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男の絶対的な急所、金玉。それを責める女性たちのお話。


「ファイッ!」

レフェリー役のアサミが開始を宣言するとすぐ、女子空手部のサトミは、男子ボクシング部のジュンに向かって行った。

「シッ!」

ジュンは少し驚いたものの、冷静に距離を取って、ジャブで牽制しようとした。
しかし。

ビシッ!

と、サトミの長い脚が、ジュンの股間を斜め上から鋭く打ち抜いた。

「うっ!!」

ジュンはたまらず、膝をついてうずくまってしまう。

「ダウン! あ、一本だっけ?」

レフェリー役は、アサミだけしかいなかった。
男子空手部員たちは、自分たちを襲ったあまりの惨劇に戦意喪失し、金玉を痛めた仲間の解放に専念していたのである。
ルールでは、空手部は三本取れば勝ちということになっている。

「くくく…」

サトミより10センチはリーチの長いジュンだったが、自分のジャブが届く距離よりもはるか外からの蹴りは、意表を突かれた。
しかも、練習しているというだけあって、サトミの金的蹴りは鞭のようにしなり、横からの攻撃とはいえ、十分すぎる衝撃をジュンの金玉に与えていた。

「ジュン、早く立って」

男子ボクシング部員たちは、うかつにもここで初めて、このルールの残酷さに気がついた。
ボクシング部は10カウント取れば勝ちだが、空手部は三本取らなければ、試合が終わらない。
つまり男子ボクシング部員たちは、最悪の場合、というかおそらく確実に、三回も金玉を蹴られなければ、試合が終わらないのである。

「さあ! 男子の仇、とるよ!」

「おおっ!」

ミオをはじめ、女子空手部員たちは、一斉に気合を入れた。

「……っ!!」

立ち上がれば、金玉を蹴られると分かっている。
しかし立たなければ、試合が終わることはない。
衝撃の現実を目の前にして、ジュンの顔からは血の気が引いてしまっていた。
それからは、悲惨だった。

「はうっ!!」

「ぐえっ!!」

やはり予想通り、三回金玉を蹴り上げられたジュンは、最後には涙を流しながら、リング上を降りて行った。

「俺、ヤダよ。やりたくねえ!」

第二試合に出る予定だったユウスケは、すでに涙目になりながら、リングに上がることを拒否していた。

「ちょっと! 早くしなさいよ!」

「練習場がかかってるんだからね! 棄権なんかしたら、アタシたちがアンタのアソコ、ボコボコにしてやるわよ!」

ボクシング部の女子たちから、恐ろしい声が飛んだ。
すでに勝利をおさめている彼女たちからすれば、男子のせいでその勝利が水泡に帰してしまいそうで、気が気ではなかった。

「ひい…」

ユウスケは、味方だと思っていた女の子たちの剣幕に、本気でビビってしまった。

「大丈夫だって。アタシたち、ちゃんと練習してるから。潰れないように手加減してあげるから。まあ、その一歩手前くらいはいくかもしれないけどね」

すでにリングに上がっている女子空手部のキョウコが、嬉しそうに手招きしている。
ユウスケにとっては、退くも地獄、進むも地獄の状態だった。

「じゃあ、第二試合、始めるよ! ファイッ!」

カァン!

と、ユウスケがようやくリングに上がった直後、ゴングが鳴った。

「う…うう…」

ユウスケをはじめ、男子ボクシング部員たちは、すでに見ていた。
第一試合で、一回目の金的を食らったあとのジュンは、しっかりと内股になって、股間のガードを固めているつもりだった。
しかし空手部の女の子は、まるで魔法のようにあざやかに、あっさりとガードをくぐり抜けて、しなやかな脚で、ジュンの股間を蹴り潰していったのである。
それは、ボクシングのテクニックにはない、空手の技というものだったのかもしれない。
いずれにしても、今の怯えきったユウスケには、目の前にいるキョウコの攻撃を防げるとは誰も思えなかった。

「えいっ!」

またしてもボクシングの間合いの外から、空手の蹴りが飛んでくる。
ローキックを防ぐテクニックなど知らないユウスケは、棒立ちのまま、脛に思い切りキョウコの蹴りを食らってしまった。

「いっ!!」

体がよろけた、その瞬間。

「やっ!」

キョウコの金的蹴りが、ユウスケのトランクスに命中した。

「はうっ!!」

ユウスケは男の本能として、反射的に腰を浮かして避けようとしたが、キョウコはそれを巧みに追いかけて、つま先でえぐるようにして急所をとらえた。
それは結果として、ユウスケの睾丸の最も敏感な部分、副睾丸を捉えることになり、キョウコの言うとおり、潰れることはないにしろ、それに匹敵するかもしれない苦しみを与えることになった。

ドサッ!

