってますけど…」

「…情けないなあ」

「ま、男なんてこんなもんでしょ。金玉のためなら、泣いて謝るってわけだ」

リオはため息をつき、チヒロはさも軽蔑したように笑った。

「でもねえ、お仕置きはまだ終わってないんだよ。アンタも男の子なら、最後まできっちりけりをつけないと、ね?」

チヒロはシンジの耳元で、優しく囁いた。
そして土下座するシンジの後ろに回り込むと、尻の隙間から見える、ブラブラとした金玉袋を右手でギュッと掴んだ。

「はぐぅ!」

「さあ。立ちなよ。まだ、アタシの後輩が勉強させてもらってないんだからさ」

チヒロは強烈な握力でシンジの金玉を握りしめ、そのまま上に引っぱりあげた。
シンジの金玉袋は限界まで引き伸ばされて、たまらず、シンジは立ちあがらざるをえなかった。

「は、離して! 離して下さい!」

それでもチヒロの握力に、シンジの二つの睾丸は圧迫されて、その痛みにシンジは甲高い悲鳴を上げる。

「うるさいなあ。少し、静かにしなよ」

そう言うと、リオは悲鳴を上げるシンジの口を、無理やりテーピングで塞いでしまった。

「あ、いいね、それ。こっちも縛っちゃえば」

チヒロがそう言うと、リオはうなずいて、シンジの両手をテーピングして後ろで縛ってしまった。
シンジはまったく抵抗できない状態になり、口も塞がれたので、鼻で荒い呼吸をするしかなくなってしまう。

「じゃあ、ナナミ。蹴らせてもらえば?」

「はーい。ゴメンね、シンジ君。先輩の命令だからさ」

ナナミはリオに促されて、申し訳なさそうに、しかし笑いながら言った。

「よく言うよ。アンタが一番楽しみにしてたくせに。潰してみたい、とか言って」

チヒロがシンジの金玉から手を離すと、シンジは内股になって倒れそうになったが、チヒロはそれを許さなかった。
リオも協力して、シンジの両脇を抱え込み、足を開かせる。

「えー。だって、せっかくだから、潰してみたいじゃないですかあ。ね、シンジ君。タマタマって二個あるんでしょ? だから、一個は潰れても平気なんだよね?」

無邪気そうにほほ笑むナナミに、シンジは涙を流しながら必死に首を横に振った。

「ほら、早くしな。心配しなくても、ナナミの蹴りじゃあ潰れたりしないから」

「むー。そんなこと言われると、余計潰したくなっちゃいますよー! いくよ、シンジ君!」

ナナミはさすがにむっとした表情をして、シンジの股間ではかなげに揺れる金玉袋に狙いを定めた。
シンジは祈るような思いで、天を仰ぐ。

「えいっ!」

ナナミの右足が勢いよく振りぬかれた。
パチーン、と気持ちの良い音がして、シンジの金玉はナナミの足の甲に跳ね上げられた。よくスナップのきいた、的確な金的蹴りだった。
ナナミはさらに蹴り足を戻す時に、シンジの金玉の裏をえぐるようにつま先を運び、金玉袋の裏にある副睾丸を痛めつけた。

「うむむぅ!」

口を塞がれているシンジは、低いこもった叫び声しか上げられない。
始めは鋭い痛みが電気のように走り、男の本能が絶対の急所の危機を伝える。そしてその警告に違わず、数瞬後にはむき出しの内臓である睾丸と神経が集中している副睾丸から、例えようのない男の苦しみが湧き上がってくるのだ。
ヒロユキのように気絶してしまうほどの痛みではなかったが、逆にそれが地獄だった。

