「ケイ君、先生がいらしたわよー?」
毎週水曜日の午後6時。母親の声を聞くと、ケイゴはいまだに緊張してしまう。 柔らかい足音が階段を一段一段登ってくる音に耳を澄まし、ドアノブに手をかけた気配を感じると、思い切って振り向くのだ。
「こんばんは。今日もよろしくね」
家庭教師のミサトがにっこりと笑うと、ケイゴははにかみながら、口元で軽く微笑み返すのだった。
「ああ。実力テストがあったのね。どれどれ。見せてもらうわ」
答案を渡されたミサトは、黒いストッキングに包まれた長い脚をイスの上で組みかえた。 いつも履いているタイトスカートは特に短いというわけではなかったが、あるいはその奥が見えてしまうこともあるのではと、ケイゴはいつも思ってしまう。
「えーっと…。数学が61点。英語が72点。国語が80点か。いつも国語はいいわね、ケイゴ君は」
「あ、はい…」
慌てて目をそらしたのは、視線がミサトの胸の方に行っていると思われたくないからだった。 薄いブラウスシャツの上からでも、ミサトが今日つけているブラジャーが黒だということははっきりと分かったが、ケイゴはそこに目を走らせないように、必死に努力していた。
「あら。理科が35点しか取れなかったの? ふうん」
「あ、それは…。勉強したところが、あんまり出なくて…。すいません」
「これ、平均点はいくつだったの?」
「あ…。52点…だったと思います…」
ためらいがちな言葉を聞くと、ミサトは微笑した。
「そう。じゃあ、まずは一回ね。他は大丈夫なのかしら?」
「あの…その、社会がちょっと…」
「社会? そうね、社会は62点か。平均点以下なの?」
「いや、違くて! 今回はみんな、思ったより良かったって、先生も言ってて…」
「平均点以下なの?」
ケイゴの弁明を、ミサトのよく通る声が遮った。
「はい…。70点でした…」
ケイゴは力なくうなだれた。
「そう。じゃあ、これで2回は確定ね。テストの中身を見ていきましょうか?」
「はい…」
ミサトの微笑みに、ケイゴはうなずくことしかできなかった。 ミサトがケイゴの家庭教師をするようになってから、4か月ほどになる。 中学三年になり、打ち込んでいたサッカー部を引退したケイゴは、いつの間にか自分の学力が他の生徒より遅れてしまっていることに気がついた。 サッカーにおいては、県大会で選抜にまで選ばれたほどの実力だったのだが、スポーツ推薦に頼って学業を疎かにしたくないというのが、ケイゴの両親の考えだった。 そこへちょうど、母親の従妹にあたるミサトが大学院に通い始め、近所に引っ越してきたということを聞いて、無理を言って家庭教師役を引き受けてもらったのであった。
「わあ。ケイゴ君、こんなに大きくなったんだ。一緒に遊んだこともあるのよ。覚えてる?」
ケイゴにとって、ミサトは遠く離れた所にいる親戚で、今までほとんど会ったことがなかった。 しかし不思議と、ミサトはケイゴのことをよく覚えているらしく、久しぶりの再会で、しきりと「大きくなった」と繰り返していた。 事実、ケイゴの身長は170センチもあり、中学生としては大きい方だった。
「今日からは、先生って呼ばなきゃダメよ? 頑張りましょうね」
ミサトは大学を出た後、海外に留学し、2年間経済の勉強をしていたらしい。日本に戻ってきてからは、今度は法律の勉強をするために大学院に通っているという秀才だった。 しかしケイゴにしてみれば、ミサトの学歴よりもその美しい容姿の方が衝撃的で、華麗な大人の女性のむせかえるような魅力に、たちまち心を奪われてしまったのだった。 そしてそれは何度目かの授業の時に、ミサト本人に知られることになる。
「じゃあ、次の問題。2次方程式ね。もう分かると思うけど、これは公式さえ分かれば簡単なのよ」
ケイゴが苦手としていた数学も、徐々に理解できるようになってきた。 ミサトの教え方は懇切丁寧で、優秀な人間にありがちな感覚的表現などはほとんどなかった。
