男子達にとって、恐怖の時間がやってきた。 毎日、すべての授業が終わった後に開かれる「帰りの会」。その中で、生活態度が悪かった生徒を生徒たち自身が挙げて、注意するようになっているのだ。
「はい、じゃあ今日、反省してほしかった人は誰かいますか?」
担任の女性教師が壇上から尋ねるが、彼女はここ最近、帰りの会のこの時間に若干の変化を感じていた。男子たちはやけに緊張した様子でうつむいているし、自分の名前が挙がると、この世の終わりみたいな顔をしてがっかりするのだ。
「はい。私は、田中君が良くなかったと思います。田中君は、給食当番なのに、給食服を忘れていたからです」
女子の松井ケイコが手を挙げてそう言うと、男子の田中シンイチは顔をあげ、悲しそうな顔をした。
「本当ですか、田中君?」
「…はい。本当です。すいませんでした」
担任の教師がこの会で目的としていることは、ここまでであるはずだった。 生徒たちが自主的に他の生徒の悪い点を注意し、反省をしてもらう。きちんと真偽を確かめた上でなら、これはよくできた教育法であるはずだった。 しかし、今しがた注意を受けて反省したはずの田中シンイチの顔の沈みようは、ただ落ち込んでいるというだけのものでないことは、明らかだった。
「他にはありませんでしたか?」
「はい。私は、山崎君と武田君が良くなかったと思います。二人は掃除の時間に遅れてきたからです」
藤田ミキが言うと、名前を呼ばれた山崎リョウヘイと武田コウタは、必死の様子で反論した。
「ち、違うよ! オレ達はちょっと保健室に行ってて、遅れたんです」
「遊んでたら、ちょっと転んで、それで…」
二人は告発したミキに喰ってかかった。 すると、ミキの後ろに座っていた中野カエデが、手を挙げて言った。
「ウソです。私、二人が掃除の時間まで校庭で遊んでるのを見ました」
リョウヘイとコウタの二人は、沈黙してしまった。 担任の教師はこの展開にちょっと戸惑ったが、改めて二人に尋ねた。
「本当ですか? 山崎君、武田君?」
「…はい」
二人は観念したように、うなずいた。
「では、明日からそういうことがないようにしてください。それと、ウソをついてはいけませんよ。わかりましたね?」
「はい…」
「それでは、他にないようでしたら、これで帰りの会を終わります。みなさん、さようなら。気をつけて帰りなさい」
担任の教師と生徒たちがお互いにあいさつを交わし、帰りの会は終了した。 しかし名前を挙げられた男子達にとっては、ここからが始まりだったのだ。
教師が出て行った後、教室には先ほど注意された男子3人と、数人の女子達が残っていた。 男子達は委縮した様子で教室の隅に立たされ、女子たちに取り囲まれている。
「あーあ。シンイチ君が給食当番できなかったせいで、アタシ、大変だったんだけどなー」
先ほどシンイチを告発したケイコが、恨めしそうな顔で言った。
「ご、ごめんなさい…」
シンイチはうつむいて、頭を下げる。
「うん。じゃあ、シンイチ君は軽くで許してあげよっか。今日は、ウソついたヤツらもいるしね」
女子のリーダー格、カエデがそう言うと、シンイチの隣にいたリョウヘイとコウタがドキッとして顔を上げた。
「ホント、信じらんない。どうしてウソついたりするの?」
「反省する気がないってことだよね。これは、罪が重いと思うなー」
女の子たちは口々に二人の男子を責めた。 さきほどの帰りの会が学級裁判とするなら、これは刑の執行のようなものだった。このクラスの女子達はみな、男子の最大の弱点、キンタマを攻撃することにためらいがなく、力関係は完全に女子の方が上だったのだ。 女子たちがいわれのないキンタマ攻撃をすることはなかったが、最近ではこうして、生活態度の悪い男子を取り囲み、反省させるためにキンタマを利用しているのだった。
「ご、ごめんって。悪かったよ。ウソついたのは、怖かったからで…」
「お、お前らだって、掃除にちょっと遅れるくらいあるじゃないか。なんで俺達だけ…」
「うるさいよ。ちょっと黙ってて」
パン、パン!
