「ビデオは撮れたかしら?」
「はい。バッチリです!」
ビデオカメラを持っていた女性社員が、うなずいた。
「そう。後で石丸君にもビデオを見てもらって、どういう痛みだったのか、もう一度考えてもらいましょう。なかなか面白かったわ」
石丸が股間を痛めつけられている間、生きた心地のしなかったのは、もう一人の男性社員、花田であった。 彼だけが、この空間の中で石丸の受けている苦しみを理解できているはずだったが、かといって女性たちを止めることもできず、ただ、立ち尽くしていることしかできなかった。 しかし石丸の悲鳴を聞くたびに、花田も自分の股間に、ギュッと締めつけるような違和感を感じていた。 これから、どういう方向に女性たちの話が進んでいくのか、気が気ではなかった。
「まあでも、やっぱりよく分からない痛みだっていうのが、正直な所ね。ひどい腹痛の時みたいな痛みってことらしいけど。花田君は、どう思った?」
マナミの言葉に、女性たちの視線が花田に集中した。 花田はうろたえながら、必死に自分の身にもこの実験が及ばないようにと考えた。
「あ…その…自分は…。なんというか…目の前が真っ暗になるような…。体中から力が抜けて…気持ちが沈んでいくような…。そんな感じだと思います」
自分でも思いもよらなかったほど、詩的な表現が口から飛び出した。 すぐ横で石丸が金蹴りをされ、睾丸を握り潰されそうになったのを見て、苦い痛みの記憶が蘇ったのかもしれなかった。
「…ふうん。気持ちが沈んでいくような感じね。それは、何かいい表現のような気がするわね。分かりやすいわ」
「なんか、落ち込んだ気持ちになるんですかね。実際、ぐったりしてるし」
女性たちは、床の上でいまだに激しい痛みと戦っている石丸を見下ろして、納得したようにうなずいた。
「うーん。そうねえ…。ちょっと、アナタ達」
するとマナミは、何か思いついたように、ユウカを含めた女性社員たちを数人集めた。 彼女たちは花田に背を向けて、何か小声で打ち合わせをしているようで、それが終わると、全員がにこやかな笑顔を浮かべて、花田に近づいてきた。
「ねえ、花田君」
「え? は、はい…」
花田は、何が始まるのかと思い、警戒して体を強張らせた。
「次はね、男性の体の特徴について調べてみたいと思うんだけど。特にその、筋肉とか、逞しさについてね。協力してもらえるかしら?」
「あ…は、はあ…」
もう金玉への実験は終わったのかと思い、花田は少しほっとした。 しかし、いつの間にか女性たちにぐるりと囲まれている状況に、やはり警戒してしまう。
「まずは、腕の筋肉を見せてもらうかな。ちょっと、上着を脱いで。ほら」
ユウカが、花田のスーツのジャケットを、半ば無理矢理脱がせてしまった。 学生時代、サッカー部に所属していた花田は、現在でも仲間とフットサルなどを続けており、その肉体は一般的な男性よりもかなり逞しいものだった。
「うわぁ、すごーい。胸板、厚いのねぇ。気づかなかったわ」
「腕も太いんだぁ。へー」
女性たちは声を上げながら、無造作に花田の体を触った。
「え!? ちょ、ちょっと…」
最初のうちは花田も抵抗していたが、女性たちがあまりにも触ってくるため、徐々にそれが心地よくなってきた。 久しく恋人のいない花田にとっては、女性たちの体温と香水の匂いが、ちょっと理性を失わせるくらい官能的なものに感じられた。 ズボンの中で、少しずつ股間のモノが大きくなってくるのを感じた。
「ねえ、ちょっと力こぶ作ってみて。堅いんじゃないの? ほら、両手で」
そう言われて、花田は両腕をあげて、力こぶを作って見せた。
「ねえねえ、太腿もすごいわよ。さすが、サッカー選手。ちょっと、力入れてみて。グッて」
言われたとおり、少し足を踏ん張って、グッと力を入れる。
「すごい筋肉! マッチョなんだぁ」
「ホント、すごーい!」
「そ、そうですか? そんな…」
自らが鍛え上げた肉体を見せびらかし、それを取り囲む女性たちが、褒め称える。それは男にとって、何よりも優越感を感じる瞬間だった。 花田の顔にも、自信に満ちた笑みが浮かんだ。 その瞬間。
ゴスッ!!
