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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「本当にいいんだね? どうなっても、アタシのせいにしないでよ?」

「うるせえな! いいって言ってんだろ」

とある中学校。部活も終わった放課後の武道館で、前田ランと金崎ケンタロウが対峙していた。
二人は同じ空手部に所属していて、クラスも同じだったのだが、決して仲がいいわけではなく、むしろ犬猿の仲と言って良かった。
二人が軽い口げんかをするのは日常茶飯事だったのだが、今回ばかりは口だけでは済まなくなってしまっていた。
きっかけとなったのは、休み時間のミサキと友達の会話だった。

「ねえ、ラン。この前、高校生をやっつけたんだって?」

「うん、まあね。ちょっとからんできたからさ。やっつけたってほどじゃないよ」

「すごいねー。やっぱり、空手やってると、強くなれるの? アタシもやろうかなあ」

「男が相手だとね。簡単なときがあるよ。それは空手の試合では反則なんだけど」

「反則? なに、それ?」

「まあ、なんていうか、その、男のアソコ? アレをやっちゃえば、簡単だよ」

ランは少し照れながら、しかし自慢げに話した。
その言葉が、先ほどから聞き耳を立てていたケンタロウの癇に障った。

「えー。そうなんだ。男の急所っていうもんねー。ホントなんだあ」

「うん。アソコに当てれば、誰でも勝てるよ」

「それはどうかな」

たまりかねたケンタロウは、強引にラン達の会話に割って入った。
普段から仲の悪いランが、男のプライドを傷つけるようなことを言っているのを、見過ごすことはできなかったのだ。

「女子の力じゃ、急所に当てたって、そんなに効きやしないと思うけどな」

「でも、実際にランは高校生をやっつけたんだよ。ねえ?」

「まあね」

ランは突然会話に割り込まれて、迷惑そうな顔をしていた。
ケンタロウは何かというとランにケチをつけてくるが、ランの方はケンタロウに特別な興味など持っていなかった。
ただ、自分が思ったことを言って、ケンカを売られれば買っていただけのことだった。

「それは、そいつが鍛えてないからだろ。根性が足りなかったんだよ」

「えー。急所って、鍛えられるのかなあ?」

「まあ、少なくとも俺には、お前の技なんか通用しないと思うけどな。弱い男を倒して、調子に乗ってるとケガするぜ」

どこにその根拠があるのか、ケンタロウは自信にあふれた様子で言い放った。
ランは、さすがにその態度に腹が立った。

「ふーん。まあ、そういうことでいいんじゃない? どうせ空手部の試合ではアソコを蹴られることもないだろうし」

「そうなんだ。反則だから?」

「そう。急所攻撃ありにしちゃうと、男子はすぐ負けちゃうんだって。女子の先輩が言ってたよ。確かにそうだよね。こんなに蹴りやすいところにあるんだもん。当てないようにするのが大変だよ」

ランはケンタロウの股間に目をやりながら、あざ笑うように言った。
女の子たちから見れば、それはごく自然な感想だったのだが、ケンタロウの男のプライドを傷つけるのにこれ以上のことはなかった。

「ふざけんなよ! 俺がお前に負けたことなんか、ないだろうが!」

「それは、アタシがアソコを狙ってないからでしょ。反則だからしょうがないけど。ある意味手加減してるって感じだよねー」

「なんだと! だったら、お前と反則なしで勝負してやるよ。俺の方が強いってことを証明してやる!」

ケンタロウの怒りは、ついに頂点に達した。

「はあ? 何言ってんの? そんなの、ダメに決まってるでしょ。先生に怒られるよ」

ランは冷静に答えた。
彼らが所属している空手部の試合では、金的だけでなく、顔面に攻撃を当てることも禁止で、しかも防具着用を義務付けていた。
しかし、ランを徹底的に打ち負かしてやりたくなったケンタロウは、反則なしで試合をして、彼女の顔面に拳の一つでも打ち込んでやるつもりだった。

「関係ないだろ! 黙ってればいいじゃないか。部活が終わった後にやろうぜ!」

周りにいたクラスメイトが、黙りこくってしまうほどの剣幕で、ケンタロウは迫った。
しかしランはそれでも、なかなか了承しようとはしない。

「逃げんのかよ! 勝負しろよ!」

散々挑発的な言葉を投げつけられて、ランの我慢にも限界が訪れた。

「分かったわよ! その代わり、どうなっても知らないからね!」

「望むところだ!」

こうして、二人は放課後に秘密の決闘をすることになってしまったのである。




部活動が終わった武道館には、ケンタロウとラン、それに男女の空手部員が数人、居残っていた。
彼らに指導をしている顧問の先生は、すでに帰ってしまっている。この決闘を止めるものは誰もおらず、男子と女子それぞれの期待を胸に秘めて、二人を見守っていた。

「やっぱりさ、防具を着けた方がいいと思うんだけど。危ないからさ」

すでにウォーミングアップをして、やる気まんまんのケンタロウに向かって、ランは声をかけた。

「ああ? 防具って、何だよ?」

「だから、体の防具もそうだし、その、そこの防具よ。金カップっていうの? 着けた方がいいんじゃないの?」

ランは純粋に心配して言っているのだが、それはかえってケンタロウを挑発するような効果しか持たなかった。

「今さら何だよ。この試合は、何でもありでやるんだろうが」

「それはそうだけど。やっぱり、防具はあった方がいいんじゃないかと思って。だって、もし潰れたりしたら困るでしょ、アンタのその、タマタマが?」

ランはちょっと言いにくそうに、ケンタロウの金玉の心配をした。
しかし、ケンタロウのプライドはますます傷つけられたようだった。

「うるせえな! 俺の心配なんかしてんじゃねえよ! どうせ、お前の蹴りなんか当たんないんだからな! 自分の心配をしとけって!」

ここまで言われると、ランも腹が立ってきた。自分は親切で言ってやっているのに、この態度はどういうことだろう。

「あっそう! 分かった。もういいよ。じゃあもう、何があっても知らないからね。アンタが自分で言いだしたんだから。きっちりと最後まで試合してあげるからね!」

「おう! 俺だって、手加減なんかしないからな!」

ランは完全に怒ってしまい、ケンタロウもそれに負けず啖呵をきった。
この時点で、ケンタロウは負けることなど想像もしていないようだった。
確かにケンタロウの実力は空手部でも随一で、試合形式の練習でも負けたことがあまりなかった。しかしそれはあくまで、金的攻撃が反則というルールがあってのことである。
ランはもちろん、周りで見守っている女子部員たちも、普段から男子を相手にすることがあっても、意図的に金的を狙ったことはなかった。
しかし、金的が男の急所であることはもちろん知っていたので、この対決でそのことが証明されることを期待しているのである。
逆に男子の部員たちは、金的攻撃ありでも女子に負けることなどありえないということを、ケンタロウに証明してほしいと思っているようだった。

「じゃあ、始めようか。審判、お願いね」

公平を期すため、審判を男女から一人ずつ出すことは、すでに決まっていた。
女子からはランの親友であるユナが、男子からはケンタロウに次ぐ実力を持つハヤトが選ばれた。

「では、三本先取勝負とします。始め!」

ユナの合図で、対決が始まった。
ルール無用ながら、通常の練習と同じ3本先取した方を勝ちとするとしたのは、ランの提案だった。
傲慢で、いつも自分に突っかかってくるケンタロウを懲らしめるには、この方法が一番いいと思ったのである。

「おう!」

「えい!」

二人はさすがに慣れた様子でかまえをとったが、その表情には普段以上の緊張がうかがえた。
何といってもルール無用で、防具すら付けていないのである。
目潰しなど、極めて危険な行為をすることは考えづらいにしても、やはり恐怖感はあるようで、お互い慎重に、相手の様子をうかがっていた。

