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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


その高校はスポーツの盛んな校風で、さまざまな種目の部活動が存在していたが、中でも珍しいのは、女子のボクシング部だった。
部ができてまだ数年しかたっていなかったが、指導者に恵まれ、全国大会への出場も果たしていた。
かといってストイックになりすぎもせず、流行りのボクササイズの要素なども取り入れたおかげで、創部以来、新入部員の数も右肩上がりに増えている。
そんなときに困ったのが、部員たちの練習場所の確保だった。

ボクシング部の本来の練習場所は、校庭の隅に建てられたプレハブだったが、これは男子ボクシング部と共用しているため、スペースが限られている。
そこで、現在、男女の空手部が使っている武道場に、女子ボクシング部の練習場所を作ってもらおうとしたのだが…。

「そんなの、ダメだ。ここだって、大して広いわけじゃないんだから。試合をすることもあるし、邪魔になるだろ」

「だから、そういうときは外で練習したりするから。とりあえずって感じでいいじゃない」

「ダメなもんはダメだ!」

女子ボクシングの部長であるアサミは、男子空手部の部長、ダイゴに相談を持ちかけたのだが、即答でノーだった。
もともと、ダイゴはボクシングという競技にいい感情を持っていないし、まして女の子が格闘技をすることなど、片腹痛いと思っている。

「でも、空手部って少ないじゃない。こっちの半分もいないんだから、ちょっとくらい空けてくれてもいいと思うけど?」

アサミの言っていることは紛れもない事実だったが、実はそれこそがダイゴの逆鱗に触れる言葉だった。
長年、空手に打ち込んできて、空手こそが最強の格闘技だと信じている彼は、ボクシングのようなスポーツが幅をきかせている現状に、密かに腹を立てていたのだ。

「いいか、空手にはな、蹴りがあるんだよ。少ない人数でも、回し蹴りをしたり、飛び蹴りをしたりするから、広くないと危険なんだ。ボクシングみたいなお遊びと一緒にするな!」

「はあ? お遊びって何よ? どういうこと?」

アサミも、ボクシング部の部長をつとめるだけあって、決して大人しい方ではない。愛するボクシングをけなされて、語気が荒くなった。

「あんなの、お遊びのスポーツだろうが。手にグローブはめて、蹴りは禁止なんて、格闘技じゃないね。あんなことして、強くなった気でいるなんて、笑わせるぜ!」

「別に、強くなったなんて言ってないでしょ! ボクシングは洗練されたスポーツなのよ! それに、人を倒すのに蹴りなんていらないわよ。パンチだけで十分だと思うけど」

「ああ、そうかい。じゃあ、空手とボクシング、どっちが強いか試してみるか? もし俺たちが敗けたら、お前らの言うことを聞いてやってもいいぜ?」

「いいじゃない。望むところだわ!」

こうして、二人の言い争いは、練習場所の権利を賭けた、空手部とボクシング部の争いに発展してしまったのだった。




空手とボクシングという、まったく違う競技の対戦ということで、そのルールも変則的なものになった。

試合はボクシングのリング上で行う。
3対3の団体戦。
3分3ラウンド、途中に1分間のインターバル有り。
ボクシング部は相手を倒して10カウント取れば勝ち。
空手部は有効な攻撃を「一本」とし、三本取れば勝ち。
両者共にグローブとヘッドギアを着用。
顔面以外への蹴りを認める。
時間切れの場合は、引き分け。

審判役は公平を期すため、ボクシング部と空手部の双方から出されることになった。
しかも、当初はダイゴとアサミの言い争いから始まったものが、いつの間にか男子ボクシング部と女子空手部まで巻き込んでの、空手対ボクシングの全面対決の様相を呈してきた。
自然と、試合はダイゴ率いる男子空手部対アサミの女子ボクシング部に加えて、それだけでは男女の差が出てしまい、不公平ということで、女子空手部と男子ボクシングの試合も行われることになってしまったのだった。

「女の子でも男子に勝てるってことを示さないと、空手の強さの証明にはならないでしょ。面白そうじゃない」

女子空手部部長のミオは、実はダイゴ以上にケンカっぱやい性格かもしれなかった。

「まあ、練習場が増えるのは、俺らもうれしいけどな」

男子ボクシング部の部長のナオキは、日増しに増えていく女子ボクシング部の部員たちを実は疎ましく思っており、女の子たちがボクシング部の部室から出て行くことには、大賛成だった。
この二人は、男子空手部と女子ボクシングの審判も務める。
双方が双方とも、自分たちの勝利を信じて疑っていないようだった。

