「さあ、早く! 三人同罪なんだから、三人とも同じくらい痛くしないと、不公平でしょ」
恐ろしいことを口走るハルカに、田中はむしろ呆気にとられてしまった。
田中の隣には、先ほどのひざ蹴りで、もはや意識も朦朧としている矢島が、真っ白な顔をして金魚のように口をパクパクとさせている。 それがどれほどの痛みだったのか、想像したくもなかった。まして、その痛みを絶対に理解することのないハルカが、自分にもそれを与えようとしていることなど、認めたくない。
田中の目から、涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「すいませんでした。許して下さい。もうやめてください」
田中は額を廊下にこすりつけて、懇願した。
「…反省してるの?」
「はい! 反省してます。してますから…」
「そう。それでいいのよ」
ハルカの言葉が聞こえると、田中はハッとした表情で、顔を上げた。
「じゃあ、ちょっと手伝って。この子を起こしてあげて」
ハルカは先ほどの蹴りの痛みに震えている中島を指差した。
「え?」
「この子を起こしてあげてってば! 立たせるのよ」
「は、はい!」
田中はわけも分からず、急いで立ちあがり、背中を丸める中島を無理やり引き起こした。
「そう。それで、足を開かせて。蹴りにくいから。アナタ、田中君? アナタは後ろに回りなさい」
田中はとりあえず、ハルカの言う通りに動いてみたが、一抹の不安が頭から離れない。 田中は脇を抱えて引き起こしている中島の足の間に、自分の両足を入れて、開かせた。二人が前後に重なって、ハルカの前に立つ形になる。
「うん、それでいいわ。二人とも同じように蹴るのって、難しそうだから。一気にやっちゃうわね」
田中の不安が的中した。 それを聞いた中島も、慌てて股間を手で押さえて、必死に首を振る。
「せ、先生、許してもらえるんじゃ…」
「え? アナタ、反省してるんでしょ? 反省したら、罰を受けないといけないのよ。当然でしょ」
「でも、あの…」
「もう、うるさい! アナタも手をどけなさい!」
中島はハルカの気迫に押されて、股間を守る両手をダラリと下げた。 田中ももはや諦めて、涙ぐんだ表情になっている。
「大丈夫よ。彼より痛くはしないから。たぶんね」
ハルカは重なって立つ二人の男子生徒の前で、タイトスカートの裾を自らまくり上げると、腰を落とし、右足を引いて、前蹴りの構えをとった。
「行くわよ。せいっ!」
気合のこもった掛け声とともに、ハルカは空手の有段者らしい、見事な前蹴りを二人の股間に放った。 ストッキングに包まれた細い脚は、キレイな弧を描いて、鞭のようなしなりを見せる。
バシィ!!
乾いたキレイな音がして、ハルカの足の甲は後ろの田中の金玉を跳ねあげ、すねの部分は中島の金玉にぐしゃりとめりこんだ。
「ぐがっ!」
二人は同時に、折り重なるようにして倒れた。 もう声を上げる力もなく、ピクピクと痙攣して、廊下に顔面を押し付けている。
「うん。このくらいか。どう? キレイに入ったでしょ?」
ハルカは満足そうに尋ねるが、当然、二人は返事をするどころではない。
「ん? どうなの? もう一回やっとく?」
そう言うと、田中と中島はすぐさま顔を上げて、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、首を横に振った。
「ウソ。冗談よ」
ハルカは無邪気そうに笑った。
「まあ、アナタ達も反省してるようだし、このことは秘密にしておいてあげる。そのかわり、明日からちゃんと授業に出るのよ。サボったりしたら、またお仕置きするからね」
そういうと、ハルカは服を整えて、玄関に向かって歩き出した。
「いつまでも寝転がってないで、早く帰りなさい。ご両親が心配するわよ。じゃあね」
矢島達三人が、その後、真面目に学校に来るようになった理由は、誰にも分からなかった。
終わり。
|