追い詰められたリョウヘイとコウタが必死で弁解しようとすると、カエデの素早い平手打ちが二人の股間に入った。
「うっ!」
「あっ!」
それはほんの軽く叩いたようなものだったが、二人の男の子は股間をおさえて、前かがみになって苦しんでしまう。
「ああーん。キンタマ、いたーい」
カエデの一撃で大人しくなってしまった二人をからかって、お調子者のサユリが、自分の股間を両手でおさえて、キンタマがあるふりをしてみせた。
「ほら、一緒にピョンピョンしよ。痛いのがおさまるよ。ピョーンピョーン」
大げさに飛び跳ねるサユリの姿に、女の子たちは笑った。 キンタマを打たれた当の男子二人は、それを横目で見ながら、下腹に広がる痛みにじっと耐えている。
「そういえば、リオちゃんはまだ、男子のキンタマ蹴ったことなかったんじゃない?」
カエデに声をかけられたリオは、これまでの一連の出来事を、半ば驚きと共に眺めていた。 先日、このクラスの男子と女子で決闘をしたときに、女子はキンタマ攻撃の技を身につけたのだが、リオはそれには参加せず、この「反省会」に参加するのも初めてだった。
「う、うん…」
リオは恥ずかしそうにうなずいた。
「じゃあ、今日はリオちゃんにキンタマ攻撃の仕方を教えてあげるね。すっごい簡単だから」
「う、うん…。お願い」
カエデの明るい笑顔に、リオは引き込まれるようにうなずいた。 男子達にとってはたまったものではなかったのだが、そんなことを言えるはずがなかった。
「じゃあまず、シンイチ君のキンタマをアタシが蹴るね。アタシが蹴るのを、よく見てて」
ケイコの言葉にリオはうなずき、ケイコは準備運動するかのように右足を動かし、足首を回したりした。 シンイチはこの成り行きを黙って聞いていたが、その表情は堅く、唇が少し震えていた。
「ちょっと足開いて」
ケイコはシンイチに指示した。 シンイチはためらいながらも、言われた通りにする。下手に女子達の機嫌を損ねると、すぐに自分への「罰」が重たくなることを、これまでの経験で十分分かっているのだった。
「カエデちゃん、アタシに説明させて。えっとね。キンタマは男子の足と足の間についてるから、そこを蹴ればいいの。下の方についてるから、下から蹴りあげるのが一番効くんだよね?」
ケイコの説明に、カエデが問題ないというようにうなずいた。 リオはシンイチの股間を恥ずかしそうに見つめながら、それでも興味がある風だった。
「ここね。ここを蹴るの。こうやって…」
ケイコはシンイチの股間に足の甲を当てて、ポンポンと2,3回叩き上げた。 リオに説明するための、リハーサルのようなものだった。
「うっ!」
すると、叩き上げ方が強すぎたのか、シンイチは股間をおさえて前かがみになってしまった。膝をつくほどではないが、ジーンとした痛みが、シンイチの下腹部に広がっている。
「え? あ、ゴメンゴメン。ちょっと当たっちゃった? でも、今のは練習だからね?」
ケイコに悪気はなかったが、シンイチにとってはいい迷惑だった。 リオはしかし、今のような軽い衝撃でもダメージを受けてしまうキンタマに驚いたらしい。
「え? 今のでもう、痛いの?」
「そうそう。キンタマって超弱いからさー。手加減に苦労するんだよねー」
「ホント。こないだもさ、アタシがちょっと手を後ろに振ったら、そこにちょうどハヤトのキンタマがあって。ちょっと当たったくらいだったけど、ハヤトはすごい苦しんでたんだよ。ウケるよね」
ケイコとサユリが、おかしそうに笑う。 リオと他の女子も、つられて笑っていたが、シンイチや他の男子達にとっては、笑いごとではなかった。
「さあ。もういいから、蹴らせて。後がつかえてるからさ」
まだ苦しんでいるシンイチを、無慈悲にもせかした。 シンイチは青い顔をして股間をおさえていたが、やがて諦めたように手をどけ、歯を食いしばって仁王立ちになった。 リオは、そんなに切羽詰まったようなシンイチの様子を見るのは初めだった。
