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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。

とある空手道場の女子更衣室で。
稽古を終えた小学生の女子たちが、着替えをしながら楽しそうに話していた。

マナ 「あー、疲れた。でも、今日も男子に勝っちゃった!」

サヤカ 「そうだね。アタシも勝ったよ」

チヒロ 「そっか。今日はみんな勝ったよね。金的で」

三人の女の子たちは、嬉しそうに今日の男子相手の試合の結果を話している。
三人は同じ小学4年生で、この道場では、小学生まで男女混合の試合をすることを認めていたのだ。
しかし小学生高学年までの男女は、体格差も少なく、むしろ女の子の方が背が高い場合が多い。
そのうえ、金的攻撃も認めているのだから、男子にとって、女子と試合をすることはかなりのリスクを伴っていた。

サヤカ 「ていうかさ、マナの試合のとき、相手のユウキ君、超怖がってなかった? マナの下段蹴りに、超反応してたよね?」

マナ 「あー、そうだったかも。なんか、金的蹴るつもりじゃないときも、すっごい避けてたよね。やっぱり、怖いのかな? ウケるよね」

二人は笑いながら、マナとユウキの試合を思い出していた。

チヒロ 「あれさ、その前のサヤカとケンタの試合を見てたからでしょ。サヤカが思いっきり蹴るんだもん。ケンタのあの痛がり方見たら、男子はみんなビビっちゃうよ」

チヒロの言うとおり、マナとユウキの試合の前、サヤカは相手のケンタの金的を、いつも以上に激しく蹴りとばしていた。
ケンタはサヤカの蹴りを受けた瞬間、奇声を上げて、そのまま床に這いつくばり、白目をむいて失禁すらしてしまったのである。

サヤカ 「あ、そっかあ。まあ、あの時はアタシも怒ってたからねー。ケンタのヤツ、あたしのオッパイばっかり突いてくるんだもん。あったまきたから、思いっきり蹴ったんだ。いい手応えだったな」

マナ 「あー、それは自業自得だね。タマタマ潰されても、文句言えないかも」

サヤカ 「うん。一個くらいは潰すつもりで蹴ったよ。まあ、大丈夫だったみたいだけど。意外と潰れないんだよねー」

サヤカとマナは、男にとっては聞きたくもない恐ろしいことを、平然と口にした。

チヒロ 「ケンタがやられたときの他の男子達の顔、見た? みんな黙り込んで、自分のタマタマに手を当てたりしてたよ」

マナ 「ホントに? 見てなかったなー。自分のタマタマの確認してたのかな?」

マナが言うと、サヤカは笑った。

サヤカ 「えー。なんで? タマタマが大事だから? 人が蹴られてるの見ると、怖いんだ?」

チヒロ 「じゃない? ちょっとカワイイよね」

三人はうなずいた。

マナ 「あの、タマタマを蹴られてさ、ちょっと耐えようとするところも、カワイくない? ああーん、って感じで」

マナは自分の股間に両手をあてて、金的を蹴られた男子の真似をしてみた。

サヤカ 「分かる。内股になって、必死に我慢しようとするんだけど、やっぱりダメで倒れちゃうのね。カワイイよねー」

チヒロ 「軽く当たったときとかさ、最初は大丈夫かと思うんだけど、後からきいてくるんだよね。今日のジン君もそうだったもん」

サヤカ 「そうそう。軽く当たっても、すっごい痛い時があるみたいだよね。不思議」

チヒロ達が男の金玉の不思議を口にすると、マナは目を輝かせて、話し始めた。

マナ 「あ、アタシはね。最近、クリーンヒットしたときの感触が分かってきたよ。タマタマが足の甲に乗った感触があるときは、絶対立てないの。今日のユウキ君もそうだった」

チヒロ 「ホント? タマタマが乗った感触?」

サヤカ 「あー、それ、分かるかも。なんかさ、タマタマがクニってなる感じじゃない?」

マナ 「そうそう。蹴りの強さはあんまり関係ないんだよね。あと、当てた時に足首をクイって手前に引っ張ると、いい感じだよ」

マナは足を上げて、実際にやって見せた。

チヒロ 「へー。アタシも今度やってみよう。ユウキ君のタマタマが大きいから、やりやすいよね?」

マナ 「うん。あの三人の中では、ユウキ君が一番大きいよね。一番小さいのは、ケンタ?」

サヤカ 「うん。ダントツでケンタだよ。だから、簡単に潰れるかなーって思ったんだけど。大きい方が痛いってわけじゃないのかな?」

マナ 「みたいだね。あと、一個だけ当たった時でも、関係ないみたい」

チヒロ 「ホント? アタシはいつも二個とも狙ってるけどな」

サヤカ 「アタシも、どうせ当てるなら二個まとめて当てたいな。今度はこう、斜め横から蹴ってみようかな。一個だけ当てて、そのまま隣にぶつける感じで」

サヤカは気合十分に素振りをする。

マナ 「いいね、それ。タマタマ同士がぶつかって、すごい痛そう。あうーんって感じ?」

マナはまた、股間に手を当てて痛がるふりをする。

チヒロ 「でもホント、男子って可哀想だよね。タマタマなんかついててさ。絶対鍛えられない急所なんでしょ? 痛いだけじゃん、あんなの」

チヒロは憐れむような調子で言う。

サヤカ 「ホントだよねー。いくら男子の力が強くてもさ、金的蹴られたら、一発じゃん。アタシ、本気でやったら、全然負ける気しないんだけど」

マナ 「ホント、ホント。アタシ、女に生まれて良かったー」

マナの言葉に、サヤカとチヒロは深々とうなずいた。
やがて着替えが終わり、女の子たちは更衣室を出て、帰路についた。
すると道場の出口で、今日、女の子たちがノックアウトした男子二人、ユウキとジンに出会った。

