「うーんとね。こう、かまえるでしょ。で、相手がこう立ってるから、こう」
奇妙な光景だった。 とある小学校の放課後。教室に残った女の子たち数人が、一人を取り囲むようにして、熱心にその話に聞き入っている。 輪の中心にいる女の子の名前は、カエデ。小学3年生だった。 カエデは目の前に一人の女の子を立たせて、その股の間に足を入れて、何やらレッスンをしている様子だった。
「ここにキンタマがぶら下がってるから、下から蹴ればいいの。簡単だよ」
カエデは短パンを履いた女の子の股ぐらを、ポンポンと軽く足の甲で叩きながら、言った。 周囲にいる女の子たちは、興味津々な様子でそれを聞いている。
「そのキンタマって、男の子のアソコのもっこりしてる、アレのことなの?」
カエデを囲む女の子の一人、ケイコが尋ねた。
「そうそう、あのもっこり。あそこの下の方にキンタマがあるの」
「下の方って…」
ケイコは記憶を探るように、首をかしげた。 カエデは、正面に立って練習台になっていたサユリの股間に手を伸ばして、説明した。
「こう、もっこりがあるとするでしょ? そしたら、この下の方、ここにあるから。この上の方は、オチンチン」
「あ、そんな風になってるんだ。オチンチンは、蹴っても痛くないの?」
「うーん。普通に痛いけど、キンタマに比べたら、全然みたい」
「へー。不思議」
ケイコと同じく、周囲にいた女の子全員が、声を上げて不思議がった。
「だから下から蹴らないと、オチンチンに邪魔されて、キンタマにうまく当たらないの。気をつけてね」
カエデの言葉に、女の子たちはうなずいた。
「蹴るときは、こう。ボールを蹴るみたいな感じで蹴るの」
ポコンと、カエデはサユリの股間を蹴りあげた。 蹴られたサユリは、カエデの話に聞き入っていて、自分の股間のことなどまったく気にならないらしい。
「キンタマって、どのくらいの大きさなのかな?」
「えーっとね。ウチのお兄ちゃんのは、このくらい。うずらの卵みたいな感じかな」
カエデは、指で輪っかを作ってみせた。
「え? 人によって違うの?」
サユリが驚いたように聞いた。
「うん。お父さんのは、ピンポン玉よりちょっと大きいくらいあるよ。お兄ちゃんのは二つ一緒に握れるけど、お父さんのは無理だもん」
「そうなんだ。大人になると、オッパイみたいに大きくなるのかな。ていうか、キンタマって二つあるんだ?」
「そうだよお。みんな、そんなことも知らないの?」
カエデは呆れたように笑ったが、ケイコやサユリをはじめとする他の女子たちにすれば、逆にカエデはそんなことまで知っているのかと驚く思いだった。
「キンタマはね、右と左に一個ずつぶら下がってるんだよ。キンタマ袋っていう袋に入ってるの」
「キンタマ袋? 右と左にあるの?」
キンタマの実物を見慣れているカエデにとっては、こんな説明などするまでもないことだったのだが、まだ保健体育で性教育も受けていないその他の女子にとっては、まったくちんぷんかんぷんなことだった。
「えーっとね。ちょっと待って」
カエデは、机の上に置かれていた自分のランドセルを開けて、小さな巾着袋を取り出した。 その中身を全部出して、代わりに消しゴムを二つ、巾着袋の中に入れる。即席の疑似キンタマ袋の完成だった。
「こんな感じ。袋の中にちっちゃなタマが二つ入ってて、それがぶら下がってる感じなの」
カエデは疑似キンタマ袋をサユリの股間にあてて、説明した。
「えー! そんなのがぶら下がってるの?」
「邪魔じゃないの?」
「面白ーい!」
女の子たちは口々に声を上げた。
「そうそう。だから、これを下から蹴り上げればいいってこと。サユリちゃん、ちょっと持ってて」
言われた通り、サユリが疑似キンタマ袋を自分の股間にあてると、カエデがそれをポコンと蹴りあげた。
「こうね」
今度は女の子たちにも、よく理解できた。互いにうなずいて、確かめている。 すると突然、疑似キンタマ袋の持ち主であるサユリが、今しがたカエデに蹴られた袋をおさえて呻きだした。
「ああん。痛いよー。キンタマ潰れたー。痛い痛い」
いかにも痛そうに巾着袋をおさえて、声を上げる。 その姿に、女の子たちは声を上げて笑った。
「サユリちゃん、ウケるー!」
「キンタマ、潰れちゃったの?」
女の子たちの笑いがとれて、サユリは得意げな顔で舌を出した。
「サユリちゃん、キンタマ潰れたら、男の子はピョンピョンするんじゃないの?」
「あ、そっか。こうかな。痛い、痛い」