「やあっ!」

静寂を破り、ケンタロウが先にしかけた。
右の回し蹴りを、ランの顔面めがけて振りあげたのである。

「くっ!」

普段の練習では完全に禁止されている攻撃だったので、ランの反応は遅れてしまった。
かろうじて腕でガードするが、体が崩れてしまう。これが男子の蹴りの威力なのかと、ゾッとする思いだった。

「へへっ」

一方のケンタロウも、自分の攻撃が相当の威力を持っていたことに、満足する思いだった。そのせいか、体勢の崩れたランへ続けて攻撃することはしなかった。
これがこの後の油断につながることは、まだ分かっていない。
ランは素早く体勢を立て直して、距離をとった。
危険すぎるケンタロウの攻撃をかわし、隙をついて一撃必殺を狙う作戦をとることにしたのである。

「いったーい。さすがに、当たるとヤバいなあ」

ランは冷静だった。
わざと苦しそうな顔をして、ケンタロウを図に乗らせることにしたのである。
案の定、ケンタロウは力に任せてランを叩きのめしてやろうと思った。大技を使えば、それだけ隙は大きくなる。ランの思うつぼだった。

「まだまだいくぜ! オラ!」

ケンタロウの中段回し蹴りが、ランの脇腹を狙う。
ランはしっかりとガードして、その威力を殺していたが、表情だけは痛そうにしている。

「オラオラ!」

ケンタロウは調子に乗って、左右の回し蹴りを交互に出していった。
さすがに鋭い蹴りだったのだが、距離をとっているランにはかろうじて届く程度で、その威力は期待できるものではなかった。
ただ、ランがまったく反撃してこないので、ケンタロウは図に乗って攻撃を仕掛け続ける。
それが単調なリズムになってしまっていることに、本人だけが気がつかなかった。




「ここだ!」

何回目かの中段回し蹴りをガードした時、ランは突然一歩踏み込んで、がら空きになっていたケンタロウの股間に、右前蹴りを叩きこんだ。

パシン!

という音が、武道館に響き渡った。
ケンタロウは一瞬、何が起こったのか分からないようだった。
今まで気持ちよくランを追い詰めていたつもりだったが、突然、股間に衝撃を感じたのである。
ランの右足は、ケンタロウの股間にぶら下がっている睾丸をきれいにとらえ、小さな袋に入った卵のような塊を二つとも跳ね上げた感触があった。

「て、てめえ…!!」

ケンタロウは強烈な怒りをランに感じた。
それは急所を攻撃されたという、生命の危機に瀕した男の本能的な怒りだった。
すぐにでもランの顔面に拳を打ち込んでやりたいほどの衝動に駆られたが、突如、下腹部からきた強烈な痛みの波に、体の自由を奪われてしまう。

「ぐあ…! あ…!」

ケンタロウは思わず、股間を両手でおさえてひざまづいてしまった。

「一本!」

審判役のユナが右手を挙げた。
同じく審判をしていたハヤトは、何が起こったのか分からなかったが、慌てて右手を挙げた。
いかにケンタロウをひいきしようとしても、これは明らかなランの一本だった。

「ふう。うまくいった」

ランはため息をついて、乱れた道着を整えた。
すべて彼女の作戦通りで、その顔には先ほどまでと違い、余裕すら感じられる。

「ぐぐぐ…!!」

一方のケンタロウは、悲惨な状態になっていた。
股間の二つの睾丸から湧き上がってくる痛みはとめどなく、彼の全身に広がり続けている。それ以外、何も考えられないほど強烈な痛みだった。

「だ、大丈夫か?」

思わずハヤトがかけよって、うずくまるケンタロウの腰をさすってやった。
ケンタロウの顔には脂汗が浮かび、歯を食いしばって唸っているようだった。

「さて。じゃあ、早く二本目を始めよっか?」

男の最大の苦しみあえぐケンタロウを見下ろしながら、ランは平然とした様子で言い放った。
それを聞いたハヤトは驚いて、顔をあげる。

「ま、待てよ! こんなんで、できるわけないだろ、二本目なんて」

もっともな言い分だった。
この場にいる男子の空手部員全員がケンタロウの痛みを想像し、身震いしているというのに、ランはそんなことなど関係ない様子だった。

「だって、三本先取勝負じゃない。まだ、一本しか取ってないよ。早くしてよ」

薄笑いさえ浮かべながら、そう言った。どうやら彼女は、男が急所を蹴られれば、そう簡単に立ち上がることなどできないとよく分かった上で、意地悪を言っているようだった。
ハヤトはそれに気づき、思わず審判役のユナの方に助けを求めた。

「ちょっと休憩しないと、無理だよ。そうしよう?」

「え…。でも、三本先取だし、最後までやるって言ってたし…。一回蹴られただけで、そんなに痛いの…? 」

ユナはランの親友だったが、性格はごく大人しく、男の急所についての知識もまったくなかった。ただ試合前の取り決めに基づいて、正しいことを言っているのだが、この場合のケンタロウには、それは何より残酷なことだった。

「そうみたいだねー。やっぱり男はアソコを蹴られると、一発で負けちゃうってことだね。最初からそう言ってるのにさあ。ね? 痛いでしょ? 痛くて我慢できないんでしょ、タマタマが?」

ランは笑いながら、ケンタロウを見下ろしていた。

「て、てめえ…! くっ!!」

ケンタロウは悔しさのあまり、顔を上げてランを睨みつけようとしたが、少し動くだけで、睾丸の痛みが全身を貫くように増加した。
その情けない姿に、ランだけでなく、周りで見ていた女子全員、噴き出してしまった。

「なに、あの格好。丸まっちゃって。だっさーい」

「ホント。よっぽど痛いんだね」

「ちょっと蹴っただけなのにね。男子の急所って、あんなに弱いんだ」

女子部員たちの囁き声は、他の男子部員たちの耳にも入ったが、彼らにもそれを否定することはできなかった。
もし自分がさきほどのケンタロウのように蹴られたら、やはり同じように床にうずくまってしまうということは、明らかだったのだ。

「まあ、ギブアップするならそれでもいいよ。でも、最後まで試合するっていう約束を破るんだから、それなりのことをしてもらうけど? とりあえず、土下座で謝ってもらうかな。まあ、今も土下座してるようなもんだけど。アハハ」
 
ランの笑い声に、ケンタロウの心は徹底的に打ちのめされた。
ここは男のプライドにかけて立ち上がらなけらばいけないと思い、ハヤトの手を借りて、足を震わせながらゆっくりと起きあがった。

「く…! だ、誰がギブアップなんかするかよ…。お前、ぶちのめしてやるからな…!」

精一杯の敵意をこめて睨みつけるケンタロウだったが、ハヤトの肩を借りてすごむその姿は、ランでなくても滑稽に思えた。

「ふーん。まだやるんだ。大丈夫なの?」

「う、うるせえっ! オラ、始めるぞ!」

ケンタロウはハヤトの手を振り払い、汗びっしょりになりながらかまえをとってみせた。
しかし、腰が完全に引けてしまっていて、隣で見ていたハヤトですら、その姿には不安しか感じなかった。

「はい。では、二本目、始め!」

ハヤトは止めようかと思ったが、何も知らないユナは、無情なほど冷静に、開始の合図をした。

「お、おう!」

ケンタロウの声は震えていた。
睾丸の痛みはまだ十分残っており、本来なら横になって休んでいたいほどのものだった。それは対峙するランにも十分伝わってくる。

「やれやれ…」

ランはこの際、どうケンタロウを料理してやるかということしか考えていなかった。彼女にはケンタロウの睾丸の痛みは分からないが、先ほどの金的蹴りの手応えから、相当の威力があったことが想像できる。
後はどうケンタロウを屈服させて、くだらない男のプライドをへし折ってやるかを考えるばかりだった。

