「蒲田ユウジ。我々は、金銭のためにこんなことをしているわけではない。これは、お前が反省するかどうかという問題だ。お前は反省しているのか?」
「……っつ!!」
息をつまらせながら、ユウジは必死にうなずいた。 もはや、声も出すことができない様子だった。
「よろしい。それでは、あなた。こっちへ来なさい」
総代はうなずくと、アズサを招きよせた。 それに合わせるように、黒装束の女たちは、ユウジの体を抱き起した。 しかし、もはや自分の力では指一本動かせないほどに消耗したユウジの肥満体は重く、彼女たちの力を合わせても、上半身を起こすだけで精いっぱいだった。
「次は、あなたの番だ。男の金星を蹴る。できるかな?」
「あ…は、はい! でも…本当にいいんですか?」
アズサが少しためらいがちに尋ねると、総代は何か考えるかのように小首をかしげて、長い髪が美しく揺れた。 アズサはその姿に、なぜか既視感を覚えたが、それも一瞬のことだった。
「蒲田ユウジ。この男の部屋で見つかったものを、あなたは知ってる?」
「え? い、いいえ…」
「女物の下着が二十数点、学園指定のスクール水着が5点、学園の女子の制服が2点、さらに、学園の小等部のものと思われる女子の体操服が4点。いずれも盗まれたものだろう。さらに、この男がそれらを使用した形跡も確認された」
「え…! それって…」
「そう。この男は、常習犯だ。この男がお金で買い取っているから、下着の盗難が後を絶たないのだ。自分では手を汚していないつもりかもしれないが、実際はこの男が、最大の悪と言えるかもしれない」
アズサは絶句した。自分が思っている以上の変態行為が、目の前の男によって行われていたと知ると、気味が悪いと同時に、怒りさえもこみ上げてきた。
「そして、その諸悪の根源が、この男の金星だ。この男の変態的な欲望は、すべて金星から生み出され、たくさんの女子生徒が被害にあっているのだ。だとすると、我々は女性を代表して何をしなければならないか。わかるな?」
「はい! 蹴ります! 蹴り潰してやります!」
迷いのない、まっすぐな返事だった。 それを聞いた総代は、覆面から覗く眼だけで笑い、うなずいた。
「やってみなさい。そう。少し、狙いやすいようにしてあげよう」
そう言うと、総代はしゃがみ込んで、ためらうことなくユウジのトランクスを脱がしてしまった。 アズサは一瞬、驚いたが、トランクスの下から、腫れ上がったユウジの二つの睾丸が顔を出すと、怒りと憎しみに満ちた目で、それを見つめた。
「ここに、二つの金星がある。これを狙いなさい。最初はつま先で、思い切り。その方が、確実でしょう」
「はい!」
大きく開かれたユウジの足の間で、アズサは身構えた。 ユウジの意識は朦朧としていたが、目の前の少女が、すさまじい殺気のこもった眼で自分の股間を見つめていることは、本能的に感じた。
「ひ、ひぃぃ…!」
思わず悲鳴を上げたが、もはやアズサはためらわなかった。
「この、変態っ!!」
ガスッ! と、アズサの右足のつま先が、腫れ上がったユウジの睾丸を二つとも押しつぶした。
「ぎゃうっ!!」
ユウジは一声上げると、そのまま白目をむいてしまった。 女たちが手を離した瞬間、その巨体はどさりと崩れ落ち、口からは泡を吹きだしていた。 ユウジの睾丸は、潰れたわけではなさそうだったが、赤黒く腫れたその様子は、良くて内出血。おそらくは睾丸打撲などの状態であると思われた。
「ハア…ハア…」
アズサは、自分のやったことがまだ信じられないようで、荒い息をしながら、呆然と宙を見つめていた。
「よくやった」
総代に肩を叩かれて、我に返った。
「あ、あの…私…。大丈夫ですか?」
どういう意味で言ったのか、アズサ自身にも分からなかった。
「今夜の一件は、すべて月下会の制裁によるものです。あなたは何も心配しなくていい。でも、学園新聞に載せるときは、気をつけなさい。学園警察に、自分の名前を加えてしまわないように」
総代は小さく笑ったようだった。 そのままくるりと背を向けて、黒装束の女たちは、立ち去ろうとする。
「あ、あの…! 私…私も…」
アズサが言いかけた時、総代が少しだけ振り向いた。
「我々は、あなたのような人材を待っている。時が来れば、こちらから迎えに行くでしょう。またその時にね。アズサさん」
アズサはその声に、ハッと気がついた。 今までは、わざと声色を変えていたのか。自分の名前を呼んだその声は、アズサがよく知るあの美しい声だった。
「あ、副会長…?」
総代はその問いかけには答えずに、旧校舎の暗がりの中へ、姿を消してしまった。 男の愚かさと脆さ、女の強さと美しさ。そして、憧れの副会長の新たな一面を発見した夜だった。
翌日の放課後。 刷り上がったばかりの学園新聞を持って、アズサが生徒会室に飛び込んできた。
「先輩! 副会長! 見てください。『月夜の裁き! 学園警察が下着盗難事件を解決!』 これ、私が書きました!」
ちょうど生徒会室にいた副会長の南サヤと、書記を務める2年の男子が、それを読んだ。
「なになに…。『先日、女子水泳部で起きた盗難事件の犯人、三浦カツヤと蒲田ユウジは、盗んだ下着とともに、気絶した状態で発見された。二人は何者かに、襲撃され、股間の急所を痛めつけられたようで、学園は二人の処分を検討している』…へー」
アズサが書いた記事を、書記の男子が読み上げるのを、サヤはほほ笑みながら聞いていた。
「『本誌記者は、この事件が先日来、学園の噂となっている学園警察のものであることを確信し、さらに真相を追求すべく、鋭意取材中である』と。ふーん。学園警察ねえ。ホントかよ、これ?」
「ホントですよ。そうですよね、副会長?」
アズサの問いかけに、サヤは微笑した。
「そうね。面白いわね」
「しかし、学園警察かなんか知らないけど、下着盗んだくらいで、気絶するほど金玉蹴らなくてもいいんじゃないかなあ。男には、どうしてもムラムラしちゃうときがあるんだよなあ。下着ぐらい、ほっとけば…」
書記の男子がそんなことを言うと、アズサがキッと顔を向けた。
「先輩! そんなこと言ってると、先輩のところにも来ますよ。学園警察が!」
すると、その男子はビクッと体を震わせた。
「い、いや…。俺が言ってるのは、そういう意味じゃないよ。違うって…」
本人も気づかないうちに内股になって、股間に手を当てているその姿に、アズサは吹き出してしまった。
「アハハ! 先輩、なんですか、その格好! アハハ!」
「フフフ…」
サヤもまた、アズサと共に笑い出した。 女の子二人は、男子の情けない姿を見て、しばらくは笑い続けていた。
終わり。
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