「じゃあ、男子も脱ぐか」
タカヒコが言うと、男子部員たちは無言で帯をほどき、上着を脱いだ。 たくましく鍛えられた肉体が現れたが、もちろんそれに欲情する女子などいるはずもなかった。
「次はミキオか。頑張れよ!」
「はい! やります!」
ミキオは、空手部の中でも期待されている二年生だった。 入部した時から身長が高く、がっしりとしていたが、一年間みっちりと鍛えたことで、さらに体格がよくなった。 男子の大会においても、ちょっとやそっとの攻撃は跳ね返してしまうような筋肉の鎧に覆われている。
「へー。またマッチョになってきたね。腹筋もきれいに割れてるじゃん。すごーい」
ユラが言うように、ミキオの腹筋は俗にいうシックスパックのようにきれいに割れていて、とても女子の拳では歯が立ちそうになかった。 ミキオも褒められて、悪い気はしない。
「ま、アタシが狙うのはその下だから。気をつけてね」
ユラはウインクして笑った。 金蹴り予告といったところだった。
「では、始め!」
四回戦目が始まった。
「おう!」
ミキオは気合を入れてかまえたが、目の前にいる相手はどういうことだろう。 黒いスポーツブラにはまったくおさまりきらない大きな胸が、柔らかそうに波打っている。 しかも長身のミキオから見れば、胸が大きすぎて、ユラのお腹の部分がほとんど隠れてしまっている。 女の子の胸を殴るわけにはいかないから、男子は普通、脇腹などを狙うのだが、手を伸ばせば波打つ胸に触れてしまいそうで、ミキオは攻撃しづらかった。
「来ないなら、こっちから行くよ!」
手を出しづらそうなミキオを見て、ユラが先に動いた。 ミキオの懐に踏み込んで、突きを放つ。 ブルン、と胸が上下に大きく揺れた。
「えいっ!」
ユラの拳を、ミキオは腕でガードした。 やはり女子の攻撃で、その衝撃はさほどでもない。 しかしユラは足を止めて、次々に突きを打ち込んでくる。 体全体を押し付けるようにしてくるので、ミキオの目のすぐ真下に、深そうな胸の谷間が見えた。
「はっ! やっ!」
ミキオはガードを固めていたが、やはり何発かはいい攻撃をもらってしまう。 やがて左の脇腹にいい下突きをもらったときに、ミキオは反射的にユラを押し返そうした。 ムニュっと、彼が今までの人生で感じたことのない、恐ろしく柔らかい感触が、両腕に伝わってきた。
「あ…ん!」
ユラがわざとらしく色っぽい声で反応すると、ミキオの戦闘モードが一気に解除される。
「あ! す、すいません…」
「ううん。こっちこそ、ゴメンね?」
焦るミキオの反応はユラの予想通りで、にっこりと笑顔を浮かべながら、軽く丸めた掌底で、ミキオの金的をすくい上げた。
「はうっ!!」
腕の力を抜き、肘から下を加速させるようにして男の股間を狙い撃つ。 金的攻撃には重さよりもスピードが重要という基本を熟知した、ユラの金的攻撃だった。 ユラは自分の右の掌の上に、ミキオの睾丸が二つとも乗ったことを確認し、それをぐっと恥骨に押し込むように持ち上げた。 手を引くときに何も感じなかったのは、ミキオの睾丸が体内に上がってしまったからだと、彼女の経験が教えていた。
「ぐ…えぇ…!!」
股間に杭を打ち込まれるような衝撃が走り、その苦しみは喉の奥まで上がってきた。 ミキオの大きな体が、あっという間にエビのように小さく丸まってしまった。
「勝負あり! 勝者、ユラ!」
タカヒコはすぐさま、試合を止めた。 誰も文句が出ないほどの、ミキオの苦しみようだった。
「イエーイ! 2連勝!」
「だ、大丈夫か、ミキオ?」
はしゃぐユラの足元で、ミキオが震えていた。
「あー、ゴメンね。たぶん、タマが上がっちゃってると思う。大丈夫かな?」
「おい! 運んでやれ!」
タカヒコが指示すると、男子部員たちはミキオの両脇を抱え運んでいき、道場のすみに寝かせた。
「ゴメンねー。ちょっと力が入っちゃったなー。痛いんだよねー?」
ユラは巨乳を揺らしながら、ミキオに声をかけてやった。 しかしその様子はどこか他人事で、自分には縁のない苦しみであると分かりきっている女の子の口ぶりだった。 一方の男子部員たちは、悲惨な状態になったミキオを見て、先ほどとは全く違った静まり返り方をしてしまっていた。 その男子の様子を見て、女子部員たちは勢いづいた。
「ほら、どうしたの? あっという間に2連勝じゃない。さっきまでスケベな顔して見てたくせに!」
「金的されるのが怖くなっちゃった? あんまりビビんないでよ。縮んだら、狙いにくいからね!」
この勝ち抜き戦もすでに4回目なので、ある程度卑猥で挑発的な言葉も飛び出すようになってきていた。
「よし。脱ぐか」
タカヒコが言うと、男子部員たちは道着のズボンを脱いだ。 彼らは皆、トランクスなどではなく、ピッタリと肌に張り付いた下着を身につけていた。 普段はファールカップを着けるときもあったし、その方が動きやすいからだろう。
