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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


水泳部の男子といえば、日に焼けた黒い肌と、引き締まった筋肉。肩幅の広い、逆三角形の肉体美が、いかにも男らしいといえる存在だろう。
さらに極端に面積の狭い、「Vパン」と呼ばれるビキニタイプの水着を彼らがはいたときなどは、その股間の膨らみが強調されて、ある意味で非常に男を感じさせるようになる。
この高校の水泳部にも、そんな男らしい部員たちが集まっていた。

「そのまま、全員動かないで!」

ガラリ、と更衣室のドアをいきなり開けたのは、女子水泳部の部長、アオイだった。
部活が終わり、濡れた体を拭いて、今まさに着替えようとしていた男子部員たちは、驚いて一斉に振り向いた。

「な、なんだよ! いきなり開けるなよ!」

競泳水着に手をかけてさえいた男子水泳部の部長、タツヤは、あわてて水着を引き上げた。

「うるさい。黙って。そのまま動かないで」

すでに水着を着替え、ジャージ姿になっていたアオイは、厳しく冷たい調子で男子部員たちを制した。
その様子に、男子たちは思わず口をつぐんでしまう。
男子水泳部には、アオイに逆らってはならないという、絶対のタブーがあったのだ。

「ちょっと、調べさせてもらうから」

そう言うなり、ロッカーに積まれた男子部員たちのスポーツバッグの中身を、遠慮もなくあさり始めた。
これには全員、驚いてしまう。

「お、おい! なんだってんだよ! お前、勝手に…」

見かねた男子の一人、キョウヘイが、アオイの肩に手をかけた。
彼女が今まさにあさっているのは、彼のスポーツバッグだったのだ。
しかし。

「はうっ!」

返事をする代わりに、アオイは得意の金蹴りを、キョウヘイの股間に叩き込んだ。
冷たいプールで泳ぎ、キュッと引き締まっていたキョウヘイのVパンの股間は、アオイの足の甲によって哀れなほどにその形を変えた。
当然、キョウヘイはすぐさまその場にうずくまり、痛みに震えることになる。やはり彼女には逆らってはならないと、その場にいる男子全員が再確認した。

「動かないでって言ったでしょ」

まるで当然の報いだとでも言わんばかりに言い放ち、そのままスポーツバッグをあさり続けた。
男子全員、うずくまるキョウヘイの介護もできずに、突っ立っているしかなかった。

「な、なんだよ! どういうことか、説明しろよ!」

部長のタツヤが、いくぶん声を震わせながら、それでも勇気を振り絞って尋ねた。
アオイがキッと振り向くと、思わずその場にいた男子全員が、股間に手を当てて急所を守ってしまう。

「女子の更衣室に、泥棒が入ったのよ。一年生の着替えが盗まれてるの。部活に来る前はあったっていうし。だから、調べさせてもらってるの」

タツヤをはじめ、男子部員たちは呆気にとられた。
それは、自分たちが女子の着替えを盗んだと疑われているということだったからだ。
いくら思春期の男子高校生とはいえ、そんな犯罪行為をするわけがないと、彼らは叫びたかった。

「それは…お前、そんなこと…!」

怒りのあまり、タツヤはうまく言葉が出なかった。アオイの胸ぐらを掴んでしまいそうになる欲求を、かろうじてこらえていた。

「やってないって言うの? じゃあ、いいじゃない。ちょっと調べるくらい。協力してよね」

「な…! か、勝手にしろ!」

これが他の女子だったら、男のプライドにかけてやめさせるところだったが、相手はアオイだったのだ。
彼女に股間の急所を蹴り上げられた男子は、水泳部のほぼ全員。同じ学年の男子にも、相当数いただろう。学校の不良生徒でさえ、アオイに対してはうかつなことはしないといわれていたから、タツヤが大人しく従ったのも、当然といえた。


そして10分後。
男子全員のスポーツバッグをひっくり返して調べたが、何も出てこなかった。

「…ふうん。無いみたいね。アンタたちじゃなかったんだ」

「あ、当たり前だろ! オレたちが、そんなことするわけないじゃないか!」

「うん。まあ、今回は見つからなかったけど、覚えておきなさいよ。アタシたちは、いつでも見張ってるからね」

まったく悪びれる様子もないアオイに、タツヤの怒りは沸騰した。

「お前、ふざけんなよ! 謝れよな!」

怒りのあまり、アオイの肩を掴んでしまったが、すぐに自分が何をしているのかを悟り、そのままタツヤの動きは止まった。
泥棒に疑われた屈辱と、急所を蹴られる恐怖がせめぎ合い、額に汗を浮かべるほど緊張していた。

「…そうね。さすがに今回は、アタシが悪かったかな」

アオイは、タツヤが自分の肩に手をかけたのを気にする様子もなく、意外にも自分の非を認めた。

「でもさ。男子には、前科があるからね。疑われてもしょうがないところもあるんじゃないの?」

言いながら、肩にかかったタツヤの手首を握った。アオイがその気になれば、今すぐにでも膝の一撃で、タツヤに地獄の苦しみを味わわせることが可能だった。
彼女の言う前科とは、タツヤたちより一年上の先輩たちが起こした事件のことで、当時の男子水泳部員たちが、女子更衣室から数点の下着を盗んだことがあったのだった。
それはすぐに発覚したのだが、県大会を間近に控えた水泳部のことを考え、男子と女子の部長同士による話し合いの末、公にされることはなかったのだった。
しかし、その話し合いののち、盗みに加担した先輩たちが、しっかりとけじめをつけさせられたことを、タツヤたちは知っていた。そして、そのけじめの先頭に立ったのが、アオイであることも漏れ聞いていたのだ。

