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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。



「一本! 赤!」

とある空手の大会で、波乱が起きていた。
実践的な試合をすることで有名なこの流派の大会では、その激しさから、女性の出場者が極端に少なかったため、男子と女子を分けず、合同で試合を行うようになっていた。
女性の出場者は、いても数人。それも大抵、一回戦で敗退する。しかし今大会で、そんな今までの常識を覆す女性選手が現れたのである。

「勝者、西ノ宮!」

「押忍! ありがとうございます!」

試合場の中央で一礼をしたのが、西ノ宮チホだった。
頭を下げたその先には、両手で股間をおさえ、息も絶え絶えになっている男性選手がうずくまっている。
担架が到着し、男性を乗せようとすると、慎重に動かそうとしたにも関わらず、男性は苦しそうに声を上げた。

「う…! ぐああっ!! ああ…!」

「だ、大丈夫か? よし、もうちょっとゆっくり…」

その様子を見たチホは、もう一度軽く会釈をすると、静かに試合場から出た。
試合を観戦していた選手たちは、声もなかった。
この会場にいるほとんどが男性で、そのすべてがチホのあざやかすぎる勝利に驚き、また相手選手の尋常でない苦しみ様に、自分を重ね合わせてしまっていたのだろう。

「軽量級決勝戦、池上選手と西ノ宮選手の試合は、30分後に行われます」

会場にアナウンスが流れると、チホはほっと息をついて、試合場を離れていった。
その後ろ姿を見つめていたのは、彼女と同年代で、同じ道場で稽古をしたこともある佐伯アキラだった。
身長が180センチ以上もある彼は、重量級の決勝戦進出をすでに決定している。

「おい、佐伯。今の試合、どう思う?」

横にいた選手が尋ねた。

「ふん…。あんなもんだろう。アイツは、西ノ宮はな」

佐伯は無口だが、こと空手に関しては、傲慢な意見しか言わない男だった。
それを知っていたから、横にいる友人も、あえて彼に尋ねたのである。

「お前、勝てるか? 前に同じ道場にいたんだよな。その時は、どうだったんだ?」

「階級が違う。だが、練習試合で負けた覚えはないな」

「そうか。そうだよな」

男性の急所を蹴り上げるという手段でチホが勝利をおさめたことに、この会場にいる男全員が少なからず動揺していた。
その動揺で失った自信を取り戻そうと、この選手は佐伯に質問をしたわけだったが、その答えは十分に満足できるものだった。
やはり、男が女に負けるわけがない。まして、日々の稽古で鍛え上げた肉体と技を持つ自分たちが、あんな小柄な女性に後れを取るはずはないと、会場にいる男性の誰もが信じようとしていた。
しかし佐伯の印象は、実は彼らの期待通りではなかった。

(西ノ宮…。腕を上げたな…)

実は佐伯は、チホの試合を一回戦から注目して見ていた。
かつて同じ道場で稽古をしていた時から、彼女が恵まれない体格ながらも非凡な才能を持ち、さらにそれを根気よく磨く稀有な忍耐力を持っていることを知っていたからである。
今まで一度も大会に出場していなかったチホが、満を持して出場を決めたということは、彼女の空手に何らかの成果が出たということであろうと、佐伯は推測したのである。
果たしてその推測は、当たっていた。
一回戦。軽量級とはいっても、男性選手は皆、チホよりも10センチ以上身長の高い選手ばかりだった。
打撃系の格闘技では、リーチの差は勝敗を決める大きな要因になる。そのハンデを、チホがどう覆すのかと佐伯が見ていると。

「始め!」

「えい!」

審判が開始を宣言した瞬間、チホの金的蹴りが相手選手の股間に決まった。

「ほうっ!!」

この大会では、金的蹴りは反則ではない。
しかし男性ばかりの試合では、どうしてもそこは敬遠されがちな急所になってしまっていた。
その油断をついて、チホは開始早々に相手の無防備な金的を蹴り上げたのである。

「くっそ…! この…ううっ! くくく…!!」

蹴られた直後、一時はチホに反撃するかという様子だった相手選手は、その数秒後に内股になって、股間をおさえながら膝をついてしまった。

「どうだ? 続けられるか?」

相手を5秒以上ダウンさせるか、戦意喪失させれば、一本勝ちとなる。
審判が尋ねると、相手選手は痛みに奥歯を噛みしめながら、顔を上げた。

「や、やります! いけますよ…!」

女に金玉を蹴られて、秒殺されるわけにはいかない。そんな思いが、彼を突き動かしているようだった。
しかしその全身には、耐えがたい痛みと苦しみが広がってしまっている。

「お、押忍…! ああっ!! くぅ…!」

かまえようと足を踏ん張った瞬間、下半身を猛烈な痛みが襲ったようで、思わず腰を引いてしまった。
その様子を、チホは眉一つ動かさず、冷静な目で観察している。

「よ、よし。では、始め!」

一応は試合が再開されたが、その後は無残だった。
チホはやっとのことで立ち上がった選手に対し、無情にもさらに金的蹴りを狙うそぶりを見せ、その脚の動きに過剰に反応したところに、中段突きを決めた。
突きのダメージはそれほどのものではなかっただろうが、相手選手の体力は、そこで尽きてしまった。

「勝者、西ノ宮!」

佐伯だけでなく、その試合を観戦していたすべての選手たちが、感嘆の声を上げた。
女性選手が一回戦を突破したことは数年ぶりで、まだこの段階では、その快挙を素直に祝福する余裕が男性たちにもあった。
しかし、続く二回戦。
チホの相手は、前回大会の軽量級優勝者だった。
一回戦を見ていた彼は、チホの金的蹴りを警戒し、やや内股になってかまえていた。
そしてそのまま、素早い突きを連続で繰り出してきたのである。

