合宿の最後に行われるのは、次期部長に予定されている、3年生の男女の組手だった。 この組手で自分たちの実力を先輩たちに認めてもらうというのが名目だったが、実質は、空手部内での男女の力関係を決めるための儀式だった。
「タクヤ! 頑張れ!」
「ヒカリ! 一発でやっつけちゃって!」
今年度の部長候補の二人が前に出ると、男女それぞれから応援の声が飛んだ。 この試合に勝った方が、来年一年間の空手部の主導権を握るのは暗黙の了解で、この合宿のプログラム自体が、去年の女子部長の意向によって決められたものだった。 つまり、この試合にタクヤが勝てば、来年の合宿では金的攻撃を禁止にすることも可能なのである。タクヤだけでなく、男子部員全員が必死になるのも当然だった。 もっともこの数年、男子が空手部の主導権を握ったことはなく、合宿から金的攻撃が廃止されたこともなかったのだが。
「やっぱりタクヤか。最近、強いもんね」
「まあな。今日こそ、今までの借りを返すぜ」
タクヤは全国大会でも上位に入るほどの実力者だったから、次期部長に指名されるのは当然といえた。 しかしそんなタクヤも、金的攻撃ありの組手で、同じく全国レベルの実力者であるヒカリに勝ったことがない。
「そうだね。これに勝ったら、ボーナスもあるもんね。アタシもタクヤだったら、一晩中付き合ってあげてもいいよ?」
「な…ば、ばか…! そんなもん、どうでもいいよ…」
ウブなタクヤは、顔を赤らめた。 ヒカリの言うボーナスとは、この試合に勝った者は、部員の中から一人指名して、合宿最後の夜を一緒に過ごすことができるというものだった。 もちろんそれは、セックスなどをすることも含まれている。 まことに体育会系らしい、悪ノリしすぎたようなボーナスだったが、金的ありの危険な組手に挑む男には、そのくらいの報酬がなければ、やっていられないのかもしれなかった。
「あれえ? 恥ずかしがってんの? 遠慮しないでね?」
「う、うるせえ! 始めるぞ!」
実はこれも、ヒカリの作戦だった。 合宿の間中、溜まりに溜まった若い男の欲望を刺激して、動揺させる。次期部長対決に挑む女子の間で密かに伝わっている、伝統の方法だったのだ。
「始め!」
現男子部長の掛け声とともに、試合が始まった。 タクヤとヒカリは同時に構え、相手の様子をうかがった。 試合は3本中、2本先取した方が勝ちとなる。
「タクヤ! 落ち着いていけ!」
「ヒカリ、そんなヤツに負けないで!」
周りで見守る男女の部員たちも、必死だった。何しろ、来年一年間の自分たちの待遇が決まる、大事な試合なのだ。 自然と、この試合では、普段は聞こえないような下品なヤジが飛ぶのも、黙認されていた。
「タクヤ! ヒカリの胸ばっかり見ないでよ!」
「おいおい、ヒカリ! 目つきがいやらしいぞ。色仕掛けなんかするなよ!」
こういったヤジで動揺するのは、どちらかといえば男の方だろう。 日常の中で、女性は男性よりもはるかに、性的な興奮を感じる時間が少ない。 一方の男性は、一度興奮のスイッチが入ってしまえば、なかなかそれを止められなくなってしまうものなのだ。 タクヤのように若くて、体力が旺盛な男なら、なおさらのことである。
「タクヤ! 腰が引けてるよ。もう、勃起してるんじゃないの? ヒカリとエッチする想像しちゃって!」
「ヒカリ! エッチどころか、オナニーもできなくなるくらい、金玉蹴とばしてやりな!」
なりふりかまわない女子たちからのヤジが、嫌でも耳に入ってしまう。 事実、タクヤは試合に集中しようと思いながらも、頭の片隅で、ヒカリが裸になったところを想像し、その柔らかい体を抱きしめる自分までも、そこに重ね合わせていた。
「おおりゃっ!」
いかがわしい想像を振り切るかのように、タクヤは攻撃に出た。 さすがに全国レベルの実力を誇るだけあって、その突き、蹴りは鋭い。 ヒカリはガードしたり、かろうじてかわしたりしていたが、防戦一方となってしまった。
「場外だ。待て!」
タクヤの攻撃のあまりの勢いに、ヒカリの体は場外へ押し出されてしまった。 一本にはならないが、試合開始線に戻ってから、仕切り直しとなる。
「いいぞ、タクヤ! 押してるぞ!」
「ヒカリ! 落ち着いて!」
タクヤは十分な手ごたえを感じていた。 本来の実力さえ発揮できれば、決して負けるような相手ではないのである。 金的攻撃に関しても、空手部に入部して以来、先輩の女子たちにさんざん蹴られ続けているので、対応できないわけではない。 積極的かつ慎重に、タクヤは攻め続けるつもりだった。
「ふう…。やるなぁ…」
開始線に戻った時、ヒカリはため息をついて、何気なく道着の帯を締めなおした。 その時、道着の胸元部分がはだけて、ヒカリの形の良い乳房と、ピンク色の乳首が、タクヤの目に飛び込んできた。
「……っ!」
Tシャツやブラジャーを着けていないのは、もちろん作戦だった。 試合中におおっぴらに見せるわけにはいかないが、このくらいチラつかせた方が、かえって男の意識を引くことを、ヒカリはよく分かっている。
「よし。始め!」
試合が再開された。 タクヤは一声上げて、気合を入れようとしたが、今しがた見えた、ヒカリの乳房が目に焼き付いて、容易に離れそうにない。 その動揺を見透かしたかのように、ヒカリは続けざまに突きを放ってきた。
「えい! やあ!」
ヒカリの突きもさすがに鋭く、タクヤはかろうじて受け流していた。 しかし、ヒカリが目の前で動くたびに、道着の胸の部分がはだけていく。 今にも、ピンク色の乳首が見えてしまうのではないか思うと、タクヤの目は、そこに釘づけになってしまった。 それらすべてが、ヒカリの作戦通りだった。
「はっ!」
ヒカリの胸が見えることを無意識に期待して、上半身に目が向かったタクヤ。注意力が散漫になっていたその股間を、地を這うようなヒカリの金的蹴りが襲う。
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