「じゃあ、次はツカサか」
「おう!」
立ち上がった三年生のツカサは、特に面積の狭いビキニブリーフを履いていた。 これに特に意味はなく、彼の趣味の問題だったが、がっちりとした体格によく似合っていた。
「ちょっと。ずいぶん小さいパンツ履いてるじゃない。そんなに裸を見せたいの? ヘンタイ」
ユラは同級生の気安さもあって、ツカサのパンツをからかった。 かといって恥ずかしがるわけでもなく、堂々とツカサの股間の盛り上がりを指さして笑っている。
「うるせえ! そっちだって、ヘンタイみたいな恰好じゃないか!」
この勝ち抜き戦で、ちょうど下着姿になる順番に巨乳のユラをおいていることは、女子たちの明らかな作戦だった。 男子たちはその作戦に見事にはまって、先月は4連敗してしまっている。 その悔しさがツカサの口をついて出た。
「言ったわね! どっちがヘンタイか、はっきりさせてあげる!」
ツカサの言葉に、ユラは反応した。
「よし。では五回戦、始め!」
タカヒコが開始の合図をすると、ツカサはその場に腰を落としてかまえた。 対するユラは、少し前かがみになって、ツカサを観察するようにじっと見つめている。 その姿は、男に何かをせがむ女の子のようにも見えた。
「…くっ!」
このヘンタイ女め、とツカサは思った。 彼は女嫌いというほどでもなかったが、空手部の男子の中では一番ストイックに稽古に励んでいる。 自分が青春をかけている神聖な空手の試合で、男を誘惑するようなことをする女子たちが、内心許せなかった。
「あ、ちょっと待って。動いたら、ズレてきちゃった。よいしょっと」
と、ユラはわざとらしくブラジャーに手を入れて、下から持ち上げるようにしてその豊満な胸の位置を直した。 その重さ、柔らかさは自分たちが想像もできないほどのものだと、男子全員が頭の中で考えていた。
「ふう。おっきすぎるのも、けっこう大変でさ。…って、アンタも気をつけたほうがいいよ。大きくなったら、はみ出ちゃいそうだもんね。それ」
と、ユラはツカサの股間の膨らみを指さした。 確かに彼が履いているビキニブリーフでは、全開まで勃起したら、頭がはみ出てしまうかもしれない。 実際にはみ出るかどうかは問題ではなく、ツカサにそれを意識させるのがユラの作戦だった。
(まさか…。試合中に勃起するか…!)
まさかとは思うが、少しでも股間に意識が向けば、それがスイッチになってしまうのが男の体の習性だった。 まして目の前には絶好のオカズがある。 ツカサの下半身に、急速に血液が集まり始めていた。
「さて。来ないなら、こっちから行こうかな」
と、作戦の種をまき終えたユラは、無防備に胸を揺らして近づいてきた。 すでに頭の中が「勃起するかしないか」という性的ファクターによって占められはじめていたツカサは、動揺した。
(これは…無理だ…)
格闘ゲームなどで、露出度が高い女性キャラはよく見る。 格闘技をやるとは到底思えない、可愛くてスタイルのいい女の子が、水着のような恰好をして、普通に戦っている。 あれはウソだ、とツカサは身をもって知った。 あんな格好をした女の子と、男が向かい合って、普通に試合ができるわけがない。 なぜなら今、自分は目の前にいる下着姿の女の子に、触れることすらためらうぐらいなのに。 ゲームのように遠慮なく、ボコボコに殴れるはずがない。 かまえることもせずに、胸の谷間を見せつけながら迫ってくるユラに、ツカサは自然と後ずさりしてしまった。
「あれ? どうしたの? 腰が引けてるよ? ちょっとはみ出そうになってる?」
ツカサはぎくりとしたが、表面上はかまえをとかず、ユラから目を離さなかった。 まさか、勃起しているはずはない。 しかし、もしかして。 そう考えると、無意識に右手が下腹の方へ降りていってしまう。 ユラはツカサのその動作に、吹き出してしまった。
「アハハ! やっぱり気になるんだ? ウソウソ。はみ出てないよ」
ツカサはホッとした。 しかしその次の言葉に、男として思わず反応してしまう。
「まだ半勃ちくらいじゃない? それともそれがマックスかな?」
イチモツの大きさを女の子に見定められて、反応しない男はいない。 ツカサはえ?と、自分の下半身に目を落としてしまう。 ユラは野生動物を狩るハンターのように、注意深くその瞬間を待っていたのだ。
「隙あり!」
ツカサの視線が外れると同時に、一気に間合いを詰めて、思い切り左脚を伸ばす。 ビキニパンツに包まれて、キュッと引き締まった自分の股間がグニャリとひしゃげるのを、ツカサは目撃することとなった。
「はうっ!?」
