二人の関係は、2か月ほど前に遡る。 水上アカリと岡田ユウキは、一年生のころから同じクラスだったが、ほとんど話したことはなかった。 アカリは成績優秀で運動神経も良く、大人びた美貌とクールな雰囲気を持っていたが、物静かで、休み時間には教室の隅で静かに本を読んでいるような生徒だった。 ユウキはそんなアカリに出会ったときから密かに恋心を抱いていたのだが、一年生のうちは告白することができなかった。 そして二年に進級し、偶然また同じクラスになったことをきっかけに、気持ちを打ち明けたのである。
「水上さん。俺、あなたのことが好きです。よ、よかったら、その…」
ユウキの不器用な告白を聞いたアカリは、動じる様子も見せず、いつものようなクールな様子を崩さなかった。
「私と付き合いたいということかしら。岡田君が」
「そ、そう…です」
アカリは少し考えるようなしぐさを見せ、やがて怪しく口元をほころばせた。 それは一年間、クラスメイトとして過ごしたユウキが初めて見る表情だった。
「それなら、少しテストをしてもいいかしら? 私、お付き合いする人は、そのテストをクリアした人だけって決めてるの」
「テ、テスト? どんな?」
アカリはさらにほほ笑み、楽しそうに話し始めた。
「私に岡田君を10回、攻撃させてもらえない? 道具は使わないわ。素手で10回、叩かせてもらえればいいの。それを受けても岡田君が立っていられたら、岡田君の言うことを何でも聞いてあげる。どう?」
ユウキはアカリの怪しい笑顔と、その突拍子もない提案に驚いたが、勢い込んで告白した手前、ここで引くことは考えもしなかった。 運動神経がいいとはいえ、所詮は女子である。素手で攻撃するといっても、その威力はたかが知れている。 ユウキはこのテストを喜んで受ける事にした。
「わ、わかった。やるよ」
「そう。じゃあ、まずは服を脱いでもらえる?」
「え?」
ユウキは驚いて、アカリを見た。 放課後の教室で、すでに生徒たちは帰ってしまい、二人きりになっていたが、それでも服を脱ぐというのは常識的ではない。
「防具になるようなものは、一切禁止にしたいの。その服だって、多少は衝撃をやわらげてくれるでしょう? 脱いでもらった方がフェアだわ」
ユウキは何か言いかけようとしたが、アカリの機嫌を損ねたくないと思い、言われた通り、制服の上着とワイシャツ、下着を脱いだ。
「いいかな、これで?」
上半身裸になった状態で、好きな女の子の前に立つという状況に、ユウキはかすかに興奮を覚えた。 アカリはユウキの裸を見てもやはり動じず、むしろ当たり前のような顔をして見つめていた。
「うん。まあ、いいわ。最初だし、準備もしてなかったしね。誰か来るといけないから、一回ですませましょう」
「え?」
その言葉と雰囲気に、何か得体の知れない不安を感じた。 そしてその不安の正体も掴めないうちに、アカリはテストの開始を宣言する。
「いい? いくわよ。それっ!」
アカリは呆然と立つユウキの股間に向けて、蹴りを放った。 ユウキは何の構えもなく、軽く足を広げて立っていたのだが、アカリの細くしなやかな脚は、ユウキの制服のズボンの内側を滑るように伝って、その付け根に吸いこまれた。
ボスッ!
布と布がぶつかり合う、鈍い音がした。 この学校の上履きはいわゆるサンダルのようなものだったが、アカリはそれを脱いで、ユウキの股間に足の甲が食い込むような蹴りを放っていた。
「うっ!」
ユウキは思わずうなって、瞬間的に股間を両手でおさえてしまった。 アカリはすでに脚を引き、冷静な顔でその様子を観察している。
「最初は大丈夫そうなの。でも、2秒たつと…」
アカリの言うとおり、蹴られてから数秒たつと、ユウキの股間から強烈な痛みが湧き上がってきた。
「ああっ…!」
腹の中を捻りあげられるような痛みの渦に、思わず甲高い声を上げる。 ユウキが両手で覆っている睾丸は、二つとも原型をとどめていて変化はなかったが、そこから発せられる痛みは悪夢のように体全体に広がっていった。 顔から脂汗が流れ始め、ユウキの体はその意志に反して前かがみになり、ゆっくりとひざをついてしまった。
「ううっ、う…」
もはやテストのことなど忘れて、痛みに苦しむユウキ。 その姿を、アカリは先ほどのように怪しいほほ笑みを浮かべながら、眺めていた。
「ついたわね。ひざ。岡田君、不合格だわ」
その声は楽しさを噛み殺したようで、ユウキのあえぎ声の中でもよく通った。
「残念だけど、岡田君とはお付き合いできないみたいね。ごめんなさい」
「うう…。水上さん…」
ユウキは、自分が想像したものとはまったく違う結末に直面していた。 いったい誰が、こんなテストを予想しただろうか。 女子からの素手での攻撃に耐えれば、何でも言うことを聞いてもらえる。大方の男子が喜んで受けて立ちそうなテストだったが、あんなやり方で、こんな結果になるとは、ユウキは夢にも思わなかった。 屈辱と痛みで涙が出そうになるのを、必死にこらえていた。
「フフ…。岡田君さえよければ、また挑戦してもかまわないのよ。条件は今日と同じ。変わらないわ」
アカリは苦しみに喘ぐユウキを見下ろしながら言った。
「ただ、今度からはちゃんと準備しなきゃね。人が来ないようなところで、下も脱いでね」
ユウキが再びテストを受けることを見透かしたような調子で言う。 実際、ユウキは痛みに喘ぎながらも、再び挑戦することを心に誓っていた。
「ああ、あと、トランクスは良くないわ。見た目が悪いもの。競泳の水着みたいなののほうが、私、好きよ」
アカリはおどけたように笑った。
「じゃあね。次は、もっと時間をかけてテストしてあげる」
アカリはそう言って、教室を出ていった。
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