ケイコの場合は、最初から二人の男子を相手にしていた。 昨日、カエデからたっぷりとキンタマ握りの方法を教わっていたケイコは、それを実戦で試してみたくてうずうずしていたのだ。
「いくよー!」
女子の中でも足の速いケイコは、素早く男子達の群れの中に突っ込んでいった。クラスでも一番背の高いハヤトと、その次に背の高いシュンに目をつけて、二人の目の前にくると、突然しゃがみこんだ。
「え?」
背の高い二人は、何が起こったのかと一瞬、戸惑ってしまったが、次の瞬間、ハヤトのズボンの上から、ケイコが思い切りキンタマを握りしめた。
「うぎゃあ!」
ハヤトは反射的に腰を引いてしまったが、ケイコの右手は、しっかりとキンタマの一つを掴んで放さない。
「あ、これがキンタマかあ。ホント、ちっちゃい卵みたい」
苦しむハヤトをよそに、ケイコはのん気そうに言った。 その様子を隣で見ていたシュンの方が、むしろ慌ててしまった。
「お、おい!」
シュンが身構える前に、ケイコの左手が、シュンの半ズボンの隙間からすっと入って、その中にあるブリーフの膨らみをつかまえた。
「ああっ!」
シュンもまた、男の痛みの犠牲になった。
「あ、こっちの方がちょっと大きいかな。ねえ、もっとこっちにきてよ。握りにくいから」
ケイコはそう言いながら、両手に掴んだキンタマを、グッと引き寄せた。
「ひいぃっ!」
「は、放して…」
二人はキンタマを引っ張られて、抵抗のしようもなかった。 男の子たちの必死の形相を見て、ケイコはつい笑ってしまった。
「えー。そんなに痛いの? ぜんぜん力入れてないんだよ。ホントに男子の弱点なんだねー。じゃあさ、思いっきり握ったら、どうなるの?」
ケイコが女の子らしい小悪魔的な意地悪さで、二人にたずねた。 ハヤトとシュンはすでに重苦しい痛みに喘いでいたが、ケイコの悪戯っぽい笑顔を見て、思わずぞっとした。
「やめて、やめて!」
「お願いだから…」
「えー。どうしよっかなー」
二人の大柄な男子達が、必死で自分にお願いしている姿に、ちょっとサディスティックな満足感を感じた。 もちろん、やめる気などまったくない。
「いくよー。せーの、ぎゅー!」
掛け声と共に、両手に掴んだ一個ずつのキンタマを、手の中から逃がさないように、思い切り握り込んだ。
「ぎゃああー!」
「ぐえぇっ!」
ハヤトとシュンは悲鳴を上げ、背筋を反らせて天を仰いだ。 身長が高く、運動も得意な自分たちが、自分よりずっと背の小さい女の子にこんな苦しみを与えられるとは、想像もしなかっただろう。
サユリは、マサキと一対一の戦いをしていた。 運動ができるという意味では、マサキは一年生のころから空手を習っていて、男子の中では一番の運動神経を持っているはずだった。 それが、比較的運動の苦手なサユリに対して、完全に受け身に回ってしまっている。
「どうしたの? そんなに離れてたら、ケンカにならないよ」
サユリは意地悪そうな笑いを浮かべながらマサキに近づいていくが、マサキは後ずさりした。 本人は空手の稽古のときのようにかまえているつもりだったが、違うのは、腰が異様に引けてしまっている点と、左手をしっかりと股間に当てて守っているところだった。
「もー、逃げちゃダメだってば」
サユリはすでに、2人の男子をキン蹴りでノックアウトしてしまっていた。そのせいか、もはや男子など恐れるに足りないというような余裕の態度を見せている。 マサキは、サユリが2人の男子をあっさり倒してしまったのを見て、警戒しているのだ。
「ま、待てって。ちょっと待って」
マサキは、男子の中ではほとんど唯一、キンタマ攻撃の怖さを知っていただろう。空手の稽古中、相手の蹴りが股間に当たってしまったことがあり、その苦しみは、今思い出してもぞっとする程のものだった。 普段の稽古ではもちろん反則となっているが、今はケンカである。狙われたところで、文句は言えないのだ。
「マサキ君、強いんでしょ? ちゃんとケンカしよーよ」
サユリはじりじりと間合いを詰めてくる。しかしマサキの手が届く範囲までは、決して近づかないのだ。サユリにとっては、自分の蹴りがマサキの股間にギリギリ届く間合いであればいい。 マサキも空手の蹴り技で応戦したいところなのだが、むやみに脚を上げれば、即座にサユリのキン蹴りが飛んでくるだろう。マサキは金的のガードを解くことだけは、絶対にしたくなかった。
「うーん…。しょうがないなー」
サユリはつぶやきながら、マサキの目の前で、すっとしゃがんでみせた。 マサキは何事かと思ったが、下手に手を出せない。
「えい!」
立ち上がると同時に、サユリは地面から拾った砂を、両手でマサキの顔面に向かって投げつけた。
「うわっ!」
当然の反応として、マサキは両手で目を守ろうとする。 しかしこれも、カエデがサユリに授けた作戦の一つだったのだ。
「ホントだ。キンタマ、がら空きになった!」
マサキの耳にサユリの嬉しそうな声が聞こえるのと、股間に重たい衝撃が走るのが、ほとんど同時だった。 マサキが後悔するヒマもなく、重苦しい痛みが下腹部に押し寄せてきた。
「あぐぅ…」
両の膝から力が抜けて、立てなくなる。 砂をかけられた目も痛かったが、それどころではないくらい、本能的に危機を感じる痛みが、マサキの股間を襲っていた。
「ごめんね。でもアタシ、か弱い女の子だから。卑怯じゃないよね?」
正座のような姿勢で痛みに震えているマサキに向かって、サユリは可愛らしい笑顔を向けた。 マサキが習ってきた空手など、何の役にも立たなかった。男同士のケンカではマサキは負けたことがなかったが、それはキンタマを狙わないという、暗黙のルールがあってこそのものだった。 キンタマを持たない女の子相手のケンカが、どれほど危険なものなのか、マサキはいつ治まるともしれない痛みの中で、思い知ったような気がした。
「え…おい…」
男子達のリーダー格であるコウタは、大将気取りで動かないまま、仲間たちが次々とKOされていく様子を見ていた。 いつの間にか、中庭に立っている男子は、コウタだけになってしまっている。
「お前ら…なにやってんだよ!」
コウタの呼びかけにも、返事ができる男子は残っていなかった。 人数の上で圧倒的に有利なはずだった男子達は、次々と女子のキンタマ攻撃の餌食となり、戦意を喪失し、そのほとんどが地べたに這いつくばって股間をおさえて苦しんでいる。
「さあ。あとはアンタだけみたいだね」
こちらも開始位置から動かなかったカエデが、ゆっくりとコウタに近づいてきた。
「あ、もういなくなっちゃったの? もっと蹴りたかったのに」
サユリが残念そうにあたりを見回した。 あたりにいるのは、戦闘を終えた女子たちばかりで、ほとんど疲れた様子もなく、笑い合いながらコウタの周りに集まってきた。
「元はといえば、アンタが一番悪いんだからね。もう、謝っても許してあげないから」
先手を打つかのように、カエデは言い放った。
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