稽古が終わった後、更衣室でマユとサヤカが着替えていた。 男子たちは、もう全員帰ってしまっている。 今まで女の子はマユ一人だったので、男子が全員着替え終わった後、マユが更衣室を使っていたのである。
「でも、サヤカちゃんってホントにすごいね」
「なんで? そんなことないよ」
「だって、あのショウタ君に勝ったんだもん。同い年の子の中では、一番強いんだよ」
「あ、そうなんだ。でも、あのショウタ君って、ガードが甘かったからね」
「そうなの? それって、あの…アソコのガード?」
おとなしいマユは、金玉や金的という言葉がなかなか出てこない。
「そう。金的。ぜんぜんガードしてなかったよ。あそこ狙えば、マユちゃんでも勝てると思うけどな」
「そ、そうかな。私、あんまりやったことないから…」
「え、やったことないの? なんで? 男子にはタマタマ蹴るのが、一番効くんだよ。ウソみたいに痛がるもん」
「そうなの? でも、前に間違ってショウタ君の…アソコにちょっと当てちゃったときがあって、その日の稽古が終わった後、すごく怒られたから…」
「えー、アイツ、そんなことしたの? 意味わかんない。私が前にいた道場では、女子はみんな、男子の金的狙ってたよ。男子もそこそこガードしてたけど。マユちゃんも、どんどん狙っていいと思うよ」
「そ、そうかなあ…」
着替えが終わって、サヤカとマユは道場を出た。 時刻はもう夜で、あたりは真っ暗になっている。 二人がおしゃべりをしながら歩いていると、後ろから呼び止める人影があった。
「おい」
二人が驚いて振り向くと、そこには着替えてジャージ姿になったショウタと、ショウタの同級生のマモルとケンイチの姿があった。
「びっくりした。何か用なの?」
ショウタの声の調子には、十分な敵意が感じられたので、サヤカとマユは少し身がまえた。
「お前、サヤカつったっけ? 卑怯な手使って俺に勝ったからって、調子のるんじゃないぞ」
「はあ? 卑怯って何よ? 金的蹴りのこと?」
「キンタマ蹴るなんて、卑怯者のすることなんだよ。そんなんで勝って、嬉しいのかよ」
「そうだ、そうだ」
「正々堂々とやれよな」
ショウタが脅かすような調子で言うと、マモルとケンイチも同調した。 サヤカの隣では、マユが震えている。 ショウタは以前にもこんな風に、マユに脅しをきかせたのだろう。 そんなマユを見て、サヤカはショウタに怒りを覚えた。
「意味わかんない。金的攻撃は、ウチの道場では反則じゃないんですけど。負けたからって、言いがかりつけるの、やめてくれる?」
「うるせえ。反則じゃなくても、卑怯なんだよ。男は誰もやらねえんだぞ」
「へー、そうなの? でもそれってさ、アンタたち男子には、みんなタマタマがついてるからじゃないの? 人のを蹴ったりしたら、自分も蹴られちゃうもんね。大事な大事なタマタマをさ」
サヤカはショウタの股間を指さして、笑った。
「なんだと?」
「でも、残念。私たち女子には、か弱いタマタマなんかついてないからさ。どんなに男子のタマタマを蹴っても、蹴られる心配がないんだよね。だから、私たちはこれからどんどん蹴らせてもらいますから。潰されないように、気を付けてね」
「てめえ! 蹴ってみろよ! ホントは俺たちだって、キンタマ蹴られたって、大して痛くねえんだよ。ただちょっと、びっくりするだけだ」
「ウソばっかり。ねえ、マユちゃん知ってる? 男子はね、タマタマを蹴られると、タマタマがお腹の中に上がって、降りてこなくなって、それがすっごい痛いんだって。だから、タマタマを降ろすために、ピョンピョン飛び跳ねるらしいよ。バカみたいだよねー」
サヤカはマユに笑いかけながら、その場を去ろうとして、後ろを向いた。 しかしショウタたち男子の怒りはおさまるはずがなく、ついにショウタはサヤカに後ろから襲いかかった。
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