ユウキ 「あ! お、お疲れ様…」

ユウキは明らかにバツが悪そうに、女の子たちに言った。
ジンの方も、女の子たちを見るなり、目を合わさないように無言でうつむいてしまう。

サヤカ 「あ、お疲れー。ケンタは?」

サヤカは明るく声をかけ、自分が思い切り金的を蹴りあげたケンタを探すが、そこに姿は見えなかった。

ユウキ 「あ、ケンタは…」

ユウキは口ごもった。

ジン 「ケンタは…まだ、残ってる…。その…痛いから歩けないって…」

ジンが少しずつ、言葉を選びながら説明した。
それを聞いた女の子たちは、すぐさま納得した様子だった。

マナ 「あー、そうなんだ。大丈夫かな? 潰れてないかな?」

サヤカ 「アソコが潰れちゃうと、超痛いんでしょ? ちょっと強く蹴りすぎちゃったかな?」

女子達は心配そうに言ったが、それはかえって男子達にとって心苦しいものだった。
どれだけ心配しているようでも、しょせんは金玉の痛みの分からない女の子たちの言うことで、そこに実感が伴っていないのは、男子達には良く分かっていたのだ。

チヒロ 「今日はなんかゴメンね。みんな金的を蹴られちゃったみたいで。男子達はみんな強いからさ、つい蹴っちゃうんだよね」

チヒロの言葉に、男子達は苦笑いするしかなかった。
確かに単純な腕力では、ユウキやジンの方が勝っているかもしれないが、彼らは目の前の女の子たちに、手痛くやられてしまったのである。
しかも、男として最も屈辱的な負け方で。

サヤカ 「でもさあ、金的ってそんなに痛いのかな? 我慢できないくらい?」

ユウキ 「あ、うん…。まあ…」

サヤカの言葉に、ためらいがちにうなずいた。
本当は、男のプライドにかけて否定したかったが、現実は、彼はマナの前でこらえきれずに床に這いつくばってしまっている。
股間をおさえてうずくまる姿は、女子達には絶対に見られたくない、情けないものだったが、あの痛みは、そんなことを即座に忘れさせてしまうくらいのものなのだ。

チヒロ 「アタシの金的蹴りは、いつものより痛かった?」

チヒロが素朴な様子でジンに尋ねた。

ジン 「え? いや…うん…どうだろう…」

ジンは思い出したくもないという風に、ためらいがちにうなずいた。

チヒロ 「ふうん。まあ、いいか。また今度蹴ったときに、比べてみてよ。じゃあね」

最後にジンの背筋が寒くなるようなことを言って、チヒロ達は去っていった。





サヤカ 「なーんか、カワイイよね。男の子たちって、金的の話になると無口になるんだよねー」

男の子から離れた後、サヤカはおかしそうに笑った。

マナ 「ホントだよね。あんまり話したくありません、みたいな。きっと、ウチらの方が金的について、よく話してるよね」

チヒロ 「確かにね。男子ってさ、絶対金的は狙わないもんね。なんでだろ。金的狙えば、簡単に勝てるのにね」

サヤカ 「それはやっぱり、自分たちにもタマタマがついてるからじゃないの? もし人のを蹴ったりしたら、次は自分がお返しに蹴られるかもしれないじゃん」

チヒロ 「そっかあ。やったらやられる、みたいな感じね。面倒くさいね、男子って」

チヒロは憐れむように笑った。

マナ 「ホント。アタシ達はタマタマとかついてないから、お返しされる心配ないもんね。まあ、オッパイを突かれたら、けっこう痛いけどさ。金的よりマシなんだろうねー」

サヤカ 「えー。でも、オッパイもけっこう痛いよー。男子にもオッパイがあれば、痛いはずだって」

マナ 「そうかなあ」

女の子たちは話しながら、すでに日が暮れて薄暗くなった帰り道を歩いていく。
すると、前方に自動販売機があり、そこに学生服を着た男子中学生たちがたむろしているのが見えた。
彼らは何をするでもなく、自動販売機の明かりの下で、雑談をしているようだった。
よく見ると、足元にはタバコの吸い殻らしきものが数本、落ちている。
どうやら、ちょっとした不良中学生らしいと、サヤカ達は直感したので、その場にさしかかったところでおしゃべりをやめ、無言で通り過ぎようとした。

コウヘイ 「お稽古のお帰りですか。お疲れさまでーす」

中学生達は3人いて、その中の一人、コウヘイが、いかにも女の子たちをバカにした様子で声をかけてきた。

マサキ 「女が空手かよ。くっだらねえ」

学生服のボタンを大きくはだけさせたマサキが、唾を吐き捨てながら言った。
この言葉に、サヤカ達は少し反応して、中学生達の方を見た。

トモヤ 「おい、やめろよ。ほら、怒ってるだろ。ゴメンねー。つい、ホントのこと言っちゃって」

もう一人のトモヤもまた、ヘラヘラと笑いながら、謝るふりをした。
たまりかねたサヤカが、まず口火を切った。

サヤカ 「女が空手して、何がくだらないのよ」

すると、中学生達はサヤカの反応が予想外だったようで、それに答えるよりも先に、3人で顔を見合わせて笑った。

マサキ 「おいおい! 俺らに言ってんの? マジで?」

コウヘイ 「何がくだらないのよ! だって。ハハハ!」

トモヤ 「マジになんなっての。冗談だよ、冗談」

サヤカだけでなく、マナとチヒロも、この態度には頭に来てしまった。

チヒロ 「言っとくけど、アタシ達は男子よりも強いんだからね」

マナ 「そうよ。今日だって、男の子たちと試合して、勝ったんだから!」

二人は猛然と言い放ったが、中学生達には小学生の戯言としか受け止められなかった。

マサキ 「はいはい。たかが試合だろ。しかも、小学生の」

トモヤ 「どうせ、判定勝ちとかだろ。単なるスポーツじゃん、それって。女がいくら空手なんてやっても、男とマジでケンカして、勝てるわけねえだろ。だから、くだらないんだよ」