と、大きな音と共に、ユウスケの体はリングマットの上に落ちた。
もはや股間をおさえようともせず、背中を反らせたまま、ビクビクと痙攣し、白目をむいている。
どうやら、金的蹴りを受けた直後の空中で気絶し、そのまま受け身を取ることもなく、落ちてきてしまったようだった。

「一本! …って、ちょっと、大丈夫?」

さすがのアサミも心配してしまうくらい、ユウスケの状態は異常だった。
リングサイドにいた男子たちも、助けに行くのを忘れてしまうくらい、凄惨な試合になってしまった。

「あー、ちょっとキレイに裏に入っちゃったかなあ。潰れてはいないはずだけど。どれどれ…」

蹴った本人のキョウコはつぶやくと、ユウスケの股間に手を伸ばし、無造作にそこを触った。

「…ん。大丈夫。そんなに強く蹴ってはいないから、やっぱり、裏に入っただけだね。そのうち、目が覚めるでしょ」

キョウコが手をもぞもぞと動かすと、ユウスケの体はビクリと反応した。

「裏? 裏って、どういうこと?」

その様子を、興味深そうに見ていたアサミが、キョウコに尋ねた。

「んー、なんかね。金的蹴りが、タマの裏の方に入ったときは、かなりヤバイことになることが多いんだよね。こう、ぶら下がってるでしょ。この裏の方。ここが一番痛いんだって」

「へー。そういうのがあるんだねえ。急所の中の急所ってこと?」

「そうそう。偶然、つま先が引っかかっちゃったんだよねー。まあ、ムカついたときは、マジでそこ狙うけど。ミオなんか、金的蹴るときは、いつもそこ狙うよね?」

キョウコの言葉に、リングサイドにいるミオが、大きくうなずいた。

「あったりまえでしょ! どうせ蹴るんだったら、一番痛くしないと、面白くないじゃん。こないだも、学校帰りに痴漢にあったから、思いっきり蹴ってやったよ。しかも、2回ね」

「マジで? 鬼だね、アンタ」

「1回目で気絶しそうになって、落ちる前に2回目を蹴るの。けっこう難しいんだよ」

「うわー、それ、痛そ」

空手部とボクシング部の女の子同士で、金的トークに盛り上がっている間も、ユウスケは痙攣したままリングに横たわっていた。
そしてリングサイドにいたナオキは、次に自分が戦う予定のミオの武勇伝を聞いて、背筋が凍る思いだった。

「あ、じゃあ、とりあえず…。試合続行不可能って感じかな? そうだよね? 空手部の勝ち!」

ようやく、アサミはキョウコの勝利を宣言した。

「よしっ!」

キョウコはガッツポーズをして、リングを降り、仲間と勝利を祝う。
一方のユウスケは、意識が戻らないまま、ボクシング部員数人に抱えられ、練習場の隅にあるベッドに寝かされてしまった。
これで空手部とボクシング部の試合結果のトータルが、2勝2敗1分けになった。
練習場の権利を賭けた争いは、最終試合に持ち込まれることになった。
が、しかし。

「……」

女子空手部の部長であるミオは、待ちかねたとばかりにリングに上がったが、男子ボクシング部部長のナオキは、完全に戦意喪失していた。

「ナオキ! アンタにかかってるんだからね。頑張ってよ!」

女子の部員からそう言われても、ナオキは返事さえできなかった。
その様子を、リング上のアサミが不満そうに眺めていたが、やがて何か気づいたようにハッとした。

「あ、ナオキ。アンタ、アレ着けなさいよ。あの、アソコに着ける変なヤツ。あるでしょ?」

「え?」

「アレよ。たまに着けてるじゃない。…って、たまにって別に、そういうことじゃなくて…。ああ、もう!」

ナオキが訳も分からずきょとんとしている間に、アサミは痺れを切らしてリングを降り、練習道具などがおいてある用具室に入っていった。
やがて持ってきたのは、白い男性用のファールカップだった。

