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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「じゃあ、次は…。これも面白いわね。『男の急所って、どのくらい痛いものなの?』か。確かに、これは興味があるわ」

マナミが書類を読み上げたとき、石丸と花田は思わず顔を上げた。
これまでの流れから見て、嫌な予感しかしなかったためである。

「男の急所って、つまりは股間のアレよね。確かに蹴られたら痛いとはいうけど、私たちには分からないことだわ」

「はい。テーマは股間の急所なんですけど、どのくらい痛いのか、またどんな風に痛いのか。女性には分からないっていうけど、それは本当なのか。とかですね。詳しく解説できれば、面白くなると思うんですけど」

ユウカは自分の企画を得意げに披露した。
それを聞いたマナミがどのような表情をしているのか。石丸たちにはそれが気がかりだった。

「ということなんだけど。これはもう、あなた達に聞くしかないと思うのよね。股間の急所について。その、金玉っていうのかしら。呼び方はどうしようかしら」

いったん石丸たちを振り向いたマナミは、自分の言葉で気がついたように、また女性社員たちに向き直った。

「アナタ達、普通なんて呼んでる? 金玉とか? タマとか?」

「睾丸とか…タマタマとか、色々ありますね」

「キンタマ…タマキンっていうのも、聞いたことありますね」

「タマタマっていうのが、かわいくていいんじゃないですか?」

「かわいくてもね。冗談っぽくなってしまうわ。睾丸じゃカタすぎるし、難しいわね」

石丸と花田から見れば、女性たちが男の急所である性器について真剣に話し合っている姿が奇妙に思えた。
しかし彼女たちは雑誌の売り上げを伸ばすために、いたって真面目に話しているつもりだったのだ。

「じゃあ、タマにしましょう。竿の方はペニスでいいわ。タマとペニス。それで統一ね」

結局、マナミの判断で呼び名が決まった。
するとまた、「そういうわけで」とマナミが振り向いた。

「タマを蹴られた時の痛みっていうのを、アナタ達、説明できる? 女性の私たちが、分かるように」

「は、はい…」

「それは…」

二人は口ごもった。
彼らも、スポーツをしている時などに股間をぶつけた経験はあったが、狙ってそこを蹴られた経験はなかったのだ。

「いや…その…蹴られたことはないんで…ちょっと…」

「そうなの? タマを蹴られたことがないって、石丸君も一緒?」

「あ、はい…」

マナミと女性たちは、驚いたようにうなずいていた。

「アナタ達、たしか24,5歳だったわよね? その年でタマを蹴られたことがないって、普通なことなのかしら?」

「え…いや…どうでしょう…」

「何かぶつけたこととかはないの? 野球してて、ボールをぶつけたりとか」

「あ、それはあります…」

野球部に所属していた石丸がうなずいた。

「その時はどうだったの? 痛かった?」

「そうですね…。自分はイレギュラーしたボールがぶつかったんですが、すごく痛くて、その日は練習ができませんでした」

「やっぱり、そうなのね」

女性たちから、感嘆の声が上がった。
しかし、その表情には同情や憐れみは見られず、むしろ女性の優越感を無意識に感じているような微笑みすら浮かんでいた。
石丸は、股間にボールを当ててしまった当時、苦しむ自分を介抱してくれた女性マネージャーのことを、ふと思い出していた。
彼女もまた、股間をおさえて呻いている自分に対して、心配しながらもどこか喜んでいるような、微妙な表情を浮かべていたような気がする。

「それで、それはどのくらい痛かったの? 練習できなかったってことは、ずっと痛かったってことかしら? 何時間も?」

「そうですね…。しばらくは立ち上がれなくて…その後も、動こうとすると痛くて、その日はタクシーで家に帰りました」

「へー」と、女性たちは感心しきりだったが、隣で聞いている花田だけが、その痛みを想像して、顔をしかめていた。

「どんな風に痛いの? 足の指をぶつけたときくらい?」

「いやいや」と、石丸は首を振った。

「じゃあ、お腹を殴られたときとか。ボクシングでも、ダウンしちゃうわよね」

石丸はまたしても、首を横に振った。
確かにボクシングではボディを打たれてダウンするときがあるが、10カウントで立ち上がることもある。
もし、ボクサーのパンチが股間に直撃すれば、10カウントどころの騒ぎではない。一撃で気絶してしまうだろうと、石丸と花田は思っていた。