と、正面に立っていたマナミの膝が、花田の股間にめり込んでしまった。
「はうっ!!」
目を大きく見開いて、口がポカリと開いた。 目の前にいたマナミが、嘲るような笑いを口の端に浮かべたのを見ながら、花田はゆっくりと崩れ落ちていった。
「はあっ…!! うう…!!」
まず、股間に走った鋭い痛みは、花田の体全体から力を奪う。そして前のめりに倒れ込んだ後に襲ってくるのは、腰全体に響くような鈍痛だった。 鈍く重苦しいが、その痛みは、刺すように鋭く、体全体に広がっていく。矛盾しているようだが、そんな表現が一番適当なのかもしれない。まるで、股間に太い釘を打ちこまれ続けているような、そんな痛みだった。
「あぐぅぅ…!!」
花田は両手で股間をおさえて、海老のように丸くなり、両脚でバタバタと宙をこいだ。 先程まで威容を誇っていた彼の筋肉は、哀れなほどに収縮し、痛みに震えることにしか用をなさなかった。
「うん。どうだったかしら?」
自らの行動と、その結果に満足するように、マナミはうなずいた。振り向いて、ビデオカメラを持った女性社員を確認する。
「バッチリ撮れました。股間のアップもOKです!」
「そう。よかった。たぶん、大きくなってたと思うけど、どうだった?」
「なってましたよ。コイツ、今彼女とかいないんで、楽勝でしたよね」
ユウカがそう言うと、周りの女性社員たちもうなずいた。
「うん。すぐ大きくなってましたよね。ズボンの上からでも分かりました」
「ちょっと褒めると、すぐ調子に乗って。男って、ホント単純ですよね」
まるで汚いものでも見るかのように、女性たちは足元でうずくまる花田を見下ろしている。
「そうね。これだけ単純だと、こっちもやりやすいわ。それで、今はどうなってるのかしら…。花田君、ちょっとごめんなさいね」
マナミは花田の側にしゃがみ込むと、その股間に手を伸ばした。 今は指一本、自分の意志で動かすことのできない花田は、激痛を発する股間を触られることに恐怖を感じたが、どうすることもできなかった。
「ああ、今は…小さくなってるみたいね。ふうん。やっぱり、興奮もおさまるのね。これが、気持ちが沈んでいくってことかしら?」
花田の顔を覗き込むと、うつろな目をしたまま、わずかにうなずいていた。
「ちょっと、花田。編集長が聞いてるでしょ。ちゃんと返事しなさいよ」
ユウカにそう言われても、何も反応することができない。 痛みに震えながら、下から見上げていると、パンツスーツに包まれた女性たちの股間がよく見えた。 その股間はすっきりとしていて、何も余計なものはついておらず、今の花田にとっては、それが心から羨ましく、妬ましく思えた。
「まあ、いいわ。今回はこれくらいにしときましょう。なかなか面白かったわね」
満足そうにうなずくマナミに、他の女性社員たちも同調していた。
「あ、編集長、それで…」
一人ユウカだけが、自分の企画が通るかどうか、不安そうな目で見つめている。 するとマナミは、ユウカに向かって微笑みながら言った。
「ユウカちゃん。アナタの企画、なかなか面白そうなんじゃないかしら。すぐには無理かもしれないけど、もっと詰めて、話し合ってみましょう」
ユウカの顔に、パッと笑顔が広がった。
「あ、ありがとうございます!」
「考えてみれば、ウチにはせっかく男性社員がいるんだから、いろいろ手伝ってもらわないと損よね。今日はいきなりだったけど、今度はきちんと計画を立てて、調べさせてもらいましょう」
「はい! でも、あの…どんなのがいいでしょうか?」
「そうねえ」
と、マナミは金玉を抑えながら、痛みに呻いている男たちを見下ろした。
「まあ、オトコの体の仕組みってことだから…。とりあえずは、全部見てみないとね。まずは、それからね」
「は、はい!」
ユウカはやる気に満ち溢れた目で、うなずいた。
「石丸君と花田君も、よろしくお願いね」
その言葉は、二人の耳に届いていたが、返事をすることはできなかった。
「ちょっと、返事は!」
ユウカの厳しい言葉が飛ぶと、ようやく二人は、わずかに首を動かしてうなずくことができた。 石丸と花田の災難は、まだまだこれからのようだった。
終わり。
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