「いい? これを因数分解すると、こうなるでしょ…」
ケイゴの鼻に香るのは、長い黒髪から発せられるシャンプーの香りだった。 狭い学習机に向かっているため、ミサトが問題を解いてくれるとき、二人の顔の距離は極端に近くなる。さらに身を乗り出した時、大きな胸が学習机の上に乗って、ときにそれがケイゴの二の腕に触れた。その柔らかい感触は、ケイゴがかつて経験したどんなものよりも心地よいものだった。
「分かった?」
つい、恍惚とした気分に浸ってしまっていたケイゴは、慌てて我を取り戻した。
「あ、はい。分かりました」
「そう。じゃあ、次の問題を解いてみて」
微笑みにうながされて問題集に目を落としたが、今まで軽い興奮状態にあったケイゴの頭脳は、容易に勉強モードにならなかった。 中学三年生のケイゴはもちろん自慰は経験済みで、部活動を引退して以来、体力を持て余している。
「どうしたの? さっきとほとんど同じ解き方でいいのよ。ほら、こうして…」
二人が同時に学習机の上で身をかがめると、その距離はさらに縮まった。 ケイゴの頬には、ミサトの息遣いさえ感じ、その肩にはミサトの乳房が押し付けられ、変形していた。 ミサトは、自分の体がケイゴと密着していることに気づいていないのか。それとも気づいていながら、ケイゴを年下の親戚だと思い油断しているのか。 どちらにしろ、ケイゴは初めて味わう大人の女性の肉体の感触に、若い性欲をたぎらせ始めてしまっていた。
「ほら、こうするのよ。分かる?」
「は、はい…」
うわの空で返事をしたが、耳まで真っ赤に染めたその様子に、さすがにミサトも異変を感じた。 ふと見ると、椅子に座ったケイゴのジャージの股間の部分が、異様に膨らんでしまっている。 ミサトは一瞬、息をのんだが、すぐに悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
「ケイゴ君。もしかして、いやらしいこととか考えてるんじゃない?」
図星を指されると、ケイゴはギクッと体を震わせた。返事をせずとも、その緊張した様子から、すべてが分かってしまう。
「え? い、いや。そんなことない…です…けど…?」
「ホントに? じゃあ、これは一体どういうことなのかな?」
そう言うと、ミサトはいきなりケイゴの股間に手を伸ばし、その膨らみを握りしめた。 今まで自分の勃起にすら気づいていなかったケイゴは、あっと声を上げる。
「すごーい。カチカチね。こんなに大きくしちゃって。何考えてたの?」
「あ、いや…あ…!」
いたずらを叱るような声で、ケイゴに囁いた。 その手がペニスを確かめるように揉むと、ケイゴの口からは自分でも思ってもみなかった声が漏れてしまう。
「もしかして、私の胸が当たってたかな? それで興奮しちゃった? フフフ…。カワイイ…」
喘ぎ声を必死に我慢している様子を、面白そうに見つめていた。 ケイゴはペニスを握るミサトの手を掴んだが、かといって引きはがすことはできない。 ミサトの細い指は、優しくリズミカルにケイゴの肉棒を揉みしだいている。
「あんなに小っちゃくて可愛かったケイゴ君が、こんなにおちんちん固くして、興奮するなんてね。私、ケイゴ君のおむつを替えてあげたこともあるのよ? フフフ」
「あ…先生…!」
「でもこれは、お母さんに報告しないとね。ケイゴ君はいやらしいことばかり考えて、勉強に集中できてないみたいですって。そうなんでしょ?」
「そ、それは…!」
ケイゴの両親は温和だが真面目で、息子の性教育に関しても厳格だった。そんなことを知られれば、両親を失望させてしまいそうで怖かった。
「冗談よ。お母さんは堅い人だもんね。秘密にしといてあげるわ」
ミサトは笑って、股間から手を放した。 あのまま揉み続けていれば、遠からず、ケイゴのペニスは限界を迎えるはずだった。 ケイゴは解放され、ホッとした反面、本能的な口惜しさも感じてしまう。
