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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「キンタマの痛みってさ、世界が終わるような痛みだって、何かの本に書いてあったけど、そんな感じなの?」

ハヅキはすでに、傍らの机に腰を下ろしていた。
苦しみ続ける二人を見下ろして、長い脚を持て余すようにブラブラと揺らしている。
「世界が終わるような痛み」を自ら与えたにも関わらず、まったく意に介していない様子だった。

「うぅ…お前…だましたな…! みてろよ…!」

タツヤは振り絞るような声で言った。

「何が?」

「お前が援交してること…言いふらしてやるからな…! 先生とかに知られたら、お前は…」

「…ふうん」

ハヅキはちょっと鼻を鳴らすようにうなずいて、机から降りると、タツヤの目の前にしゃがみ込んだ。

「じゃあ、これからしてあげようか、続き?」

「え?」

タツヤの鼻先に、ハヅキのシャンプーの匂いが漂った。
その辺のグラビアアイドルなどよりも、よっぽど美しいといわれている顔が、すぐ目の前にある。

「…くっ! ふ、ふざけんな! もう、だまされるかって…」

一瞬、心を奪われそうになったタツヤだったが、股間から疼いてくる痛みで、すぐに気を取り直した。

「ほら。触っていいよ」

ハヅキは突然、制服のシャツのボタンを外し、胸をはだけさせた。
先程見た下着と同じ、薄いピンク色のブラジャーに包まれた、大きな白い乳房が、タツヤとキョウヘイの目に飛び込んできた。
それは彼らがいつもシャツの上から見て想像していたよりも大きく、乳首と思われる頂点がツンと上を向いた、弾力のありそうな乳房だった。

「……!」

二人の息が、思わず止まってしまう。

「ほら、どうしたの? 触んないなら、しまっちゃうよ?」

と、ハヅキはシャツのボタンをとめようとする。

「あ! いや…まあ、そんなに言うなら…」

「まあ…うん」

タツヤとキョウヘイは顔を見合わせると、おずおずと手を伸ばし、二人で左右の胸にほとんど同時に手をつけた。
スベスベしたブラジャーに包まれたその中に、この世のものとは思えない柔らかい素材があった。
写真や動画では決して伝わらない、リアルな女性の体だった。
二人は一瞬、股間の痛みも忘れて、ハヅキの乳房に触れた指を、ピアノでも弾くかのように波打たせてしまう。

「はい、アウト。これ、動画撮ってるから」

「え?」

思いもかけぬハヅキの言葉に、現実に引き戻された。
ふと見ると、先ほどタツヤが座っていた机の上に、いつの間にかスマートフォンが置いてあり、そのレンズはジッと彼らの方を見ているようだった。
ハヅキはすっと立ち上がると、そのスマホを手に取った。

「うん。アンタらのエロ顔が、よく撮れてるね。悪いけど、アタシ慣れてんだ、こういうの。色んなヤツがいるからさ。そういうときは、これを警察に持ってくよって言うわけ。アタシが襲われたって言えば、困るのは男の方でしょ?」

言葉通り慣れた手つきで、ハヅキはスマホの画面を操作していた。
確かに女子高生に手を出したとなれば、大人はどういう場合でも犯罪になるし、タツヤたちも同級生とはいえ、ただではすまないだろう。

「ま、触らせなくてもよかったんだけど、ちょっとしたサービスかな。童貞くん達には嬉しいご褒美だったでしょ? この顔…。フフフ…」

動画に映った二人の顔を見て、ハヅキは笑っていた。
その言いぐさに、さすがにタツヤも腹が立った。

「この…! いい加減にしろよ!」

カッとなり、ハヅキの手からスマホを奪おうとする。
自分がトランクス一枚で、ズボンを下まで下ろしていることを忘れてしまっているようだった。

「おっと! 届くの? フフ…」

ハヅキがスマホを高く上げて、挑発するように笑った。
タツヤがそれを奪おうと手を伸ばした瞬間、またしてもハヅキはタツヤの股間を鷲掴みにした。

「うっ!」

「学習しないヤツだね、アンタ。また痛い思いしたいんだ?」

ぐっと股間を握る手に力を入れると、それだけでタツヤの全身から力が抜けた。

「うあ…! あ…!」

「おい! お前…!」

キョウヘイが立ち上がろうとすると、ハヅキは威嚇するように脚をスッと上げた。
真っ白な膝小僧が股間を狙っているような気がして、キョウヘイは思わず、両手でおさえてしまう。

「アンタは座っときな。痛い思いしたくないならね」

言われるまでもなく、キョウヘイの股間には、まだ先ほど蹴られた痛みがしっかりと残っていた。
完全に心を折られ、キョウヘイは言われた通り、おとなしくその場に座ってしまった。