ユラは勝利を確信した。 彼女の経験の中でも、そう多くないほど見事な手ごたえだった。 この感触があるとき、男は間違いなく一撃で沈む。 少なくとも30分以上は股間をおさえて、女は決して味わうことのない痛みにうずくまることになる。 危険な獲物をうまく仕留めたときのような快感をユラは感じ、それが油断につながった。
「くっ! ああっ!」
ツカサは苦痛に顔をゆがめながら、拳を繰り出した。 金玉の痛みは、それ自体に打撃を受けた瞬間を第一波。 その数秒後に訪れる、下腹部全体に響くような痛みを第二波とする説がある。 この第二波が来たときには、男は間違いなく動けなくなる。 その痛みはとても我慢できるものではなく、何も考えられなくなり、男に生まれたことを後悔する時間がひたすら続く。 しかし金玉を蹴られた瞬間の第一波の痛みは、何とか我慢できる場合もあるのだ。 アドレナリンの状態やアルコールの摂取量など様々な要因で、痛みが緩和されることがある。 だから女性が金的攻撃をする場合、蹴った後、第二波が来るまでの数秒間は、注意をしなければならない。 手ごたえがあったとしても、このツカサのように、思わぬ反撃をしてくる場合があるからだ。
「あっ!」
ユラはまったく予想外の攻撃を、避けることができなかった。 ツカサは金玉を蹴られたことで、一瞬にして冷静になることができた。 それは、男が射精した後の賢者タイムと呼ばれる時間に似ているかもしれない。 強烈な金的蹴りによって、性衝動が頭から追い出され、普段の稽古通りに体が動いたのだろう。
「一本!」
ツカサの拳は無防備なユラの脇腹に突き刺さり、タカヒコは一本を取った。 ユラが苦痛に顔をゆがめる。 しかしその時にはすでに、ツカサは前のめりに崩れ落ちて、股間を両手で押さえたまま尻を高く上げ、ピクリとも動かなくなっていた。
「おい! 大丈夫か?」
もはや試合どころではなく、明らかな戦闘不能状態だった。
「アイタタ…。もらっちゃったー。でも、そっちもダウンしたから、引き分けかな?」
ユラは打たれた脇腹をさすって、痛そうな顔をしていた。 当たり前だが、ツカサの苦しみはその比ではない。
「いや…。金的は一本じゃないから。ギリギリでツカサの勝ちだ」
戦闘不能になる直前に攻撃を当てたということで、ツカサの勝利と判断したらしい。 金的攻撃は認めるが、それで一本は取らないという条件は男子の方から出した妥協案だったが、それが今回はうまく機能した形になった。
「えー! ウソ! だって、相打ちじゃない。そんなのあり?」
タカヒコが女子部長のマリナを見ると、マリナも渋々うなずいた。
「しょうがないわね。そういうルールだから」
「そうなの? 引き分け延長じゃダメなの? アタシはまだやれるよ。もっと強く蹴ってあげてもいいんだよ?」
ユラは悔しさから興奮しているのか、挑発するように言った。 うずくまるツカサと、それを見下ろすユラ。確かに誰の目から見ても、勝負に勝ったのはどちらか、はっきりとしていた。
「ルールはルールだからな」
ツカサの肩が細かく震えている。 彼本人は、もはや勝敗などどうでもいいほどの苦しみに耐えているようだった。 しかしタカヒコはこの勝敗にこだわった。 彼の計算では、ツカサのこの犠牲により、男子チームの初めての勝利が確定するはずだった。
「さあ! こっちの勝ちだぜ。大人しく脱いでもらおうか。それとも、ギブアップするか?」
女子はこの敗北によって、ブラジャーかパンティーのどちらかを脱がなくてはならない。 前回の勝ち抜き戦までは、ここまでたどり着くことはできなかった。 逆にユラが3連勝して、パンツ一枚の男子はそれを脱がねばならず、その時点でギブアップしたのである。 男でさえ、女子の前で全裸になることだけは避けたのに、女子が下着をどちらかでも脱ぐことなど考えられなかった。
「さあ、どうする?」
タカヒコは重ねて尋ねた。 彼の予測では、下着を脱がずに女子はギブアップするはずだった。 さすがに気の強いユラも、不安そうな表情でマリナを見ている。 マリナはタカヒコの自信満々の表情を黙って見ていたが、やがて決心したように立ち上がった。
「いいよ。脱ごうか。ギブアップなんてしないからね!」
え? と、皆が思うヒマもなく、マリナは自らのブラジャーを脱ぎ捨てた。
「おわっ!?」
「あっ!?」
男子からも女子からも、声が上がった。 ユラほどではないが、なかなかの大きさで形も良いマリナの乳房が、空手部員全員の目の前に現れた。
「ほら、みんな、脱ごう! 男子なんかに負けてもいいの?」
マリナは恥ずかしがることもなく、毅然とした態度で女子たちに声をかけた。 女子たちは一瞬、戸惑ったが、マリナへの信頼がそうさせたのか、うなずくと、それぞれブラジャーを脱ぎ捨てて、4人全員が乳房をあらわにした。
「よし! じゃあ、試合を続けようか?」
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