「さて。蒲田ユウジ。次はお前の番だ」
総代が振り向くと、ユウジは大きな体をビクッと震わせた。 ユウジは先ほどからずっと、うずくまったままでいる。逃げるチャンスはいくらでもありそうだったのだが、足がすくんで動けなかったのだ。
「ひ…。ゆ、許して…」
ユウジは奥歯を振るわせながら言った。
「三浦カツヤに裁きを加えている間、お前が逃げなかったことは評価しよう。反省しているものと受け止める。しかし、お前のような者がいるから、下着を盗もうとする者がいる。お前はそれを理解しなければならない」
総代の冷静な口調で、理路整然と説かれると、ユウジも黙ってうなずくことしかできなかった。
「よって、これからお前にも月下会の名において、制裁を加える。立て!」
総代の命令を受けても、ユウジはうずくまったまま、立ち上がることはできなかった。 それを予期していたかのように、素早く黒装束の女たちが回り込み、体を引き起こした。カツヤと同じように、ズボンをずりおろされると、トランクス一枚の状態になって、両脇を抱えられる様にして立たされた。
「これからお前の金星を、蹴りあげる。気絶しないように、意識が飛ばないように、手加減して蹴る。お前は痛みにのたうち回るだろうが、しばらくすれば、起きあがれるようになるだろう。その時になったら、また蹴りあげる。それを4回繰り返す。覚悟しなさい」
丁寧な説明だったが、それはユウジにとって恐怖以外の何者でもなかった。 すでに彼の意識しないままに、その両目から涙がこぼれ始めている。
「許ひて…お願いします…」
ユウジが泣きじゃくって懇願しても、総代以下、女たちの反応は冷めたものだった。
「それはできない。お前も男なら、覚悟を決めろ。まあ、男だからやめてほしいのかもしれないが…」
総代のつぶやきに、女たちは小さく笑った。 その光景を後ろから見ていたアズサもまた、ユウジのあまりの必死さに、吹き出してしまっている。彼女たちにとっては、男たちがこれほど恐れる金玉への攻撃というものが、おかしくてしょうがないらしかった。 他のどこを攻撃しようとしても、これほど男が恐怖することはないだろう。しかも、痛みに耐えるとか我慢するとか、そんなこともできないらしい。 あの二つの小さなピンポン玉のようなものを叩くだけで、何がそんなに痛いのか。また、そんなものを男たちはなぜ無防備にぶら下げているのか。彼女たちには一生理解できることではなかった。
「では、月下会の名において、制裁を始める!」
「お願いします!」
「せいっ!」
総代の長い脚が、再び男の股間めがけて跳ね上げられた。
「むぐぅっ!!」
ユウジは豚のような悲鳴を上げて、息をつまらせた。 総代が足を引くと同時に、両脇を抱えていた女たちも、その手を放した。 ユウジはたまらず両手で股間をおさえて、床の上にうずくまってしまった。
「ぐぐぐぐ…!」
歯を食いしばって痛みに耐えようとするが、まったく意味がない。 他の場所を攻撃されるのとは、訳が違うのだ。金的を攻撃された男は、絶望的な痛みに耐えながら、ただ時間が過ぎていくのを待つしかないのである。
「少し手加減しすぎた。次はあなた。その次はあなたに任せましょう」
総代は、黒装束の女たちに指示を出した。 そしてアズサの方を振り向くと、
「あなたも、蹴ってみる?」
意外な言葉だった。 アズサも驚いたが、総代に従っていた黒装束の女たち二人も、驚いた様子だった。 しかしアズサは、ほとんど反射的にうなずいてしまった。
「は、はい。お願いします!」
総代はうなずいて、覆面の下で微笑したようだった。 一方のユウジは、彼女たちのそんな会話に耳を貸す余裕もなく、細く長い深呼吸を繰り返して、ようやく体を動かそうとしているところだった。
「では、次」
冷酷すぎる言葉だった。
「ひ…ひぃ…!! もうやめて…」
抱き起こされたユウジは、涙を流しながら叫んだ。 しかしまたも、彼の体は女性たちによって引きずり起こされ、無理矢理に足を開かされた。 抵抗しようにも、もはや彼の体にその力は残っていない。
「ダメだ。制裁は最後まで続ける。それが月下会の掟だ」
「いきます!」
無情なほど正確に、黒装束の女の膝蹴りが、ユウジの股間に炸裂した。
「あごっ!!」
ユウジは自分の睾丸が、彼女の膝と自分の恥骨に挟まれて押し潰されるのを、はっきりと感じた。それは時間にしてみればほんの一瞬のことだったが、ユウジにとっては、これから訪れる地獄のような時間の幕開けのようなもので、できればこの瞬間に気絶したいとさえ思った。
「はあっ! あっ! あっ!」
彼の意志とは無関係に、ユウジの体は激しく痙攣し、文字通り床の上でのたうち回った。 いったい、彼の体のどこに、こんなに素早く動く力が残されていたんだろうと思うほど、激しい動きだった。
「いい蹴りだ。素晴らしい見極めね」
「はい。ありがとうございます!」
総代にほめられて、黒装束の女は、うれしそうに頭を下げた。 どうやら、気絶するギリギリのところを見極めて、彼女はユウジの股間を攻撃したらしかった。 男の急所の痛みは分からないにしても、彼女たちは経験で、そんな技術を見につけているのかと思うと、アズサは純粋に彼女たちに尊敬の念を抱いてしまった。
「では、次」
「はい!」
再びユウジの体が引きずり起こされた。
「…や、やめて…。もう…。お金…払う…から…」
不良にカツアゲされた記憶でもよみがえったのか、ユウジは朦朧とした意識の中でつぶやいた。 総代を含めた黒装束の女たちは、顔を見合わせて、呆れたような目をした。
「分かった。じゃあ、もう、蹴らないでやろう」
脇を抱えた総長が言うと、ユウジの顔がパッと明るくなった。
「ホ、ホントに…?」
次の瞬間、ユウジの目の前で黒装束の女がしゃがみこみ、股間に向かって、強烈なパンチを突き上げた。
「ぎゃはっ!!」
女の拳は、ユウジの睾丸を正確に貫いた。金玉袋の裏側、斜め45度から突き上げて、縮み上がったペニスに向かって拳が通り抜けたとき、ユウジの全身の神経は、痛みというシグナルにすべて支配された。
「あぁっ!! くくっ…!!」
これで都合4回目、ユウジはのたうち回ることになる。 大理石の床に頭を打ちつけようが、足をばたつかせようが、その痛みはまったく治まる気配がなかった。 金玉を潰さずに、最も苦痛を与える方法を、女たちは熟知しているようだった。
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