「おっと。倒れない、倒れない」

「まだまだだよ」

シンジの両足はその意志とは関係なく、ブルブルと震えて崩れ落ちそうになっ
たが、両脇を支えるチヒロとリオは、ガッチリと掴んで動かなかった。

「えー。今のって、潰れなかったですか? 足のとこにタマが乗った感じがしましたけど」

「まだ大丈夫だって。ねえ?」

チヒロは笑いながらシンジに問いかけるが、シンジはうつろな目をするだけで、答える事はできない。

「ホント、なんでこのくらいの蹴りがこんなに痛いのかなあ。不思議だわ」

「よーし。じゃあ、どんどんいきまーす!」

そう言うと、ナナミは勢いこんで、シンジの金玉に蹴りを浴びせ始めた。
パチン、パチンと金玉が跳ね上がるたびに、シンジの体は硬直し、倒れそうになるが、チヒロ達に支えられ、それすらも許されなかった。
やがて十何発目かの蹴りが決まり、ナナミの息が切れ始めたころ、シンジの口に貼られたテーピングの隙間から、泡が漏れ始めた。
それを見たチヒロが、楽しそうに笑う。

「お。もう、気絶したかな。ナナミ、あと一息だ!」

「はい! いっくよー! おりゃ!」

ナナミはいったん足を引いて力を溜めると、そのままシンジに突進し、右ひざを振り上げて、飛びひざ蹴りを放った。

ズゴッ!

と、骨がぶつかる音がして、シンジの体は一瞬、宙に浮いた。

「うもっ!」

シンジは一瞬、これまで以上の硬直を見せて、今度はひざだけでなく、全身から力が抜けるのをチヒロ達は感じた。
ナナミは着地して、シンジの股間の様子を見たが、やがてテーピングに包まれた隙間から、ジワジワと液体が漏れてくるのが見えた。

「あー! おしっこ漏らしちゃった!」

「え!」

「マジで!」

ナナミが叫ぶと、チヒロとリオも驚いて、シンジから手を離した。
シンジの体はそのまま木が倒れるように、大きな音を立てて仰向けに倒れてしまった。
テーピングの隙間から染み出したシンジの小便は、シンジの体を濡らし、やがて床に水たまりを作っていった。

「おいおい。ションベンはまずいって。漏らすなよなー」

「アンタ、飛びひざはやりすぎだって」

チヒロとリオは、さすがにため息をついた。

「すいませーん。だって、その方がカッコイイかなって…。でも、潰れましたよね?」

ナナミは謝りながらも、うれしそうに聞いた。

「知らないよ。触りたくもないし、アンタが自分で確かめな」

「まあ、潰れても一個じゃないの? 潰れたときはね、パチンって弾けるような感触があるのよ」

「そうなんですかあ? うーん。どうだったかなあ。アタシも触りたくないから、明日、シンジ君に聞いてみよう」

女の子たちは、男たちを気絶させても、特に気に病んでいる様子はないようだった。

「で、とりあえずこれで終わりってことで。ていうか、後片付けはどうすんの?」

泡を吹いて気絶するヒロユキ、失禁して動かないシンジ、いまだに真っ青な顔で震えているコウタを見まわして、チヒロは言った。

「明日は朝から出稽古に行くから、ここには誰もこないでしょ。ゆっくり休んで、片づけてってもらおうか」

「あ、そうだったね。じゃあ、アンタ、えっと…コウタ君? そういうことで、目が覚めたら、二人にもそう言っといてよ」

チヒロはうずくまっているコウタに言った。
コウタは聞こえているのかいないのか、反応がなかった。

「先輩、財布は?」

「あ、そうか。じゃあ、これ、返してあげる。もう悪さしないでね」

チヒロは三人の財布を取り出すと、コウタの側に投げてやった。

「じゃあね。おかげで勉強になったわ」

「ゆっくり休んでね。また、授業でねー」

「ちゃんと、掃除しといてよ。してなかったら、またお仕置きだからね」

リオたちは楽しそうに手を振って、武道場から出て行った。
後に残された男たちが目覚めたのは、それからだいぶ経ってからのことだった。


終わり。


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