女の子たちの怒りは、頂点に達した。
中学生達はいずれも彼女達より背が高く、ケンカの経験もありそうだったが、そんなことは関係なかった。

サヤカ 「だったら、アタシ達とケンカしてみる? 本気でやってあげるよ!」

マナ 「そうだよ! 判定勝ちじゃないし。アタシ達が男子よりも強いってこと、証明してあげる!」

チヒロ 「男になんて、絶対負ける気しないもん!」

彼女たちの剣幕と、その言葉に、さすがに中学生達も気分を害した。

マサキ 「ああ? お前らが、俺らとケンカするのかよ? いいぜ。やってやるよ」

コウヘイ 「なめんなよ、小学生の癖に」

トモヤ 「女だからって、手加減しねえぞ、コラ!」

中学生たちが言い終わらないうちに、サヤカ達は身構えた。
まずは一番前にいたサヤカに、コウヘイが襲いかかった。

コウヘイ 「おら!」

コウヘイはポケットに手を突っこんだまま、無造作に蹴りを放った。
それはケンカでは有効でも、空手では無防備すぎる攻撃だった。サヤカはその蹴りを両手でしっかりとガードする。
そして大きく開かれたコウヘイの股間は、サヤカにとって易しすぎるターゲットだった。

サヤカ 「えい!」

試合の時にケンタに放った蹴りに勝るとも劣らない、強烈なキックを、サヤカはコウヘイの股間に打ち込んだ。

コウヘイ 「あうっ!」

コウヘイはすぐさまポケットから手を出し、両手で股間をおさえ、前かがみになってしまった。
すでに重苦しい痛みが、下腹部全体に広がっている。

コウヘイ 「ああ…く…」

やがて膝から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
サヤカの前にひざまずくような形で、コウヘイは痛みと戦うことになる。

サヤカ 「どうだ!」

サヤカはコウヘイを見下ろして、勝ち誇ったように言った。
ほとんど同時に、マナとマサキの勝負も決していた。
マサキは空手の構えを取るマナに対して、その手を掴みにかかった。
両手の自由を奪って、押し倒してしまおうという考えだった。
しかし、それはマナにとっても思うつぼだった。
両手を掴まれたところで、マナはマサキの注意が下半身に向いていないことを見抜き、股間に前蹴りを放ったのである。

マナ 「せい!」

可愛らしい掛け声と共に、マナの右脚はマサキの股間に吸い込まれた。

マサキ 「つっ!」

先ほどの言葉通り、マナはマサキの金玉を足の甲に乗せるようにして蹴り、なおかつ足首のスナップを聞かせて、えぐるようにして蹴り足を戻した。
ユウキとの試合の時を上回る手ごたえを、マナは感じていた。

マサキ 「ああっ! くうっ!」

蹴られたマサキには、地獄が待っていた。
蹴られた瞬間は、金玉の表面を鋭い痛みが走り、そのすぐ後を追いかけるようにして、大波のような鈍痛が体全体に広がっていく。
その時にはすでに、マサキの意志とは無関係に彼の体は地面に転がっていて、奇声を上げながら身をよじって、苦しむ羽目になっていた。

マナ 「どう? 男の子なんか、キック一発でこうなるのよ!」

自らが地獄の苦しみを味あわせているマサキに、マナは女の優越感をたっぷり含ませて言い放った。
残ったトモヤは、さすがに躊躇してしまった。
あっという間に倒されてしまった二人の友達を見て、チヒロに攻撃するのをためらってしまったのである。

チヒロ 「どうしたの? 言っとくけど、アタシも手加減なんてしないからね」

チヒロはすでに怯え始めているトモヤに、ゆっくりと歩み寄った。

トモヤ 「く…くそ…! なめんな!」

トモヤは破れかぶれになって、チヒロに襲いかかった。
しかしその気合は空回りして、チヒロに放ったパンチは、大きく空振りしてしまう。
チヒロは即座にしゃがみこんで、かわしていたのだ。

チヒロ 「えい!」

チヒロがしゃがみこむと、目の前にトモヤの股間があった。
そこをめがけて、チヒロはしゃがんだまま正拳突きを放ったのだ。

トモヤ 「はうっ!」

トモヤから見れば、目の前からチヒロの姿が消えた後、不意に股間に衝撃が走ったように思えた。
訳も分からぬうちに、体の自由が奪われた。

チヒロ 「とどめ!」

トモヤがゆっくりと内股になりそうなときに、チヒロは手ぬるいと思ったのか、起きあがる力をそのまま膝蹴りに乗せて、股間に叩きこんだ。
一瞬、トモヤの体が浮くほどの、強烈な金的蹴りだった。

トモヤ 「あがっ!」

トモヤは息をつまらせて、横倒しに地面に倒れ込んでしまった。

チヒロ 「必殺! 飛び膝金的蹴り!」

満足そうに、チヒロははしゃいでみせた。
中学生の男の子たちが、全員小学生の女の子にノックアウトされてしまった。

サヤカ 「なによ! アンタ達、全然よわっちいじゃん! それで、女は男より弱いとか、よく言えるよね」

チヒロ 「金的のない試合で手加減してるのは、むしろ女の方だよね。本気でケンカしたら、男は絶対女に勝てないよ」

マナ 「言えてる。タマタマのついてる男とか、全然怖くないもん。むしろ、女の子の方が手強いよね」

女の子たちは怒りをおさめたようで、やがて口々に男を罵倒した。
中学生達はもちろん、男のプライドにかけて言い返したかったが、現実はそれどころではなかった。
男だからこそ味わわなければいけない、地獄のような痛みと、必死で戦っている最中なのだ。
彼らにこんな痛みを与えた女の子たちには、金玉などついていないことを思うと、彼女たちに逆らうことができないと、中学生達は実感してしまった。

