「お静かにお願いしますね」
カオルはにっこりと笑った。
「痛かったら、言って下さいねー。やめませんけど」
アイコが意地悪そうに笑った。 そしてカオルが、おもむろにケンスケの金玉をトランクス越しに握った。 ケンスケは思わずうっと呻いたが、カオルの手にはまだ、強い力はこめられていない。
「うーん。これが元木さんの大事な所ですね」
カオルはケンスケの二つの金玉を、掌の中で転がしている。 その手さばきは絶妙で、ケンスケは恐怖におびえながらも、快感を感じざるを得なかった。
「フフ。気持ちいいですか? 実は私、回春マッサージもマスターしてるんですよ」
本人の意に反して、ムクムクと成長してきたケンスケの股間を見て、カオルが囁いた。 男性の睾丸をマッサージして、その精力を高めるという回春マッサージは、ケンスケは体験したことがなかった。
「睾丸は、とてもデリケートな所ですもんねえ。軽くマッサージすれば気持ちがいいんでしょうけど、ちょっと強く握っただけでも痛がるから、女性には扱いが難しいんですよ」
「あ…ふ…」
ケンスケは思わず、喘ぎ声をあげた。 すでにそのペニスは膨張をはじめ、トランクスを突き破らんばかりにせり上がっている。
「あらあら。これから玉を潰されるのに、元気ですね」
カオルは金玉を揉みながら、笑った。
「ホント、相当溜まってるんですねー」
「エッチする彼女とかも、いないんでしょうね。アニメとか見て、オナってるんですよ、絶対」
「うわあ。キモーイ。生身の女の子に興味ないとか? もしかして、童貞ですか?」
アイコとルミは、ケンスケの外見から得たイメージだけで、好き放題に言った。 しかしそれはあながち的外れでもなく、半分以上は当たっていた。 ケンスケはシステムエンジニアとしては標準以上の技術を持っていたものの、プライベートの彼は、絵にかいたようなオタクだった。 これまで女性と深い交際をしたことはなかったし、したいとも思わなかった。 この整骨院に通うようになって初めて、いつも優しく声をかけてくれるカオルに淡い恋心のようなものを抱いていたのである。
「こらこらアナタ達。あんまり失礼よ。睾丸をマッサージされたら、男の人は大きくなるに決まってるじゃない。それに元木さんも、風俗くらい行ったことがあるはずよ。ねえ?」
かばっているのかどうかわからないカオルの言葉に、ケンスケ快感の中で思わず哀しみすら覚えてしまった。
「違いますよ。元木さんは、先生に触ってもらってるから、嬉しいんですよね?」
「アタシが触っても、あんまり嬉しくないでしょ? ほら」
そう言って、アイコはおもむろにケンスケの股間に手を伸ばした。
「う! あ…」
一応、マッサージのように揉みしだいてはいるものの、それはカオルのとは比べ物にならないほど不器用な手つきだった。 自然と、ケンスケのペニスはそれまでの膨張を止めて、張り裂けんばかりに膨らんでいたトランクスがしぼんでしまう。
「ほらー。やっぱりこうなるでしょ?」
「ふうん。そうかしらねえ。でもアイコさん、あなたのそれは、マッサージになってないわよ」
「でもアタシの彼は、これで十分ギンギンになりますよ。ホント、正直すぎてムカつくなあ。えい!」
アイコは悔しそうに、ケンスケの股間の膨らみを、下から軽く叩き上げた。 それはちょうどケンスケの睾丸にうまく当たり、体を震わせた。
「うっ!!」
「あ、こんなのでも痛いんだ? ホント、金玉って急所なんですねー。えい、えい!」
アイコは面白がって、続けざまにケンスケの股間を叩いた。 その度に、ケンスケの股間には鋭い痛みが走り、やがて下腹部に重しを乗せたような鈍痛が広がっていく。
「こらこら。あんまり苛めないの。金玉の痛みは、男性にとって最大の痛みなのよ。潰れると、ショックで気絶してしまうこともあるんだから」
「先生は、男の金玉を潰したことがあるんですか?」
「えー。アタシ、蹴っ飛ばしたことはあるけど、潰したことはないなあ。あるんですか、先生?」
ルミとアイコが尋ねると、ケンスケもその答えが気になり、思わずカオルを見つめた。 カオルは少し黙っていたが、やがて思わせぶりに微笑した。
「そうねえ。まあ、私も色んな人とお付き合いしたりしたから。色々あったわよ?」