「痛いくせに、無理しちゃって」

ランは余裕を持ってかまえた。
金的を蹴られた痛みの残る男が、ろくに動くこともできないことは、彼女は経験で知っていたのである。

「言っとくけどさ、さっきの蹴りは、けっこう手加減してあげたんだからね。思いっきり蹴ったら、アンタのタマタマがどうなるか、アタシにも分かんないよ?」

ケンタロウはランの言葉に、背筋が凍る思いだった。
今まで空手の練習で、金的に攻撃を当てられたことは何度かあったが、さっき蹴られた痛みは、その時の比ではなかった。
金的を狙って蹴られるということの危険性と恐怖を、文字通り痛いほど実感しているのである。

「ほら、いくよ」

ランはためらう様子もなく、ケンタロウの間合いに踏み込んでいった。
もはやケンタロウに先ほどのような鋭い攻撃はできないと予想しての、大胆な行動だった。

「うおっ!」

何気なく振り上げられたランの右脚を、ケンタロウは必死の思いで避けた。
それは金的を狙ったものではなかったが、すでに彼の頭には、金的蹴りの痛みが刷り込まれてしまっているのである。

「頑張ってよ。ほら、ほら」

ランはケンタロウの恐怖心を見透かした様子で、次々と蹴りを放っていった。
ケンタロウは金的だけは死守するつもりで、防御していたが、その腰は完全に引けてしまっていた。

「えー、何あれ。カッコ悪いねー」

「やっぱり、アソコを蹴られたくないんだよ、きっと。おっかしー」

周りにいる女子部員たちの囁きも耳に入ったが、ケンタロウにとってはそれどころではなかった。
何しろ、ランの蹴りを手でガードするだけで、股間に衝撃が走り、痛みがぶり返すのである。
もはや立っているのもやっとの状態だった。

「く…あ…うわっ…!」

腰を引いてランの蹴りをよけようとした時に、ケンタロウは膝をついてしまった。
普段なら何でもない動きだったのだが、やはり足に力が入らなくなっている。

「フン。さっさと立ちなさいよ」

攻撃が当たったわけではないので、一本は取れない。ランは勝ち誇った表情で、ケンタロウを見下ろしていた。
しかし、そこにランの油断があった。

「くっそー!!」

ひざまずいていたケンタロウは、その体勢から、目の前のランの両足にタックルを仕掛けたのである。

「あっ!!」

不意のことで、ランはあっという間に引き倒されてしまった。
もちろん、彼らが習っている空手にはこんな技などないが、これは反則なしの勝負だと、ケンタロウは思っていた。

「どうだ! 捕まえたぞ!」

ケンタロウはランの腹に馬乗りになって、見下ろした。
まだ股間の痛みは残っているが、立っているよりはマシである。我ながらいい作戦だと確信した。

「卑怯よ、そんなの!」

周りの女子部員から声が上がったが、審判役のハヤトはもちろん、ユナでさえも反則は取れなかった。
もともとこの勝負は反則なしで、二人の役目は、攻撃が当たったことを宣告することだけなのである。

「うるせえ! この試合は、ルールなんかないはずだろ! 卑怯もなにもあるかよ!」

その言葉に、ランも言い返すことはできなかった。
何より彼女は、タックルで倒された時に、頭を打つことだけは回避したものの、背中を打ちつけて、軽い呼吸困難を起こしてしまっていたのだ。

「さっきはよくもやってくれたな。倍にして返してやるよ!」

ケンタロウは意地悪く表情を歪ませると、大きく右手を振りあげて、ランの顔面を狙った。
バチンッと大きな音を立てて、強烈なビンタが入る。
さすがに拳を打ち込むことはケンタロウも遠慮したのだが、女子の顔にビンタをするということは、十分に衝撃的なことだった。

「きゃあっ!」

呼吸困難に陥っていたランも、この一撃で目が覚めた。
自分がどんなに危険な状況に置かれているかを確認し、両腕で頭をガードした。

「このっ!!」

ケンタロウは両手を使って、ランのガードの隙間から彼女の頭をさんざんに叩いた。
その様子は完全に空手などではなく、子供のケンカそのものだった。
審判役のユナもハヤトも、どの攻撃で一本を取るべきなのか迷っているようで、もはやこの試合の勝敗は、戦っている両者にゆだねられたような形になっていた。

「くそっ! この野郎!」

ランは必死でガードしていたが、ケンタロウもまた必死だった。
ガードが固く、なかなか威力のある攻撃が当てられないと思うと、ケンタロウはランの髪の毛を掴んで引っ張った。

「あっ!!」

ランは鋭い痛みに、思わずガードを解いて、ケンタロウの腕を掴んだ。
ケンタロウは、これが効果的と見ると、両手で思い切り髪の毛を引っ張る作戦に出た。

「どうだ! ギブアップしろ!」

ケンタロウは叫んだ。
ランは歯を食いしばって痛みに耐えていたが、やがてあることに気がついて、ケンタロウの股間に目をやった。
今、ケンタロウの股間はまったく無防備に、ランの腹の上にある。蹴りとばすことは無理だとしても、手を伸ばせば届く位置にあった。

「このっ!」

ランはケンタロウの腕から手を離すと、素早くその股間に右手を伸ばし、その手がコロっとした柔らかいものに当たると、それを思い切り握りしめた。

「ぎゃあっ!!」

今度はケンタロウが、痛みに身をよじる番だった。
ランは髪の毛を掴まれた怒りにまかせて、ケンタロウの睾丸の一つを、ギリギリと握りしめている。

「放してよ!」

少しの間、ケンタロウとランの我慢比べのような形になったが、やがて少しずつ、髪の毛を掴むケンタロウの手から力が抜け始めた。
するとランは、今度は両手をつかって、ケンタロウの睾丸の二つとも握ることにした。

「放せって言ってんの!」

「はうぅっ!!」

怒りと共に睾丸を握りしめると、ついにケンタロウはその手を髪の毛から放してしまった。
睾丸を掴むランの手を引き離そうとするが、この状態では、腕に力など入らない。
やがてランは体を起こして、ケンタロウの馬乗り状態から脱出した。もちろんその間も、しっかりと睾丸を握りしめ続けている。

「ひいっ! うう…!」

「よくも…! よくもやってくれたね! さっきアタシは、手加減してあげたってのに。女の子の顔を叩くなんて、超サイテー!!」

ランの頬には、くっきりと先ほどのビンタの跡が残っていた。
その目は怒りに満ち満ちており、ケンタロウがいくら情けない悲鳴を上げても、決して手を緩めようとはしない。

「そうだよ、ラン。女の顔を叩くヤツなんか、サイテー!」

「そんなタマ、潰しちゃえ!」

「潰せ! 潰せ!」

外野の女子部員からも応援の声があがり、やがてその声は合唱となって武道館に響いた。ケンタロウは痛みに苦しみながら、自分がしでかしてしまったことの重大さに気がついた。
睾丸そのものも痛いが、下腹部から沸き上げってくるような鈍痛は耐えがたいもので、それはケンタロウの血液を逆流させ、吐き気さえ催すほどのものだった。

「そうだねえ。思いっきり握ったら、潰れるかなあ?」

ランは意地悪そうな笑いを浮かべる。
自分に地獄のような苦しみを与えているラン自身は、この痛みを理解することなど一生ない。それは周りで見ている女子達も一緒で、だからこそ潰せなどと叫び、躊躇せずに睾丸を握りしめることができるのだ。
ケンタロウは改めて、女の残酷さに恐怖する思いだった。





