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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。

「あら。ヒロト君」

扉を開けると、そこには東条アカネと5,6人の女子が立っていた。先ほど屋上に上がったユウマが、女子たちに取り囲まれるようにして、地面に座り込んでいる。

「いらっしゃい。来てくれると思ってたわ」

アカネは優しい笑顔を、ヒロトに向けた。
ヒロトはその笑顔に心を奪われる思いがしたが、その後ろでユウマがしゃがみこんで、どうやら何か苦しんでいるらしいのが気になった。

「ユウマ君…?」

ヒロトは扉を閉めて、ユウマに近づいて行こうとした。

「あ、ユウマ君はちょっと待ってあげて。あと3分はしゃべることも苦しいのよ。かわいそうだわ」

「え?」

アカネの言うとおり、よく見ると、ユウマは下腹のあたりをおさえて、呼吸を荒くしているようだった。
ヒロトが来たことに気がつくと、残念そうな顔をしてうつむいてしまった。

「大丈夫、ヒロト君。早退したそうだけど。どこか悪いの?」

「え? いや…はい。もう大丈夫です。あの、ユウマ君はなにを…」

「そう。良かった。じゃあ、私の調べものに付き合ってもらえるわね?」

「あ、はい」

ヒロトは何か不穏な空気を感じ取って、口ごもった。
苦しむユウマ。微笑を絶やさないアカネ。アカネの周りで、無表情に押し黙ったまま、じっとヒロトを観察している上級生の女子たち。
なにかヒロトの想像を超えたことが、ここで行われているらしかった。

「じゃあ、これからヒロト君の金玉をひねり潰すわね」

アカネは微笑みながら言った。
思わず、ヒロトは聞き返す。

「え?」

「あ、心配しないで。ひねり潰すっていうのは、言い方のひとつよ。実際には、ヒロト君の金玉を潰したりはしないわ。ただ、痛めつけるだけ。何か疑問があるかもしれないけど、それは実験を進めながら、解決していきましょう。だって今日は、二人も協力者がいるんだもの。急がないと、日が暮れてしまうわ」

ヒロトは呆気にとられて、言葉が出なかった。
アカネの口から金玉という言葉が何気なく出たのも意外だったし、その後に言われたことも、ヒロトには急に理解できるものではなかった。

「まずは、ヒロト君の金玉をひざ蹴りするわね。いい? ひざ蹴り、されたことないでしょう?」

「え、あ、はい。ないです…」

ヒロトは戸惑いながらも答えた。
というより、ヒロトは金玉を蹴られた経験など、一回もなかった。スポーツなどもほとんどしてこなかったので、何かで打ちつけてしまったというようなこともない。金玉の痛みに関しては、奇跡的に無垢な状態だったのだ。

「そうよね。たぶんヒロト君は、金玉を蹴られたこともないと思うわ。いいの。最初はみんなそうよ」

アカネはおもむろにヒロトの両肩に手を置いて、距離を縮めた。
昨日も感じたアカネの香水の匂いと、その豊満な胸を鼻先の距離に感じて、ヒロトは先ほどまでの疑問も忘れて興奮してしまった。

「あのね、よく聞いて。金玉を蹴られると、男の子はすごく痛いの。なぜなら金玉は内臓で、内臓を直接蹴られるってことは、すごく痛いことだと思わない? それなのよ」

アカネはゆっくりと、子供に諭すようにヒロトに説明を始めた。

「その痛みはね、最初はしびれるようにヒロト君の金玉を突き抜けて、そのちょっと後で、重苦しい痛みがお腹全体に広がり始めるの。男の子はその時には、みんな金玉をおさえて、ひざをついて丸くなっちゃうのよ。ヒロト君もそうなるわ。そして、しばらくは息もできないほど苦しくて、泣きたくなるの。当たり所が良ければ、吐き気を催すこともあるから、そのときは遠慮なく吐いてね。わかった?」

ヒロトはわけが分からなかったが、とりあえずうなずいた。

「そう。じゃあ、始めましょうか」

言うと同時に、アカネは右ひざを跳ね上げて、深々とヒロトの股間に突き刺した。
それは強烈なひざ蹴りで、小柄なヒロトの体は一瞬、宙に浮いてしまった。

「うっ!」

その瞬間、ヒロトは目の前の景色がズレたことに気がついたが、何が起こったのか分からなかった。
足の間に突然、異物感を感じ、それがアカネの白い太ももだと気がついたが、その時でもまだ、微笑みを浮かべるアカネの美しい顔を眺め続けることができた。
しかし次の瞬間、激しい痛みが股間から下腹部へ、さらに体全体に突き抜けるのを感じ、反射的に股間を両手でおさえてしまった。

「え…あ…!!」

金玉を蹴られるという、人生で初めての出来事だったが、ヒロトの男の本能が、すぐそこまで来ている危険を察知した。
ヒロトの不安げな表情に、アカネは満足そうな笑みを浮かべる。
じわりと重苦しい波が一つ、金玉から放たれたと思うと、それはとてつもない大津波となり、ヒロトの体全体に広がっていった。

「うあ…あぁっ!」

ひざから力が抜けて、前のめりに倒れこんでしまった。
今まで経験したことのない痛み。二つの小さな玉から発せられる痛みの波は、下腹をねじるように掻き回し、胃を突き上げ、喉にいたって呼吸をも止めた。
ヒロトはアカネの言った通りに、ひざをつき背中を丸めて、涙を流して屋上のコンクリートに這いつくばってしまった。

