週が明けて、月曜日の放課後。 水泳部の男子たちが、更衣室で着替えをしていた。
「なあ、タツヤ。あの…アレ、どうしたんだ?」
「ん? ああ、あの、女子更衣室のアレか? まあ、うまくやっといたから、心配すんなよ」
タツヤはすでに、あのユウジが拾った女子のパンティーを手元に持っていない様子だった。 いぶかしそうに見つめるキョウヘイに、笑顔で説明してやった。
「土曜日にな、俺、学校来たんだよ。更衣室に忘れ物しましたって。ここの鍵を借りる時にさ、ついでに女子更衣室の鍵も借りといたってわけさ」
「あ! じゃあ、お前、中に…?」
「おう。ちょっと緊張したけどな。誰もいなかったから、さっと入って、ロッカーの隙間に入れといたよ。すぐには見つからないかもしれないけど、逆にその方がいいからな」
タツヤは意外なほど周到かつ大胆に、それをやってのけたらしかった。
「お前、すげえな…。尊敬するよ」
「ハハ。大げさだな。まあこれで、アオイのヤツも大人しくなるんじゃないか。アイツが何も言わなくても、そのうち、こっちから探りを入れてみようぜ。そういえば、アレ、どうなったって」
「そうだな。そうすれば、俺たちに謝ってくるかもな」
「そういうこと。アイツももう、俺たちを前科者扱いしなくなるってことさ」
タツヤの顔には、自信が溢れていた。 確かに、彼の計画通りに行けば、あのいつも男子を見下していて、躊躇いもなく男の股間を蹴り上げてくるアオイを、ぎゃふんといわせることができるはずだった。 キョウヘイ他、男子の水泳部員全員が、それを期待していた。
やがて部活が始まり、水泳部は男女とも、いつも通りの練習をした。 その途中で、アオイが下級生の女の子とプールサイドで何か話をしているようだったが、タツヤを含め、ほとんどの男子部員が、それに気がつかなかった。
「よーし。これで終わり。お疲れ様―」
あたりも暗くなり始めたころ、部活動の時間が終わった。 タツヤの号令で、男子水泳部員たちは練習をやめて、次々にプールサイドに上がり始めた。
「ふー。今日も疲れたなあ」
体中から水滴を滴らせながら、男子部員たちは部室に向かう。 男子更衣室のドアを開けると、そこにはいつ入ったのか、先程までプールにいたはずのアオイが、水着姿のまま、腕組みをして立っていた。
「え! あ、なんだよ…?」
タツヤは思わず、声を上げてしまうが、アオイは無言のまま、男子部員たちを見つめていた。 すると彼らの後ろから、彼らを更衣室に押し入れるようにして、女子部員たちが迫ってきた。 彼女たちもまた、無言のままグイグイと男子たちの背中を押すものだから、その雰囲気に負けて、男子たちは更衣室に詰め込まれるかたちになってしまった。
「ちょっ…。なんだよ、どういうことだよ!」
「閉めて」
アオイが言うと、男子たちの背後で、ピシャリと更衣室のドアが閉められ、鍵がかけられた。 せまい男子更衣室の中に、水泳部員全員が入る形になった。
「おい、お前ら…!」
女の子たちの意味不明な行動に、痺れを切らしたキョウヘイが叫ぶと同時だった。
ピシャッ!