サヤカ 「まあ、これに懲りたら、もう女の子をバカにしないようにね」

マナ 「今回はちょっと手加減したけど、次は思いっきり蹴るからね」

チヒロ 「タマタマ潰してほしいときは、いつでも来ていいよ」

女の子たちは満足したようで、中学生達を残し、去っていった。

マナ 「ていうか、タマタマ潰れたら、女の子になるのかな?」

チヒロ 「え? どうかな。そうかもね」

サヤカ 「ウソー。タマタマが潰れても、チンチンはあるんでしょ? じゃあ、男の子じゃん」

マナ 「そっかあ。でも、タマタマなんて、潰れた方がいいかもね。急所がなくなるし」

サヤカ 「でも、超痛いんでしょ?」

マナ 「その一回を我慢すればさ。あ、二個あるから、二回かな?」

女の子たちは楽しそうに話しながら、帰って行った。
その後、その場所を通ったユウキとジンは、股間をおさえて苦しんでいる中学生達を見て、誰の仕業かすぐに悟り、試合の痛みを思い出して、金玉を縮みあがらせてしまった。


終わり。




ある日の夕方、リビングのソファーでマンガを読んでいたノブユキに、妹のハツネが話しかけてきた。

「ねえ、お兄ちゃんもキンタマ打つと痛いの?」

突拍子もないハツネの質問に、ノブユキは目を丸くした。
ハツネは小学3年生になるが、そんなことを聞いてきたのは初めてだった。

「な、なんだよ、いきなり。何の話だよ」

「今日ね、クラスのリュウセイ君がサクラちゃんとケンカして、リュウセイ君のほうが泣いちゃったの。その後、マコト君もサクラちゃんとケンカしたんだけど、やっぱりサクラちゃんに泣かされちゃったの。サクラちゃんは、キンタマを攻撃したんだって」

ハツネはたどたどしく説明した。
どうやら同じクラスの女の子が、男子とケンカして、急所攻撃をして勝ったらしい。
それに興味を持ったハツネが、ノブユキに尋ねてきたのだろう。

「男子はみんな、キンタマを攻撃されると、痛くて動けなくなるんだって。だからお兄ちゃんも、キンタマは痛いのかなって」

ノブユキは、答えに迷った。
ハツネとノブユキの仲は、それほど悪いものではなかったが、やはり兄として、ときにはハツネに力ずくで言うことを聞かせることもあった。
ハツネが、ノブユキの弱点ともいえる金玉のことを知れば、兄としての威厳が保てなくなるのではないか。
ノブユキは今年中学に上がったばかりだったが、まだそういう子供っぽい強がりも持ちあわせていたのだ。

「ど、どうかな。それは、ガキだから痛かったんだろ。大人になったら、痛くなくなるんだよ」

ノブユキは素知らぬ顔で、妙な理屈をこねた。
しかしまったく知識のないハツネは、納得してしまいそうになる。

「そうなんだ。じゃあ、お兄ちゃんはもう痛くないの?」

「お、おう。当たり前だろ。俺はもう中学生だからな。痛くねえよ」

ノブユキは、わざとらしく笑った。

「ホント? じゃあさ、ハツネのキンタマ攻撃の練習してもいい? ハツネもクラスの男子に、泣かしたい子がいるんだ」

ノブユキはまずいと思った。

「え? そ、それはちょっとな…。俺、忙しいから…」

「ええー。いいじゃん。練習させて、おにいちゃーん」

「ダメダメ。俺、宿題するから」

ノブユキはそう言って、そそくさと立ちあがり、自分の部屋に戻ろうとした。
ハツネは不満そうに、兄の背中を見つめている。

「お兄ちゃんの、ケチ!」

ハツネはいきなり、背後からノブユキの股間に蹴りを入れた。
狙いも何もない、ぎこちない小学生の蹴りだったが、運悪く、ノブユキの金玉にうまく入ってしまった。

「うっ!」

ノブユキは突然の衝撃に、息を詰まらせた。
股間から重たい痛みが押し寄せてきて、思わず手でおさえてしまいそうになったが、ハツネに悟られてはまずいと思って、とっさにこらえた。

「お兄ちゃん?」

しかしハツネは、兄のただならぬ様子に気づいてしまった。

「あれ? 痛いの、お兄ちゃん?」

ハツネは、ノブユキの顔を覗き込んでみる。
ノブユキは唇を噛んで、痛みをこらえている様子だった。

「お兄ちゃん、キンタマ痛くないんじゃなかったの?」

「バ、バカ…。今のは、太ももの内側に入っちゃったんだよ。お前がいきなり蹴るから…」

ノブユキは、やっとそれだけ言うことができたが、本当は股間をおさえてうずくまりたい気分でいっぱいだった。

「そうだったの? ごめんなさい」

ハツネは疑問に思いながらも、謝った。
ノブユキは痛みにこらえながら、なんとか平静を装って、傍らにあるイスに腰掛けた。

「ちょっと、休憩しようかな…」

わざとらしくそう言うと、長いため息をついて、天井を見上げていた。
ハツネはそんな兄の様子を、いぶかしそうな目で見ていた。

「お兄ちゃん、ホントにキンタマ痛くないの?」

「え? ホ、ホントだよ。これは、キンタマが痛いんじゃなくて、太ももの内側が、ちょっとこすれちゃったんだよ。あー、偶然って怖いなー」

ノブユキの言葉にも、ハツネは納得いかないようだった。

「じゃあ、今度はお兄ちゃんのキンタマを叩いてもいい? 他のとこに当てないようにするから」

「え! い、いや。今日はもういいだろ。また今度にしようぜ」

「やだあ。ねえ、お願い。ちゃんとキンタマだけ狙うから。一回だけ、ね?」

その金玉が一番狙われたくないところだとは、ノブユキはもう言えなかった。
今はイスに座っているし、痛みも徐々にひいてきたから、手で叩くくらいなら、耐えられるかもしれない。それに、あまり拒否していると、やはりそこは急所なんだと、認めるようなものだった。
ノブユキは兄の威厳を保つために、ハツネのリクエストに応えるしかなかった。