「い、一本! 一本だ!」

突然、ハヤトが右手を挙げた。
どうやら、ケンタロウを苦しみから救うためには、ランの一本を宣告するしかないと思ったらしい。
それを聞いて、女子達の潰せコールは止み、ランもハヤトの顔を見つめた。

「はあ? なに言ってんの?」

「だから、ランの一本だよ。決まったんだから、いったん放してやれよ!」

ランには、ハヤトの魂胆がすぐ理解できた。
しかし睾丸を握る手は緩めずに、もう一人の審判であるユナの方を振り向いた。

「ふーん。ユナは、どう思う?」

「え…と…。相手にダメージのある攻撃を当てた時に、一本取るんだと思うけど…。ダメージあるの…?」

ユナはただ純粋に、ケンタロウに尋ねてみた。
ケンタロウは返事をするどころではなかったが、その苦悶の表情から、ダメージどころの騒ぎではないことは明らかだった。

「そうだねえ。ダメージあるっていえば、あるか。ま、アタシ達には分かんないけどね。えい!」

そう言うと、ランはケンタロウの睾丸を握る手に、ぐっと力を込めて、ぐりっと指で弾くようにして、解放してやった。
一瞬だが、ケンタロウの睾丸は限界ぎりぎりまで変形し、もちろんその痛みは想像を絶するものとなる。

「はぐうっ!!」

ようやく解放されたケンタロウは、両手で睾丸を包むようにおさえて、その場で丸まってしまった。
睾丸の痛みは、痛めつけられたその瞬間よりも、あとからジワジワと襲ってくるものの方が強い。しかもそれが何十分、ときには何時間と続くのだ。

「大丈夫か!?」

ハヤトが駆け寄るが、ケンタロウは返事をすることもできずにうずくまり、唇を震わせていた。

「じゃあ、今のはアタシの二本目ってことね。あ、その前にアンタがビンタしたのも、一本にしていいよ。その方が公平でしょ?」

状況は1対2になったが、そのダメージの差は比べようもなかった。
ランの頬には、さきほどのビンタの跡が赤く残っているが、ケンタロウの睾丸は、恐らくそれ以上に腫れているだろう。

「さあ、それじゃあ試合を続けようか?」

ランは痛みに震えるケンタロウを見下ろしてなお、残酷すぎることを口にした。

「な…! なに言ってんだよ! もう試合は終わりだ! こんなんでできるわけないだろ!」

ハヤトは呼吸することさえつらそうなケンタロウに代わって、ランに抗議した。
しかしランは平然と、それを却下する。

「だって、最後まで続けるって約束だしさ。今の一本だって、サービスしたようなもんだもん。そうだ。ラスト一本で、アンタのタマタマ、潰してあげるよ。それだったら、文句なしの一本だよね?」

笑いながらユナに問いかけると、ユナはちょっと考えて、うなずいた。

「うん…。潰れたら、しょうがないかな…。一本かも」

ケンタロウはもちろん、ハヤトや周りで見ていた男子部員たちも、ゾッとするような女の子たちの残酷さだった。
思わず、ハヤトはランに食ってかかった。

「お前、いい加減にしろよ! 金玉蹴られるのがどれだけ痛いか、分かってんのか!?」

しかし次の瞬間、うっと呻いて、ハヤトはその場に崩れ落ちてしまった。
ランのひざ蹴りが、ハヤトの股間に深々と突き刺さっていたのである。

「アンタ、うるさいよ。さっきから。引っこんでてよ」

あまりにも冷酷な、ランの態度だった。どうやら先ほどケンタロウに受けたビンタの怒りは、まだ完全におさまってはいないようだった。

「この野郎!」

「何してんだよ!」

崩れ落ち、うずくまってしまったハヤトの姿を見て、周りで見ていた男子部員たちがついに立ち上がった。
彼らもまた、男を侮辱するようなランの発言には、先ほどから腹が立っていたし、ケンタロウの苦しみも十分理解できていた。
審判役のハヤトさえ攻撃されたことで、その怒りが爆発したのである。

「ラン!」

「何よ、アンタ達!」

さすがのランも、3人の男子部員から迫られて、ちょっとたじろいだが、すぐに他の女子部員たちが立ち上がって、彼女を救援した。
双方の部員の人数は互角だったが、女子部員たちはさきほどから、男がいかに弱くて脆いものなのか、まざまざと見せつけられている。
普段の練習では男子に遅れをとることが多かったが、ルール無用のケンカでは、負けない自信ができてしまっていた。

「えい!」

「やあ!」

男子部員たちがかまえるよりも早く、女子達の金的蹴りが、彼らの股間に炸裂した。
それはランがケンタロウに放ったものと比べれば、威力もなく、当たりも良くないものだったが、男子部員たちの自由を奪うには、十分すぎるものだった。

「うっ!」

「ぐえっ!」

まるで魔法のように、3人の男子部員たちは、次々と女子に倒されていった。
結局、武道館には股間をおさえてうずくまる男子達と、それを見下ろす女子部員たちの図ができてしまった。

「あーあ。みんな、やられちゃったねー。どう? やっぱりタマタマは痛いでしょ?」

「ホント、男子ってみんな一緒なんだね。金蹴り一発でダウンしちゃうんだ」

「軽くしか蹴ってないのに。当たった時ムニっとしたけど、アレががタマタマなのかな?」

ランは楽しそうに笑い、女子部員たちも、初めての金的蹴りの威力に驚いているようだった。
一方の男子達は、一様にうずくまって、まったく動けない様子だった。
今まで負けるはずがないと思っていた女子に、こんなにも簡単に敗北してしまうとは、想像もしていなかった。彼らの男としてのプライドは、睾丸の痛みと共に、完全にへし折られてしまった。

「さて。じゃあ試合の続きをやろうか? それとも、ギブアップする?」

ランは改めて、ケンタロウの顔を覗き込んだ。
ケンタロウはすでに完全に心を折られて、ランの笑顔に恐怖すら感じていた。

「ギ、ギブアップ…します…」

たどたどしい声で、ようやく言えた。

「ん? ギブアップするの? どうしよっかなー」

「ギブアップします…! お、お願いだから…」

ケンタロウはすがるような声で言った。
周りでそれを聞いていたハヤトや、他の部員たちも、ランの態度やケンタロウの哀願に屈辱を感じたが、かといって、今、自分たちは動くことすらできない。

「しょうがないなー。でも、ちょっと誠意を見せてくれないとね。とりあえず、服脱いでよ。パンツ一枚で土下座してみて」

平然と言い放ったが、ランの言葉には有無を言わさぬ迫力が込められていた。
ケンタロウはハッと顔をあげてランの顔を見たが、ランは相変わらず笑っていた。

「どうしたの? できないなら、試合続けてもいいんだよ?」

「あ…。いや…はい…」

ケンタロウは力なくうなずいて、道着の帯に手をかけた。

「そうそう。いっぱい汗かいて、暑いでしょ? ちょうどいいじゃん。あ、アンタ達もだよ。早くして?」

ランは周りでうずくまっている男子部員たちにも声をかけた。
男子達は一斉に顔をあげた。

「ふ、ふざけんな! なんでそんなこと…!」

「お前、調子に乗るなよ!」

当然の反応だった。
ハヤトなどは特に興奮して、股間の痛みに耐えながら立ち上がると、またもやランに食ってかかろうとした。
しかし、まるで打ち合わせでもしたかのように、女子部員たちが素早く回り込み、ハヤトの両腕を掴んでその動きを止めた。