「いくよー」
ケイコが右足を振りかぶり、勢いよく、シンイチの股間に叩きつけた。 ボスッと鈍い音がして、ケイコの足の甲はシンイチの股間の膨らみを大きくひしゃげさせた。
「うぐっ!」
まるでスローモーションのように、シンイチが股間をおさえ、膝をつく姿が、リオの目に焼きついた。 ケイコが満足げな顔で足を引くと、シンイチはその足元に、土下座するような体勢でひざまずいた。
「あうぅ…」
強烈な痛みが、シンイチの下腹部から広がり、体の自由を奪っていた。 男であることを何よりも実感し、後悔させる、強烈な痛みだった。
「よしっ! 決まった! もう給食着、忘れないでね?」
ケイコはガッツポーズをして、嬉しがった。 シンイチは背中を丸めてうつむきながら、うなずいた。
「見た? リオちゃん? 男子って、こんな軽い蹴り一発で倒れちゃうんだよ。面白いでしょ?」
カエデに言われると、リオは目を大きく見開きながら、無言でうなずいた。 衝撃的な光景だった。 体育の時間や昼休みには、いつも元気に走り回っているシンイチが、ケイコの蹴り一発で、こんなに大人しくなってしまうとは、想像もできなかったのだ。
「私にも、できるかな…?」
男子をこんなに簡単に動けなくさせてしまうキンタマ攻撃に、リオは早くも期待と興味を抱いていた。
「もちろん。女の子はみんな、キンタマ攻撃のプロになれるよ。男子がキンタマを狙わないのは、自分にもついてるから、怖いんだよ。でも女子にはキンタマなんてついてないから、思いっきり攻撃していいんだよ」
カエデがそう言うと、リオは笑顔でうなずいた。 次は、リョウヘイとコウタの番だった。
「さて。コイツら、どうしよっか。ウソついたわけだし、シンイチより重い罰を与えないとねー」
女子の中のミキが、意地悪そうな笑いを浮かべた。 リョウヘイとコウタの二人は、キン蹴りで沈んだシンイチの姿を見て、すっかり縮こまってしまっている。
「うーん。あ、そうだ。じゃあ今日は、キンタマの解剖してみよっか?」
「解剖?」
カエデの言葉に、女子達は声を上げた。
「うん。リオちゃんとか他の人たちにも、キンタマがどうなってるのか、ちゃんと見せてあげるよ。リョウヘイとコウタは、ズボン脱いでみて」
カエデがそう言うと、女子達はうなずき、男子達は意外そうな顔をした。
「そっかあ。確かに男子のキンタマをじっくり見たことなかったね。見たい見たい」
「どこがどう痛いのか、説明してもらおうよ」
女子達の盛り上がりをよそに、リョウヘイとコウタは顔を見合わせ、戸惑っていた。小学生とはいえ、女子に自分の性器を晒すことは恥ずかしかった。
「早く脱いでよ。あ、パンツもね」
カエデがそう言っても、二人はなかなか脱ごうとしない。
「早く! 脱がないと、キンタマ潰しちゃうよ!」
痺れを切らして脅すと、男子達は驚いて、ためらいながらズボンとパンツを脱ぎ始めた。
「きゃー! へんたーい!」
「スケベー!」
女子達はそう言いながらも、リョウヘイとコウタの下半身を興味津々で見つめていた。 二人はパンツを脱いだものの、やはり恥ずかしく、両手で股間だけは隠したままだった。
「ねえ、手、どけてよ。見えないじゃん」
「いや…ちょっと…。もう、許してくれよ…」
リョウヘイとコウタは、泣き出しそうな顔で懇願した。 しかし女子達の好奇心がおさまるはずもなかった。
「いいから、どけてよ! キンタマ、蹴られたいの?」
「でも…」
脅されても、なかなか手をどけようとしない。
「じゃあ、こうしよ。アタシ達にキンタマを見せてくれたら、今日はキンタマを蹴らないであげる。それでどう?」
「え…」
カエデの提案に、リョウヘイとコウタは少し顔を見合わせて考えた後、うなずいて決心した。
「分かったよ…」
ゆっくりと二人が股間から手をどけると、二人の性器がクラスの女子達の目の前に露わになってしまった。