「じゃ、じゃあ、一回だけな。軽くだぞ。お前が怪我するといけないからな」

「わーい。お兄ちゃん、ありがとー。じゃあ、グーで叩いてみるね。キンタマって、ここにあるんでしょ?」

ハツネは無邪気な様子で、兄の股間をズボンの上からまさぐった。

「これ? このフニフニしてるやつ?」

ハツネは意外にも正確に、ノブユキの金玉の場所を探り当ててしまった。

「あ、ああ。それだな。その…軽くだぞ?」

ノブユキは妹に金玉をまさぐられ、ちょっと戸惑ったが、金玉の恐怖でそれどころではなかった。

「はーい。じゃあ、いくよ。えい!」

ハツネは可愛らしい声と共に、握りしめた右拳を、先ほど探り当てたノブユキの金玉に振り下ろした。
ボン、という音がして、ハツネの小さい拳は、ノブユキの金玉の一つにうまく当たってしまう。

「うっ!」

先ほどの蹴り以上の痛みが、ノブユキの金玉を襲った。
ノブユキは座ったまま、両手で金玉をおさえて、前かがみになってしまう。
ジーンと重たい痛みが、ハツネに殴られた金玉から湧き上がってくる。

「え? お兄ちゃん、どうしたの?」

股間をおさえて、細かく震える兄の姿に、ハツネは驚いてしまった。
しかし学校で見た、サクラに金玉を蹴られた男子も、こんな痛がり方をしていたのを思い出して、確信した。

「お兄ちゃん、やっぱりキンタマ痛いんでしょ?」

ハツネはしてやったり、という顔を浮かべたが、ノブユキはそれに応えるどころではなかった。

「ち、ちが…うぅ…」

痛みの波は変則的に、ノブユキの下腹部を襲う。
おさまってきたと思っても、ちょっと体を動かしただけで、また痛みが響いてしまうのだ。

「もう、ホントは痛いんでしょ? なーんだ。やっぱりお兄ちゃんもクラスの男子とおんなじなんだあ。キンタマを攻撃されると、泣いちゃうんだね」

「な、泣いてないだろ…」

「もう、泣きそうだもん。ねえお兄ちゃん、キンタマって、どう痛いの? なんで痛いの?」

ハツネは興味津津な目で、ノブユキの痛がる様子を見ている。
ノブユキはそんなハツネの態度に怒りを覚え、兄の威厳を保つために、実力行使に出ようと決心した。

「お前、調子に乗るなよ!」

まだ金玉の痛みは残っていたが、イスから立ち上がり、ハツネの両手を掴んで、懲らしめてやろうとした。
いつもなら、ハツネの頭を少し叩いて終わりだったが、今日はそれ以上のこともしてやろうと思った。

「えー。別に調子に乗ってないもん。えい!」

ハツネは、いつもなら素直に謝るところだったのだが、ノブユキの痛がる姿を見て、完全に気持ちが強くなっていた。
両手を掴まれた状態から、ノブユキの股間に、ひざ蹴りを入れた。

「うあっ!」

ノブユキはリビングの床にひざをついて、うずくまってしまう。
汗が一気に噴き出してきて、さっきまでとは別次元の苦しみをノブユキ自身の体が予告していた。

「あ…うぁ!」

ノブユキはうずくまったまま足をジタバタさせて、うつむいてしまった。

「あー、やっぱりこれがきくんだー。あのね、サクラちゃんがこれでマコト君を泣かしちゃったんだよ。マコト君、痛いよーって、すっごい泣いてた」

ハツネはのんびりした様子で話しかけたが、ノブユキの耳には届いていなかった。

「ねえ、お兄ちゃんも痛いの? 変なの。そんなに強く蹴ってないんだけどなー」

ハツネは兄の苦しむ姿に首をかしげた。

「わたしなんか、叩かれても平気だけどなー」

ハツネはおもむろに、自分の股の間をスカートの上から叩いてみた。
それなりの衝撃はあるが、痛いというほどではない。

「お、お前には、タマがないから…」

ノブユキは絞り出すような声で言った。

「そうだね。キンタマはお兄ちゃんでも痛いんだって、よく分かった。ありがとう、お兄ちゃん」

ハツネは無邪気な笑顔でそう言うと、ノブユキを置き去りにして、リビングを出ていった。
ノブユキはその後、30分ほどはしゃがみこんだまま動けなかった。




次の日。
ノブユキ達の両親が仕事のため、夜にならないと帰ってこない日だった。
誰もいない家に帰ってきたハツネは、すぐさま自分の部屋に入ると、しばらく出てこなかった。
やがて満足げな表情で部屋から出てくると、リビングに来て、用意してあるおやつを食べ始めるのだった。

そのうち、中学生のノブユキも帰ってきた。
昨日、ハツネがノブユキの金玉を蹴ってから、二人は夕食の時も会話しなかった。今日の朝も同様である。
ハツネは普段通りだったが、ノブユキは何やら思う所があったようで、両親との会話もおぼつかなかった。

