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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。
「ちょっと、アンタ達でしょ! ウチのお兄ちゃんをいじめたの!」

夕暮れ時の公園。
ブランコのあたりにたむろしていた中学生3人組に声をかけたのは、中野カエデ、小学5年生だった。

「はあ?」

「誰だよ、お前?」

「あ、中野じゃん。妹かよ」

声をかけられた3人は、カエデの兄、中野シンヤの同級生だった。
ケイタとヒロフミとアキノブの3人は、同じクラスでおとなしいシンヤをいつもいじめていた。

「なんだよ、中野? 何か用かよ?」

3人のリーダー格のケイタが、カエデの後ろで肩をすぼめているシンヤに声をかけた。
シンヤは困ったような顔で何か言いかけたが、結局何も言えず、うつむいたままだった。

「アンタ達、ウチのお兄ちゃんのお小遣い、とったんでしょ! 返しなさいよ!」

シンヤに代わって、カエデが声を荒げた。
確かにケイタ達は今日学校で、シンヤから小遣いである1000円を巻き上げた。しかしそれもゲームセンターであっという間に使ってしまい、その帰り道に公園でたむろしているのだった。

「ああ? なんだよ、お前。アレは中野から借りたんだよ。ちゃんと返すよ。いつかな」

ケイタはあざ笑うかのように言った。もちろんそう言いながらも、シンヤはお金を返してもらったことなど一度もなかった。

「ていうか、中野さ。妹にチクッちゃったのかよ」

「ありえねえって。妹に助けてもらってんの? 妹、いくつだよ」

ヒロフミとアキノブは、妹の後ろに隠れて縮こまっているシンヤの様子に大笑いした。
確かにいくらシンヤがおとなしいとはいえ、中学一年生の兄が小学生の妹にカツアゲの仕返しをしてもらっているというのは、あまり格好のいい状況ではなかった。

「いや…あの…」

シンヤもさすがに弁明しようとしたが、それを遮るようにカエデが叫んだ。

「うるさい! ウチのお兄ちゃんをいじめていいのは、アタシだけなんだからね! アンタ達なんかにお兄ちゃんが泣かされてると思うと、イライラするわ!」

カエデが叫んだので、ケイタたちは一瞬、沈黙してしまったが、やがてまた大笑いし始めた。

「おいおい、中野! 妹にもいじめられてんのかよ!」

「カワイソー!」

「お兄ちゃん、頑張れ!」

ブランコやその手すりに座っていた3人は、そこから落ちんばかりに笑い転げた。
シンヤは耳まで真っ赤にして恥ずかしがったが、やがて、目の前にいるカエデの肩が怒りで震えていることに気づくと、思わずゴクリと唾を飲んだ。

「もういい…。お金は返してもらわなくてもいいわ」

カエデはうつむきながら、つぶやくように言った。

「お。マジかよ。サンキュー。まあ、借りてただけなんだけどな。てか中野さ、あと1000円、貸してくんないかな? 妹にも頼んでくれよ」

笑い転げていたケイタが立ちあがって、カエデとシンヤの前に歩み寄ってきた。
その様子はいつもの、シンヤに金をせびる脅迫的な態度に変わっていた。

「あ、あの…ケイタ君。お金はいいから、逃げた方が…」

シンヤはボソボソと、つぶやくように言った。

「あ? なんだって?」

ケイタはポケットに手を突っ込みながら、シンヤを圧迫するように近寄ってくる。

「アンタ達が泣くまで、いじめてあげるから!」

カエデが叫びながら顔を上げた。
目の前にはケイタがいて、その股間に向けて、カエデは右足を振りあげた。

ボスン!

と音がして、ケイタは自分の股間に違和感を感じた。
ふと視線を下ろすと、カエデの右足のスニーカーが、自分の股間に深々と突き刺さっているのに気がつく。

「あ…」

そして次の瞬間には、鈍器で殴られたような痛みが股間から湧き上がってくるのを感じた。

「あ…か…」

カエデが右足を下ろすのと、ケイタが腰を引いて両手で股間をおさえるのが、ほぼ同時だった。
両脚のひざとひざを擦り合わせるように内股になり、両手で蹴られたばかりの金玉をかばうように覆い隠す。
しかし重苦しい波のような痛みはとどまることなく、むしろじわじわと体全体に広がっていくようだった。

「はあぁ…」

ケイタは前かがみになって、その場に立ち尽くした。
カエデはちょっとしゃがみこんで、ケイタをかわすようにして一歩前に出た。
驚いたのは、その様子を後ろで見ていたヒロフミとアキノブだった。

「お前、なにすんだよ!」

「てめえ!」

二人は一斉に立ち上がり、カエデに向かって行くそぶりを見せた。
しかしその時にはすでに、カエデは戦闘準備を終えていた。

「この野郎!」

先にカエデにつかみかかったのは、ヒロフミだった。
20センチは身長が低いカエデに対して、ヒロフミはまずその右手で頭を掴んで引き寄せようとした。
しかし、カエデは冷静だった。
さきほどしゃがみこんで手の中につかんでいた地面の砂を、思い切ってヒロフミの目のあたりに投げつけたのだ。

「うわっ!」

至近距離からの思わぬ目つぶしを、ヒロフミが防げるはずはなかった。
ヒロフミは思わず両手で顔を覆って、一歩、カエデから遠ざかるように足を広げて踏ん張ってしまった。視界を奪われた者として当然の反応だったが、それこそカエデの狙い通りだった。

「いくよー!」

カエデの目の前には、大股を広げたヒロフミの股間がある。
その脚の間には、男の最大の急所が無防備にぶら下がっているのだ。

「せえの!」

カエデはヒロフミに向かって一歩踏み込むと、掛け声と共にジャンプして、右のひざ蹴りをその股間に叩きこんだ。

ドスン!

という音がして、カエデのひざはヒロフミの制服の股間に勢いよく突き刺さった。
一瞬、ヒロフミの体が浮いたかと思うほどの、強烈な飛びひざ蹴りだった。

「はがっ!」

ヒロフミは目に入った砂の痛みも忘れて、反射的に股間を両手でおさえた。
最大の急所である金玉を蹴られた男として当然の反応だったが、それがその後に襲ってくる絶望的なまでの痛みに何の効果ももたらさないこともまた、男の宿命のようなものだった。

「あう…うぐぅ!」

ヒロフミはあっというまに地面にひざをつき、亀のように丸まってしまった。
顔色は真っ青になり、脂汗がにじみ出てきている。
最初は足をジタバタさせて痛みに耐えていたが、すぐにそれすらもできないくらい、強烈な痛みの波がヒロフミの全身を覆いつくしてしまった。


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