「え? いや…私には、パトロールがありますから。そういうことは…」
「いいじゃない。ちょっとだけだから。ちょっと一杯だけ。そのマスクの下、見てみたいなー」
「ねー。ほら見て、すごい胸板。腕もたくましいし。お兄さん、細マッチョだね!」
ボールレジェンドのスーツは体に密着していて、感触がダイレクトに伝わってくる。若い女性の手で無遠慮に体を触られると、さすがに興奮を抑えきれなくなった。
「ホントだー。すごい筋肉。お兄さん、絶対イケメンでしょ。細マッチョのイケメンって、アタシ、タイプだなー」
「い、いや…。すいません。やめてください…」
動揺する山本の股間で、その肉棒がくっきりと形を現し始めている。 そして股間の盛り上がりが大きくなると、その付近はますます体に密着し、肉棒の下にある二つの卵状の膨らみまでもが、はっきりと分かるようになってしまっていた。 アンナとハルカは、チラリとその膨らみに目を落とすと、山本の視界の外で、クスクスと笑いあった。
「もう、いいから行こうよ。ほら!」
酔っ払い特有の強引さで、アンナが山本の腕を引いた。 もちろん山本の大きな体は、彼女が全力で引っ張ったところでびくともしないのだが、次の瞬間、アンナの手の甲が、緩やかな弧を描いて山本の股間を下から叩き上げた。
「はうっ!!」
完全な死角からの打撃だったため、山本には身構える余裕はなかった。 それはほんの軽い衝撃だったのだが、さきほどの蹴りで痛めつけられ、さらにボールレジェンドのスーツによってみっちりと押さえつけられた山本の睾丸は、むき出しの内臓と言ってよかった。
「あ…くくく…!!」
全身にジーンと響き渡る重苦しい痛みに、山本は思わず体をくの字にして、片手で下腹をおさえる。
「あれ? またなんか、当たっちゃった?」
「ホント? もー、アンナってば、気をつけないと」
山本の異変に気付いた女性たちは、わざとらしい調子で言った。 その口元はにやけているが、山本にはそんなことを気にする余裕はない。
「伝説のヒーローでも、ここは急所なんだから。気をつけないと。どれ、ちょっと見せて」
「い、いや…! それはちょっと…あ!」
腰を引いて痛みに耐えている山本の股間に、ハルカが手を伸ばした。 山本は体をひねって避けようとしたが、その動きは自分が思っていたよりもはるかに鈍いもので、簡単に自分の最大の急所を掴まれてしまった。
「あ! あの…ちょっと…!」
空手をやっていたというハルカの握力は強力で、何の躊躇もなく山本の膨らみを鷲掴みにして、引っ張った。自然と、山本は背中を反らして腰を前に突き出さざるを得なくなる。
「ああ、大丈夫そうだね。腫れたりしてるかと思ったけど」
「ホント? 良かった」
「は、はい…。大丈夫ですから…その…」
うれしそうな女性たちとは裏腹に、ヘルメットの下の山本は苦痛に顔をゆがめていた。 彼女たちの目からは、それを知ることはできないわけだが、子供たちが真剣にその強さに憧れている戦隊ヒーローを、若い女性が片手で苦しめているという状況に、ますますおかしみを感じていた。
「あれ? でもさ。タマは無事みたいだけど、なんかその上の方が…」
「えー? あ、ホントだ。大きくなってるー!」
今、気がついたかのように、女性たちは黄色い声を上げた。
「あ! い、いや…これは違って…その…」
「もー! お兄さん、いやらしいなあ。何考えてるの?」
「ヒーローがこんなことして、いいんですかあ? 子供たちは、ガッカリするだろうなあ」
痛みに苦しむ山本の顔から、血の気が引いていった。 もし、彼女たちがこの状況をネットなどに公開すれば、どうなるか。 股間を膨らませたヒーローが、夜の街で女性たちと戯れていたとでも書かれれば、すぐさまその情報は拡散されるだろう。 ボールレンジャーというヒーローのイメージダウンだけならまだしも、その中身が実は現役の警察官だったと知れれば、自分は懲罰ものではないだろうか。 決して大げさではないさまざまな想像が、山本の頭を駆け巡った。
「まあ、ヒーローも男だってことだねー。フフフ…」
笑いながら、ハルカは山本の二つの睾丸を揉み続け、さらには指の端でその肉棒をも軽く弄んでいた。 絶体絶命の危機に陥っているはずの山本も、この指使いのせいで、興奮を鎮めることができないでいた。
「ねえ、お兄さん。ボールゴールドだっけ? 私たち、こう見えて先生なんですよ。私は小学校で、ハルカは中学の先生。ボールゴールドに会ったこと、生徒たちに話してもいいですか?」
ハルカの握力から必死に逃れようとして、それができないでいる山本を見て、アンナは笑いをおさえきれずに、クスクスと笑っていた。
「い、いいえ! いいえ! やめてください! このことは、誰にも…! ホントに、お願いします!」
山本は、自分の想像が悪い形で的中してしまったと思い、必死の思いで首を振った。 そこにはもはや、伝説の勇者だとかヒーローだとかのプライドは何もなく、ただ文字通り女性に弱みを握られた男の素の姿があった。 一方の女性たちは、自分たちが思っていた以上に相手が必死なのを見て、またよからぬことを考えてしまったらしい。
「えー? 伝説のヒーローが、お願いしますだって?」