「さあ。アンタのコレはどうする? 今度こそ潰しちゃおうか?」

ハヅキが冷めた目でそう言うと、冗談や脅しに聞こえなかった。
タツヤの顔から、サッと血の気が引いて、緊張が走る。

「男ってホント、なんていうかさ、バカだよね。やらせてあげるよって言えば何にも考えずに喜ぶし、潰すぞって言えば、縮み上がってビビっちゃうし。全部この、キンタマのせいでしょ?」

グイッと、ハヅキが金玉袋を握る手をひねり上げた。
タツヤはうめき声を上げながら、全身を反り返らせる。

「でもさ、そんなバカな男のおかげで、アタシはお金がもらえてるんだよね…」

ハヅキはふっと冷たい目で、金玉の痛みに苦しむタツヤの顔を見た。
何か哀愁の混じるような、そんな目だった。

「金を払わないで逃げようとするヤツに、アタシがどうするか教えてあげようか? こうやって! キンタマを掴んでさ!」

ハヅキは右手に力を込めて、タツヤの睾丸を二つともひねり上げた。
タツヤの呼吸が、ヒュッと音を立てて、一瞬、止まる。

「アタシは体を売ってんだから、アンタにも体で払ってもらうよって言うの。アンタのキンタマをもらうよってさ。どう? その方が公平でしょ?」

タツヤは天を仰ぎ、細い細い呼吸をしながら、必死に首を横に振った。
その間も、ハヅキの指の長い爪が、彼の金玉袋にグリグリと食い込んでくる。

「ぐあぁ…! そんな…の…」

「イヤなの? じゃあ、アンタは自分のキンタマにいくら払う?」

「い…いくらって…」

タツヤは自分の最も大切な部分を、平然と握り潰そうとしているハヅキに恐怖を感じた。

「キンタマを離してほしいなら、いくら払うって聞いてんの」

さらにグイッと、ハヅキは金玉袋をねじりあげた。
タツヤはとめどなく溢れてくる苦しみに呻きながら、ようやく声を絞り出した。

「い、いちまん…えん…とか…」

「1万? たったの1万? アタシは3万でやらせてあげるって言ったよね? それなのに、アンタはたったの1万なんだ。へー。やっすいキンタマなら、なくてもいいんじゃない? このまま潰すね?」

ハヅキがタツヤの股間を握る右手に、さらに左手を重ねて、両手で握りつぶそうとしてきた。
タツヤは必死に声を張り上げた。

「や、やめて! やめてくれ! 3万払うから! それで勘弁して…」

今にも泣きださんばかりの涙声だった。
痛みもそうだが、金玉を潰される恐怖に勝てる男はいない。
それは自分が男でなくなってしまうかもしれないという、根源的な恐怖だった。
懇願するタツヤの顔を見て、ハヅキはフッと微笑を浮かべる。

「最初からそう言えばいいのに。大事なキンタマなんでしょ? はい、離してあげるよ」

と、ハヅキはタツヤの睾丸から、食い込ませた指を離してやった。
ただし、一つだけである。

「ふあっ!」

わずかな解放感と、いまだ続く強烈な圧迫感に、タツヤの口から吐息が漏れた。
片方の睾丸を解放されたが、もう片方はまだ握られたままという状態に、期待を裏切られたような感覚になったのか、その目から今にも涙がこぼれ落ちそうだった。

「フフ…。なに、その顔? だって、キンタマって二つあるじゃん。一つ3万でしょ? 高いモノを二つもぶら下げて、男って大変だね」

ハヅキは愉快そうにタツヤの顔を見て笑っているが、その手は決して緩めなかった。
実際、二つ掴まれていようが一つ掴まれていようが、男の痛みにそれほどの違いはない。
それすらも経験で分かっているのか、ハヅキは意地悪そうな笑いを浮かべていた。

「う…ぐあ…!」

「さあ、どうすんの? 一つ3万のキンタマでしょ? 二つで6万。きっちり払ってよね?」

掴む睾丸が一つになったことで、かえって握りやすくなったようだった。
指を食い込ませるのとはまた違う、睾丸全体を圧迫される苦しさが、タツヤの下半身を襲っていた。

「うぅ…! ろ、6万なんて、持ってない…。あぁっ!」

「へー、そう。それは残念だね。じゃあ、片っぽだけもらっとくね。せーの!」

なんのためらいもなく、ハヅキがタツヤの睾丸を握り潰そうとしたとき、タツヤが必死に叫んだ。

「か、借りるから! キョウヘイから借りるって! な? 貸してくれ、キョウヘイ!」

タツヤが金玉を握り潰されるのを、キョウヘイは子供のように呆然と座って見ていた。しかしその両手だけは、しっかりと股間を守っている。
ハヅキはチラリとキョウヘイの方を振り返った。

「え…!? いや、俺…は…。ごめん。二万くらいしかない…」

泣き出しそうな顔で答えた。

「だってよ。一万足りないじゃん。どうすんの?」

「ごめん! ごめんなさい! 絶対払うから! ちょっと待って…! 頼む…」

鼻水を流しながら、タツヤは叫んだ。
ハヅキはちょっと首をかしげて、考えるような仕草をした後、うなずいた。

「しょうがないね。二つで5万で勘弁してあげるよ」

すっと、タツヤの睾丸を握る手から力を抜いた。
タツヤがほっとしたのもつかの間だった。

「じゃあ、これで足りない分ってことね」

ぐいっと、左手でタツヤの金玉袋を引き寄せ、逃げ場のない状態になったその睾丸に、右の掌を叩きつけた。

パンッ! 