「じゃあ、第一試合、空手部はコウイチと、ボクシング部はユウナ。リングに上がって。試合を始めます」

審判役のミオに呼ばれた二人は、返事をしてリングに上がった。
各々の部活を背負った最初の試合とあって、その顔は緊張感に満ちていた。

「コウイチ! しっかりやれ!」

「ユウナ! 落ち着いて!」

リングの周りは、空手部とボクシング部の部員で取り囲まれていた。
やがてゴングが鳴り、試合が始まった。

「はっ!」

空手部のコウイチは、いつもの試合の時のように気合を入れて構えをとった。
空手部員たちにとっては、ボクシングのリングに上がることは初めての経験で、グローブをはめたこともなく、まったく未知の領域だった。
いつもの落ち着きを取り戻すため、コウイチは慎重にならざるを得なかった。
一方のユウナは、いつも練習しているリングで、男子を相手にすることも初めてではなかったから、比較的落ち着いて試合に臨むことができた。

「やあっ!」

コウイチが繰り出した正拳突きが、空を切った。
二人の構えは対照的で、ユウナはボクシングらしく、リズミカルなフットワークを踏みながら、リング上を丸く動いていた。
それに比べて、コウイチは前後に大きく足を開き、重心を前後に動かしてリズムを取っている。

「えいっ! はっ!」

コウイチが続けざまに出した拳は、次々と空振りしてしまう。
それもそのはずで、空手の試合では、相手がこれほど大きく横に動くことはない。しかも慣れないグローブをしているから、普段の突きのスピードは半減している。
ユウナが小さく頭を振りながら、左右にめまぐるしく動くと、コウイチの目では追えなくなってしまった。

「ユウナ、いいよ! その調子!」

ユウナは小柄だが、女子ボクシング部の中でも素早い方で、アウトボクシングを得意としていた。
コウイチの正拳突きは威力はありそうだったが単発で、ボクシングのコンビネーションのように連続することはなさそうだった。
だから、しばらくしてタイミングを掴むと、ユウナはコウイチの攻撃の隙を狙うことにした。

「シッ!」

コウイチが突きを空振りした後、手を引くと同時に踏み込んで、ボディに数発、パンチを入れていく。
コウイチは最初、「うっ」と息を詰まらせる程度だったが、やがてダメージが蓄積してくると、呼吸が荒くなってきた。

「くそっ!」

焦るほど、コウイチの攻撃は大振りになり、隙が大きくなった。
コウイチよりだいぶ身長の低いユウナが、頭を下げながら踏み込んでくると、コウイチの目には捉えられなくなってしまったのだ。

「ユウナ、その調子! 効いてるよ!」

「コウイチ! 落ち着けって!」

一見してユウナが優勢に見えたが、彼女にとっても神経を削られる作業だった。
空手をやっている男子の攻撃を一発でもまともにくらえば、危ない。
だからユウナは慎重に、両手でガードを固めながら、コウイチの懐に踏み込んでいく。
あまりに体を低くしすぎたため、コウイチの空手着の帯の下まで、パンチが当たることがあった。

「うっ! ……ちょっと…!」

突然、コウイチが手を挙げて、審判にアピールした。

「待て!」

ミオが試合を止めると、コウイチはユウナに背を向けて、リングのロープに寄り掛かって、足踏みを始めた。

「コウイチ、どうしたの?」

思わずミオが尋ねたが、コウイチは苦しそうな顔をして、何も答えなかった。

「ローブローか。ユウナ、気を付けろ」

同じく審判役としてリング上にいたボクシング部のナオキが、状況を察した。

「え? ローブローって…。ああ、金的に入ったの? へー。ボクシングでも、そういうことあるんだ」

空手しかやったことのないミオは、コウイチの心配よりも、素直に驚いていた。
一方のユウナは、普段は女の子としか試合をしたことがなかったので、そんな反則があったことをすっかり忘れているようだった。

「あ、そうか。あんまり低くしすぎちゃった。すいません」

ペコリと頭を下げたが、それでコウイチの痛みがおさまるわけではない。
ユウナのパンチはコウイチの最大の急所、金玉を直撃したものではなかったが、ボクシングのグローブは、直接当たらなくても衝撃が響くようにできている。
当たった瞬間、本人も気がつかなかったが、すでにじんわりとした痛みが下半身全体に広がっていた。

カァン!!

