子供たちの遊びというものは、いつ誰が考えたのか、よく分からないまま、流行になってしまうものが多い。 それらは子供らしく単純で、無邪気なものがほとんどだが、中には大人がちょっと思いつきもしないような、過激な遊びもあったりする。 これはそんな、遊びの一つ。 いつ終わるともしれない、流行の一つだ。
「ねえ、ダイチ君も、パンツ見たい?」
学校の廊下の隅で、いきなりそんなことを聞かれたので、大原ダイチは答えに詰まってしまった。
「え? なに…?」
ダイチは一週間ほど前に、この学校に転校してきたばかりで、ようやく5年2組のクラスメイトの名前と顔が一致し始めたころだった。
「見たかったら、見せてあげようか? アタシのパンツ」
ニコニコしながらそう言うのは、クラスメイトの中でも、ダイチがちょっと気になっていた浜崎ミキだった。 ミキはいつも小学生らしくない、オシャレな格好をしているが、今日はフリルのついた可愛らしいスカート姿だった。 そしてそのスカートの裾に、すでに手をかけていて、今にもダイチの目の前でめくってしまいそうな様子なのだ。
「パ、パンツって…。な、何で…?」
必死に平静を装おうとするが、動揺は隠しきれなかった。 思えば、ダイチがこのクラスに転校してきてから一週間、たびたび妙なやり取りを目撃したことがあった。
例えば、昨日の昼休みのこと。
校庭で、一輪車に乗って遊んでいたクラスの女子が、何かの拍子に転んでしまったことがあった。 その周りでは、他に男子も遊んでいたのだが、彼らはみな、慌ててその転んだ女子、サユリの方から目をそらしたのである。 たまたまサユリはスカートを履いており、転んだ拍子に、その中が見えたか見えなかったか、少し離れて見ていたダイチには、判別がつかなかった。
「あいたた…。転んじゃったー。あ、アンタ達、アタシのパンツ見たでしょ?」
サユリは、自分の体の心配よりも、周りにいたクラスメイトの男子達に、目を光らせた。
「い、いや。見てねえよ」
「俺も。ちょうど、あっちの方見てたから」
慌てて目をそらしたシンイチとジンは、明らかに動揺していた。 その動揺は、「女の子のパンツを覗いた」という、いやらしい気持ちに起因しているものでないことは、同じ男であるダイチには、すぐに分かった。 まるで、何かを恐れているような、必死にそれを避けようとするような、ちょっと奇妙な慌てぶりだった。
「ホントー? ま、いいか。でも、次はちゃんと料金をもらうからね?」
サユリは少し笑いながら立ち上がると、再び一輪車で遊び始めた。 そして、それを聞いた男の子たちは、顔を強張らせると、そそくさとその場を離れたのだった。
あのときの、シンイチとジンの動揺は何だったのか。ダイチにはまったく見当がつかなかったが、どうやらサユリのパンツに関係があることだけは、おぼろげに理解できた。 そして今、同じクラスメイトのミキが、自分にパンツを見せようとしている。
「な、何で、その…パンツ…見せてくれるの…?」
ダイチは背が高く、スポーツが得意な男の子だったが、性格はごく大人しかった。 一人っ子で、もちろん、女の子のパンツを間近で見たことなどない。
「えー? だって男子って、みんな女子のパンツが好きなんでしょ? だから、ダイチ君も見たいのかなって。今日、アタシ見せパン履いてきたから、ちょうどいいかなって」
「み、見せパン…?」
見せパンが何なのかすら、ダイチには分からなかった。
「そう。カワイイんだよ。見てみる?」
おもむろにスカートをめくりあげようとするミキを、ダイチはもはや止めようとはしなかった。 ただ、思わずゴクリと唾を飲み込んだ時、思い出したことがあった。
それは、先ほどの給食の時間。
今日はクラスに何人かの欠席者がいて、デザートのゼリーが、その分だけ余った。 小学生の常として、それは取り合いになり、多くの場合、じゃんけんなどで分配される。 しかし今日に限って、女子のカエデが、どうしても譲らなかったのである。
「じゃんけんだよ。いつもそうやって決めてるだろ!」
最後に残ったゼリーをめぐって、カエデと争っているのは、男子のコウタだった。 コウタはじゃんけんによる公平な勝負を要求しているのだが、カエデがどうしても譲らないのだ。
「やだあ。アタシ、じゃんけん弱いんだもん。ねえ、お願い。このゼリー、アタシの大好物なんだあ。ねえ、ちょうだい?」
「ダメだよ。俺だって、大好物なんだからな。じゃんけんで決めようぜ」
こちらも譲ろうとしないコウタの強情ぶりを見て、カエデはある提案をした。
「わかった。じゃあ、パンツ見せてあげるから。それでいいでしょ?」
「え?」
と、コウタの顔が、サユリから目をそらしたときの男子達と同じように、強張った。
「ね? ほら、見せてあげるから。いくよー」
カエデが自らのスカートをめくろうとした瞬間、コウタは慌てて、持っていたゼリーをカエデに押し付けた。
「も、もういいよ。ゼリーやるから。その…パンツはいいよ!」
「ホント? ありがとー! わーい!」
あれだけ強情を張っていたコウタが、あっさりとゼリーをカエデに渡してしまったのを、ダイチは不思議そうに見ていた。
「でも、ホントにいいの? パンチラだけでも見せてあげよっか? ほら。チラ!」
カエデはスカートの裾をちょっとだけ上げて、その中にある自らのパンツをチラつかせた。
「いいってば! 俺、見てないぞ。見てないからな!」
両手で顔を隠して、必死で見ないようにするコウタを、カエデは面白そうに追いかけた。
「ホントに見てないかなー? ほら、ほら!」
カエデが無造作にめくりあげるスカートの中に、赤いリボンのついた、白いパンティーが見えた。 ダイチは自分の席に座りながら、思わずそれに目を走らせてしまったが、ふと気がつくと、周りの男子達は、みな一様に目を伏せているようだった。
あの時コウタは、必死にカエデのパンツを見ないようにしようとしていた。 あれだけこだわっていた、ゼリーまであげてしまって。 それが何を意味するのか。 今、クラスの女子の中でも、とりわけカワイイと評判のミキが、目の前でスカートをめくりあげようとしている状況では、それを深く考えるだけの余裕はなかった。
「ジャーン。カワイイでしょー?」
ミキが自らめくりあげたスカートの下から、可愛らしい水玉模様のパンティーが現れた。 見せパンというだけあって、裾には大げさなフリルがついており、いかにも女の子が好きそうなデザインだった。
「あ…うん…」
ダイチの目は、釘づけになってしまった。 ダイチは早熟で、親に隠れてインターネットのアダルト画像などを盗み見ては、興奮することが何度かあった。 しかし今は、パソコンの画面ではない生で、しかもこんなに目の前に、女の子のパンティーと下半身がある。
「あ、あとね。後ろもカワイイんだ。ほら。クマさんなの」
ダイチの興奮をよそに、ミキはクルリと振り向いて、パンティーのお尻を向けた。 確かにそこには、可愛らしいクマのイラストが描いてあったが、心もち内股になって、お尻をキュッと上げたその体勢は、男の本能的な欲情を揺さぶるものだった。 ミキは、自他共に認めるクラスのファッションリーダーだったが、性的な意味ではまだ子供で、自分の行動がダイチの目にどう映っているか、まったく理解していないようだった。
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