「これだっけ? これ着けてやればいいんじゃない?」

いかにも嬉しそうに、ナオキにそれを渡した。
ナオキは戸惑いながら、ゴムベルトで着けるタイプの、そのファールカップを受け取る。

「ああ、それ、金カップ? ボクシングにもあるんだあ。へー」

リング上のミオは、興味深そうに見ていた。
ナオキは、ファールカップを手に持ったまま、伺うようにそちらを見上げた。

「でも、それってちょっとどうなの? ウチの男子だって、金カップは着けてなかったし」

「ちょっと、卑怯だよね」

女子空手部の部員たちの間からは、そんな声も漏れた。
確かに先程の試合では、男子空手部はファールカップを着けておらず、結果、今でも金玉の痛みに苦しみ続けることになってしまっている。
もしファールカップを着けていれば、これほどのことにはならなかったかもしれない。

「うーん。まあ、別にいいよ。パンチと蹴りじゃ、威力も違うしね。着けたいなら、どうぞご自由に」

ミオは、余裕のある笑みを浮かべながら、そう言った。
ナオキはその答えに、ちょっと意外そうな顔を浮かべたが、それは彼にとって何より好都合だったので、ファールカップを着けることにした。

「え…と…」

が、いざ着けようという時に、迷ってしまった。
今日の試合のために、男子ボクシング部の更衣室は、女子空手部に貸してしまっていたことを思い出したためだ。
そのファールカップは、ボクシング用のトランクスの下、下着の上に装着するタイプのものだったから、着替える場所に困ってしまったのだ。

「ちょっと。着けるんなら、早くしてよ。待ちくたびれちゃうよ」

「ナオキ! 何してんの。早く着ければいいでしょ」

ミオとアサミの両方からせかされて、しょうがなく、ナオキは練習場の壁に向かって、トランクスを脱ぐことにした。

「……」

本人はお尻を向けて、隠しているつもりだったかもしれないが、その場にいる全員が、自然とその様子に注目してしまうこととなった。

「ん…と…」

トランクスを脱いで、ボクサーブリーフの上から、ファールカップを装着する。
きつめのカップの中に、金玉を片手で持ち上げながら押し込んでいくその姿は、女の子の目から見れば、ひどく滑稽なものだった。

「ああやって、あの中に入れるんだあ」

「えー、なんか、きつそう。ずれたりしないのかな」

「あれすると、痛くないのかな」

「大変だね、男って」

女の子たちの囁きと含み笑いが、否応なしにナオキの耳に入ってきた。
しかし、ファールカップを着けなければ、気絶するほど金玉を蹴り上げると予言しているミオの金的蹴りに耐えられるとは思えなかった。

「…よし。いいぜ。始めようか」

ようやくファールカップを装着し終わったナオキは、自信を取り戻したような表情で、リングに上がった。
その姿を、先にリングに上がっていたミオはじっくりと見つめて、やがて、クスクスと笑い出した。

「な、なんだよ?」

「プッ…。いやあ。やっぱり、さっきよりちょっとモッコリしてるなあって…フフフ。そっちの方がいいんじゃない?」

ミオの指摘で、リングサイドにいる女の子たちと、ナオキ自身の視線が、ナオキの股間に集中した。
確かにその股間は、ファールカップを着ける前より、若干膨らんでいるような気がする。

「…ど、どうでもいいだろ、そんなこと! 変なとこ見てんじゃねえよ!」

顔を赤くしながら、しかし股間を隠すわけにもいかず、ナオキは動揺した。

「フフフ…。ゴメンゴメン。ちょっと確認しときたかったからさ。今から、そこを蹴るんだなあって」

「……!」

ミオの金的蹴りの予告に、ナオキは背筋が寒くなる思いだった。



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