「ふーん。…じゃあね、私たちとヒーローごっこしてくれたら、黙っててあげる」
少し考えてから、ハルカはそんなことを言った。
「…ヒーローごっこ?」
「そう。せっかく本物のヒーローに会えたんだから、ヒーローごっこしてみたいなあ。ほら。こうやって、私が後ろに回るから…」
そう言うと、ハルカは山本の股間から手を離し、背後に回り込んで、両脇を抱えて羽交い絞めにした。
「え…? これは…?」
山本はまだ状況を掴めずにいたが、かといって今まで握られていた股間の痛みのために、体に力が入らなかった。
「それで、私が仲間にこう言うから。今だ! 私がおさえているから、やっつけろ! ってね?」
ハルカが山本の肩越しに叫ぶ様子を見て、ようやくアンナもうなずいた。
「あー、そういうことね。テレビでよく見るヤツだ。そこで、私の出番ってわけね。はーい、わかりました」
「そうそう。じゃあ、いくよ?」
「え? あの、ちょっと…」
アンナとハルカは納得したようだったが、山本はまだ訳が分からなかった。 しかし女性たちは、勝手に話を進めていく。
「いまだ、アンナ! 私に気にせず、コイツをやっつけて!」
「ええ! そんな…。私、どうすれば…」
「いいから早く! 私のことは気にせずに!」
彼女たちの間では、すでにこのヒーローごっこの結末が決まっているような様子だったが、山本には何のことかいまだに分からない。 しかし山本の両腕は、後ろからしっかりと羽交い絞めにされていて、さらに気がつかないうちに、ハルカの両脚が山本の脚の間に入り、その股間を大きく開かせていた。
「…よし! 分かった! いくよ!」
「え? いや…あの…?」
大きくうなずいて、決意した表情のアンナを見て、山本は不安を感じた。
「必殺! ゴールドボールクラッシュ!!」
掛け声とともに、アンナの右足が山本の股間に向かって、大きく振り上げられた。 空手をやっていたというハルカに比べれば、かなり素人じみた蹴りだったが、足の甲のあたりにぐにっとした質量を感じたアンナは、そのままそれを躊躇なく、股間に押し込むようにして蹴り上げた。
「はあっ!!」
ぞわっとした寒気のようなものが、山本の腰骨から背筋にかけて走った。 激しすぎる衝撃を股間に受けたときは、いつもそうだ。まず、男としての生命の危機を知らせるような危険信号が、背筋を走り抜けて脳に至る。 そしてその数瞬後に、男として命の次に守らなくてはならない大切な急所を、守りきれなかった天罰のような痛みが訪れる。
「あ…かあっ…!!」
プライドの喪失、遺伝子の否定、オスとしての存在失格。さまざまな屈辱的要素を孕んだその痛みは、同時にそれらのすべてを引き換えにしてでも避けたくなる、圧倒的すぎる痛みだった。
「やったー! 倒したぞー!」
「イエーイ!」
自分でも気づかぬうちに、その場にしゃがんでうずくまってしまった山本を見て、アンナとハルカは嬉しそうにハイタッチした。 おそらくアンナの蹴りのつま先が、ハルカのパンツスーツの股間にも多少の衝撃を与えたはずだったが、当然ながら彼女はそんなことを気にする様子もなかった。
「あー、スッキリした。蹴るときに、あのセクハラ教頭の顔が浮かんだもん」
「ああ、たぶん、そうだろうなと思った。目が本気だったもんね。ていうか、ゴールドボールクラッシャーって何? ウケるんだけど」
「ああ、別に。意味はないんだけど。なんか、必殺技って言った方が、ヒーローごっこっぽいかなって思ってさ。ゴールドボールをやっつけるから、クラッシャーで…あれ? この人、ボールゴールドだっけ?
二人の酔いはまだ醒めてはいないようで、本人たちも何を言っているのかわからなくなりそうだった。 山本は彼女たちの足元で、ヘルメットの下で荒い息をしながら、体を小刻みに震わせている。 すでに股間の勃起はおさまっていたが、しゃがみこんだことで、ボールレジェンドのスーツは相変わらず彼の股間を圧迫し続けている。 もはや何もかも忘れて、すぐにでもスーツを脱ぎ捨てたい所だったが、指一本動かすことすら、今の山本にとっては苦痛だった。
「どっちでもいいよ。とりあえず、アンナが蹴ったのはゴールドボールでしょ。ねえ、お兄さん。ありがとね。楽しかったし、また今度飲みに行こう?」
「そうそう。今度は、ホントに飲みに行こうよ。アタシ、細マッチョの人大好きだから」
苦しむ山本は返事をするどころではないが、彼女たちにはそんなことは分からない様子だった。
「でも、今度はその格好で来たらダメだよ。その服見てると、なんか大事な所を蹴りたくなっちゃうから」
「あー、分かる。なんかもっこりしてると、握りたくなるよね。ギューって」
「そうそう。不思議だよねー。蹴った時の感触も、ブルンってして、気持ちよくない?」
「うんうん。分かるー」
女性たちは山本を介抱する気も無いようで、笑いながらその場を離れて行った。 山本が何とか立てるまでに回復したのは、それから30分も後のことで、さらに一時間かけて、子供たちの憧れである伝説の勇者は、よろよろと内股になって歩きながら、警察署までたどり着いたのだった。
終わり。
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