ノブユキはまずリビングに来て、ハツネがいるのを確かめた。

「あ、お兄ちゃん。おかえりー」

「…ただいま」

ぼそりと言うと、ノブユキはそのまま自分の部屋にいってしまった。
そしてしばらくして、ジャージ姿でリビングに戻ってくると、ソファーに座ってテレビを見ていたハツネの前に立ち、いきなり平手で頭を殴りつけた。

「いった! 何よ、お兄ちゃん!」

ハツネは頭をおさえて、ノブユキをにらんだ。

「うるさい! 昨日のお返しをしてやるんだよ! 覚悟しろ!」

ノブユキはそう言って、さらにハツネの頭を叩いた。

「痛い、痛い! やめてよ、お兄ちゃん!」

ハツネはノブユキの攻撃をソファーに座ったまま、腕で防いでいたが、とっさに目の前に会ったノブユキの股間を、足で蹴りあげた。
昨日の一件以来、ハツネは金玉を攻撃することに抵抗がなくなっていたのだ。

「おっ!」

しかし、きれいに股間に入ったように見えたハツネの蹴りを受けても、ノブユキは表情を変えなかった。

「へへ! きかないんだよ!」

ノブユキはさらに、ハツネの頭を叩く。
ガードが堅いと見るや、さらにハツネのお腹などにもパンチを繰り出してきた。

「あっ! やめてよ、お兄ちゃん。ごめん。ごめんなさいって」

ハツネは金蹴りがきかないことを不思議に思ったが、ノブユキの攻撃に、たまらず謝ってしまった。
それを聞いたノブユキは、ひとまず叩くのをやめた。

「なんだよ。謝るのか?」

「うん…。ごめんなさい、お兄ちゃん。ハツネ、昨日、ひどいことしちゃったみたい…」

ハツネはうつむいて、しおらしそうにしている。
ノブユキは自分のお仕置きの効果に満足しているようだった。

「フン! キンタマ攻撃するとか、生意気なんだよ。まあこのとおり、油断してなければ俺には効かないけどな」

誇らしげに語るノブユキ。
確かに今日はハツネの蹴りが決まっても、ノブユキにダメージはないようだった。

「ホント? じゃあ、もっとやらして!」

ハツネは突然、顔を上げると、ノブユキのジャージのズボンを、素早くずり下げてしまった。

「あ!」

すると、ノブユキのジャージの中から、丸められたタオルがこぼれ落ちた。
どうやらこれを股間部分にあてて、衝撃を吸収するようにしていたらしい。

「やっぱり! サクラちゃんの言ったとおりだった。お兄ちゃん、キンタマを守るために何か着けてくるって。こんなの反則だよ、お兄ちゃん」

「う、うあ…」

仕掛けを見破られたノブユキは、ハツネから離れようとするが、ジャージを足首まで下げられていたので、身動きが取れなかった。

「じゃあ、今日も練習させてもらうね。えい!」

ハツネはにっこりと笑って、目の前にあるノブユキの股間に、下からまっすぐ拳を叩きつけた。
トランクス越しにムニュッとした金玉の感触を、ハツネは手に感じた。

「あうっ!」

ノブユキは昨日と同じように、金玉の痛みに悶える事になる。
トランクス姿のまま、その場にうずくまってしまった。

「えー。今日も一回でお終いなのー? もっと頑張ってよ、お兄ちゃん」

ハツネは残念そうな顔で言うが、ノブユキの痛みは、とても耐えられるものではない。どうやらハツネは、金的攻撃のコツをつかみ始めているらしかった。

「今日はね、クラスの嫌いな男子に、昨日、お兄ちゃんにやったみたいなひざ蹴りをしたの。そしたら泣いちゃったから、もうハツネにイタズラしちゃダメだよって言ったんだ。お兄ちゃんも、ちょっと懲らしめちゃおっかなー」

嬉しそうにそう言うと、ノブユキを置きざりにしたまま、自分の部屋に行ってしまった。
やがて戻ってくると、その手には学校で使っている手提げ袋が握られていた。
ノブユキはまだ金玉の痛みから回復せず、うずくまったままだった。

「あれ? まだ、しゃがんでるの? もういいよ、お兄ちゃん。早く立って」

ハツネはよくても、ノブユキはまだ回復には程遠い状態だった。
しかし、兄の意地をみせるため、そしてハツネが何やら準備していることを阻止するためには、ノブユキはここで立ちあがって、実力行使する必要があった。

「く…くそ…」

ノブユキは必死の思いで、立ちあがった。
片手で股間をおさえて内股になり、ひざをプルプルと震わせながら前かがみで立つその姿は、ノブユキの懸命な表情とは対照的に、どこか滑稽なものだった。

「何してんの? お兄ちゃん」

ハツネはきょとんとした顔で、ノブユキを見た。
ノブユキのこの様子では、反撃をしてくることなどとても想像できない。

「キンタマ、痛いんでしょ? 座ってていいよ。ハツネがジュース入れてあげるから」

妹の意外な言葉に、ノブユキは拍子抜けする思いだった。
しかしハツネはにっこりと笑って、テーブルのイスをノブユキの方に向けてあげた。
そんな妹の姿に、まだ兄の尊厳は保てていると、ノブユキは思った。
実際のところ、股間の痛みで、すぐにでもイスに座って休みたい気分だったのだ。
ノブユキはため息と共に、ハツネが差し出したイスに座った。

「ふう…」

ため息をついて天井を見た次の瞬間、ノブユキは自分の両手に違和感を感じた。
ハツネが手提げ袋の中から取り出したコード結束用のバンドで、ノブユキの両手をイスの手すりに固定してしまったのだ。

