「い、一本! 一本だ!」
突然、ハヤトが右手を挙げた。 どうやら、ケンタロウを苦しみから救うためには、ランの一本を宣告するしかないと思ったらしい。 それを聞いて、女子達の潰せコールは止み、ランもハヤトの顔を見つめた。
「はあ? なに言ってんの?」
「だから、ランの一本だよ。決まったんだから、いったん放してやれよ!」
ランには、ハヤトの魂胆がすぐ理解できた。 しかし睾丸を握る手は緩めずに、もう一人の審判であるユナの方を振り向いた。
「ふーん。ユナは、どう思う?」
「え…と…。相手にダメージのある攻撃を当てた時に、一本取るんだと思うけど…。ダメージあるの…?」
ユナはただ純粋に、ケンタロウに尋ねてみた。 ケンタロウは返事をするどころではなかったが、その苦悶の表情から、ダメージどころの騒ぎではないことは明らかだった。
「そうだねえ。ダメージあるっていえば、あるか。ま、アタシ達には分かんないけどね。えい!」
そう言うと、ランはケンタロウの睾丸を握る手に、ぐっと力を込めて、ぐりっと指で弾くようにして、解放してやった。 一瞬だが、ケンタロウの睾丸は限界ぎりぎりまで変形し、もちろんその痛みは想像を絶するものとなる。
「はぐうっ!!」
ようやく解放されたケンタロウは、両手で睾丸を包むようにおさえて、その場で丸まってしまった。 睾丸の痛みは、痛めつけられたその瞬間よりも、あとからジワジワと襲ってくるものの方が強い。しかもそれが何十分、ときには何時間と続くのだ。
「大丈夫か!?」
ハヤトが駆け寄るが、ケンタロウは返事をすることもできずにうずくまり、唇を震わせていた。
「じゃあ、今のはアタシの二本目ってことね。あ、その前にアンタがビンタしたのも、一本にしていいよ。その方が公平でしょ?」
状況は1対2になったが、そのダメージの差は比べようもなかった。 ランの頬には、さきほどのビンタの跡が赤く残っているが、ケンタロウの睾丸は、恐らくそれ以上に腫れているだろう。
「さあ、それじゃあ試合を続けようか?」
ランは痛みに震えるケンタロウを見下ろしてなお、残酷すぎることを口にした。
「な…! なに言ってんだよ! もう試合は終わりだ! こんなんでできるわけないだろ!」
ハヤトは呼吸することさえつらそうなケンタロウに代わって、ランに抗議した。 しかしランは平然と、それを却下する。
「だって、最後まで続けるって約束だしさ。今の一本だって、サービスしたようなもんだもん。そうだ。ラスト一本で、アンタのタマタマ、潰してあげるよ。それだったら、文句なしの一本だよね?」
笑いながらユナに問いかけると、ユナはちょっと考えて、うなずいた。
「うん…。潰れたら、しょうがないかな…。一本かも」
ケンタロウはもちろん、ハヤトや周りで見ていた男子部員たちも、ゾッとするような女の子たちの残酷さだった。 思わず、ハヤトはランに食ってかかった。
「お前、いい加減にしろよ! 金玉蹴られるのがどれだけ痛いか、分かってんのか!?」
しかし次の瞬間、うっと呻いて、ハヤトはその場に崩れ落ちてしまった。 ランのひざ蹴りが、ハヤトの股間に深々と突き刺さっていたのである。
「アンタ、うるさいよ。さっきから。引っこんでてよ」
あまりにも冷酷な、ランの態度だった。どうやら先ほどケンタロウに受けたビンタの怒りは、まだ完全におさまってはいないようだった。
「この野郎!」
「何してんだよ!」
崩れ落ち、うずくまってしまったハヤトの姿を見て、周りで見ていた男子部員たちがついに立ち上がった。 彼らもまた、男を侮辱するようなランの発言には、先ほどから腹が立っていたし、ケンタロウの苦しみも十分理解できていた。 審判役のハヤトさえ攻撃されたことで、その怒りが爆発したのである。
「ラン!」
「何よ、アンタ達!」
さすがのランも、3人の男子部員から迫られて、ちょっとたじろいだが、すぐに他の女子部員たちが立ち上がって、彼女を救援した。 双方の部員の人数は互角だったが、女子部員たちはさきほどから、男がいかに弱くて脆いものなのか、まざまざと見せつけられている。 普段の練習では男子に遅れをとることが多かったが、ルール無用のケンカでは、負けない自信ができてしまっていた。
「えい!」
「やあ!」
男子部員たちがかまえるよりも早く、女子達の金的蹴りが、彼らの股間に炸裂した。 それはランがケンタロウに放ったものと比べれば、威力もなく、当たりも良くないものだったが、男子部員たちの自由を奪うには、十分すぎるものだった。
「うっ!」
「ぐえっ!」
まるで魔法のように、3人の男子部員たちは、次々と女子に倒されていった。 結局、武道館には股間をおさえてうずくまる男子達と、それを見下ろす女子部員たちの図ができてしまった。
「あーあ。みんな、やられちゃったねー。どう? やっぱりタマタマは痛いでしょ?」
「ホント、男子ってみんな一緒なんだね。金蹴り一発でダウンしちゃうんだ」
「軽くしか蹴ってないのに。当たった時ムニっとしたけど、アレががタマタマなのかな?」
