「ひいっ!」
社長はベッドの上で毛布にくるまり、電子錠のかかったドアを凝視していた。 やがて、ボスの叫び声がやむと、静寂が流れた。 薄暗い非常灯の灯りの中、社長はただドアだけを見つめている。 ドアの向こう側で、ナンバーロックを操作する音がした。 社長とボスしか知らないはずのその暗証番号を、誰かが入力しているようだった。 電子錠が開いた。 ゆっくりとドアが開き始めると、社長は体をビクリと震わせた。 あるいはボスかというかすかな期待が、その目に現れている。 しかしその期待に反して、ドアの陰には、誰もいなかった。
「ひいっ!」
社長は毛布の下に握っていた拳銃を、ドアにむかって撃ちまくった。 鋼鉄製のドアに、弾が次々と反射する。 やがて撃ち尽くすと、カチンカチンというトリガーの音が、空しく響いた。
「だ、誰か! 誰か助けてくれ!」
転げるようにしてベッドを降りると、窓に向かって走った。 窓の鍵を開けようとしたとき、バスローブをつかまれ、引きずり倒された。
「な…! だ、誰だ、お前は!?」
仰向けになった社長を、女が見下ろしていた。 女は無言のまま、社長の股間をサッカーボールのように、思い切り蹴り上げた。
「~~っつ!!」
男にしか分からない激痛が、全身を突き抜けた。 反射的に股間をおさえ、体を丸めて、急所を守ろうとする。 海老のように丸くなった社長の体から、女はバスローブをはぎ取り、下着まで脱がせた。 痛みで体が硬直したのか、まったく抵抗することができなかった。 女の目の前で、丸裸になった社長は、両手で必死に股間をおさえ続けていた。
「手を離せ」
女は社長の手の上から、股間を蹴りつけた。 社長の両手と睾丸に、とてつもない痛みが走る。
「ぎゃあっ!!」
「手を離せ」
女はさらに容赦なく、股間を蹴り続ける。
「タ、タマは…ここだけはやめてくれ…!」
「手を離せ」
さらに数回、蹴りつけられて、ようやく両手を股間から離した。 真っ赤に腫れ上がった両手を、女は容赦なく後ろ手に縛り上げた。 さらに女は、社長の体を引きずってベッドのそばに持っていくと、その両脚をベッドの足に結び付け、大きく股を広げさせるのだった。
「な、何なんだお前は…? 一体、誰に…」
「今から私が言うことを、よく聞け」
「か、金なら払うぞ。いくらでも払うから、見逃して…」
言いかけた時、女の手が大きく振り上げられ、無防備になっていた社長の股間に向かって打ちつけられた。 バチン、と音がして、社長の金玉袋がゴムボールのように跳ねた。
「ぐおぉっ!! おぉっお…!!」
「今から私が言うことを、よく聞け。分かったな?」
身動きできない社長は、体を芋虫のようにくねらせて、痛みに耐えていた。 女がその顔を覗き込むと、必死にうなずいた。
「今からお前の金玉を潰す。片方だけだ。もう片方は見逃してやる。しかし、お前には今からある約束をしてもらうが、その約束を守れなかった場合、残ったもう片方の金玉も潰す。いいな?」
「ひ…い、いやだ…」
痛みと恐怖に耐えかねたのか、社長は子供のように首を振った。 すると女は、再び拳を振り上げて、金玉袋に叩きつけた。 乾いた音が響き、再び絶望的な痛みが全身を突き抜ける。
「うぎゃあぁぁ!!」
「いいな?」
耐えがたい痛みだった。 社長は涙を流しながら、うなずいた。
「よし。では、センタービルの建設の件から手を引け。言ってる意味が分かるな?」
「え? そ、それは…」
社長の顔色が変わった瞬間、女は手を伸ばし、金玉袋を握りしめた。 すでに赤黒く腫れあがっていた金玉袋にとっては、女の手の感触が異様なほど冷たく感じた。
「ひいっ!」
「約束できないというなら、今ここで、お前の金玉を二つとも潰すぞ」
女の手には、すでに力が込めらていた。 さらにそれは、ジワジワと強くなっているようだった。
「うっ! ぐうぅ…! あ、あのビルの建設には、莫大な金が動いてるんだ。今さらやめることなんて、できるわけない…! ぐあ…!」
「そうか」