「な! なんだよ!」

すると突然ユナが、ハヤトの前に立ちはだかった。

「ダメだよ、ハヤト君。おとなしくして!」

ユナはためらうことなく、足を振りあげた。
バシンと、先ほどよりも強烈な蹴りが、ハヤトの股間に炸裂した。

「あううっ!!」

ハヤトは再び、地獄の苦しみに呻くことになった。

「やるじゃん、ユナ!」

ランが笑うと、ユナは恥ずかしそうに顔を赤くした。

「うん…。なんか私も、やってみたくなっちゃって…。簡単だね」

その足元では、ハヤトが股間をおさえて、海老のように丸くなって震えている。

「さあ、早く脱いでよ」

男子部員たちは、諦めるしかなかった。
数分後には、女子達の前に、パンツ一枚で土下座する男子達の列ができていた。

「あー、いい感じだね。反省してるって感じ」

ランは嬉しそうに携帯をかまえて、男子達の情けない姿をビデオに撮っていた。

「じゃあ、皆で謝ってみようか。はい、声を揃えて! 僕たち男子は、タマタマが痛いので、女子に負けてしまいました」

ランの言うとおり、男子達は復唱した。

「僕たちは弱いので、もう二度と、女子には逆らいません。すいませんでした!」

土下座をするだけでも情けないのに、女の子の前でパンツ一枚になり、しかも男を全否定するかのようなことを言わされる。男子達にとってこれ以上に屈辱的なことはなかった。

「はい、よくできました。これからは、女の子に逆らっちゃダメだよ?」

ランは男子達の情けない姿を見て、十分満足したようだった。
他の女子部員たちも、笑いをこらえながら男子達の謝罪を聞いていた。
すると、ランはビデオを撮るのをやめて、土下座しているケンタロウの側にしゃがみこんだ。

「どう? 男はアソコを蹴られたら、女の子には勝てないでしょ? アタシの言った通りじゃん」

ランの手は、土下座をするケンタロウの股間の方に伸びて、そっとその膨らみを撫でた。
ケンタロウはまた睾丸を握られるのかと思って、体を硬直させる。

「これに懲りたら、もうアタシにからんでこないでよね。もしまたからんできたら、このタマタマ…」

ジワジワと、睾丸を触るランの手に力がこめられていくような気がして、ケンタロウは必死で首を縦に振った。

「もらっちゃうからね!」

ピシッと、ランはケンタロウの睾丸にデコピンをした。
それでもケンタロウにとっては電撃のような痛みで、あっと声をあげて、またうずくまった。

「アハハ! じゃあね。お疲れー」

ランと女の子たちは笑いながら、武道館を後にした。
残された男子達は、睾丸の痛みが引くまで、もうしばらく、じっとうずくまっていることしかできなかった。


終わり。



「ケイ君、先生がいらしたわよー?」

毎週水曜日の午後6時。母親の声を聞くと、ケイゴはいまだに緊張してしまう。
柔らかい足音が階段を一段一段登ってくる音に耳を澄まし、ドアノブに手をかけた気配を感じると、思い切って振り向くのだ。

「こんばんは。今日もよろしくね」

家庭教師のミサトがにっこりと笑うと、ケイゴははにかみながら、口元で軽く微笑み返すのだった。



「ああ。実力テストがあったのね。どれどれ。見せてもらうわ」

答案を渡されたミサトは、黒いストッキングに包まれた長い脚をイスの上で組みかえた。
いつも履いているタイトスカートは特に短いというわけではなかったが、あるいはその奥が見えてしまうこともあるのではと、ケイゴはいつも思ってしまう。

「えーっと…。数学が61点。英語が72点。国語が80点か。いつも国語はいいわね、ケイゴ君は」

「あ、はい…」

慌てて目をそらしたのは、視線がミサトの胸の方に行っていると思われたくないからだった。
薄いブラウスシャツの上からでも、ミサトが今日つけているブラジャーが黒だということははっきりと分かったが、ケイゴはそこに目を走らせないように、必死に努力していた。

「あら。理科が35点しか取れなかったの? ふうん」

「あ、それは…。勉強したところが、あんまり出なくて…。すいません」

「これ、平均点はいくつだったの?」

「あ…。52点…だったと思います…」

ためらいがちな言葉を聞くと、ミサトは微笑した。

「そう。じゃあ、まずは一回ね。他は大丈夫なのかしら?」

「あの…その、社会がちょっと…」

「社会? そうね、社会は62点か。平均点以下なの?」

「いや、違くて! 今回はみんな、思ったより良かったって、先生も言ってて…」

「平均点以下なの?」

ケイゴの弁明を、ミサトのよく通る声が遮った。

「はい…。70点でした…」

ケイゴは力なくうなだれた。

「そう。じゃあ、これで2回は確定ね。テストの中身を見ていきましょうか?」

「はい…」

ミサトの微笑みに、ケイゴはうなずくことしかできなかった。
ミサトがケイゴの家庭教師をするようになってから、4か月ほどになる。
中学三年になり、打ち込んでいたサッカー部を引退したケイゴは、いつの間にか自分の学力が他の生徒より遅れてしまっていることに気がついた。
サッカーにおいては、県大会で選抜にまで選ばれたほどの実力だったのだが、スポーツ推薦に頼って学業を疎かにしたくないというのが、ケイゴの両親の考えだった。
そこへちょうど、母親の従妹にあたるミサトが大学院に通い始め、近所に引っ越してきたということを聞いて、無理を言って家庭教師役を引き受けてもらったのであった。

「わあ。ケイゴ君、こんなに大きくなったんだ。一緒に遊んだこともあるのよ。覚えてる?」

ケイゴにとって、ミサトは遠く離れた所にいる親戚で、今までほとんど会ったことがなかった。
しかし不思議と、ミサトはケイゴのことをよく覚えているらしく、久しぶりの再会で、しきりと「大きくなった」と繰り返していた。
事実、ケイゴの身長は170センチもあり、中学生としては大きい方だった。

「今日からは、先生って呼ばなきゃダメよ? 頑張りましょうね」

ミサトは大学を出た後、海外に留学し、2年間経済の勉強をしていたらしい。日本に戻ってきてからは、今度は法律の勉強をするために大学院に通っているという秀才だった。
しかしケイゴにしてみれば、ミサトの学歴よりもその美しい容姿の方が衝撃的で、華麗な大人の女性のむせかえるような魅力に、たちまち心を奪われてしまったのだった。
そしてそれは何度目かの授業の時に、ミサト本人に知られることになる。

「じゃあ、次の問題。2次方程式ね。もう分かると思うけど、これは公式さえ分かれば簡単なのよ」

ケイゴが苦手としていた数学も、徐々に理解できるようになってきた。
ミサトの教え方は懇切丁寧で、優秀な人間にありがちな感覚的表現などはほとんどなかった。

「いい? これを因数分解すると、こうなるでしょ…」

ケイゴの鼻に香るのは、長い黒髪から発せられるシャンプーの香りだった。
狭い学習机に向かっているため、ミサトが問題を解いてくれるとき、二人の顔の距離は極端に近くなる。さらに身を乗り出した時、大きな胸が学習机の上に乗って、ときにそれがケイゴの二の腕に触れた。その柔らかい感触は、ケイゴがかつて経験したどんなものよりも心地よいものだった。

「分かった?」

つい、恍惚とした気分に浸ってしまっていたケイゴは、慌てて我を取り戻した。

「あ、はい。分かりました」

「そう。じゃあ、次の問題を解いてみて」

微笑みにうながされて問題集に目を落としたが、今まで軽い興奮状態にあったケイゴの頭脳は、容易に勉強モードにならなかった。
中学三年生のケイゴはもちろん自慰は経験済みで、部活動を引退して以来、体力を持て余している。