「きゃー!」
とたんに女子達からは歓声があがり、目をそらす子もいたが、カエデなどは見慣れた様子で、二人の男子の性器を観察していた。
「ふーん。やっぱり、ウチのお兄ちゃんのよりちっちゃいねー」
「そうなの? あ、こっちの方がちょっと大きいかなあ」
二人の男子は耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていたが、「小さい」という評価には内心、動揺していた。 まだ精通も来ていない子供のことだったが、それは男の本能というようなものかもしれなかった。
「じゃあ、みんな見て。ここにあるのがキンタマなの。この上にあるのが、おちんちん」
カエデは慣れた手つきでリョウヘイの性器を指差し、解説しだした。 女の子たちは二人の男子のそばにしゃがみこみ、その大切な部分をしげしげと眺めている。
「この、袋みたいなヤツ? 意外と小さいんだね」
「おちんちんは、蹴られても痛くないんだっけ?」
「そう。痛いのは、キンタマの方なんだよ。だから、前からじゃなくて、下から蹴るとよく当たるんだ。こんな風に」
カエデはリョウヘイのキンタマを、下から拳で軽く打ち上げた。 パチン、と音がして、リョウヘイのキンタマは跳ね上げられる。
「くっ!」
リョウヘイは顔を歪めて、少し内股になった。 ジーンとした痛みが、リョウヘイの下腹部に広がる。
「へー。ホントだあ。下から叩いたら、当たるんだね」
「前からだと、おちんちんが邪魔だもんね」
女の子たちはリョウヘイの苦しみなど意に介さず、感心していた。
「でも…このくらいでも痛いんだね。面白い…」
控え目なリオが、ようやく小さな笑いを浮かべた。 男子の急所を攻撃することと、それによる男子達の大げさな反応が、女の子にとってはこの上なく面白いのだった。
「そうそう。ホント、キンタマって弱いんだよ。だから、このくらいでも…」
そう言うと、カエデはリョウヘイのキンタマの一つを、指先で摘まむようにして押し潰し始めた。
「あ! くくく…」
リョウヘイは突然の痛みに驚いて、キンタマを掴むカエデの手を払いのけそうになるが、その腕は周りにいた女子たちによっておさえられてしまった。
「おっとっと。ダメだよー」
「今、レッスン中なんだから。ちょっと我慢しよ。男の子だもん、大丈夫」
女の子たちは、苦しむリョウヘイを面白そうに眺めている。
「ね? このくらいでもすごい痛がるんだもん。プニプニして、気持ちいいよ。リオちゃんもやってみれば?」
「え? …う、うん」
リオはカエデに促されて、ためらいがちにリョウヘイのもう一つのキンタマを指先で摘まんだ。
「はぐっ! かっ!」
突然、リョウヘイの呼吸が止まるほどの痛みが、キンタマを襲った。 リオにとってはまったく初めての経験だったから、加減が分からず、つい強く握りすぎてしまったらしい。
「あ! ゴ、ゴメンね…。強かったかな…」
リオは慌てて、手を緩めた。
「はあ…はあ…」
リョウヘイは依然として痛みを感じていたが、さっきよりはましになった。
「あー、キンタマってデリケートだからねー。気をつけて、リオちゃん」
「う、うん。このくらいなら、平気かな?」
キンタマを握っている時点で平気も何もないのだが、リオは純粋な目でリョウヘイの様子を観察していた。 この様子をすぐ隣で見ていたコウタは、ついに女の子たちのやりようにたまりかねた。
「お、おい! 約束が違うぞ。チンコを見せれば、蹴らないって言ったじゃないか!」
「んー? そうだっけ? そういえば、そうだったかも。でも、蹴ってないじゃん。握ってるだけなんだけど、キンタマ」
カエデはとぼけたふりをして、言った。 周りにいる女の子たちも、ニヤニヤと笑っている。
「き、汚ねえぞ! 握られたって、痛いに決まってるじゃないか! 離してやれよ!」
「えー。アタシ達はただ、軽くマッサージしてるだけなんだけどなー。このくらいで痛いとか、それはキンタマの責任じゃないの? ねえ、リオちゃん?」