と、アオイの足の甲が、濡れたキョウヘイの水着の股間を蹴り上げた。
「はうっ!」
ビキニタイプの競泳水着一枚に包まれただけの、キョウヘイの男としての最大の急所が、グニャリと変形した。 キョウヘイの頭は、すでに何度も経験しているあの痛みが、数瞬後にまた訪れることを速やかに悟った。 蹴られた瞬間の痛みは、まだ我慢できる。我慢できないのは、その直後に襲ってくる、内臓を突き上げるような、あの重苦しい痛みなのだ。 その痛みは二つの睾丸から発せられて、腰を突き抜け、胃を震わせ、喉元まで上がってくる。 キョウヘイが吐き気を感じ始めたときには、すでに両膝から力が抜けて、立っていられることもできなくなっていた。
「ううぅ…!!」
股間をおさえ、その場にうずくまってしまったキョウヘイを見て、男子たちは戦慄し、女子部員たちは、心なしか嘲笑っているかのような笑みを浮かべていた。
「お前…! いきなり、何すんだよ!?」
「…アンタたちの荷物を調べたのが、先週の金耀だったよね。あのときは、何も見つからなかったけど…」
アオイはタツヤの質問には答えず、彼の顔を見つめながら、淡々と話し始めた。
「あの時、言ったよね。今度は許さないよって。蹴るぐらいじゃすまないって」
「あ、ああ…まあ…。ていうか、アレはどうなったんだよ。見つかったのか、その、下着は?」
突然のことに、タツヤをはじめ、男子部員たちは驚くことしかできなかったが、なんとか当初の計画通り、アオイに盗まれた下着のことを問いただすことができた。 しかしアオイや他の女子部員たちも皆、眉一つ動かさずに、それを聞いていた。これはタツヤたちにとって、まったく予想外のことだった。
「ああ、あの下着ね。見つかったよ。さっき。女子更衣室のロッカーの隙間に落ちてた」
「あ…そ、そっか。良かったな、見つかって…。ていうか、それならなんで…」
「でもアタシさ、下着って言ったっけ? 着替えとしか言ってないと思うんだけど」
「え…!? あ、いや…俺…下着って言ったっけ? 着替えっていうから、そりゃあ、下着のことじゃないかと…」
タツヤの全身の汗が、一気に冷たいものに変わっていった。 やや上目がちに、冷たく厳しい視線を浴びせてくるアオイから目をそらしたくても、できなかった。
「着替えが盗まれた後、探しても全然見つからないから、やっぱり泥棒の仕業だと思ったわけ。それで、その話を一年生のコが親に話したら、そのコの家が電気屋さんでさ。監視カメラを付けてあげようってことになったの。それが、土曜日の朝の話」
アオイの話を聞いて、タツヤの心臓の鼓動が急激に早くなっていった。
「さっそくつけてもらって、とりあえず試しに動かしてみたんだけど…。バッチリ映ってたんだよね、犯人の姿が。気づかなかったでしょ? カメラがあるなんて」
「あ…いや…それは…」
タツヤの口だけがパクパクと動いて、言葉が出なかった。 焦りのあまり、後ずさりしようとすると、その両脇を、おもむろに女子の水泳部員二人が掴んだ。
「あっ…!」
タツヤがアオイから目をそらした瞬間、それを待ってましたとばかりに、アオイの蹴りが股間に向かって振り上げられた。
ピシィッ!!
と、思いのほか高い音と共に、タツヤの金的はアオイによって蹴り上げられた。 キョウヘイの時と同じように、競泳水着に包まれたその男のシンボルは、アオイの小さな素足によって射抜かれ、衝撃の波は、内部にあるはずの二つの睾丸をブルンと震わせた。
「うっ!!」
タツヤの目には、アオイの右足が自分の胸のあたりまで振りぬかれたように見えた。そしてその脚が下がると同時に、タツヤの両脚からも力が抜けて、その場に跪き、やがて睾丸を万力で締め上げられるような痛みが襲ってきた。
「ぐぐ…! あぁっ…!!」
両手で股間をおさえて、奥歯をかみしめてみても、一向にその痛みが治まる気配は無い。 先程、股間を蹴られたキョウヘイと同じように、まるでアオイに土下座するかのような姿勢で、無限とも思える地獄のような時間に耐えることしかできなかった。 しかし、蹴った当人のアオイは、眉一つ動かさずに、その様子を見下ろしている。
「おーい、まだだぞぉ。立ちなって」
そう言うと、女子たちに目配せして、痛みに震えるタツヤの両脇を抱え上げさせた。 タツヤの両脚にはまったく力が入らず、自力で立つことは不可能だったが、女の子が3人がかりで彼の体を支えた。
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