ランは楽しそうに笑い、女子部員たちも、初めての金的蹴りの威力に驚いているようだった。 一方の男子達は、一様にうずくまって、まったく動けない様子だった。 今まで負けるはずがないと思っていた女子に、こんなにも簡単に敗北してしまうとは、想像もしていなかった。彼らの男としてのプライドは、睾丸の痛みと共に、完全にへし折られてしまった。
「さて。じゃあ試合の続きをやろうか? それとも、ギブアップする?」
ランは改めて、ケンタロウの顔を覗き込んだ。 ケンタロウはすでに完全に心を折られて、ランの笑顔に恐怖すら感じていた。
「ギ、ギブアップ…します…」
たどたどしい声で、ようやく言えた。
「ん? ギブアップするの? どうしよっかなー」
「ギブアップします…! お、お願いだから…」
ケンタロウはすがるような声で言った。 周りでそれを聞いていたハヤトや、他の部員たちも、ランの態度やケンタロウの哀願に屈辱を感じたが、かといって、今、自分たちは動くことすらできない。
「しょうがないなー。でも、ちょっと誠意を見せてくれないとね。とりあえず、服脱いでよ。パンツ一枚で土下座してみて」
平然と言い放ったが、ランの言葉には有無を言わさぬ迫力が込められていた。 ケンタロウはハッと顔をあげてランの顔を見たが、ランは相変わらず笑っていた。
「どうしたの? できないなら、試合続けてもいいんだよ?」
「あ…。いや…はい…」
ケンタロウは力なくうなずいて、道着の帯に手をかけた。
「そうそう。いっぱい汗かいて、暑いでしょ? ちょうどいいじゃん。あ、アンタ達もだよ。早くして?」
ランは周りでうずくまっている男子部員たちにも声をかけた。 男子達は一斉に顔をあげた。
「ふ、ふざけんな! なんでそんなこと…!」
「お前、調子に乗るなよ!」
当然の反応だった。 ハヤトなどは特に興奮して、股間の痛みに耐えながら立ち上がると、またもやランに食ってかかろうとした。 しかし、まるで打ち合わせでもしたかのように、女子部員たちが素早く回り込み、ハヤトの両腕を掴んでその動きを止めた。
「な! なんだよ!」
すると突然ユナが、ハヤトの前に立ちはだかった。
「ダメだよ、ハヤト君。おとなしくして!」
ユナはためらうことなく、足を振りあげた。 バシンと、先ほどよりも強烈な蹴りが、ハヤトの股間に炸裂した。
「あううっ!!」
ハヤトは再び、地獄の苦しみに呻くことになった。
「やるじゃん、ユナ!」
ランが笑うと、ユナは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「うん…。なんか私も、やってみたくなっちゃって…。簡単だね」
その足元では、ハヤトが股間をおさえて、海老のように丸くなって震えている。
「さあ、早く脱いでよ」
男子部員たちは、諦めるしかなかった。 数分後には、女子達の前に、パンツ一枚で土下座する男子達の列ができていた。
「あー、いい感じだね。反省してるって感じ」
ランは嬉しそうに携帯をかまえて、男子達の情けない姿をビデオに撮っていた。
「じゃあ、皆で謝ってみようか。はい、声を揃えて! 僕たち男子は、タマタマが痛いので、女子に負けてしまいました」
ランの言うとおり、男子達は復唱した。
「僕たちは弱いので、もう二度と、女子には逆らいません。すいませんでした!」
土下座をするだけでも情けないのに、女の子の前でパンツ一枚になり、しかも男を全否定するかのようなことを言わされる。男子達にとってこれ以上に屈辱的なことはなかった。
「はい、よくできました。これからは、女の子に逆らっちゃダメだよ?」
ランは男子達の情けない姿を見て、十分満足したようだった。 他の女子部員たちも、笑いをこらえながら男子達の謝罪を聞いていた。 すると、ランはビデオを撮るのをやめて、土下座しているケンタロウの側にしゃがみこんだ。
「どう? 男はアソコを蹴られたら、女の子には勝てないでしょ? アタシの言った通りじゃん」
ランの手は、土下座をするケンタロウの股間の方に伸びて、そっとその膨らみを撫でた。 ケンタロウはまた睾丸を握られるのかと思って、体を硬直させる。
「これに懲りたら、もうアタシにからんでこないでよね。もしまたからんできたら、このタマタマ…」
ジワジワと、睾丸を触るランの手に力がこめられていくような気がして、ケンタロウは必死で首を縦に振った。
「もらっちゃうからね!」
ピシッと、ランはケンタロウの睾丸にデコピンをした。 それでもケンタロウにとっては電撃のような痛みで、あっと声をあげて、またうずくまった。
「アハハ! じゃあね。お疲れー」
ランと女の子たちは笑いながら、武道館を後にした。 残された男子達は、睾丸の痛みが引くまで、もうしばらく、じっとうずくまっていることしかできなかった。
終わり。
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