「アイツだけは怒らせるな」

と、2日間学校を休んで、その後も股間をかばうような歩き方をしばらく続けていた先輩の言葉は、今でもタツヤの耳に残っている。

「あ、あれは…俺たちは関係ないだろ。一緒にするなよ」

「だといいけどね。念のため言っとくけど、もし今度アンタたちがあんなことしたら、タマを蹴るくらいじゃすまないから。最低一個潰すからね。覚えておいてよ」

「つ、潰すって…」

眉一つ動かさずに言い放ったその迫力に、タツヤは思わず肩にかけていた手を引いた。

「当然でしょ。二回目なんだもん。去年は先輩だったから手加減してあげたけど、アンタたちはそうはいかないからね」

その場にいる男子全員、水着の中のイチモツがキュッと引き締まるのを感じた。
中には無意識に内股になってしまった者もいる。アオイの金蹴りを想像しただけで、あのどうしようもない痛みと苦しみがよみがえってくるようだった。
アオイはそんな男子たちの情けない様子を見て、ちょっと笑ったようだった。

「じゃあね。お疲れ様」

更衣室の扉が閉まった時、その場にいる全員が、ほっとため息をついた。




「あ、あの…先輩…」

アオイという男にとって最悪の怪物が去った後、少し放心状態に陥っていたタツヤに、一年生のユウジが恐る恐る声をかけた。

「あ…? ああ。なんだよ」

「あの…その…よく分からないんですけど…。もしかすると、その…」

ユウジは大人しいタイプで、いつも自分から話をしてくる方ではなかったが、今回は何か言いにくそうにしている。

「これ…あの…部室の前で拾ったんですけど…。あの…隠してたわけじゃなくて…分からなかったので…。でも、たぶん…」

「はあ?」

ユウジは自分のジャージのポケットから、何かを握りしめて取り出した。
タツヤがそれを受け取ると、折りたたまれていたそれは、すぐに掌の中で広がった。

「!! お前、これ…!」

それは、真っ白な女物のパンティーだった。タツヤをはじめ、男子全員が、それこそがアオイが探していたものだと直感する。

「い、いや…違うんです…! ボクが盗ったとかじゃなくて…拾ったんです。更衣室の前に、落ちてたから…。何だろうと思って、拾ったんです。でも急いでたから、ポケットにしまってて…それで…」

男子全員、顔から血の気が引いていた。
ユウジが下着を盗んだり、ウソをつくような人間ではないことは、皆知っている。しかしこの状況で、さきほどのアオイに、そんな話が通じるのかどうか。おそらく、いや確実に通じないだろう。
女子更衣室は、男子更衣室と壁一枚隔てた隣にある。
とりあえず、このことを悟られないように、部員全員が小声になっていた。

「ど、どうすんだよ…。それ…。返しに行ったって、信用してもらえないぞ…」

ようやくアオイの金蹴りのダメージから回復しかけたキョウヘイが、まだ下腹を押さえながら言った。

「だな…。俺ら、最初っから犯人扱いだったからな」

「…タマ、潰すって言ってたな…」

男子更衣室に、沈黙が流れた。
アオイの言葉が脅しでないことは、男子全員がよく分かっていた。

「す、すいません! ボクが悪いんです! ボクが拾ったりしなければ…。ボク、それを返して、謝ってきます。蹴られるかもしれないけど…。自分の責任ですから…!」

ユウジが泣き出しそうな顔で頭を下げた。真面目な彼らしい言葉で、おそらく本気でそう思っているはずだった。
キョウヘイや他の男子部員たちも、そんなユウジを止めようとはしない。彼らも皆、アオイに一度は金玉を蹴られていて、その恐怖が頭に残っているのだ。

「いや。ちょっと待てよ」

ユウジがタツヤの手からパンティーを取ろうとしたとき、他ならぬタツヤがそれを制した。

「お前が今、行ったって、アイツが信用するわけないだろ。先輩に脅かされたとか何とか、俺たちのせいにするに決まってる」

タツヤの言うとおりだった。
ユウジの性格が大人しく、真面目なことは水泳部の皆が知っている。
そんな彼が下着泥棒をするはずがないし、本人がそう言ったところで、先輩から言わされていると考えるのが当然だった。

「じゃあ、どうすんだよ…?」

「いっそのこと、捨てちまえば…。分かんないように」

そう考えるのも当然だったが、タツヤだけは、何か考えているような顔をして、黙っていた。

「…いや、これはある意味、チャンスだろ。アイツが今後、俺たちに手出しできないようにしてやる」

「はあ?」

「そもそも、アイツは俺たちをなめてるんだよ。だから証拠もなく、俺たちの荷物を漁ったりするんだ。そんなの、許せるか? 俺は許せないぜ」

「そ、そりゃあ、そうだけど…」

「だろう? だから、コレを使って、アイツが反省するようにしてやるんだよ。コレが女子更衣室から見つかれば、アイツはちゃんと調べもしないで、俺たちを疑ったってことになるだろ。そしたら、アイツもちゃんと頭を下げて、俺たちに偉そうな態度をとれなくなるってわけさ」

「ああ、そういうことか…」

キョウヘイなどは納得したようにうなずいていたが、男子部員のほとんどは、そんなにうまくいくものかと思っていた。
今、タツヤが持っている女子の下着を、どうやって女子更衣室に持ち込むというのだろう。
ユウジがそれを尋ねると、タツヤはちょっと考えた後、ニヤリと笑った。

「明日は土曜日だよな…。部活も休みだ。ちょうどいいや。俺に任せとけ」

男子水泳部員たちは、タツヤの自信ありげな顔に頼もしさを感じると同時に、同じ量の不安も感じつつあった。




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