「お、おい!」

ノブユキは慌てて立ちあがろうとするが、その瞬間、ハツネの拳が股間めがけて振り下ろされた。
ボスっと音がして、またもノブユキの金玉は妹の拳に痛めつけられた。

「あぐっ!」

抵抗する力をすべて奪い取る痛みに、ノブユキは呻いた。

「もー。おとなしくしてて。すぐ終わるから」

ハツネはそう言うと、手提げ袋の中からビニール紐を取り出して、ノブユキの体をイスに縛り付けてしまった。
両手も結束バンドの上から紐が巻かれ、さらに両脚を開くように、イスの足に固定されてしまった。
これでノブユキは、金玉が痛くても、手でおさえる事も足を閉じる事もできなくなってしまった。

「かんせー! これね、サクラちゃんに教わったの。サクラちゃんも従兄の意地悪なお兄ちゃんにお仕置きしたことがあるんだって。すごいよねー、サクラちゃんって。何でも知ってるんだなー」

無邪気なハツネを前に、ノブユキは戦慄していた。
まったく身動きができない状態で、これから何をされるというのか。
両親が帰ってくるまで、あと2時間はある。それまで、自分はハツネのお仕置きに耐える事ができるのだろうか。

「ハ、ハツネ…。ちょっとやりすぎじゃないか? お兄ちゃん、さすがに怒るぞ…」

言葉とは裏腹に、ノブユキの声は震えていた。

「むー。怒ってるのはハツネの方だもん! お兄ちゃん、さっきハツネのこといっぱい叩いたんだからね。すっごい痛かった!」

「ゴ、ゴメン、ゴメン。ちょっとふざけたつもりだったんだ。ハツネもお兄ちゃんのキンタマ叩いたし、もうおあいこだろ。仲直りしようよ」

「ダメ! お兄ちゃんはさっき、ハツネの頭を10回叩いたんだから、ハツネもお兄ちゃんのキンタマを10回叩くの!」

ハツネはふくれっ面でそう言うと、ノブユキを無視して、手提げ袋を探り始めた。

「お兄ちゃんが、絶対仕返ししてくると思ったから、いろいろ準備したんだー。最初はこれにしようかな」

ハツネが取り出したのは、大きめのアクリル定規だった。
限界まで曲げてしならせると、かなりの衝撃を与える事ができる。
ノブユキはそれを見て、血の気が引く思いだった。




「お、おい。やめろって。お兄ちゃんが悪かったから…。仲直りしよう。な?」

「このくらいかなー。もっとかなー」

ノブユキの必死の頼みも、ハツネにはまったく聞こえていない様子で、熱心に定規の耐久性を確かめていた。

「えーと。キンタマはここでしょ?」

ハツネは思い切り曲げたアクリル定規を、ノブユキの股間の前に持ってきた。
ミシミシと、定規が曲がるイヤな音が、ノブユキの耳に聞こえる。

「ハツネ! ゴメンってば! 何でもするから。そうだ、お菓子を買いに行こう。お兄ちゃんがおごってやるから…」

「ホント? じゃあ、コレが終わったらね?」

ノブユキは叫ぶように懇願するものの、ハツネはまったくやめる気がなかった。
そして無情にも、大きく曲がったアクリル定規を支えるハツネの指が解かれ、ヒュン、と空気を切って、定規はノブユキの金玉に叩きつけられた。

パシィン!

高く、気持ちのいい音がした。
ハツネはその音を聞いて、実験の成功を確信したが、ノブユキは弾けるような痛みを、金玉袋の表面に感じた。
そしてその直後、黒煙のような重たい痛みが、下腹部全体に広がっていく。

「はぐぅ!」

ノブユキが痙攣して、イスがガタリと揺れた。
すぐにでも両脚を閉じて痛みに耐えたかったが、それすらも今のノブユキには許されない。

「いい音したねー。今のはきいた? どう?」

ハツネは楽しそうに、アクリル定規を振りまわした。

「ねえ、ねえ、お兄ちゃん?」

無言のまま首をうなだれて震えている兄の肩を、ハツネは定規でバシバシと叩く。

「も…もう、やめて…。俺が悪かったから…」

ノブユキはやっと、絞り出すような声で言った。
その目にはうっすらと、涙が浮かんでいる。

「えー。まだまだだよー。いろいろ準備したんだからね。ほら見て。輪ゴムでしょ。スプーンでしょ。洗濯バサミと、国語辞典。クラスの男子から、野球のボールも借りてきたんだ。この球とキンタマって、どっちが強いのかなあ?」

ハツネは楽しそうに、手提げ袋の中を広げて見せた。

「やめてくれ…。お願いします…」

しかし、自分が想像した以上のダメージを受けて、予想外にしおらしくなってしまった兄を目にして、ハツネは考えを改めざるをえなかった。

「むー。しょうがないなー。じゃあ、もうハツネのこと叩かないって誓う?」

「誓う…。誓います…」

ノブユキは必死にうなずいた。

「これからも、ハツネの言うこと聞いてくれるんだよね?」

「はい…。聞きます…」

「じゃあ、ちょっと物足りないけど、許してあげよっかな」

ハツネがそう言うと、ノブユキはホッと安心する思いだった。

「ただし」

ハツネは意地悪そうな笑みを浮かべる。

「お兄ちゃんのキンタマ、ちょっと見せてね。どんな風になってるのか、見たかったんだ」

そう言うと、ハツネはノブユキの返事も待たずに、トランクスに手をかけて、一気にひざまで下ろしてしまった。

「あ、ちょっと…」

ノブユキは、まだ小さい頃はハツネと一緒にお風呂に入ったりしていたこともあったが、ここ数年はさすがに裸を見せ合うようなことはなかった。
特にノブユキの股間にわずかな陰毛が生え始めてからは、人並みに恥ずかしがるようになっていたのである。