カエデが言うと、リオもうなずいた。
「う、うん…。ホントに軽くなんだけど…」
「ていうか、キンタマの鍛え方が足りないんじゃないの? もっと鍛えないと、強い男になれないぞ、リョウヘイ」
ケイコが冗談っぽく言うと、他の女の子たちも同調した。
「そうだよ。ちょっとはキンタマ鍛えろよなー。キンタマ蹴られたら、男子は一発なんだもん。つまんないなー」
「ホント。潰さないように手加減するのも大変なんだから。たまには思いっきり蹴らせてよね、コウタ君?」
返す言葉もないコウタだったが、女の子たちは楽しそうに笑い合った。
「まあでも、そろそろ離してやるか。リオちゃん、キンタマをグリッて押し出すようにしてみて」
「え? うん、わかった…」
カエデとリオは、キンタマを握る手に力を込めた。
「ちょ、ちょっと待って…」
「えい!」
リョウヘイの制止も空しく、カエデとリオは、ほぼ同時にキンタマを指から押し出すようにして解放した。その瞬間、キンタマは大きく変形し、それはリョウヘイに過去最大級の痛みを約束する。
「ぐあっ!!」
男として生まれたことを後悔せざるを得ない、絶望的な痛みだった。 リョウヘイの全身から力が抜け、女の子たちの支えも空しく、膝から床に崩れ落ちてしまう。 女の子たちになぶられたむき出しのキンタマを両手でおさえて、プルプルと震えることしか出なかった。
「くくく…」
リョウヘイの苦悶の表情を見て、カエデは当然のようにニコニコしていたが、リオはすっかり驚いてしまっていた。
「大丈夫かな。潰れちゃったの?」
「大丈夫、大丈夫。このくらいじゃ、ぜんぜん潰れたりしないから。ちょっと休めばよくなるから。そうだよね?」
カエデは気軽な調子でそう言ったが、リョウヘイは返事をすることもできずにうずくまっていた。
「じゃあ、次はタマピンしてみよっか」
「タマピン?」
「そ。キンタマにデコピンするから、タマピン。これも面白いよー」
カエデは心底楽しそうに笑った。 コウタは床に這いつくばって苦しむリョウヘイを見て、すぐにでも逃げ出したくなったが、すでにその両手両足は女の子たちによってしっかりと押さえられてしまっている。 男の最大の急所を無防備に女の子の前に晒さなければいけない恐怖は、言葉に言い表せないものだった。
「あのね、タマピンは裏からやった方がきくんだよ。ちょっとやってみるね。えい!」
そう言うと、カエデはコウタの尻の方から手を伸ばし、中指の爪でそのキンタマを弾いてみせた。
「あいたっ!」
コウタのキンタマ袋に、鋭い痛みが走った。そして次の瞬間、ズンと重たい痛みが下腹部に広がっていく。 キンタマを裏側から弾かれると、視界に入らず、気持ちの準備もできないし、高い確率で副睾丸に命中するのだった。
「くくく…」
コウタはカエデの指一本で、すでにしゃがみこんでしまいそうなダメージを受けてしまっていた。 カエデのタマピンは、どうやらコウタの副睾丸に命中したらしかった。
「ウソー。単なるデコピンじゃん。こんなんで痛いって、どんだけなのー?」
「ウチら、指一本で男子に勝てちゃうんだねー。男子って超情けなーい」
女の子たちは笑いながら、コウタの苦しむ様子を眺めていた。
「ホント、キンタマって超弱いよねー。なんか後ろからやられる方が、痛いみたいなんだよね。よく分かんないけど。リオちゃんもやってみて」
カエデは副睾丸の構造まで理解しているわけではなかったが、経験からその位置を把握しているらしかった。
「う、うん。じゃあ…」
と、リオはコウタの背後に回り込んだ。 しゃがんでみると、コウタの尻の間から、小さなキンタマがよく見える。
「いくよ、コウタ君」
「や、やめて! 頼むから…!」
キンタマを攻撃すると言われて、それを了承する男もいないだろう。 コウタは今しがた、カエデに弾かれたときの痛みがまた襲ってくるかと思い、体を震わせた。 するとその股間では、体の震えに合わせて、キンタマが小刻みに揺れた。