「たあっ! せいっ!」

さすがに前回の優勝者だけあって、見事な連続攻撃だった。
ただし金的蹴りを警戒し慎重になりすぎるあまり、本人も気づかないうちに、その攻撃の間合いは若干遠くなってしまっている。
思い切った踏込みの無い攻撃では、いかに体格差があっても、そう簡単に倒れるものではなかった。

「この…!」

小柄な女性を倒しきれないいら立ちが、相手選手の顔に読み取れた。
チホはその間もじっと防御を固め、攻撃に耐えている。

「く…!」

一旦仕切りなおそうと、相手選手が離れた。
蹴りなどの威力の高い大技で仕留めようという気配が見えた。
そうして脚を上げたその瞬間、

パシン!

と、スナップの利いた金的蹴りが、相手選手の股間に炸裂していた。

「ぐあっ!!」

驚いたように飛び上がったあと、すぐに訪れた猛烈な痛みに、そのままうずくまってしまう。

「あ…ああ…!! うぐぐぐ…!!」

何が何だか、分からなかった。
自分が蹴りを出そうとしたその時、その瞬間に、股間に衝撃を感じ、激しい痛みと共に体の自由を奪われてしまった。
油断したつもりはまったくなく、隙を見せたつもりもなかった。
どう思い返しても、チホがいつ金的蹴りを繰り出したのか分からなかったが、そういう思考もまた、とめどない地獄のような苦しみの中に溶けていってしまうようだった。

「い、一本! 勝者、西ノ宮!」

先程とは次元の違う選手の苦しみ様に、審判はすぐに一本を宣言した。

「だ、大丈夫か? おい、担架だ。担架を持ってこい!」

選手の顔を覗き込んでも、反応は帰ってこなかった。
金的を蹴られた選手は、青白い顔をして、うつろな目で試合場の床を見つめている。
チホは一礼し、相手に声をかけることなく、試合場を出た。
彼女の勝利を称賛するものは、誰一人いなかった。
前回大会の優勝者を一撃で沈めてしまった西ノ宮チホという選手に、会場が恐怖を感じ始めたのは、このときからだったろう。


離れた場所から試合を見ていた佐伯の背筋にも、冷たい汗が一筋流れていた。
彼をはじめ、会場中の誰にも、チホの金的蹴りがいつ相手選手の股間に届いたのか、はっきりと認識することができなかったからである。
相手選手が連続攻撃をやめて、一歩下がる。蹴りを出そうと、脚を上げる。その空いた股間に、チホの金的蹴りが決まる。
理屈で考えればそうに違いないのだが、チホの金的蹴りには、まったく「起こり」が見えなかったのである。
相手選手の攻撃の動作の中に、突然わり込んできた。そうとしか形容のしようのないチホの金的蹴りを見て、佐伯は驚嘆していた。

(アイツ、極めたな…!)

武道の精髄は、初動の動きを消すことにある。
攻撃を出す際のわずかな体の動きを「起こり」と呼ぶが、武道の熟練者になると、これらの予備動作を見て、相手の次の動きを予測するようになるからである。
「蹴ろう」とする意識を相手に悟らせず、「蹴る」という動作に反応させず、「蹴った」という結果だけを残す。
それが武道の達人と呼ばれる者の技であり、これを完成させるのは、気の遠くなるような反復練習と豊富な実戦経験以外にない。
佐伯の見たところ、他の技はともかく、チホの金的蹴りはこの達人の領域にまで達しているようだった。
試合中、彼女に金的を蹴ろうという意識はことさらなく、ごく自然に男の最大の急所に脚を振り上げ、無意識のままに相手を地獄に突き落としていく。
躊躇い、恥ずかしさ、罪悪感、そういったものが一切感じられない、ほとんど反射といってもいいその金的蹴りは、不純物の無い宝石のように完成された美技だった。
佐伯は一人の武道家として、その技の出来栄えに敬意を感じていたが、それを体得するために、チホがどれほどの稽古を積み、どれだけの数の実戦で男たちの金玉を蹴り上げてきたのか、考えると恐ろしい思いがした。


続く三回戦も、チホは見事な金的蹴りで勝利した。
前の試合を見た相手選手は萎縮してしまい、試合開始直後から、完全に腰が引けてしまっていた。
不格好でも、とにかく金的だけは蹴られないようにしたいというその選手の股間にも、チホの美しく極められた金的蹴りは決まってしまうのである。

「はうっ!! ああっ…もう…!!」

予想して、覚悟はしていても、金玉の痛みだけは耐えられるものではない。
眼に涙を浮かべながら、その選手は簡単に降参してしまった。
そして同じように準決勝も見事に勝ち上がったチホに対して、会場中がしらけきってしまっていた。
金的は反則ではない。
反則ではないが、それはルールで決まっているだけで、本当はやはり反則なのだと、すべての男性選手が喉まで出かかっているその言葉をぐっとこらえているようだった。
当のチホは、そんな男性たちの心の叫びをあるいは感じ取っているのか、素知らぬ顔で誰とも目を合わせようとしない。
この会場中の誰と戦っても、この金的蹴りがある限り自分は負けないという自信が、その目に表れているようだった。
やがて彼女は、決勝戦の前に休憩をとるのか、試合場のあるホールを離れ、選手控室の方へと歩いて行った。




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