「でも実際、これは何とかしてあげないと、勉強に集中できないわね。こんなに大きくしちゃって」
依然としてジャージの股間を盛り上げているそれを、ミサトは笑いながら見つめた。 ケイゴは恥ずかしがりながらも、申し訳なさそうにうつむくしかない。 するとミサトは、突然何かを思いついたように、手を叩いた。
「そうだ。私がいい方法を知ってるから、それをやってみようかな。いい?」
笑顔でそう聞かれると、ケイゴはついうなずいてしまう。
「じゃあ、ちょっと目をつぶってて」
言われるままに、ケイゴは目を閉じた。 今からミサトは、何をしてくれるのか。友達に借りたアダルトビデオや雑誌に載っているようなことをしてくれるのではないか。 ミサトの手が、ためらうことなくケイゴのジャージの中まで入ってきたとき、その期待は最高潮に達した。 しかし次の瞬間、その期待ははかなく裏切られてしまう。
「…っ!?」
ケイゴは思わず目を開けた。 ミサトの手は、先程まで揉みしだいていたペニスではなく、その下、二つの睾丸を掴んだのだ。 そしてケイゴが戸惑う間もなく、ミサトの手には強烈な力が加わり始めたのである。
「はあっ……!!」
ケイゴは思わず息をのんだ。体全体が強張ってしまうほどの衝撃と痛みが、あっという間に下腹部から広がってきた。 苦痛にゆがんだ顔でミサトの方を見ると、唇に人差し指を当てて、「静かに」という表情をしている。その顔は、どこか楽しげに笑っているようだった。
「んん…うぅ…! 先生っ…!!」
口に手を当てなければ、うめき声が漏れてしまいそうだった。 前かがみになって腰を引こうとするが、ミサトの手はケイゴの睾丸をしっかりと握って離さない。
「まだまだ。もうちょっとよ。我慢して」
囁くようにそう言って、ミサトは指先で挟んだ睾丸の一つにグリグリと押し込むようにして、親指をめり込ませていく。 先程までの興奮は一瞬にして冷め、ケイゴはとめどない鈍痛に吐き気さえ催し始めてきた。
「うぅっっ!!」
机に額をこすりつけ、歯を食いしばってみても、一向に痛みは鎮まらず、ミサトの握力が緩むことはなかった。
「あ…あぁ…!! 先生…!」
ついにケイゴの背中がブルブルと痙攣し始めたころ、ミサトはようやく手を離した。
「はい。おしまい。おちんちん、小さくなったでしょ?」
軽いお仕置きを済ませた後のような言い方だったが、ケイゴの方はそれどころではなかった。 圧迫から解放されたとはいえ、睾丸から立ち上ってくるジンジンとした痛みは、すぐに止むものではない。 ミサトの言うとおり、勃起はいつの間にかおさまっているようだったが、とてもそんなことを気にする余裕はなかった。
「私がアメリカにいるころね、セルフディフェンスのセミナーで習ったのよ。興奮した男は、タマを握れば静かになるって。試したことはなかったんだけど、ホントだったみたいね」
ミサトは新しい発見をしたように、うれしそうな顔をしていた。
「タマは男の急所だから、ちょっと痛いかもしれないけど、これで勉強に集中できるわね? さあ、始めましょうか」
前かがみになって股間をおさえているケイゴは、まだ起き上がれそうになかった。 荒い息を吐きながら、ミサトを見上げる。
「せ、先生…。まだ、ちょっと…」
「ん? ヤダ。そんなに痛かったの? 一応、手加減したんだけどな。ごめんなさいね。最初だから、加減が分からなくて」
最初だからとミサトは言う。最初ということは、この次もあるつもりなのだろうか。ケイゴの頭に嫌な想像が浮かんだが、それは言葉に出さなかった。
「でも、そうか。そんなに痛いのね。ふうん。急所だもんねえ」
ミサトは感心しながらも、興味深そうな、何か考えるような笑みを浮かべていた。 ケイゴにはミサトの考えていることは分からなかったが、そのミサトの微笑みに、何か抗いがたい魅力のようなものを感じてしまうのだった。
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