女の子の一人が言うと、サユリは股間を両手でおさえたまま、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。 その姿に、女の子たちはさらに爆笑した。
「でもさあ、キンタマって蹴るとホントに潰れたりするのかな?」
ケイコが、笑いすぎて目に涙を浮かべながら、尋ねた。
「どうかなあ。ウチのお兄ちゃんのは何回も蹴ってるけど、潰れたことないみたいだよ」
「潰れなくても、痛いの?」
「うん。ぜんぜん大丈夫。軽く蹴っただけで、すっごい痛がるから。思いっきり蹴った時は、ピョンピョンする元気もなくなるんだよ」
へー、と女の子たちは感心したような声を上げた。 彼女たちには、自分たちについていないキンタマというものが、どうしてそんなに痛いものなのか、不思議でしょうがないらしい。
「だから、男子とのせんそーでは、絶対キンタマを狙った方がいいよ。キンタマを蹴れば一発だから」
カエデは、自信満々にそう言った。 どうやら、女の子たちが集まってキンタマ攻撃の練習をしている理由は、このクラスの男子とのもめ事にあるらしい。 彼女たちが「せんそー」と呼ぶ男女の決闘が、明日の放課後、行われることになっているのだった。
「そうだね。でも、男子も動くだろうから、うまく蹴れるかな?」
「あ、そういうときはね、握っちゃえばいいの。こうやって」
そう言うと、カエデはサユリの股間にある疑似キンタマ袋を、右手でギュッと握りしめた。
「キンタマを握っちゃえば、男子は絶対動けなくなるから。蹴りが当たらないときとか、近づいたときとかはこっちの方がいいよ」
言いながら、カエデは巾着袋の中の消しゴムをゴリゴリと握りしめる。
「そうなんだ。ちょっとやらせて。こう?」
カエデに代わって、今度はケイコが、サユリの疑似キンタマ袋を握り締める。
「そうそう。中にあるタマを握ればいいの」
「うん。でもこれ、どっちを握ればいいの? 右? 左?」
「どっちでもいいよ。どっちでも痛いみたいだから、握りやすい方で」
「そうなんだあ」
ケイコはうなずきながら、袋の中の消しゴムを手の中で転がしている。
「握るときは、とにかくしっかり握った方がいいよ。キンタマってコロコロして、すぐ逃げちゃうから。最初にギューって握れば、男子は力が抜けちゃうからさ」
カエデの実体験に基づく的確な指導に、女の子たちは感心しきりであった。 同時に、こんなに簡単に男子を行動不能にできる、キンタマという急所への好奇心が、ますます高まっている様子だった。
「でも、ホントおかしいね。私、さっきカエデちゃんに蹴られた時も、ぜんぜん痛くなかったよ。男子って、あれくらいで痛がるのかな?」
練習台になっていたサユリが言った。
「うん。あれくらいでも、しゃがみこんじゃうと思うよ」
「えー、ホントに? キンタマ、超弱いじゃん」
「そうそう。キンタマって超弱いから。だから本気でケンカしたら、男子は絶対女子には勝てないんだよ。アタシ、お兄ちゃんに負けたことないもん」
「そうなの? カエデちゃんのお兄ちゃんって、5年生だっけ?」
「うん。アタシが1年のころまではキンタマ攻撃しなかったから、お兄ちゃんの方が強かったけど、2年になってキンタマを狙うようになってから、負けたことないの。力はお兄ちゃんの方が強いけど、キンタマ握れば、いっつもすぐ謝ってくるよ」
へー、と、またも女子たちはカエデの武勇伝に感心の声を上げた。
「5年生でそれなら、ウチのクラスの男子なんか、速攻で泣いちゃうかもね」
「うん。生意気な男子なんか、泣かしちゃおうよ。弱っちいキンタマなんか付いてる癖に、女子に逆らうなーって」
ケイコとサユリがそう言うと、カエデとその他の女子たちもうなずき合った。
「じゃあさ、アタシの必殺技を教えてあげるね。男子がキンタマをガードしてるときに使うんだ」
カエデが嬉々として言うと、女子たちは眼を輝かせた。
「ホント? 教えて、教えて」
「うん。まずね、キンタマを守ってる男子は、他のところが守れなくなるから…」
カエデの実戦的なレッスンは、その後しばらく続き、クラスの女子たちはより的確に男子のキンタマを仕留める方法を伝授されていった。 男子達は明日、自分たちの身に降りかかる地獄のような苦しみなど想像もせず、のんびりと遊び呆けていることだろう。
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