思い切りビンタされたタツヤの睾丸は、一瞬、楕円形から真円に形を変えた。
その瞬間、タツヤの腰から背中にかけて、うすら寒い空気が突き抜けたような気がした。
次に襲ってくるのは、他に例えようもない、絶望的な痛みと苦しみである。
ハヅキが言うように、世界が足元から崩れていき、暗黒の世界に落ちていくようなような感覚を、タツヤは感じた。

「んんっ!! あはっ…!」

ハヅキがようやく手を離してやると、タツヤは何の躊躇もなく床に這いつくばり、両手で股間をおさえながら、バタバタと足を何度も打ちつけた。
尻を高くつきだしてみたり、背中を丸めてみたり、どんな姿勢になればこの痛みが治まるのか、自分の体とはいえ、まったく見当がつかないようだった。

「うわー。痛そー」

その動きが、ハヅキにとっては冗談のように見えるらしい。
決して痛みを分かち合えない女として、まったく同情のこもっていない感想と共に笑っていた。

「……!」

逆にキョウヘイはタツヤの痛がりようを、十分に想像できるものとして見ざるを得なかった。
今はただ、自分にもその痛みが与えられないことを祈り、黙っていることしかできない。

「じゃあ、5万ね。明日、ちゃんと持ってきてよ? あと、アタシがやってることも、黙っといてくれるんだよね?」

ハヅキはしゃがみこみ、脅すように二人の顔を覗き込んだ。
タツヤはまだ返事をするどころではないが、キョウヘイは当然、何度もうなずく。
それを見て、ハヅキは満足したように薄く笑った。
男にゆすられて、一度でも体を許してしまえば、その後もずっとゆすられ続ける。
女の体を目当てにすると、男は際限のない欲望の塊になるということを、ハヅキは知っていた。
だから男にゆすられた時には、逆に脅して、痛めつけてやる方がいい。
リスクは伴うが、女の武器を上手に使えば、男を嵌めることはできる。そして金玉を痛めつければ、男は女に屈服する。
その痛みと苦しみは男にとってトラウマになるほどのものだということも、彼女はよく分かっているようだった。

「そう。ならいいや」

すっと立ち上がると、脱いでいたセーターを羽織り、一仕事終えたかのように、シャツと髪型を整えた。

「あ、そうだ。まあ、一応クラスメイトだし、黙ってるって約束もしてもらったし、抜いてあげてもいいよ? サービスで」

と、ハヅキは二人を振り向いて、右手でペニスをしごく真似をして見せた。
伏し目がちに様子をうかがっていたキョウヘイの肩が、ピクリと反応したのが分かった。

「アタシ、けっこううまいって評判だから。しごきながらキンタマ揉まれると、気持ちいいんでしょ?」

右手でペニスをしごき、左手で金玉を揉むふりをする。
その手の動きを見ると、キョウヘイはもちろん、金玉の痛みにうめくタツヤさえ、わずかながら興奮を覚えざるを得なかった。

「フフ…。ま、すぐには無理かな。また今度ね」

男を操るには、痛みでも快感でも、要するに金玉なのだと、ハヅキは改めて思った。
金玉から男の欲望が湧き出て、その欲望に男は支配される。
しかし欲望にまみれた男を止めるのも、また金玉の痛みなのだ。
女は男の金玉を支配する方法を覚えておくべきだと、ハヅキは思った。
そうすれば、一方的に奪われることはない。

やっかいな金玉を持たない女としての優越感と、男へのわずかな哀れみを感じながら、ハヅキは教室を出ていった。

「じゃあね」

残された二人の哀れな男は、彼女の後ろ姿を、呆然と眺めることしかできなかった。





終わり。



更新ありがとうございます!
今回もすばらしいセンスで大変興奮させていただきました。興奮しながらも感情移入して、登場人物を本当に好きになってしまうことがあるので、やはり文章力とセンスがすごいです。ハヅキさん、好きになってしまいました笑 もっと見たいです。あと達人の誕生のチホさんも好きです笑
[2020/09/09 Wed] URL // #- [ 編集 ] @
楽しく拝見させていただきました。

特に「だって、キンタマって二つあるじゃん。一つ3万でしょ? 高いモノを二つもぶら下げて、男って大変だね」
という所にどうしようもない弱点を2つも持っている男への嘲笑が感じられすごく興奮しました!
[2020/09/11 Fri] URL // #WGv/JGO2 [ 編集 ] @

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