「あ、えっと…狙いにくいな…。えい!」
プルプルと揺れるキンタマを、リオは指で追いかけていたが、やがて狙いをつけると、思い切って中指で弾いてみた。
「あたっ!!」
先程よりも鋭い痛みが、キンタマの裏ではじけた。 そしてその後には当然、先程よりも重苦しい痛みが、コウタの股間全体に広がり始める。
「ううう…!!」
グッと内股になって、なんとかこの男の痛みと戦おうとするが、それも無駄だった。お寺で見たことのある、大きな鐘とそれを突く大きな杭のような突き棒。それが自分の小さな睾丸を思いきり突き続けるような痛み。大げさではなく、コウタはそんな感覚に襲われていた。 彼にできることは、ただ時間が早く過ぎ去るようにと祈ることだけだったのだ。
「やった! リオちゃん、うまい!」
「あ、うん…。ありがとう。けっこう簡単かも、コレ…」
ためらいがちに、はにかむような笑顔を見せた。
「ホント? じゃあ、どんどんやってみようか。タマピンなら、潰れるってことないし。思いっきりやってみていいよ」
キンタマの持ち主であるコウタの意志をまったく無視した、カエデの言葉だった。 それを聞いたコウタは、激しい痛みと戦いながらも、必死に叫んだ。
「や、やめて。頼むから、もうやめてくれよぉ。キンタマ痛くて、死んじゃうよ…」
半べそをかきながら、コウタは女の子たちに懇願した。 キンタマの痛みを、まったく理解することのない彼女たちに、どれだけ言っても効果はないかもしれないが、それでももうひたすらお願いすることしか、彼にはできなかった。
「あーあ、泣いちゃった。男子ってホント、根性ないよねー」
「そうだよねー。男だったら、これくらい我慢してほしいよねー」
「アタシだったら、たぶんキンタマにデコピンされても、泣いたりしないなー」
「アタシも。だって、デコピンじゃん。全然痛くないでしょ、普通」
女の子たちが好き放題に言っても、反論できなかった。 キンタマを持つ自分と、キンタマを持たない彼女たちとでは、永遠に分かりあえない溝があるということを、コウタは改めて実感した。
「まあまあ、みんな。今回はこのくらいで、許してあげようか。リオちゃんもそれでいい?」
「あ、うん」
カエデが言うと、女子のみんなは不承不承納得したようだった。
「そのかわりさ。最後に試したいことがあるんだけど。二つあるから、どっちか選ばせてあげようか?」
「え?」
ほっとしかけたコウタが、再び恐怖に身をひきつらせた。
「えっとね。タマピン10連発と、ダブルタマピン。あ、名前は今、考えたんだけどね。どっちがいい?」
いきなりそんなことを言われて、混乱するコウタをよそに、カエデはニコニコと笑っていた。 もちろん名前からして、どっちも遠慮したい種類のものだったが、この場合、沈黙は許されていなかった。
「ねえ、どっち? アタシはタマピン10連発をやってみたいんだけど。答えないなら、どっちもやっちゃうよ?」
「あ、ダ、ダブルタマピン…が…いいかな…」
コウタは必死の形相で答えた。 10連発というと、さっきの痛みを10回連続でくらわなければならないと思った。 それに比べれば、ダブルというと2回ということだから、そっちの方がまだマシだろうと思えたのだ。
「じゃあ、ダブルタマピンね。ちょうど良かった。リオちゃんも協力して」
「え? うん。いいけど…」
カエデはコウタの股間の前にしゃがみこむと、リオを背後にしゃがみこませた。
「えっとね。リオちゃんはさっきみたいに、裏からタマピンして。アタシは同じキンタマを前からタマピンするから。いっせーの、一緒にね」
「あー、なるほど。ダブルタマピンって、そういうことなんだ」
「キンタマが挟まれるんだね。サンドイッチみたいに」
周りで見ている女子たちが、カエデのアイデアに感心する。