アイコとルミは興奮したように歓声を上げたが、ケンスケの顔からは血の気が引いていった。
「えー。すごーい。潰したら、どうなっちゃったんですか? 死んじゃいました?」
「何人くらい潰したんですか?」
「まさか、死にはしないわよ。潰したのは、当時付き合ってた人が二人と、痴漢が一人かしら。彼氏のは一個ずつだけど、痴漢のは、二つとも潰しちゃった」
「すごーい。先生に痴漢するとか、バカですねー。やっぱり、握りつぶしたんですか?」
「そうね。電車に乗っているときだったかしら。後ろから、お尻を触ってきたものだから、グッと握ってね」
カオルは右手を握りしめてみせた。 ケンスケにとっては、これ以上聞きたくもない話だったが、アイコとルミにとっては興味津々な武勇伝だった。
「えー。潰す時って、どんな手応えなんですか? 気持ち悪いですか?」
「うーん。なんていうかこう、ブチュッていうかグシュッていうか。独特の感触はあるわね。あんまり、気持ちのいいものじゃないと思うけど」
「へー。先生は握力が強いから潰せるんでしょうけど、アタシ達には無理かなー」
「そう? でも、意外と潰れそうで潰れないっていう話は、聞くわね。よかったら、試してみたら?」
「ホントですかあ?」
ケンスケの意見がまったく及ばないところで、彼の金玉の処遇が決められようとしていた。 思わず涙目になりながら、必死で叫ぼうとしたが、口に詰められたタオルのおかげで、その声は唸り声になってしまう。
「ん? どうしました、元木さん?」
カオルが気がついて、口に詰めたタオルを半分ほど出してやった。
「ハア…ハア…。す、すいませんでした! もうここには来ませんから! 見逃して下さい! 潰さないでください!」
口から涎が流れ落ちるのもかまわずに、ケンスケは必死に叫んだ。
「あら。そうですか? でも、さっきは差別だとか、警察に行くとか…」
「あ、あれは間違いでした! ここは、本当はボクなんかが来たら行けなかったんです。ボクが間違ってました! 警察にも行きませんから、許して下さい!」
「うーん。どうしようかしら…」
カオルはちょっと考え始めたが、必死の形相で謝るケンスケを見ても、特に心を動かされる様子ではなかった。それは、医者が手術をするかどうかを考えるように、事務的で冷静な思案だった。
「ダメですよ、先生。アタシ達に潰させてくれるんでしょ? もう決まりなんだから」
「そうですよ。アタシ達にも、経験させてください」
アイコとルミの要求は、おもちゃを奪われた子供のように、無邪気なものだった。
「そうねえ」
カオルは首をかしげて、ひとしきり考えていた。 その時間を、まるで死刑判決か否かを待つような気持で、ケンスケは待たなければいけない。
「じゃあ、こうしましょう。このコ達が金玉を潰せるかどうかは分かりませんから、とりあえず、元木さんには頑張ってもらって。潰れなければ、それでお終いということで。いいですか?」
まるで旅の目的地を決めるかのような自然さで言ったので、ケンスケには、ちょっと言っている意味が分からなかった。 つまり、アイコとルミがケンスケの金玉を潰すことにチャレンジして、潰れてしまえばそれまで。潰れなければ、それで解放してやるということらしい。
「あ…そ、それは…」
ケンスケが何か言おうとする前に、アイコとルミが歓声を上げた。
「やったあ! そうしましょ、先生!」
「よーし! アタシ、頑張りますね!」
嬉しそうな彼女たちを見て、カオルもまた満足そうにうなずいている。
「じゃあ、そういうことで。潰れないように、頑張ってくださいね、元木さん?」
それだけ言うと、再びケンスケの口にタオルを詰め込んでしまった。 ケンスケの頭は、真っ白になってしまった。 頑張れと言われても、頑張って金玉が潰れないようにできるものなのかどうか。 自分は一体、どうすれば良かったのか。 色々と考えているうちに、アイコの手は、容赦なくケンスケの股間に伸びてしまっていた。 うっと声を詰まらせても、もはや彼女たちはケンスケの顔を見もしなかった。
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