と、ここで1ラウンド終了のゴングが鳴った。
コウイチにとっては幸いだった。
1分間のインターバルを取るために、二人はコーナーに下がった。

「コウイチ、大丈夫か?」

「ああ…。まあ…」

コウイチの痛みは、少しずつ治まっていた。
この分なら、次のラウンドには影響はなさそうだった。
一方のユウナは、セコンドについた部長のアサミと話していた。

「ローブロー取られちゃった。でも、判定はないんだよね。まあ、いいか」

「そうそう。KOじゃなければ、引き分けってことにしてあるからね。…でもユウナ。ってことはさ…」

アサミは何か考えついたように耳打ちをして、ユウナもそれにうなずいていた。
やがて、2ラウンド開始のゴングが鳴った。

カァン!!

コウイチとユウナは、再び対峙した。
コウイチのダメージはおおよそ回復したようで、最初と同じように、腰を低く落として、空手の構えを取った。
なかなか攻撃が当たらなくても、一撃必殺を狙うのが、空手部として貫くやり方だと思っているようだった。
対するユウナの作戦も変わらず、ヒット&アウェイでダメージを積み重ねるつもりだった。

「えいっ!」

コウイチの攻撃をギリギリでかわし、踏み込んでボディを打つ。
しかし女の子のパンチでは、なかなか大きなダメージは与えられない。
コウイチもパンチがくると分かっていれば、腹筋に力を込めて、耐えることができるのだ。
周囲の目にも、試合が長引くかと思われたその時、

「うぐっ!!」

コウイチが突然、前かがみになり、リングに膝をついてしまった。
ユウナが何度目かのボディ攻撃をした直後だった。

「ダウン! …いや、ローブローか…?」

一旦はダウンを宣言し、間に入ったナオキだったが、コウイチの苦しみ様を見て、それを撤回した。
確かにコウイチは、前かがみになって、グローブを付けた手で、下腹部のあたりをおさえている。
先程よりも強い衝撃を股間に受けたようだった。

「ユウナ、ローブローだぞ。気を付けろ!」

「はあい。すいません」

ユウナは悪びれもせず、またペコリと頭を下げた。

「ちょっと、大丈夫?」

女子空手部のミオが心配するほど、コウイチは苦しんでいた。
彼女も、男子が練習中に股間に当ててしまい、苦しんでいるところを見たことはあったが、それと比べても、そのダメージは深刻そうだった。
たまらず、セコンドについていた部長のダイゴが叫んだ。

「おい、気を付けろよ! 反則じゃないか!」

「ゴメンゴメン。でも、しょうがないでしょ。これだけ身長が違うんだから、低い所に当たっちゃうんだって」

ボクシング部のアサミは、まるで用意していたかのような返事をする。

「それに、いつもは女子同士でやってるからさ、ローブローとか気にしてないんだよね。男子が相手だと、気を付けないといけないよね、ゴメンゴメン」

ダイゴだけでなく、ボクシング部の男子たちに対しても、この言葉は挑発的だった。
まるで、女子が手加減してあげているような、そんな印象を受けてしまう。
その間も、コウイチは股間の痛みと闘っていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。

「コウイチ! 大丈夫か!」

「…なんとか…」

ヘッドギアの下で、汗をびっしょりかいていた。
コウイチとしても、このまま終わることなどできなかった。

「大丈夫ね? じゃあ、始め!」

ミオが試合を再開したが、コウイチの動きは、目に見えて鈍くなってしまっていた。

「くっ…!」

動くと下半身が痛むので、もはや軽いフットワークなど期待できず、このままではユウナに打たれっぱなしになることは明らかだった。
そこでコウイチは、賭けに出ることにした。
今までは体勢を崩す恐れがあるため、控えていた蹴り技を中心に攻めることにした。
リーチの長い蹴りなら、アウトボクシングに徹しているユウナにも当たる可能性がある。
リスクはあるが、コウイチにはもうそれしか思いつかなかった。

「やあっ!」

渾身の気合を込めて繰り出される蹴りは、それなりに強烈で、風を切っているのがユウナにも分かった。
しかし、それ以上に隙も大きいと、ユウナは一瞬で見抜いた。

「おりゃっ!」

コウイチが回し蹴りを出し、それをかわした瞬間、大きく踏みこんで、アッパーカットを放った。
そのパンチは、リングすれすれから上昇気流のように舞い上がって、がら空きになっていたコウイチの股間の中心部に打ちつけられた。

ボスン!