「あー。お兄ちゃん、もう毛が生えてるんだー。すごーい」

ハツネは特に恥ずかしがる様子もなく、ノブユキのペニスと金玉を観察し始めた。

「チンチンは、あんまり変わらないね。この下にあるのが、キンタマなの?」

ノブユキは恥ずかしさと苦しさで、無言のままだった。

「ねえ、お兄ちゃん!」

ハツネはペニスにデコピンをした。
ノブユキはハッと身を震わせて、答える。

「はい! そうです…」

自然と敬語になってしまっていた。

「ふーん。これがキンタマかあ…。フニフニしてるね」

ハツネは容赦なく、ノブユキの金玉袋に手を伸ばして触った。

「あ、キンタマって二個あるんだ。一個ずつ、右と左に入ってるの?」

ハツネはノブユキの金玉を触りながら、目を輝かせた。
女の子にはない器官が、よほど珍しかったようだ。

「あ…たぶん…」

「たぶんって、自分でわかんないの? 変なのー。あとコレ、まん丸じゃないんだね。ちょっと歪んでる。卵みたい」

ハツネが少し強く握って、その形を確かめると、ノブユキはうっと顔をしかめた。

「えー! お兄ちゃん、今、痛かったの? ハツネ、全然力入れてないよー」

「あ…キンタマは…敏感だから…」

ノブユキは苦しみながら言う。

「へー。そうかー。こんなのでも痛いんだー。大変だね、キンタマって。潰れちゃったりしたら、すごく痛いんじゃないの?」

「あ、うん…。分かんないけど…」

言いながら、ノブユキはイヤな予感がした。

「ふーん。あのさ、お兄ちゃん。キンタマ、一個潰しちゃダメ?」

ハツネは上目づかいの可愛らしい顔で、とんでもないことを聞いてきた。
ノブユキの予感は悪い方に的中し、必死に首を横に振った。

「ダメダメダメ! 絶対ダメ!」

「えー。いいじゃん。二個あるんだからあ。一個だけだって。ね?」

「ダメだって。それだけはダメ! ホントにやめて!」

ノブユキは改めて、身動きできないこの状況に恐怖を感じた。
口でいくら抵抗しても、ハツネが納得するだろうか。最悪の場合、金玉を一つ潰されてしまう。
ノブユキはとにかく必死に叫び続けることしかできなかった。

「やめて! お願い! 何でもするから、それだけはやめてくれ!」

「むー。そっかあ。でも、お兄ちゃんはハツネの言うこと聞くって約束したんだから、ちょっと試してみるだけね?」

ハツネはノブユキの金玉に、両手をかけた。

「どっちがいいかな…。こっちがちょっと小さいかな。こっちでいいや」

「や、やめて! やめてってば!」

ハツネはノブユキを無視して、右の睾丸をがっちりと両手で掴む。

「いくよ。そーれ! ギュー!」

可愛らしいかけ声と共に、ハツネはノブユキの睾丸を渾身の力で握りしめた。
恐ろしいほどの痛みが、ノブユキの体全体に電気のように走る。

「ぎゃあぁぁ! ダメ! ダメー!」

ノブユキが全身を痙攣させると、さすがに縛り付けてあるイスがガタガタと動いた。

「あ、ダメ。動いちゃダメだよう。コリコリして、握りにくいんだね」

ハツネはしかし意に介さず、睾丸を握る手を緩めようとはしない。

「あぎゃー! ぐえっ、えっ!」

小学生のハツネのか弱い握力といえど、金玉に苦しみを与えるのは十分すぎるものだった。
数秒間も握られ続けると、ノブユキは、これまでにない寒気のようなものを感じて、喉の奥から気持ちの悪い感覚がこみ上げてきた。

「どう、お兄ちゃん。潰れそう?」

「つ、潰れる。潰れるから! はなしてー!」

「そうなの? でも、まだもうちょっと…。えーい!」

ハツネは気合を入れ直して、さらに強く睾丸を握りしめた。
すると次の瞬間、ハツネの手の中から、グリッと睾丸が逃げる感触がした。

「ぎゃうっ!」

ノブユキは背筋を伸ばして身を震わせて、次にガクッと首を前に落とした。

「あれ? 潰れちゃった?」

ハツネは不思議そうに、自分の両手を見た。
ノブユキの金玉袋をそっと触ってみると、そこにはまだ睾丸が二個、あった。

「なーんだ、潰れてなかったんだ。キンタマが手の中から逃げちゃったんだね」

ハツネは納得したようにうなずいた。
ノブユキはうなだれたまま、ピクリともしない。

「でもホント、なんで男の子にはキンタマなんて付いてるのかなあ。こんなの、痛いだけなのに。潰しちゃえば、もう痛いこともなくなるのかなあ」

ハツネは独り言のようにつぶやく。

「お兄ちゃん」

ハツネが呼ぶと、ノブユキはゆっくりと顔を上げた。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、疲れ切っている。

「も、もうやめて…。お願いだから…」

「あれ? お兄ちゃん、そんなに痛かったの? ゴメンね。潰れてはいないから、大丈夫だよ」

「は、はい…」

ノブユキはまたガックリとうなだれた。

「じゃあ、今日はこれで許してあげる。でもまた、ハツネに意地悪したりしたら、今度こそ潰しちゃうかもよ。フフフ」

ハツネはそう言って、ノブユキを縛り付ける紐をほどいてやった。
やっと自由になった両手で、ノブユキは自分の金玉の無事を確かめる。

「あと、このことはパパとママには秘密だからね。わかった?」

「はい。はい」

ノブユキは必死にうなずいた。

「あ、でもパパにもキンタマがあるんだっけ。じゃあ、今度はパパのもいじってみたいなあ。どうしようかなー」

ハツネは楽しそうに笑いながら、手提げ袋を持って、リビングから出ていった。
ノブユキが立ち上がれるようになるまで、1時間以上、イスに座っていることしかできなかった。


終わり


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