家に帰りつくころ、ムツミは疲れ切っていた。 昨日は間違えて男子の部室で着替えをしてしまい、水泳部の先輩、サトルの股間を蹴り上げてしまった。 そして今日は、電車で隣に座った体格のいい女性が自分のスポーツバッグを間違えて持って行ってしまい、一駅過ぎたところで慌てて追いかけた。 バッグに入っていた書類などから、ボディビルの大会に出場することを突き止めて、会場に向かったが、間違えた女性を見つけることはできなかった。 ムツミも水泳部の大会で急いでいたため、仕方なく控室に行き、自分のバッグと入れ替えて持ち出したところを、係員に見つかってしまった。 慌てて逃げたが、マッチョな男に捕まりそうになったため、また金玉を蹴り上げて、ノックアウトさせてしまった。
自分が悪かったのかどうかも分からなかったが、とにかく大会の成績もさんざんで、どっと疲れてしまった。
「ただいまー」
玄関に入ると、見慣れない女物の靴があるのに気がついた。 母親のものにしては、若すぎる。 たぶん、大学生になるムツミの兄が、また彼女を連れ込んでいるのだろうと思った。 思春期のムツミとしては、兄の行動をあまり好ましく思っていなかったが、今日はそんなこともどうでもいいくらいに疲れてしまっていた。 両親もまだ帰っていないことを確かめると、そのまま二階にある自分の部屋へ向かう。 もう一刻でも早く、ベッドに倒れ込みたかった。
ガチャリとドアを開けると、そこにはムツミの兄がいた。 兄はゼブラ柄のブーメランパンツ一枚という姿で、なんとムツミの洋服棚を開けて、中を探っているところだった。
「お兄ちゃん…?」
多量の疑問とわずかな怒りを感じながら、ムツミは兄を見つめた。
「あ! ムツミ! 帰ったのか。…って、違うんだ。これは…」
ムツミが眉を寄せて自分を見ているのに気づき、兄は弁解を始めた。
「なにしてるの? それ…わたしの…」
ちょうど兄が開けていたのは、ムツミの下着が入っている引き出しだった。 妹の下着を物色して、何をしているというのか。 ムツミの疲れ切った心に、メラメラと怒りが沸き上がってきた。
「ち、違うんだ! 彼女が来ててさ、その…急に生理がきちゃって…。ナプキンとか持ってないから、ムツミのを借りようかなって…」
兄の言葉はほとんど耳に届いていなかったが、仮に聞こえていたとしても、ムツミの気持ちが治まることはなさそうな言い訳だった。 そしてよく見ると、兄のブーメランパンツの股間には、そこから突き出てしまいそうなくらい太々とした肉棒の形が浮いてしまっている。 ちょうど、その行為をしようかというところだったらしい。 ここ数日、男のビキニパンツに対していい思い出がないムツミにとっては、まったく見たくもない代物だった。
「お兄ちゃん!」
ムツミはもう、考えるのをやめた。 怒りにまかせて兄に詰め寄ると、兄はひっと悲鳴を上げて、両手で顔を守った。
「バカッ!!」
しかしムツミが狙うのはもちろん、男の急所だった。 関係のない兄には気の毒な話だったが、昨日と今日のビキニパンツに対する恨みを込めて、思い切りその膨らみを蹴り上げた。
グニン!
と、兄の膨らみは、ムツミの足の甲の上で無残に変形した。 ムツミは足の先に柔らかい質量を感じ、兄は自分の最も敏感で大切な部分に、妹のつま先の堅さをはっきりと感じた。
「ほうっ!!」
今まで何度もムツミに金玉を蹴られてきた兄だったが、この衝撃は前例をなかなか思い出せないほどで、この数瞬後、男の痛みに苦しまなければならないことを覚悟した。
「あ…くく…! ム、ムツミ…!?」
すぐさまその場にひざまずき、背中を丸めて股間をおさえる。 今まで何度も見てきた光景だったが、ムツミは多少満足したようだった。
「知らない!」
バタン、とドアを閉めて、出て行ってしまった。 地獄のような痛みに苦しむ兄が、彼女に解放されるのは、それから数分後のことだった。
終わり
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