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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。

中学一年生の小林ヒロトがこの学校に転校してきたのは、親の仕事の都合によるもので、ヒロトにとっては小学校時代から数えて四回目の転校で、特に珍しいことではなくなっていた。
ヒロトは中学生にしては背が小さく、色白で華奢な体つきをした、一見してひ弱そうな男の子だった。
最近は少なくなったが、もっと小さい頃は、女の子に間違われることもあった。本人もそれを気にして、日頃から男らしくしようと心がけているつもりだったのだが、転校の多い学校生活では、一つの部活動に打ち込むようなこともできず、ヒロトは相変わらず、か弱い中性的な印象を与える男の子だった。

「ヒロト君、一緒に帰ろう」

転校から三日目。ホームルームが終わった後のヒロトに声をかけてきたのは、学級委員の広野ユウマだった。
ユウマは明るくて快活な少年で、学級委員らしい、どこか大人びた落ち着きを持っていた。ヒロトの転校初日から真っ先に声をかけてきてくれたのは、ユウマである。
それが学級委員の責任感からくるものだとしても、ヒロトには純粋にありがたかった。

「うん。帰ろう」

ヒロトとユウマは、靴箱のある玄関にいたるまでの渡り廊下を、話しながら歩いた。

「ヒロト君、学校にはもう慣れた?」

「うん…。まだかな。でも、楽しいよ。みんな、声をかけてくれるし」

「そっか。でも、ウチのクラスの人たちは大人しいから、もっとヒロト君から声をかけてくれてもいいかもよ」

「うん。そうする」

他愛のない会話をしていると、背後から声をかけてくる者がいた。

「ユウマ君」

ユウマはその声に、ハッとして振り向いた。
ヒロトもつられて振り向くと、そこには襟に三年生のバッジを着けた、女子生徒が立っていた。

「と、東条さん。こんにちは」

ユウマは突然、全身を強張らせて、この女子生徒にあいさつした。

「こんにちは。今、帰りなの?」

「は、はい。そうです」

ユウマはやはり、極度に緊張している様子だった。
東条アカネは、モデルのような長身とグラマーなスタイルを持った美しい女子生徒だった。大きな瞳は少し茶色がかり、ハーフのような雰囲気で、スッと通った鼻筋もまた、日本人離れしている。艶のある唇は常に微笑を絶やさず、しゃべるたびに白い歯が輝いて見えた。長い黒髪には美しくウェーブがかかり、彼女の小さな顔を縁取るようにして、胸まで伸びている。
その胸は、制服の上からでも分かるほど豊満なもので、およそ中学生のものとは思えなかった。
ヒロトは今までにこれほど美しい女性を見たことがなかったので、つい見とれてしまった。

「そう。今日はこれから、2年生の男の子たちと遊ぶの。お天気も良さそうだしね。フフッ」

アカネはユウマの強張った顔を見て、笑いかけた。
そして隣にいたヒロトに気がつくと、ヒロトにもまた、にこやかにほほ笑んで見せた。

「あなたは…初めてお会いするかしら。ユウマ君のお友達?」

「は、はい。一昨日、転校してきました。小林ヒロトです。は、初めまして…」

ヒロトは急に話しかけられて動揺し、早口に叫んでしまった。
アカネが近くに寄ってきただけで、いい香りが辺りに広がり、なんとなくうっとりとした気分になってしまう。
アカネはそんなヒロトの様子に、歯を見せて笑った。

「そう。初めまして、ヒロト君。私は三年の東条アカネといいます。よろしくね」

アカネは軽く会釈をし、ヒロトもまた、慌てて会釈を返した。
ヒロトが顔を上げたちょうど目の前に、アカネのバストが揺れており、ヒロトは驚きながらも、不器用な様子でそれに見入ってしまっていた。
アカネはそんなヒロトの視線に気づいているのかどうか、微笑は絶やさなかった。

