駅に着いた。 電車のドアが開き、乗客が乗り降りする。 ふと気がつくと、30代くらいのサラリーマンの目の前に、制服姿のユイが立っていた。車内は少し混雑しているが、かといってこれほど近づかなければならないほどではない。 サラリーマンが、意味も分からず突っ立っていると、不意に目の前にあるユイの顔が、にっこりと笑った。 つられて、愛想笑いを返したその瞬間。
「ぎゃあっ!!」
サラリーマンの男性の股間にユイの手が伸びて、その真ん中にある男の象徴を、下から思い切り握りしめた。 握力はさほどでもないが、瞬発力を使って瞬間的に力を込めたため、男性は一瞬、睾丸が潰れたかと思う程の痛みと目眩を感じた。
「ぐうぅ…」
不明瞭な言葉を発して、男性は糸が切れた人形のように、その場にストンと落ちた。その目はすでに白目をむいている。
「えい!」
男性の斜め後ろにいた学生風の男は、何が起こったのか分からなかった。 ただ、目の前のサラリーマンが突然、座り込んでしまったかと思うと、次の瞬間には、自分の股間に飛んでくるユイの白い脚が見えた。 めりっと、ユイの膝は、学生のジーパンの股間を突き上げるようにして刺さった。 踵が一瞬浮き上がり、すべての時間が止まったような気がした。
「はわぁあっ!!」
しかし次の瞬間には、怒涛のような痛みが下腹部を渦巻いて、それは即座に全身の自由を奪う。 何が起こったかも分からないうちに、学生はサラリーマンの男性のすぐ横にうずくまった。
「次! えい! えい!」
ユイの体が、敏捷な小動物のように素早く翻り、周りにいる男たちの股間を蹴り上げた。 その都度、男たちは情けない叫び声を上げて、その場にしゃがみ込んでしまう。蹴られてしまえば、反撃する余裕などない。ただ、とめどない痛みに体を震わせて、時間が過ぎ去るのを待つしかなかったのだ。
「次!」
振り向いたユイが目を付けたのは、椅子に座って大きく足を広げた、若い男だった。 ロックシンガーのような攻撃的なファッションと外見をしているが、その最大の急所は無防備で、ユイの格好の標的だった。
「よいしょっと!」
男の前で小さく飛び上がると、そのまま右足で男の股間を踏みつけた。
「あぐっ!」
途端に、男は苦しそうな表情で足を閉じようとするが、ユイのローファーはしっかりと股間に食い込んでいる。
「あああ…! や、やめて…!」
靴底を通して感じる、丸い物体を踏みにじるように動かすと、男は身をよじって苦しんでいた。
「ん? 痛いの? そんなに足を開いてるのが悪いんじゃない。蹴られたくなかったら、しっかり守ってなさいよ!」
吐き捨てるように言ってから、踵のもっとも堅い部分で、男の睾丸を踏みつぶした。 男はぎゃあっと叫んでうずくまると、そのまま動かなくなってしまった。
「さあてと…」
ユイは一息ついて、あたりを見回した。 ここまでで、ほんの数十秒。 電車の車内に載っていた男の約半数が、ユイによって打ちのめされてしまった。 まだ生き残っている男たちは、ようやく状況を理解したが、かといってユイに手出しをしようとはしなかった。 むしろ、ユイがチラリと視線を送るたび、恐れるように目をそらしているのだ。 しかしそこで、予想外のことが起きた。
「えい!」
ユイから逃げるようにして後ずさっていた、中年のサラリーマンがいた。 すると、背後にいたOL風の若い女性が、彼の股間を後ろから蹴り上げたのである。
「うぐっ!」
もちろん男性は、股間の痛みに体を硬直させ、うずくまってしまう。
「へ―…。簡単なんだ…」
目の前でうずくまる男性の背中を見て、OL風の女性はポツリとつぶやいた。 ふと見上げると、先程まで大立ち回りをしていたユイが、ほほ笑みながらうなずいている。 周りにいる他の女性たちも、一様に納得した表情を浮かべていた。
「男なんて、金玉を蹴れば、簡単に倒せる」
車内にいる女性たちが、無言のまま、そう認識した瞬間だった。
「やっちゃおうか?」
「うん!」
女性たちはうなずいて、それぞれ周りにいる男性たちに視線を移した。 その目はまるで獲物を見つけたハンターのように、猟奇的に輝いている。
「いくよー! えい!」
「ほうら!」
「そーれ!」
女性たちの明るい声が車内に響き、それと同時に、男性たちの悲鳴も、社内に響き渡っていった。
(そんな感じになったらいいのになあ…)
走る電車の中。 車内にはいつものように、脆弱な股間を隠そうともしない男たちが、無防備に突っ立っている。 窓の外に流れる景色を眺めながら、ユイはその頭の中で、ますます妄想を膨らませるのであった。
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