「やっぱりね。初めてでも分かるんだわ。痛みが来るのが。男の本能みたいなものかしら。不思議ね」

アカネは満足そうに苦しむヒロトを見下ろして、自分の観察の結果を述べた。
その背後で、女子生徒が一人、せわしなくメモを取っている。どうやら、アカネの言葉を記録しているようだった。

「あ…ぐう…」

ヒロトはアカネの言葉を聞いても、ますます何のことかわからなくなった。
とりあえず、なぜ自分はこんな苦しみを受けなくてはならないのか。ユウマの忠告を無視して屋上に来てしまったことを、心から後悔した。

「ヒロト君、聞いて。あなたは今、金玉を蹴られたの。初めてだから、そうね、あと10分は起き上がることもできないわ。でも、男の子はみんなそうなのよ。安心して」

アカネは優しく話しかけたが、言っていることはヒロトにはまったく意味不明だった。

「あなたは不思議に思ってるでしょう。私がなんでこんなことをするのかって。フフ。ヒロト君、転校生のあなたに説明してあげる。私はこの学校を支配しているの。女子も男子も、生徒は全員、私の言うことは何でも聞くのよ。聞かなければいけないの」

アカネは突然、とんでもないことをごく普通の調子で語り始めた。

「つまり、私は学校の番長っていうのかしら。古い言い方だけど、分かりやすいと思うわ。私の言うことを聞かない子がいると、こうやって呼び出して、今のヒロト君みたいな目に合わせているのよ。でも、怖がる必要はないの」

ヒロトはひざまずいたまま、上目づかいでアカネの顔を覗き込んだ。
相変わらず、アカネの顔からは笑顔が消えていない。

「私は見ての通り、容姿端麗だし、勉強の成績も全国トップクラス、スポーツも万能なのよ。つまり、私にはこの学校を支配する資格があって当然だし、あなたたちは私を恐れつつ、目標にして学校生活を送っていくべきなのよ。でもそんな私でも、すぐには理解できないことがあるの。それが、男の子の体の仕組みよ」

ヒロトはようやく、呼吸を取り戻し始めた。
喉の奥から湧き出てくる苦しみを吐きだすかのように、激しく咳き込む。
そんなヒロトの姿を、アカネは冷静に観察していた。

「もちろん、解剖学上の知識は十分持ってるわ。でもそれだけじゃ、実際に男の子がどんな感覚で生活しているのか、分からないでしょ。私はそこに、すごく興味をそそられるのよ。例えばほら」

アカネはおもむろに、自分の制服のスカート裾をつかむと、チラリとめくって見せた。
ヒロトの目に、黒いレースの下着の端が飛び込んできて、つい凝視してしまう。

「男の子って、こんなときでもエッチなことには必ず目が行くでしょ。そういうことを、実際にデータとして調べてみたいのよ。今、ヒロト君を蹴ったのは、そのデータ収集の一つ。男の子が初めて金玉を蹴られる時って、どんな反応をするのか、すごく興味深かったわ。ありがとう」

アカネは満面の笑みで、微笑んだ。
ヒロトは話を聞いて、だいたいは理解できたが、なにか意見を考えられるほどに頭は回復していない。とにかく今は、金玉の痛みに耐えることだけで精いっぱいだった。

「あ、いいのよ、ヒロト君。今はしゃべれる状態じゃないでしょ? 分かってるわ。今まで何百回も金玉を蹴ってきたから、感触でだいたいのダメージは分かるつもり。ゆっくり休んでて」

アカネはそう言うと、今度はユウマの方に歩み寄った。

「さあ、ユウマ君。もう、ある程度ダメージは回復したはずね? でもまだ、立てはしないはずだわ」

「あ…は、はい」

ユウマは確かに先ほどよりも回復した様子だったが、まだ下腹をおさえて、しゃがみこんでいた。

「そうでしょうね。ところでユウマ君。あなた、私にウソをついたわね。ヒロト君は早退した。今日は来られないって」

ユウマは動揺した様子で目を伏せた。
それを聞いたヒロトは、痛みの中で、ユウマが自分に忠告してくれた真意をようやく理解した。そして自分がそれを無視したせいで、今はユウマに危険が迫っていることも直感した。

「あ、でもいいのよ。あなたが言ったことがウソだってことは、私は最初から分かってたわ。ユウマ君は優しい子だもの。ヒロト君を助けたかったのよね。同じ金玉を持つ男同士の友情、素敵だわ」

アカネは心底感心したようにユウマにほほ笑んだ。

「でもね、ユウマ君。理由はどうあれ、私に反抗したということは見逃せないの。これを見逃したら、ユウマ君が他の子たちからも恨まれてしまうことになるわ。私に従う者は、誰であれ、平等よ。私はみんなを平等に愛して、平等に罰を与える。分かるわね?」

ヒロトにはアカネの言っている理屈はさっぱり理解できなかったが、周囲にいる女子生徒たちは、無言ながら目でうなずいているようだった。
ユウマもまた、アカネの言葉に反論する様子を見せない。

「だから今日は、ユウマ君の金玉を潰します。これは、言葉どおりの意味よ」

ここにいたって、ユウマはさすがにハッとして顔を上げた。
そんなユウマを、アカネは微笑みを絶やさずに見つめる。




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