「こ、こんな脅しに、私が屈すると思ったら、大間違いだぞ! 今まで、危ない橋をいくつも渡ってきたんだ。こんなことくらいで…ぎゃあぁっ!!」
女は片方の金玉を掴むと、その手に今まで以上の力を込め始めた。 女の手の中で、睾丸は信じられないほど変形していた。
「言い忘れたが、お前の金玉は、一つずつ潰すことにする。せっかく二つあるんだから、順番に、ゆっくりと潰していこう。どうだ? もう少し強く握っても大丈夫かな?」
社長は痛みのあまり、声が出なかった。 魚のように口をパクパクと動かして、小さく首を横に振る。
「この…ク…ソ…お……な…!!」
血走った目で社長が女を見つめたとき、女の手の中で、パチン、と何かが弾けた。
「おっと」
「ぎゃあうっ!!」
縛りつけられた社長の体は、電気ショックを受けたかのように大きく反り返った。全身の筋肉が限界まで硬直した状態になり、数秒後、今度はガックリと弛緩して、床に落ちた。
「う…ぐ…ぐえぇっ!!」
急激に喉にせりあがってきた吐しゃ物を、床にまき散らした。 社長の目は虚ろで、細かく痙攣し、もはや痛みとも呼べない絶望的な感覚が全身に溢れているようだった。
「すまない。うっかり潰してしまったな。そんなに力を入れたつもりはなかったんだが。次はちゃんと言ってから潰すようにする」
女が手を離すと、社長の金玉袋はだらりと垂れさがった。 片方にはまだ丸い睾丸が入っているようだったが、もう片方は、少ししぼんだような、いびつな形になってしまっていた。
「どれ。本当に潰れたかな? ああ。まだ少し形が残っているな。ちゃんと全部潰しておこう」
女は再び金玉袋を掴んで、いびつになった方の睾丸を、指で挟んですり潰し始めた。
「うぎゃあぁっ!! ああっ!! おぉうっ!!」
社長は絶叫し、縛られた両手両足で必死にもがいた。
「うるさいぞ。静かにしろ」
女は床に落ちていたバスタオルを見つけ、その端を丸めて、社長の口に押し込んだ。 そして再び、金玉袋に残った睾丸の残骸をすり潰し始める。 女の指が動くたびに、社長の体が大きく痙攣したが、女はかまわず作業を続けた。 しばらくすると、社長の右の睾丸は完全に潰れたようで、ゼリーのように柔らかい物体だけが袋に入っている状態になった。
「さて。少し休憩をしようか」
女はぐったりとしている社長の腹の上に座った。 口にタオルを詰め込まれた社長は、汗と涙で顔面をドロドロにし、かろうじて呼吸をしているような状態だった。
「何か言いたいことはあるか?」
女はタオルをとってやった。
「あ…ぁ…は…。ゆ、許してくれ…。もう許して…」
「お前は本当に立派な経営者だな。会社の利益のために、自分の大切な金玉を犠牲にしようというんだから、偉いものだ。そのビルの建設で、どのくらいの金が入ってくるんだ? 何十億? 何百億か? その金に比べたら、確かに金玉の一つや二つ、潰れても大したことはないだろうな」
「あ…うぅ…」
女はうっすらと笑いを浮かべていた。
「金玉が潰れたところで、どうってことないだろう。自慢のモノが役立たずになるくらいだ。女を抱けなくなってしまうな」
女は、黒いボディスーツのジッパーを下げた。 下には何も着ておらず、へそまで開いたジッパーの隙間から、白い乳房がこぼれ落ちそうだった。
「若い女の体に、ギンギンに勃ったペニスを突き立てるのは、どんな気持ちなんだ? 今のうちに思い出して、記憶に焼き付けておいた方がいい。もう永遠にすることはないんだからな」
「う…うう…!」
社長の目が、女の体を凝視していた。 女は、残された社長の睾丸を掴んだ。
「うっ!!」
「さっき潰してしまったお前の金玉だが、びっくりするほど脆かったな。こうやって掴んでいると、こっちもうっかり潰してしまいそうだよ」
「あぁ…! ぐぅ…」
「安心しろ。今度はちゃんと潰すタイミングを教えてやる。今から私が10数える。それと同時にプチンと潰してやるから、そのつもりでかまえておくといい。いいか。10、9、8…」