「どうしたの? さっきとほとんど同じ解き方でいいのよ。ほら、こうして…」

二人が同時に学習机の上で身をかがめると、その距離はさらに縮まった。
ケイゴの頬には、ミサトの息遣いさえ感じ、その肩にはミサトの乳房が押し付けられ、変形していた。
ミサトは、自分の体がケイゴと密着していることに気づいていないのか。それとも気づいていながら、ケイゴを年下の親戚だと思い油断しているのか。
どちらにしろ、ケイゴは初めて味わう大人の女性の肉体の感触に、若い性欲をたぎらせ始めてしまっていた。

「ほら、こうするのよ。分かる?」

「は、はい…」

うわの空で返事をしたが、耳まで真っ赤に染めたその様子に、さすがにミサトも異変を感じた。
ふと見ると、椅子に座ったケイゴのジャージの股間の部分が、異様に膨らんでしまっている。
ミサトは一瞬、息をのんだが、すぐに悪戯っぽい微笑みを浮かべた。

「ケイゴ君。もしかして、いやらしいこととか考えてるんじゃない?」

図星を指されると、ケイゴはギクッと体を震わせた。返事をせずとも、その緊張した様子から、すべてが分かってしまう。

「え? い、いや。そんなことない…です…けど…?」

「ホントに? じゃあ、これは一体どういうことなのかな?」

そう言うと、ミサトはいきなりケイゴの股間に手を伸ばし、その膨らみを握りしめた。
今まで自分の勃起にすら気づいていなかったケイゴは、あっと声を上げる。

「すごーい。カチカチね。こんなに大きくしちゃって。何考えてたの?」

「あ、いや…あ…!」

いたずらを叱るような声で、ケイゴに囁いた。
その手がペニスを確かめるように揉むと、ケイゴの口からは自分でも思ってもみなかった声が漏れてしまう。

「もしかして、私の胸が当たってたかな? それで興奮しちゃった? フフフ…。カワイイ…」

喘ぎ声を必死に我慢している様子を、面白そうに見つめていた。
ケイゴはペニスを握るミサトの手を掴んだが、かといって引きはがすことはできない。
ミサトの細い指は、優しくリズミカルにケイゴの肉棒を揉みしだいている。

「あんなに小っちゃくて可愛かったケイゴ君が、こんなにおちんちん固くして、興奮するなんてね。私、ケイゴ君のおむつを替えてあげたこともあるのよ? フフフ」

「あ…先生…!」

「でもこれは、お母さんに報告しないとね。ケイゴ君はいやらしいことばかり考えて、勉強に集中できてないみたいですって。そうなんでしょ?」

「そ、それは…!」

ケイゴの両親は温和だが真面目で、息子の性教育に関しても厳格だった。そんなことを知られれば、両親を失望させてしまいそうで怖かった。

「冗談よ。お母さんは堅い人だもんね。秘密にしといてあげるわ」

ミサトは笑って、股間から手を放した。
あのまま揉み続けていれば、遠からず、ケイゴのペニスは限界を迎えるはずだった。
ケイゴは解放され、ホッとした反面、本能的な口惜しさも感じてしまう。

「でも実際、これは何とかしてあげないと、勉強に集中できないわね。こんなに大きくしちゃって」

依然としてジャージの股間を盛り上げているそれを、ミサトは笑いながら見つめた。
ケイゴは恥ずかしがりながらも、申し訳なさそうにうつむくしかない。
するとミサトは、突然何かを思いついたように、手を叩いた。

「そうだ。私がいい方法を知ってるから、それをやってみようかな。いい?」

笑顔でそう聞かれると、ケイゴはついうなずいてしまう。

「じゃあ、ちょっと目をつぶってて」

言われるままに、ケイゴは目を閉じた。
今からミサトは、何をしてくれるのか。友達に借りたアダルトビデオや雑誌に載っているようなことをしてくれるのではないか。
ミサトの手が、ためらうことなくケイゴのジャージの中まで入ってきたとき、その期待は最高潮に達した。
しかし次の瞬間、その期待ははかなく裏切られてしまう。

「…っ!?」

ケイゴは思わず目を開けた。
ミサトの手は、先程まで揉みしだいていたペニスではなく、その下、二つの睾丸を掴んだのだ。
そしてケイゴが戸惑う間もなく、ミサトの手には強烈な力が加わり始めたのである。

「はあっ……!!」

ケイゴは思わず息をのんだ。体全体が強張ってしまうほどの衝撃と痛みが、あっという間に下腹部から広がってきた。
苦痛にゆがんだ顔でミサトの方を見ると、唇に人差し指を当てて、「静かに」という表情をしている。その顔は、どこか楽しげに笑っているようだった。

「んん…うぅ…! 先生っ…!!」

口に手を当てなければ、うめき声が漏れてしまいそうだった。
前かがみになって腰を引こうとするが、ミサトの手はケイゴの睾丸をしっかりと握って離さない。

「まだまだ。もうちょっとよ。我慢して」

囁くようにそう言って、ミサトは指先で挟んだ睾丸の一つにグリグリと押し込むようにして、親指をめり込ませていく。
先程までの興奮は一瞬にして冷め、ケイゴはとめどない鈍痛に吐き気さえ催し始めてきた。

「うぅっっ!!」

机に額をこすりつけ、歯を食いしばってみても、一向に痛みは鎮まらず、ミサトの握力が緩むことはなかった。

「あ…あぁ…!! 先生…!」

ついにケイゴの背中がブルブルと痙攣し始めたころ、ミサトはようやく手を離した。

「はい。おしまい。おちんちん、小さくなったでしょ?」

軽いお仕置きを済ませた後のような言い方だったが、ケイゴの方はそれどころではなかった。
圧迫から解放されたとはいえ、睾丸から立ち上ってくるジンジンとした痛みは、すぐに止むものではない。
ミサトの言うとおり、勃起はいつの間にかおさまっているようだったが、とてもそんなことを気にする余裕はなかった。

「私がアメリカにいるころね、セルフディフェンスのセミナーで習ったのよ。興奮した男は、タマを握れば静かになるって。試したことはなかったんだけど、ホントだったみたいね」

ミサトは新しい発見をしたように、うれしそうな顔をしていた。

「タマは男の急所だから、ちょっと痛いかもしれないけど、これで勉強に集中できるわね? さあ、始めましょうか」

前かがみになって股間をおさえているケイゴは、まだ起き上がれそうになかった。
荒い息を吐きながら、ミサトを見上げる。

「せ、先生…。まだ、ちょっと…」

「ん? ヤダ。そんなに痛かったの? 一応、手加減したんだけどな。ごめんなさいね。最初だから、加減が分からなくて」

最初だからとミサトは言う。最初ということは、この次もあるつもりなのだろうか。ケイゴの頭に嫌な想像が浮かんだが、それは言葉に出さなかった。

「でも、そうか。そんなに痛いのね。ふうん。急所だもんねえ」

ミサトは感心しながらも、興味深そうな、何か考えるような笑みを浮かべていた。
ケイゴにはミサトの考えていることは分からなかったが、そのミサトの微笑みに、何か抗いがたい魅力のようなものを感じてしまうのだった。




それから数ヶ月。ケイゴの成績はグングンと伸び、その分だけ二人の信頼関係は篤くなっていった。
しかしそれに伴って、ミサトの指導もどんどんと厳しさを増していった。
勉強に集中できなければ罰を与えるのはもちろん、テストで平均点を下回れば、その教科の数だけ罰を与える決まりになっているのだった。
ミサトが選んだ罰は、ケイゴが最も苦しくて、最も嫌がる方法。つまり、急所攻撃だった。

「ほら、しっかり立って。腰が引けてるわよ?」

「は、はい…」

実力テストの答案用紙を持って、椅子に座るミサト。
その前に立つのは、両足を大きく開き、両手を後ろで組んでいるケイゴだった。
ズボンを脱ぎ、灰色のボクサーパンツ一枚になったその股間には、すでにミサトのつま先が伸びている。

