「は…あ…。な、なにを…!」
とめどない痛みに苦しみながらも、タツヤは恐怖に顔をひきつらせた。
「まったく、まんまと騙されたって感じだよねえ。あの時、どこに隠してたわけ? 気づかなかったなあ。でもそれを、わざわざ返しに来て見つかるなんてね。やっぱり男子は頭悪いっていうか、油断してるっていうか。バカだよねえ」
アオイが言うと、周りにいる他の女子たちも、その通りだとばかりにほくそ笑んだ。
「あ…! ち、違うんだ! アレは、ウチの一年生が拾って…。俺はただ、それを返しに行っただけなんだ…。だから…!」
「はあ?」
アオイは一瞬、理解ができないといったような表情をして、女子たちと顔を見合わせた。 そして次の瞬間、タツヤの股間に手を伸ばし、下から思い切り握りしめた。
「ぎゃあっ!!」
すでに痛めつけられたタツヤの睾丸は、さらなる痛みをもってその持ち主に危険を知らせた。 アオイの握力はさほど強くもないが、ゴロゴロと二つを擦り合わせるように睾丸を握られると、男にとってはこれ以上ない苦しみとなる。
「あ…ああぁ!!」
「この期に及んで、くだらないウソついてんじゃないよ! しかも、後輩のせいにするとか。アタシ、そういうのが一番嫌いなの。男らしくない! タマついてんじゃないの? これは飾りなの?」
「ああっ!!」
タツヤは必死に首を横に振った。
「あっそう! これ、偽物じゃないんだ。アンタも一応、男なんだね。でも、アンタみたいなヤツは男らしくないからさ、これも潰してあげるよ。そういう約束だったしね。いいでしょ?」
タツヤは涙目になりながら、必死に首を振る。 弁解しようとしても、あまりの痛みに息が詰まってしまい、声にならなかった。
「あ…ご…め…! ごめ…なさい…!」
「フン!」
タツヤの必死の願いが通じたのか、アオイは股間から手を放してやった。 しかし安心する間もなく、次の瞬間には、アオイの白い膝が股間の膨らみにめり込み、タツヤは腰が一瞬宙に浮くほどの衝撃を受ける。
「はうっ!!」
もはや、悲鳴も上げられなかった。 女子たちが抱えていた両脇を解放してやると、タツヤの体はグニャリとその場に崩れ落ちて、更衣室の床の上を、釣り上げたばかりの魚のように痙攣しながら転がりはじめた。
「ったく。バッカみたい」
その様子を、アオイはみすぼらしいものでも見るかのような目で見おろし、周りにいた女子水泳部員たちも、タツヤのあまりの痛がりように、クスクスと笑いをこぼしていた。 ここまでのあまりに衝撃的な展開に、一歩も動くことができなかった他の男子水泳部員たちはというと、タツヤの苦しむ様子を見て、一様に青ざめていた。 彼らが履いている競泳水着の下では、その金玉袋が、これ以上ないくらいにキュッと縮こまってしまっているはずである。
「アオイが蹴るとさ、男子はみんなすっごい痛がるよね」
「そうだよね。なんか、コツとかあるの?」
「ん? 別に。ただ、軽く蹴ってるだけだけど。男子はいつも、大げさなんだよ。男らしく、我慢してほしいよね」
何気ない女子たちの会話にも、男子たちはそこにある、決して埋まることのない隔たりを感じていた。 女子たちが身につけている競泳水着の股間部分は、男子のものよりさらにハイカットで、おそらく男子がそれを着れば、両側から睾丸からこぼれ出てしまうほどのものだった。 しかし女子の股間にはもちろん睾丸などついておらず、スッキリとしていて、そこにはうっすらとした膨らみがあるだけである。 男子たちが女子の股間に目を奪われるのは日常茶飯事だったが、今日ばかりは性的な欲求は抜きにして、純粋な憧れの視線を、その股間に注がざるを得なかった。
「みんなも、蹴ってみればいいじゃん。ていうか、最初からそのつもりだったでしょ? これは、男子たちの連帯責任なんだから」
アオイの言葉に、男子たちが一斉に振り返った。
「そっか。そういう話だったね。じゃあ、そうしよっか」
「そうしよー! みんなで蹴っちゃえ!」
男子たちが抵抗する暇もなく、女子たちは股間を蹴る用意を始めた。 もともと、水泳部には女子の人数の方が多く、しかも男子たちはすでに二人、ノックアウトされている。 後ろから羽交い絞めにされてしまえば、男といえどもそう抵抗することはできなかった。
「いくよー! えい!」
「やあっ!」
「こうかな? えい!」
ビシッ! バシッ!