「あ、そうだね。タマピンサンドイッチだね。名前、変えようか」
一方のコウタは、頭の中でこの結果を想像していた。 キンタマは蹴られたり弾かれたりしても、ぶら下がった状態で衝撃を逃がすようにできている。 潰れるという最悪の事態を回避するための、男の体の知恵だったが、それでもなお、あれほどの痛みがあるのだ。 それが弾かれた瞬間、逃げ場がなく、しかも反対側からも同じ衝撃がきたら、どうなるか。 コウタは背中に冷たいものを感じるほどに戦慄した。
「ちょ、ちょっと待って。やっぱり…」
「えーっと、ちょっと練習してみようか。いっせいの、で。素振りしてみよ。いくよー。いっせーの!」
コウタの言葉など、女の子たちはまったく耳を傾ける様子がないようだった。 掛け声とともに、前からはカエデの指、後ろからはリオの指がせまってきて、それはコウタのキンタマにあたるすれすれで、空を切った。
「ひゃっ!」
ヒュン、と涼しい風を、キンタマの表面に感じる。
「すごーい! 二人とも、息ぴったりじゃん」
「ばっちりだね、リオちゃん!」
「あ、うん…。今ので大丈夫かな…」
女の子たちは、何かスポーツのチームプレーがうまくいったときのような、ゲームでも一緒にしているかのように喜んでいた。 一方のコウタは、致命傷となる一撃を寸前でかわした剣闘士のような心境で、背中にはじんわりと冷や汗をかいてしまっていた。
「あ、も、もうやめてくれよ…。何でもするから…。来週の掃除当番もかわるし、給食のデザートもあげるから…。勘弁してくれよ…」
再び半べそをかきながら、懇願した。 しかしカエデをはじめとする女の子たちは、もはやこんな光景も見慣れてしまったようで、コウタの必死の願いにも、誰一人心を動かされることはなかった。
「まーた言ってるよ。もう、ちょっと黙ってて。すぐ終わるから」
「ちょっと痛いだけなんでしょ? もう、大げさなんだから」
自らの願いが通じないと知ると、コウタは体をしっかりと押さえつけられたまま、静かに泣き始めた。
「じゃあ、やっちゃおうか。いい、リオちゃん?」
「うん」
「いくよー。いっせーの! えい!」
ビシッと、少女二人の細い指が、コウタのキンタマを弾いた。 二人の指はほぼ同時か、カエデの方が少し早いくらいだったかもしれない。 しかしそれもほんのわずかの差で、二人の指の間でキンタマが押しつぶされることには何ら変わりはなかった。
「あうっ!!」
一瞬だが、堅い万力のようなもので押しつぶされるような感触を、コウタは股間に感じた。 哀れな彼のキンタマの一つは、少女たちの指で押しつぶされ、瓢箪のような形に変形した後、すぐに元に戻った。
「ぐううっ!!」
一瞬で全身が硬直し、女の子たちの手が離れると、コウタは崩れ落ちるようにして床に倒れた。 男に生まれたことを心から後悔させる時間が、また始まった。
「え…すごい…」
思わずリオがつぶやくほどの、コウタの痛がりようだった。 彼女の指には、グニッとしたキンタマの感触が残っていたが、それが今、コウタにこんな痛みを与えているなどとは、女の子であるリオには、どうしても想像がつかなかった。
「おー。成功したね。イエーイ!」
一方のカエデは、自分のチャレンジに満足したようで、周りの女の子たちとハイタッチをしている。
「リオちゃんも、イエーイ!」
「イ、 イエー!」
カエデとリオの手が、パチンと音を立てて重なり合った。 どうしても分からない。 今、ハイタッチをしたときの方が、よほど強い力で叩いたのに、掌には心地よい感触が残るだけである。 男の子のキンタマとは、なぜこんなに脆いものなのだろう。そしてなぜ、男の子たちはこんなものをぶら下げて生活しているのだろう。 リオの心の中には、まだ整理しきれない疑問がうずまいていた。
終わり。
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