「あ、ショウタ。まだだよ。ちょっと待って」
芋虫のように這いずるショウタの前に、ハルカが立ちはだかった。 その何気ない様子が、ショウタにとっては逆に恐怖だった。
「ねえ、ショウタ。キンタマが潰れたら、キーンって音がするんでしょ? そうでしょ?」
ハルカは、背中を丸めて苦しむショウタをまたいで、見下ろした。 息が詰まるような痛みの中で、ショウタは返事をする。
「ち、違うよ…。そんな音…しない…」
「ウソ。絶対するよ。しないと、おかしいじゃん」
「おかしいって…。そんなこと言われても…」
すると、今度はユウナが、ショウタの顔の近くにしゃがみこんで聞いた。
「じゃあさ、キンタマって何色なの? やっぱり、金色なんでしょ?」
「いや…金色っていうか…。肌色…だよ…」
実は密かに想いを寄せていたユウナの口から、キンタマという単語が出て、しかもその色に興味を持っていることを知った時、ショウタはさすがに恥ずかしくなってしまった。
「ウソ―。金色じゃないの? なんで? どうして?」
「なんでっていうか…」
「ていうか、ちょっと見てみようよ。ズボン脱がせよう。もともと、そのつもりでここに呼び出したんだし。ちょっと手、どけてね」
そう言うと、ハルカは有無を言わせずに、ショウタの両手を掴んで、股間から離してしまった。
「あ! おい、やめろって…」
必死に抵抗しようとするが、まだショウタの体には力が入らなかった。 そして、頭上に回り込んだユウナが、ショウタの両手をハルカから受け取った。
「いいじゃん、キンタマ見せてよ。お願い」
ユウナにそう言われると、恥ずかしいような情けないような気持ちになり、ショウタは抵抗する気力を失ってしまった。 しかし、ハルカの方はそんな微妙な気持ちを理解するはずもなく、問答無用とばかりに、ショウタのズボンとパンツを、一気にずりおろしてしまった。
「よいしょっと。あー。ほら、やっぱり。金色じゃないじゃん、ユウナちゃん」
「えー、ホント? あ、ホントだあ。肌色だね」
クラスの女の子二人が、自分の股間に注目している。 そんな異常な状況に、ショウタは顔を赤らめることしかできなかった。
「てことは、やっぱり潰れたらキーンっていうから、キンタマなんだよ、きっと。金色ってことじゃないんだ。ね? そうでしょ?」
「ち、違うって…! 潰れたって、そんな音しねえよ!」
「ウソだー。ていうかショウタ、アンタ、キンタマが潰れたことあるの?」
「え? そ、それは…ない…けど…」
ショウタの脳裏に、絶望的すぎる想像が浮かんだ時、ハルカはすでにショウタの股間にぶら下がった、小さな陰嚢を掴んでいた。
「うっ!」
ショウタの睾丸に、再び鈍い痛みが走る。
「じゃあ、分かんないじゃん。潰してみないとさ」
にっこりと笑ったハルカの顔が、ショウタには悪魔がほほ笑んだように見えた。
「えっ…! いや、そんな…! 分かるよ。潰れなくても分かるって! 自分の体なんだし…!」
「そうだよ、ハルカちゃん。潰したりしたら、すごい痛そうだし、かわいそうだよ。それにさ、アタシ、今見てて思ったんだけど…」
すると、ユウナもまた、ショウタの陰嚢に手を伸ばして、中に入っているデリケートな睾丸をつまみ上げた。
「これって、キンタマ袋ってヤツなんでしょ? この中に、ホントのキンタマが入ってるんだよ。それで、中のキンタマが金色なんだよ、きっと」
「えー。そうなのかなあ。コレ? このコリコリしてるやつ? 二つあるんだね」
「そうそう、コレ。ホントだ、二つあるね」
女の子たちが無造作に握りしめているものは、ショウタにとって命の次に大切な急所だった。 その急所がどう扱われるか、まさしく彼女たちの気分次第であることを理解すると、ショウタは完全に屈服してしまったような気持ちになり、女の子たちが恐ろしくなった。
「ねえ、ショウタ? 中に入ってるキンタマが、金色なんでしょ?」
「え…いや…どうかな…。見たことない…」
「えー? 自分の体だから、分かるって言ってたじゃん。ウソつきー。出せないの、コレ? どっかから出そうだけど…」
ユウナはそう言って、ショウタの陰嚢を熱心に揉み始めた。 引っ張ってみたり、押し込んでみたりするが、彼女が思うように、袋が開いたりはしなかった。
「うっ! はあっ!」
普段なら、くすぐったい程度の揉み方だったが、先ほど思い切り蹴られたショウタの金玉は繊細で、ユウナが手の中で動かすたびに、ショウタの息が上がった。
「ウソ。これだけでも痛いんだ?」
「えー。ちょっと触ってるだけなのに。大事なトコロって、そういう意味なのかなあ。大事に守らなきゃいけないってこと?」
「そうなのかなあ。ていうか、キンタマって何のためについてるの? おしっこするなら、チンチンだけでいいんじゃないの?」
「ホントだね。ねえ、なんでついてるの、コレ? 痛いなら、いらないんじゃないの?」
「し、知らねえよ! でも、キンタマは大事なんだよ。キンタマがなかったら、男じゃねえんだぞ! 男にとって金よりも大事だから、金玉っていうんだろ!」
女の子たちに金玉を蹴られ、さらに直接いたぶられて、ショウタの男としてのプライドは、ズタズタになる思いだったが、それでも自分についている男のシンボルの存在だけは、否定したくなかった。 痛みと悔しさで、いつの間にか涙まで流してしまっていた。 しかし、これが意外にも、女の子たちを納得させたようで、二人は顔を見合わせて、うなずいた。
「あー、そっかあ。そういうこと?」
「キーンって音がするとか、金色だからとかじゃないんだあ」
「確かに、キンタマがなくなったら、男じゃないもんね」
「蹴られたら、泣いちゃうほど痛いんだもん。そんなのを守らなくちゃいけないから、大変なんだね、男って」
急所を握られ、潰されるかもしれないという絶体絶命の状態で出た、苦し紛れのショウタの言葉だったが、案外それが、女の子たちの心に響いたようだった。 ショウタは、涙に濡れた目で、体育倉庫の天井をじっと眺めていた。
「だからさ、二個あるんじゃない? 一個潰れてもいいように、予備なんだよ、きっと」
「そっかあ。じゃあ、一個は潰れても平気なんだね」
え?と、ショウタは再び顔を向けた。 そこにはやはり、かわいい顔をしたクラスの女の子二人が、自分の金玉袋を握りしめている。
「ごめんね、ショウタ。ちょっと我慢してて」
「一個だけだから。キーンって音がするかどうか、確かめるだけだからさ」
震えながら首を振っても、もはや彼女たちにショウタの思いは届かなかった。
「いくよ。えーい!」
「ぎゃあああっ!!」
ショウタの金玉が無事だったかどうか。 それは誰も知らない。
終わり。
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