「もっと、ずっと痛いですよ…」

それを聞いた女性たちは、感心とも意外ともつかぬ声を上げた。

「やっぱり、急所っていうだけあるのね」

「そんなに痛い場所を抱えているなんて、ね…」

「タマは内臓の一つだから、内臓を直接叩かれる痛みっていう意見もあるわよね」

「ひどい生理痛みたいな痛みなのかしら…」

女性たちは様々な意見を交わしていたが、そのどれもが、石丸と花田には空々しく聞こえるものだった。
どういう言葉で表現しようとしても、あの痛みはうまく表せるものではない。
その痛みを受けている間は、言葉など出ない。思い出すだけでも、背筋が寒くなる。男の金玉の痛みは、そんな特別なものだということを、彼女たちにどれだけ言っても分からないのだろう。

「でも結局、どういう痛みか分からないのであれば、記事にはできないわね。男にしか分からない痛みっていうのであれば、今までと一緒だわ。そんな記事を見ても、つまらないもの」

やがて意見が出尽くしたころ、編集長のマナミがそう結論付けた。
他の女性編集員たちも、無言でそれに同調しているようだったが、ただ一人納得できなかったのは、ユウカである。
彼女にとっては、自分の出した企画が通るかどうかという話だったから、当然のことだった。

「いや、でも、それをうまく説明することができれば、面白い記事になると思うんですよ。逆に、今までそういう記事がなかったから、私もやってみたいなって思ってて…」

「そうね。でも、どうかしら。すごく痛い、何時間も痛いっていう説明だけじゃね。結局、私たちにはタマがついてないわけだから、想像の話だけになってしまうわ」

「タマがついていない」という点を、今さらながら強調するようなマナミの言葉は、すでに彼女がこの企画に興味を失って、冗談で済まそうとしているかのように聞こえた。
ユウカは必死にならざるを得ない。

「いや、もっと分かりやすく伝えることができますよ。彼らの説明がちょっとアレなだけで…。石丸と花田! アンタたちもさ、もうちょっと協力しなさいよ。分かんないでしょ、それじゃ」

ユウカの仕事への情熱は、同期の男性社員二人への怒りに変わっていた。
ろくに仕事もできないくせに、自分の足を引っ張るなと言いたげだった。

「いや、まあ…。それは…」

「タマを蹴られると、どういう風に痛いのか、ちゃんと説明しなさいってば! タマをぶら下げてるくせに、そんなことも分かんないの?」

石丸と花田は口ごもった。
別に足を引っ張るつもりはないが、普段から明らかに自分たちを見下している彼女の態度を思うと、すすんで協力する気にもなれなかった。

「だって、彼らは蹴られたことがないっていうのよ。それじゃ、無理じゃない?」

「そうね。経験がなければ、説明するも何も…」

「じゃあ、蹴ってみましょうよ。今、ここで!」

「え?」と、石丸と花田は顔を上げた。
まさかと思って、自分たちからは絶対に言うまいと考えていた提案を、ユウカは何のためらいもなく言い放ったのだ。

「あ、そうね。そういうのもアリかしら」

「その手があったわね」

「せっかく男性社員がいるんだし。活用しないとね」

「編集者っていうのは、体を張ってナンボだもんね」

石丸たちが意見を言う間もなく、女性たちは次々に同意していってしまった。
人は、自分たちに絶対に訪れないと分かっている危険であれば、こうも簡単に他人に与えることができるのかと、寒気がする思いだった。
ふとユウカの方を見ると、彼女はしてやったりという表情で、石丸たちを見つめている。

「じゃあ、蹴ってみましょうか。石丸君たちのタマを。せっかくだから、ビデオも撮りましょう。準備して」

「はい」と、女性たちはきびきびと動き出した。

「二人は、大丈夫よね?」

いつもの仕事をしているときと変わらない、余裕のある微笑みを浮かべたマナミに、石丸たちは言葉を返すことができなかった。
さらにその後を追うようにして、ユウカが勝手なことを言う。

「大丈夫ですよ。二人とも、運動してましたから。ちょっとくらい痛くても、雑誌のためですから、我慢できます! ね?」

「いや、それは…」

「まあ、ちょっと…」

二人が顔を見合わせて、口ごもっている間にも、女性たちの準備は着々と進んでいた。



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