と、グローブが空手着に当たる音がした。
と同時に、コウイチの背中に、冷たい空気のようなものが通り抜けたような気がした。

「ぎゃあっ!!」

回し蹴りを放ったままのコウイチは、その場から飛び上がるようにしてのけぞった後、倒れてしまった。
ドスン、とコウイチの体がリングに落ちる音が響いた。

「うあっ!! ああ…!!」

グローブを付けた不自由な手で股間をおさえながら、リング上を転げまわっている。
そのあまりの痛がりように、審判の二人もしばらく声が出なかったが、やがてコウイチが動かなくなると、セコンドのダイゴがリングに上がって声をかけた。

「おい! 大丈夫か?」

ダイゴの呼びかけにも、コウイチはまったく反応できなかった。
股間から湧き上がる地獄のような痛みに体を震わせ、ギュッと目をつむりながら耐えているようだった。

「あー、またやっちゃった。ゴメンゴメン」

「ふざけんなよ! 反則負けだ! お前らの反則負け!」

ダイゴは声を荒げた。
しかし、ユウナとそのセコンドにいるアサミは、別に驚いた様子もなく、この状況を予期していたかのように冷静だった。

「えー、反則負け? そんなの、ルールにあったっけ?」

「うーん。確か、なかったよね。ていうかさ、そもそもローブローって反則なんだっけ?」

「な…! 反則に決まってんだろ! 急所じゃねえか! こんなんじゃ、もう試合できないだろ!」

確かに、ダイゴの足元でうずくまっているコウイチは、とても立ち上がることなどできそうになかった。

「ふーん。そうみたいだね。じゃあ、ローブローは反則ってことでもいいけどさ。でも、なんかアレだね。ガッカリだなあ」

「なに?」

ダイゴは、自分と金玉の痛みに苦しんでいるコウイチを見下したように笑っているアサミの態度に、怒りを感じた。

「だって、空手やってる男子って、もっと強いのかと思ったけど。他の男子とおんなじで、アソコをやられると、どうしようもなくなっちゃうんだね。なんか、ガッカリだなあって」

クスクスと笑いながら、アサミはそう言った。
ダイゴがよく見ると、リングの周りにいる男子の空手部員やボクシング部員たちは、一様に気の毒そうな顔をしているが、女子ボクシング部員たちは、皆、転げまわって痛がっていたコウイチの姿を見て、笑っているようだった。
女子の空手部員にとっては、ある程度見慣れた光景でも、女子ボクシング部員たちにとっては、あれだけ気合を入れていたコウイチが、ユウナのパンチ一発であっけなく倒れてしまったことが、おかしくてしょうがないらしかった。

「すっごい痛がってたね。アレ、ヤバくない?」

「ホントに痛いんだあ。でも、あんなにゴロゴロしなくてもよくない?」

「ウケるよね」

それまで気にならなかった女の子たちの囁きが、ダイゴとコウイチの耳にも聞き取れるようになってきた。

「ゴメンね。アタシ、そんなにパンチ力はないと思うんだけど、そこに当たると、やっぱりダメなんだね。当てないように気を付ければよかった。ごめんなさい。痛いよね?」

ユウナが、うずくまるコウイチの側に寄ってきて、声をかけた。
しかしその言い方は、どことなく上から目線というか、手加減を間違えたような印象だった。

「そうだよね。ユウナはKOよりも判定狙うタイプだから、大丈夫だと思ったけど。一発KOしちゃったね。やっぱり、男の最大の急所だもんね。いつも女子同士でやってるから、分かんないのもしょうがないよ」

アサミも次々と、男のプライドを刺激するようなことを言う。
ダイゴは何も言えず、悔しそうにうつむいていたが、やがて、苦しみながらも同じように悔しそうな顔をしているコウイチの顔を見て、決断した。

「…引き分けでいいよ。反則負けとか、決めてなかったから。しょうがない」

「えー、ホント? ありがとう」

「良かったあ。ゴメンね、痛い思いさせちゃって。今度やるときは、当てないようにするから。また、頑張ろうね。お疲れ様!」

ユウナは喜んでリングを降りた。
一応は引き分けということで形はついたものの、リング上でうずくまって、いまだに動けないでいるコウイチを見れば、一体どちらが勝者なのか、誰の目にも明らかだった。



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