女の手に、徐々に力が込められていくようだった。 すでに焼けつくような痛みを発している社長の股間からは、さらに強烈に疼くような痛みが湧き上がってくる。
「う…がぁ…!! ま、待って…あぁっ!」
「何か言ったか? よく聞こえなかったな。7、6、5…」
「うぅ…す、する! 約束するから…! は、離してくれ!」
「約束? ああ、もう気にしないでくれ。済んだ話だ。4、3…」
女の手の中で、社長の睾丸が大きく変形し始めた。
「ぎゃあぁっ!! ま、待ってくれ! 手を引くから! 頼む! 手を引かせてくれ!」
「手を引くって? 何から手を引くんだ? 2、1…」
「センタービルの建設からだ! 頼む、潰さないでくれぇ!」
社長は絶叫した。 女は金玉袋から手を離してやった。
「はあ…はあ…」
社長の全身には、冷たい汗が流れていた。
「センタービルの建設から手を引く。お前はそう約束するんだな?」
「あ…ああ…はい…」
「お前が約束を破った時には、すぐにまた金玉を潰しに来るからな。お前がどこにいようと関係ない。必ずお前の金玉を潰しに来る。分かったか?」
「は…はい…」
大粒の涙を流しながら、社長はうなずいた。
「よし。確かに約束したぞ」
女は振り向くと、社長の金玉を再び殴りつけた。
「ぐえぇっ!!」
社長の意識は、そこで途切れた。
ある日の午後。街角のオープンカフェに、女が座っていた。 女はコーヒーを飲みながら、書類を見ているようだった。 そこへ男が一人、近づいてきた。
「やあ。例のセンタービルの件、うまくいったようだな」
「ああ。おかげさまでね」
男はテーブルの向かい側に腰を下ろし、コーヒーを注文した。
「G社の社長が、建設計画の中止を発表したからな。だいぶ進んでいたはずなのに。突然の発表だった」
「そうね。こっちは大助かりだけど。かなりの利益が見込めると思うわ」
「そうか」
「ええ」
「それで…きみがあの女に依頼した件は、成功したと考えていいのかな?」
「え?」
女は書類から目を上げた。
「きみがホテルで会っていた、あの女だよ。G社の社長の、その、タマを潰したんだろうか?」
「たぶんね。でも、どっちでもいいわ。私にとって大事なのは、G社がこの件から手を引いたって事実だけだもの。それに比べれば、どうでもいいことでしょ。社長のタマが潰れたかどうかなんて」
「ああ…。まあ、そうだな」
男はうなずいた。
「だがボクが思うのは、その女の始末をつけておいた方がいいんじゃないかってことさ。こういうことは、どこから洩れるか分からないし…」
「ちょっと待って」
女は口に指を当てて、沈黙を促した。
「気を付けた方がいいわ。彼女は依頼人の裏切りを、決して許さないらしいから。前に彼女を始末しようとした男が突然行方不明になって、廃人同然になって発見されたらしいわよ。もちろん、タマを二つとも潰されてね。その男がどんな方法でタマを潰されたか、あなた想像できる?」
「そ、そんなまさか…。じゃあ、きみが裏切った時はどうするっていうんだ? 潰すものがないじゃないか」
「それは分からないけど。とにかく彼女からは、世界中のどんな男も逃げられないってことよ。その足の間に、大切なタマタマをぶら下げている限りはね」
「か、彼女は何者なんだ?」
「東洋のニンジャの末裔って噂もあるけど。はっきりとしたことは誰にも分からないわ」
男がゴクリと唾を飲みこんだ。 ウエイトレスが、男にコーヒーを運んできた。
「お待たせいたしました」
「あ、ああ。ありがとう…」
「お客様。足元に何か…」
「え?」
ウエイトレスがしゃがみこみ、男が下を向いた。 男は一瞬、股間を撫でられるような感触を感じた。
「うわ!」
よく見ると、そのウエイトレスの顔には見覚えがあった。 ウエイトレスは微笑すると、頭を下げて、その場を立ち去っていった。
「どうしたの?」
「い、いや…。なんでもない…」
男はコーヒーカップを手に取ったが、手が震えて、口にすることはできなかった。
終わり。
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