と、次々に強烈な金的蹴りが、男子たちの股間を襲った。 蹴られた男子たちが、次々に膝をついてしまっても、今度は羽交い絞めにする役を交代して、また違う女子が股間を蹴り続けた。
「うげえっ!」
「ぐあっ!」
こうして男子水泳部員たちはもれなく、金玉の痛みに打ちひしがれることとなった。
「よし…。このくらいで、許してあげようか?」
女子部員の一人が、一仕事終えたかのように言う。 股間を蹴られた男子たちは皆、更衣室の床に蹲り、中には涙を流している者もいる。 下着泥棒をしたことは許せなかったが、彼らのあまりの痛がりように、女子たちの気持ちも一応はおさまったようだった。 するとアオイが、ようやくわずかに痛みが治まり始めたタツヤの横にしゃがんで、首をかしげた。
「うーん。そうだねえ。でも私、最低でも一個潰すって言ったんだよねー。ねえ? そうだよね?」
タツヤは戦慄する思いで、アオイの顔を見上げた。
「まあ、もう許してあげてもいいんだけど…。ねえ、ちょっとコイツ仰向けにしてみて」
アオイが言うと、女子たちが協力して、タツヤの体を引き起こして、仰向けにしてしまった。 その両手両足はしっかりと掴まれて、股間を手でおさえることも、脚を閉じることもできなくなってしまった。
「よいっしょっと」
アオイはおもむろに、右足をタツヤの股間の上に乗せた。 その足の裏に、すでに熱を持ち始めているタツヤの金玉袋の柔らかい感触が伝わる。
「まだ、アンタから正直に聞いてないんだよね。アンタが下着を盗んだんでしょ? だったら、ハッキリそう言いなさいよ」
「あ…は…それは…」
思わずタツヤが言い淀むと、その瞬間、アオイの足が股間を激しく踏みつけた。
「ぎゃうっ!!」
「アンタが盗んだんでしょ! ハッキリ言いなさい!」
アオイは足の裏の踵、最も堅い部分を使って、タツヤの睾丸を恥骨に押し付けるようにして踏みつけていた。 タツヤの睾丸はゴムボールのように変形し、強烈な痛みを彼に与えた。
「はあっ! あっ! は、はいっ! 俺が盗みました! あっ!」
「そうなんでしょ? 早くそう言えばいいのに」
アオイが踏みつけるのをやめると、タツヤはようやく呼吸ができる思いだった。
「で、いつ、どうやって盗んだの? 更衣室の鍵は、ちゃんとかけてあると思ったけど。部長の私の責任になるのかな?」
「え…? あ、いや…その…ぎゃあっ!」
言葉を濁そうとすると、再びアオイは股間を踏みつけた。 今度は睾丸をグリグリと押し込むようにして、リズミカルに踏み込んでくる。 もちろんタツヤは実際に盗んだわけではないから、この質問には答えようがなかったわけだが、必死に頭を回転させて、この痛みから逃れようとした。
「あっ! あの…鍵を…! 合鍵を…職員室からとってきて…! ぐえぇっ!」
「合鍵ぃ? アンタ、そんなことしたの? 最っ低! やっぱり潰そうかな、この変なタマ!」
アオイの顔に怒りが表れて、その右足にますます強い力が込められた。
「ぎゃあーっ!! や、やめて! お願いしますっ! やめてください!!」
「うるさい! このバカ! 泥棒! ヘンタイ!」
怒声に合わせるかのように、股間に踵を打ちつけ続け、タツヤの口から白い泡のようなものが出始めたころ、ようやくアオイは疲れたように、その脚をおろした。
「ふう…。はあ…ホンット、男子って最悪。こんなヤツらと一緒に練習したくないね」
「ホントだね。わざわざ合鍵使うとか、信じられない」
「どうするの、これから? こんなんじゃ、安心して更衣室で着替えられないじゃん」
タツヤの口から出たのは、金玉の痛みから逃れるためのでまかせだったのだが、女の子たちはそれをすっかり信用してしまったようだった。 アオイは少し考えてから、言った。
「よし。これからは、合鍵を含めて、全部私が持ってることにするね。先生にもそう言っとくから。女子の部員以外に、もう誰にも鍵は触れないようにする。それで安心じゃないかな」
女子たちはこの提案に、納得したようだった。
「それと…。男子更衣室の鍵も、私が預かっとく。男子たちの荷物は全部外に置かせて、更衣室に入れないようにするから。更衣室に入れとくのは、練習で使う備品だけにするの。それでよくない?」
「そっか。それなら、盗んだものを隠れてバッグに入れたりできなくなるね。うん、それ、いいかも」
アオイのアイデアに、女子たちは一斉にうなずいたが、男子たちは驚いてしまった。 更衣室に入れないとなると、男子たちは一体どこで水着に着替えるというのだろう。 まだ股間をおさえて立ち上がれないでいるキョウヘイが、顔を上げて意見した。
「そ、それって…。俺らはどこで着替えればいいんだよ…?」
キッと振り向いたアオイの視線に、キョウヘイの金玉袋が縮こまり、圧迫された睾丸から、また鋭い痛みが股間に走った。
「外で着替えればいいでしょ。男の裸なんて、別に見せても構わないんだから。言っとくけど、何か隠してるものがないかどうか、その度にチェックさせてもらうからね」
「そ、そんな…」
無情すぎるアオイの言葉だったが、それに抵抗する気力は、もはや男子たちには残されていなかった。 男子たちはみな、打ちひしがれたような表情でうつむき、それとは対照的に、女子たちは相手を屈服させた時のような、満足げな征服感に満ちている様子だった。
「ハッキリ言うけど、これも全部、アンタたちがいけないんだからね。私たちだって、こんなことに時間を取られるのは、めんどくさくてしょうがないんだから。分かった? ホントのホントにこれが最後だからね。もし、次に何かあったら、その時は…」
アオイの足が、ゆっくりとタツヤの股間の上に移動してきた。 今にも踏みつけようかというその足の動きに、男子たちはみな恐怖しながらも、釘づけになっていた。
「ぶっ潰すからね!!」
ドスン、と、タツヤの股間からほんの数ミリ外れた所に、アオイの右足が落ちた。 その瞬間、男子全員が再び自分の股間を両手で守り、その無事を確認する。 その情けない姿に、女子たちは笑いをこらえきれず吹き出し、そのまま男子更衣室をあとにした。
終わり。
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