「今回の英語は良くできたみたいだったけど。この問題が解けないのは、どういうことかしら? いい? これよ。第二問、次の日本語を英語に直しなさい。『彼らは先週の金曜日からずっとここにいます』。わかるわよね?」

「はい…。They were here in last Friday…」

「違う! それは過去形でしょ。これは、ずっとここにいますだから。わかる?」

体に問いかけるように、ミサトのつま先がケイゴの金玉袋を揺らした。
ミサトにとっては無意識の動きだったが、ケイゴの神経はどうしてもそちらに集中してしまう。

「あっ…。は、はい。あの…その…」

「現在完了よ、現在完了。何回もやったでしょ? もう忘れたの? これは、あと一回プラスね」

「あ…それは…」

言いかけた言葉を、ミサトが目でおさえつけた。
ミサトの指導は日を追うごとに厳しくなってきていたが、特にこの急所攻撃の罰を与えるときは、人が変わったようにケイゴに対して高圧的な態度を見せるようになっていた。

「アナタがきちんとすれば、痛い思いしなくて済むのよ。先生も、ホントはこんなことやりたくないんだから。ほらほら。プニプニして柔らかいタマね」

椅子の上で足を組みながら、黒いストッキングのつま先でケイゴの睾丸を弄んだ。
やりたくないといいながらも、その声には喜びを押し殺すかのような艶があり、口元には絶えず微笑が浮かんでいた。
ケイゴは今にも急所を蹴り上げられそうな恐怖を感じながらも、スラリと伸びたミサトの長い脚に目を奪われ、そのつま先が与える快感に身をよじった。

「あらぁ? ケイゴ君。大きくなってきてるんじゃないの? 大事な大事なタマを蹴られてるのに。どういうこと?」

ミサトの言うとおり、ケイゴのボクサーパンツの前は、もう少しすれば棒状の形がしっかりと浮き出てしまいそうなほど、盛り上がってきている。
ケイゴは自分でもしまったと思ったが、ミサトのつま先が離れることはないし、意識すればするほど、かえってペニスは膨張してくるのだった。

「ホント、ケイゴ君はいやらしいわね。ちょっといじると、すぐに感じちゃって」

笑いをかみ殺しながら、ミサトは囁く。

「授業中にいやらしいことを考えた罰として、もう一回プラスね。これで四回か。今日はケイゴ君のタマも無事じゃすまなさそうね?」

「そ、そんな…」

憐れみを乞うような目で弁解しようとすると、ミサトのつま先が素早く動いた。
ピシッと、足首から先の力だけで、金玉を跳ね上げたのである。

「あうっ!」

それでもケイゴにとっては十分な衝撃で、思わず内股になって、股間を両手でおさえてしまう。
ジーンと鈍い痛みが、両の睾丸から発せられてきた。

「これで許してあげるわ。大きくした分はね」

背中を丸めるケイゴの姿を、ミサトは椅子に座ったまま、面白そうに見つめていた。
一体いつの間に、こんなSっ気を発揮し始めたのか。重苦しい男の痛みに苦しむ自分を笑いながら見ているミサトに、ケイゴは戦慄する思いだった。
しかしケイゴ自身、この状況を受け入れてしまっている自分に気がついていた。下着一枚になって急所を蹴られるという異常な罰など、その気になればいつでも逆らうことができる。それをしないということは、自分もまたこの状況をどこかで楽しんでいるのかもしれないと、ケイゴは薄々感じ始めていた。

「ほらほら。お勉強は続いているのよ。現在完了って何だったかしら?」

ミサトはさらに容赦なく、ケイゴの股間につま先を突っ込んだ。
こういうとき素早く背筋を伸ばさなければ、ミサトからさらに罰を受けてしまうことを、ケイゴは知っていた。

「あっ! は、はい…。現在完了は…haveと過去分詞です…あっ!」

痛みの残る睾丸は、敏感になっている。
ミサトのストッキングのつま先がケイゴの股間で擦れる度に、ケイゴは情けない喘ぎ声を上げてしまう。

「そうよ。覚えてるじゃない。じゃあ、この問題はどうするの?」

「はい…。They have been…here…かな?」

ミサトはうなずき、つま先でタマを転がしてやる。

「あ…あとは…金曜日からだから、since last Friday…ですか?」

「正解!」

ミサトの膝が折り曲げられ、しなやかに跳ね上げられた。
パチンと、ケイゴの股間の膨らみはミサトの足の甲に打ち抜かれ、先程とは比べ物にならない衝撃が走る。

「はぐっ!」

今度は立っている余裕などない。
両手で股間をおさえて、ケイゴはその場にうずくまってしまった。

「よくできました。次は間違えないようにね。しっかりと体で覚えるのよ?」

うずくまるケイゴを、ミサトは腕組みしながら見下ろしていた。

「くくく…」

全身の筋肉が硬直し、冷たい汗が吹き出してきた。
ミサトの罰を受け始める前、ケイゴは股間を蹴られた経験などなかったが、こんなに痛いものだとは思ってもみなかった。
両手でかばようにおさえる二つの玉に変化はなかったが、そこからは激しい鈍痛が休むことなく発せられ続けている。
男の生存本能が、とにかく体を丸めて身を守れと言っている。そんなどうしようもない痛みに思えた。

「ほら、今日はあと二回も残ってるのよ。しっかりしなさい。男の子でしょ?」

ミサトは心底楽しそうだった。
普段の彼女は秀才らしく上品で、それでいて開放的な明るさも兼ね備えた申し分ない美女だった。しかしケイゴの股間を蹴るときだけは、ミサトは豹変する。
股間を蹴られて、男にしか分からない痛みに苦しんでいるケイゴを見るとき、ミサトの口元は妖しく曲がり、その瞳には恍惚とした光が差しているようにも見えた。
あるいはそれは、ミサトが心の奥底に秘めていた本性だったのかもしれない。
それは屈折した愛情の表現で、子供だとばかり思っていたケイゴの体に、意外なほど「男」が芽生えていることを知り、それを打ちのめしたくなったのかもしれなかった。

「ほら。早く立ちなさい。次は理科の分よ。平均より10点以上も下なんだから、今よりもキツくしないとね」

ケイゴにはミサトのこの変貌ぶりの原因は分からなかった。男女の性の機微を知るには、彼はまだ幼すぎたのである。
しかし原因はともかく、ミサトが母親やその他の人間に対しては決して見せない表情を自分にだけ見せているという事実は、幼いケイゴの心にも強烈に響いた。
そして男の急所であり最も大切な象徴である金玉を、ミサトのような美女に弄ばれているという感覚は、ケイゴの心に潜んでいたマゾヒスティックな欲望を呼び覚ましてしまったのだった。

「は、はい…。すいません…」

歯を食いしばってなんとか立ち上がり、また股間を広げた。
サッカーの部活動で鍛えた強靭な下半身がケイゴの自慢だったが、いまやその筋肉質な太ももは、痙攣するように震えていた。

「ふうん…。35点ねぇ…。ケイゴ君が悪い点数を取ると、私もショックだわ。私の教え方が悪かったのかしら?」

「い、いや…。そんなこと…ないです」

「ホントに? じゃあ、どうしてこんな点数取っちゃったの? 自分で原因は分かってる?」

ミサトは椅子から立ち上がり、ケイゴに迫った。
股間の痛みで自然と前かがみになっていたケイゴの鼻先にまで、ミサトの顔が近づいた。

「反省してるの? ケイゴ君」

大きな瞳がまばたきするたびに、長いまつ毛が音を立てるようだった。
そのまっすぐな視線にケイゴが目をそらすと、大きな胸の膨らみがブラウスシャツをはち切らんばかりに押し上げているのが見えてしまった。