「ユウマ君。今日は約束があるんだけど、明日、私に付き合ってくれないかしら? また、ユウマ君と一緒に調べたいことがあるの」

ユウマはそう言われると、ヒロトの目にも分かるくらい動揺して、顔を強張らせた。

「あ、あの…」

「お願い、ユウマ君」

アカネはユウマの手を握って、懇願するような目で見る。
ユウマはそんなアカネを見て、やがて諦めたように目を伏せた。

「はい…。わかりました」

「やったぁ。助かるわ、ユウマ君」

アカネは大げさに両手を振って喜んだ。大きな胸が魅惑的に揺れたのを、ヒロトは不躾に見つめてしまったが、ユウマはそんなことは気にならないように、目を伏せたままだった。

「じゃあ、明日の放課後、屋上でね。あ、それと、転校生のヒロト君? あなたもよければ、来ない?」

え? と、ヒロトとユウマは同時にアカネを見た。
しかしその表情は、明らかに対照的だった。

「あ、はい! なにするんですか?」

ヒロトはアカネのような美しい先輩に声をかけられたことが、単純にうれしかった。先ほどからのユウマの緊張した態度は気になるが、アカネに気に入られるチャンスを、逃したくなかった。

「簡単な調べものよ。私の個人的なことなんだけど。ユウマ君と一緒に、お手伝いをお願いしてもいいかしら?」

「は、はい。喜んで!」

ヒロトは二つ返事で了承した。
それを悲しそうな目で見つめる、ユウマの視線にも気づかずに。

「じゃあ、二人とも、また明日ね。さようなら」

アカネは手を振って、去って行った。
その後姿に、ヒロトはしばらく見とれてしまっていた。
その後、帰り道でユウマはアカネのことをまったく口にせず、ヒロトに何を聞かれても、「明日、分かるよ」と言うのみだった。


翌日の放課後。ユウマはホームルームのときからすでに緊張し、沈んだ顔で時計の針が回るのをチラリチラリと見ていた。逆にヒロトは、時間が過ぎるのをひそかに楽しみにしている様子だった。

「ユウマ君、屋上に行かないの?」

クラスメイトが大方帰ってしまった後、いつまでも腰を上げようとしないユウマに、ヒロトはたまりかねて尋ねた。

「う、うん。行くよ。行かないと」

ユウマはヒロトに言われて、意を決したように立ち上がり、鞄を持って、教室を出た。
ヒロトはユウマの後に続いて、廊下を歩いていく。
やはり、ユウマの様子はかなりおかしかった。
あんなキレイな先輩と何か共同作業ができるのだから、もっとテンションが上がっても良さそうなものだと、ヒロトは疑問に思いながら、ユウマの後をついていった。
屋上に上がる階段の前で、ユウマは突然立ち止まり、振り返った。

「や、やっぱり、ヒロト君は帰った方がいいよ。東条さんには、僕からうまく言っとくから。帰った方がいい」

いつものユウマらしくない、落ち着きのない態度だった。
顔からは血の気が引いていて、よほど勇気を振り絞って発言しているように見えるが、ヒロトにはなんのことか、さっぱり分からなかった。

「え? なんで? ユウマ君、東条さんと、何するの?」
 
「それは…言えないんだ。言ったら、大変なことになるから…。でも、ヒロト君は早退したって言っとくから。じゃあね。帰った方がいいよ。来たらダメだ」

ユウマはそう言って、ヒロトの静止を振り切り、階段を登って行った。
ガシャン、という音がして、屋上の扉がしまったのが分かった。
ヒロトは一人取り残され、わけもわからぬまま、立ち尽くしていた。
一体、ユウマとアカネは、屋上で何をしているというのか。
ヒロトは今年の初めに精通がきたばかりで、性やセックスについての知識はほとんど持っていなかったが、何回か不器用な自慰行為もして、女の子に対する興味はそれなりに持っている。学校で初めて出会った、東条アカネという魅力的すぎる女性に、心惹かれないはずはなかった。
ユウマとアカネは、何かよく分からないけど、男と女がやる、キスとかそういったことをしているのではないか。そして、自分もそこに誘われたのは、どういうことなのか。
そう考え始めると、ヒロトの乏しい知識では事態を想像することもできず、やはりこの目で確かめたいという思いが強くなった。
ヒロトはユウマの忠告を無視して、ユウマが駆け上がったおよそ5分後、ゆっくりと屋上の扉を開けたのだった。




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