「は、はい…反省してます…」

シャツのボタンの隙間から、黒いブラジャーが見えてしまいそうだった。
思えば、ミサトは最近わざとサイズが小さめのシャツを着ているような気がする。
シャンプーの香りに鼻先をくすぐられながらそんなことを思っていると、突然、
下半身に重たい衝撃を感じた。

ズンッと、ミサトの堅い膝がケイゴの股間をえぐったのである。

「あっ…!! かっ…!!」

ケイゴは常に、階下にいる母親に悟られないよう、股間を蹴られても叫び声を押し殺してきた。
ミサトの急所蹴りは、時には唸りたくなるほどの痛みをケイゴに与えたが、そういう時でも両手を口に当てて、必死に我慢していたのである。
しかし今回の膝蹴りは、痛みの次元が違った。
叫び声を上げようにも、ケイゴの呼吸器官は一瞬にしてその機能を停止し、息を吸うことさえできなくなった。

「またいやらしいこと考えてたでしょ? 反省しなさい」

まるで糸が切れた人形のように、ケイゴは膝から前のめりに崩れ落ちてしまった。額を床に擦りつけ、両手で股間をおさえつけるが、もはや痛み以外の感覚は、ケイゴの体にはない。
全身を覆い尽くす、鉛のように重たい鈍痛。
尻を高く突き上げて土下座したようなその姿に、ミサトは思わず失笑してしまったが、その笑い声もケイゴの耳にはまるで入らなかった。

「フフフ…。何回痛い思いしても、やっぱりおちんちんが大きくなるのね? いやらしいわ、ケイゴ君は。変態なんだから」

そう言いながら、ミサトの顔は笑っていた。
ケイゴはあまりの痛みに股間をおさえることを諦め、目の前にあったミサトの足首にしがみついてしまった。
ストッキングの滑らかな感触を通して、ミサトの体温がその手に伝わってくる。

「なあに? 先生の足が好きなの? この足で、いつもケイゴ君のタマを蹴ってるのよ」

ミサトの足は柔らかく、ふくらはぎからつま先に向かって理想的な曲線を描いていた。この足がいつも自分に地獄のような苦しみを与えているとは容易に信じがたく、反面、これだけ美しい足だからこそ、容赦のない罰を男に与えることが許されるような気がした。

「ほら。まだあと一回、残ってるのよ。お勉強を続けましょう」

「あっ…は…」

ケイゴが掴んでいる足を持ち上げると、ケイゴの体は床で仰向けになった。
ようやく呼吸は回復し始めたが、まだ下半身には重苦しい痛みが残っている。
さらに痛みのピークが過ぎたころから、ケイゴの体には強烈な虚脱感が広がり始めていた。
床に着いた背中から、魂が流れ出ていくような疲労と虚無感で、とてもミサトの授業を受け続ける余裕などなく、しばらくは立ち上がることさえできそうになかった。

「せ、先生…もう…」

ミサトを見上げながら喘ぐように言葉を発する。
しかし憐れみを乞うようなその目が、逆にミサトの心に火をつけた。

「なに? 立てないの? だらしないわねえ」

ミサトはケイゴの足元に回り込むと、その股間を足で踏みつけた。

「はうっ!」

途端に、ケイゴの体は電撃を流されたような反応をする。
ミサトはかまわず、右足でケイゴの股間にある二つの玉をグリグリと踏みしめ始めた。

「ここはこんなに元気になってるくせに。立ち上がることもできないなんて。そんな言い訳は通用しないわよ」

「あっ! せ、先生…やめて…」

ミサトの言うとおり、ケイゴのペニスは睾丸の激しい痛みにも関わらず、完全に勃起してしまっていた。
ケイゴ本人にもその理由は分からなかったが、それを発見したミサトは、嬉しそうに足の裏全体でペニスと睾丸を踏みつけるのだった。

「ケイゴ君は、歴史が苦手だもんね。でも、このままじゃ駄目よ。苦手なものは克服していかないと。鎌倉幕府ができたのは、何年だったかしら?」

股間を踏みつけながら、ミサトが尋ねる。

「あ…せ、1192ね…んん…!」

「なに? よく聞こえないわよ。鎌倉幕府を開いた人物は誰?」

「み、源…よりと…おぉ…!」

「何言ってるの、ケイゴ君?」

ケイゴが答えようとするたび、ミサトの足が動いて、ケイゴはその刺激に身を震わせた。
ミサトはそれがよほど面白かったようで、次々と問題を出しては、ケイゴの反応を楽しんでいた。

「ハァ…ハァ…。先生…もう許してください…」

何問目かの問題が終わった後、ケイゴは息を荒げながらつぶやいた。
ミサトの方もだいぶ興奮していたようで、その額にはうっすらと汗が滲んでいる。

「フフ…。もうギブアップなの? しょうがないわね。じゃあ、次が最後の問題よ。これに正解したら、社会の分は許してあげるわ。でももし、間違えたら…」

言葉の代わりに、ミサトはグッと足を踏み込んだ。
ケイゴの睾丸が、その足の裏に柔らかい弾力を伝える。
嬉しそうに輝くミサトの目を見つめながら、ケイゴは小さくうなずいた。

「いい? 1917年に起こった世界最初の社会主義革命の指導者の名前は?」

ケイゴの顔が強張った。
ミサトはそんなケイゴの反応も予測していたかのように、微笑している。

「わ、わかりません…」

ケイゴが首を横に振るのと、ミサトが足を振り上げるのが、ほぼ同時だった。
あおむけになっていたケイゴの股間に、ミサトのしなやかな蹴りが、鞭のように叩きつけられた。



バシン、という音は、ケイゴの耳には聞こえなかった。
それよりも早く、電撃に打たれたような衝撃が脳天まで突き抜けて、それによってケイゴの意識は朦朧としたものになってしまったのである。

「あ…は…」

半分白目をむいた状態で痙攣し、口のはしから涎がこぼれるのも気がつかないようだった。

「……あ、ヤダ…」

ミサトはそんなケイゴを見下ろして、しばらくは悦に入ったように荒い息をしていたが、やがて状況に気がついて、慌てた。

「だ、大丈夫、ケイゴ君? 気絶してるの? ちょっとやりすぎちゃったかしら…」

もちろん、ケイゴが受けた痛みはちょっとという程のものではなく、意識が飛んでしまったことが幸運という他ないほどの衝撃だった。

「え…と…タマは…。あ、大丈夫ね。潰れてないみたい。良かった。ちょっと心配しちゃったわ」

ミサトは無造作にケイゴの股間に手を伸ばし、その睾丸の無事を確認した。
ミサトのような女性にとっては、男の急所は潰れてさえいなければ大丈夫、という認識しかないのかもしれない。

「うーん…まあ、今日はこのくらいで終わりにしましょうか。時間もちょうどいいし。ケイゴ君、聞こえる? お母さんには、疲れて寝ちゃったって言っておくからね。いい?」

ポッカリと口を開けて、うつろな目をしているケイゴの耳元に話しかけると、わずかにうなずいたようだった。
ミサトはそれに満足したようで、一つため息をつくと、服装を整えて、鞄を手に取った。
ふと、机の上に置かれた社会の答案を見ると、そこには先程ミサトが出したのと同じ問題が出ていた。

「1917年の社会主義革命の指導者は…レーニン。ちゃんと正解してるじゃない。フフフ…。ケイゴ君ったら」

放心状態のケイゴを見下ろして、ミサトは笑った。
ケイゴの家庭教師は、当分は終わりそうになかった。



終わり。


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